異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第二十話 海戦後の影響

 

 

 

 中央歴1639年 4月25日 クワ・トイネ公国

 

 

 

「――――以上が、報告となります」

 

 

 会議室で行われた政治部会で、トラック泊地の艦隊へ観戦武官として派遣されたブルーアイは参考人として召喚され、見た物を全てありのまま報告した。

 テーブルには自身のカメラで撮影して現像した写真や、『大和』達が協力して撮影した写真が並べられている。

 

 

 空母『武蔵』より油圧式カタパルトで発艦する疾風や流星改を写した写真。

 

 戦艦『扶桑』の主砲が火を吹く瞬間を捉えた写真。

 

 隊列を組んで砲撃を行う軽巡『クリーブランド』に『プリンツ・オイゲン』といった艦隊を捉えた写真。

 

 その後方に付いて来て砲撃を行うヤクモ級重巡洋艦とウネビ級軽巡洋艦、マツ級駆逐艦を写した写真。

 

 火を上げるロウリア王国海軍の帆船を写した写真。

 

 炎に包まれるロウリア王国海軍艦隊を上空から写した写真。

 

 

「うーむ。彼らの力はこの目で見て理解していたが、予想以上だな」

 

 カナタ首相はブルーアイの報告を聞き、写真を見てそう呟くと、息を呑む。

 

「4000隻以上の軍船が攻めて来たと聞いた時は、さすがの彼らでも苦戦は免れないだろうと思ったが、苦戦どころか一方的だったな」

 

「やはり彼らと軍事同盟を組んだのは正解だった」

 

「彼らが味方で良かった……」

 

 会議室に居る各々が呟く。中には彼らと初めて接触した当初過激な発言をした者は顔を真っ青にしていた。

 

「まぁ兎に角、これで海からの侵攻を防げた。その上ロウリア王国海軍はその戦力を多く失ったのだ。これ以上海からの侵攻を考える事は無いだろう」

 

「そうですな。しかし、まだこれは始まりに過ぎませぬ」 

 

「うむ」

 

 軍務卿の言葉にカナタは頷く。

 

 4000隻以上の軍船を撃破して海からのロウリア王国の侵攻を阻止したが、あくまでも一つの戦が終わっただけに過ぎない。

 

「陸の方はどうなっている?」

 

「はっ。現在ロウリア王国陸軍はギムを中心に戦力と物資を集結させており、一部部隊がエジェイへと侵攻を開始しました。しかし西方騎士団による破壊工作と置き土産が功を奏して、進撃速度はかなり遅いようです」

 

「そうか」

 

「やはり置き土産に物資が欠乏していたのが効いているようですね」

 

「うむ」

 

 秘書の言葉にカナタは頷く。

 

 元々ギムで水と食糧を確保する算段だった為、必要最低限の量しか持ち込んでいなかったロウリア王国陸軍はすぐに本国に水と食糧の輸送を要請する。

 しかしこんな早期に水と食糧の輸送が行われると想定していなかったとあって、その準備に手間が掛かり、その上輸送に時間を有した。

 

 しかも、輸送部隊が道中何者かに襲われて立ち往生し、補給が予定より大幅に遅れた上に補給物資も半分近くを失っていた。

 

 その為、ギムでは素行の悪い兵士が水と食糧を奪い合う事態に発展しており、怪我人が多く発生していた。特に水の奪い合いが多かったそうな。

 

「トラック泊地より派遣された部隊はどうなっている?」

 

「現在ダイタル平原に設営した基地にて部隊を配置しているようです。エジェイでも防衛線を構築し、エジェイの防衛隊と共同で迎撃準備を整えていると」

 

「そうか。海であれだけの力を示した彼らだ。陸でもその力を発揮してくれるだろう」

 

 カナタはそう口にして息を吐く。

 

「それに、エジェイの防衛隊はこの日の為に戦力を集めておりますので、防衛自体は何とかなるでしょう」

 

 秘書の言葉に、会議室に安心感が漂っていた。

 

 ロウリア王国との戦争に備えて、エジェイでは日夜猛訓練が行われていたので、少なくとも海軍よりかは銃火器の扱いに慣れているとも言える。

 

 

「首相。先日『大和』殿が提案した作戦ですが」

 

 と、軍務卿が挙手し、口を開く。

 

「首相は、どう考えていますか?」

 

「……」

 

 カナタ首相は腕を組み、静かに唸る。

 

