異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
今年も本作をよろしくお願いします
中央歴1640年 7月29日 カルアミーク王国
陽が昇り、明るくなりつつあった王都アルクール。街では住人達が仕事先へ出勤したり、店の準備をしたりと、各々の行動を起こしている。
「号外~号外!!」
そんな中、街の中央にある広場で叫ぶのは、街で様々な情報を集めて早く住人に伝える情報屋。この声に王都アルクール全体が早朝にも関わらず、多くの人間が集まっている。
「なんとなんと!! あの王国三大諸侯の一人!! マウリ・ハンマン公爵が謀反を起こしたよ!! マウリ・ハンマンは優秀な魔導師を集めていたが、どうやったか知らないが、恐ろしい伝説級の魔獣をうじゃうじゃ引き連れて、イワン公爵領の街、ワイザーに攻め入り、なんと街の民を皆殺しにしてしまったよ!!」
とんでもない情報が住人達の耳に飛び込んできて、不安を掻き立てる。
マウリ・ハンマンの謀反はつい先日王城に届いたばかりだというのに、こうしてすぐに情報を手に入れて号外に出せる所を見ると、情報屋の手腕がすごいのか、それとも王城の情報管理能力が低いのか。
だが、どちらにしてもカルアミーク王国の三大諸侯の一人が謀反を起こした、という事実は住人達に伝わることになった。
「国王ブランデ様は、各騎士団に王都防衛を下命!! マウリ・ハンマンが攻めてくるぞ!! 戦争だ戦争だぁー!!
詳しくは、今日の新聞、モルーツ新聞を買ってくれ!! さあ大変だ大変だぁ!!」
と、さりげなく宣伝を行って情報屋は号外の紙を住人達に売り込み、住人達は次々と号外を買っていく。たくましい商売魂である。
住人達は購入した号外を見て各々不安の声を漏らしているが、誰一人反乱が起きたことに対する恐怖を抱いていなかった。
その理由として、諸侯と国王との繋がりの強さを彼らは知っているからだ。少なくとも新たに謀反を起こして反乱に加担する諸侯はいないと彼らは考えている。
故に、諸侯一人が謀反を起こしたところで、誰一人味方のいない四面楚歌な状況だ。反乱はすぐに鎮圧されて日常が戻ると、そんな思いがあるのだ。
王都アルクール 王城
王城では、今回イワン公領にある街ワイザーで虐殺を行ったマウリ・ハンマンの謀反について、緊急会議が開催されていた。
会議には国王ブランデ、マウリ・ハンマンを除く偶然王城に来ていた王都三大諸侯のイワン、ウィスーク、その他王に忠誠を誓う貴族の面々が顔を揃える。
「王様、今回のマウリの反乱、私は決して許すことは出来ません。我が愛する領民を惨たらしく殺した様子は、聞くに堪えません。
現在、鳳凰騎士団は壊滅いたしましたが、私にはまだ牙龍騎士団と、封魔騎士団がおります。是非我が軍を筆頭に、マウリ領に攻め入る許可を頂きたい!!」
マウリ・ハンマン率いる反乱軍は、イワン領の都市ワイザーに攻め入り、防衛を担っていた鳳凰騎士団を壊滅させた。その後魔獣によって住民を虐殺し、イワン候所有の倉庫に置いていた物資を全て奪い、街に火を放った後に理由は不明だが、自領に撤退している。
イワン公爵は、自国の領民を大切に扱う事で有名である。そんな優しい彼の領に土足で踏み込んで来た挙句、領民を残虐に殺して街を焼き払ったマウリに対し、彼は我を忘れるほどに怒っていた。
「イワン公、怒りに任せて突っ走るでない。貴殿の気持ちは余もよく理解している。だが、焦ってはならぬ」
イワン公爵を宥めようと、国王ブランデは優しく彼を諭して、気持ちを整えるべく一旦咳払いをする。
「だが、マウリは決して犯してはならぬ禁忌を犯した。もはや情けを掛ける理由は無い」
「王様……」
「イワン公軍のみではなく、各諸侯の総合力を発揮し、十分な準備を行い、カルアミーク王国の総力をもって、奴を裁きの場に引きずり出す。
もちろん、王下直轄騎士団も、惜しむ事無く投入しよう。」
『おお!!』
国王ブランデの宣言に、一同がざわつく。
カルアミーク王国最大の規模、そして最高の装備と練度を有する王下直轄騎士団の投入を、国王ブランデは決断した。
通常であれば、マウリ率いる反乱軍は鎧袖一触となり、なす術も無く倒されるだろう。
「王様、申し訳ございません。怒りに任せていました。王に従います。ただ、マウリ討伐の先鋒には我らにお願いします」
「うむ」
