異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第十三話 騎士団の置き土産

 

 

 

 

 中央歴1639年 4月1日 都市ギム

 

 

 

「もうそろそろ、か」

 

 空を見上げる西方騎士団 団長モイジは声を漏らす。

 

(ロウリア王国軍が行動を起こしたと報告を受けて一週間近く。恐らくやつらはもうすぐ近くまで来ているだろうな)

 

 内心呟きつつ、モイジは周りを見渡す。

 

 周りでは兵士達が置き土産や罠の設置作業を行い、最終確認を行っている。もちろん罠と置き土産が作動しないように、慎重にだ。

 

 司令部にある重要書類も全て処分し、魔力通信機も破壊し、トラック泊地より仕入れて配置した無線機は既に持ち出している。貯蔵庫にあった食料も可能な限り持って行き、残った物は畑にある作物諸共ガソリンをかけて焼却処分している。

 そして井戸も埋め立てているので、再利用するには掘り起こさないといけない。毒や糞を投げ込んで使用不能にする手段もあったが、井戸を浄化されてしまえば意味が無い。だから埋めることにした。

 

 復興時がとても面倒な事になるが、トラック泊地の工兵隊が復興を全面協力する事になっている。

 

 

「モイジ団長!」

 

 と、それぞれ四式自動小銃と一〇〇式機関短銃を背負う兵士が二人モイジの元にやって来る。

 

「全ての置き土産、設置完了しました」

 

「町への罠の設置も完了しました。これで大きく時間を稼げます」

 

「よしっ!」

 

 兵士達の報告を受けて、モイジは頷く。

 

「モイジ団長! 偵察部隊から報告! ロウリア王国軍が国境を越えてギムに侵攻しています!」

 

「来たか」

 

 ロウリア王国軍接近の報を聞き、モイジは兵を集める。

 

「ロウリア王国はすぐそこまで来ている! これより撤収! エジェイに向かう!」

 

『ハッ!!』

 

 モイジは兵士達を率いてギム郊外へと向かう。

 

 

 

「急げ! 敵はすぐそこまで来ているんだぞ!!」

 

 ギムの郊外では、トラック泊地より輸入した『73式大型トラック』風のトラックがエンジンを始動させて待機しており、荷台に次々と兵士達が乗り込み、全員乗り込んだトラックから出発する。

 

 当初西方騎士団は殿を勤める為にギムに残り、ロウリア王国軍を迎撃するつもりでいたが、本国からの撤退命令が来た為、ギリギリまで残って破壊工作と置き土産の設置を続けて、撤退している。

 

「……」

 

 モイジは四式自動小銃にマガジンを挿し込みながらギムの町を見つめる。

 

「しかし、町を守らずに見捨てる事になるとは」

 

 モイジが乗り込んだトラックの荷台で、近くに居た兵士が悔しそうに声を漏らす。

 

「生きていれば何度でもやり直せる。気を落とすな」

 

 モイジはその兵士に声を掛けて励ます。しかし一番悔しいのはモイジ自身だろう。ギムを守る騎士団の団長ゆえに、何もせずに逃げるのは誰よりも悔しいはずだ。

 

「後方に居る部隊と合流して、体勢を立て直す。ギムでの無念は後で晴らせば良い」

 

 モイジが兵士達を励ましていると、最後の一人がトラックの荷台に乗り込む。

 

「モイジ団長! 全員乗り込みました!」

 

「よし! 出せ!!」

 

 モイジが運転手に合図を出して、トラックが出発する。

 

『……』

 

 モイジ達は遠くなっていくギムを悔しそうに拳を握り締めながら、自らの視界から消えるまで見続けた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ロウリア王国東方国境付近

 

 

「いよいよ亜人共の町か。ヒヒヒ……」

 

 野営陣地にて、パンドールより先遣隊の副将を任されたアデムは一人気味の悪い笑みを浮かべる。

 

