異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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戦乱の時は近づく……


第十二話 ロウリアの野望

 

 

 

 中央歴1639年 3月25日 ロウリア王国 首都ジンハーク ハーク城

 

 

 ハーク城にある会議室―――というより謁見室に見える―――に、多くの人影が集まっていた。

 

 

 

「陛下。全ての準備が整いました」

 

 跪くロウリア王国軍の総司令官『パタジン』は、玉座に座る現ロウリア王国 国王『ハーク・ロウリア34世』にそう告げる。

 

「皆の者。これまでの準備期間、ある者は厳しい訓練に耐え、ある者は財源確保に寝る間を惜しんで奔走し、またある者は命をかけて敵国の情報を掴んできた。皆大儀であった。亜人―――ロデニウス大陸に蔓延る害獣共を駆逐することは、先々代からの大願である。その大いなる遺志を次ぐ為、諸君らは必死で取り組んでくれた。まずは諸君らの働きに礼を言う」

 

 王は……ハーク・ロウリア34世はゆっくりと深々と頭を下げる。

 

「おぉ……」

 

「なんと恐れ多い」

 

 頭を下げた王の姿に皆は恐縮し、そして感動する。

 

「パタジンよ。二つの国を同時に敵に回して、勝てるのか? これまでの戦略でも、一度に二国を相手にするのだけは、避けるようにしていたはずだが?」

 

 威厳ある壮年の姿をしたハーク・ロウリア34世は、パタジンに問い掛ける。

 

「はっ、確かにこれまではそうでした。しかし、一国は農民しかいない国、もう一国は作物が育たない不毛の地に住まう貧しい者達。その上どちらも人種に劣る亜人が多い国。負ける事は万が一にもございませぬ」

 

「うむ、そうか」

 

 パタジンの答えを聞いてハーク・ロウリア34世は頷く。

 

(これでようやく、先々代からの悲願が達成される……!)

 

 長い時を経て、亜人撲滅とロデニウス大陸統一という悲願が叶えられるとあって、表情こそ少し笑みがこぼれているぐらいだが、内心歓喜に染まっている。

 

 するとそんなハーク・ロウリア34世の気持ちをよそに、後ろに居た黒いローブを着た男性が近づいてくる。

 

「クックックッ、国王様。大陸を統一した暁には、あの約束をお忘れなく」

 

 気味の悪い声でそう告げると、王は振り返って吠える。

 

「言われずとも、分かっておるわ!!」

 

 歓喜にあった所へ水を差されて機嫌を悪くするロウリア34世は正面を向きつつも、黒いローブの男に聞こえないように小さく舌打ちをする。

 

(文明圏外の蛮地だと思って馬鹿にしおって。大陸を統一したら、更に力を付けてフィルアデス大陸にも攻め込んでやるわ)

 

 内心毒づきながらも、気持ちを切り替えてパタジンを見る。

 

「パタジンよ、作戦を説明せよ」

 

「はっ! 説明致します。今回の作戦用総兵力は80万人、本作戦では、クワ・トイネ公国に差し向ける兵力は、40万、残り40万は本土防衛用兵力となります。

 クワ・トイネについては、国境から近い人口10万人の都市、ギムを強襲制圧します。防衛線らしき物は構築されていないようですので、2,3日もあれば制圧出来るでしょう」

 

 説明をするパタジンであったが、若干興奮気味なのか少し喋る速度が早い。

 

「なお、兵站については、あの国はどこもかしこも畑であり、家畜でさえ旨い飯を食べております。ですので必要最小限の量を持ち込み、後は現地調達いたします」

 

 現地調達と聞こえは良いが、ようは略奪である。

 

「ギムを制圧後、クワ・トイネの要塞都市エジェイを制圧します。あそこは要塞化されていますが、我が軍のワイバーン部隊の物量を以ってすれば、およそ三週間で落とせるかと。その後更に進軍し、250kmの位置にあるクワ・トイネの首都を物量をもって一気に制圧します。彼らは我が国のような、町ごと壁で覆うといった城壁を持ちません。せいぜい町の中に建てられた城程度です。籠城されたとしても、包囲するだけで干上がります。奴らの航空兵力は、我が方のワイバーンで数的にも十分対応可能です」

 

 彼は一旦止めて周囲を一瞥してから、説明を再開する。

 

