異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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今回は『大和』達の過去編です。




番外編01 夢は果てしない

 

 

 

 時は遡る事……まだトラック諸島が新世界に転移する、数年前ほどまで遡る。

 

 

 


 

 

 

 青く澄んだ空には小さな雲がちらほらとある快晴であり、夏とあってカンカン照りの太陽の日差しがトラック諸島の各島々の地面を照らしている。

 

 トラック諸島では、『大和』と『紀伊』と共にいた妖精達が各々の作業を行って島の拡張や発展、KAN-SEN関連やその他の技術の研究開発を行っている。

 

 

「……」

 

 トラック諸島の春島の舗装された道を、『大和』が海風に長い髪を揺らされながら歩いている。

 

(人間、慣れるとホント何も感じなくなるんだな)

 

 『大和』は歩きながら被っている制帽の鍔を持って上にずらし、空を見ながら内心呟く。

 

 元々人間だった……と言う感覚はある彼であったが、この世界に『大和』として誕生してから数年が経てば、最初に感じていた違和感はさっぱり無くなっている。

 それは『大和』と同じ境遇の『紀伊』も同じである。

 

 まぁ人間とKAN-SEN。身体の構造が大して変わらなかったのが、早く慣れた要因だろう。

 

 だが、時間が経てば経つほど、人間だった頃の感覚が薄れているのを、彼は感じていた。徐々に自分が自分では無くなるような、そんな感覚が日に日に強くなっている。

 

(まぁ、前世の記憶がある人間だって時間が経つにつれて忘れていくもんだし。KAN-SENになった以上、そのKAN-SENとして変化しているってことなだけだ。それは変えられないんだ)

 

 しかし彼は既にその事実を受け入れているので、それほど悲観してはいなかった。それは『紀伊』も同じである。

 

 

「あっ、『大和』さん」

「ん?」

 

 と、後ろから声を掛けられて振り返ると、車椅子に座った一人の女性の姿があった。

 

 白い軍服を身に纏い、背中まで伸びている黒い髪を一本結びにした、御淑やかな雰囲気のある女性である。

 

 彼女の名前は『宗方 咲良』『大和』達が初めて接触した国である重桜の人間であり、KAN-SENの指揮官候補生であったが、今は軍から連絡要員としてトラック諸島に派遣されている。

 

 しかし彼女には、あるべき部位が無い。

 

 彼女が穿いているズボンの右脚には脚が通されているが、左脚の裾は力無く垂れている。彼女は左側の膝から下の脚が無いのだ。

 

 

 指揮官候補生として彼女は、勉学の為に重桜が有している海外の基地へ船で移動していたが、途中で大きな波に呷られた船が転覆し、海を他の指揮官候補生と船の乗組員と共に漂流することになった。

 

 その時に、彼女達は鮫の大軍に襲撃され、次々と指揮官候補生と船の乗組員が鮫に喰われていき、彼女もしがみ付いていた船の残骸によじ登って難を逃れようとしたが、左脚が海中から上がる前に鮫に左脚を食い千切られた。

 

 彼女が激痛を味わい、絶望しながら意識が薄れていく中、偶々近くを通りかかった『大和』達が彼女を鮫の大群から救出した。彼らの応急処置が早かったお陰で、彼女は命を取り留めた。

 

 その後しばらく咲良はトラック諸島で暮らしていたが、『大和』達が重桜と接触して交流を行うことになり、咲良は国に帰ることになった。

 

 しかし少しして彼女は重桜より連絡要員として技術者(大山 敏郎)や他の軍人たちと共にトラック諸島に戻って来た。

 

 それはあからさまに傷痍軍人となった彼女を厄介払いとして連絡要員として送り込んだものであった。実際、一緒に来た技術者と軍人たちも、訳アリであって、厄介払いで送られてきたのは明らかだった。

 

 その後は色々とあったものの、彼女は連絡要員としての任をこなしつつ、『大和』と『紀伊』より勉学を受けている。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

「咲良か。どうした?」

「散歩の途中で『大和』さんを見かけたので、声を掛けさせてもらいました」

「そうか。一人か?」

「はい」

 

 咲良が頷いて答え、『大和』は車椅子に座る彼女を見る。車椅子を使う以上移動が不便であるので、基本誰かに押してもらって移動している。

 

「それで、どこか行こうとしていたのか?」

「はい。あの丘に行こうと思って」

「車椅子じゃ大変だろ」

「そうでもないですよ。大変なことに変わりありませんが、頑張れば行けます」

「そうか」

 

 『大和』は彼女が言う丘がある方向を見る。その丘までは緩やかな勾配がある道なので、車椅子の彼女には少々きつい。

 

「なら一緒に行くか」

「良いんですか?」

「どうせブラブラ歩いていただけだからな。話し相手が欲しかったから、ちょうどいい」

 

 と、『大和』は彼女の後ろに立って車椅子の持ち手を持つ。

 

「では、お願いします」

「了解」

 

 咲良が笑みを浮かべてお願いすると、『大和』は頷いて彼女が座る車椅子を押して件の場所へと向かう。

 

 

 

 二人は舗装された道を進んでいき、件の丘の上へとやって来た。

 

