異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
中央歴1639年 5月27日 ロウリア王国 東方征伐軍先遣隊 司令部
先の海戦での大敗北は、前線の部隊の士気低下を招く懸念がある為、軍中枢の決議により最前線の兵に対してその情報は遮蔽された。一部の高級幹部を除いて、誰にも知られないように情報統制された。
本来であれば急な戦略変更は前線に居る将校に疑問を持たれるものだが、ギムで想定外の損害を受けたとあって、戦略変更に疑問に持つ者は少なかった。
ギムに仕掛けられた置き土産や、現地で確保する算段だった食糧と水の不足に悩まされながらも、東方征伐軍先遣隊は体制を整えて、東部諸侯団はエジェイ攻略へと動いた。
そしてエジェイから4km先にて野営陣地を敷いて、その時を待っていた。
「導師ワッシューナよ、連中の行動、どう思う?」
「私には、何とも。やつらの意図が分かりません」
野営陣地から近い所にある高い丘より、ジューンフィルア伯爵は魔道士ワッシューナに問い掛けるも、彼は答えられなかった。
彼らから遠く二人の視線の先では、クワ・トイネ公国の要塞都市エジェイの城壁が見えている。
要塞都市エジェイはクワ・トイネ公国が来るべきロウリア王国との戦争に備えて作り出した都市である。町そのものが要塞であり、城であり、基地なのだ。
二人の視界にはエジェイの城壁が映っている。それだけなら二人共疑問に思うことは無いのだが、問題は城壁の前である。
挑発行動を兼ねた偵察隊の騎馬兵によれば、クワ・トイネ公国軍の兵士の中に、明らかにクワ・トイネ公国とは異なる兵士が目撃されて、城壁前で大きな穴を掘っていた。
中にはドワーフみたいな生物と、巨大なヒヨコが作業をしていたという報告もある。
「もしかすると、ギムで多くの死傷者を出した罠を仕掛けているのでは?」
「確かに穴を掘っているが、わざわざ我々に見えるように掘っては罠の意味が無いではないか」
「……それもそうですね」
二人はギムに仕掛けられて多くの死傷者を出した落とし穴の事を思い出すも、敵に仕掛けている所を見られてしまったら、罠の意味が無い。
「それに、あの穴を掘っていた物は、一体何なのだ?」
特に二人が不安を覚えていたのは、穴を掘るのに大きな物が使われていたことにあった。
見た事が無い物で、人が操っているようにも見えた。
「しかし、未だに負傷者が多いと言うのに、この進軍。些か早急では無いか、あの男は」
ジューンフィルアは呆れたようにため息を付いて声を漏らす。
ギムに仕掛けられていた罠の影響で兵士の士気は下がり、その多くが負傷して、中には破傷風で苦しむ兵士が居る。その上食糧と水不足に悩まされているとあって、とても万全な状態ではなかった。
しかも素行の悪い兵士による暴力沙汰が多発しているので、兵士達の空気は険悪。とてもじゃないが士気はお世辞に良いとは言えない。
にも関わらず、彼らに下された指令は以下の通りであった。
『東部諸侯団は城塞都市エジェイの西側4km先まで進軍し、陣を構え、エジェイに威力偵察を実施せよ。本隊合流後、エジェイ攻略作戦を開始する』
指令主は主将名だが、問い合わせは最近すこぶる不機嫌な状態が続いている副将アデムである。
「アデム殿はギムの一件もありますでしょうし、汚名返上に躍起になっているのでは?」
「あの男の場合、それだけではないだろう……」
根っこからの亜人撲滅派の男が、果たして汚名返上だけで動いているのだろうか。明らかに個人的な感情で動いている節がある。
「まぁいい。指令が出された以上、やるしかあるまい」
「はい。本隊と合流次第、進撃しましょう」
「うむ」
ジューンフィルアは頷き、二人は丘を降りて野営陣地へと戻っていく。
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城塞都市エジェイ
ロウリア王国との戦争に備えて作られた都市は、地形も相まって強固な要塞となっている。
それに加えて、トラック泊地からの軍事援助もあり、その様相を変えていた。
城壁にはブローニングM2重機関銃や対空銃座として零式機銃が多く配備されており、少数であるが、ボフォース 40mm機関砲が配備されている。
今は地上と上空から見えないように偽装されているが、エジェイより離れた場所に榴弾砲が配置されている。
その火力は以前とは比べ物にならないものになっている。
その上少数ではあるが、装甲車と戦車が切り札として配備されている。
