異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第百十二話 世界の反応 弐

 

 

 

 

 所変わり、第三文明圏の準文明国、リーム王国 王都ヒルキガ

 

 

 王都にあるセルコ城の玉座の間

 

「……」

『……』

 

 そこでは緊迫した空気が張り詰めており、リーム王国の王バンクスの表情から怒りが滲み出ている。その様子にこの場に居る者達は息を呑む。

 

「おのれ、ロデニウスめぇ……ここまで我々の邪魔をするとは……」

 

 バンクスは怒りを孕んだ声を漏らし、歯軋りを立てている。

 

 彼の怒りは言わずとも、今回の戦争の結果である。

 

 

 今回のリーム王国の戦争参加は、散々な結果となった。

 

 リーム王国は今回の戦争でパーパルディア皇国から多くの技術と資源、金を得る算段だった。多少被害を被っても、得る物は多くなるはずだった。

 

 しかし結果は大損も大損。今回の戦争で得られた物は殆ど無く、その上多くの兵士とワイバーン、竜騎士、更に海賊から得たという虎の子の銃も失ってしまった。

 

 更に講和会議に参加できなかったので、賠償金も領土も、技術も、パーパルディア皇国からは何一つ得られなかった。

 

 殆ど得られたものは無く損だけした。完全に何のために戦争に参戦したのか分からない結果である。

 

 

「陛下。その、あまり軽率な判断は――――」

「分かっておる。我とて馬鹿ではない」

 

 宰相の言葉にバンクスは怒りを露にしながらも、冷静に答える。

 

 本当ならここまで王国の計画を邪魔したロデニウスに復讐したい所であったが、そんなことをすればどうなるかは、旧パーパルディア皇国が身を以って証明している。それでいてロデニウスに復讐しようと考えるなら、旧皇国の人間以上のバカである。

 

 だからこそ、何もできないことに彼は余計に苛立ちを募らせているのだろう。

 

「しかし、ロデニウス……噂には聞いていたが、恐ろしい国よ」

「えぇ。これほどの国が今まで噂にならなかったのが不思議なぐらいです」

「全くだ」

 

 冷静になったバンクスは玉座の肘掛けに肘を置いて頬杖を置き、恐ろしげに呟くと、宰相が答える。

 

「しかし、今回の戦争では、少ないですが、得られた物があったのが幸いです」

「本当に少ないがな」

 

 バルクスは不満げに鼻を鳴らす。

 

 

 今回の戦争でリーム王国は大損したが、何も全く得る物が無かったわけでは無い。

 

 アルーニの戦いで多くの旧皇国軍の武器兵器を鹵獲し、更にロデニウス連邦共和国が73ヵ国連合に供与した九九式短小銃を回収し、その多くを本国に送った。準文明国のリーム王国の技術を以ってすれば、コピーは可能だ。

 

 更に彼らにとって意外なものとすれば、戦列艦を手に入れた事である。

 

 今回陸で戦闘があったのに、なぜ関係ない海の戦列艦をリーム王国が手に入れたのか。それは本当に偶然であって、リーム王国付近に旧皇国の戦列艦が漂流してきて、それを回収したのだ。

 

 戦列艦には旧皇国軍兵士のものと思われる白骨遺体が残されており、どれだけ長い間漂流していたのかが窺える。

 

 この戦列艦は、旧パーパルディア皇国軍の物であり、かつてアルタラス王国へ侵攻しようとして、ロデニウス連邦共和国の潜水艦のKAN-SEN達と『筑後』、『まほろば』の両艦からの砲撃により、艦隊は壊滅して生き残った戦列艦は撤退を余儀なくされた。

 しかしあまりにも非現実的な光景に、戦列艦の乗組員達は精神的に疲弊してしまい、そんな状態ではロクに操艦が出来るはずも無く、彼らは海を彷徨うことになり、最終的に彼らは国に帰ることが出来ず、乗組員達は船上で息絶えた。

 

 無人となった戦列艦は海流に乗って流され、偶々リーム王国の領海へと流れ着いたのだ。そしてこれがリーム王国が今回の戦争で一番得したことである。

 