 アデムが率いる先遣隊は、それだけで三万という大軍であり、この事からも王国が多大な期待を掛けている事が分かる。

 

 アデムは根っからの亜人撲滅派であり、今回の戦闘を心から待ちわびていた。戦争であればどのような残虐な事をしても、咎められる事はない。それが亜人なら尚更である。

 

 クワ・トイネ公国の外務局からは『軍を国境より退去させて欲しい』と再三に渡って魔力通信が送られているが、彼はその全てを無視するように通信兵に命じている。

 

 アデムは獰猛な笑みを浮かべて、伝令兵を呼んでこう命令を下した。

 

「全部隊に伝えよ。ギムで獲た戦利品は好きにしても良いとな」

 

 するとアデムはニィ、と歯を見せるほどの笑みを浮かべる。

 

「町の連中は全て残虐な方法で殺せ。女を犯しても構わないが、使い終わればその場で殺せ。一人たりとも生かして町から出さないように……」

 

「はっ!」 

 

「いや、待てよ! イイ事を思いついた」

 

 伝令兵が踵を返そうとした瞬間、アデムが呼び止めて、もう可笑しくてたまらない、といった表情を浮かべて、伝令兵に追加の命令を下す。

 

「100人ほど捕らえて、目の前で町の連中を残虐な方法で皆殺しにしろ。そして生かして解放しろ。恐怖を連中に広めるのだ。

 クックックッ……アッハッハッハッハッ!!!」

 

 狂った笑いを上げるアデムから逃げ出すように、伝令兵は彼から背を向けて部隊に命令を伝える。

 

 

 まぁ、この喜びが怒りへと変わるのも、時間の問題であったが。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「そういえば、モイジ団長」

 

「なんだ?」

 

 猛スピードで走っているトラックの荷台にて、兵士の一人がモイジに問い掛ける。

 

「一週間前から仕掛けていた罠ですが、どこであんな方法を思いついたのですか?」

 

「あぁあれか。実を言うと俺自身が考えたものじゃないんだ」

 

「……つまり?」

 

「トラック泊地の陸戦隊に教育を受けに出向した際……そ、そこの資料室で様々な戦術が書かれた本を見つけたんだ」

 

 と、モイジは一瞬死んだような魚の目をしたが、気を取り直して続ける。その一瞬で兵士達は悟った。

 

 

 二ヶ月前にトラック泊地で行われた短期集中訓練(地獄の幕開け)を思い出して。

 

 

「そ、それで、その本に様々な戦術があったのですか?」

 

 兵士は気を取り直して、モイジに問い掛ける。

 

「彼らが元居た世界で用いられた、様々な戦術が書かれていた。その中にはかなり残酷な方法もあったが」

 

「その中から、今回使えそうなやつを使ったのですか?」

 

「あぁ。どれも足止めには十分な威力があるし、うまく行けばやつらの戦力を削る事ができる」

 

「それは分かるのですが……」

 

 と、兵士達は凄く嫌そうな表情を浮かべる。それを見たモイジも彼らの気持ちが分かって苦笑いを浮かべる。

 

「しかし、これで連中の我々に対する反感意識は更に高まりますね」

 

「構わんさ。どっちにしたって変わらないのだから」

 

 一人の兵士が冗談半分でそう言うと、モイジを含めた兵士達は思わず苦笑いを浮かべる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そしてしばらくして、ギムでは……

 

 

 

「一体これはどういう事だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 アデムの怒声がギムの町に響き渡る。

 

「なぜ亜人共が一人も居ないんだぁぁぁ!!!」

 

 額に血管が浮かび、眼を血走らせながら彼は地団駄を踏む。

 

 

 あの後意気揚々と進軍を命じたアデムであり、先行して竜騎士部隊が攻撃に向かったが、ギムの町に到達しても迎撃が全く無かった。

 報告を受けて不審に思いながらも、アデムは地上部隊に指示を出し、ギムへの進攻を開始した。

 