「うまくいけば、ギムに集結している敵部隊を一掃できるが……」

 

「しかしこれではギムの被害は甚大になります……」

 

 軍務卿を含む軍関係者が苦虫を噛んだような表情を取る。

 

「それに、我々はまだ彼らの技術に未熟とは言えど、難しいと言わざるを得ません」

 

 軍関係者の一人がそう言うと、誰もが腕を組み、静かに唸る。

 

 『大和』はある作戦を彼らに提案していた。だがその内容はかなり難関なものであったが、成功すれば侵攻したロウリア王国軍を一掃出来る。

 しかしその為にギムへの被害は甚大なものになるという。

 

「ギムには我が国の者はいないし、何よりギムは再開発を計画していた。多額の費用と人員が必要になると半ば計画は凍結されていたが」

 

 カナタ首相はギムの再開発計画のことを口にしながら、政治部会に参加している面々を見る。

 

 ギムは公都より大分離れているので、ギムの再開発は中々進まないでいた。それに加えてロウリア王国と国境が近いとあって、情報漏洩を恐れて中々開発が進まなかったのもある。

 

 その上、ギムは古い建築物が多く、町の構造上開発しにくいとあって、再開発計画に掛かる費用と人材はとても無視できないものであった為、計画を凍結し、インフラのみを施して敢えて古風な建築物を残す方向で進めていた。

 しかしそこへロウリア王国の侵攻であった。

 

「この際、彼らの提案に乗ると?」

 

「うむ。敵に奪われた以上、奪還しても復興に時間と労力は掛かる。この作戦を承認すれば、ギムの市街地は実質的に壊滅するが、むしろ再開発は逆にしやすくなる」

 

「それはそうですが……」

 

「まぁこの件については、この後ある彼らを交えての会議で決めようではないか」

 

 カナタ首相がそう言うと、ひとまず会議は一旦の終わりを見せた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 同時刻 マイハーク港外

 

 

 マイハーク沖でロウリア王国海軍の艦隊を殲滅させた派遣艦隊は、救助したロウリア王国の捕虜をクワ・トイネ公国に引き渡す為に、トラック泊地に帰る前に燃料の補給を兼ねてマイハークに立ち寄っていた。

 

 

 港外に投錨して停泊している航空母艦 『武蔵』。戦闘情報管制室にて『大和』と『紀伊』の他に一部KAN-SEN達が集まっていた。

 

「身も蓋も無いが、予想通りの結果だな」

 

 『紀伊』が『ニューカッスル』より紅茶が淹れられたティーカップを載せたソーサーを受け取りながらそう言うと、KAN-SEN達が苦笑いを浮かべる。

 

「そりゃ技術力が天と地の差で違うんだ。当然の結果だろ?」

 

 と、頭の後ろを掻きながら『クリーブランド』が『紀伊』にそう言う。

 

「不確定要素だった魔法も全く確認されず。ワイバーンの力量も情報どおり。『Z23』の言う通りこの戦力で来たのは過剰だったな」

 

 改めて戦闘結果を確認して、『大和』はため息を付く。

 

 しかし戦争と言うのは、戦力は相手より過剰である方がちょうど良い。それが不確定要素のある戦闘なら尚更だ。

 

「これだと、私達と入れ替わる形で来る『ビスマルク』達も戦力としては過剰になるな」

 

「まぁ、防衛戦力が多い事に困る事は無い。彼女達にはこのまま来てもらう」

 

 『クリープランド』の言葉に答えつつ、『大和』は全員を見回す。

 

「ともかく、これで敵は海軍の主力を失った。少なくとも、海から再び攻めて来ることは無いだろう」

 

 『大和』はこの場に居るKAN-SEN達を見回しながら呟くと、左手に持つソーサーに載せているティーカップを手にして紅茶を飲む。

 

 まだ自国の防衛を行うだけの戦力は残っているだろうが、4000隻もの戦力を失った以上、これ以上海から侵攻する事は考えないだろう。

 

「陸の方はエジェイにて『三笠』司令が率いる陸戦隊と『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』率いる戦車部隊、エジェイの防衛隊も展開している。既に公国から借りているダイタル平原に『グローセ』率いる砲兵部隊、設営した飛行場にはトラック泊地から航空隊が到着して、後で『蒼龍』が率いる爆撃隊もやってくる」

 

「陸の方は大丈夫そうだな」

 

「あぁ」

 

