異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第二十二話 エジェイ防衛線 弐

 

 

「来たな」

 

 エジェイの城壁前に掘られて上から偽装ネットを被せて偽装している戦車壕の中で、双眼鏡を覗き込んでいる一人の女性が接近している騎馬隊を確認する。

 

 淡い紫の髪を伸ばし、南半球の一部が露出した特徴ある服装に、片目を眼帯で覆っている隻眼の女性ことKAN-SEN『シャルンホルスト』は通信が入り、耳に手を当てる。

 

『「三笠」司令より「シャルンホルスト」及び「グナイゼナウ」へ。接近中の騎馬隊に対して攻撃を開始せよ!』

 

「Jawohl.」『Jawohl.』

 

 二人はそれぞれ返事をして、『シャルンホルスト』は次に喉に手を当てる。

 

「各車、エンジン始動!」

 

 彼女は指示を出しながら自身の乗る74式戦車に登り、エンジン始動と共に乗り込んでハッチを閉める。

 

 すぐに74式戦車を覆っている偽装ネットが妖精達によって取り払われる。

 

「車体を上げろ。砲手、砲撃用意!」

 

 彼女の指示を受けた74式戦車の乗員である妖精と巨大なヒヨコこと『饅頭』達はそれぞれの仕事をこなす。

 

 74式戦車の車体が油圧式サスペンションによってゆっくりと持ち上げられ、砲塔だけが塹壕より出る。

 

「目標、敵騎兵団! 弾種榴弾!」

 

 『シャルンホルスト』の指示を受け装填手の妖精が榴弾を戦車砲の薬室へと装填し、砲手が接近している騎馬隊へ狙いを定める。

 

「まだだ。まだ引き付けろ」

 

 彼女はすぐに射撃指示を出さず、敵を引き付けつつその時を待つ。

 

 

 

「進め! 進め!!」

 

 ロウリア王国軍の騎馬隊は決死の覚悟で相棒を走らせ、部下達に発破を掛ける様に指揮官が吠える。

 

(おのれ!! よくも仲間達を!! この死はお前達の命で償ってもらう!!)

 

 家族ぐるみの付き合いの部下達を失い、指揮官の目には怒りの炎が宿っていた。

 

 謎の攻撃で多くの仲間が失われたが、まだ彼らの闘志は失われていない。

 

 騎馬の機動力を活かして一気に敵の懐に接近し、この身を犠牲にしてでも一矢報いる。その勢いで彼らはエジェイへ向かって走る。

 

 

「Feuer!!」

 

 そして『シャルンホルスト』が命令を下した瞬間、塹壕より砲塔のみを出した74式戦車の主砲が一斉に轟音と共に火を吹く。

 

 直後、接近中の騎馬隊へ榴弾が着弾し、爆発と共に破片が騎兵と馬に襲い掛かり、一瞬にしてその命を刈り取る。

 

 先頭の騎馬が狙われたので、後ろから続く騎馬は巻き添えを食らうか、吹き飛ばされる馬の死骸や騎兵の死体にぶつかって落馬して後続の馬に踏み潰され、一部は轟音に馬が怯えて立ち止まり、そこに榴弾が着弾して一瞬にして肉塊と化してしまう。

 

 しかしそれでも騎馬は果敢にエジェイを目指して走る。そうでなければ自分が死ぬのだから。

 

「砲撃続行! 立っている敵がいなくなるまで撃ち続けろ!」

 

 『シャルンホルスト』が叫ぶと共に74式戦車に加え、城門が開かれて中から出てきたエジェイ防衛隊の61式戦車の主砲が次々と火を吹き、その度に多くの騎兵が相棒の馬諸共粉々に粉砕されて命を刈り取られていく。

 

 そんな中でも運良く生き延びた騎馬はエジェイへと接近するが、次に彼らを襲ったのは弾丸の雨である。

 

 距離が縮まった事で74式戦車各車の砲手は砲塔横の同軸機銃を、車長と装填手が砲塔天板に設置されたブローニングM2重機関銃と62式機関銃による掃射を行い、瞬く間に騎馬隊の数を減らしていく。

 

 そんな一方的な戦闘により、騎馬隊は完全に戦意を喪失して逃げ出そうとするが、判断があまりにも遅すぎた。

 

