異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
中央歴1640年 7月16日 ロデニウス連邦共和国
イーネ率いる一個小隊は、73式大型トラックに乗って飛行場へと移動していた。
「間もなく到着だ。荷物を忘れるなよ」
『はい!!』
イーネは自身の荷物を持って部下にそう告げると、返事が返って来る。
「いやぁ、外交官の護衛を任せられるとは、我々も評価されましたな。このまま評価を上げてゆくゆくは―――」
「調子に乗るな。あくまでも今回任されたのは偶々だ」
「その偶々を勝ち取れた運も、実力の内ですよ」
「……」
「それにしても……」
と、キースはトラックの奥の方を見る。
「……」
そこには荷物を抱えているモイジの姿があった。
「良いんですか? あの人を連れてきちゃって。本来懲罰兵は本土から出るのは許されないはずでは?」
「本来はな。だが、彼は今の所問題は無い。それが評価されて特別に同行が許可された。というのが建前で、実際は海外で精神的に安定するかを確かめる目的もある」
「なるほど」
彼は小さく呟くと、興味をなくして他の部下と話し始める。
本来であれば懲罰兵を本土の外に連れ出すのは禁止されている。これは懲罰兵が海外に逃亡する可能性があってのことである。もちろん懲罰兵の逃亡防止の為の対策はしてあるが。
しかし懲罰兵には色々と経験させなければならないので、今回モイジがその特例に選ばれた。
やがてトラックは飛行場に到着して、滑走路の脇に停車する。
兵士達が次々と荷物を持って降りていき、イーネも荷物を持ってトラックの荷台から降りる。
飛行場の滑走路には、彼女達が乗るヘリコプターこと『UH-60 ブラックホーク』と『CH-47 チヌーク』の二機種が数機並べられ、整備員によって出発前の点検が行われている。
メインローターが二つあるという見た目のCH-47 チヌーク。機体のサイズもUH-60ブラックホークよりも一回り大きいとあって、積載量が多いのが特徴だ。その為、このCH-47 チヌークにはイーネの部隊の装備と弾薬等が積み込まれている。
外交官を乗せた艦隊は既に出航しており、彼女達はヘリに乗って洋上で合流することになっており、UH-60 ブラックホークは送り届けた後も外交官と護衛を送り届ける為に残るが、CH-47 チヌークは人員を運ぶ一機を除いて荷物を送り届けた後戻る予定である。
「事前の通り決められた機にそれぞれ乗り込め。時間は限られている。慌てず素早く行動しろ!」
イーネは部下たちに指示を出して部下たちをヘリに乗り込ませて、自身もCH-47 チヌークの機体後部にあるコンテナ室に乗り込む。モイジも彼女に続いてヘリに乗り込む。イーネが監督責任者なので、彼女の目の届くところにモイジを置いておかないといけないので、一緒に行動している。
全員乗り込んだ彼女達は通信機兼イヤーマフのヘッドフォンを付けると、CH-47 チヌークはコンテナ室のランプを閉じ、UH-60 ブラックホークのは側面の扉を閉めて、ヘリ各機のエンジンが始動してメインローターが回り始める。
少ししてイーネ達を乗せたヘリコプターの一団は飛行場を飛び立ち、合流ポイントを目指す。
ヘリコプターの一団はクワ・トイネ州の上空を飛行しており、首都であるクワ・トイネの全貌が見えている。
「……」
イーネは窓から大きく発展した首都を見下ろしている。
(変わったな……本当に)
彼女はほんの数年前までのクワ・トイネを思い出して、大きく発展した今のクワ・トイネに内心呟く。
多くの農地や平原が広がっていたクワ・トイネだったが、今となっては多くのビルや建物が建っており、道の大半はアスファルトで整地されている。
これがほんの数年という短期間で行われていることだから、トラック泊地からもたらされた技術力の恐ろしさが垣間見れる。
「……」
同じようにモイジも大きく変わったクワ・トイネを見ている。その内心はあまり良い感情ではないだろうが。
やがてヘリの一団は市街地上空を抜けて、海へと出る。
「っ! 見えてきましたよ!!」
