異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
宴会場を出て『江風』に連れられ、『冬月』は浜辺付近へと着く。
「この先で『長門』様がお待ちになっている。ここからは貴様一人で行け」
「は、はい」
彼女は振り向いてそう言うと、『冬月』は戸惑った様子で頷き、浜辺を見る。
「『江風』さんは、『長門』様から何か聞いていますか?」
「私は何も聞いていない。ただ、貴様をここに連れて来いと言われただけだ」
「そうですか」
『江風』がそう答えると、『冬月』は浜辺に向かって歩き出す。
「『冬月』」
と、浜辺に向かって歩き出す彼を『江風』が呼び止める。
「くれぐれも、『長門』様を失望させるなよ」
「は、はい」
殺気を含む視線を『江風』から向けられた『冬月』は息を呑むも、頷く。
『江風』に見送られて『冬月』は浜辺へと向かう。
「……」
『冬月』の視線の先には、後ろ姿の『長門』が海を見つめており、彼の足音に気付いてか、彼女は後ろを振り向く。
「来たか、『冬月』」
『長門』は振り返って『冬月』と向き合う。
「『長門』様。ここで一体何を?」
「少し、気分を変えにな。久しぶりの宴とあって、少し疲れたのだ」
「そうですか」
『冬月』は『長門』が疲れた様子から、宴会場で何があったのかを察する。
「それで、『長門』様。ご用件があるとのことですが、一体?」
「……」
と、彼がそう問いかけると、『長門』は少し動揺したような様子を見せるが、その後に後ろを向く。
「『冬月』……」
「はい」
「今日に至るまで、長い月日が流れたな」
「……そうですね」
後ろを向いたまま彼女がそう口にすると、『冬月』は疑問を挟まず肯定する。
「その間に、色々とあったな」
「はい」
「……といっても、総旗艦に『紀伊』関連の出来事も、多かったな」
「えぇ、まぁ」
『冬月』は複雑そうな表情を浮かべる。
彼の反応を見るに、旧世界では『大和』と『紀伊』関連の出来事が多かったようである。
「……余は、色んな戦いを見てきた」
「……」
「その多くの戦いで、余は生き残り、多くの仲間たちが沈んでいった。それを、余は何度も……何度も……」
『長門』は感情を抑えるかのように、右手を拳にして握り締めて震わせる。
KAN-SENは旧世界とは異なる世界線で起きた『大戦』と呼ばれる戦争時の艦船の記憶を持つ。それが所謂『カンレキ』である。トラック泊地のKAN-SENの多くは『大和』と『紀伊』がいたそれぞれの世界線の『大戦』の『カンレキ』を持つ。
『長門』もその異なる『カンレキ』持ちなのだが、彼女の場合は極めて特殊な例であり、『大和』と『紀伊』が居た世界線の『大戦』の『カンレキ』はそうだが、彼女はそれ以外の様々な世界線の『大戦』の『カンレキ』を有している。
それ故に、彼女は他のKAN-SENよりも多くの戦争を見てきたのだ。
「……話が逸れたな」
と、感情を抑えて彼女は咳払いをして、話を続ける。
「この世界に来てからは、余達が危機に陥る場面は、あまりなかった」
「……」
「だから、だろうな。余にも、どこか慢心していたのだろうな。誰も、危険に陥ることは無い、と」
「……」
「だが、フェン王国での一件で、それが間違っていたのを目の当たりにした」
『長門』は再び『冬月』の方へと向き直る。その眼には、薄っすらと涙が浮かんでいる。
「『冬月』。本当に、本当に……心配したんだぞ」
「……申し訳ありません」
悲しげな表情を浮かべる『長門』の姿に、『冬月』は謝罪する。
「……」
すると、『長門』はどこか落ち着きのないように目が泳ぎ、両手を組んだり離したりしている。
『冬月』はそんな彼女の様子を怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。
「だ、だから……余は、後悔が無いように……生きたいのだ」
