異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
今年も本作をよろしくお願いします。
中央歴1640年 5月13日 トラック泊地
その日の夜のトラック泊地
春島にある建物。そこの大ホールに、賑わいが生まれていた。
宴会場となっている大ホールでは、多くのKAN-SEN達が片手に飲み物が注がれたグラスを手に会話を弾ませている。その中には
宴会は妖精達も行っているが、さすがに現在の妖精達の数では建物内に入らないので、彼女達は外でBBQみたいな宴会をしているという。
やがて宴会の開始時刻になり、壇上に『大和』が上がって来てKAN-SEN達が注目して静かになる。
「あーテステス……オーケー」とマイクの調子を確認して、『大和』は咳払いをして喉と気持ちを整え、口を開く。
「みんな、揃っているな」
『はい!』と、KAN-SEN達から返事が戻って来て、彼は頷く。
「先の戦いが終わり、みんな無事で何よりだ。ご苦労だった」
KAN-SEN達を見渡しながら、彼は言葉を続ける。
「だが、先の戦いで多くの命が失われた。ロデニウスでも、罪の無い命が奪われ、多くの兵士達が戦死した」
『大和』の言葉に、KAN-SEN達の表情に影が差す。
「だが、ロデニウスとパーパルディア、それはどちらも同じだ。パーパルディア皇国でも、多くの命が失われた。彼らがどれだけの狼藉を働いたにしても、兵士達は国を守る為に、守るべき者の為に戦ったことに変わりはない」
彼はそう言いながらKAN-SEN達を見渡すが……中には『ネルソン』を筆頭に納得いかない様子のKAN-SENの姿もある。
(まぁ、そうだよな。綺麗事を並べた所で、奴らの行動原理は私利私欲だった。そこに美談を挟める余地は無いし、弁護のしようもない)
『大和』自身も今話している内容が矛盾しているのは理解しているし、彼自身本音を言えばこんな綺麗ごとで彼らを弁護したくはない。
(だが、その命が無駄だった、とするわけにはいかない。それに、全員がそうでは無かっただろう。そう願いたい)
彼は自分に言い聞かせるように内心呟き、咳払いをして喉の調子を整える。
「思う所があるだろうが、彼らの犠牲は決して無駄では無い。いや、無駄にするべきじゃない」
KAN-SEN達を一瞥し、『大和』は言葉を続ける。
「今回の戦いで命を落とした者達が、安らかな眠りに就けるように、黙祷を捧げる。黙祷!!」
『大和』は号令と共に目を瞑って俯き、KAN-SEN達も黙祷を捧げる。ゲストたちは事前に死者へ祈りを捧げると伝えられているので、彼らもそれぞれの形で祈りを捧げる。
しばらく黙祷を捧げて、『大和』が顔を上げると、KAN-SEN達も続く。
「以上を以って、話を終わる。今日は無礼講だ。多少ハメを外しても構わないが、ゲストが来ているんだ。迷惑は掛けるなよ」
ゲストたちを一瞥して、『ベルファスト』が盆に載せて持ってきた飲み物が注がれているグラスを手にする。
「先の戦いに勝利し、全員無事に生き残ったことを祝して、乾杯!」
『乾杯!!』と全員が手にしているグラスを掲げる。
『大和』の乾杯の音頭を皮切りに、宴会の賑やかさは増していた。
「総旗艦様ぁ。お酌をしますわぁ」
「総旗艦様。料理を見繕って参りましたわ」
「すまないな」
用意された席に着いた『大和』の両側を、『天城』と『赤城』の二人が陣取ってそれぞれ彼に奉仕している。
「……」
『天城』から渡された皿に盛りつけられた刺身を箸で摘まんで醤油に付けて食べ、『赤城』に注いで貰った御猪口の酒を飲んで、彼は会場を見渡す。
「こうして宴会を開いたのは……いつぶりだろうな」
「そうですわね。こちらに来る……だいぶ前になりますわね」
『大和』が漏らした言葉に、『天城』が思い出して答える。
「転移当初はこのような宴を開く暇がありませんでしたわ。ちょうどその時は『赤城』に総旗艦様との愛の結晶が身籠っていました」
「まぁ、それもあるな」
『赤城』は頬を赤く染めながら当時の事を語っているのを脇目に、彼は会場を見渡す。