「それと平行して海からは、艦船4500隻の大艦隊にて、北方向を迂回。マイハーク北岸に上陸し、経済都市マイハークを制圧します。なお、食料を完全に輸入に頼っているクイラ王国は、クワ・トイネからの輸出を止めるだけで干上がりますが、クイラ王国にも揚陸軍を載せた500隻の艦隊を差し向けて制圧します」

 

 パタジンは一旦止めて呼吸を整えて、説明を続ける。

 

「次に、クワ・トイネの兵力ですが、多く見積もっても5万人程度しか兵力がなく、即応兵力は1万にも満たないと考えられます。密偵によれば見慣れぬ武器を使っていると言う情報もありますが、今回準備してきた我が方の兵力を一気にぶつければ、どのような策を講じようとも、圧倒的物量の前では意味を成しません。我々の6年間の準備が実を結ぶことでしょう。

 現場に当たっては、陸軍の総指揮はパンドール将軍を、海軍の総指揮はシャークン将軍が取ります。

 説明は以上です」

 

「そうか……ふっふっふ、はっはっはっはあーっはっはっは!!」

 

 パタジンの説明を聞き、ロウリア34世は気を良くして大きな声で笑う。

 

「今宵は我が人生で一番良い日だ!! 余は、クワ・トイネ、クイラに対する戦争を許可する!!」

 

 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!!

 

 ロウリア34世の宣言を受け、会議室は喧噪に包まれた。

 

 

 

 まさか自分達以外に傍聴している者が居るとも知らずに。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(これは一大事でござる)

 

(で、ありますな)

 

 会議室の天井の隙間より、その会議を見ている二つの視線があった。

 

 天井裏に潜む二人は顔を見合わせて頷き合うと、天井の隙間を埋めて、すぐにこの場を離れる。

 

 

 素早く且つ静かにハーク城を脱出した二人ことKAN-SEN『暁』とKAN-SEN『十六夜月』は、艤装を展開してその身体能力を発揮し、建物の屋根と屋根を跳んで伝い、ジンハークの人気の無い場所に向かう。

 

 『暁』は黒い髪をポニーテールにした幼い少女の容姿をして、濃紺と白の少し露出の多い忍者装束を身に纏い、赤黒のマフラーを巻いている。右目には鬼を彷彿とさせる白い面を着けている。

 右手には『長十センチ連装高角砲』を持ち、腰に装着された艤装の左側から四連装の魚雷発射管に長十センチ連装高角砲を持つユニットを伸ばし、左の二の腕に探照灯を付けている。

 

 一方『十六夜月』は全身を黒い忍者装束に包まれており、イメージにある忍者そのものであったが、その顔は黒い狐の面を付けて素顔を隠している。しかし背丈といい、声質から、外見年齢は暁と大差ないのだろう。

 背中に艤装を背負い、左側に『長十センチ連装高角砲』を二基搭載したユニットを持ち、右側には噴進砲と長十センチ連装高角砲を持つユニットを持つ、噴進砲以外は他の秋月型に準じた艤装を持つ。

 

 ちなみに『十六夜月』は『冬月』の弟であり、『名月』の兄でもある、男性型KAN-SENである。

 

 

 『暁』と『十六夜月』は人気の無い場所へ着くと、そこには既に待っている者が居た。

 

「どうでしたか、『暁』殿、『十六夜月』殿」

 

 二人に問い掛けるのは前向きに生えた二本の角が特徴的で、暁のようなニンジャ装束を身に纏い―――本人はクノイチと自称しているが―――赤黒のマフラーをしている少女ことKAN-SEN『黒潮』である。

 

 三人はトラック泊地に所属するKAN-SENだが、情報収集、破壊工作、特殊任務を遂行する忍び部隊だ。彼女達はロウリア王国に潜入して、情報を収集している。

 

「ロウリア王国がクワ・トイネ公国とクイラ王国へ攻め入るのは確定的。ロウリア王国の国王本人の口から戦争容認の発言がありました」

 

「そうですか」

 

 『十六夜月』の報告を聞き、『黒潮』は頷く。

 

 すると別方向から二人の人影が音も無くやって来る。

 

「『霧島』殿、『黄昏月』殿。そちらはどうでしたか?」

 