「そ、そうですか…‥」
薄暗い中でも分かるぐらいに、『長門』の頬は赤くなっており、彼女の尻尾はさっきから左右に大きく揺れている。そんな彼女の姿に『冬月』は戸惑いを見せる。
「え、えぇと、その……だから、余は……」
「……」
「っ!! 『冬月』!!」
「は、はいっ!?」
モジモジしていた『長門』が突然大きな声を上げて、『冬月』は驚いて耳と尻尾がピンと立ち上がり、思わず姿勢を正す。
「こ、これから余と……いや、私とこれからの生を―――――
―――――は、は、伴侶として共にっ!! 過ごしと欲しいの!!」
頬を赤く染めた『長門』は右手を『冬月』へと差し出し、素を曝け出して宣言した。
要は逆プロポーズである。
「……あ、え、えぇと?」
『長門』から告白を受けた『冬月』は、あまりにも衝撃的な告白だったせいか、遅れて反応して戸惑いを隠せない様子で何度も瞬きをしている。
「っ~!!」
告白した彼女は顔を真っ赤にして、右手を差し出したまま『冬月』の返事を待っている。
「……ほ、本気、なんですか?」
「本気じゃなかったら……ここまで言うはずがないよ。そもそも、す、好きでも無かったら、こんなことは、言わない」
『冬月』が未だ戸惑いを見せる中で問い掛けると、『長門』は恥ずかしさを見せながらも、自分の意思を伝える。
「ふ、『冬月』は、私の事が……嫌い?」
『長門』は恐る恐る『冬月』に問い掛ける。その表情は不安に染まっており、目に涙を浮かべている。
「い、いえ!! そんなことは!?」
『冬月』は慌てて否定し、数回深呼吸をして気持ちを整える。
「……その、なんというか……突然のことで、自分も気持ちの整理が、付かなくて」
「……」
「ただ、何て言うか……その」
気持ちの整理がつかないのと、彼自身の中にある認識が言葉を詰まらせている。自分と『長門』の間にある身分の差。その認識が、彼の中でせめぎ合っている。
「……」
すると『長門』は未だ決めきれない『冬月』に業を煮やしてか、ゆっくり歩みを進める。未だに答えを決めかねて視線が逸れている『冬月』は彼女の接近に気付かない。
「な、『長門』様も気持ちは身に余る光栄なんですが、自分とは―――」
『冬月』は意を決して前を向くと、それと同時に『長門』が彼に身体を密着させる。
「!?!?!?」
突然の出来事に、『冬月』は顔を真っ赤にして驚き、とっさに後ろに下がろうとするが、『長門』は逃さないと言わんばかりに彼の背中に腕を回して、強く抱きしめる。
「わ、私に、ここまでさせているんだぞ。お、男なら、ウジウジしないで、ハッキリとしたらどうだ」
顔を真っ赤にして、身体を密着させていることで『冬月』の心臓の鼓動を自身の身体で感じながら、『長門』は彼に正直に答えるように命じる。
「―――」
ただ、当の本人は顔を真っ赤にして口を陸に上げられた魚の様にパクパクと開閉することしかできず、そんな余裕が無いようであった。
「なーるほどなるほど」
「……」
と、盛り上がった浜辺の陰で、どこか楽しげな様子で『紀伊』が声を漏らし、その傍で『江風』が静かに見つめている。
二人の視線の先には、『長門』に抱き締められて硬直している『冬月』の姿があった。ちょうど二人は盛り上がった砂浜の陰に隠れているので、『長門』からは二人の姿が見えない。
それ以前に、『長門』が『冬月』の胸元に顔を埋めているので、そもそも『冬月』の後方は見えていないのだが。
「あいつ、随分と大胆になったじゃないか。そうは思わないか?」
「……」
『紀伊』が『江風』に声を掛けると、彼女は視線を逸らす。
(ここまでやられたら、断るわけにはいかんよな)
大胆になった『長門』の姿に感慨深く思いながら、内心呟く。
「それで、お前的にはどうなんだ、『江風』?」
「……」
『紀伊』に問い掛けられた『江風』は、しばらく沈黙した後に、口を開く。