冷静になったイワン公爵は頭を下げて謝罪し、国王ブランデは何も咎めず頷く。
本件緊急会議の結果をまとめると、下記のとおりとなる。
・各貴族の軍は、一度城塞都市でもある王都アルクールに集結し、その後マウリ領を目指す。
なお、集結が完了するまでは、およそ1週間を要する。
・マウリのスパイを防止するため、討伐完了までは、たとえ商人であっても、王都アルクールの出入りを禁ずる。
・カルアミーク王国軍はその軍事規模の三分の二をマウリ討伐にあて、残りの三分の一を王都防衛に任ずる事とする。
「守るべき非戦闘員の領民をただいたずらに殺する行為は決して許されるものではない。私、国王ブランデはマウリ・ハンマン公爵の討伐をここに命ずる!」
ここにおいて、カルアミーク王国の内戦が始まった。
その結果、偶然居合わせてしまったロデニウス連邦共和国は、その動乱に巻き込まれてしまったのだ……
「何やら、昨日から慌ただしいですね」
所変わって、王城の一室。その部屋はロデニウス連邦共和国の使節団に充てられた部屋であり、中で寛いでいたヤゴウは声を漏らす。
部屋には他の外交官に、護衛のKAN-SEN達が各々の得物の手入れを行い、イーネ率いる部隊は一部は部屋に残り、他は城の構造を把握する為に王城内を散策している。
「どうやら、この国の諸侯の一人が反乱を起こしたそうだ。昨日の夜兵士たちの会話を耳にした」
「は、反乱ですか?」
と、ヤゴウの疑問を『出雲』が刀の手入れを行い、手を休めて口に挟んでいる紙を取ってからそう答え、ヤゴウは息を呑む。
まさか初仕事で、国交開設先の国で内戦が起ころうなんて、あまりにも間が悪すぎる。
「だが、どうも城には浮かれた雰囲気があるな」
「あぁ」
「どういうことですか?」
と、『オーディン』が手入れした剣を腰に佩いている鞘に納めながら呟くと、『出雲』も刀を鞘に納めて頷く。ヤゴウは怪訝な表情を浮かべて疑問の声を漏らす。
「国家で反乱が起きたというのに、この城の者は誰も深刻な問題と捉えていない。城でこの有様なら、街の方でも似たような状況だろう」
彼の疑問に『アーク・ロイヤル』がM14のボルトストップを解いてボルトを前進させ、銃を構えながら答える。
「聞けば諸侯と王の繋がりは強いようだ。そんな状況では反乱を起こすにしても味方を作るのは難しい。仮に反乱を起こしても四面楚歌な状況になるだけだ。反乱が起きてもすぐに鎮圧される」
「だから、反乱が起きてもすぐに終わると、殆どの人は思っているわけですか」
彼女の説明を聞き、ヤゴウは納得したように頷く。
(だが、どうも引っ掛かるな)
と、『出雲』は内心呟き、この状況に違和感を覚える。それは他のKAN-SEN二人も同じであった。
(反乱を企てても失敗するのは目に見えている。やる意味は無いはずだ)
(何か勝てる策でもあるというのか?)
『オーディン』と『アーク・ロイヤル』の二人も内心呟き、この状況に違和感を覚えていると、扉がノックされる。
KAN-SEN達と護衛の兵が臨戦態勢を取るのを確認して、ヤゴウが入室を許可する。
「失礼します。ロデニウスの皆様」
と、扉を開けて頭を下げるのは、カルアミーク王国三大諸侯の一人、ウィスーク公爵である。先日行われたパーティーにて、使節団と知り合った諸侯の一人である。
「ウィスーク公爵。外が騒がしいようですが、一体何があったのですか?」
「えぇ、実は……」
ヤゴウが問い掛けると、ウィスーク公爵は三大公爵の一人マウリ・ハンマン公爵による謀反が起きた事と、先ほど行われた会議の内容を説明する。
「――――と、いう訳でしばらくの間、外交交渉は不可能に近い状態となり、申し訳ないが、あなた方も王都からの出入りがしばらくの間は不可能になってしまいました」
ウィスーク公爵からヤゴウら使節団の面々に、事の顛末が伝えられる。
「そんな……」
突きつけられた事実に、ヤゴウは表情を曇らせる。
意気揚々と初仕事をこなしたのに、事実上外交は失敗に終わったようなものである。もちろん状況が落ち着けば外交交渉は再開できるが、国内情勢次第ではうまくいかない可能性がある。
「では、我々は一時本国に避難し、事が落ち着いてから再度交渉に参りたいと思います。王都からの離脱だけでも許可していただきたい」
いつまでも落ち込んではいられないと、ヤゴウは気を取り直してウィスーク公爵に王都を出る為の許可を取ろうとした。このまま居座れば、この動乱に巻き込まれかねない。ここは一旦本国へ帰国し、状況が落ち着き次第国交開設を再開しようと考えた。