と、部下の一人が興奮した様子でそう言うと、全員が窓に張り付く。
「あれが……」
イーネも別の窓から覗いて、それを見る。
彼らの視線の先には、洋上を航行する艦隊の姿があり、その艦隊の中央に一際目立つ艦がいた。
300mを超える巨体を持ち、広い飛行甲板には装甲が施され、横に出っ張った形状をしたアングルドデッキから見て取れる先進的な外観。
大和型航空母艦一番艦……『大和』である。
「あれが、『大和』……」
「すげぇ。俺、大和型見るの初めてです」
「あぁ。遠くから見たことあるけど、近くで見るのは初めてだ」
「デケェ。まるで島じゃないか」
『大和』の姿を見て各々が呟いている。
陸軍の人間である彼らは、基本内陸部に居るので、海軍の軍艦を見る機会は少ない。それがKAN-SENなら尚更である。
「そういえば、艦隊は全てKAN-SENで構成されていると聞きましたが、本当ですか?」
「ん? あぁ。そう聞いている」
部下の一人が問い掛けたので、イーネは先日聞いた内容を思い出しながら答える。
艦隊を構成しているのは全てKAN-SENであり、海軍の艦は無い。これはただ単に海軍に遠征向きの軍艦がちょうど居なかっただけである。
護衛艦隊の構成は以下の通り―――
空母:『大和』 旗艦
超巡:『吾妻』
重巡:『摩耶』
『伊吹』
駆逐艦:『宵月』
『春月』
『花月』
『北風』
今回は外交官を送り届けるのが目的なので、基本空からの襲撃に備えての編制である。その為近代化改装を受けた『摩耶』と『伊吹』が今回組み込まれている。
しかし万が一も考えられるので、超巡『吾妻』が組み込まれた。これは戦艦では過剰だが、重巡では不足気味という問題は解決する為の選出である。
他に『大和』の艦体に外交官の護衛のKAN-SEN達が乗り込んでいる。
「おぉ! あれ全部が噂に聞くKAN-SENなのか!」
「KAN-SENって全員美人だって聞いたぜ!」
「しかも外交官の護衛にも三人加わるんだってな!」
「おぉ!! そいつは気合が入るぜ!!」
と、部隊の野郎共は気合が入っている。
(全くこいつらは……)
単純な連中にイーネは頭を抱える。
とは言えど、野郎率の高い軍において、スタイルの良い美女を見るのは目の保養になるので、士気向上に繋がるのは間違いではない。
だが、こうも単純だとさすがに呆れてくる。
ヘリの一団は『大和』の航空管制に従い飛行甲板へ着艦準備に入る。
UH-60 ブラックホークが前半分に着艦していき、すぐに飛び立つ予定のCH-47 チヌークは後ろ半分に着艦していく。
「……」
荷物を持って甲板に降り立ったイーネは周りを見渡す。
とても艦の上にいるとは思えないほど安定しており、本当に海の上に居るのかを忘れそうになる。
荷物を運んだCH-47 チヌークに、『大和』の妖精達がわらわらと集まって、次々と荷物を運び出していく。
ふと艦橋の方を見ると、扉を開けて二人の女性が出てくると、イーネの下に向かう。
「ようこそ、我が艦へ。自分は『大和』の艦長を務める『大和』と申します。こちらはKAN-SENの『加賀』です」
その女性改め男性型KAN-SEN『大和』が自己紹介して隣にいる『加賀』を紹介する。
「初めまして。今回外交官の護衛を任されました小隊長のイーネ・コルメスと申します。短い間になりますが、お世話になります」
「歓迎します」
イーネは荷物を置き姿勢を正して敬礼し、『大和』と『加賀』も敬礼を返す。
その後『大和』は外交官たちにも挨拶をし、荷物を下ろし終えたCH-47 チヌークは一機を残して『大和』から飛び立ち、帰路に付く。
護衛と合流した艦隊は巡航速度にて目的の島へ向かって進む。
『大和』の艦内にある食堂。そこに合流したイーネ達が集まり、その先頭に『大和』が立っていた。
「えー、司令部から話は聞いていると思うが、今回貴官らは国交開設の為に赴く外交官の護衛として派遣された。その事についていくつか注意する点があって――――」
『大和』が今回の外交について説明していると、部隊の兵士達は小さく話している。
(あの人もKAN-SENなんだろ?)
