異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第百二十二話 魔改造で性能を向上させようっていうけど、弄り過ぎはかえって逆効果になりかねないよね

 

 

 

 

 所変わって、トラック泊地 春島

 

 

 

「ふむ。これが74式戦車の改修機か」

 

 春島にある工場にて、『シャルンホルスト』がそれを見て声を漏らす。

 

「あぁ。74式戦車改改め『74式戦車改二』だ」

 

 彼女の言葉に、大山敏郎が答える。

 

 彼らの前には、完成したばかりの90式戦車の他に整備中の74式戦車改が鎮座していたが、その中で一部の車両は、その装いが大きく変化している。

 

 大きな変化はまず砲塔であり、曲線を描く鋳造成型の砲塔から、爆発反応装甲を取り付けた角ばった新型砲塔が搭載されている。主砲も以前と同じ105mm砲だが、新しく開発された戦車砲であり、微量ながらも性能が向上している。構造自体は従来の105mm砲と同じなので、弾薬はこれまでの物が問題無く使える。

 車体の方は新型の砲塔を搭載にあたり、足回りに改良が加えられており、車体には爆発反応装甲が引き続き装着されている。

 

 90式戦車が正式採用されて退役しつつある61式戦車と違い、74式戦車はまだ第一線級の戦力として運用できると考え、74式戦車改を更に改良して性能を向上させた『74式戦車改二』である。

 

「90式戦車が採用されて大々的に配備されつつ中、61式戦車は退役を迎えつつあるが、74式戦車改はまだ第一線級の戦力だ。長く戦力として使えようにしたのが、この改二だ」

「なるほど。砲塔は拡張されているので、居住性は向上していそうですね」

 

 『シャルンホルスト』の傍で『グナイゼナウ』が74式戦車改二の新たな砲塔を見て感想を述べる。

 

 以前の鋳造製の砲塔と違って、広くスペースを取った新型砲塔を搭載しているとあって、見た感じは以前より砲塔内部は広くありそうである。

 

「いや、それがそうでもないんだ」

「というと?」

「限定的だが新型の砲塔には90式戦車で採用した複合装甲を採用しているから、本体自体は思いの外貧弱でな。弾薬も多く搭載させるために大型化しているから、広さについては以前と変わらないんだ」

「なるほど」

 

 『シャルンホルスト』が怪訝な表情を浮かべると、敏郎は74式戦車改二を見ながら説明し、『グナイゼナウ』は納得する。

 

 74式戦車改二の新型砲塔には、90式戦車にも採用されている複合装甲を簡易的に採用しており、防御力が向上している。その他に砲塔バケットが拡張しているので弾薬の搭載数が向上している。

 それ故か、見た目とは裏腹に砲塔内部の広さは以前と変わらないのだ。

 

 しかし砲塔のみに複合装甲を採用したお陰で、砲塔の防御力は以前よりも向上しており、より74式戦車の地形対応能力を上げている。

 

「同志トチロー。これらは既に既存車両への改造が始まっているのか?」

「あぁ。うちの部隊を優先しているが、終わり次第共和国陸軍の部隊にも施す予定だ」

「そうか」

 

 『キーロフ』が問い掛けると、敏郎はそう説明する。

 

 74式戦車改の改二への改造はトラック泊地陸戦隊所属の車両から改造が始まっており、終わり次第共和国陸軍所属の74式戦車改に改造が施される予定である。

 

 もちろんそれと並行して90式戦車の生産を続けて、共和国陸軍の61式戦車の更新を行っている。

 

「トチロー。90式についてだが、話があるんだが、いいか?」

「トチローさん。私も姉さんと同じ話があるのですが」

「分かった」

「同志トチロー。我が部隊への90式の配備についてなんだが」

「それは俺に言われてもな。『三笠』司令を通じて『大和』に頼んでくれ。まぁそう遠くない内に何とかなるだろう」

 

 四人は会話をしつつ、工場を後にする。

 

 


 

 

 場面は変わり、夏島

 

 

 一部ドックを除き、各ドックでは性能向上を目的にしたKAN-SENの艤装の大規模な改装が行われている。さっさと改装を終えるためか、妖精達は浮きドックなる洋上設備まで用いており、そこでも艤装の改装作業を行っている。

 

 改装内容は主に電子機器と設備の更新、一部兵装の換装、もしくは新たに搭載するといったものである。

 

