異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
中央歴1640年 7月26日 例の島の沖合
道中水棲の魔獣に襲われることも無く、順調に航海を経て艦隊は例の島付近の海域に到着した。
「うーん。確かに海からだとただの山しかない島にしか見えないな」
艦体の飛行甲板に出た『大和』は、手にしている双眼鏡を覗いて例の島を見ていた。
島は見事に断崖絶壁の壁のような山しかなく、これでは中央に窪みがあってそこに国が栄えているとは思えない。
「それに、海も少し荒れているな。これでは並大抵の船では転覆の恐れがあるな」
『加賀』は周囲の海面の荒れ具合から、そう推測する。
海はだいぶ荒れた様子を見せており、『大和』の巨体を以ってしても多少揺れているのだ。周りに居る駆逐艦に至ってはKAN-SEN達の阿鼻叫喚な声がしている。
『大和』の巨体ですらこの状況なのだ。帆船程度では転覆する可能性が高いので、近隣の国々はまず近づかないであろう。
「『吾妻』、『摩耶』、『伊吹』。そっちはどうだ?」
『こちら「吾妻」。対空電探に反応はありません』
『こちら「摩耶」。こちらも対空電探に反応は無い』
『こちら「伊吹」。対空電探に反応はありません』
『大和』の周囲を固めている三人に聞き、それそれ対空電探に何も反応が無いのを伝える。
近代化改装を受けた『摩耶』と『伊吹』は、第二世代のKAN-SENの技術をふんだんに使われており、新機軸の武装はもちろん、電探などの電子機器類は従来のKAN-SENのものを大きく上回る。
それ故に、この中では二人の対空戦闘力は抜きん出ている。もし仮に飛行魔獣による襲撃があっても、彼女達だけで殲滅が可能である。
更に『吾妻』も小規模ながら近代化改装が行われ、特に電子機器類の改装に力を入れている。この改装のお陰で、対空電探の性能は二人に劣らない。
「空に問題は無さそうだな」
『大和』は双眼鏡を首に提げて、空を見る。多少風は強いが、航空機を飛ばすのに問題は無い。
手にしているタブレット端末の画面を開いて、例の島の地形写真を出す。
「思いの外地形は隆起しているようだが、着陸できそうな場所はあるな。ここに着陸して、歩いて一番大きな集落に向かって接触するのが一番か」
タブレット端末に表示された島の地形写真を見て、どう動けばいいかを推測する。
「……」
『大和』が顔を上げると、飛行甲板にはUH-60 ブラックホーク数機とCH-47 チヌーク一機が飛び立つ準備を整えていた。
「何事もなければいいんだが……」
彼は再度島の方を向き、目を細める。
「不安は拭えない、か」
「あぁ。どうもこっちに来てから、こんな不安しか覚えなくなったな」
『加賀』がそう問いかけると、『大和』は頭の後ろを掻いて強く吹いた風で靡く髪を押さえ、深くため息を付く。
「まぁ、だからこそ備えておくんだ」
「……」
やがてヘリの編隊は『大和』の艦体の飛行甲板から次々と飛び立ち、島に向かっていく。
「成功を祈る」
『大和』はタブレット端末を脇に抱え、飛んでいくヘリの編隊に敬礼を向ける。
カルアミーク王国 王都アルクール ウイスーク公爵家
王国の三大諸侯、建国時に大きな功績をあげたウイスーク公爵家。その大きな屋敷にある一部屋にて、一人の女性が本を読んでいた。
本の題名は『英雄の伝説』
数々の英雄伝説が書かれた本に、その女性こと20歳になったばかりのエネシーはハマっていた。
「エネシー、朝ごはんの時間よ! 早くおりて来なさい!」
彼女の母親が一階の食堂から大きな声で呼んでいる。
「はーい」
エネシーは、食事後にまた読もうと思い、本をベッドの上に置き、食堂に向かった。
食卓を囲い、家族のいつもの朝食が始まる。
「エネシー、あなた小さい子が読むような本ばかり読んでないで、男の一人でも見つけて来たらどうだい? もう20歳にもなるのだから」
彼女の母のニッカが痛いところを突いてくる。
エネシー今年で20歳。彼氏の彼の字も無いレベルで男の気配が無い。
「母さん、エネシーに彼氏はまだ早いよ」
エネシーの父、ウイスーク公爵は娘を庇う。父親として可愛い娘が男を作るのは抵抗感がある様子。
「早いもんですか! 女盛りの時期に男が出来なかったら、男なんて一生出来やしないよ!」
若干怒気を含む声で母の話は続く。どこか経験的な雰囲気があるようにも思えるのは気のせいだろうか。
