異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
中央歴1640年 4月25日 ロデニウス連邦共和国 クイラ州
急速な発展を遂げつつあるロデニウス大陸であるが、クイラ州の砂漠地帯の近代化は難しく、油田地帯以外は未だに多くの砂漠が残っている。
その砂漠の某所に、ロデニウス連邦共和国で犯罪を犯して懲役刑、死刑判決が下された犯罪者が収監されている刑務所がある。
周囲は砂漠が広がっているので、仮に刑務所から脱走出来ても近くの町まで到着するのに一日近く掛かる。その上受刑者たちは目隠しされてここまで運ばれるので、どこに街があるのかすら分からない。車を奪っても道は敢えて舗装されていないので、固い地盤以外を走れば砂に足を取られて身動きが取れなくなる。
近くには海が広がっているが、激しく波が打ち付けている場所なので、海から逃げようものなら波で押し込まれるか、波に呑まれて溺れるのがオチである。
それ以前に、刑務所の警備は厳重であり、二重三重の警備システムに加え、警備員と看守の多さもある。
人間や亜人のみならず、トラック泊地より派遣された妖精や饅頭、更に『オフニャ』と呼ばれる人型の猫を模した新型のロボットが配備されている。
オフニャは最近トラック泊地で開発された二足歩行の猫型ロボットで、マスコット風なデザインをしているのが特徴的だ。間違っても某猫型ロボットとは違う。
しかし可愛らしい見た目とは裏腹にその性能と汎用性は高く、ありとあらゆる作業をこなす万能ロボットだ。
この刑務所では、ガチガチに装備を固めたオフニャが警備に当たっているので、仮に受刑者たちが脱走して暴動を起こしたとしても、すぐに鎮圧できるという。
もちろんこの刑務所以外でも、オフニャは様々な現場で活躍し始めているという。
この刑務所にはもちろん犯罪を犯した受刑者が収監されているが、特に罪が重い者は刑務所の地下にある厳重な独房に収監されている。
そこには、あの人物も収監されている。
薄暗い階段にて、足音が響く中、『大和』は警備兵を引き連れてゆっくりと地下へと降りていく。
その表情は感情を無くしたような無表情であるが、逆にそれが噴火寸前の火山のような、大きな怒りを抱いている様子にも見える。
やがて地下深くまで降りて、刑務所で特に警備が厳重な区画へと入る。
その区画の一番奥へと向かうと、厳重な扉の前で警備している看守が『大和』の姿を確認して敬礼し、『大和』が返礼すると、看守はいくつものセキュリティを解除して扉を開ける。
開けられた扉の先には檻があり、中には全身を拘束されたレミールの姿がある。
忍びのKAN-SEN達と特戦隊によって身柄を確保された彼女は、『シュルクーフ』でロデニウス本土へ運ばれ、この刑務所の地下独房へと身柄を置かれた。
彼女が目を覚ました時には、この刑務所へ身柄を移送される最中であり、その時にロデニウスの発展した街並みを目の当たりにして、彼女のプライドはズタボロにされたとか。
彼女は扉が開いたのに気付いて顔を上げると、『大和』の姿を見てその表情を憤怒に染めて睨みつける。
レミールの睨みを気にせずに、『大和』は独房へと入って彼女が収監されている檻の前へと近づく。
「お久しぶりですね、レミール殿。まさかこんな形で再会するとは思っていませんでしたが」
「……」
『大和』は表情の一つを変えず、淡々とした様子で口を開く。
「……こんなことが……こんなことが、許されると思っているのか。列強たるパーパルディア皇国の、しかも皇族を捕らえるなど……こんな、こんなことがっ!!」
レミールは全身を拘束されて身動きが取れない中、『大和』に向かって怒りを露にして咆える。
いくら彼女でも、今自分が置かれている状況は理解している。いや、理解しているつもり、と言うのが正しいか。
目元に濃い隈を作り、ぼさぼさの髪をして痩せこけているその姿に、皇族の威厳など無い。だがそれでも、彼女の長年蓄積したプライドが認められないのだ。諦め切れないのだ。
もはや何も残っていない彼女は、精一杯の虚勢を張るほか無いのだ。
「お前達は文明圏外にある国だ!! 列強国が、蛮族をいくら殺そうが……そんなことで、列強の皇族たる私をこんな目に遭わせるなんて!! 許されることでは無い!!」
「ふん」
虚勢を張る彼女の姿を、『大和』は呆れた様子で鼻を鳴らすだけだ。