 電子機器と兵装の大規模な近代化改修とあって、殆どのKAN-SENの艤装に施す作業内容は多岐に渡る。駆逐艦や巡洋艦は『伊吹』と『摩耶』に施された改装内容が適応されている。

 

 

「……」

 

 多くあるドックの一つにて、改装を受けている自身の艤装を見つめる女性の姿があった。

 

 若干青みがかった銀髪に同色の瞳をした長身の女性で、『ソビエツカヤ・ロシア』の服装と近いデザインの服装をしている

 

 彼女は『ソビエツキー・ソユーズ』 ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の一番艦であり、『ソビエツカヤ・ロシア』と『ソビエツカヤ・ベラルーシア』の姉である。

 最近疑似メンタルキューブにて行われた建造で誕生したKAN-SENの内の一人だ。

 

 彼女の視線の先には、自身の艤装の他に、妹たちの軍艦形態の艤装が隣のドックにて同様の改装作業を受けている。

 

(こうして見ると、凄まじいな)

 

 元々搭載されていた機関砲の類が全て下ろされ、代わりに新型機関砲が設置箇所に設備を施しつつ搭載されている。他には速射砲の一部が下ろされて二本の筒状の物体を束ねた物を両舷にいくつも並べられつつあるのを見ながら、内心呟く。

 

 大規模かつ正確に、その上で作業スピードも早いとあって、見る見るうちに作業が進んでいく。

 

 どれだけ設備が整っていても、これだけの規模素早く作業が出来るところは、そうはない。

 

 ちなみに別のドックでは似た改装を『クロンシュタット』も受けている。

 

「凄まじいな」

「……?」

 

 と、後ろから声がして彼女が振り向くと、『アーク・ロイヤル』が歩いて来ていた。

 

「これだけの規模の作業を素早く、それでいて正確に行うのだ。彼女たちの技術力には驚かされるよ」

「……」

 

 『ソビエツキー・ソユーズ』の隣に立つ彼女は、作業の光景を見つめる。

 

 その様子を見せる彼女は、どこか驚きに満ちているような、そんな雰囲気を出している。

 

「お前はずっと彼女達を見ていたのだろう。今更驚く必要は無いだろう」

「いや、改めて見ると凄まじいな、と思っただけだ」

「……」

 

 そう言う彼女に、ソユーズはどこか引っかかるような感覚を覚える。

 

「あぁ、邪魔をしたね」

 

 『アーク・ロイヤル』はそう言うと、ソユーズの下を離れていく。

 

「……」

 

 ソユーズは彼女の姿を、その姿が見えなくなるまで睨むように見つめる。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、ロデニウス大陸 南ロウリア州 

 

 

 ロデニウス大陸南ロウリア州にある、妖精達の居住区兼研究開発施設。

 

 フィルデア州の施設と違い、ここには造船兼入渠ドックがあり、それ故にここでは艦船関連の装備の研究開発が行われている。

 

 

 

「これは……」

「もう何見ても驚かなくなったわ」

「慣れって恐ろしいな」

 

 と、ラッサンとアイリスというお馴染みのムーの二人は目の前の光景に呆れに近い感情を抱く。

 

 ちなみにいつも一緒に居るであろうマイラスの姿が無いのは、彼だけ先に祖国へ戻っている。その理由は本国で行われる新型機の開発に携わる為である。

 新型機、といってもムーオリジナルではなく、ロデニウス政府とムー政府との間で行われた取引で手に入れた航空機の設計図を基に、その新型機が開発されているだけだが。

 

 彼らの視界には、港の埠頭に接舷している軍艦の数々であり、その中には戦艦の姿がある。どれもここの造船所で妖精達が建造した軍艦である。

 

「ここにあるのは妖精達がここの造船所で建造したものばかりだ」

 

 と、彼らに説明するのは、案内を任された『マインツ』であり、彼女は係留されている軍艦を一瞥して説明する。

 

 軍艦はユニオンと重桜のものを基準とした代物で、戦艦は『サウスダコタ級戦艦』の設計を取り入れた『ノースカロライナ級戦艦』が二隻、空母は『エセックス級航空母艦』の設計を基に量産性を上げた空母を三隻、『高雄型重巡洋艦』二隻、『阿賀野型軽巡洋艦』二隻、『秋月型駆逐艦』を数隻である。

 