だが、そんなヤゴウの言葉に、彼の表情が曇る。
「申し訳ないが、国王様の命令でスパイ防止のため、何人たりとも出入りが出来ません。すでに国交のある外交官の方でしたら別でしょうが、あなた方はまだ国として認知すらされていないため、難しいでしょう」
ウィスーク公爵の口から出た言葉は、使節団の面々の表情を曇らせる。本当に間の悪い事と外交官たちは内心愚痴るのだった。
「ですが、一週間もすれば、事は変わって来るでしょう。城の内部であれば自由にしても構いませんから、王都から動くのは控えていただきたい」
「では、王城の中庭を少しだけ貸していただいて、王都にヘリを入れ、空から去る事は可能でしょうか?」
「いや、マウリ・ハンマンは魔獣を使役しています。ここに来られた時に乗っていたヘリコプターと呼ばれる飛行機械が飛んで来たならば、今の王都の者たちは、マウリの手の者としか思わないでしょう。
厳戒令が出ている最中、そのような方法に出れば、再度の交渉は絶望的になる可能性があります」
「そう、ですか……」
これ以上交渉しても、ここから出ることは出来ない。そう判断したヤゴウは渋々諦めるしかなかった。
「ご心配なさるな、ヤゴウ殿。一諸侯と王国の軍。戦力差は隔絶しており、この王都も見てのとおり鉄壁の城塞都市です。マウリの反乱軍ごときにやられはせぬ」
ウィスーク公爵は自信満々にそう答えるが、使節団の面々の表情は明るくない。
結果的に、使節団はしばらく足止めを喰らう羽目になり、外交交渉は閉ざされることになった。それに先ほどの『出雲』達の言葉もあって、ウィスーク公爵の言葉は不安しかなかった。
とは言えど、連絡だけは何とか許可を取り付け、使節団は外洋に待機中の艦隊に連絡を入れる。
『――――と、言う事ですので、しばらく我々はここで足止めになります』
「そうですか。分かりました。こちらから本国へ報告しておきます。艦隊はしばらくこの海域にて待機しておきます」
『大和』の艦体にある戦闘情報管制室にて、『大和』はヤゴウより連絡を受けてため息を付きそうになるも、何とか我慢してこちらから本国に報告すると伝える。
その後通信を終えて、『大和』は椅子の背もたれにもたれかかって、深いため息を付く。
「全く。いつも思うが、嫌な予感の時だけよく当たるなぁ」
と、彼は舌打ちをして制帽を脱いで髪を乱暴に掻き上げて、制帽を被り直す。
「とにかく、本国に経過報告してくれ。その上で今後についての指示を仰ぎ、補給要請も行え」
「了解しました」
再度深いため息を付いて気持ちを切り替え、『大和』は妖精に本国に今後についての指示を仰がせて、戦闘情報管制室を出る。
「状況は芳しくないようだな」
「あぁ。全くだ」
通路を『大和』と『加賀』の二人が歩きながら会話を交わす。
「それで、どうするんだ?」
「どうするも何も、本国の指示なしではこちらは動けない。補給を受けてしばらく様子見だ」
「そうか」
二人は会話を交わしつつ歩いて行き、飛行甲板へと出る。
『大和』の艦体周囲には、『伊吹』と『摩耶』、『吾妻』の三隻が待機しているが、他の駆逐艦のKAN-SEN達の姿が無い。
というのも、予想以上に海が荒れているとあって、駆逐艦の規模では大きく揺れて中のKAN-SEN達と妖精達がグロッキー状態になっていたので、現在『大和』に収容されて妖精共々休んでいる。
先ほど補給の要請もしているので、近日中に『樫野』を筆頭にした補給担当のKAN-SEN達が二式飛行艇に乗って艦隊の元にやって来る予定である。その補給を経てしばらく艦隊はこの海域に留まるのだ。
「しかし、反乱か。むしろあの程度の規模で今まで起きなかったのが不思議なぐらいだな」
「まぁ、あの規模だからこそ起きなかったというのもあるかもしれんな。これで数多くの諸侯があったとあれば、反乱は起きていただろう」
「……」
二人は飛行甲板を歩いて端まで来ると、島を見る。
「……『加賀』」
「なんだ?」
「この状況、どこか見覚えがないか?」
「見覚え?」
『大和』の問いに、『加賀』は首を傾げる。
「勝てるかどうかわからない戦力差とあって、今まで戦が起きていなかったのに、突然戦が始まったというこの状況……まるで―――」
「っ! ロウリア王国か!」
『加賀』は気付いてか、声を上げる。
この状況、ロデニウス大陸を巡るロウリア戦争と似ているのだ。
