異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
第百十四話 新たな鉄の獅子と休息
中央歴1640年 5月10日 トラック泊地
戦争中は武器兵器やそれに用いる弾薬の製造や、各種兵器の整備をしていたりと忙しかったトラック泊地であったが、戦争が終わった今ではその慌ただしさは無く、静けさを醸し出している。
しかしドックの方では、戦闘に参加したKAN-SENの軍艦形態の艤装の整備で大忙しで、整備を終えた艦体はドックから出されてすぐに次の艦体を入渠させている。それらの中には、『伊吹』と『摩耶』のように大規模な改造を受けているKAN-SENの艤装もある。
『紀伊』と『尾張』の艤装もドックに軍艦形態で入渠して大半の装備が外されて整備を受けており、両艦共に主砲塔と副砲塔も外されて整備を受けていたが、現在は装備の整備が終わって順に艦体に載せられている。
『大和』と『武蔵』『蒼龍』の艤装は大型ドック空き待ちで港に停泊しているが、その間にも妖精達の手で可能な限り整備を受けている。
他にも建造ドックでは、共和国海軍向けの軍艦が建造されており、シキシマ級戦艦の3番艦と4番艦の建造も間もなく終わって近日竣工予定であり、ヒョウリュウ級航空母艦の後継となる新型の航空母艦の建造も進んでいるという。
その他にも、とある事情でドックが使用予定とあって、受け入れ準備が進んでいるが、それは後ほど明らかになる。
ともあれ、トラック泊地には、久しぶりの日常が訪れたのである。
トラック諸島の秋島
―ッ!!
秋島にある演習場に鋭い轟音が響き渡り、土手に設置された的に大きな穴が開き、その後ろでいくつもの小さな砂煙が上がる。
「凄いな。性能もそうだが、もう新しい戦車を使いこなしているのか」
演習場を見渡せる高台から、双眼鏡で覗き込んでいる
演習場には、数台の戦車が勢いよく走り出しながら主砲を次の目標に向け始める。
「あの二人の指揮下にある精鋭たちなら、造作も無いだろう」
彼の隣で見ている『デューク・オブ・ヨーク』がそういうと、
「それにしても、採用されたばかりでこれだけの数を揃えていたとはな」
「妖精達も陸軍で採用される見込みで作っていたからな。既にトラック泊地の陸戦隊所属の戦車隊の半数が更新されて、残りも順次更新予定だ。もちろん採用後に陸軍へ納入する奴は生産して、第一陣が本土に運ばれている。近い内に機種更新に向けた訓練が始まるだろう」
「仕事が早いのだな」
「早いというより、損得関係無くただ作りたいだけだろうな。物作りが好きな連中だからな」
「……」
二人が話している最中にも、戦車らは走行中に狙いを定め、一斉に主砲から発砲炎と共に轟音が放たれる。
74式戦車と違って直線的なラインが多い戦車であり、大きさはその74式戦車よりも一回り大きい。にもかかわらずその機動性は74式戦車を上回っている。
先の旧パーパルディア皇国との戦争にて、パールネウスの戦いに投入された試作戦車。その試験結果を受けて陸軍関係者の立ち合いの下、採用試験を受けて陸軍の次期主力戦車として採用された主力戦車……『90式戦車』である。
最新の技術を惜しみなく投入された主力戦車であり、その性能は74式戦車を上回っている。
90式戦車の主砲はこれまで砲身内に溝が刻まれたライフリングを持つライフル砲とは違い、ライフリングが無い滑腔砲を採用しており、砲の大きさも74式戦車の105mmから120mmに拡大している。更に自動装填装置を搭載して、砲弾の装填作業を完全自動化している。
砲身には揺れを安定させるスタビライザーが搭載されており、行進間射撃における命中率は74式戦車を大きく上回る。それどころか蛇行走行中でも高い命中率を誇る。