 普通なら建造に最低二年は掛かるであろう軍艦であるが、妖精達は電気溶接やブロック工法、適所にそれぞれを得意とする作業員を置くなどの作業の効率化に加えて圧倒的な人海戦術を用いて24時間止まらず作業を行っているので、戦艦クラスでも一年前後で建造できるのだ。

 

「それで、『マインツ』さん。ここにある軍艦は全て我が国へ譲渡するというのは、本当ですか?」

「あぁ。政府はムーとの技術交流の一環で、技術供与としてこれらの軍艦の譲渡を決定した。既にあの軍艦群の支払いは済んでいるから、後はムーへ回航するだけだ」

「そうですか」

 

 ラッサンが問い掛けると、『マインツ』はそう説明して軍艦群を一瞥する。

 

 ここにある軍艦群は、全てムーへ技術供与の一環として建造されており、近日中にムーへ回航が予定されている。

 

 既にムー本国ではロデニウスより技術供与が行われて、妖精達のテコ入れがあるとは言えど、ラ・カサミ級戦艦の後継艦の建造が行われている。

 

 しかしグラ・バルカス帝国の脅威が迫りつつある状況とあって、ムーは一隻でも多くの戦力を欲していた。そこで今回の技術供与の一環で、これらの軍艦群が譲渡されることになった。

 

 まぁ当然と言えば当然な話になるのだが、これらの技術供与に加え、装備の近代化に多額の金が投入されたので、統合軍の予算はすっからかんとなり、来年度の予算がゼロになりそうだった。

 

 だが、ムーにはその来年があるかどうかも分からないような、緊迫した状況下にあるので、四の五の言っている場合ではないのだろう。

 

 

 

「それにしても、本国は余程戦力の増強がしたいのね。まさかその為にプライドを捨てているなんて」

「それだけグラ・バルカス帝国の脅威が強まっているってことだろう」

 

 と、アイリスとラッサンは別のドックへと視線を向けると、そこでは妖精達が作業を行っている。

 

 超大型のドックには、二隻の軍艦が入渠しており、主砲や副砲が全て下ろされ、大きく船体を切り開いているなど、かなり大規模な改装が行われている。

 

 その二隻というのが、ムーの最新鋭の戦艦……『ラ・カサミ級戦艦』であった。

 

 なぜムーのラ・カサミ級戦艦がここに居て、尚且つロデニウスのドックにてにて改装を受けているのか。

 

 

 ムー政府は日々脅威を増しているグラ・バルカス帝国に危機感を抱き、防衛力の増強のためにロデニウスより多くの武器兵器を輸入して、軍の装備の近代化を行ってきた。

 

 先述の軍艦群もその一環であるが、その戦力の増強である問題に直面していた。

 

 それは、既存の軍艦についてである。

 

 技術的のロデニウスより劣っているムーの軍艦は、将来的に対峙するであろうグラ・バルカス帝国との戦いで、性能に遅れが生じる可能性をロデニウスより指摘されている。

 

 以前のムーであれば否定的な意思をロデニウスに向けていただろうが、彼らの技術力を知ってからは、そのような意思を持つ輩は少なくなった。

 

 巡洋艦については本国にてロデニウス指導で改装が行われているが、問題は戦艦であった。

 

 ムーからすれば最新鋭ではあるが、ロデニウスからすれば旧式のポケット戦艦クラス。グラ・バルカス帝国の推定される技術力からしても、ラ・カサミ級戦艦は戦力としては期待できない。

 

 計画では六隻の建造が予定されていたが、今回の戦力増強計画を受けて建造中だった四番艦まで完成させ、五番艦以降は建造中止になった。

 

 この戦力増強計画にて、ラ・カサミ級戦艦をどうするか、ムー政府と統合軍は悩んだ。

 

 今後の戦力増強で明らかに扱いに困る戦艦であるのは確実で、かといって最新鋭のこれらの戦艦を廃艦にするのは以ての外。

 

 そこでムーは、ロデニウスに性能向上を目的にしたラ・カサミ級戦艦の改装を技術供与の一環で依頼したのだ。

 

 ロデニウス側はラ・カサミ級戦艦の改装依頼を受ける旨をムーに伝え、カナタ大統領は『大和』を通じて妖精達に改装の件を伝えた。

 

 

 しかし改装の話を聞いた妖精達は……隠すことなく露骨に物凄ーく嫌な顔をしていたそうである。

 

