異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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物語は少しずつ進み、そして変革していく……


第百二十五話 来るべき時の為に

 

 

 

 その日の夜

 

 

 

「報告書は見たが、まさかこのような状況になろうとはな」

『あぁ。領海に侵入どころか、領海内で潜水艦の襲撃を受けるとは思わなかった』

 

 宿泊施設の部屋にて、『大和』がオンライン通話を用いて『紀伊』と話していた。

 

 

 フィルアデス大陸にあるロデニウス連邦共和国のフィルデア州。そこに作られた妖精達の居住区兼研究開発施設の視察を終えて、休息を取っていた『大和』達の元に、『紀伊』が試験航行中に国籍不明の潜水艦の襲撃を受けたとの報告が入った。

 

 本国を含め、基地では警戒体制が取られ、すぐに様々な(明らかにおかしい)航空機が出撃準備を整えていたのを見て、『大和』達は思わず唖然となっていたそうな。

 

 

「その潜水艦は撃沈したそうだな」

『正確には撃沈されたやつと撃沈したやつだがな』

 

 報告書のファイルを見ている『大和』の言葉を『紀伊』が訂正する。

 

「機密保持の為だろうが、躊躇いなく味方を撃つとはな」

『よほど機密流出を恐れていたんだろうな。もしくは降伏した味方を敗北主義者として排除したか』

「……」

 

 彼の推測を聞き、『大和』は顎に手を当てて一考する。

 

 潜水艦は軍事機密の塊である以上、敵に鹵獲されるの防ぐ為に撃沈するのは不自然ではない。尤も、その場合普通に自沈処理をすればいい話だ。自沈処理が出来ない場合を除いて、わざわざ味方から撃ってもらう必要は無い。

 となれば、忠誠心の高い軍人による敗北主義者の排除、とも考えられる。

 

「それで、生存者は確認されたのか? まぁ状況が状況だからいるとは思えんが……」

『いや、一人だけ生存者が確認された』

「生存者がいたのか!?」

『あぁ。正直俺も驚いたよ』

 

 『大和』は状況から見て生存者は期待できなかったが、一人だけ生き残っていたと聞き驚きを隠せなかった。

 

『恰好から見て、恐らく艦長か副長あたりの人間だろう』

「そうか。しかし、よく生き残れたな」

『恐らく防空指揮所に上がっていたところ、雷撃を受けた際の衝撃で運良く海に吹き飛ばされたんだろうな。意識不明だが、命に別状は無いそうだ。今は内地の病院に搬送されて治療を受けている』

「そうか。まぁ相手が軍人である以上、情報には期待できそうにないな」

『そうだろうな』

「……」

 

 『大和』は一息ついてコップに注いだ水を飲む。

 

 軍人である以上、尋問をしても簡単に機密を喋ることは無いだろう。その人物が自分の保身の為に動く人間でない限りは。

 

「それで、新たに現れた潜水艦を、お前が撃沈したんだな」

『あぁ。位置は特定できていたからな。まぁ新しくなった主砲の初砲撃の相手が潜水艦だったのは、妙な繋がりでもあるんかね』

「それ以前に、戦艦が潜水艦を沈めること自体異常なんだがな」

 

 画面の向こうで『紀伊』は頬杖を着くと、『大和』は呆れた様子で肩を竦める。

 

 対潜装備の無い戦艦が水中に居る潜水艦を撃沈するなど、状況次第では出来なくも無いだろうが、本来は不可能に近い。それをやってのける辺り、『紀伊』がいかに規格外な存在であるのが分かる。

 

『撃沈した潜水艦は後日潜水艦のKAN-SEN達が調査を行って、残骸のサルベージを行う予定だ。まぁ回収出来る情報はそう多くないだろうが』

「まぁ、無いよりかはマシだな。それで何か分かれば御の字だ」

 

 『大和』は言うと、ため息を付く。

 

 撃沈した潜水艦は『ノーチラス』を筆頭にした潜水艦のKAN-SEN達による海底調査が予定されており、調査後は残骸を含め散らばって機密情報のサルベージを行って情報を集める。

 

『だが、妙なんだよな』

「妙、とは?」

 

 『紀伊』は腕を組んでそう言うと、『大和』は怪訝な表情を浮かべる。

 

『二隻目の潜水艦だが、あまりにも唐突に出現したんだ』

「唐突に?」

『いくら探索範囲が狭まっているとは言えど、潜水艦は突然現れたようにも思えるんだ』

「……」

『まるでそれは―――』

 

「KAN-SENが艤装を軍艦形態に変形させたように突然現れた、か?」

『……あぁ』

 

 『紀伊』が予想を述べていると、『大和』が言葉を遮って彼の予想を口にする。

 

 

 突然現れた潜水艦。その出現の仕方が……まるで自分達もやるKAN-SENが艤装を軍艦形態に変形させて出現するかのような出現の仕方だった。

 

 

「だが、そうなると問題は別になる」

『あぁ。恐らく今回の問題の中でも、俺達的には一番だ』

 

 画面の向こうで『紀伊』は深刻な表情を浮かべる。

 

 もしも二隻目の潜水艦がKAN-SENであった場合、KAN-SENを運用している組織がこの世界に存在している可能性があるのだ。だが、自分達のようにどこにも属していない野良のKAN-SENである可能性もある。