(……こうして改めて思うと、本当に色々とあったな)
注がれている酒を飲みながら会場を見渡し、今日に至るまでを思い出す。
「……」
しかし、どことなくその光景に物足りなさを感じてしまう……
「さてと」と、『大和』は御猪口を置いて酒が注がれたグラスを持ったまま席を立つ。
「総旗艦様。どちらへ?」
『赤城』が席を立つ彼に問い掛ける。
「みんなを見て回るんだよ。楽しんでいるかを確かめるために」
「……『赤城』と一緒に過ごすよりも、他の者と過ごす方が良いのですか」
「『赤城』」
と、不機嫌なオーラを醸し出す『赤城』に『天城』が釘をさす。
「これも総旗艦様の務めよ。邪魔をしてはいけません」
「うっ……『天城』姉様」
敬愛する姉から圧を浴びせられ、『赤城』は息を呑んで身を縮こませる。
「すまないな二人共。後で埋め合わせはする」
「お構いなく」
『大和』は二人にそう言って、テーブルを離れる。
「……」
会場の一角で、特戦隊のリーダーを務める『U-666』が酒が注がれたグラスを手に、周囲を見回している。
「せっかくの休暇なんだし、気を張らなくてもいいんじゃない? みんな楽しんでるよ」
と、彼の隣でジュースを飲んでいる『U-47』が『U-666』に声を掛けながら、会場で各々楽しんでいる特戦隊の面々を見る。
戦争が終わって任務を完遂した特戦隊は、補給と報告を行う為にトラック泊地へと帰還していて、英気を養うためにそのまま宴会に参加することになった。
「いつどこで何が起こるか分からん以上、常に警戒は怠れん」
「味方の陣地だよ。そんなに警戒することは」
「だからこそだ。万が一の事があれば、俺達が動かなければならん」
「……」
頑なに姿勢を崩さない自分達の隊長に、『U-47』は小さくため息を付く。
「よっ、666、47」
「……」
と、二人は声を掛けられて彼は声がした方を見ると、『紀伊』がグラス片手に立っていた。
「『紀伊』か。久しぶりだな」
「久しぶり、指揮艦」
「久しぶりだ。最後に会ったのは転移当初か」
「あぁ。それ以降ここには『ビスマルク』と共に報告と補給に戻るぐらいだったからな」
「そうだったな。最近はどうだ?」
「何も変わらん。いつも通りだ」
「そうか」
二人は会話を交わして、会場の方を向く。
「先の戦いは、ご苦労だったな。お前達が居なかったら、作戦の成功は無かったよ」
「それが俺達の役目だ。当然のことをしたまでだ」
「……相変わらずだな」
不愛想な『U-666』に『紀伊』は苦笑いを浮かべ、『U-47』を見ると彼女は肩を竦める。
「それで、特戦隊は変わりないか?」
「無いな。……だが、強いて言うなら、奇妙な報告が挙がっている」
「奇妙な?」
ふと、彼が思い出したようにそう言うと、『紀伊』は怪訝な表情を浮かべる。
「前に特戦隊と海上警備隊と共同で海賊の根城を叩く計画があっただろ」
「あぁあれか。結局パーパルディア皇国との戦争で有耶無耶になってしまったが」
『紀伊』はその制圧計画のことを思い出す。
以前より悩まされていた海賊であったが、その海賊を一掃する為に彼らが根城にしている洞窟に海上警備隊と特戦隊共同による鎮圧作戦を計画していた。
しかしパーパルディア皇国と戦争になったので、計画は一時中断となったのだ。
「戦争が終わった後、計画を立てるための判断材料として、海賊の根城に偵察を送って様子を見させた」
「それで?」
「その海賊の根城が……不可解な状態になっていた」
「……」
『U-666』の言葉に、『紀伊』は目を細める。
「根城には争った形跡に加え、海賊の死体が転がっていた。死体は殆ど腐敗していなかったところを見ると、恐らくつい最近死んだものだと考えられる」
「別の海賊が襲撃を掛けてきたか?」
「俺もそう考えていた。だが、状況が把握するごとに、海賊の仕業ではないのかもしれん」
「と、いうと?」
『U-666』の言葉に、『紀伊』は首を傾げる。
「海賊の死に方が不自然だ。絞殺された死体、重い刃物を叩きつけられて切り裂かれた死体、大きな爪で切り裂かれた死体、鋭い物で身体を貫かれた死体、銃撃を受けた死体。一見すれば海賊同士で争って出来た死体の様に見えるが、どれも一撃が大きい。人間がやったとは思えない程にな。特に絞殺された死体には、粘液が付着していた」