「列強と名乗っていながら、考え方はどこまでも野蛮だな。これで列強国の皇族とは、笑わせる」
「ぐっ……私は、私は皇族だ!! 私が処刑を命じたのは、死んだのはただの平民だろう!! たかが数十人程度の平民程度で!!」
「……」
レミールの言葉に、扉近くにいる看守と警備員が怒りを滲ませ、『大和』の視線はとことん冷たくなり、視線だけで殺せそうな殺気を孕んで彼は彼女を見る。そんな視線を向けられてか、レミールは一瞬身体を震わせる。
「ただの平民、たかが数十人程度、か。貴様がそう思うならそうなのだろうな。貴様の中ではな」
「……」
「ならば貴様が殺した人達に、どれだけの人達が悲しんだと思う。どれだけの人達が人生を狂わされたと思う。まぁそんな事考えた事なんてないんだろうな」
「……」
「殺された人達には、家族がいた。恋人がいた。友人がいた。これから家族が増える人がいた。居たんだよ……」
「っ……!」
殺気を醸し出し、威圧感のある声に、レミールは金縛りのような感覚を覚える。
「ただの平民だと? ふざけるな。貴様が殺した人達には、大切な人達が多く居たんだ。それをお前は、たった一言で全てを奪ったんだ」
「……」
「反省の色を見せるならまだしも、開き直るとはな。つくづく呆れる」
「ぐぅ……」
あまりの威圧感に、レミールは反論する余裕も無く、ただただ俯くしかなかった。
「それに、皇族か。
「な、に?」
『大和』の言葉に、レミールは額に冷や汗を浮かばせながら顔を上げる。
「何を、言って……」
「そのままの意味だ。パーパルディア皇国と言う国なんて、この世界に存在しない」
「っ! 何をふざけたことを!!」
「ふざけてはいない」
と、『大和』はレミールの言葉を無視して、後ろにいる警備兵に目配りすると、警備兵は看守に手伝わせて外に用意していた物を部屋の中へと入れさせる。
「これはテレビと言う、映像を映す装置だ。お前達で言うなら、映像付き魔導通信機だな」
「……」
レミールは部屋に入れられて警備兵によって準備されているテレビを見て、目を見開いている。皇国が開発した映像付き魔導通信機と比べ、洗練されて薄く、大画面を有している。
「これが、映像付き魔導通信機だと? 笑わせるな。こんな板で何が映せるいうんだ!!」
彼女は大きく声を荒げる。彼女の記憶にある映像付き魔導通信機は、装置自体が大きく、画面は小さい。その画面もここまで薄くなく、倍以上の厚さがある。
彼女から見れば、ただの厚めの板にしか見えない物体に、映像が映せるとは思えなかった。
「これを映せるさ」
と、『大和』は警備兵よりテレビのチャンネルリモコンを受け取り、テレビの電源を入れると、画面に光が灯って映像を映す。
「……」
レミールは映像を映すテレビに、目を見開いて釘付けになる。
明らかに皇国が作った映像付き魔導通信機よりも綺麗に映像を映しており、動きもカクカクしておらず、とても滑らかだ。
「そして、これが三日前のニュースだ」
彼はリモコンを操作して録画した映像をテレビの画面に映させる。
「っ! カイオス!」
画面には、壇上に上がるカイオスの姿が映っており、レミールは思わず声を上げる。
壇上に上がったカイオスは、演説を始める。
「三日前に、国家元首となったカイオス殿による演説だ」
「国家元首だと?」
「知らなかったのか? カイオスを筆頭にしたクーデターが皇国内で発生して、行政機関を制圧。皇帝ルディアスを拘束して暫定政権を立ち上げた」
「なんだと!?」
レミールは驚愕して声を荒げて身体を揺らす。
「あの、あの裏切り者がぁ!!」
「裏切り者か。俺からすれば彼は救世主に見えるがな。皇帝陛下を含めたお前達のような愚かな者達から亡国の危機から救ったのだからな」
「っ! 愚かだと! 陛下が愚かだと!?」
「でだ、重要なのはここからだ」
咆えるレミールを無視して、『大和』が画面を見ながら教える。
『―――そして我々は大きな決断を致しました。本日をもって、我がパーパルディア皇国は―――――
―――――国家を解体し、新たな歴史を始めることを、ここに宣言します!!』
「……は?」
無数のフラッシュが瞬く演説映像を見ながら、レミールは呆然となる。
「な、にを……言って……」
「三日前にパーパルディア皇国は解体され、新たな国家が樹立した。もうパーパルディア皇国も、パールネウス共和国などという国は存在しない。だから貴様の言う皇族とやらも存在しない」