 『大和』は『紀伊』に相槌を打ってから、ディスプレイに表示された地図を見る。

 

「それで、今後どう動くか、だな」

 

「うむ……どうするか」

 

 『大和』は『ベルファスト』に空になったティーカップをソーサーごと返しながら、地図を見ながら呟く。

 

「戦争が長引くと、ロウリア王国全土から戦力が集結するだろうな。そうなると、面倒な事になるぞ」

 

「分かっている」

 

 『紀伊』はロウリア王国の南方から北方を指差しながらそう伝えると、『大和』は顎に手を当てる。

 

「ロウリア王国の性格を考えると、最後の一兵になるまで戦い続けるだろうな」

 

「あぁ。恐らくな」

 

「……」

 

 『大和』が『紀伊』の言葉を肯定すると、『武蔵』は息を呑む。

 

「技術的優位はこちらにあると言っても、戦力が少ないこちらは長引けば長引くほど不利だ」

 

「……」

 

「戦争を早期終結させる為には……やはり中枢を破壊するのが手っ取り早いか」

 

「結構大胆な事を言うんだな、総旗艦」

 

 『大和』の言葉に『クリーブランド』は思わず苦笑いを浮かべる。

 

「けど、そんな事をすれば、戦後のロウリア王国との関係は悪くなるわよ。それどころか、復興の障害になるわ」

 

 『大和』の大胆な案に『プリンツ・オイゲン』は苦言を呈する。

 

「分かっている。実際に中枢を破壊するわけじゃない。要は敵のトップをどうにかすればいい話だ」

 

「敵のトップ……まさかロウリア王国を国王を暗殺しようなんて考えては……」

 

「さすがにそこまで考えていない。『プリンツ・オイゲン』の言う通り、そんな事をすれば戦後の関係悪化は免れない」

 

 『武蔵』の疑問に『大和』は否定しつつ答える。

 

「ならどうするんだ? まさか国王を拉致ろうなんて考えているんじゃ」

 

「……」

 

「マジかよ」

 

 『大和』は沈黙するが、それは肯定の意である事に他無い。『紀伊』は呆れたように声を漏らすが、さほど驚いたような様子は無い。彼は既に聞いているからだ。

 

「まぁ、この辺の云々はこの後あるクワ・トイネ公国との会議で話し合ってくれ」

 

「分かった。任せておけ」

 

「あれ? 総旗艦が出席するんじゃないのか?」

 

 首を傾げた『クリーブランド』が『大和』に問い掛ける。

 

「『紀伊』が代わりに出席して、俺はこの後トラックに戻る。改装と調整が終わった俺の艤装を取りに行く」

 

「兄様の艤装が」

 

「ということは、総旗艦様が自ら出撃なされるのですか?」

 

「あぁ」

 

 『扶桑』が問い掛けると、『大和』は頷く。

 

「『蒼龍』の艤装はまだ完成していないし、『赤城』と『加賀』、『イントレピッド』『バンカーヒル』『シャングリラ』は改装中で動けない。『アークロイヤル』と『グラーフ・ツェッペリン』は作戦に向けて待機中。五航戦は次の作戦に向けて補給と編成変更の為に戻らないといけないからな。『エンタープライズ』と『エセックス』に同行できる空母は俺だけだ」

 

 『大和』の説明に『扶桑』を含むKAN-SENの面々は納得したように頷く。

 

 トラック泊地に所属するKAN-SENは、前の世界での環境下も相まってそれほど数がいない。その上その艦隊を構成する艦船の比率は戦艦、空母が多めと、かなりバランスが悪い。

 

 戦力不足と艦種のバランスの改善しようにも、KAN-SENの建造に必要なメンタルキューブが不足しているので、KAN-SENの増員は難しい現状にある。

 

 そもそもな事を言ってしまうと、この世界でもKAN-SENが建造できるのかどうかも試していないので分からないのだが。

 

「なら、あの二人(・・・・)も投入するのか?」

 

「いや、あの二人はまだ投入しない。なるべくこちらの手の内を晒したくない」

 

「そうか。まぁ、あの二人を投入する場面でもない、か」

 

 『紀伊』は呟きつつ、納得するのであった。

 

「『紀伊』。お前はクワ・トイネ公国と会議を終えた後、話した時刻にて例の作戦に当たってくれ」

 

「分かった。任せておけ」

 

「例の作戦?」

 