「……」
「それと、根城に蓄えられていたであろう宝も無くなっている。これだけなら海賊が盗んでいったと考えられるが、旧皇国が流した銃と魔導砲が手付かずに残っていた。海賊なら宝はもちろん、強力な武器を残していくとは考えにくい」
「……」
彼の語る不可解な状況に、『紀伊』は静かに唸る。
「まだ根城の調査は続けているが、何か分かれば報告する」
「あぁ、頼む」
『紀伊』が頷きながらそう言うと、『U-666』はグラスを口に付けて水を飲む。
「……せっかくの宴なんだ。多少ハメを外してもいいんじゃないか?」
「俺にはこれで十分だ」
そう言う彼の姿を見て、『U-47』は『紀伊』を見て首を左右に振るう。
「まぁいいや。自分なりに楽しんでくれ」
『紀伊』も諦めた様子でそう言って、二人の下を離れる。
「しかし、凄いですね」
と、マイラスは周囲を見ながら声を漏らすと、隣に立っている『筑後』が口を開く。
「そうですね。皆様が一堂に集まるのは中々無いので」
「あぁ、そうか。そうですよね」
彼女の言葉にマイラスは納得して頷く。
新世界へ転移してから、KAN-SEN達は様々な任務や役目が出来てロデニウス大陸の方へと赴いているので、基本トラック泊地に全員が揃うことはあまりない。
(しかし、話に聞いていたといっても、本当にKAN-SENは女性しかいないんだな。その上全員美人だ。あっいや、『筑後』さんも美人であるのは間違いないんだが)
マイラスはKAN-SEN達を見てそう思うと共に、居心地の悪さも感じていた。
KAN-SENは総じて美形揃いであり、様々な容姿に年齢、スタイルと千差万別の美形揃いだ。その上割合は圧倒的にKAN-SENが締めているので、男身としては居心地が悪く感じるのは致し方ない。
(『大和』殿もこんな環境でよく平然としていられるな。いや、彼もKAN-SENだから、人間と感覚が違うんだろうな。じゃなきゃこんな美人の中で平然としていられないか)
「そういえば、マイラス様」
「あっ、はい」
内心考えていると、『筑後』が声を掛ける。
「ここ最近はいかがですか?」
「そうですね。学ぶことが本当に多くて、時間が足りないですね」
「そうですか。大変ですね」
「えぇ。でも、それでもやらなければなりません」
マイラスは『筑後』にそう言うと、祖国の事を考える。
日に日にムーとグラ・バルカス帝国との緊張感は高まっており、いつ帝国がムーへと侵攻を始めるか予想がつかない状態だ。ロデニウスより齎されたグラ・バルカス帝国の技術力はムーを上回っている。現状で帝国に侵攻されれば、ムーはその侵攻を防ぐことは出来ない。
だからこそ、マイラスを含めた留学生たちは、ロデニウスより多くの事を学んでいる。国もまた、ロデニウスより多くのものを得ている。
「あれ?」
ふと、マイラスはあることに気付く。
「そういえば……あんまり見覚えの無いKAN-SENがいるような」
彼は何人もいるKAN-SENの中に、見覚えの無いKAN-SENが数人ほどいるのを見つける。特徴的な外観を持つので、マイラスは割と把握している。
「それは昨日『紀伊』おじ様がメンタルキューブで新たにKAN-SENの建造を行ったので、それなりの人数が増えているんです」
「そうなのですか(やはり、先日の旧皇国との戦争を機に、戦力の増強を図っているんだな)」
『筑後』より理由を聞き、マイラスは納得する。
「……『筑後』さん」
「はい。なんでしょうか」
マイラスは気持ちを切り替えて、『筑後』に声を掛ける。
「実は『筑後』さんに伝えることがありまして」
「伝える事、ですか?」
「はい。実は―――」
「お姉様!」
「うわっ!?」
と、『筑後』の背後から誰かが抱き着いてきて、彼女はこけそうになるも何とか踏ん張る。
「か、『葛城』さん」
「むふふ」
『筑後』が後ろを見ると、彼女を後ろから抱きしめている少女の姿があった。