「……――」
「……」
「―――けるな」
レミールは目を見開いて身体を震わせて小さく呟くと、直後に大きく身体を揺らして叫ぶ。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
獣のような叫びを上げて全身を拘束されながらも、彼女は大きく身体を動かして暴れる。
看守と警備兵が止めに入ろうとするも、『大和』が手を挙げて制止させる。
「皇国が、偉大なパーパルディア皇国が解体だと!? 陛下ではないお前が決められることでは無い!!! 勝手な事を抜かすなぁっ!! 反逆者がぁぁぁぁぁ!!!」
「……」
喉を引き裂かんばかりに叫ぶその姿を、『大和』はただ黙って見つめている。
「いくら咆えた所で、お前達は多くの国を滅ぼしてきたんだ。それが自分達の番になっただけだ」
「ぐっ……!!」
『大和』の指摘に、レミールは歯が砕けんばかりに噛み締めながら、彼を睨みつける。
「どちらにせよ、お前達は負けたんだ。敗者は勝者に従う。それがこの世界の理だろ?」
「……」
彼がそう言うと、レミールは顔を俯かせる。彼女に反論する余地は無かった。自分達が今までそうしてきたからだ。
「だが、俺達はお前達とは違う。貴様の言う皇族とやらは、無事に生きているぞ。今はな」
「っ!」
『大和』が含みのある事を告げると、レミールは顔を上げる。
「だが、これまでの責任を誰かが取らないといけないからな。生憎全員を生かすというわけにはいかないんだな、これが」
と、彼はリモコンを操作してテレビの画面の映像を別の映像に切り替える。
「なっ!?」
画面に表示された映像に、レミールは驚愕する。
「陛下!? それに、皇族の!」
画面には、柱に縛り付けられた元皇帝ルディアスと、多くの皇族達と血縁にある貴族たちがそれぞれ左右に分かれて映されている。皇族の中には彼女の肉親や親族が居れば、親しい者達も居て、まだ幼い者も居る。
「っ! 貴様ぁっ!! 陛下を、皇族たちをどうする気だ!!」
「言わなくても、貴様なら分かっているだろう。これから行われることは」
「っ!!」
そう言われて、レミールが視線で殺さんばかりに『大和』を睨みつける。
「だからこそ、貴様にチャンスをやる」
「何?」
レミールは次の言葉を口にしようとするが、その前に『大和』にそう言われて、怪訝な表情を浮かべる。
「元皇帝陛下か、皇族達、どちらかを貴様が選べ。そうすれば、どちらかは処刑されるが、片方は生き残れる」
「なっ!?」
「制限時間は10秒だ。10秒以内に選べ。選ばなかったら、どちらとも処刑する」
「き、貴様っ!?」
『大和』の提案にレミールは、驚愕と共に戸惑いと困惑が頭の中を支配する。
「10」
「ふざけるな!! 蛮族風情が!!」
「9」
「こんなことで皇族たちの未来を弄んで!!」
「8」
「何が野蛮だ!! お前達の方が!」
「7」
「っ! よっぽど野蛮な……」
「6」
「や、やめろ!!」
「5」
レミールの抗議を無視して無慈悲にも下されるカウントダウンに、怒りを露にしていた彼女の勢いは徐々に落ちていき、焦りが見え始める。
「あぁ、そうだ。忠告しておくが、選ぶ時h「やめろと言っているんだ!!」」……5」
『大和』は何か言うとしたが、レミールの大声にかき消されてしまい、彼は呆れ様子でカウントダウンを再開する。
「っ!? ま、待て……」
「4」
「っ……!」
「3」
「や、やめて……」
「2」
「……!」
「1」
「くっ!」
「z「ひ、左! 陛下だ!!」……」
カウントダウンを言い終える前に、レミールはとっさに画面左の元皇帝ルディアスを選んだ。
彼女の中に比重は、多くの皇族たちよりも、愛する者の方が重かったようだ。
「ほぅ。元皇帝陛下を選んだか」
「っ……!」
『大和』のどこか含みのあるような言い方に、レミールは歯噛みして俯く。
「大より小を選んだか。さぞかし、考え抜いた選択なんだろうな」
「……」
「あぁ。言っておくが、貴様を責めているわけじゃないぞ。むしろ尊重するよ。その気持ちを」
「っ!」
俯く彼女に『大和』は容赦なく言葉をぶつけ、レミールはそれに耐えるしかなかった。
(なんとでも言え。どうせ私は処刑される身だ。私が死のうとも構わない。だが、せめて……せめて陛下だけは……!)