 しかしギムの町を目前とした所で、突然兵士達の進軍が遅くなった。

 

 原因は地面にあちこちに大きな落とし穴が仕掛けられており、そこに落ちた兵士達が穴の中に立てられた先の尖った棒に串刺しにされた。浅い落とし穴には短い先の尖った棒が突き立てられ、兵士の手足に突き刺さる。

 どの棒には糞尿が塗られており、更に落とし穴の底には水で溶かした糞と尿の汚物が肥溜め状態で溜まっており、兵士の手足に糞尿付きの棒が突き刺さり、刺さらなくても棒が掠って更に肥溜めが傷口に糞尿が掛かってしまう被害を受ける。放って置けば破傷風になってしまう為、すぐさま兵士は救助されて水筒に入った水で傷口を洗い流す。だが当然落とし穴に落ちた兵士は糞尿まみれであるので、他の兵士から嫌悪されていた。

 

 大量の落とし穴に多くの兵士達が負傷し、死亡する者が出て更に糞尿まみれになり、士気が低下してしまったが、物量を持ってしてロウリア王国軍は前進し、道中クワ・トイネ公国が仕掛けて来ないことに不審に思ったが、落とし穴に苦しめられた怒りがそれを上回ったが為に前進し続け、遂にギムに到着して兵士達は町に突入した。

 

 しかし町に突入しても、そこには亜人は愚か、犬一匹すら見当たらない、もぬけの殻となっていた。

 

 そして今に至るというわけである。

 

 

「おのれぇぇぇ!!! 薄汚い亜人共がぁぁぁぁ!! この私をコケにした挙句、私の顔に泥を塗りやがってぇぇぇぇ!!」

 

 益々怒りが増していくアデムに、更に油に火を注ぐ報告が次々と入った。

 

 何処を探しても亜人が居ないのはそうだが、建物内を捜索している最中に突然何かが大きな音と共に破裂して兵士が数名重傷を負った。しかもあちこちで同じ現象が起きているとあって、次々と重傷者が発生していた。

 

 

 モイジ達西方騎士団は無人になった建物に罠として手榴弾を設置していた。作動方法は様々で、扉を開ければ細いピアノ線に繋がれた手榴弾の安全レバーが外れるか、建物の中に入って侵入しようとした時、足元に伸びているピアノ線に足が引っ掛かって安全レバーが外れる等、様々な仕掛け方で置き土産を残して行ったのだ。

 更に地雷が町のあちこちに仕掛けられており、地雷を踏んだ兵士は両脚を吹き飛ばされ、その周囲に居た兵士も爆発によって飛び散った破片により負傷する。

 

 

 その上食料庫も焼失しており、畑も同じように焼き払われていたので食料は一切残されていない。食料は全てここで確保すると言う算段であったので、ロウリア王国軍は食料を必要最低限の量しか持ち込んでいない。

 

 井戸も完全に埋め立てられていたので水の確保も不可能。その上先ほどの落とし穴の糞尿付き槍で傷を負った兵士達の傷を洗い流す為に水を使ってしまった為、持ち込んだ水は半分以上失っていた。

 当然ここで水を確保する算段であった為、水はそれほど多く持ち込んでいなかった。

 おまけに言うと、汚物塗れになった兵士は当然洗い流せないので、そのままで過ごさないといけないかなりきつい状態になった。

 

 しかも地味な嫌がらせに地面に敷いていた石畳は全て剥がされ、地面があちこち凸凹に掘り返していたとあって、非常に歩きにくいし、馬車も走らせる事が出来ない状況だった。しかもその中に地雷を埋めておくという徹底ぷり。そのせいであちこちで地雷を踏んで負傷する者が多発した。

 

 

 つまりこのギムの町で水と食料を補給する算段は潰え、その上大量の死傷者を出してしまい、ロウリア王国軍の計画は大きく狂ってしまった。

 

