異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
ロデニウス連邦共和国と旧パーパルディア皇国との戦争が終わり、このフィルアデス大陸は五つの大きく変化を迎えていた。
一つはフィルアデス大陸を実質支配していた旧パーパルディア皇国が解体されたことである。この発表は旧パーパルディア皇国の脅威に怯えていた国々は、皇国から攻め込まれる危険が無くなったとあって、全員が安堵し、喜びを見せた。
しかし同時に一番の脅威であったパーパルディア皇国がいなくなったことで、フィルアデス大陸の情勢が不安定になることへの不安が新たに生まれることになった。事実、その情勢の不安定に付け込もうとした輩がいた。
二つ目はクーデターにより、臨時的に国家元首となったカイオスの宣言により旧皇国は解体され、新たに『パスティア共和国』が建国された。
旧パールネウス周辺の領土はロデニウス連邦共和国に譲渡されたので、共和国の領土はエストシラントからデュロまでの範囲と以前よりもかなり狭まっている。内陸部の領土が失われたので、パスティア共和国は沿岸国となったのだ。
三つ目はその旧パールネウス周辺の領土がロデニウス連邦共和国へ譲渡され、海外領土として得た事である。ロデニウスはフィルアデス大陸で活動する拠点を手に入れたのだ。
だが、この海外領土を得る理由がロデニウス、というよりトラック泊地にあったのだが、それは後ほど語られる。
四つ目はパスティア共和国とロデニウス連邦共和国の間で安全保障条約が結ばれたことである。
これによりパスティア共和国に手を出そうとしようものなら、ロデニウス連邦共和国が即座に参戦してくることになる。海外領土から戦力を出すので、即座に対応出来るのだ。
五つ目は独立した旧皇国の元属領73ヵ国が同盟を組み、どの国もロデニウス連邦共和国とパスティア共和国と同様に安全保障条約を結んだことである。これで事実上フィルアデス大陸の治安はロデニウス連邦共和国によって守られているようなものである。
この事を聞いた某国は弱まった国を攻めて自国の領土にしようと画策していただけに、歯噛みして悔しがったそうな。
他にも水面下である計画が進んでいるが、それは後々明らかになる。
ともあれ、フィルアデス大陸は新たな歴史が始まろうとしていた。
中央歴1640年 5月28日 パスティア共和国 首都エストシラント
先の戦争で大きな傷跡を残したエストシラントだったが、ロデニウスの支援もあって復興は順調に進み、市民たちの顔にも徐々に笑顔が戻りつつあった。
エストシラントで大きな変化があったとすれば、旧皇都の象徴と言えたパラディス城が現在解体されていることであろう。今となっては必要ない城もであるし、何より旧皇国時代を象徴する場所であるので、ロデニウスの方針で解体が決定し、その解体時に出た資材は復興に用いられている。
パラディス城の解体を終えた後は、跡地に慰霊碑と旧皇国時代を限定的に伝える資料館が建設予定となっている。
徹底的に破壊された港もすっかり元通りになり、漁業関係の船や商人の帆船が港を行き来している。
「ここまで元に戻るものなのね」
港の一角で、一人の女性が先の戦争の被害を思わせない港の光景を見つめながら声を漏らす。
かつて存在したエストシラント防衛基地にて勤務していた魔信技術者のパイ。空襲によるショックと負傷で一時期精神崩壊状態にあったが、現在では何とか立ち直って新たな職に就いている。
しかし空襲時に大怪我を負っていたのか、彼女の顔には大きな傷が刻まれており、足元に不安があるのか、右手には杖が握られて身体を支えている。
(かつての祖国じゃ、ここまで戻すことは出来なかったわね)
戦争前とほとんど変わりないぐらいまでに戻った港の光景に、彼女は声を漏らす。
かつての祖国では未だに瓦礫の片づけ作業の真っ最中だろうし、何よりここまで元通りに戻すことも出来なかっただろう。
そう考えると、かつての祖国とロデニウス連邦共和国の間にある国力の差を改めて実感する。
「この国は……どうなるのかしら」
もうパーパルディア皇国は、かつての栄光は存在しない。彼女は新しくなった港を生まれ変わった祖国と重ね合わせ、これからの未来に不安を覚える。