「ちょうど一ヶ月後に、王国建国記念祭りがあるでしょう? カルアミーク王国の一大イベントよ。一緒に行けるような男はいないの?」
「うん、いないよ」
と、エネシーは静かに迷いなく、速攻で答える。
そんな彼女に母は呆れた様子で頭に片手を当ててため息を付く。
「いないなら、建国記念祭で見つけておいで!」
「うーん、そういう出会いってなんだかなぁ……」
「?」
全く意図の読めない娘の言葉に、母は怪訝な表情を浮かべる。
「やっぱりこう……劇的な出会いがしたいのよ! 心が揺さぶられるような、運命的な出会いが!」
「あんた、劇みたいな事を言ってないで、現実を見なさいよ」
母は物凄く呆れた様子で娘にそう告げる。どうやら娘は癖のある女性のようである。
「このまま見つからなかったら、こっちで男を見つけて無理やり貴方とくっ付けるわよ」
「嫌よ。そんなロマンの無い出会いなんて」
「だったら、早く見つけることね。後悔する前にね」
隠し事なく、本音で話をする家族の会話がそこにはあった。
「そういえば……」
と、少し場の空気を変えようと、ウイスーク公爵が話に割って入る。
「最近霊峰ルードの火口付近に、魔物が集まっている事が確認されているんだ。王都からは遠いから問題は無いと思うが、念のために王都から勝手に出てはいけないよ。特にエネシー、気をつけなさい」
「はーい」
彼女はそう答えるが、果たして本当に理解しているのだろうか。
「あぁそうだった。近い内に王様に御挨拶に行く。エネシー、お前も来い。まだ20歳になって挨拶は行ってないだろう?」
「ん? そうだった気がする……」
「あなたねぇ」
どうもいい加減な娘にそろそろ堪忍袋の緒が切れそうな母親。
「すぐには出発はしないが、準備はしておけよ」
「はーい」
やがて家族の食事が終わる。
「ごちそうさまっ」
エネシーは自室に戻り、時間が許す限りベッドの上に置いてあった本を開く。
そして彼女は、今日も妄想に浸るのだった。
所変わり……
『大和』を飛び立ったヘリの編隊は、例の島に向かって飛んでいく。
「……」
先頭のUH-60 ブラックホークに乗り込んでいるイーネは、89式小銃を手にして座り、横を見て並行して飛んでいるCH-47 チヌークを見る。
数機のUH-60 ブラックホークを周囲に置き、中央に外交官を乗せたCH-47 チヌークの配置で飛行している。
「いよいよですね、隊長」
と、同じヘリに乗り込んでいる部下の一人が声を掛ける。
「ここからは未知の領域だ。気を抜くなよ」
「はい!」
「まぁ、出来れば、我々の出番が無いことを祈るばかりだが」
イーネはそう言うと、座席の背もたれにもたれかかる。
あくまでも自分達は危険から外交官を守る役目であって、本格的な戦闘を行いに行くわけでは無い。なので、戦闘を行うような事態にならない事を祈るばかりだ。
彼女は心の底から、そう思っている。
ヘリの編隊は高度を上げて島を囲う山を越えると、その先には山の大きな窪みが広がる。
(空からではないと分からないとは。これでは周囲の国々が気づかないのも納得だな)
別のヘリに乗り込んでいる『アーク・ロイヤル』は、愛銃のM14バトルライフルを抱えるように肩に預けながら島の地形に内心呟く。
ちなみに彼女は現在艤装を改装中なので、彼女の元に艤装は無い。故に艤装を展開して戦うことが出来ないので、生身で戦わなければならない。
このこともあって、彼女が今回の護衛に選ばれたのである。
(しかし、こんな所に出来た国家か。排他的思想を持っていなければいいが)
彼女は旧パーパルディア皇国のことを考えると多少の不安を抱いて、目を細める。
ヘリの編隊は山を越えて一際大きい集落の方へと飛行していくが……やはりというか、当然というか、出迎えが来たのである。
「ッ! 機長! 接近する機影あり!」
ヘリを操縦している副操縦手が声を上げる。
「やはり来たか。お客さんのお出ましだ! 多少揺れるぞ!」
機長は後ろの乗客にそう告げると、UH-60 ブラックホーク各機は配置を変える。
「各機! 攻撃用意! 但し命令があるまで発砲禁止!」
イーネは命令を下すと、各ヘリの両サイドの扉が開かれ、ドアガンとして配置されているブローニングM2重機関銃や74式機関銃に兵士達が着いて初弾を装填する。
ヘリ各機は速度を落として飛んでいくと、接近する機影の正体が判明する。