 それと戦略的にどうでもいいことだが、肥溜めの落とし穴に落ちた兵士は水が無いので、非常に臭い状態で過ごさないといけなくなったという。

 

 

 アデムは怒号を吐き散らし、辺りにある物や兵士に八つ当たりをするなど、もはや怒りのメーターが振り切れているのだろうといえる暴れっぷりを見せている。

 

 まぁ散々見下している亜人に出鼻を挫かれ、彼の考えや楽しみもその亜人に台無しにされたのだから、彼の怒りはとてつもなく大きいものになったであろう。

 

「薄汚い下劣な亜人共めぇぇぇぇ!! 許さん、許さんぞぉぉぉぉ!!!」

 

 怒号を撒き散らしながらも、近くに居た兵士を呼び止める。

 

「本隊のパンドール将軍に現状を報告!! それとすぐに工兵部隊の派遣と増援、物資輸送を要請しろ!!」

 

 そう命令すると伝令兵の尻を蹴り上げてさっさと向かわせた。

 

 

 ロウリア王国陸軍は奇襲を行うはずが、逆に罠に掛かり、その上計画が頓挫して、完全に出鼻を挫かれてしまったのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 中央歴1639年 4月11日 クワ・トイネ公国 政治部会

 

 

「どうやらモイジ団長はロウリア王国に一泡吹かせたようだな」

 

 カナタの言葉に政治部会に失笑が出る。

 

 ギム周辺は敵に支配されてしまったが、西方騎士団がギリギリまで残って仕掛けた置き土産によって出鼻を挫かれたのが効いているのか、進撃は予想より遅かった。

 

「しかし、トラック泊地からロウリア王国の動きに関する情報がなければ、ギムと周辺の村々の疎開が遅れていたでしょう」

 

「あぁ。彼らには感謝しなければな」

 

 リンスイが安堵に近い息を吐くと、カナタも同調する。

 

 もし避難が遅れていれば、ギムや周辺の村々に住む住人達が犠牲になっていたかもしれなかったからである。

 

「しかし、陸はともかく、海の方も問題だ。先ほど諜報員の情報では、ロウリア王国の港から4000隻以上の軍船が出港したという情報が入った」

 

 カナタの発言で、会議室がざわつく。

 

 明らかに自分達の海軍の軍船数を遥かに上回る数であったからだ。

 

「ロウリアは完全にこちらを滅ぼしに来ていますな」

 

 リンスイは息を呑む。

 

「軍務卿。海軍の戦力はどうなっている?」

 

「はっ! トラック泊地より技術供与を受けて戦力は強化されていますが……数はおろか、水夫……あっいえ、水兵の練度不足が目立ちます」

 

 申し訳なさそうに軍務卿は真実を告げる。

 

 陸軍や空軍と違い、海軍は規模が規模とあって一朝一夕ですぐに近代化が出来ない。その上少し前まであった技術制限の影響もあって、他と違って発展の進み具合は悪い。

 

 まぁそれでも配備している戦力はどれも以前と比べ物にならないが、いかんせ数が我圧倒的に不足している。

 

『……』

 

 出席している多くの者に不安の色が浮かんでくる。

 

「それについてだが、海の方は彼らが動いてくれるそうだ」

 

 と、出席している卿達の視線がカナタに集中する。

 

「先ほどトラック泊地の『大和』殿より連絡があった。我々の援軍要請を受けて、海軍及び陸戦隊を派遣するそうだ」

 

 『おぉ!』と政治部会の出席者が思わず声を上げる。

 

「それでだ、軍務卿。彼らの作戦行動を円滑に進める為に、全軍にトラック泊地の部隊に全面協力するように伝えろ!」

 

「ハッ!」

 

 軍務卿はすぐさま会議室を急いで出る。

 

「……これで、我が国は救われる」

 

 カナタは誰にも聞こえないぐらい、小さな声で呟く。

 

 

 




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