「軍が一斉に動き出している。海の方はまだ時間が掛かるだろうけど、陸は事前に用意していたようだ。もう多くが出発している」

 

「……」コクッ

 

 『霧島』と呼ばれる女性は『黒潮』の質問に答え、隣に立つ『黄昏月』と呼ばれる少年は頷く。

 

 栗色の髪を肩に掛かるぐらいに伸ばし、黒い角が生えている。右目には傷が入っているように見えるが、よく見るとただ線を描いているだけである。

 口元をマスクで覆い、忍者装束を身に纏ったクノイチを彷彿とさせる格好をしている。

 腰には艦首を縦に割った形状の艤装を自身を挟む形で前に出し、その上に45口径35cm連装砲を四基八門搭載している。

 

 金剛型戦艦四番艦『霧島』 彼女もまたKAN-SENであり、他の三人が駆逐艦であるが、彼女は巡洋戦艦である為、四人の中では一際目立つ。

 

 ちなみに『霧島』は三人と違って根っからの忍びではなく、ただコスプレをしたなんちゃって忍者なのだが、その姿勢が根っこからの忍者気質の『十六夜月』と彼女の隣に立つ『黄昏月』の怒りを買い、『暁』と『黒潮』と共に『霧島』に忍びとしてのイロハを徹底的に叩き込んで、忍びとしての訓練を施したそうだ。

 そのお陰もあって、今では『霧島』も立派な忍び部隊の一員となっており、身に纏っている忍者装束も以前より暗い色に変わっている。

 

『霧島』の隣に立つ少年は『十六夜月』同様黒い忍者装束を身に纏い、顔を覆うように『十六夜月』とは模様が異なる黒い狐の面を付けている。

 首には黒いマフラーを巻き、後ろの方に流している。腰には手裏剣を収めているホルダーをいくつも持ち、腰の後ろには鞘に収められた短刀が納められている。そして『十六夜月』と同様の艤装を持っている。

 

 彼の名前は『黄昏月』。『冬月』と『名月』、『十六夜月』と姉妹(きょうだい)艦のKAN-SENであり、冬月兄弟の末っ子である。

 

 

「分かりました。『十六夜月』殿。主様に連絡を」

 

「ハッ」

 

 『黒潮』の指示を聞き、『十六夜月』は物陰に隠している携帯式連絡機を取り出すと、電鍵をリズムよく叩いてモールス信号を送る。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 トラック諸島 トラック泊地

 

 

「総旗艦。ロウリア王国に潜入中の『十六夜月』より入電です」

 

 と、執務室にKAN-SEN『Z23』が電文を持って入室する。

 

 執務室には『大和』の他に『天城』、『紀伊』、『ビスマルク』の姿があり、一斉に『Z23』を見る。

 

「内容は?」

 

「『ロウリア、クワ・トイネ、クイラへの侵攻確定的』です」

 

「……そうか」

 

 『ビスマルク』が問い掛けて彼女が報告すると、『大和』は深くため息を付く。

 

「ご苦労だった。直ちにクワ・トイネ公国及びクイラ王国に連絡を。その後は引き続き向こうからの連絡を待て」

 

「Jawohl.」

 

 『大和』の指示を聞いた『Z23』は敬礼をして、執務室を後にする。

 

「必ずロウリアが攻めてくるとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとは」

 

 『紀伊』は苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。

 

「まぁ、不幸中の幸いとして国境線付近の町と村々の疎開がほぼ終えているという事か」

 

 『大和』は安堵に近い感情を抱いて息を吐く。

 

 クワ・トイネ公国のカナタ首相はトラック泊地より齎された情報から、二週間前から国境線に近い町や村々に疎開命令を下し、民間人を避難させていた。

 疎開した民間人はエジェイを含めた都市に避難しているので、国境線付近の町と村々は完全にもぬけの殻になっている。少なくともロウリア王国が電撃的侵攻を行ったとしても、国境線付近での民間人の被害は無いと言ってもいい。

 

 ギムにはまだ防衛を担っている西方騎士団が残り、ロウリア王国の動きを見張りつつ『置き土産』の設置をしている。

 

「ロウリアの連中。どう来ると思う?」

 

「そうだな」

 

「……」

 

「……」

 

 『大和』と『紀伊』、『天城』、『ビスマルク』の四人はロデニウス大陸の地図を見る。

 

