異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
本作のグ帝は大分強化されます
所変わって某所……
ここは第八帝国こと『グラ・バルカス帝国』
別の世界からこの世界に転移して来た帝国は、パカンダ王国、レイフォルを滅ぼしてその周辺国を武力を以てして支配し、その勢力を拡大しつつあった。
科学技術が発展しているこの国は、多くの工業地帯が各地に存在する。工場では武器兵器はもちろんだが、自動車から家庭で使う日用品まで、様々な物が作られ、国民の生活に役立てられ、帝国の発展に貢献している。
しかし、これらの帝国の発展は、環境破壊という名の代償を支払うこととなった。
工場の煙突からは有害物質を含んだ煙が大量に吐き出され、空は常に曇って空気が汚染されている。
工場からは有害物質を含んだ廃液やゴミが海や川へと流され、川や海は汚染され、水面はヘドロやゴミだらけになり、そこに住む生き物たちは息絶えるか、有害物質によって汚染され、たちまち動物や人間が口にすれば病気を患う災いとなってしまった。
大地もまた有害物質によって汚染され、工場周辺に植物は一切存在しないか、有害物質を含んでしまっている。
帝国の空と大地、海は、国の発展によって生じた公害によって汚染され、当然そこに住む人間は多くの病気を患い、命を落としている。
だがこの国の人間は、それらの公害がこの国が発展してきた証であると、むしろ誇りに思っているそうである。
当然次の世代のことなど、考えても無いだろう。
そんなグラ・バルカス帝国の帝都ラグナの中央にある帝王府の私室にて、国の繁栄を見つめる男性の姿がある。
「この世界は、我々に何を求める?」
男性こと、グラ・バルカス帝国の皇帝『グラルークス』は、自問自答するように呟く。
この世界に転移し、帝国は武力侵攻を図った周辺国を武力で制圧して併合してきた。その後融和政策を行うべきだと立案する皇族の意見もあり、外交にて国交締結を行おうとしたが、その時の相手となったパカンダ王国により、皇族を含めた外交官たちが処刑されてしまった。
これが原因でグラ・バルカス帝国が暴走したといっても過言ではない。
そして怒り狂った帝国は真っ先にパカンダ王国を滅ぼし、レイフォルも滅ぼして併合した。
かつてグラ・バルカス帝国があった惑星ユグドと違い、この世界の技術力は帝国と比べて大きく劣っている。この世界を我が物にするのに、苦労は掛からないだろうと、グラルークスは考えていた。
だが、ムーや神聖ミリシアル帝国といった列強国の存在もあり、帝国は更なる力を付けるべく植民地の搾取が強まっている。
「全く……この世界は面白きものよ」
グラルークスはそう呟くと、口角をゆっくりと上げる。
グラ・バルカス帝国の帝都ラグナにある海軍省
「第三文明圏の列強国のパーパルディア皇国がロデニウス連邦共和国に敗北したか」
「まぁある意味予想通りと言うべきじゃないかしら」
海軍省にある一室にて、二人の男女が話している。
男性はグラ・バルカス帝国海軍東方艦隊司令長官にして帝国の三将の一人とされている『カイザル』
女性はグラ・バルカス帝国海軍特務軍司令官にして帝国の三将の一人とされている『ミレケネス』
帝国の三将の内の二人が一室に揃い、遠い東方の地で起きたことについて話している。
「海軍諜報部が持ち帰った情報からまさかとは思っていたが、まぁ情報通りであればパーパルディア皇国が大敗を喫したのも頷けるな」
「そうね。それにしても、東方にこれだけの力を持った国が存在していたなんてね」
ミレケネスは机に広げている白黒写真を数枚手にする。写真には空を飛んでいる烈風改や、急降下爆撃や雷撃を行おうとしている流星改二が写っている。
「諜報員によれば、どれもアンタレス、シリウス、リゲルを大きく上回っているそうだ」
「写真を見ただけでもそれが伝わるわね。にしても随分低いわねこの雷撃機」
「航空機のみならず、パイロットの技量も相当高いだろうな」
二人は諜報員の報告を話して、特に海軍軍人である二人は雷撃を行おうとしている流星改二の超低空飛行に驚きと共にその実力に称賛している。
「恐らく、ロデニウス連邦共和国は我が帝国と同じ転移国家の可能性が高いだろうな。でなければ、パーパルディア皇国が第三文明圏の列強国として祭り上げられていないだろうしな」
「でしょうね。それにしてもこの世界は別世界から転移してくる国が多いこと」
「分からんもんだな」
お互いそう言うと、互いに肩を竦め合う。
ロデニウス連邦共和国が別世界から転移した国。二人の予想はあながち間違っていないが、正しいとも言えない。
「でも航空機だけで、他が分からないんじゃ、ロデニウスの実力は測りかねないわね」