俯いたまま、レミールは心の中で思いを漏らす。
彼女は自らの運命がどうなるかぐらい、さすがに悟っていた。だからこそ自分は死ぬが、せめて愛する者だけは生きて欲しい。それが彼女の願いなのだ。例え多くを犠牲にしても、叶えたい願いである。
「……
「……?」
と、『大和』の言葉に違和感を覚えたレミールは思わず顔を上げる。
ッ!!
するとテレビより銃声が響く。
「っ!?」
画面で起きた映像の変化を見て、レミールは目を見開く。
「あ、あ、あ……」
あまりにもショックが大きかったのか、彼女は言葉が出ずに、口を震わせている。
画面には、頭の半分近くが消し飛び、身体のあちこちから血を流して事切れているルディアスの姿が映し出されていた。
何があったなんてことは、一目瞭然な姿である。
「陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっ!!!!!!」
やがて混乱から回復したレミールは、喉が裂けんばかりに叫んだ。
「そんな、なんで……嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
あまりにも受け入れられない現実に、彼女は取り乱すばかりだ。
「一人の犠牲で多くの命が救えたんだ。立派な判断だよ」
「っ!! き"さ"ま"ぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
あっけからん様子の『大和』に、レミールは怒り心頭な声を発し、彼を睨みつける。
「よくも、よくも騙したなぁぁぁぁぁっ!! 卑怯者の、蛮族がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「……」
喉が掠れながらも声量の変わらない怒声を発する彼女の姿に、『大和』は心底呆れた様子で深いため息を付く。
「何を言い出すかと思えば……言い掛かりも甚だしいな」
「何を言って!!」
「騙す? 俺がいつ貴様を騙す様な事を言ったか?」
「っ!」
「確かに俺は『どちらかは処刑されるが、片方は生き残れる』とは言った」
「だったら!!」
「だが、何を勘違いしているか知らないが……
「っ!?」
抗議の声を上げようとしたレミールだったが、『大和』の言葉に彼女は冷や水を浴びせられたような衝撃を受ける。
「そ、そんなの、知らな……」
「知らない。そりゃそうだ。人が忠告をしようとしたのに、貴様は大声でその忠告を遮ったんだからな」
「っ……!」
彼の指摘に、レミールはハッと気付いて、口を震わせる。
カウントダウンの最中、『大和』は彼女に忠告をしようとしていた。だが、レミールはその忠告を自らの声で遮ってしまっていた。
「それに、話をよく聞いていればこうなると分かる内容だ。それを騙しただの卑怯者だのと。よく話を聞かなかった貴様の落ち度だろ」
「……」
彼の言葉に、ようやく彼女は自らの過ちを自覚し始めており、陸に上がった魚のように口をパクパクと言葉を発することなく開閉させている。
尤も、冷静で居られない中でそんな事を冷静に考えろというのは、あまりにも酷な話であるが。
「だが、経緯はどうであれ、その決意は本物だな。いやはや多くの命を救うために―――」
「やめろ……」
「処刑対象に自ら愛する者を―――」
「やめて……!」
「選んだんだからな」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!」
『大和』の容赦ない言葉に、レミールは首を左右に振るって否定する。
「違う!! 違う!! 違うっ!! 違う!! 違う!! 違う!! 違うっ!!」
「何が違う? お前の中で最初から誰を選ぶなんて、決まっていたんだろ? だから皇帝を選んだ」
「私は……私は!!」
「まぁどっちにせよ、貴様が皇帝を選んで処刑させた、という結果は変わらん」
「違う……違う……」
「今までそうやって何十、何百という命を処刑させて奪って来たんだろ? 今更一人で感じることは無いだろう」
「……」
レミールは怒りなのか、悲しみなのか、憎しみなのか、驚きなのか、もはや感情はごちゃごちゃになっていて呆然としており、『大和』の言葉に反応すら無かった。
「……」
『大和』はただの人形と化したレミールを一瞥し、踵を返して歩き出す。
「今後24時間体制で見張りを続けろ。怪しい行動が見られたらすぐに対処しろ。場合によっては期日まで眠らせても構わん。自害だけは絶対に阻止しろ」
「了解しました」
『大和』は看守に指示を伝えて独房を出る。
「……」
彼は独房の前で立ち止まって何かを考える素振りを見せるが、すぐに歩き出す。
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