これだけでもエジェイを防衛出来そうだが、数は決して多くない上、まだ全員が銃火器や兵器の扱いに慣れているわけではないので、ロウリア王国軍の物量の前では不安しかない。
だからこそ、援軍としてトラック泊地より陸戦隊が派遣され、部隊を展開していた。
「ノウ将軍。ロウリア王国軍の動きは未だに無いのですね?」
「えぇ。どうやら連中は戦力を揃えてここに攻め込むようですな」
エジェイの司令部でトラック泊地陸戦隊を指揮する『三笠』が西部方面師団司令官、ノウ将軍に問い掛けると、彼は『三笠』の質問を肯定しつつ、ロウリア王国軍の動きを予想する。
「ならば、予定通り明日攻撃を開始します。一応確認しておきますが、ロウリア王国軍の野営地付近にあなた方の兵は残っていないでしょうか?」
「偵察隊は既に下がらせております。なので、敵しか居りません」
「分かりました」
『三笠』は頷くと、通信兵の妖精を呼び出して各部隊に攻撃準備の指示を伝える。
「……」
そんな『三笠』の姿をノウは静かに見守っている。しかしその視線は何処と無く気に入らないような感情が孕んでいる。
彼は正直な所トラック泊地の事を快く思っていない。領空を侵犯し、その後砲艦外交をしてきて条約を結んだのが気に入らないし、あまりにも荒唐無稽な話が多いのが原因であった。彼は別に男尊女卑な思想では無いが、何より彼が気に入らないのは、女子供が多く居る事であった。まぁ彼自身KAN-SENの力を目にしていないので、そう考えるのも無理は無い。
しかし、現場からの叩き上げで今の地位に居るノウは、『三笠』と会った時に感じたのは、幾多の戦場を潜り抜けてきた猛者の風格であった。それだけは認めている。
KAN-SENの事は気に入らないが、彼らの武器兵器の威力は理解しているので、今は『三笠』の指揮がどんなものか見物するのであった。
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中央歴1639年 5月28日 ロウリア王国東部諸侯団 野営地
翌日、ロウリア王国軍東部諸侯団は本隊と合流し、進撃準備を整えた。
「……」
号令を掛ければいつでも進撃が出来る状態の兵士達を高い丘から見渡すジューンフィルアは、胸中に不安を抱いていた。
(なぜだろう。朝から胸騒ぎが収まらん)
その不安からか、まだ暑いといえる季節ではないにも関わらず、朝から汗が止まらない。
ただ体調が悪いかと思ったが、身体に倦怠感は無い。ただ汗が出ているだけだ。
(気のせい、だと良いんだが)
不安から息を呑むも、頭を切り替えてエジェイを見る。
エジェイに動きは無いが、しかし何度も挑発行動を取って来ているので、向こうの我慢も限界の頃だろう。これから何かしらの動きを見せるかもしれない。
今が攻め時だ。
ジューンフィルアは進軍を命じようとした。
だが、彼らは一歩遅かった。
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時は遡る事少し前。
ダイタル平原
「……」
平原に設営された基地の東側に展開した砲兵隊の近くで、足元にまで届きそうなまでに伸びた黒い髪に、頭には二本の赤い角が生えた女性ことKAN-SEN『フリードリヒ・デア・グローセ』が目を瞑り、静かに佇んでいる。
トラック泊地のKAN-SENの中には、出撃が無い時は陸戦隊の指揮を取る事がある。『三笠』が陸戦隊の指揮を取るように、戦車隊は『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』がそれぞれ指揮を取り、『グローセ』が砲兵隊の指揮を取っている。尤も、彼女の場合は特殊なやり方ではあるが。
砲兵隊がトラック泊地より持ってきたのは『75式自走榴弾砲』と『75式自走多連装ロケット弾発射機』『FH 155mm榴弾砲』である。
各兵器は所定の位置に配置され、上空から位置を特定されづらいように偽装ネットが上に張られている。
後方の基地にある飛行場では、トラック泊地の飛行場より飛んできた陸上戦闘機仕様の
ちなみに天雷とは、疾風を二機横に繋げた様な外観をしている四発の重戦闘機である。これは通常の双発機と違い双子機であり、パイロットが二名それぞれの胴体に搭乗する。これによりパイロットが交代しながら機体の操縦を行うことで長期稼動が可能となる。
武装は疾風二機分とあって、零式機銃を八門搭載し、陸用爆弾の他にロケット弾を搭載出来るように改造されている。
しかし元々ある目的で開発された機体とあって、使い勝手はあまり良くないが、航続距離の長さから、爆撃機の護衛機として重宝されている。
