異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第百二十七話 命令

 

 

 

 

 中央歴1640年 7月11日 ロデニウス連邦共和国 クワ・トイネ州

 

 

 

 クワ・トイネ州にある市街地を模した訓練施設。

 

 

 その中で室内を模した訓練施設にて、兵士達が訓練を行っている。 

 

 

「……」

 

 廊下を小銃を構えたまま素早く歩くイーネは、曲がり角の手前まで移動して立ち止まり、ゆっくりと曲がり角の先を見る。

 

 その先に誰も居ないのを確認し、銃から手を離した左手で後続の兵士にハンドサインを送って曲がり角から出て、その後に兵士達が続く。

 

 そこから歩いて扉の前まで来ると、数人が扉の前に集まる。

 

「……」

 

 イーネは部下達にハンドサインで指示を出すと、扉の前に居る部下はボディーアーマーに着けたポーチからスタングレネードを取り出し、安全ピンを抜き、もう一人は扉のドアノブを握り、静かに回していつでも開けられるようにする。

 他の部下は小銃を構え、イーネも小銃を構える。

 

 そして彼女が合図を送ると、スタングレネードを持った部下が安全レバーを握っている指を開くことで外し、同時にドアノブを持った部下が扉を開けてスタングレネードを部屋の中に放り込み、再度扉を閉める。

 

 直後に部屋の中でスタングレネードが炸裂して爆音が放たれ、すぐさま扉が開かれて小銃を構えたままイーネが突撃し、部屋の中にある人型を模した看板を狙って射撃する。

 続け様に部下達が次々と部屋の中に入っては、すぐさま構えた小銃の狙いを着けて看板の頭を撃ち抜く。

 

 イーネは隣の部屋へと向かうと、中にある看板を撃ち抜き、小銃を手放してスリングで吊るすと、右太腿に着けてるレッグホルスターにある拳銃を取り出し、残りの看板を撃ち抜く。

 

 部下達は反対側の部屋だったり、イーネが入った部屋に突入して小銃を撃ち、看板を撃ち抜く。

 

 

《訓練終了! 訓練終了!》

 

 

 と、スピーカーよりアナウンスが流れて、部下達は構えていた小銃を下ろす。

 

 イーネは周囲を警戒しつつ、拳銃のサムセーフティーを掛けてレッグホルスターに戻し、小銃のセレクターをセーフティーに向ける。

 

「ふぃー……終わった終わった」

 

 訓練が終わって、部下の一人が小銃を手放して背伸びする。

 

「キース」

 

 と、キースと呼ばれた部下はビクッと身体を震わせて声がした方を見ると、険しい表情を浮かべるイーネの姿があった。

 

「訓練は全て終わったわけじゃないんだぞ。それに銃にセーフティーを掛けずに手放すとか、安全意識が欠けているぞ」

「おっと、すいません」

 

 叱責されたキースはすぐに小銃のセレクターを動かしてセーフティーを掛ける。そんな彼の姿を見てか、他の部下達も自分の小銃を見て再確認する。

 

 


 

 

 訓練施設から出たイーネ達は、小銃のマガジンを外してボルトハンドルを引っ張り、薬室から弾を抜き取る。弾が出た後もボルトハンドルを何度も引っ張って薬室弾が残っていないのを確認し、念を入れて第二者が排莢口より指を突っ込んで薬室内に弾が残っていないのを確認する。

 

 同じように拳銃もマガジンを抜いて薬室に弾が残っていないかを確認する。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 イーネはヘルメットを脱いで頭を振るい、袖で額の汗を拭って息を吐く。

 

「お疲れ様です」

「あぁ。お疲れ」

 

 部下の一人が労いの言葉を掛けると、彼女は短く返す。

 

「いやぁしかし、新しく採用したこいつのお陰で、小銃も随分と扱いやすくなりましたね」

「そうだな。64式と比べれば随分と扱いやすくなった」

 

 と、イーネは片付けられる小銃を見る。

 

 

 彼女達が使っていたのは、これまでの64式小銃では無く、最近陸軍で採用された新型小銃である。

 

 64式小銃と比べて全長は短くなって、重量も軽くなっており、このおかげで64式小銃では取り回しづらかった狭い所でも取り回しがしやすくなっている。

 

 64式小銃に代わる新型小銃として陸軍で採用された『89式小銃』である。

 