「……ううん!! 弱気になってはダメ!! 私達がこの国を支えなきゃダメなんだから!!」
と、パイは弱気になっていた自分にハッとして首を強く左右に振って、両手で頬を叩いて気持ちを切り替える。
何はともあれ、生き残った自分達に出来るのは、再出発したこの国を支えていくことだけだ。
パイは気持ちを改め、未来に向けて歩き出す決意を抱く。
「良い事を言うじゃないか」
と、後ろから声を掛けられてパイが振り向くと、海軍の軍服を身に纏う男性が立っていた。
「シルガイア長官!」
パイは杖を左手に持ち替えてふらつきながらも姿勢を正して敬礼する。
「長官か。ハハッ、どうも慣れないな。それに、無理して敬礼しなくていいよ」
シルガイアは苦笑いを浮かべて頭の後ろを掻き、ふらつく彼女に敬礼を止めさせる。
動員兵であった彼はあの戦いで生き残った。戦争が終わり、国が新たに変わった際に、壊滅した海軍の再建にあたって人員確保が急務だった。動員された兵士達は任意で残留か除隊かを選ばされ、多くが除隊したが、シルガイアを含んだ少数は軍に残った。
その中でシルガイアは旧皇国海軍のバルス司令の同期であることが判明し、カイオスは半ば強引であったが、彼を再建した海軍の長官に任命した。
「君の言う通りだよ」
「……」
シルガイアはパイの隣に立ち、復興しつつある港の光景を見渡す。
「私達はあの戦争を生き残った。本来なら殲滅戦を宣言しているから、逆にロデニウスに滅ぼされてもおかしくなかった」
「……」
「でも、私達は滅ぼされること無く、支配されること無く、独立を維持して生き残ることが出来た。生き残った者が出来るのは、この国の未来を支えていくことだけだ」
「……はい!」
シルガイアの言葉に、パイが声を出して頷く。
「さてと、これからが大変だぞ。私も足手纏いと言われないように頑張らないとな」
「なら、私も頑張らないといけませんね」
二人はそう話しながら港を後にして、プレハブ小屋の臨時司令部に向かう。
現在パスティア共和国は財政難であると共に慢性的な人手不足にある。その為建物を新しく建てる余裕が無いので、既存の建物が流用されている。
「……」
元第二外務局の建物だった場所は、現在パスティア共和国の外務省の建物であり、その一室でエルトは執務に勤しんでいた。
(こうしうて以前と同じ役職で働いているとは。世の中どう転ぶか分からないわね)
彼女は内心呟くと、作業に一区切りつけてから手を休め、ため息を付いて机に置いているコップを持ってアイスコーヒーを飲む。
パスティア共和国の行政は旧皇国時代から人員は殆ど一新されているが、中にはエルトやアルデの様に以前の役職を継続して就いている者も居る。
というのも、共和国は慢性的な人員不足とあって、人員の全てを一新するわけにもいかず、性格面を考慮して一部の役職は旧皇国時代からの人間を継続して就かせている。エルトもその一人であるが、彼女の場合は優秀さもあって役職継続をしている感はある。実際彼女は外交にて他国との国交開設に尽力し、ロデニウスの協力があるとは言えど、現在までに十ヵ国以上の国と国交を結ぶことが出来ている。
しかし一新された環境下では、こういう旧皇国時代の人間は居心地が悪いようで、新たに役職に就いた人間から仇を見るような視線に晒されている。特にアルデはさっさと楽になりたかったのか、戦争犯罪者として処分されたかったそうだ。しかし彼より能力があり、ロデニウスの力を身を以って思い知っている人間が居なかったので、仕方ないのだが。
(これも、罪滅ぼしの一環なのかしら)
これが自身に課せられた、これまで行ってきた罪の償いだと、エルトは思い始める。
(まぁいいわ。仕事を与えられたのなら、その仕事を全うするだけ。その点は今までと変わらないわ。多少考えが変わるだけで)
エルトはそう思いながら、再び作業を始める。
所変わり、元第一外務局の建物。現在ここはパスティア共和国の政治の中枢として使われている。
(予想していたことだが、ここまで酷いものとはな)
かつてエルトのオフィスだった一室で、パスティア共和国の首相となったカイオスは書類に記載された現在の共和国の状況に頭を悩ませる。