 というのも、ムー統合軍が提示したラ・カサミ級戦艦の改装依頼の内容が『全体的な性能の大幅な向上』というシンプルな内容だったが、同時に困難な内容であった。

 

 妖精達曰く『軽トラに大口径の機関砲を乗っけて、その機関砲に耐える装甲を施しておいて、それでいて尚且つ速度を向上させてくれ』と言っているようものだそうである。

 

 どう考えもラ・カサミ級戦艦の規模では性能の向上に限界があったからだ。

 

 火力を上げようにも、大口径の砲を載せようものならトップヘビーになって安定性が低下し、その上対空迎撃能力を向上させるために対空砲や機銃を乗っけようものなら更に安定性が低下し、横転する危険性が上がる。

 

 防御力を上げるために装甲を増加すれば速度の大幅な低下を招くし、喫水線が上がってしまい、沈没の危険が生じる。ましても先述の火力強化を施そうものなら、バランスは無いに等しくなる。

 

 速度を上げようにも、先述の改装を施したうえで速度を上げようものなら、機関の交換が必要になり、その上機関を増やす必要が生じて燃料タンクを減らさなければならない。当然航続距離は改装前より大幅に短くなる。

 

 もしこれらの性能をある程度問題無く施すなら、艦体を延長したり拡張するほど大きく手を加えなければならない。

 

 だが、そのような改装は軍艦にはかえって逆効果になりかねない。

 

 これがブロック工法で建造された船であれば、接続したブロックを外してそこにワンブロック追加する形で船体を拡張することが出来る。ブロック工法で建造された貨物船や客船でこのように改装されるケースもある。

 

 だが、ラ・カサミ級戦艦はブロック工法で建造された戦艦ではない。そんな船に船体を延長するような改装を施せば船体強度の低下を招く。

 例えばプラモデルのパーツが折れて、折れたパーツを接着しても、いくら補強した所で元の強度には戻らない。船体を切断して全長を延長しようものなら、船体の寿命を減らすだけである。

 

 仮に船体を延長しようものなら、当然旋回性能は低下し、その上全長は延びても全幅は変わらないので、船体の安定性も悪化するばかりで、補強した箇所に負担が大きくなるばかり。

 

 まぁ根も葉もないこと言ってしまえば『こんな改装するぐらいなら、いっそ新しく軍艦を建造した方が安く早く済む』のだ。

 

 だが、ラ・カサミ級戦艦はムーにとって象徴的な存在であり、そう簡単に手放せる存在ではない。

 

 なので、『大和』は妖精達に政治的案件であるので、言う通りにして欲しいと頼んだ。

 

 妖精達は渋々であったが、ラ・カサミ級戦艦の改装依頼を受けることにした。

 

 ラ・カサミ級戦艦はムーより回航され、南ロウリア州のドックとトラック泊地のドックに二隻ずつ入渠し、妖精達によって改装が施されている。

 

 

 妖精達は当初の内容では改装は困難として、防御力を除いた性能を底上げするという方針にした。この旨は政府を通してムーに伝えられ、ムー側もさすがに困難な要求だった自覚はあったのか、すぐに承諾した。

 

 彼女達によって考えられた、ラ・カサミ級戦艦に施される改装は以下の通り―――

 

 

・主砲の換装し、副砲を全て撤去。代わりに機関銃を新たに搭載する

・機関をディーゼルエンジンからガスタービンエンジンに換装

・艦首及び艦尾を新規設計の物に付け替えて水の抵抗を減らし、速力と燃費を向上

・対空電探や高射装置などの電子機器類の設置

 

 

 主砲はラ・カサミ級戦艦の40口径の主砲から、『吾妻』が搭載している50口径の30.5cm砲を新規設計の連装砲塔に搭載して換装。換装にあたりバーベット周辺の強化が施され、砲撃時に生じる衝撃に対応させている。

 

 副砲は全て撤去して孔を装甲で塞ぎ、ブローニングM2重機関銃を多く搭載して対空迎撃能力を向上させた。

 

 機関は元々搭載しているディーゼルエンジンから高出力のガスタービンエンジンに換装し、航続距離を考えてガスタービンを以前の数から減らして燃料タンクを増設し、速度は26ノットまで向上し、航続距離は以前と同じ距離になる予定である。

 

 艦首はバルバス・バウを採用した艦首に付け替え、水の抵抗を減らして燃費と速力を向上させ、艦尾をガスタービンエンジンに換装に合わせてスクリューシャフトとスクリューを交換したので、これに合わせた艦尾に付け替えている。