 最大の変更点は使用している弾薬であり、64式小銃では7.62×51mm弾を使用していたが、89式小銃では新たに開発された『5.56×45mm弾』を使用しており、これまでの小銃と比べると小口径化している。小口径になったことでストッピングパワーは低下したものの、この弾は貫通力は非常に高く、むしろ威力は高いのだ。装弾数は64式小銃の20発から30発に増えている。

 セレクターは64式小銃同様(安全)(単射)(連射)の順に配置されているが、セレクターレバーは前と比べて親指で動かせるように位置と形状が変更され、動かしやすくなっている。ちなみに開発段階では3点バーストの機能も入れようと検討されていたが、構造が複雑化して調達費用が嵩張るということで、見送られた。

 他に右利きと左利きに対応する為に、セレクターレバーが両方に付いている。

 

 通常であればストックは固定式でスリットがいくつもある被筒であるのだが、イーネ率いる部隊には試験的に改良が施された89式小銃が配備されて試験運用が行われている。

 

 通常型は固定されたストックだが、前後に伸縮自在で、更に折り畳める機能付きというフォールディングストックを採用しており、少しだけ高さが変えられるチークパッドが付けられている。

 更に特徴的なのが被筒であり、20mm規格の『ピカティニー・レール』と呼ばれる、様々なアクセサリーを取り付けられるマウントを任意の位置に取り付けられる被筒を採用しており、各々が自分の小銃にフラッシュライト、レーザーサイト、フォアグリップ等、様々なアクセサリーを付けてカスタマイズしている。

 他にマガジンを挿しやすくする為に、マガジンの挿入口付近にマグウェルが取り付けられている。

 

 あくまでも試験的なので、改良された部分全てが今後の生産分で採用されるわけでは無いが、今の所不要だと言われている箇所は無いとのこと。強いて言うならマグウェルが少し大きいと言われているぐらいである。

 

 

 その他に陸軍に採用予定の『ブローニングHP(ハイパワー)』といった拳銃や分隊支援火器、新型狙撃銃など様々な火器がイーネの率いる部隊に配備されて試験を行っている。

 

 

「しかし、キースの奴は」

 

 と、イーネは装備を片付けているキースの姿を見る。

 

 先ほどの小銃にセーフティーを掛けなかった事といい、どこか抜けている。

 

(訓練だからといって、緊張感が足りないな。まぁやつは実力が高いんだが、それがタチが悪い)

 

 彼女は内心ボヤキながら、無意識に右手を握り締める。なまじ優秀なだけに、腹立たしいのだ。

 

「……」

 

 ふと、彼女の視界に、とある人物が映る。

 

「……」

 

 その人物は隊員達の小銃や拳銃を集めて運んだり、余った弾薬を集めたり、関係機材を運んだりと、様々な雑用をしている。

 

「それにしても、あの人も変わっていますね。懲罰兵になってでも軍に復帰したい理由って何なんですかね」

 

 彼女の部下がその人物ことモイジを見ながら、どこか呆れた様子を見せている。

 

 

 先の戦争で捕虜を私情で処刑させた罪で軍法会議に掛けられ、刑務所に居たはずのモイジがなぜこんな所に居るのか。

 

 それは戦争時に犯罪を犯した罪人に対して任意に与えられる『懲罰兵制度』を受けているからだ。

 

 懲罰兵制度とは、厳しい制限付きであるが、戦争犯罪を犯した罪人が軍の方で長期に渡って働く制度であり、性格と素行、その他に様々な要因に問題無いと判断された時、捕らえられる前の階級に復帰出来る。

 

 しかしこの制度は奴隷として働くのと同然であり、衣食住はちゃんと与えられるが、給与は無く、殆どが雑用として働かされるだけで、銃も触ることは基本禁止であり、訓練には殆ど参加出来ない。仮に軍に復帰できたとしても、過去は消えないので、以前と同じように働けるとも限らない。

 

 なので、厳しい懲罰兵制度を受けてまで軍に戻ろうとする元軍人の罪人は少なく、多くが罪を償うべく刑務所に残った。

 

 しかしモイジは目的の為に、あえて厳しいこの懲罰兵制度を受け、懲罰兵として働いている。

 

 そんな彼をイーネの部隊が受け入れて、彼女が監督責任者となっている。

 

 

「それだけ、成さなければならないことがあるんだろう。馬鹿にするものではない」

「ハッ! 失礼しました!」

 

 イーネが厳しくそう言うと、部下は頭を下げて謝罪する。

 