「……全ては『長門』様がお決めになったことだ。私がとやかく言う資格は無い」
「……そうか」
『江風』の答えに、『紀伊』はそれ以上は言わず、短く返した。彼女の視線が、どこか羨ましくも、妬ましい感情を孕んでいることを、指摘せずに……
(さて、どうなることやら)
『紀伊』は内心呟き、二人の様子を見つつ宴会場での状況を思い出す。
(『天城』のやつが『加賀』と『土佐』に何か吹き込んでいたし、『蒼龍』も『飛龍』と一緒に宴会場を後にしていたが、まさかベタな展開があるわけないだろうな)
どこか期待感を抱きながら、少しだけ口角を緩める。
「――――」
「ん?」
ふと、小さく声が聞こえて顔を上げる。どうやら『江風』もその小さい声に気付いたようで、顔を上げている。
「今、声がしたよな」
「あぁ。あっちの茂みから聞こえた」
「誰かいるのか?」
二人はこっそり『冬月』と『長門』の二人にバレないように動き、向かい側にある茂みの方へと向かう。
『……』
静かに茂みに近づき、その奥を覗き込む。
「おぉ何て尊いんだこれぞ正に芸術これほどに美しいものは無い実に最高だぁこれが駆逐艦同士だったら最高だったがこれは文句言えない光景いやこれはこれでありだあぁ青き果実が赤く染まるのがこれほどまでに美しいとはオッホー」
茂みに隠れてうつ伏せになり、大きなレンズを付けているカメラを構え、鼻血と涎を垂らしながら撮影している『アーク・ロイヤル』の姿があった。ご丁寧にカメラはシャッター音が外に漏れないように細工されているという徹底ぶりだ。
撮影している被写体は、『長門』と『冬月』の二人なのは間違いない。
「……あっ」
『……』
やがて視線に気づいてか『アーク・ロイヤル』は頭だけ右を向くと、ゴミを見るような目で彼女を見下ろす『紀伊』と『江風』を発見する。
『……』
両者の間に沈黙が流れると、『アーク・ロイヤル』は鼻血と涎を拭うと、至極真面目な表情を浮かべる。
「指揮艦殿。これには深い理由がありまして。決してやましい考えがあっての行動では無く―――」
「言い残すことはそれでいいのか?」
「ゑ?」
言い訳を言おうとしする『アーク・ロイヤル』だったが、腕を組んでいる『紀伊』がそう言うと、彼女は怪訝な表情を浮かべる。
その彼女の背後には、いつの間にか移動した『江風』が、害虫を見るかのような視線を向けながら腰に佩いている刀を鞘から抜こうとしていた。
『……』
『長門』は顔を真っ赤にして抱きしめたまま固まり、『冬月』はどうすることも出来ず、ただただじっとすることしかできなかった。
(あぁ!! やっちゃった、勢い余ってやっちゃった!?)
『長門』は内心慌てふためいており、これ以上どうするか悩んでいた。どうやら突発的な行動だったようである。行動を起こしたはいいが、冷静になってみるとそれ以上の事なんか全く考えていなかったので、彼女はどうすることも出来なかった。
(どど、どうしよう……)
彼女は内心焦りを見せ、別の意味で恐怖を抱いて身体を震わせる。
「え、えぇと、『長門』、様?」
「っ!」
『冬月』に声を掛けられて、『長門』は顔を胸元に埋めたまま身体を震わせる。
「えぇと、その……」
「……」
「すまぬ」
「えっ?」
「こんな、はしたない方法を取ってでも、余の気持ちを伝えようとするなんて」
「……」
「こんなはずじゃ、なかったのに……」
彼女は声を震わせて、後悔の念が声からでも漏れていた。
「でも、聞かせて欲しいの。あなたの、気持ちを。あなたの……本音を」
「……」
『長門』は涙を浮かべ、不安に染まった表情を浮かべて上目遣いで『冬月』を見る。
「……」
『冬月』は目が泳いで動揺した様子を見せるが、意を決して口を開く。
「……正直に、言ってはいけないと、こんな感情を抱いちゃいけないと、そう思っていました」
「……」
「でも、正直に答えて良いのなら……自分は……」