 

 対空電探や高射装置を追加して対空迎撃能力を向上させている。その一環で指令所自体を大きく作り変えている。

 

 少なくとも、この改装でラ・カサミ級戦艦の性能は防御を除けば大きく向上するが、これでもロデニウスからすればそこそこの性能である。

 

 これ以上の性能を上げようものなら、改装はきっぱり諦めて新造艦を作った方がマシである。

 

 

「それにしたって、最新鋭の戦艦を簡単に他の国に渡して改装させるとはな。軍事機密の塊なんだぞ」

「それだけ政府も焦っているでしょうね。グラ・バルカス帝国の脅威は日に日に強まっているそうだから」

「にしたってなぁ」

「まぁ、政府はロデニウスからすればラ・カサミ級戦艦から得られるものはないと判断してのことだろうけど」

「いいのかそれで」

 

 ラッサンは改装を受けているラ・カサミ級戦艦を見ながら、政府の判断に呆れた様子を見せる。

 

「そういえば、今日だったな」

「どういうことですか?」

 

 ふと、『マインツ』が顔を上げて呟くと、ラッサンが怪訝な表情を浮かべる。

 

「あぁ。トラック泊地から指揮艦がここに来るんだ」

「指揮艦……『紀伊』殿ですか?」

「そうだ。艤装の改修が終わって、大陸を一周する試験航海を行っている。今日は中継地点としてここに立ち寄る予定となっている」

「そうですか」

 

 彼女より話を聞き、ラッサンは海を見る。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、ロデニウス大陸の沖合

 

 

 

 快晴な空が広がる穏やかな海。

 

 そこに一隻の軍艦が海をかき分けて航行している。

 

 300mを超える巨体に世界最大級の艦載砲である50.8cm砲を持つ。ハリネズミの如く対空兵装を並べられたその姿は、航空機を必ず撃ち落とすという絶対的な意思を感じさせる。

 

 紀伊型戦艦一番艦……『紀伊』である。

 

 主砲の砲身寿命の関係で、砲身交換ついでに改修工事を行うにあたってドック入りした『紀伊』は先日改修工事が終わり、ロデニウス大陸を一周する試験航行の為にトラック泊地を出発し、マイハーク、北ロウリア州の港町ロザリアを経由して現在南ロウリア州の妖精達の基地へ向かっている。

 

 

 

『こちら機関室。今の所異常はありません』

「そうか。引き続き頼むぞ」

 

 艦橋頂上にある防空指揮所にて、機関室からの報告を聞き、『紀伊』は受話器を置き場に戻す。

 

「今の所異常はないみたいね」

「あぁ。このまま何とも無ければ明日の夕暮れ時にはトラックに戻れるな」

 

 『紀伊』の横で『榛名』が声を掛ける。

 

「お前こそ、体調は良いのか?」

「うん。大丈夫だよ。ちゃんと『明石』と『ヴェスタル』からお墨付きがあるんだから」

 

「ふふーん」と腰に手を当てて胸を張る『榛名』

 

 先日彼女は『ビスマルク』と共に出産を終えて、『紀伊』との間に出来た白いメンタルキューブはトラック泊地の研究所にて解析作業が進められている。

 

 出産間近とあって長らくカンヅメだった『榛名』は久しぶりの外出ということもあって、『紀伊』の試験航海に同行しているのだ。『ビスマルク』は少し体調が優れなかったので、今回は見送ったそうな。

 

(見た感じは大丈夫そうだがな……)

 

 元気そうな彼女の姿に『紀伊』は安堵しているが、同時に不安でもあった。

 

 というのも、『天城』という例がある以上、元気そうでも油断ならない。出産直後であるなら、尚更だ。

 

 そういうのは、何の前触れも無く唐突にやってくるのだから。

 

(何ともなければいいんだが)

 

 『紀伊』は不安を抱くものの、今は何事も無く終わって欲しいと思うしかない。

 

(しかし、今考えても仕方ないが……果たしてどんな子が生まれるんだろうな)

 

 と、『紀伊』は横目で見張り員の妖精達に話しかけている『榛名』を見る。

 

(俺と『榛名』の特徴を持った子になるんだろうな。でも巡洋戦艦じゃなく防空戦艦として改造された場合、その辺も影響するんだろうか)