(今の所問題は無いが……)

 

 彼女はせっせと働くモイジを見て、目を細める。

 

 モイジの働きっぷりは問題視する部分が無く、精神的に不安定な所は見受けられなかった。なので、彼女は上層部にモイジの状況を報告し、多少なりとも彼の制約が緩んだ。

 制約が緩んだことで、さすがに実弾入りは許可されていないが、彼は銃に触れることが出来るようになった。だからこそ銃の片づけを任せられるようになったのだ。

 

 確かに今の所彼に問題は無いように見えるが、やはり何か違和感があるようにも見える。

 

 

「イーネ隊長!」

 

 と、部下の一人が彼女を呼びながらこちらに向かっている。

 

「どうした?」

「はっ! 先程イーネ隊長に司令部へ出頭せよとの連絡がありました!」

「司令部に?」

 

 意外な所からの呼び出しに、イーネは息を呑む。やらかした覚えは無いにしても、司令部に呼ばれるとなると緊張が走るのも仕方なし。

 

「なんでも、頼みたい事があるとのことです」

「そうか。分かった」

 

 イーネは頷くと、キースにこの場を任せて彼女はすぐに司令部に向かう。

 

 

 


 

 

 

 彼女は高機動車に乗って司令部に向かい、司令がいる部屋へと向かっていた。

 

 

(やはり、少しは身だしなみを整えるべきだったか?)

 

 イーネは司令が居る部屋に向かう途中で、自身の姿を見る。

 

 急いで来たので彼女の姿は訓練時の状態であり、服装は緑系の斑点をした迷彩服にコンバットブーツ、一応略帽をかぶっているが、申し訳程度の身だしなみだ。シャワーを浴びずに来たので、汗を掻いたままである。

 

 とは言え、司令を待たせるわけにもいかないので、これが正解だと、自分に言い聞かせる。

 

「……」

 

 彼女は指令が居る部屋の前で立ち止まると、身に纏っている戦闘服の皺を伸ばしたり、髪を整えて、最低限の身だしなみを整える。

 

「失礼します!」

 

 イーネは一旦深呼吸をして気持ちを整え、扉をノックして声を上げる。

 

「入って良いぞ」と入室を許可されて、彼女は扉を開けて部屋に入り、扉を閉めてから司令に向き直り、略帽を脱いで左脇に抱え、敬礼する。

 

「イーネ・コルメス大尉! 参りました!」

「よく来てくれた、コルメス大尉。いやぁ訓練中に急に呼び出してすまないな」

「いえ。訓練は一区切りついていたので、ちょうどいいタイミングでした」

「そうか」

 

 申し訳なくそう言う司令ことノウカ。彼はイーネを近寄らせて本題に入る。

 

「早速だが、大尉。君を呼び寄せたのは、君の部隊に頼みたい事がある」 

「頼み、ですか?」

 

 イーネは怪訝な表情を浮かべる。

 

「あぁ。近日中に国交締結の為に外交官が派遣されることになってな。その護衛を軍の方で行うことになった」

「その役割を、自分の部隊が?」

「その通りだ。君が率いる一個小隊を外交官の護衛に付けることになった」

「なるほど」

 

 イーネの疑問に、ノウカが答えて彼女は納得する。

 

「しかし、外交官の護衛に一個小隊を付けるのは過剰な気がするのですが」

「私もそう思っていたが、先の戦争の原因になった旧パーパルディア皇国での一件もある。政府も警戒しているのだろう」

「そうですか」

 

 思い当たる節があるのか、彼女は納得した様子で頷く。

 

 旧パーパルディア皇国との外交の際に、彼の国は民間人を捕らえ、処刑した一件もあって、ロデニウスは外交に一層の警戒心を持つようになっている。先の件では無かったが、外交官が捕らえられて処刑される可能性もあったのだ。

 その為、政府は国交締結の際には護衛を付けるようになったのである。

 

「やってくれるかね?」

「ハッ! イーネ・コルメス大尉。その任務、承ります!」

 

 イーネは姿勢を正して、敬礼する。

 

「日程は明日には分かる。出発まで英気を養いたまえ」

「ハッ! 失礼します!」

 

 ノウカにそう言われて彼女は返事をしつつ頭を下げ、踵を返して扉の方へと歩いて行き、扉の前で再度ノウカの方を振り向いて一礼し、扉を開けて部屋を出る。

 

 

 

 




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