「まず陸は橋頭堡を確保する為にギムを落としに掛かるだろう。その後エジェイに侵攻して制圧。そして公都を叩くといった所か」

 

 『ビスマルク』は地図に書かれているギムに指差して、そこからエジェイへと指先を動かし、最後に公都へ指を止める。

 

「海はマイハークを目指すって所か」

 

「マイハークを制圧すれば、クワ・トイネ公国は海軍と制海権を失い、クイラ王国も実質的に制海権を失います」

 

「そのクイラ王国にも戦力を送って、確実に仕留めるつもりか」

 

「物量を持ってしての電撃侵攻か」

 

「ごり押しにも程があるぞ」

 

「それだけ物量に自信があるという事です」

 

 四人はそれぞれの意見を口にする。

 

「にしても、今まで挑発しかしていないような連中が、なぜ今になって攻める気になったんだ?」

 

「侵攻するのに不安が無い所まで戦力が揃ったのだろう。でなければ行動を起こすことは無い」

 

「まぁそうなんだろうが……解せんな」

 

 『ビスマルク』の予想を聞いて『紀伊』は腕を組み、何か引っ掛かったような言い方をする。

 

「……」

 

 と、『天城』は地図を見ながら顎に手を当てて思案している。

 

「何か引っ掛かるのか、『天城』?」

 

「はい。総旗艦様」

 

 『天城』の様子に気付き『大和』が声を掛けると、彼女は地図を見ながら意見を述べる。

 

「これだけの狭い大陸で、それほどの戦力を揃えられるでしょうか」

 

「大陸の半分近くを牛耳っている国だぞ? 時間は掛かるだろうが、揃えられるんじゃないのか?」

 

「それならば、もっと早い段階で侵攻を行えたでしょう。それも我々がこの世界に転移するずっと前にも。なぜ今日まで、攻め入る決心をしなかったのでしょうか」

 

「……」

 

 そりゃそうか、というような感じで『紀伊』は地図を見る。

 

「『ビスマルク』さん。確か特戦の報告によれば、ロウリア王国の港に外来船が何度も出入りしていましたよね?」

 

「あぁ。ロウリア王国の北と東の港に多くの外来船が出入りしては、多くの物資を運び込んでいた様だ」

 

 『天城』の問いに『ビスマルク』は最近自身の下に入った報告を彼女に伝える。

 

「ロウリア単独で戦力を揃えた訳ではなく、第三国がロウリアに対して軍事援助を行っているって事か?」

 

「確証はありませんが、可能性としてはあるかと」

 

「ふむ」

 

 『天城』の意見を聞いて、『大和』は腕を組む。

 

(もしかしたら、その第三国が今回の戦争に介入する可能性もあるということか)

 

 内心そう呟くも、彼はそれ以上深く考えないようにした。

 

 今それを考えたところで、答えは出ないのだ。

 

(どちらにしても、今は目の前の問題を解決するのが先決か)

 

 

「まぁ、今回の一件に第三国が関わっている云々はとりあえず今は棚上げにしてだ」

 

 『大和』は頭を切り替えて、三人を見る。

 

「ロウリア王国との戦争は避けては通れなくなった。近い内にクワ・トイネより援軍要請があるだろう。『紀伊』、『ビスマルク』」

 

「おう」

 

「あぁ」

 

「艦隊の編成を頼む。選抜は二人に任せる」

 

「分かった」

 

「『天城』は陸戦隊関係者及びKAN-SEN達を大講堂に集合させてくれ」

 

「分かりました」

 

 『紀伊』と『ビスマルク』は執務室を出て、『天城』は机に置かれている電話の受話器を手にして、放送を掛けて島中に居るKAN-SEN達に集合を掛ける。

 

(異世界に来て、初の戦闘か……)

 

 『大和』は椅子の背もたれにもたれかかり、目を細めて息を吐く。

 

(やはり兵器としての宿命……。争い事からは切っても切れない、という事なのか)

 

 『大和』は一瞬気が沈みそうになるも、気持ちを切り替える。

 

(まぁ、戦争が起こるのは分かっていた事だ。だからこそ、備えてきたんだ)

 

 決意を表すように、彼は制帽を被り直して席を立ち上がり、『天城』と共に執務室を後にする。

 

 

 




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