先の戦争の爪痕は、パスティア共和国の国家運営に大きな影を差していた。その被害はあまりにも深刻であり、ロデニウスとムーより支援を受けなければ国家運営もままならないという。
特に食糧問題は深刻であった。
食糧の多く、特に穀物や酪農関連で得られる食糧は旧皇国時代の属領で殆どを賄っていたので、その属領が全て独立した現在では、当然国内で手に入れる手段は無い。
しかし、完全に他人任せだったので、共和国には農業関連の知識や技術を持つものが殆どいない。当然自国内で食糧を生産することは現時点では不可能であり、現在は多くの人材育成のためにロデニウスより農業関連の人材を派遣してもらって教育してもらっているが、自国内で食糧が採れるようになるのはだいぶ先の話になる。
それまではロデニウス連邦共和国と他の国より多くの食糧を輸入しなければならない。ロデニウス側は大地の神の祝福を受けているクワ・トイネ州の地で食糧の大量生産が可能なので、パスティア共和国へ食糧を大量に安く輸出が行える。
それ以外の国からは、ロデニウスとムーが仲介してパスティア共和国へ輸出している。そうでないとパスティア共和国は旧皇国時代の悔恨が原因で他国と平等な貿易が行えないとロデニウスが判断してこの形をとっている。
魚介系の生鮮食品に関しては、多くの漁師が生き残っていたが、船がダメになっていたので、ロデニウスより中古の小舟を無償で提供してもらって、その小舟を用いて漁師たちが漁をしている。ちなみにその小舟はエンジン付きなので、以前よりも漁の効率は格段に上がっているという。
そのお陰で魚介系の生鮮食品の供給は安定傾向にあるという。
次に資源も無いに等しいが、こちらもロデニウスとムーを筆頭に、各国から多くの資源を輸入することで何とかなっている。
工業関連に関しては、旧皇国随一の工業都市だったデュロが壊滅状態となっているので、現在はロデニウスとムーの力を借りて復興の最中である。近日中には小規模ながら一部工場が稼働するようになるので、工業製品の生産も開始される予定だ。
これらの輸入や復興支援に掛かる金はどこから捻出したのかというと、断絶した旧皇族らの財産を全て没収しているので、現在のパスティア共和国の懐は意外にも詰まっているのだ。しかし当然ながらこのまま何もしなければあっという間に懐が寂しくなるので、ここで貿易を回復させたいのだ。
ともあれ、現在のパスティア共和国は他の国から支援を受けなければまともに立ち行かないというレベルで不安定であった。
(だが、軍事面では他よりも小規模ながら防衛だけなら十分の戦力を手に入れられたのが大きいな)
カイオスは書類を整理して、軍事面に関する資料を見る。
先の戦闘で最も被害を被ったのは、軍の方であった。もはや壊滅したといっても過言ではない軍の状況であったが、共和国としては他国からの侵略に備えるためにも、最低限でも軍事力の回復をしなければならなかった。
だが、先の戦闘で多くの設備と装備を失っているので、回復させようにも、回復することが出来ない。
ここから軍事力を回復させるのは難しい思われたが、ここで手を差し伸べたのがロデニウスとムーであった。
ロデニウスは損失した船舶の供与を行っており、先述した通り民間では漁船を無償で提供し、第50号仮装帆船をベースにした帆船を海軍に供与している。
船舶関係は造船業者への救済措置として各国から造船の注文を受けて、彼らに依頼している。この供与した帆船もその救済措置の一環である。
ムーはロデニウスより輸入し、軍で正式採用した武器兵器に更新され、余剰となっていたムー製の武器兵器をパスティア共和国に有償供与を行い、同時にそれらを扱う為の教導を行う教官を派遣している。
武器兵器と弾薬の管理はムーとロデニウスより派遣された軍人が厳重に管理しているので、今の時点では銃火器と弾薬の紛失は確認されていない。
ムーがパスティア共和国に供与したのは、小銃と機関銃、歩兵砲、装甲車で、時期を見て戦闘機も供与する予定である。
だが、当然これらの武器兵器を使いこなすにはまだ時間が掛かるので、戦力が整うまでは安全保障条約に基づき、ロデニウスは陸海空の戦力を駐屯させてパスティア共和国の防衛に当たらせている。