「だからこそ、再び諜報部の連中を軍直属の者と共に調べに行かせたんだ。それでロデニウスの実力を測れる」
「だと良いわね。諜報部が持って帰るのが正確な情報なら」
ミレケネスはどこか不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「おいおい。諜報部の事なら濡れ衣だったのが最近分かっただろ。彼らを責めてやるな」
「……」
肩を竦めるカイザルがそう言うと、彼女は少し前に起きた出来事を思い出す。
それはグラ・バルカス帝国がこの世界に転移し、レイフォルを滅ぼしてその地を支配した頃に遡る。
グラ・バルカス帝国の皇帝『グラルークス』は、ある日突然陸軍及び海軍憲兵隊、更には特別警察こと『特警』を動員して軍需産業への抜き打ち調査が行われた。
その結果一部の議員と軍需産業の癒着が判明し、そこから更に調査を進めていくと、出るわ出るわ、真っ黒な不正の数々が次々と判明した。軍需産業の利益の独占を狙って経営陣と議員による各軍需産業の横やりなどがあって、技術進歩の妨げになっていた事実も発覚する。
これだけの不正の数々が発覚したのだ。当然グラルークスの怒りが爆発したのは言うまでもない。
癒着に関わっていた議員たちは例外なく全員逮捕され、尋問によって余罪が発覚し、裁判にかけるまでも無く極刑となった。尚、該当議員に家族が居た場合、家族や親族は財産を没収され、貴重な労働源だとして強制労働に処された。
軍需産業の経営陣は皇帝の命により一新され、旧経営陣は全員財産没収とされ、家族諸共強制労働に就かされた。
経営陣が一新されたことで、利益だけを求めて今に満足していた旧経営陣と違って、新経営陣は次世代の技術の開発に積極的であり、現在新経営陣による技術研究と新たな武器兵器の開発が積極的に行われている。
これらは皇帝グラルークスの命によるものが大きく、その財源と資源は支配地域から搾取したものである。
航空機は既存の機種の後継機種の開発が行われているが、完成までまだ時間が掛かるとあって、現在既存機種の改良型が開発されて新型機までの繋ぎの機体として運用される予定であり、完成まで時間は掛からないらしい。
というのも、技術者達が旧経営陣に隠れながら改良型の設計を行い、設計図を完成させていた。だからこそ実機の完成に時間が掛からないのである。
陸軍では大規模な武器兵器の機種更新が計画されており、特に戦車は主力の2号戦車ハウンド、2号戦車シェイファーの改良型に加え、後継車両の開発が行われ、転移に伴い開発が中断していた『ワイルダー重戦車』が計画を一新して開発が再開している。
ともあれ、グラ・バルカス帝国はこれまで遅れた分を取り戻さんばかりに研究開発が行われているという。
で、それがどう諜報部の濡れ衣の話に繋がるのかというと、先ほど軍需産業と癒着していた議員が大きく絡んでいたからである。
グラ・バルカス帝国の諜報部は、これまでロクな情報を手に入れられない無能集団だの、給料泥棒だのと蔑まれ続けてきた。しかし諜報部はちゃんと情報を手に入れていると語っていたが、肝心の情報が上層部に届いていないとあって、彼らの主張は悉く無視されて、常に非難の対象だった。
だからこそ、海軍と陸軍は独自の諜報部を立ち上げて情報収集に勤しんでいた。
彼らの風向きが変わったのは、例の議員と軍需産業の癒着発覚である。
どうやら諜報部が手に入れた情報は、上層部に届く前に汚職に関わっていた議員が自分の息のかかった者にその情報を回収させ、その情報を握り潰して上層部に届かないようにしていた。
それで国が今の現状で満足して次世代技術の開発に力を入れることが無く、今の体制のまま武器兵器の生産を続けるので、余計な金が他に流れることが無いので旧経営陣は多くの利益を得られ、その一部が懐へと入って行ったそうである。
そして汚職議員よりその諜報部が手に入れた情報を握り潰していたことが発覚し、諜報部の言葉と行動が正しかったことが証明されたのだ。
ともあれ、汚職が摘発されたことで諜報部の濡れ衣が晴れたのは良いのだが、やはりすぐに悪いイメージを払拭することは出来ないので、どうなるかは時間を掛けつつこれからの彼らの働き次第だろう。
「まぁ、これからの諜報部の活躍に期待ね」
と、ミレケネスはそう言うが、声色的にはあんまり期待しているようには見えない。彼女の反応から分かるが、諜報部の体たらくのイメージを払拭するのは容易ではないようだ。
「しかし、陛下も思い切ったことをしたものだ。少なくとも汚職に関わった議員や旧経営陣は証拠を隠滅する暇も無かっただろう」
「そうね。行動自体は陛下らしいといえばらしいけど」
「あぁ。だが、それにしては急な話だったからな」