 

「うーん」と静かに唸りながら内心呟く。

 

 第二世代のKAN-SENは両親から色濃ゆく受け継ぐ傾向にある。『紀伊』と『扶桑』の間に生まれた『まほろば』然り、『武蔵』と『翔鶴』『瑞鶴』の間にそれぞれ生まれた『蒼鶴』『飛鶴』然り。

 しかし『大和』と『天城』の間に生まれた『筑後』という双胴航空戦艦の例もあるので、一概には言えない。

 

 『榛名』の場合、彼女は巡洋戦艦ではあるが、艤装にも大きく手を加えた改造を受けて防空戦艦となっている。その辺りが子供にどう影響を与えるかは分からない。

 

(この辺りは不安だな。まぁ『ビスマルク』との間の子は予想しやすいが)

 

 純粋な戦艦である『ビスマルク』との間ならば、二人の特徴を受け継いだ戦艦の第二世代のKAN-SENが生まれるだろう。

 

 色々と考えていると、『紀伊』の艦体上空を二式飛行艇が飛び去って行く。

 

「対潜哨戒か」

 

 飛んでいく二式飛行艇を見て『紀伊』は声を漏らす。

 

 上空を飛行している二式飛行艇は『紀伊』の周辺を対潜哨戒として飛んでおり、計六機が『紀伊』上空を飛行している。

 

 この二式飛行艇には、対潜兵器として航空機に搭載できるように改良されたヘッジホッグが搭載され、更に『KMX』と呼ばれる磁気探知機が搭載されており、対潜哨戒機としての機能を備えている。

 

「別に必要無い気がするんだけどな。潜水艦があるのってトラックだけだし。本土でもようやく最初の一隻が竣工したばかりだし」

「まぁ万が一に備えてだ。こういう時ほど、よく来るもんだからな」

「そういうものかな」

「そういうもんだ」

 

 『紀伊』は『榛名』にそう言う。

 

 現時点で潜水艦を有しているのはトラック泊地の潜水艦のKAN-SENと、最近竣工したばかりのロデニウス連邦共和国海軍向けの潜水艦だけである。

 

 こう見ると潜水艦に関する警戒は軽めでもよさげに思えるが、何事に絶対は無い。警戒はしておいて損は無い。

 

「……」

 

 『紀伊』は空に視線を向けるが、すぐに下に向けて自身の艦体を見る。

 

 自身の象徴といえる50.8cm砲。主砲一基につき三門の砲を持つそれを三基計九門艦体に搭載されている。

 

 だが、艦体に搭載されている主砲はこれまでの物と違い、今回の改修にあたって妖精達が新たに開発した新型である。

 

 45口径の砲身は新たに50口径へと延長され、初速が向上したことで射程と威力が向上した。製法を改めて砲身の強度を高めたことで、砲身寿命も僅かながら延長している。

 

(妖精達曰く、アナログとデジタルを融合させた兵器か)

 

 『紀伊』は事前に妖精達から受けた説明を思い出す。

 

 

 搭載された主砲自体に特徴があるわけでは無いが、そのアナログとデジタルを融合させた兵器を運用するにあたって、砲身が延長された。

 

 妖精達は技術が発展することで、戦艦の存在意義が薄れていくことを危惧していた。KAN-SENでもそれは同じことで、一部のKAN-SENなら『大和』や『赤城』達のように新機軸の技術を用いた艤装を新たに建造するといった方法で何とか出来るが、戦艦のKAN-SENに関しては、いずれ限界が来る。

 

 そこで妖精達は技術が発展しても、戦艦の存在意義を薄れさせないように、むしろその打撃能力を伸ばすために、妖精達は独自の改良法を編み出した。

 

 『紀伊』に搭載した主砲は、その改良法の一環である。

 

 

 今回の試験航行はこの主砲の砲撃試験も含まれており、南ロウリア州の妖精達の居住区兼研究開発設備の港に寄港後、その兵器の試験を行う。

 

 しかし万が一を考え、弾薬は最低限の数を持って来ている。

 

(まぁ、その時になれば分かる事だ。今は『榛名』と一緒に居る時間を楽しむだけだ)

 

 内心呟きつつ、『紀伊』『榛名』を一瞥しては前を向き、海を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 だが、彼らは気付かなかった。

 

 

 まさか海中に、招かれざる者が潜んでいるとは……

 

 

 




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