ちなみにこれらの情報は、条約に基づき公表されており、一部の国はパスティア共和国の軍備の再配備を危惧する意見があったが、軍備の管理はロデニウスとムー両国で行うと発表があると、それらの国はそれ以上言うことは無かった。万が一パスティア共和国は凶行に走っても、両国ならばすぐに制圧できるという確信があったからだ。
極一部の国に関しては、口にしなかったが大分悔しげな様子を見せていたとかなんとか。
「とにかく、国の出発は始まったばかりだ。少なくとも旧皇族と同じ過ちを繰り返さないようにしなければな」
カイオスは気を引き締め、引き続き仕事に取り掛かる。
クーデターを起こしてまでして国を変えた責任がある以上、彼はこの身が朽ちようともこの国を回復させ、発展させる覚悟を持っている。
後にカイオスは、クーデターの首謀者であり、共和国の発展に尽力した人物として、後の歴史の書にその名を刻まれることになる。
所変わって、フェン王国
旧パーパルディア皇国より懲罰攻撃を受けたこの国であったが、攻撃を受けた痕はすっかり元通りになっており、国民は誰もが活気に満ちている。
そんなフェン王国も、ロデニウス連邦共和国との貿易によって国は発展しており、国民の暮らしは豊かになり、軍の方でも少しずつ変化が見られ始めた。
そのフェン王国の領海にて……
「三番船! 遅れているぞ! 隊列を乱すな! 四番船は逆に早過ぎる! 帆をうまく調整しろ!」
帆船の上で、男性が無線機を手に動きが違う各帆船に連絡を入れている。
洋上では壊滅したフェン王国水軍の再建計画として、ロデニウス連邦共和国より購入した第50号仮想帆船を基にした帆船が隊列を組んで航行している。
その帆船で装備した水軍による教導が海上で行われている。
その教導を行っているのは、旧皇国監査軍東洋艦隊の元提督……ポクトアールである。
第一次フェン沖海戦にてロデニウスの捕虜となり、収容所で終戦を迎えた彼らは、その後フェン王国へ攻撃を行ったとして、戦争犯罪者として東洋艦隊の生存者と共にフェン王国へ身柄を引き渡された。
引き渡された当初は裁判を受けて、処刑されると彼らは思っていたのだが、そんな彼らをフェン王国はある意味で裏切ることになった。
彼らは裁判を受けて罪も言い渡されたのだが、その際剣王シハンより『もし我が国の水軍の再建に協力してくれるのなら、罪を免除し、その分早く祖国へ帰国させる』と言い渡した。これにはポクトアール達は驚きを隠せなかった。処刑されても文句言えない所業をしていただけに、この結果は予想外だった。
ポクトアール達は元々罪を償う気でいたので、彼らはその申し出を受け入れ、フェン王国水軍の再建のために、乗組員の教導を行っている。
ちなみに同じく身柄を引き渡された元竜騎士のレクマイアだが、彼の場合直接フェン王国の国民を手に掛けており、怪我の他に彼のスキルを活かす場面が無いとして、ポクトアール達よりも重い判決を言い渡されて牢に収監されている。しかし死刑は言い渡されず、刑期を終えれば祖国へ帰国出来るという。
(まさか、我々が文明圏外の国で教導を行うとはな。人生とは分からないものだ)
ポクトアールは各帆船の動きを見ながら、内心呟く。
本来なら処刑されてもおかしくなかったはずだ。それを文明圏外で教官として過ごすことになるとは思ってみなかった。罪人であることに変わりないが、監視付きだが半ば自由で過ごせるとあって、意外と快適な生活を送れている。
(だが、ロデニウスの収容所で暮らしていた時より少し不便なのが悩みどころだが、文句が言える立場ではないな)
と、彼は自身が身に纏っている着物に袴というフェン王国の衣装は旧皇国の人間には着づらいようで、その上生活環境も多少ロデニウスよりテコ入れがあったとは言えど、収容所よりは不便に感じるレベルであった。
(まぁ、その辺りは我慢するしかない。それに、鍛え甲斐のある連中ばかりだ。仕事はやり遂げるさ)
自分の経験を生かして教導するのも、悪い話ではない。
ポクトアールは改めて自分に与えられた仕事をこなすべく、気持ちを切り替えてフェン王国水軍の教導に当たる。
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