異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第百二十四話 不沈戦艦たる所以

 

 

 

 

「……」

 

 艦体の艦橋頂上の防空指揮所にて、『紀伊』は腕を組んで状況の推移を見守っている。その傍で『榛名』は緊張の色を顔に浮かべ、息を呑む。

 

 二式飛行艇二機がヘッジホッグを投下し、直後に小さい水柱を上げる。

 

「三回目の威嚇攻撃終了。次で撃沈させるとのことです」

「そうか」

 

 防空指揮所の妖精の報告を受けて、彼は頷く。

 

 威嚇行動はこれで終わり、次に投下するヘッジホッグは本来の仕様で、確実に潜水艦を撃沈できるものである。

 

「潜水艦、どう出ると思う?」

「分からん。威嚇で退く判断を下してくれれば良いが。出来ればこいつの出番が無いのを祈るばかりだ」

 

 『榛名』の問いに彼はそう答え、自身の艦体の主砲を見る。

 

 万が一を考え、彼は全ての主砲に零式弾を装填させて砲塔を右90度に旋回させている。

 

 戦艦が潜水艦に対して何が出来る? と思われるが、信じられないことに『紀伊』は潜水艦を沈めたことのある戦艦である。しかも彼の艦生で最初に撃沈したのが潜水艦なのだ。

 

「……」

 

 緊迫した空気が流れる中、事態が動き出す。

 

 

 海面が盛り上がり、海中から水飛沫を上げて潜水艦が浮上する。

 

「あれが」

「あぁ。しかし、重桜の伊400型潜水艦に酷似しているな」

 

 海中から姿を見せた潜水艦こと『ミラ』の姿に、彼の知識にある伊400型潜水艦を思い出す。

 

(ホントそっくりだな。ムーからの情報提供で、グラ・バルカス帝国の兵器が重桜の兵器に酷似しているのは知っていたが)

 

 『紀伊』はムー政府より齎されたグラ・バルカス帝国の情報を思い出す。

 

 グラ・バルカス帝国の兵器は知る限りでも、どれも重桜の兵器に酷似しているらしく、このことを知ったトラック泊地の面々は戸惑った。特に人間だった頃の知識を持つ『大和』と『紀伊』は困惑しかなかった。

 

 特に、件のグレードアトラスター級戦艦を見た時、驚きを隠せなかった。かの大和型戦艦に酷似していたのだから。

 

 

 

「浮上完了しました」

「……うむ」

 

 副長より艦の浮上完了の報告を受けて、艦長は静かに頷き、梯子を登ってハッチを開け、船外に出る。

 

「……」

 

 艦長が上がった後に副長も船外に出ると、『ミラ』上空を二式飛行艇が飛び去る。

 

「あれは、飛行艇か」

 

 飛び去る二式飛行艇を見つめる艦長は、小さく呟く。

 

「どうやら、君の推測は正しかったようだ」

「……」

 

 副長は息を呑み、艦長は視線を下に下ろす。

 

 彼の視線の先に、こちらに主砲を向けている『紀伊』の姿があった。

 

「ハハっ……どうやら、ここまでのようだ」

『……』

 

 艦長は制帽の鍔を摘まんで深く被る。その後ろで副長と数人の船員は俯く。

 

 洋上に浮上した潜水艦はもはや的でしかない。戦艦に狙われているのなら、もはや逃げ場はない。

 

「白旗になりそうな白い布を持ってきたまえ。本艦は投降すると伝えるためにな」

「……はい」

 

 船員の一人が頷いて白い布を取ってくるために艦内に戻る。

 

 誰一人抗議の声を出さなかったのは、彼らも状況を理解しているからだ。

 

「……」

 

 艦長は背筋を伸ばして、『紀伊』を見つめる。

 

 

 

「……」

 

 『紀伊』は浮上した『ミラ』を見つめながら、いつでも指示を出せるように身構えている。

 

 浮上したは良いが、この後どうする気なのか、警戒を強めている。

 

 艦橋の防空指揮所で乗組員らしき人間が会話を交わしているのは見ているが、さすがに会話内容は距離が離れているので分からない。

 

(向こうはどうする気だ?)

 

 『紀伊』は内心警戒しつつ、何事も無いことを祈る。

 

 

 すると『ミラ』の防空指揮所で乗組員の一人が手にしている白い布を振り始める。

 

「あれって……」

「投降する、という意味だろうな。その辺は向こうも同じか」

 

 白旗を振るうように白い布を振るうという投降する姿勢を見せる『ミラ』を見ながら、二人は安堵の息を吐く。

 

「二式飛行艇のどれでもいい。拡声器で投降を受け入れると伝えろ。肯定の場合は白い布を広げ、否定する場合は白い布を収めろとな」

「ハッ!」

 

 防空指揮所に居る妖精はすぐに戦闘情報管制室へ指示内容を伝え、二式飛行艇に連絡する。

 

(とは言えど)

 

 『紀伊』は停船している『ミラ』を目を細めて見つめる。

 

(件の帝国がここまで魔の手を伸ばしてきた以上、帝国と刃を交える日はそう遠くないな)