 エジェイの城壁の各所に配置された零式機銃、ボフォース 40mm機関砲、ブローニングM2重機関銃による銃撃、更に迫撃砲による砲撃も加わり、騎馬隊は相棒諸共肉塊と化した。

 

 騎馬隊の決死の突撃も、ただの無駄死にと化したのだった。

 

 

 

「……」

 

 周囲に砲弾が降り注ぐ中、ジューンフィルアは効率的に殺処分される大量の部下を見て絶望し、両膝を地面に付けて打ちひしがれていた。

 

 今まで戦ってきた戦友、歴戦の猛者、優秀な将軍、家族ぐるみの付き合いのあった上級騎士、共に強くなる為に汗を流した仲間達……

 

 全てが……虚しくなるほど、泣きたくなるほど、あまりにもあっさり死ぬ。

 

 小高い丘の上の観客席から、悲劇の全てが彼の目に映った。精強なロウリア軍は猫に追われるネズミのように、ただただ逃げ回って爆炎に消えていく。果敢に駆け出した騎馬隊も、一方的に、ただただ一方的にその命を散らしただけに終わってしまった。

 

 今更後悔しても遅い。地獄の釜の蓋を開け放ったのは我らなのだ。

 

(すまない……すまない……)

 

 次々と死に逝く部下達に、胸中でただただ謝罪の言葉を繰り返すジューンフィルアだった。

 

 

 だが、死神は彼だけを逃がしてはくれなかった。

 

 

「――――ッ!」

 

 押されたような衝撃と共に、自分の体がバラバラになって飛んでいく姿、それが彼の人生最期の記憶になった。

 

 

 地面の表面を抉る破壊の痕の残った大地。強大な力が息を潜め、土煙が去った後、ロウリア軍に立っている者は馬を含めて1人もいなかった。

 

 

 

 

「敵部隊、沈黙しました」

 

「……」

 

 エジェイにて双眼鏡を覗き込み、動いている者がいないのをエジェイ防衛隊の兵士が『三笠』に報告し、彼女は静かに頷く。

 

「……」

 

 攻撃の一部始終を見ていたノウは呆然と立ち尽くす。

 

(これほどとは……)

 

 砲撃と言う相手のアウトレンジからの攻撃の凄さに息を呑み、同時に気持ちの昂りを覚えていた。

 

(これは、この砲撃こそが地上の戦闘の勝敗を決める。今後我々が持つべき力は、この砲撃能力だ!)

 

 ノウは一つの確信を抱き、その後彼は砲撃に関する戦術と知識を学ぶようになる。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

「ノウ将軍。今後の事について色々と話したいのですが、宜しいですか?」

 

「あぁ。分かった」

 

 『三笠』とノウは今後の動きについて話し合う為に、会議室へと向かう。

 

 

 

 

「終わったみたいだな」

 

「そうですね」

 

 エジェイの前にある塹壕より車体を出した74式戦車の前で、二人の女性が戦闘の終わりを確認していた。

 

「全く。グローセ姉さんには困ったもんだ。せめて私達戦車隊の取り分ぐらい残して欲しかったな」

 

「それについては否定しませんが、敵を殲滅出来たので、それで良いのでは?」

 

 不満げな『シャルンホルスト』を宥めるように、彼女と同じ淡い紫の髪に碧眼、赤いアンダーフレームの眼鏡を掛けて知的な雰囲気を纏う女性ことKAN-SEN『グナイゼナウ』は声を掛ける。

 

 彼女達の出番こそあったが、殆どの敵を砲兵隊の砲撃によって仕留められていたので、戦車隊が相手にしたのは騎馬隊のみ。しかもその騎馬隊も多くがエジェイの城壁に設置された兵器群の攻撃でも仕留められている。

 

 つまるところ、彼女達には物足りない結果となった。

 

「まぁ、今後私達の出番が無いわけではないので、ここは我慢しましょう、姉さん」

 

「……ふん」

 

 『グナイゼナウ』は姉にそう言いながら棒付きキャンディの包みを取って口に咥え、納得が行かない雰囲気の『シャルンホルスト』は腕を組んで鼻を鳴らす。

 

 

 ちなみに疑問に思われているかもしれないが、なぜわざわざKAN-SENが自身の力ではなく、別の兵器を使って戦っているのか、と。

 

 KAN-SENは人の姿をしているが、艤装を展開すれば彼女達は軍艦のスペックを発揮する事が出来る。

 

