異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
(な、なぜこんな文明圏外の場所に飛行機械があるんだ!?)
とある帆船に乗り込むヴァルハルという男は恐怖に震えていた。
ロウリア王国に対して軍事支援を行ったパーパルディア皇国の国家戦略局の所属である彼は、観戦武官としてこの戦闘を見る為、艦隊に同行していた。
文明圏外の蛮族とは言えど、これだけの戦力だ。大きく戦力が劣るクワ・トイネ公国という国相手なら、彼もまたロウリア王国の勝利で終わるだろうと思っていた。
だが、戦闘が始まると、その考えは綺麗サッパリに吹き飛んだ。
彼の視線の先ではワイバーンと違う、飛行機械と呼ばれる物が空を飛び回っている。時折艦隊へ降下して来ては、炸裂音と共に何かが帆船やガレー船にダメージを負わせ、水夫達を殺傷する。
(いや、『ムー』の『マリン』でもあんな速度は出ない。ましても形だって全く違う!)
彼の脳裏にはムーに関する報告書で見たことがある『マリン』と呼ばれる飛行機械が過ぎるが、今空を飛び回っている飛行機械はそのマリンとはまるで違った。
(何だ……一体、何なんだ!?)
彼は言い知れない恐怖に駆られ、ただただ飛行機械が自分が乗る帆船を狙わないで欲しいと祈るばかりだった。
しかし彼の祈りなんか知らないと言わんばかりに、彼の乗る帆船に烈風が機首を向けて降下し、両翼と機首の機関砲を放つ。
機関砲から放たれた
「ひぃぃぃ!?」
情け無い声を上げて腰を抜かすヴァルハルの目の前には、
―――――――――――――――――――――――――――――
「これは……」
艦隊からの援護要請を受けて飛来したワイバーン部隊の隊長アグラメウスは、海上の状況を見てその惨状に目を疑った。
海を覆い尽くし、一切の乱れの無い陣形で進んでいた艦隊を見送った時、クワ・トイネの艦隊を蹂躙し、マイハークを火の海にするだろうと、確信していた。
だが、それがどうだ?
艦隊のあちこちから煙が上がり、帆船は蜘蛛の子を散らすように必死になって逃げていた。
その帆船に対して何かが猛スピードで急降下していた。その何かこと烈風は機銃の弾が持つ限り艦隊への機銃掃射を続けていたが、弾が切れた機が出てきて、その機から母艦へと後退している。
流星改もまた爆弾を投下した後は両翼の機関砲と防護機銃による機銃掃射を行い、弾切れになった機から次々と帰還していた。
「あれか!」
竜騎士団長のアグラメウスは、艦隊を攻撃している張本人を見つける。
「全騎! 敵ワイバーンを狙え! 艦隊を守るぞ!」
アグラメウスが魔信に向かって命令を下し、ワイバーン隊は突撃しようとした。
「っ!」
だが、その直前に彼は何かを察して、上を見上げる。
見上げてしまった事で太陽の光が彼の視界を遮り、思わず目を細めて手で光を遮ろうとした。
だが、その瞬間太陽を背に何かが急降下してきた。
「て、敵―――」
アグラメウスはそれに気付いて声を上げようとした。
だが、その直後に彼らは牙を剥いた。
太陽を背にワイバーン部隊の直上から急降下した『武蔵』所属の疾風は一斉に零式機銃四門を放つ。
20mmの
「な、なんだぁ!?」
あまりにも一瞬の出来事にワイバーン部隊は混乱する。
その間にも続けて疾風が旋回して戻って来て、再びワイバーン部隊に機関砲を放ちながら向かっていく。
『何なんだこいつらは!?』
『また来るぞ!』
『ダメだ、速過ぎる!?』
『来るな、来るなっ!?』
魔力通信機から次々と竜騎士達の悲痛な叫びが発せられる。
「くそっ!?」
アグラメウスは悪態を付きながらもワイバーンを操って疾風隊の攻撃を何とかかわし、反撃しようとした。
しかし疾風はワイバーンと比べ物にならない高速で飛行している上、今までに無い状況にワイバーンが怯えて暴れている事で、姿を捉える事が出来なかった。その上大きな破裂音がした瞬間には味方のワイバーンが落とされている。
なので、彼らはただひたすら逃げる事しか出来ない。
(こんな、こんな馬鹿なことが!?)