 

 『紀伊』はそう遠くない未来で、グラ・バルカス帝国とロデニウス連邦共和国が戦火を交える日が来るであろうのを感じ取る。

 

 恐らくこれまで戦ってきた相手とは違い、規模が異なる近代戦が繰り広げられるだろう。

 

 

 すると艦内電話のベルが鳴り、『紀伊』が受話器を取る。

 

「こちら防空指揮所、艦長の『紀伊』だ」

『こちら艦橋。ウミネコ3より報告が!』

「何だ?」

『海中に新たな潜水艦らしき反応が!!』

「何だと!?」

 

 艦橋からの報告を聞き、『紀伊』は驚愕する。

 

「なぜ今まで分からなかった!」

『攻撃に集中していたので探索範囲が狭まっていて発見が遅れました!』

「そうか。分かった」

 

 『紀伊』は受話器を戻し、続いて聴音室に繋げようと連絡先を変える。

 

「何があったの?」

「ウミネコからの報告だ。新たな潜水艦が発見された」

「えっ!?」

 

 『榛名』に問い掛けられ、彼は聴音室に繋げながら答えると、彼女は驚愕する。

 

「他にも居たの!?」

「みたいだな。まぁ一隻しかいないと勝手に考えていた俺達の落ち度だ」

「……」

(だが、あまりにも唐突過ぎる気がするが……)

 

 『紀伊』は二隻目の出現に違和感を覚えるも、電話を聴音室と繋げる。

 

「聴音。そっちでも――――」

 

 

 

 突然『ミラ』の左舷で大きな水柱が上がり、直後に大きな爆発を起こして船体が真っ二つになる。

 

「な、何!?」

 

 突然爆沈した潜水艦に『榛名』は驚愕する。

 

「自爆……いや! 雷撃か!!」

 

 『紀伊』は一瞬自爆を疑ったが、爆発の仕方が明らかに雷撃によるものだった。

 

「そんな!? まさか味方を!?」

 

 『榛名』は信じられないといった様子で口に手を当てる。

 

「(なぜ味方を。いくら口封じだとしても、こんな早急に‥‥)っ! いかん!! 両舷全速!! 急げ!」

 

 『紀伊』は相手の行動に一瞬疑問を抱くが、慌てて指示を出す。

 

『右舷に雷跡二! 魚雷です!』

 

 しかしその瞬間に聴音室からの慌てた報告が入り、『紀伊』と『榛名』は右舷方向を見る。

 

 艦体の右舷前方からこちらに二本の白い線が向かってきている。

 

 『紀伊』は察した。もう回避は間に合わない。

 

「総員! 衝撃に備えろ!!」

 

 彼は叫んで警戒を促し、『榛名』の肩を掴んで自身に抱き寄せる。 

 

 直後に、二本の魚雷は『紀伊』の艦体右舷に直撃し、大きな水柱を上げる。

 

 魚雷が二本直撃したことで、『紀伊』の艦体は大きく揺れる――――――

 

 

 

 

 ――――――ことはなかった。

 

「あ、あれ?」

 

 ギュッと目を瞑っていた『榛名』は何も起こらないことに、素っ頓狂な声を漏らす。

 

 魚雷二本が命中したにもかかわらず、『紀伊』の艦体は殆ど揺れること無く、何事も無かったように増速し始める。

 

「魚雷は……思いの外威力は高くなかったな」

 

 『紀伊』は安堵の息を吐くと、受話器を手にしたまま艦体全体に繋げる。

 

「被害報告!」

『右舷中央に魚雷直撃! しかし浸水等の被害はありません!』

 

 被害報告を受けるが、魚雷が直撃した箇所に損傷や浸水等の被害は見受けられなかった。

 

「……知ってはいたけど、こうして実感すると凄まじいわね」

 

 『榛名』は『紀伊』の艦体を見ながら小さく呟く。

 

「それに加えて、更なる改良も施されたしな」

 

 彼女の言葉を受けて、『紀伊』は魚雷が直撃した右舷中央部を見る。

 

 

 紀伊型戦艦がなぜ不沈戦艦と呼ばれているのか。制空権が取られていても、襲い掛かる艦載機の群れを返り討ちにする圧倒的な防空性能もそうだが、その本質は徹底した対魚雷防御構造である。

 

 両舷に備えられたバルジに加え、ゴム層とスポンジ層を設けたことで、魚雷が直撃し、炸裂した際の衝撃を分散し、船体への被害を抑えている。更に細かく分割した水密区画もあり、浸水に強い構造をしている。

 

 この時点で魚雷に対する防御力は高いのだが、妖精達はこの防御構造を更に磨きをかけて強化した。

 

 

 話は変わるが、片栗粉と水を一定の割合で混ぜた液体がある。普通に触るぐらいならとろみのある液体なのだが、強い衝撃を与えると途端に硬くなる。

 なので、常に衝撃を与えれば、手に持つことが出来て、その液体の上で走る事が出来る。

 

 妖精達はこの性質を利用した衝撃吸収材を開発し、魚雷防御構造に組み込んで三層構造にして更なる魚雷の防御性を上げた。

 