 武装は軍艦形態と違いサイズ相応の威力しか出ないが、装甲と馬力に関しては軍艦のスペックそのものが発揮される。

 

 シャルンホルスト級に例えるなら、馬力は12万5000馬力を持ち、装甲は最低でも45mmから最大で350mm並の硬さを持つ。

 

 つまり剣や槍、弓矢ぐらいしかない人間であれば、KAN-SENが相手では到底敵わない。軽く捻り潰されるのがオチである。

 

 しかしそれは少数であればという条件であって、多勢に無勢な状況であれば、攻撃が通じなくてもさすがにKAN-SENでも苦戦しかねない。

 

 その為、今回のような大人数を相手にする戦闘では、あえてKAN-SENとしての力ではなく、別の兵器を用いることが最善なのだ。

 

 

 だが、逆を言えばKAN-SENは艤装を纏っていなければ、多少身体能力が高い人間と変わらないのだ。

 

 

 ともあれ、エジェイ防衛はロウリア軍の全滅と言う一方的な結果となって、終わりを告げるのであった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 中央歴1639年 5月26日 クワ・トイネ公国 マイハーク

 

 

 時系列は遡る事一日前。 

 

 

 

「……」

 

 マイハークの港の埠頭に、一人の男が海を見つめている。

 

 港は既に派遣艦隊が去った後であり、残っているのはクワ・トイネ公国海軍の乙型哨戒挺とヤクモ級重巡洋艦とウネビ級軽巡洋艦、マツ級駆逐艦、そして別の港にて待機しているKAN-SEN達のみである。しかし後日にはクイラ王国での防衛任務を終えて派遣艦隊の第二陣と入れ替わる形で『ビスマルク』達がやってくる。

 

 その男こと『紀伊』は目を瞑ると、彼の背中を中心に身体中に光が集まり、やがて形作って光を散らせる。

 

 光が晴れると、『紀伊』はKAN-SENの力の源である艤装を身に纏っていた。

 

 かの世界では世界最大にして最強と謳われ、連合軍からは『モンスター』と恐れられた不沈戦艦の艤装は、その名に恥じない立派なものである。

 

 煙突と三本マストを含めたメインユニットから太く多関節を持つアームが左右二本ずつあり、その先には紀伊型戦艦の象徴であり、最大の武器である45口径51cm三連装砲が接続されている。砲身を含めて紀伊の身長並みにある巨大な砲塔を右側に二基、左側に一基持ち、左側にあるアームは砲塔の他に艦尾付近を模したユニットを持っている。両肩には55口径20.3cm三連装砲を模した艤装を肩当ての様に装着している。

 額には艦首を模した菊花紋章を持つ額当てを装着し、後ろに向かって真っ直ぐ伸びた角には電探と思われる網目状の艤装が纏っており、両腕と両脚には龍の手足のようなゴツゴツとして鋭く尖った爪を持つ篭手と脛当て、鋭く尖った爪を持つ靴を装着している。尻尾にも鎧の様に艤装が身に纏い、高角砲や機銃が並べられている。腰の両側には艦首側の形状を模したと思われる、いくつもの装甲を繋ぎ合わせた半分軍艦色と赤の鎧を身に着けている。

 背中の艤装にあるマウントユニットにマウントする形で自身の身の丈並はある大剣が収められている。

 

 背中に現れた巨大な艤装に目が行きがちだが、その姿は重桜の鎧武者のようであり、素の状態で強かった龍の特徴を更に増やしたような、人間からすればモンスターみたいな外観をしている。

 

「さてと、行くか」

 

 『紀伊』は背伸びをしながら左右に身体を動かして筋肉を解すと、地面を蹴って港の埠頭から巨大な艤装を背負っているとは思えない跳躍を見せ、海面に着水する。

 

 普通なら着水と同時に身体が海中へと沈んでいくが、KAN-SENである彼の身体は沈む事無く水面に浮かんでいる。

 

 着水と同時に『紀伊』は身体を前に傾けて、ゆっくりと進み出し、徐々に速度を上げていく。

 

 その一連の光景に次の作戦の準備を行っている水夫達は誰もが驚きに満ちた目で見ていた。KAN-SENの軍艦形態は何度も目にしているが、人型形態を見るのは少ないのだ。

 

 

 

 エジェイの防衛戦が始まる、一日前の事であった。

 

 




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