空の王者であり、最強の航空戦力であるワイバーンが手も足も出せない。ワイバーンではない、圧倒的な火力、速さを持つ謎の存在。
それらの要素が、彼らの闘志を、彼らの精神を、そして彼らの誇りを削っていく。
―――――――――――――――――――――――――――――
しばらくして疾風隊は、多くのワイバーンを撃ち落して、ロウリア王国海軍の艦隊に機銃掃射し終えた烈風隊と流星改隊と共に元来た針路へと飛んでいく。
400騎は居たワイバーンは、疾風40機によって150騎も撃ち落されて、250騎にまで減っていた。しかも残った250騎も誰もが無傷ではなく、かなり消耗している。むしろワイバーンが怯えるあまり逃亡しないだけまだマシな状況だ。
艦隊も何十隻もの軍船が被害を被っており、中には沈みかけている船も居る。
「まさか、こんな事が……」
辛うじて生き残ったアグラメウスは、ボロボロになったワイバーン部隊を見て思わず声を漏らす。
(ありえない。相手はクワ・トイネだぞ。祖国の半分にも満たない亜人と獣姦主義者共の農民の国だぞ。そんなやつらが、あんな物を……!)
アグラメウスは悔しさのあまり、歯軋りを立てて歯噛みする。
「た、隊長!? あ、あれを!」
と、部下の一人が慌てた様子で指差し、アグラメウスはその方向を見る。
「あれは……」
遠く、そこに艦隊に向かう小さな粒が見える。それが敵艦隊であるとすぐに理解する。
(ワイバーンの数を大きく減ったから、艦隊がノコノコと出てきたというのか)
そう考えると、思わずギリッと歯軋りを立てる。
明らかに舐められている。そう思うと怒りが沸き立つ。
確かにワイバーンの数は半分近く減らされたが、ワイバーンとしての戦闘力はまだ残っている。
それにさっきのワイバーンもどきは空に居ない。今ならやつらの空の守りは手薄だ。
「その慢心が命取りだ! 全騎! 敵艦隊に向かうぞ! やつらが戻ってくる前に、敵艦隊を叩く!」
『了解!』
アグラメウスの命令で残ったワイバーン部隊は敵艦隊へと向かって飛ぶ。
先ほどの物体と違い、船からの攻撃ではワイバーンを撃ち落とすのは至難の業だ。傷付いているとは言えど、まだワイバーンは戦闘能力を残しているので、軍船を撃沈出来る。彼はそう考えていた。
しかし彼は頭に血が上って冷静さを欠いていた。そして彼の部下もまた冷静さを欠かしていたせいで、誰も気づけないでいた。
敵艦の大きさの違和感に気付けないほどに……
直後、敵艦が火を吹く。
―――――――――――――――――――――――――
『紀伊』率いる第二艦隊の戦艦部隊は『榛名』を迎え入れて、ロウリア王国海軍艦隊へ向かって進んでいた。
『電探に感あり。数は250。本艦隊に接近中!』
電探室より電探員の妖精から敵機編隊接近の報が、艦橋のスピーカーから発せられる。
「来ましたね」
「あぁ。五航戦にボコボコにされても、案外闘志は衰えないものだな」
「まぁそれでも容赦しないがな」と『紀伊』はそう呟くと、『扶桑』と見て頷き合う。
「全艦対空戦闘用意!」
『扶桑』が命令を下すと、自身の艦体を操作する妖精達が慌ただしく動き出す。
「各艦は『SA2』を以ってして敵騎編隊を迎撃! トカゲを一匹も通すな!」
『紀伊』がそう命じると、『扶桑』は針路を右へと向けさせつつ、主砲を全て左90°に旋回させる。
同じように『扶桑』に続く『山城』、『伊勢』、『日向』も主砲を左90°旋回させる。
『射撃用電探及び索敵用電探連動!! 諸元入力良し!!』
『目標への高角測定完了! 電探射撃用意!!』
『二式対空破片調整弾、甲種強装薬装填良し!!』
各所から次々と準備完了の報告が入る。
『こちら「山城」! 砲撃準備完了です、将軍様!』
『こちら「伊勢」。いつでも撃てる!』
『こちら「日向」。砲撃準備完了』
そして『山城』、『伊勢』、『日向』より準備完了の報告が入る。
「一斉射で一番砲から二番砲の順で撃つ」
『紀伊』は『扶桑』を見て、彼女が頷く。
「主砲、撃ち方始め!!」
『扶桑』が号令を下すと、『扶桑』の一番から六番砲塔の一番砲が轟音と共に火を吹く。同時に『山城』『伊勢』『日向』も一番から六番砲塔の一番砲が轟音と共に火を吹く。
遅れて数秒後に二番砲も砲撃を行う。
「何だ?」
敵艦隊に接近していたアグラメウス率いるワイバーン部隊は、敵艦隊から突然火が吹いて驚いていた。
「一体何を―――」
数秒経っても何も起きず、彼は声を漏らしたが、最後まで言う事は出来なかった。