(えらい美人だなぁ)
(でも男なんだぜ?)
(まじかよ。あんな美人なのにか)
(KAN-SENって凄いんだなぁ)
と、『大和』の容姿の感想を各々ば述べている。
「――――によって、万が一を考えて貴官らの部隊にKAN-SEN三人を付けることになった」
彼は言い終えて扉の方に向かって手招きをすると、三人の女性が入って来る。
三人の内、二人は『アーク・ロイヤル』と『出雲』である。
もう一人は銀髪を後頭部で編み込んで毛先が薄い赤に染まっている女性で、黒い甲冑風のドレスを身に纏い、その上に黒いコートを羽織っている。
彼女の名前は『オーディン』 巡洋戦艦のKAN-SENであり、特殊な方法で建造される『開発艦』である。
「『アーク・ロイヤル』と申します。少しの間ですが、宜しくお願いします」
『アーク・ロイヤル』は姿勢を正して挨拶する。その姿に『大和』は(いつもこれだったら苦労ないのに)と内心呆れていたそうな。
相変わらず彼女の性癖はお変わりないようで。
「『出雲』だ。よろしく頼む」
『出雲』は短くぶっきらぼうな様子で挨拶する。
「『オーディン』だ。よろしく頼む」
『オーディン』も『出雲』のように、しかし礼節を弁えている様子で挨拶する。
(うぉ、メッチャ美人じゃないか)
(あの角の生えた美人。デカいな)
(最初の人もでかいだろ)
(でも美人だが、カッコイイな)
(最後の人、騎士って感じだな)
三人のKAN-SENを見た兵士達は各々の感想を小さく呟いている
「以上の三人は今回の護衛の間貴官らと共に行動する。粗相がない事を、願う」
『大和』は兵士達を一瞥すると、念を押すようにそう言って、話を終える。
「あ、あの!!」
「ん?」
『大和』に続いて退室しようとした『アーク・ロイヤル』だったが、声を掛けられたので彼女は立ち止まり、声がした方を見る。そこには一人の若い兵士がいた。
「君は?」
「お久しぶりです、教官!」
「久しぶり?」
『アーク・ロイヤル』は怪訝な表情を浮かべるも、男性の顔を見て直後に何かを思い出す。
「覚えていないでしょうか?」
「いや、覚えているよ。君は確か、あの時の訓練生か」
「っ! はい!」
彼女がそう言うと、男性は喜んだ様子で返事をする。
さて、彼の事を覚えているだろうか?
まだロデニウス大陸の三ヵ国が統一していなかった時代。旧クワ・トイネ公国軍の新人で、旧クイラ王国にある射撃訓練場にて射撃が下手で的に一発も当てられなかった訓練生である。
当時一発も当たらなかったことに落胆していたところに、教導官としてトラック諸島より派遣されて射撃を教えていた『アーク・ロイヤル』が声を掛けた。
この時の彼女の射撃の腕に驚くと同時に感動を覚えた彼は、その日から射撃訓練に力を入れた。
来る日も来る日も訓練に明け暮れ、時には知識面でも必死に勉強し、少しずつ射撃の腕を上げていった。
その結果、彼の射撃の腕は誰にも負けないレベルまでに上がり、今や部隊の狙撃手としての地位に就いている。
「そうか。あれから努力したんだな」
「はい! 教官のお陰です!」
「それでいて今やスナイパーとは。化ける時は中々大きいな」
あの時の射撃が下手だった新人の化け具合から、『アーク・ロイヤル』は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「まぁとにかく。ここまで立派に育ったのは教官として鼻が高いよ」
「教官……」
「これからも、努力は惜しまぬようにな」
「っ! はい!!」
男性は感動のあまり涙目になりながらも、強く返事を返す。
「……」
食堂の出入り口の傍で、話を聞いていた『大和』は微笑を浮かべてその場を後にする。
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