「して、今回手入れた代物の量産は可能なのか?」

「左様にございます。既にパーパルディア皇国の銃と魔導砲の解析は終えており、現在各所にて職人たちによる製造が行われております」

「そうか」

 

 不機嫌な雰囲気があったバンクスであったが、この報告に彼は気を良くした。

 

 準文明国とあって、銃や魔導砲をコピーをするぐらいなら彼らでも可能なのだ。

 

「ただ、連合軍が使っていたロデニウスの銃なのですが……」

「ロデニウスの銃か。聞けばパーパルディア皇国の銃よりも性能が高いそうじゃないか」

「えぇ。パーパルディア皇国の銃よりも性能が高く、比べ物になりません。ただ……」

「ただ、なんだ?」

 

 いいごもる宰相に、バンクスは怪訝な表情を浮かべる。

 

「ロデニウスの銃は、パーパルディア皇国の銃と比べると、大きく構造が異なっていまして、我が王国最上級の鍛冶職人を以ってしても解析は進んでおらず」

「銃の構造など、同じではないのか?」

「大体の構造は同じですが、問題なのはロデニウスの銃は発射機構が分からないのです」

「分からないだと? 現物はあるのだろう。なぜそれで分からないのだ」

「現物はありますが、その現物自体の解析がままならないんです。どうやって弾を発射しているのか、どうやって弾を飛ばしているのか。それが分からないようで」

 

 宰相の言葉に、バンクスは眉間に皺を寄せる。

 

 パーパルディア皇国のマスケット銃は造りが単純であり、魔導技術で作られているので、リーム王国でもコピー製造が可能であり、装薬の粉末魔石の加工はそんな難しい技術が使われていないので、こちらも作ることは出来る。

 

 しかしロデニウス連邦共和国の九九式短小銃は科学技術の結晶であり、マスケット銃と比べると構造は複雑かつ、材質から構造だって全く異なるのだ。そもそも弾薬の構造自体全く理解しておらず、まず雷管すら彼らは構造を理解できないだろう。

 少なくとも科学技術の精通していないリーム王国では、九九式短小銃をコピーするのは困難だ。

 

 仮にコピー出来たとしても、彼らが必死に解析してコピーしているのは、大量生産を目的として材質から構造の一部を簡略化した戦時設計の銃である。品質は通常の代物と比べると劣っているのだ。

 

 そんな粗悪品(妖精基準)を必死にコピーしているその姿は、滑稽である。 

 

「まぁいい。時間は掛かってもいいから、解析は続けろ。それまでパーパルディア皇国の銃を使うほかあるまい」

「えぇ。ロデニウスのと比べると劣ってはいますが、このフィルアデス大陸ではパーパルディア皇国の銃は十分驚異的です」

「そうか。して、戦列艦やワイバーンについてはどうだ?」

「こちらは構造の調査が済み次第我が王国の職人たちと、旧皇国から引き抜いた職人たちによって建造が行われる予定です。ワイバーンに関しては旧皇国より密かに幼体を何体か持ち込み、旧皇国より引き抜いた技術者の指導の下数を増やして訓練を施す予定になっています」

「ふむ。そちらは問題なさそうだな」

 

 バンクスはゆっくりと息を吐いて、報告の内容に満足する。

 

 大損こいたリーム王国だが、転んでもただでは起きない。密かに旧皇国より仕事を失った造船関連の職人や魔導士たちを引き抜いており、戦列艦や竜母の建造技術とワイバーンロードの量産を行う予定となっている。ワイバーンロードは幼体と卵を魔導士たちが手土産として密かに持ち込んでいたのだ。

 

 時間は掛かるが、リーム王国は以前よりも戦力は強化されることになるのだ。

 

「当初の計画より狂ってしまいましたが、我が王国の力は大きく増す事になります」

「そうだ。今はまだ大人しくしているが……いずれこのフィルアデス大陸を制するのは……我がリーム王国だ」

 