直後、四隻の戦艦の主砲より放たれた二十四発の砲弾が彼らの前まで来ると、内蔵されている近接電波信管がワイバーンを捉えて作動し、弾殻が弾けて中から無数のベアリング弾が勢いよくばら撒かれ、複数の竜騎士諸共ワイバーンが文字通り粉々に粉砕されてしまう。
アグラメウスもまた、その無数のベアリング弾により、相棒のワイバーン諸共血飛沫となって粉砕され、何があったのかを理解する事無く、その命を散らした。
四隻の戦艦から放れた砲弾の名称は『二式対空破片調整弾』 通称『SA2』と呼ばれる、航空機を撃ち落す為の対空迎撃弾である。
砲弾内部には無数のベアリング弾が内蔵されており、信管が作動してベアリング弾が勢いよく放たれる仕組みとなっている。簡単に言えば機械化された巨大な散弾である。
信管は通称『G3』と呼ばれる『三式近接電波信管』であり、電波が目標を捉えると、信管が作動する仕組みとなっている。これにより、これまで砲弾が敵機へ接近する時間を予想して時間を設定していた時限信管よりも、より正確に目標付近で信管が作動するようになり、敵機の撃墜数は飛躍的に向上した。
特に『扶桑』、『山城』、『伊勢』、『日向』の四隻は新鋭の電探と射撃装置の搭載と、主砲の半自動装填装置、油圧装置の改良、副砲の撤去、高角砲、機銃の増設等、様々な改装が施されて、対空戦闘能力を強化されている。
彼女達の改装によって得られたデータは、紀伊型戦艦を含める戦艦のKAN-SEN達の対空戦闘能力の飛躍的向上が齎される事になった。
元々『大和』の『カンレキ』にある『大戦』の『伊勢』に施された改造であるが、その後『日向』にも同じ改造を施し、伊勢型より旧式の『扶桑』、『山城』にも変更点は多々あったが同じ改造が施されたのである。
最初の砲撃から数秒後に二番砲より放たれた二式対空破片調整弾が、残ったワイバーン部隊の近くで破裂してベアリング弾を放ち、ワイバーンをベアリング弾が竜騎士諸共粉砕するのだった。
突然の攻撃によって隊長を含めた多くのワイバーンが撃ち落され、残りのワイバーン隊は動揺を隠せなかったが、それでも各騎は敵艦へと向かっていく。
しかし半自動装填装置と砲身の上下角を調整する油圧機構が改良されている『扶桑』、『山城』、『伊勢』、『日向』の四隻は素早く次弾を装填し、すぐさま射撃諸元の修正を行ってワイバーンに狙いを定め、轟音と共に一番砲より火が吹く。
放たれた二式対空破片調整弾がワイバーンの近くまで飛翔すると、近接電波信管から放たれる電波がワイバーンを捉え、弾殻が弾けてベアリング弾が勢いよく放たれ、ワイバーンを竜騎士諸共粉砕する。
多くの数を減らされながらも彼らは果敢に攻めていき、艦隊へ接近する。
しかし勇敢にも接近した彼らに待ち構えていたのは、鉄の暴雨であった。
『扶桑』、『山城』、『伊勢』、『日向』の前方に出ていた『榛名』から、無数の砲弾が放たれて彼らに襲い掛かった。
防空戦艦として生まれ変わった『榛名』は長10cm高角砲をワイバーンに向け、計32門の長10cm高角砲から一斉に火が吹く。
電探射撃による正確な諸元を基に狙いを付けられて放たれた砲弾は、近接電波信管によってワイバーンの近くで作動し、砲弾が爆発して爆風と破片がワイバーンを竜騎士諸共粉砕する。
32門から毎分20発という発射速度によって連続して放たれる砲弾の雨は、次々とワイバーンを撃ち落していき、それに加えて『扶桑』ら四隻の戦艦からの主砲と長10cm高角砲も加わり、ワイバーンは物凄い勢いでその数を減らしていく。
もし彼らが高度を下げて超低空から艦隊に接近すれば、近接電波信管が海面に反射して誤作動を起こし、その間に弾幕の合間を掻い潜り、艦隊に接近出来てかもしれない。
しかしそんな事を彼らが知る由も無いし、何よりそんな事を考える余裕なんて彼らには無い。
そして400騎ものワイバーンは、150騎を疾風に撃ち落され、残りの250騎も艦隊に一発の導力火炎弾を放つことも、ましてや艦隊に接近することすら出来ず、戦艦四隻による長距離迎撃と防空戦艦の鉄の暴雨によって全滅した。
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「我々は、一体何と戦っているのだ……?」
『……』
絶望に染まった顔で呆然と立ち尽くすシャークンは、誰に向けたわけではなく、そう問い掛ける。しかしその問いに答えられる者は、誰も居ない。