装甲はこれまでの物と違い、様々な硬さと性質を持つ素材を組み合わせた複合装甲を採用しており、その硬さは90式戦車の主砲を近距離から砲塔、車体正面にそれぞれ数発受けても、装甲には損傷が無く、その上自走も出来たとのこと。
足回りも74式戦車と違い、高速走行に適しており、より速く、より安定して走ることが出来る。
しかし74式戦車と違い、油圧式サスペンションの構造が一部簡略化されており、74式戦車では前後左右に車体を傾けることが出来たが、90式戦車では前後のみでしか傾けられなくなっている。
武装は主砲他に、車長側のキューポラハッチに備え付けられたマウントリングに傑作機関銃ブローニングM2重機関銃、主砲の同軸機銃と砲手側のハッチに備え付けられている74式機関銃を持つ。
乗員に関しては、装填作業が自動化されたので装填手が不要になり、車長と砲手、操縦手の3名になる……わけではなく、これまで通り4名で運用される。というのも、試験運用を行っていた妖精達によれば、万が一の事態になった時、3名だけでは苦労する羽目になると報告して、紆余曲折を経て予備要員を含めた4名体制となった。
90式戦車には通常仕様の『一型』と、一型の45口径の主砲を55口径に延長された主砲を持つ火力強化型の『二型』が存在しており、二型に関しては試験的な意味合いがあるので少数生産で留まる予定だが、結果次第では増産も視野に入れている。
まぁ当然と言えば当然な話であるが、90式戦車はその性能ゆえに、74式戦車よりもコストが高い戦車となってしまっているが、メリットの方がデメリットを上回っているので、採用に当たってコスト問題は然したる問題にはならないとのこと。
ちなみにこの90式戦車の開発は新世界に来る前からの旧世界から行われていたが、新機軸の技術を多く投入していたとあって開発は難航しており、その上旧世界ではセイレーンとの戦争で数多の人類が亡くなって技術の衰退が発生し、各国が持つ戦車はどれも三世代ほど後退した代物ばかりで、74式戦車と61式戦車だけでも十分な成果を出せる事実も相まって、開発は積極的に行われていなかった。
しかし以前調査を行ったリーンノウの森にて、太陽神の使者が残した鉄の地竜が大きな転機となった。鉄の地竜こと戦車は損傷していたが、主砲関連と足回りは比較的無事であったので、調査の結果そこから技術を得られたので、その技術が90式戦車の開発に大いに生かされた。
トラック泊地陸戦隊では、所属の戦車隊の半数が90式戦車に更新されており、既に共和国陸軍に納入する第一陣が本土へと運び込まれた。
90式戦車は旧式化しつつある61式戦車の代替を目的にしているので、最終的には61式戦車は全て90式戦車に置き換えられることとなって、一部は教習車として残されるが、それもいつまでとはいかないので、最終的には全ての61式戦車が現役を退くことになる。
退役した61式戦車は、第三国への売却を予定しているが、今のところ買い手は見つかっていない。ムーの方で売り込みをしていたが、最終的にムーは別の戦車を採用している。
「その上、各種兵器の生産も並行して行われている。陸戦隊もそうだが、ロデニウスの軍は一段と強化されるな」
「そうね」
90式戦車が砲撃を行っているのを見ながら
リーンノウの森で見つかった太陽神の使いが残した代物らは、これまでにない物が多く、妖精達は積極的に調査を行い、その多くのコピーに成功している。
そのコピー品で試験を繰り返している中で、『ゲイザー』たちより受け取ったデータを加えたことで、妖精達が満足いく代物が完成した。
90式戦車の採用試験と共に、それらの採用試験も行われて、全て陸軍で採用されて配備が進んでいる。