ロデニウス大陸という狭い大陸の中で、ロウリア王国が大陸統一という野望を抱いていたが、クワ・トイネ公国とクイラ王国の二ヵ国を相手にするのは、当時大陸の半分を牛耳るロウリア王国でもリスクが大きいとして、長らく戦争は起きなかった。
しかしパーパルディア皇国から軍事支援を受けて力をつけたことで、ロウリア王国はクワ・トイネ公国とクイラ王国に戦争を仕掛けてきたのだ。
狭い土地に少ない諸侯が治める中で、一諸侯が反乱を起こした。ロウリア戦争と状況がよく似ている。
「もしかしたら、反乱軍は何かしらの変化があった。それも、強大な力による変化がな」
「……第三国による軍事支援があった。いや、違うな」
彼女は一瞬第三国による軍事支援があったと考えるが、すぐにその推測は無いと頭から振り払う。
「周辺国はこの島に国が存在しているとは知らなかったんだ。例外が無い限り、軍事支援があったとは考えにくい」
「となると、考えられるのは……自ら力を見つけることが出来た、か?」
「現時点ではそう考えるのが妥当だろうな」
『大和』はそう答えて、顔を上げる。
カルアミーク王国は上空からの偵察で発覚するまで、周辺国からその存在は認知されていなかったのだ。そんな中で軍事支援を受けられるはずがない。
尤も、王国の存在を知らないと言った国が本当は知っていて、密かに軍事支援を行っていた可能性も否めないが。
となれば、反乱軍は恐らく自ら力をつけることができた何かを見つけた、と考えられる。
「この戦。最悪な方向に転がるぞ」
「……」
「俺達の出番が無いのに越したことは無いが、この状況ではそれを期待するだけ無駄だろうな」
「だろうな。それで、どうするんだ、総旗艦?」
「さっきも言ったが、政府の指示無しにはこちらは動けない。だが、それまでに準備は出来る。万が一の事態に備えて、俺達は待つだけだ」
『大和』はそう言って、腕を組む。
今はまだ、待つしか無いのだ。
所変わり、再び場面は王城アルクール
「あーあ。つまらないわ」
城の廊下を愚痴りながら歩くのは、頭お花畑の夢想女性ことエネシー。
彼女は父のウィスーク公爵と共にパーティーに参加しており、帰ろうとした時に王城の出入り禁止令が出され、足止めされているのだ。
まさか足止めされるとは思っていなかったので、いつも読んでいる本は屋敷に置いて来ている。王城にも本はあるが、彼女好みの本は無かったのだ。
なので、暇を持て余した彼女は王城を歩いているのだ。その付き添いに屋敷より連れて来たメイドが同行している。
(こんな時に、謀反が起こるなんて。不幸だわ……)
エネシーはため息を付くものの、なぜかすぐに表情を明るくする。
(あっ、でもこういう似たような場面あの本にもあった気がするわ。反乱軍によって攻め入られた城で、お姫様が王子様に助けられるっていうのが! もしその通りになったら、きっと王子様が私の元に!)
何やら妙な事を考え始める彼女の妄想は止まらない。少なくとも自分がとんでもないことを考えているとは思わないだろう。
「ん?」
と、妄想に耽っている彼女だったが、ふと視界にあるものが映る。
彼女の視線の先には、妙な格好の人間が歩いていた。
「あれって……」
「確か、王国と国交を結ぶために、遠路遥々やって来たロデニウスという国の方々です。あの方々も王様の命令で出入りが禁止にされているそうで」
「そう……それにしても、みすぼらしい恰好ね」
メイドがそう説明すると、エネシーはロデニウスの人間を見る。
斑点模様の服装をしている兵士の姿は、彼女からすれば煌びやかの欠片も無い様相なのだろう。
(それに、あれって)
と、エネシーの視線の先には、頭から獣の耳が生えた男性こと、モイジの姿がある。
彼女の表情は、どこか物珍しい表情と共に、侮蔑の感情が含まれている。
カルアミーク王国では、人間で構成された国である。というのも、この国があるこの島には、獣人を含めた亜人がいないのだ。
亜人のような存在がいても、リザードマンのような害を為す存在がいるので、人間ではない亜人は敬遠されてしまう。実際、最初の会談時、モイジの姿を見た大臣たちはあからさまに不快な表情を浮かべていた。
なので、エネシーは一瞬興味を引いたが、すぐに興味をなくして、王城見学を再開する。
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