異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

110 / 132
第百十話 自らの手で、始末をつける

 

 

 

 

 中央歴1640年 5月1日 ロデニウス連邦共和国 クワ・トイネ州

 

 

 

 その日は、ある意味異様な雰囲気に国中が包まれていた。

 

 

 多くの国民がテレビの前に居て、画面の映像に釘付けになっている。仕事をしている者でさえも、休憩中とあればテレビに釘付けである。

 

 

 画面には、何本も建てられた細い柱に、目隠しをされた男たちが縛り付けられており、小さなワイプ画面には、フェンスの向こうで騒いでいる人々の姿が映っている。

 

 

 

 この日、シオス王国で起きた虐殺事件の、その実行犯達と関与した者達の処刑が行われる光景を、生中継でロデニウス連邦共和国中に放送されているのだ。

 

 

 あまりにも異常といえる光景であったが、必要な事だとカナタは反対を押し切って生放送を行わせたのだ。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、クイラ州の刑務所。その一角にある処刑場。

 

 

 そこは異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

 処刑場には、虐殺事件の実行犯と関与した元シオス王国駐屯軍の兵士達や職員ら死刑囚達が目隠しをされて柱に縛り付けられていた。その中には、当然虐殺事件の首謀者であるレミールの姿がある。

 

「……」

 

 心を折られたレミールの虚ろな目には、何も映っていない。力無く項垂れているだけである。

 

 彼らの前と両側にはスピーカーが設置されており、そこからフェンスの向こうに居る被害者の遺族たちの憎しみの籠った罵声が、音が割れないで、尚且つ彼らの耳に響くぐらいに大きな音量となってスピーカーより放たれ、彼らの鼓膜を震わせている。

 

 目隠しをされている彼らは、どの方向からも罵声が来ているとあって、多くの者は項垂れるしかなかった。

 

 だが中には、悪いのは命令した上の連中だ。自分はただ命令に従っただけだと、自分は悪くない! と、見苦しい言い訳をしてい者が居たが、彼らの声はスピーカーより発せされる音声と、遺族らがいる距離の関係で死刑囚以外に届くことは無い。

 

 こういった連中を想定して、遺族らと死刑囚の間を大きく取ってあるのだ。死刑囚の見苦しい言い訳を遺族たちが聞いて不愉快にさせないために。

 

「……」

 

 遺族らと死刑囚の間辺りに、『大和』と兵士二人が立っており、死刑囚らを見つめている。彼は死刑囚達の最期を見届けると共に、全てを終わらせる為にに、ここに居るのだ。

 

 

 それから数分後、『大和』の傍に控えている兵士が無線で連絡を受け、彼に連絡内容を伝える。

 

「あー、マイクテストマイクテスト。……お静かに願います」 

 

 『大和』はマイクを手にして遺族らに頼むと、罵声を上げていた彼らはピタリと静かになる。

 

「ご協力どうも」と遺族に礼を言うと、死刑囚達を見る。

 

「これより、死刑囚の死刑執行を行います。死刑執行はショッキングな光景がありますので、気分を害される可能性があります。もしも退場を希望される方は、係員に声を掛けて別室へ移動をお願いします」

 

 『大和』は遺族たちに注意喚起を行い、退場を希望するかどうかの確認を行うが、遺族たちは誰一人その場から動こうとはしない。

 

 彼らは大切な人を奪った死刑囚達の死刑執行を見届けるために、ここに居るのだ。この期に及んで気が変わるわけが無い。

 

「分かりました。では、これより死刑執行を行う兵士達が入ります」

 

 彼は処刑執行を行う兵士達の入場を宣言すると、フェンスが開けられて64式小銃を携える兵士達が整列して入って来る。

 

 一糸乱れぬ行進を行って、先頭にいる部隊長が号令を掛けて死刑囚らの前に止まると、隊列を変更して死刑囚達と向き合う。

 

 『大和』は傍に控える兵士から64式小銃と弾が込められたマガジンを受け取る。彼も死刑囚の死刑執行を行うのだ。それも、レミールの死刑をだ。

 

「弾込め、用意!! 初弾装填!!」

 

 部隊長が号令を掛けて、兵士達は64式小銃に4発の弾が込められたマガジンを差し込み、槓桿を引いて初弾を薬室へと送り込むと、セレクターをセーフティーからセミオートに切り替える。『大和』も同じようにして射撃準備を整える。

 

「構え!!」

 

 号令と共に兵士達と『大和』が64式小銃を構える。

 

 死刑囚達は自分達の前で何が起きているのかを察したのか、頭を左右に振ったりしながら殺さないでくれと懇願する。

 

 そんな中、遺族たちは銃を構えた兵士達と死刑囚達を息を呑んで見守る。

 

 

 

「撃てぇっ!!」

 

 

 

 号令と共に、計4回の銃声が処刑場に響き渡る。 

 

 放たれた弾丸は、死刑囚達の身体を貫いており、内臓を貫かれて彼らはぐったりして苦しんでいる。

 

 弾丸は殆どが心臓か肝臓、肺を貫いており、このままなら彼らの命は五分と満たない。どちらにしても、急所を撃たれているのだ。彼らが助かることは無い。

 

 兵士達はマガジンを外して槓桿を何度も引いて薬室に弾が残っていないのを確認し、セレクターをセーフティーに入れる。

 

 『大和』も同じように弾が残っていないのを確認し、銃を兵士に返す。

 

「……」

 

 彼は制帽の位置を整えて息を吐くと、ゆっくりと死刑囚達の元へと歩き出す。

 

 死刑囚達の、それもレミールの前まで来ると、彼は立ち止まる。

 