ちなみに、そのリーンノウの森にあったジェット戦闘機も、妖精達が旧世界の各地で回収していた過去の遺物を用いて一応完全な形で完成して、試験飛行も行われたのだが、妖精達からすれば納得のいく性能ではなかったようで、現在は武器兵器のデータを用いて改良を重ね、妖精達の満足のいく代物にしていくそうである。
その一環で、データにあったジェット戦闘機の開発を妖精達が寝る間を惜しんで行っており、先日そのジェット戦闘機が完成して試験飛行を行っており、共和国軍への採用に向けて動いているという。
「ところで、トチロー」
「何だ?」
「今度の宴には、そなたも出るのか?」
「まぁな。ここ最近働き詰めだったから、たまには休まないとな」
と、
「そういうデューイはどうなんだ?」
「私も参加する。こちらに来てから、こういう宴は中々なかったからな」
「そうか」
「……」
彼が前を向いて、その姿を横目て『デューク・オブ・ヨーク』は一瞥して、彼女も前の方を見る。
所変わって、トラック諸島の春島
「……」
自分の執務室がある建物にある私室にて、『大和』は『天城』に膝枕されて耳かきをしてもらっている。
戦争が終わり、久々の休暇を私室で過ごしていた二人だったが、『大和』が耳を気にしている姿を見て『天城』が耳かきを提案した。特に断る理由が無く、結構耳の中が気になっていたので、彼は『天城』の提案を受けて耳かきをしてもらっている。
「大分お疲れのようですね」
「……分かるか」
「えぇ。総旗艦様の普段の様子から、感じておりました」
「そうか」
耳かきをしている『天城』にそう問われて、『大和』は小さくため息を付く。終戦後、彼は各地を飛び回っていたので、今日の様に満足して休めていなかった。
「……まぁ、柄でもない事をしたんだ。色々疲れた」
「……」
そう答える彼を、『天城』は何も言わずに黙って聞く。
あの処刑時、『大和』のレミールに対する言動は、大半が演技であり、彼の意思が無かった……訳では無いが、進んでやろうとは思っていなかった。柄でもないキャラを演じて疲労を感じたようである。
「いや、それは大したことではないか」
と、彼は自分の右手を顔の前へと上げて、掌を見つめる。
「俺の手は……とうの昔に真っ赤に染まっているんだ。今更一人殺したところで、何も変わらない……」
「……」
『天城』は『大和』の不穏な様子に息を呑むも、意を決して問い掛ける。
「それは……総旗艦様の『カンレキ』でしょうか」
「……あぁ」
『大和』は短く返すと、目を細める。
「俺は、何もしないで、ただ見ているだけだった」
「……」
「戦争を終わらせる為、あの戦いに勝つために……多くの命を生贄に差し出した。その中には国の未来を担うはずだった若者達が多くいた」
「……」
「作戦の内とは言えど……俺達空母を敵機の攻撃から必死に戦う仲間達を……見殺しにした」
淡々と、それでいて重い空気で語る彼の脳裏には、敵艦載機の猛攻を迎撃する仲間たちの姿と、作戦の内とは言えど、敵雷撃機の集中攻撃を受けて轟沈する戦艦の姿が過る。
「そして……俺は弟たちも生贄に捧げたんだ」
ギリっと彼は歯軋りを立てる。
『大和』の『カンレキ』にあるあの戦いで、『武蔵』は目立つ塗装が施されて被害担当艦となり、敵機の攻撃の多くを引き受けて戦没。『蒼龍』は初陣にして敵の目を引く為の囮となり、役目を果たして最終的には敵機の猛攻を受けて戦没した。
『大和』は被害を被ったものの、敵艦載機の攻撃は『武蔵』が引き受けた為、大和型航空母艦の中で唯一の生き残りとなったのだ。
その後は様々な試験の場として運用され、生まれ故郷で記念艦として余生を過ごすはずだった。
しかし新たな戦争が起こると、戦力増強のためにモスボール状態にあった『大和』は近代化改修を受けて現役復帰し、戦争に赴いたのだ。
「俺は……外道だよ。外道だから……命が消えても罪悪感なんて無いんだ」
自分の手を見つめながら呟くと、開いている手を握り締める。