 これによって、『紀伊』の不沈性を更に高めることになり、先ほどその効果を実証して見せた。

 

 更に妖精達は紀伊型戦艦の不沈性を確実なものにしようと研究を進めており、妖精達曰くこれが実現すれば紀伊型戦艦は魚雷に対する防御力が大幅に向上することとなるという。

 その上、戦術面に対する対抗策も研究しているという。

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 『紀伊』は気を取り直して、受話器を手にして聴音室と電話を繋げる。

 

「聴音。敵潜の位置は分かるか?」

『ウミネコからもたらされた情報と照らし合わせて、大体の位置は特定しました。右舷27海里先です!』

 

 聴音は『紀伊』に新たに見つかった潜水艦の位置を伝える。 

 

「分かった。逐一敵潜水艦の位置を伝えろ」

 

 『紀伊』はそう告げると、すぐに艦内電話を各主砲塔へ繋げる。

 

「主砲は諸元に従い照準。全門斉射で行う」

 

 そう指示を出して各砲塔に諸元を伝えると、一番砲塔から三番砲塔がそれぞれ潜水艦が潜んでいるである海域に向けて砲塔の向きと砲身の仰角を調整する。

 

「甲板要員は至急退避!!」

 

 砲撃警報が鳴り始めて甲板に居る妖精達は艦内に避難するか、物陰に隠れて耳を押さえて大きく口を開けて肺から空気を吐き出す。

 

「衝撃に備えろ!」

「っ!」

 

 『紀伊』は『榛名』に身を隠すように伝えると、息を吸って叫ぶ。

 

「主砲全門、斉射ッ!!!」

 

 

 ッ!!

 

 

 直後に眩い光が放たれると、空気を大きく揺るがす雷鳴の如く、衝撃波と大きな音と共に計九門の『紀伊』の新たな主砲が咆える。

 その大きな衝撃波によって、海面は白く濁って大きな凹みを作る。

 

「っ!」

 

 主砲の砲撃は300mを超える巨体を大きく揺らす衝撃を起こし、『榛名』は耳を強く押さえて目を強く瞑る。

 

「……」

 

 『紀伊』は足を踏ん張って衝撃に耐え、前を見据える。

 

 放たれた砲弾は小さく弧を描いて飛翔し、彼が狙った海域へと九発全てが着弾する。

 

 その直後に、九つの大きな水柱が上がる。

 

「……」

 

 主砲の砲口から圧縮空気によって砲身内に溜まった硝煙が吐き出される中、『紀伊』は睨むように目を細める。

 

「どう、なったの?」

 

 砲撃時の轟音と衝撃波によるものか、『榛名』は少しふらつきながら立ち上がって、様子を窺う。

 

「分からん。だが、手応えはあったはず」

 

 彼はそう答えて、着弾した海域上空を飛ぶ二式飛行艇を見つめる。

 

 

『こちらウミネコ4。着弾地点に多数の浮遊物を確認。撃沈です』

 

 その後二式飛行艇より報告が入り、二隻目の潜水艦の撃沈が確認された。

 

「そうか。分かった。引き続き周囲の対潜警戒を頼む」

 

 『紀伊』はそう指示を出して、受話器を戻す。

 

「『紀伊』……」

 

 若干暗い雰囲気の彼の姿に、『榛名』は不安を抱く。

 

「そう遠くない内に、再び戦争が起こるかもしれんな。それも、これまでにない規模の……戦争が」

「……」

「本当に、俺達は戦争とは縁が切れないな」

「『紀伊』……っ」

 

 『榛名』が声を掛けようとした瞬間、突然彼女はふらついて倒れそうになる。

 

「『榛名』!!」

 

 『紀伊』はとっさに倒れそうになる彼女の身体を支える。

 

「だ、大丈夫。ちょっと立ち眩みがあっただけだから」

「いや、大丈夫じゃないだろ! すぐに陸地に移動させるから!」

「だ、だから―――」

「すぐに水上機の準備をしろ! 彼女を一足先に港に移送する!」

「『紀伊』!!」

「っ!」

 

 取り乱す『紀伊』に『榛名』が強く声を掛けると、彼はハッとして彼女を見る。

 

「本当に、大丈夫だから。落ち着いて」

「……すまない」

 

 『紀伊』はバツが悪そうに顔を逸らすと、彼女から手を放す。

 

「だが、万が一もある。医務室で診て貰え」

「大丈夫なんだけど……とりあえず行ってくるね」

 

 『榛名』は苦笑いを浮かべるも、『紀伊』に言われて妖精の案内で艦内にある医務室に向かう。

 

「っ?」

 

 彼女を見送っていると、ふと『紀伊』は後ろを振り向く。

 

「……」

 

 彼はしばらく後方の海を見つめるが、そこには何もない穏やかな海面だけであった。

 

(気のせい、か?)

 

 しばらく海面を見つめたが、すぐに気持ちを切り替えて後処理を行う為の指示を出し、予定を早めて目的地の南ロウリア州の港へ急いで向かうことにした。

 

 

 

 




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