二人はグラ・ルークスの一連の行動に納得こそしているが、同時に違和感を覚えていた。
皇帝グラルークスの動きがあまりにも唐突であったこともあり、旧経営陣と汚職議員は証拠の隠蔽をする暇も無く全員が捕らえられている。この迅速な行動のお陰で一斉摘発が出来たものであるが、なぜそこまでの行動が出来たのかが疑問なのだ。
「陛下の気まぐれだったんじゃないかしら?」
「だが、気まぐれで動くお方じゃないからな……密告でもあったか?」
「それじゃない? まさか誰かに言われて粛清を行ったわけじゃあるまいし」
「……それもそうか」
違和感は拭えないが、いくら考えた所で答えが出るわけも無く、カイザルはとりあえずそういうことにしておいた。
その後ミレケネスはカイザルの執務室を後にして、自分の執務室へと向かう。
道中士官や佐官とすれ違う度に彼らは彼女に敬礼し、彼女もまた彼らに敬礼を返す。
ミレケネスの様に女性が軍にいること自体は珍しい方と言えば、珍しい方である。というのも、グラ・バルカス帝国では男尊女卑の思想が若干強めにあるので、女性を見下している男性が多く、高い地位だと男性が占める割合が多いので、女性があまり目立たないでいる。
しかし帝国では能力を証明し、実績を積み重ねれば、男であろうと女であろうと、必ずそれに合う見返りもあるし、地位も与えられる。
ミレケネスはその最たる例であり、彼女ほどでは無いにしろ、それなりに高い地位にいる女性軍人は居る。
だが中には、
「ん?」
ふと、廊下を歩いていると、曲がり角の陰から一人の女性が出てくる。
帝国海軍の軍服を身に纏い、銀色の髪を腰まで伸ばし、赤い瞳のツリ目をして、非常に整った顔つきをしており、男女問わずその容姿に目を引く美女である。スタイルもまた整っており、軍服の上からでも一目で分かるぐらいで、出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいるという理想的なものである。
どことなく人間離れしたような容姿の美女であるが、彼女の軍服は少しだけ正規のものと比べると改造が施されており、上着の部分は何ともないが、本来膝ぐらいの長さはあるタイトスカートは膝より上の位置まで丈が短くなって、深くスリットが入っており、本来隠れているはずのガーターストッキングのガーターが見えている。
軍服改造など本来なら規則違反な案件だが、彼女は特例で許されている。
すると女性はミレケネスに気付き、彼女の元へと近づいて敬礼する。
「お久しぶりです、ミレケネス様」
「久しぶりね。最後に会ったのはレイフォルを占領した後だったかしら?」
「はい。その後は関係各所を行ったり来たりしていたので、会う機会がなかったもので」
「あらそう。大変そうね」
「いえ。帝国の為ならば、この程度はどうということはありません」
愛国心溢れる女性の姿勢に、ミレケネスは感心する。
「で、こっちで何か用があるの?」
「はい。カイザル閣下に報告書を持って来ました。『アクシオン』と『アクエリアス』の訓練状況と、5番艦と6番艦の建造状況についてです」
「あぁ、なるほど」
女性に用を聞くと、彼女は脇に抱えている報告書のファイルを見せながらその報告内容を伝えて、ミレケネスは頷く。
グラ・バルカス帝国海軍の最新鋭の戦艦として建造された『グレードアトラスター級戦艦』。この戦艦には驚くべきことに既に四隻が存在しており、更に5番艦、6番艦の建造が進んでいるという。
『アクシオン』と『アクエリアス』はそれぞれ3番艦と4番艦である。
このグレードアトラスター級戦艦は試験的な要素が多い為か、他の戦艦の命名規則から外れているのが特徴的だ。
しかしグラ・バルカス帝国の国力が高いとはいえど、さすがに規模が規模なので、グレードアトラスター級戦艦の就役に伴い、一部の旧式化した戦艦が退役することになったという。
「あぁ、引き留めて悪かったわね。カイザルなら執務室よ」
「そうですか。教えていただき、ありがとうございます」
ミレケネスは謝罪してカイザルの居場所を教えると、女性はお礼を言って一礼し、カイザルが居る執務室へと歩き出す。
「……」
彼女は振り返り、女性の後ろ姿を見つめる。
(それにしても、不思議なものね)
遠ざかる女性の後ろ姿を見ながら、内心呟く。
ミレケネスは事実を聞かされているのだが、未だにその事実が信じ難いのだ。
いや、信じ難いのも無理はないだろう。
人の姿をしているのに――――
――――あれが人間じゃなく、人の姿をした軍艦だと言われても、誰も信じないだろう。
だが、これは紛れもない事実なのだ。
ミレケネスは女性の姿が見えなくなると、踵を返して歩き出す。
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