「っ! あれは
74式機関銃に着いている兵士が声を上げる。
接近しているのは
ワイバーンが人間に本格的に使役される前は、この火喰い鳥が戦場の空の王者として活躍していた時代があったそうである。
そんな火喰い鳥が人を乗せて三騎が編隊に接近中である。
「まずいぞ。火喰い鳥の火炎はワイバーンほどではないにしても、ヘリに対して十分な威力があるぞ」
機長は火喰い鳥の危険性を知っているので、息を呑む。
いくら火喰い鳥のスペックがワイバーンに劣っているとはいえど、人間相手に対しては脅威であるのに変わりはない。ヘリコプターに火炎を直撃させられれば、墜落する可能性がある。
「各員、命令は変わらん。命令があるまで発砲は禁ずる」
「隊長!」
「我々は戦いに来たわけでは無い。相手を刺激するな」
「しかし……」
イーネの変わらない姿勢に部下達は不安を抱く。
やがて火喰い鳥三騎はヘリの編隊の周囲を飛び、彼らを観察している。雰囲気から見ると、どうやら向こうは驚きを隠せない様子である。
「……」
ドアガンに着く兵士はいつでも撃てるようにしつつ、緊張した面持ちで息を呑む。
「――――ッ!!」
「――――っ!?」
すると火喰い鳥に跨っている騎士が叫んでいる様子だったが、ヘリのエンジン音とローター音に掻き消されて全く聞こえなかった。
ドアガンに付いている兵士も大きな声を上げるが、同じくヘリのエンジン音とローター音に掻き消されて全く向こうに伝わっていない。
「駄目です隊長!! 向こうの声が全く聞こえないし、こちらの声も向こうには聞こえていないようです!!」
「……」
部下が大きな声でイーネに報告し、彼女は歯噛みする。
これでは意思疎通が出来ない。かといってヘリのエンジンとローターを止めるわけにもいかない。
このままの状況が続けば、最悪な事態に発展しかねない。
すると、不思議な事が起きた。
あれだけ大きな音を出していたローター音が突然無くなって、エンジン音もさっきよりも小さくなったのだ。
「えっ!?」
部下達は驚きを隠せず周りを見渡している。それは向こうも同じようで、周囲を見渡している。
「これは……」
「分かりました。衛生兵のシイレです! 彼女が風の魔法を応用して音を掻き消したようです!」
「シイレが?」
イーネがこの異様な状況に困惑していると、原因が判明した。
小隊の一人であり、衛生兵のシイレというダークエルフが、風の魔法を応用して空気の流れを変え、ローター音を消したのである。その副次効果としてエンジン音も小さくすることが出来たようである。
「風の魔法でこんな事が出来るとはな」
「とにかく、助かった。これで意思疎通は出来る」
ずっと黙っていたモイジは思わず感心した様子で声を漏らす。
イーネは後で感謝しないとな、と内心決めながらドアガンに着く部下に指示を出す。
「我らは!! カルアミーク王国飛行騎士団である!! 一体何用で我が王国にやって来た!!」
向こうも気を取り直して、彼らに大きな声で来訪目的を問い掛ける。
「こちらはロデニウス連邦共和国です!! 貴国と国交を結ぶために遠い地より参った次第です!!」
ドアガンに着いている部下が大きな声で来訪目的を告げる。
「国交だと? その言葉に偽りは無いな!?」
「ありません!!」
「分かった!! しばし待て!」
と、火喰い鳥に跨っている騎士はすぐさま踵を返して元来たルートを戻っていく。
「……何とか、初接触は穏便に済んだな」
「下手すれば穏便に済まない状況になりかねなかったですけどね」
イーネは安堵の息を吐き、部下の一人がそういうと彼女が「余計な事を言うな」と釘をさす。
「なぁ隊長さんよ。あんまり不安にさせることを言いたくないんだが、あの騎士さんいつ戻ると思う?」
「……」
機長はイーネにそう問いかけると、彼女の表情が強張る。
ヘリの燃料は無限にあるわけでは無い。ただでさえここまで来た時に燃料を消費しているし、帰るまでの分の燃料も残しておかないと、『大和』に戻れず墜落しかねない。
彼女達に大きな不安を抱かせつつ、時間は刻々と過ぎて行く。
その後彼女達の予想よりも早く騎士は戻って来て、国王が会うという旨を伝えて、ヘリの編隊は飛行騎士団に誘導されて王都へ向かう。
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