「……」

 

 『大和』の視線の先には、身体を弾丸で貫かれ、貫通個所から出血しているレミールの姿がある。

 

 しかし重傷でありながらも、彼女は身動き一つ取らず、項垂れたままだ。それだけ、彼女の心は折れているのだ。

 

「レミール殿」

「……」

 

 『大和』が声を掛けても、彼女は反応しない。

 

「……こうなってしまったのは残念だ。せめて、大切な人達(・・・・・)とあの世で会えるといいな」

「……」

「まぁ、それはそれとして」

 

 と、彼は咳払いをして、気持ちを切り替える。

 

「どうせあと数十秒の命だ。冥土の土産に良い事を教えてやる」

「……」

「あの時、俺は言ったな。どちらかは処刑され、片方は生き残ると―――」

 

 『大和』は一旦区切ると、顔をレミールに近づけて、耳の傍で囁く。

 

 

 

「あれは嘘だ」

 

 

 

「……っ」

 

 すると身動き一つもしなかったレミールが、僅かに身体を揺らして反応を示す。

 

「あの時よりも前に、皇帝を含めて全ての皇族の処刑は済んでいる。あの映像はただの録画映像を編集しただけの代物。あの時点でお前は皇国最後の皇族だ」

「……」

 

 明かされた真実に、レミールは身体を小さく振るわせる。

 

 

 皇帝ルディアスと皇族、その血縁にある貴族は、あの時点で既に全員処刑されており、あの映像はその時に撮っていた映像を編集して、あたかも生中継映像のように見せかけていた。

 

 こんな手間暇を掛けてでも、レミールを追い詰める辺り、『大和』の徹底ぶりが伺える。

    

 

「運が良ければ、あの世で皇帝と皇族たちと会えるかもな。尤も、温かく迎え入れて貰えるかどうかは別だが」

「……っ……っ」

 

 『大和』はそう言うと、踵を返して歩き出し、レミールはその背中に向けて叫ぼうとするが、肺を撃ち抜かれた身体は声を出そうとすると、多くの吐血を強いらせて、激痛が全身を走って彼女を苦しめる。

 

 レミールは憎しみが籠った眼で彼の背中を睨みつけるが、やがてその視界はぼやけてきて、全身の力が抜けていく。そして彼女の意識は深い闇の中へと沈んでいき、その意識は永遠に目覚めることは無い。

 

 

 

 しばらくして死刑囚全員の死亡が確認され、『大和』はその結果を遺族たちに報告する。

 

 遺族たちは歓喜の声を上げて喜ぶことは無く、目を瞑って両手を組み、天国に旅立った家族や恋人、親友たちに向けて静かに祈りを捧げていた。

 

 その後死刑囚達の遺体は処刑場から運び出され、一か所に集められて火葬されることになる。火葬後は骨を細かく砕いて灰にして、遺灰は海に撒かれる予定である。

 既に処刑が済んでいる皇帝や皇族たちも同じようにされている。

 

 せめて死後の眠りが妨げられることが無いように、墓は作られないことになって、遺灰を海に撒く事になった。

 

 

 

 ともあれ、これを以ってパーパルディア皇国との戦争は、終わりを告げることになった。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、刑務所の独房

 

 

 

「……」

 

 独房の中で、一人の男性が檻の向こうにあるテレビの画面を見つめており、画面には先ほどの処刑映像が流れており、処刑が終了したのが告げられる。

 

「気が済んだか?」

 

 テレビの横で看守が男性に問い掛ける。

 

「あぁ。これで、二人は報われる」

 

 男性ことモイジは、目を瞑って顔を上げている。その眼には涙が浮かんでおり、溜まった涙は溢れ出して頬を伝って落ちていく。

 

「そうだな。報われるといいな」

 

 看守はそう言うと、同僚にテレビの片づけを指示する。

 

「ところで、例の制度を受けるのか?」

「知っていたのか?」

「悪いが、囚人の情報は隅々まで把握されるからな」

「そうか」

 

 看守は頭の後ろを掻きながらそう言うと、モイジは苦笑いを浮かべるも納得する。刑務所では防犯の観点で監視され、会話や行動は逐一記録されているので、受刑者のプライバシーは無いに等しいのだ。まぁそうでもしないと脱走を未然に防ぐことが出来ない。

 

「それで、良いのか? ハッキリ言ってあの制度、メリットなんて無いぞ。ただ苦しい日々を送るだけで、期限を終えても以前のようにはならないぞ」

「それでも構わない。俺には、やることが出来た」

「苦行を乗り越えて、それでも以前のような暮らしは出来なくなっても?」

「あぁ」

 

 看守の問いに、モイジは迷いなく答える。

 

「……まぁ、あんたが決めたことだ。俺からは何も言わねぇよ。後悔が無いようにな」

「あぁ。ありがとう」

 

 彼がお礼を言うと、「じゃなぁ」と看守は一言言って独房の前を後にする。

 

「……」

 

 看守が去った後、モイジは腰かけているベッドに仰向けになり、胸ポケットから折り畳んだ写真を取り出す。

 

 写真には、生前に撮っていた妻と娘と一緒に撮った家族写真であり、三人とも笑顔を浮かべている微笑ましい写真である。

 

 それも、今となってはもう撮られない光景となってしまった。

 

(ソフィア、アイナ……俺は、罪を償って、もう一度やり直してみるよ。お前達のような悲劇が、繰り返されないように……)

 

 モイジは写真に写る妻子を見つめながら改めて決意を固め、写真を折り畳んで胸ポケットに仕舞い、横になって眠りに付く。

 

 

 

 

 




感想、質問、評価等をお待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。