「……」
「……自分は、『長門』様のことを……お慕い申しています」
「っ!」
頬を赤く染めて、『冬月』は自分の気持ちを『長門』に伝えると、彼女は目を見開く。
お互いに気持ちを伝え合い、その気持ちを理解し、二人はしばらく見つめ合う。
その傍で変態がシバかれていたせいで、色々と台無しだったが、当の本人たちが気づいていないので問題無しである。
「ほ、本当に?」
「はい」
『長門』が問い掛けると、『冬月』は頷く。
「……良かったぁ」
彼女は安心してか、涙を流しながらも、笑顔を浮かべる。
「その、申し訳ありません。自分が、不甲斐ないばかりに」
「いいよ。私も、ちょっと意地になっていたし」
謝罪する『冬月』に、いつもの口調が崩れた『長門』が答える。
「なら、もう『長門』様とかの他人行儀で言う必要は無い。呼び捨てで良いぞ」
「えぇっ!? 呼び捨て!?」
『長門』の提案に、『冬月』は今日一番の驚きを見せる。
「当たり前では無いか。余とお前は対等の立場。他人行儀はおかしいでは無いか」
「いや、そうかもしれませんが」
『冬月』はしどろもどろな様子で視線を揺らす。
今まで様付けで呼んでいたのに、急に呼び捨てするとなると、戸惑うのは当然と言える。ましても、自分よりも身分が上なら尚更のこと。
「さぁ、呼んでくれ。余の名前を」
「うぅ……」
期待の眼差しを向ける『長門』に『冬月』は戸惑いを見せるも、意を決して口を開く。
「な、『長門』……」
「うん。もう一度」
「…‥『長門」
「うん!」
言葉詰まり気味だったが、それでも名前を呼ばれて『長門』は笑みを浮かべて、『冬月』を抱き締める。
『冬月』は一瞬戸惑うも、ぎこちない動きで彼女の背中に腕を回して、抱き締め返す。
「向こうは終わったみたいだな」
『紀伊』は浜辺の二人の様子を見て、無事に終わったのを確認する。
「それで、この不届き者はどうする?」
『江風』は刀の刃を見て異常が無いのを確認し、鞘に納めながら問い掛ける。
「
二人の傍には、気を失って既視感あるポーズで倒れているボロボロの『アーク・ロイヤル』の姿があった。
「『妙高』達に連絡を入れて来てもらう。途中まで俺が連れて行って、合流後は彼女らに連れて行ってもらう。その後は『大和』に任せる」
「そうか」
と、『江風』は『アーク・ロイヤル』のカメラから抜き取ったSDメモリーカードを手の平に載せて一瞥すると、そのまま握り潰した。恐らく中には『アーク・ロイヤル』の余罪の数々が入っていたのだろう。
(全く。こいつの情熱には呆れるよ。何度もシバかれているのに、全く諦めずにさ)
『紀伊』は倒れている『アーク・ロイヤル』を見て、内心呆れる。
こう見えても、彼女はトラック泊地のKAN-SENの中では古参勢に入る。彼女の性格はその頃から変わっておらず、所業がばれたらその度に『大和』や『紀伊』にシバかれている。しかし何度シバかれても、全く止める気配すらないという。
(その情熱を他に回せればどれだけいいやら)
彼は彼女の変な所で強いその情熱に、逆に感心するのだった。
(そういやこいつ、さっき宴会場に居たよな?)
ふと、『紀伊』は宴会場に彼女の姿があったのを思い出す。
宴会場からここまでは結構距離がある。後から付いて来たにしてはやけに早い到着である。
(あそこからここに素早く来たっていうのか? だとすれば、執念深いことだな)
『紀伊』は呆れた様子でため息を付く。ここまで来ると一周回って尊敬するレベルである。
「さてと、お邪魔虫はここで退散と行こう。後は二人だけの時間だ」
「……あぁ」
『紀伊』はそう言いながら『アーク・ロイヤル』を肩に担ぎ上げ、『江風』と共にその場を後にする。
春の訪れは、近いようである。
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