「グローセさん! 三笠司令より攻撃開始命令です!」
すると通信兵の妖精が『グローセ』に近付き、彼女に『三笠』からの指令を伝える。
目蓋を閉じていた彼女は頷いてゆっくりと開ける。
「全部隊に通達。攻撃開始」
彼女は静かにそう告げると、通信兵の妖精は展開している砲兵隊へと連絡を入れる。
「……」
『グローセ』は西を見て、身に纏っている漆黒のドレスの腰に提げている指揮棒を手にする。
「さぁ、奏でましょう。戦場の女神達による、あなた達への
右手に持つ指揮棒を高らかに掲げると、砲兵達がいつでも発射出来るように身構える。
「そして、聞き入りなさい。憎悪、恐怖、絶望を」
そして彼女が指揮棒を勢いよく下ろすと同時に、75式自走榴弾砲とFH 155mm榴弾砲が轟音と共に火を吹き、75式自走多連装ロケット弾発射機より順にロケットが放たれる。
遅れて別の陣地に展開している砲兵隊も砲撃を開始する。
『グローセ』はまるで演奏を指揮する指揮者のように指揮棒を振るう。それに沿うように榴弾砲が吠え、ロケット弾が飛翔する。
それはまるで、大砲と言う名の楽器で、彼女が奏者を指揮して、戦場と言う名の音楽を奏でているようである。
そして『グローセ』の指揮に沿うように砲撃を行う砲兵隊の妖精達も、特殊な訓練を受けているとあって、彼女の指揮を読み取って砲撃を行っている。
放たれた砲弾は弧を描いて飛翔し、違ったタイミングで砲撃した砲兵隊の放った砲弾は、全て同時にロウリア王国軍へと降り注いだ。
「なっ!?」
突如として隊列の真ん中が大きく爆発し、土煙が上がる。
僅かに遅れて轟音が平野部に響き渡る。
「な、何だ!? 何が起きたんだ!?」
ジューンフィルアが叫ぶも、答えられる者は居ない。
猛烈な爆発は次々と起こり、兵士達の隊列が乱れ始める。爆発はその場にあった土と、そこに居た人間だった物を空へと舞い上げる。それが何度もあちこちで起きる。
正体不明の攻撃に、全軍が恐慌状態に陥り、兵士達は四方八方に逃げ戸惑う。
続けて先ほどより小さな爆発があちこちに次々と発生し、近くに居た人間が粉々に吹き飛び、四肢や内蔵を辺り一面にぶちまける。
大きい爆発と小さな多くの爆発が戦場に吹き荒れ、一瞬の内に大量の人間が地に伏した。
「ば、馬鹿な!? こんな、こんな事がぁっ!?!?」
ジューンフィルアは、現実離れした光景を前に、呆然と立ち尽くす。
「初弾命中! 砲兵隊! 効力射に移行!」
エジェイ防衛隊の通信兵の報告を聞き、城壁の上で軍刀を床に付けて柄頭に両手を置いて戦局を見守る『三笠』は静かに頷く。
「……」
その隣では、ノウが望遠鏡を覗き込み、その光景に息を呑む。
敵陣地であちこちで次々と大小様々な爆発が起こり、敵兵が土と共に宙を舞い、バラバラになる。
華やかな戦いや、騎士道精神がある戦いではなく、効率的に敵兵が処刑されていく現実離れした光景に、ノウはただただ打ちひしがれる。
彼らの兵器の威力は訓練で知っていたが、実戦でその威力を目の当たりにすると、改めて威力の凄さを理解せざるを得ない。
そして初弾で命中させた彼らの実力を目の当たりにする。
(これが、トラック泊地の力、なのか……)
ノウは自分達とトラック泊地の実力の差を、深く心に刻む。
「ノウ将軍。エジェイの砲兵隊に砲撃指示を。一気に畳み掛けます」
「あ、あぁ。分かった」
ノウ将軍は頷き、エジェイ所属の通信兵に砲兵隊へ砲撃指示を出す。
直後、エジェイ周辺にある砲撃陣地よりFH 155mm榴弾砲が一斉に敵陣地へと火を吹く。
数秒後、敵陣地に土煙が上がる。
砲撃精度はトラック泊地の砲兵隊と比べて良くなかったが、それでも敵に対する効果はあり、むしろばらけている敵兵に対して有効的であった。
このまま砲撃を続ければ敵部隊の全滅も時間の問題だろう。
「『三笠』司令! 敵騎馬隊が接近中!」
「……」
と、通信兵より報告が入り、『三笠』が目を細める先には、砲撃に臆する事無くこちらに向かってくる騎馬隊の姿が確認される。
「来たか。『シャルンホルスト』、及び『グナイゼナウ』に連絡。戦車隊は敵騎馬隊に対して攻撃を開始せよ」
「ハッ!」
通信兵が返信へと走る中、『三笠』はノウに向き直る。
「ノウ将軍。万が一に備えて、城壁の部隊に攻撃準備を」
「分かった。いつでも撃てるようしておく」
『三笠』より要請され、ノウはすぐに伝令で城壁に待機している部隊に命令を出す。
大和原作の大型四発機の名称は元から無いので、本作オリジナルになっています。
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