赤い瞳を持ち、黒い髪を腰まで伸ばして頭頂部には狐の耳が生えており、尻辺りにはフサフサの九本の尻尾が生えている。胸元が開いた和風の服装をしており、どことなく『赤城』の衣装に酷似している。
彼女の名前は『葛城』 『大和』と『赤城』の間に生まれた第二世代のKAN-SENである。
「? この人は?」
と、『筑後』を抱きしめて彼女の尻尾を堪能していた『葛城』は、マイラスの存在に気付く。
「この前話していたムーから来た留学生のマイラス様です。マイラス様、こちらは妹の『葛城』です」
「『筑後』さんの妹ですか。自分はマイラス・ルクレールと申します」
「ふーん……この人が」
『筑後』が説明してマイラスが自己紹介すると、『葛城』は剣呑な雰囲気を見せて目を細める。
マイラスは彼女の雰囲気を感じ取ってか、身体が硬直する。
「ギャンッ!?」
と、『葛城』は後ろから頭に拳骨が叩き込まれて変な声を上げる。
「客人相手に向ける態度かそれが」
「お、お父様……」
頭にタンコブを作った彼女が後ろを振り向くと、呆れた様子で拳を作っている『大和』の姿があり、彼の姿を見て『葛城』は縮こまる。
「『大和』殿」
「申し訳ありません。うちの娘が失礼を」
「あっ、いいえ。自分は気にしていませんので」
『大和』が頭を下げて謝罪をして、マイラスは戸惑いを見せる。
「ほら、ちゃんと挨拶しろ」
「は、はい……」
ギロリと父親に睨まれて催促され、『葛城』は姿勢を正して気持ちを整える。
「『筑後』お姉さまの妹の『葛城』と申します。お話は伺っています、マイラス様」
『葛城』は自己紹介しつつ綺麗な作法にてお辞儀する。
「あっ、どうも」と、さっきまでの剣呑な雰囲気と打って変わって淑やかな雰囲気に、マイラスは少し戸惑いつつ頭を下げる。
「お前はこっちに来い」
「えっ!? 何でですkアー!! 尻尾引っ張らないでください!!」
と、『大和』は『葛城』の尻尾を掴んで彼女を引っ張って二人の元から離していく。
「……」
「……」
その光景にマイラスと『筑後』は戸惑うしかなかった。
「えぇと……あれって」
「たぶん、お父様なりの気遣いかと」
「あぁ、そうですか」
戸惑いはあるものの、『大和』の気遣いとして二人は気持ちを切り替える。
「あっ、そうだ。『筑後』さん」
「はい」
マイラスは『葛城』の登場で忘れかけていたが、伝えようとしたことを改めて伝える。
「先程の話の続きですが、近い内に本国に帰らないといけなくなりました」
「……お国に、帰られるのですか?」
「えぇ。留学期間はまだあるんですが、本国より帰還命令がありまして。留学レポートの報告もそうですが、私の場合はもしかしたら新型機の開発の為にそのまま残ると思います」
「……そうですか」
もうここには戻れないかもしれないと言われて、『筑後』の表情に影が差す。
ムー本国は留学生、特にマイラス、ラッサン、アイリスの三人にはレポートの報告の為に、帰国命令を出したのだ。特にマイラスには新型の航空機の開発の為に、アイリスには国産戦車の開発の為に、ラッサンは別件で戻されるのだ。
「こんなタイミングで伝えることになって、申し訳ありません」
「いいえ。お気になさらず。でも、寂しくなりますね」
「はい。手紙、出しますので。届くまで時間は掛かりますが」
「それは、仕方ありませんね」
『筑後』は少し寂しげな雰囲気を出すも、微笑みを浮かべる。
ムーではまだネット環境が整っていないので、ネットメールでのやり取りは出来ないし、電話の環境もととのっていないので、必然的に手紙でのやり取りになる。
ロデニウス側が用意した航空便とは言えど、距離が距離なので、手紙が届くまで一週間以上は掛かる。
「でも、ずっと会えないわけではないですよね?」
「えぇ。たぶん、そうだと思います。いえ、いずれ『筑後』さんの元に戻ってきます。それまで、待っていただけますか?」
「マイラスさん……」
『筑後』は一瞬悲しげな雰囲気を出すも、笑みを浮かべる。
「はい。いつまでも、待っています」
彼女はマイラスの手を取って、そう告げる。
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