上空援護として要請したワイバーン部隊が到着した時は、誰もが勝利を確信して歓声を上げた。
だが、直後にワイバーン部隊は敵のワイバーンと異なる謎の物体によってその殆どを失い、残りも敵艦隊の攻撃によって全滅してしまった。ワイバーンによる攻撃ではなく、敵艦からの攻撃でだ。
空の王者と呼ばれたワイバーンが、虫を叩き落すように、簡単に落とされてしまった。
残されたのは手負いの艦隊。まだ数はあるが、無傷な船は少ない上に負傷者は多数。ワイバーンが全滅したことで水夫達の士気はガタ落ち。
その上、ワイバーンを撃ち落した敵艦隊が、こちらへと向かってきている。たった五隻ではあったが、軍船はどれも島と勘違いしそうな大きさをしている。
(どうする? ここは一旦退いて態勢を立て直すか? いや、追撃されてワイバーンを撃ち落した武器を使われてしまえば、逃げ切れない)
シャークンは策を講じるも、敵のワイバーンもどきが健在な以上、どうやっても逃げられるビジョンが見出せない。
降伏する事も考えたが、ワイバーンを撃ち落した巨大な武器がこちらを向こうとしていたので、彼は半ば混乱しながらも指示を出す。
「突撃だ!! 艦隊前進!! あれだけの大きさだ! 懐に入れば勝機はある!!」
シャークンの命令を受けて、艦隊はヤケクソのように前進を再開し、敵艦隊へと向かっていく。
あれだけの大きさならば、そう何発も連続で撃てないだろうし、懐に入れば俯角の関係であの武器は使えず、こちらは相手の船に乗り込んで白兵戦に持ち込めるし、ワイバーンもどきも誤射を恐れて攻撃できないだろう。相手はたったの数隻。それにこちらは数は減らされているとは言えど、相手の千倍近くはまだ残っている。
だからこそ、シャークンと水夫達は一途の希望に賭けて、突撃したのだ。
半ば諦めの境地に達しているとも言えるが……
―――――――――――――――――――――――――
『敵艦隊、前進を再開! 第二艦隊に向かっていきます!』
ロウリア王国海軍艦隊の上空で動きを監視していた三式艦上高速偵察機より報告が入り、無線で通信員の妖精がスピーカーを通して『大和』に報告する。
「……ワイバーンをワイバーン以外で一方的に落とせば、不利を悟って退くと思ったが……さすがに甘過ぎたか」
報告を聞いた『大和』は思わず舌打ちをして声を漏らす。彼としては可能な限り多くの流血は避けたかった。
だが、退く判断を下すタイミングは二回もあった。それでも進むのなら……容赦はしない
「兄様……」
「……是非も無し、か」
『大和』はそう呟くと、制帽を被り直して口を開く。
「作戦を第二段階へ移行する。第二艦隊の戦艦部隊は三式弾による砲撃を開始。各空母は第二次攻撃隊を発艦! 敵艦隊を殲滅する!」
「指揮艦様。総旗艦様より入電です」
「内容は?」
「作戦を第二段階へと移行。戦艦部隊は三式弾による砲撃を開始せよ、です」
「そうか」
『扶桑』より『大和』の指示を聞いて、『紀伊』は息を吐く。
「『山城』、『伊勢』、『日向』に伝えろ。作戦の仕上げだ」
「はい」
『扶桑』は『山城』、『伊勢』、『日向』に『大和』の指示を伝えて、すぐに攻撃準備に入る。
「『クリーブランド』。現在どの位置に居る?」
『もうそろそろ艦隊の背面に回れる。新人達も付いて来ているよ』
「撤退しようとする船を見つければ攻撃しろ。だが、降伏の意思を見せている船には攻撃するな。降伏者を受け入れろ」
『了解! 任せとけ!』
「……」
『グリーブランド』の返事を聞き、『紀伊』は腕を組む。
撤退しようとする船を見逃さないのは、後々海賊となって活動させない為である。母港に戻るならいいが、戻らず海賊となって海を放浪するのなら、全て沈める。
そして彼らの容赦の無い戦いが、始まろうとしていた……
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竜の伝説編はやっておくべき?
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やっておいた方が良い
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別にやらなくても良いんじゃね?
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オリジナル要素を加えてやるべき