 丘の上はトラック諸島全体を見渡せる場所であり、ここから見ればトラック諸島の発展具合が分かる。

 

(こうして発展具合を見ると、荒廃していた最初の時からよくここまで発展して来たな)

 

 『大和』は咲良の横に立ち、トラック諸島に辿り着いた当初の荒廃した状態の時の事を思い出し、改めて妖精達の技術力を確認する。

 

「ここはトラック諸島を見渡せて、好きなんですよ」

「そうか。俺もよくここで景色を見ているよ」

「そうなんですね」

 

 咲良は『大和』を見て笑みを浮かべ、再び前を向く。

 

「……『大和』さん」

「なんだ?」

「世界は……いつか再び一つになるでしょうか?」

「一つに、か」

 

 彼女の言葉に、『大和』は顔を上げて空を見つめる。 

 

 

 

 セイレーンの出現後、多くの被害を受けた人類は築き上げてきた技術力を惜しまずに投入し、セイレーンを迎撃した。しかし圧倒的な力を持つセイレーンの前に、人類はあまりにも無力だった。

 

 

 圧倒的な力を持つセイレーンを前に、人類は過去のいざこざを水に流し、一丸となってセイレーンと戦う軍事連合―――『アズールレーン』を創設し、セイレーンと戦った。

 

 

 そんな中、彼らが偶然発見した『メンタルキューブ』と言う存在から、『KAN-SEN』という名のセイレーンに対抗する力を手に入れる。

 

 

 セイレーンとの戦いは多大な犠牲が発生し、一時期人類は滅びの危機に瀕した。

 

 

 しかしKAN-SENを手にし、人類のあらゆる英知を結集させたアズールレーンの活躍により、人類の滅亡は避けられ、セイレーンの攻勢を食い止めることが出来た。

 

 

 だが、ここまでやっても、あくまでもセイレーンの攻勢を食い止めた(・・・・・)程度でしかなく、セイレーンの完全撃退に至らずにいた。

 

 

 セイレーンとの膠着状態が続いた事により、各陣営間でセイレーンと戦う理念の違いが浮き彫りになってきた。

 

 

『あくまでも人類の力を以ってして、セイレーンを撃退する』か『毒をもって毒を制し、セイレーンの力を得てセイレーンを撃退する』と、二つの理念に分かれた。

 

 

 この理念の食い違いがアズールレーン内で分裂を起こし、一部の陣営が脱退して『レッドアクシズ』を名乗り、アズールレーンと対立する事になり、やがて両陣営による戦争が繰り広げられた。

 重桜もかつてはアズールレーンに属していたが、理念の食い違いによってアズールレーンを脱退し、レッドアクシズの一員としてアズールレーンと争っている。

 

 

 このような状況では、人類が再び一つになるのは非常に難しいだろう。

 

 

 

「今のままでは、難しい話だろうな」

「……」

 

 『大和』の言葉に、咲良の表情に影が差す。彼女もそれが難しい話だというのは、理解している。

 

「だが……諦めない心があれば、希望はあると思う」

「希望……」

「今はまだ無理かもしれない。だが、いつかセイレーンを撃退し、世界に余裕が生まれれば、いつかは」

「……そうです、よね」

 

 咲良は一旦俯くが、すぐに顔を上げる。

 

「私、諦めません。いつか、この世界が平和になるように、頑張りたいです」

「そうか」

「ですから、指揮官としての勉学のご教授をお願いしますね」

「おいおい。指揮官候補生だとしても、KAN-SENから教わるのはどうなんだ?」

 

 『大和』は他の指揮官候補生がどうなのかは知らないが、彼女の学ぶ姿勢に肩を竦めて苦笑いを浮かべる。

 

「教わる相手は関係ないですよ。経験は『大和』さんと『紀伊』さんが多いんですから。それに知識面でも『天城』さんと『ビスマルク』さんも上ですし」

「……」

 

 そういうものなのか? と彼は複雑な気持ちを抱いて頭の後ろを掻く。

 

「なら、指揮官になる為に、より一層勉学に励まないとな」

「はい!」

 

 咲良は笑顔を浮かべて頷く。

 

(まぁ、彼女は指揮官としての素質は十分あるからな)

 

 彼女と話しをしながら、『大和』は咲良の指揮官としての素質を思い出す。

 

 『大和』の他に指導している『紀伊』や『天城』、『ビスマルク』からも彼女の指揮官としての素質は高いという評価があり、咲良は大きく化ける可能性を秘めている。

 

 なので、彼としては彼女の将来が楽しみでもある。

 

(……まぁ、彼女の指揮下に入るのなら、文句は無いな)

 

 指揮官としての彼女の姿を想像しながら、咲良との会話を続けた。

 

 

 

 

 

 だが、彼は自覚があまりにも薄かった。

 

 

 この世界で、イレギュラーな男性型のKAN-SENである『大和』と『紀伊』達が、どれだけの価値があるのかを……

 

 

 どれだけ各国が彼らの存在を欲するのか……

 

 

 その自覚が……あまりにも薄すぎた……

 

 

 




過去編は不定期に投稿する予定です。

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