 『大和』が『紀伊』にそう伝えて彼がうなずくと、『クリープランド』が首を傾げる。

 

「あぁ。みんなまだ言ってなかったな」

 

 彼はそう言うと、タブレット端末を操作してディスプレイにデータを表示させる。

 

「クワ・トイネ公国に提案しているが、『紀伊』には単艦であることをしてもらう。エジェイの防衛が終わった頃にな」

 

 ディスプレイに表示されたデータを見て、参加しているKAN-SEN達が驚いたような表情を浮かべる。

 

「これは……」

 

「この大陸の地形が変わりそうね」

 

 『扶桑』は声を漏らし、『プリンツ・オイゲン』は呆れた様子で呟く。

 

 

 

 その後ある程度を話し合い、『紀伊』と数人のKAN-SENを残して艦隊は『大和』と共にトラック泊地への帰路に付く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 中央歴1639年 4月16日 ロウリア王国 王都ジンハーク ジンハーク城

 

 

「……」

 

『……』

 

 その場の空気は呼吸が出来ないとも思えるぐらいに張り詰めていた。

 

 怒っているとも、困惑しているとも、驚愕しているとも見て取れる、微妙な表情を浮かべるロウリア34世は冷や汗を掻いているパタジンに問い掛ける。

 

「パタジンよ。その報告は、間違いないのだな?」

 

「じ、事実でございます。艦隊指揮官のシャークンより敵艦隊から攻撃を受けていると言う魔力通信を最後に通信が途絶え、出撃した400騎のワイバーン隊が全騎未帰還となった以上、そう判断せざるを得ません」

 

 パタジンは震える声で報告すると、ロウリア34世は椅子に座る。

 

「何ということだ。まさかこのような事になろうとは」

 

 震えるロウリア34世は片手を頭に当てると、キッ! とパタジンを睨む。

 

「なぜこのような事態になったのだ!! 一体何が起きたというのだ!!」

 

「お、落ち着いてください、陛下! シャークンより送られた報告があまりにも荒唐無稽な内容の為、現在原因調査と、報告の信憑性を確認しているところです」

 

 怒りに身を任せて怒鳴る王に対して、パタジンは息を呑みつつ答える。

 

 まぁどう考えても、4500隻の軍船に400騎のワイバーンという必ず勝てる戦力を送り出したのだ。当然誰もが勝てると確信していただけに、この完全敗北は寝耳に水だった。

 

 それに加え、要領を得ない報告が彼らにより一層不安と怒りを煽った。

 

 

『敵のワイバーンみたいな物に導力火炎弾みたいな攻撃を受けた』とか

 

『我が軍のワイバーン隊が敵のワイバーンみたいな物に翻弄されて多くが撃ち落された』とか

 

『巨大な鉄の軍船が出現した』とか

 

『巨大軍船の何かしらの攻撃でワイバーン隊が全滅した』とか

 

『火の雨が降り注いだ』

 

 等々、挙げていけばキリが無い。

 

 

 普通であれば正気を疑うと思われてもおかしくない。

 

 しかし、ワイバーンが全滅して艦隊が壊滅した以上、敵が何かしらの強力な魔法を用いたと推測するしかなかった。それに、巨大な鉄製の軍船など、想像が出来ないでいた。

 なので、パタジンは王に『調査中』と報告した。荒唐無稽な事を報告して、自身の首を物理的にも、比喩的にも刎ねられたくないないのだから。

 

「……いずれにせよ、被害は事実だ。今後このようなことがあっては困るぞ」

 

 落ち着きを取り戻したロウリア34世はため息を付き、パタジンに厳命する。

 

「ははっ!!海戦の敗因が判明するまで、海軍による積極的進出は控えます。ただ、陸上部隊は数がものを言います。亜人の姑息な罠で被害こそ被りましたが、ギムは既に陥落済みでございます。以降の作戦は万全を期しておりますゆえ、陸上部隊だけでも公国を陥落させることは容易にございましょう。陛下におかれましては戦勝報告を多いにご期待くだされ」

 

「パタジンよ。此度の戦はそなたにかかっている。期待を裏切るようなことがないように頼むぞ」

 

「ははっ! ありがたき幸せ!!」

 

 パタジンは深々と頭を下げる。

 

「……」

 

 ロウリア34世は椅子の背もたれにもたれかかり、深く息を吐く。

 

 

 

 その日の夜。王は眠れない一夜を過ごすことになったとか……

 

 




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