「今更、一人殺したところで……何も……」
「……」
『天城』はただ黙って話を聞きながら、『大和』の耳の中から耳掻きで耳垢を取り除く。
「ですが……貴方は過去を否定せず、受け入れています。本当の外道であれば、過去を受け入れず他人事のように振る舞います。そして命を奪うことに何の抵抗も無くなります」
耳垢を取った後に、『天城』は優しく語り出す。
「だが、俺は今回の戦争で多くの命を奪ったんだぞ」
「それに至るまでに、貴方が思い悩んでいたのは知っています。それこそ、命を軽んじていない証拠です」
「……」
「それに、処刑が終わった後に、貴方が気落ちしているのも知っています」
「……そうか」
そう言われて、『大和』は軽く口角を上げる。
「敵わないな、『天城』には」
「伊達に貴方の傍で常に見ているわけではありませんので」
『天城』はそう言うと、にこやかに笑みを浮かべる。
「そうか。しかしお前と『赤城』とじゃ意味が違って聞こえそうだな、それ」
「あら。あの子だって真面目なんですよ。違う意味に聞こえるはずは無いでしょう」
「そうかな。そうかm…いやないな」
「速攻で言い換えるのは、さすがに酷だと思いますわ」
「あいつの場合違うベクトルで真面目だろ」
『大和』は脳裏に『赤城』の姿を思い浮かべて苦笑いを浮かべる。
「終わりましたわ、総旗艦様」
「ありがとう、『天城』 すっきりしたよ」
耳かきが終わって『天城』が終わりを告げると、『大和』は起き上がりながら彼女にお礼を言う。
「しばらくしてなかったでしょうね。これだけ溜まっていましたわ」
「おぉ……結構取れたな」
『天城』がティッシュに纏めた耳垢を見せて、それを見た『大和』が呟く。小さな山を築いた耳垢の量を見ると、長い間耳掃除をしていなかったのが窺える。
「ここしばらく忙しかったから、自分でする暇が無かったな」
「それでも時間があれば少しでもしておくべきですわ。放っておくとロクな事がありませんので」
「そうだな。これからは、なるべく気を付けるか」
彼女にそう言われて、『大和』は認識を改める。
「ところで、三日後に開催予定の宴会についてですが」
「あぁ。宴会は予定通りに行う。ムーとアルタラス王国のお客さんも来るとのことだからな。予定に変わりはないな?」
「えぇ。両者共に予定通り前日にはこのトラック泊地に来られるそうです」
「そうか」
『天城』の報告を聞いて『大和』は頷く。
旧パーパルディア皇国との戦争が終わり、その戦勝祝いとしてこのトラック泊地で宴会が行われることになった。この宴会には特別にムーとアルタラス王国からゲストが招かれることになっており、ムーからは、彼らと面識があるマイラス、ラッサン、アイリスの三名、アルタラス王国からはルミエス王女と付き添いとしてリルセイドの二名が来るとのこと。
「では、お茶を淹れてきます」
『天城』はそう言って立ち上がり、畳から降りて部屋にある台所へと向かう。
「……」
台所に向かう彼女の姿を見届けて、『大和』は立てかけてる卓袱台を畳の上に置いて座り込み、窓から外の景色を見る。
(命を軽んじていない、か)
窓に広がる青空を見つめながら、彼は内心呟く。
「……」
耳にかかった髪を手で退けると、彼はその手を見る。
レミールを撃った瞬間、とある光景と重なり、様々な光景が脳裏に過る。
すると自身の手が真っ赤に染まる幻覚を見て、『大和』は目を細める。次の瞬間には、赤く染まった自身の手は元に戻る。
「……心身が変わっても、俺が人間であったことに変わりはない、か」
小さな声を漏らし、広げていた手を握り締め、再度外の景色の方へと視線を向ける。
少しして『天城』がお茶を淹れた湯呑と芋羊羹を盛り付けた小皿を載せたお盆を持って来て、二人は水入らずの時間を過ごした。
感想、質問、評価等をお待ちしています。