 バンクスは自らの野望を語り、玉座を立ち上がって高らかに宣言する。

 

 

 

 

 しかし、彼らの野望に一ミリも光が差さない内容になろうとは、この時の彼らは知る由もない……

 

 

 

 


 

 

 

 

 時系列は少し遡り、場所は、アルタラス王国

 

 

 

「そうか……戦争は、終わったか」

 

 アルタラス王国の国王ターラ14世は、私室のベッドに横になったまま側近より報告を受け、感慨深そうに呟く。

 

「はい。我が王国は……パーパルディア皇国の圧力から解放されたのです」

「……ロデニウスには、どれだけ感謝しても、感謝し切れないな」

「はい」

 

 二人がそう話していると、ターラ14世は咳き込む。

 

「陛下!?」

「大丈夫だ。少し興奮して身体に障っただけだ」

 

 心配そうに駈け寄る側近に、ターラ14世は咳き込みながらも手で制して答える。しかしその姿は、とても大丈夫そうな見た目ではない。

 

 体調を崩してからターラ14世は寝込む日々が多くなり、体格がしっかりとしていた以前よりも今のターラ14世は痩せ細り、目元には濃い隈が出来て、咳き込むのも珍しくなくなってしまっている。

 

 日に日に彼の容体は悪化の一途を辿っているという。

 

 

 コンコン……

 

 

「誰だ?」

 

 すると、私室の扉からノックの音がして、ターラ14世は呼吸を整えて問い掛ける。

 

『私です、ルミエスです』

「おぉ、ルミエスか。入れ」

 

 扉の向こうにはルミエスが居るようで、彼が入室を促すと、扉が開いてルミエスが入って来て一礼する。

 

「お父様。容体の方はいかがですか?」

「あぁ。今日はとても良いよ」

 

 ターラ14世の傍まで来たルミエスが容体を聞くと、彼は彼女に悟られないように平然を装って答える。それを聞いてルミエスは安堵の表情を浮かべる。

 

「それで、どうした?」

「はい。出発準備が整いましたので、出発前にお父様に御挨拶を」

「そうか。もうそんな時間か」

 

 ターラ14世は頷きながらそう言うと、顔を上げる。

 

 ルミエスは講和会議に終わったあと、本国へと帰国して報告と仕事を済ませ、外交官としてロデニウス連邦共和国へと出発する。

 

「お父様。しばらく私は空けることになりますが、体調面は気を付けてくださいね」

「あぁ、分かっているよ」

 

 ターラ14世は笑みを浮かべて頷くと、「では、行ってきます」とルミエスが頭を下げて部屋を出ようと扉の前へと向かう。

 

「ルミエス」

 

 と、ルミエスが扉のドアノブに手を掛けようとする寸前に、ターラ14世が彼女を呼び止める。

 

「お父様?」と彼女は振り返ると、ターラ14世は優し気な雰囲気を醸し出しつつ、微笑みを浮かべている。

 

「立派に、なったな……」

「お、お父様?」

「……お前は、私の一番の誇りであり、宝だ。愛しているぞ、ルミエス」

「一体何を……縁起でもない事を」

「あぁ、そうだったな。すまない。こんな時に言うことでは無いな」

 

 動揺するルミエスに、ターラ14世が苦笑いを浮かべて頭の後ろに手を当てる。

 

「だが、さっきの言葉に偽りはない。だから、お前も胸を張って生きるんだぞ。私の子として」

「お父様……」

 

 戸惑いが未だに残るが、ルミエスは気持ちを切り替えて「はい!」と返事をして頷く。

 

 

 

「……立派になった、か」

 

 ルミエスが私室を出た後、ターラ14世は小さく呟く。

 

「陛下。先ほどのは……」

「気にするな。言える時に言っておかなければ、伝えることは出来ぬのだからな」

「……」

 

 側近は何かを察したようだが、ターラ14世は制止しつつ、ルミエスに掛けた言葉の真意を伝える。

 

「……」

 

 ターラ14世は微笑みを浮かべて、窓から外の景色を見つめる。

 

 

 

 




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