 

 後者ならともかく、前者は厄介極まりない。

 

 これまで自分達にしか出来なかった戦術を、今度はこちらが気を付けなければならない。

 

「まぁ、この辺りは追々考えればいい」

 

 『大和』は咳払いをして、気持ちを切り替える。

 

「それで、お前はどう考えている?」

『……』

 

 彼の問いに、『紀伊』は画面の向こうで腕を組む。

 

『件の潜水艦は……噂に聞くグラ・バルカス帝国の物で間違いないだろう』

「……」

『連中がどんな目的でここまで潜水艦を派遣したかは分からんが……これで連中に目を付けられたのは間違いない』

「だろうな」

 

 『紀伊』の答えに、『大和』は肯定する。

 

 向こうがこの一件に気づいているかはさておき、少なくとも件のグラ・バルカス帝国がこの第三文明圏に目を付けたのは間違いない。

 

 さすがにすぐとはいかないが、件の帝国がこの第三文明圏に魔の手を伸ばすのは、ほぼ確実になった。そして第二文明圏が戦火に包まれるのも、時間の問題かもしれない。

 

「……どう足掻いても、俺達は戦争からは逃げられない運命か」

『……』

「ならば、徹底的に足掻くだけだ」

 

 と、『大和』は覚悟を決めたように表情を引き締める。

 

「勝つ為では無く、負けない為に、俺達は戦うだけだ」

『……そうだな。俺達はいつだってそうしてきた。何も変わらない』

「あぁ」

 

 二人はそう言うと、深く息を吐く。

 

 

 自分達の力はいつだって平和の為に。勝つ為では無く、負けない為に使ってきた。

 

 ならば、再び戦争が起ころうものなら、自分達のやることに変わりはない。

 

 

「まぁ、これから少しの間は忙しくなるのは確定だな」

『そうだな』

 

 互いにこの先あるであろう忙しさを想像して、顔を顰めるのだった。

 

 まぁ領海内で国籍不明の潜水艦に襲撃されたのだ。色んな意味で国内が荒れるのは目に見えている。

 

 その後処理に二人が駆り出されるのは当然と言えば当然の話だ。物凄く忙しくなるのを想像して二人はげんなりとなる。

 

 

 その後少しだけ世間話をして、二人はオンライン通話を終了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所

 

 

 空はすっかり暗くなり、その上雲がかかって更に暗かったが、市街地には街灯が照らされて仄かに明るい。

 

 しかし市街地の空は24時間フル稼働している工場の煙突から吐き出された大量の煙によって汚れており、視界が悪い。

 

「……」

 

 高所よりその市街地を見つめる一人の人影があった。

 

(相変わらず、ここは空気が汚いな)

 

 その人物は顔を上げて、汚染物質によって薄汚れた空を見つめる。

 

(国が大きく発展した象徴。物は言いようだな)

 

 内心そう呟くと、鼻で笑う。

 

「未来を犠牲にする国の発展の象徴。滑稽だとは思わないか?」

「さぁ、どうだろうな」

 

 その人物はそう言いながら後ろを振り向くと、銀髪のロングヘア―をしている女性が立っていた。

 

「で、何の用だ?」

「先程連絡があった。第三文明圏へ向かった『ミラ』が消息を絶ったそうだ」

「そうか」

 

 女性の報告に、その人物は興味無さげに呟く。

 

「驚かないのね」

「予想していたからな。ある程度は」

「……」

「『ミラ』の失踪は第三文明圏……いや、ロデニウスが関わっているだろう」

「ロデニウス……」

 

 女性はそう呟くと、顎に手を当てる。 

 

「しかし、一方的な展開になると思っていたが、これはこれで面白くなりそうだ」

「……」

 

 女性はその者が面白がっているであろう表情を浮かべているのを察すると、目を細める。

 

「エンティ。ロデニウスに関する情報をもっと集める。潜入させているあいつに軍事関連の情報をもっと集めさせるように伝えろ」

「集めた情報はいつものように帝国に渡すのか?」

「あぁ。そうすれば連中は尻に火が付くが如く必死になる。その方が面白くなるだろ」

「……分かった」

 

 エンティ―と呼ばれた女性は頷くと、その場を後にする。

 

「……」

 

 その者は女性を見送ると、ゆっくり前を向く。

 

「楽しくなりそうだ」

 

 その者は気を良くしてか、口角を上げている。

 

 すると空を覆っていた雲に切れ目が走り、その隙間から月の光が入り込んで地上を照らし始める。そしてその月の光は、その者の姿を照らす。

 

 黒い髪を腰まで伸ばし、女性の様に見える中性的な容姿をしており、血のように紅い瞳をしているが、左目は黒い眼帯で覆われている。服装は黒い軍服の上に端がボロボロの黒いコートを羽織っている。

 

「今はお互いに力をつけ合おうじゃないか、ロデニウス。いつか訪れる……この世界での、世界大戦のためにな」

 

 月の光に照らされたその者の姿。それは知る者が見たら誰もが信じられないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜなら、その者の姿は……眼帯をしていることを除けば、トラック泊地の男性型KAN-SEN『大和』と瓜二つであるからだ。

 

 

 

 

 




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