異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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新年明けましておめでとうございます。今年も本作品をよろしくお願いします。


第二十四話 海の怪物の咆哮

 

 

 

 

 ギムが奇襲を受けている同じ頃。

 

 

 

 ロウリア王国 王都ジンハークの北側にある港。

 

 この国最大の港であるここは現在最大限の警戒が敷かれている。

 

 というのも、マイハークを叩く為に出航した4500隻もの軍船が壊滅し、ほんの僅かだけ生き残り帰還した帆船の乗員からの証言で、港は警戒態勢を取っていた。

 

 乗員からの証言が荒唐無稽過ぎたが、帆船に刻まれた激しい闘いの傷に、その中に見たことの無い傷に、負傷した乗員の姿を見れば、信用せざるを得ない。

 

 その為、クイラ王国へ攻撃に向かった艦隊の生き残りを含めて、他の港から最低限の戦力を残して北側の港に戦力を集中させている。

 

 北側の港は王都ジンハークに一番近く、ここを攻め込まれて陥落すれば、王都が攻め込まれる可能性が高い。その為に戦力を集中させて、600隻もの軍船がこの北側の港に集まっている。

 

 当然他の港へと攻め入る可能性も考えられるが、向こうも戦力的余裕が無いと、多少の犠牲を顧みずに必ず北側を攻めると新たに就任した新海将は判断している。

 

 まぁ、この判断は決して間違っていない。

 

 

 確かに間違っていないが、彼の常識ではそれ以上のことは想定しきれなかった。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 夜遅く、闇夜に包まれた港の各所に松明が灯されており、光が灯されている。

 

 見張りの兵士はいつもの倍以上の人数が配置され、いつどこから敵が攻めて来ても良い様に軍船は出港準備を整えている。

 

「……」

 

 港にある司令部に、新しく海将として就任したホイエルは椅子に座り、ただただジッとして時間を過ごしている。しかし身体は小刻みに震えている。

 

 というのも、彼は先の海戦の生き残りで、元上司であるシャークンが乗る旗艦が撃沈されたのを見て、すぐに撤退を決めた人物である。

 

 帰還直後は敵前逃亡をした腰抜けだと罵られたものの、その後戦死したシャークンの後任として新海将となった。

 

 まぁこの新海将としての就任はどちらかと言えば晒し者としての意味合いが強いかもしれない。といっても彼以外に適任者が居ないというのも事実だったりする。

 

(敵は必ずここを攻めて来るだろう。あれだけの力があるのなら、小細工などしないはず)

 

 ホイエルは確固たる自信を持って、小刻みに震える身体を両手で押さえる。

 

 自身が経験した事から、彼は敵がここを攻めて来ると判断している。ここを攻め落とせば、王都は目と鼻の先にある。あれだけの力があるのなら、正面から突破してくると、そう読んでである。

 

 もちろん『大和』や『紀伊』からすればあえて別方向へと攻め入って、相手の意表を突く戦法を取るのが定石であるが、この世界では力こそが全て。力があれば正面から攻めて、それを打ち破る。

 

「……」

 

 ホイエルは席を立ち、窓から外を眺める。

 

 港の湾内には600隻の軍船が停泊しており、どれもすぐに出航できるように準備が整えられている。

 

(あれだけ居た艦隊が、これだけ少なくなるとは……)

 

 彼は内心呟きつつ、脳裏に過ぎるのは先の海戦での光景だ。

 

 

 一方的に蹂躙され、艦隊が炎に包まれた、あの地獄の光景だ。

 

 

(上層部は何も分かっていない。このまま戦い続ければ、この国は……)

 

 ロデニウス沖での戦闘内容を報告しても上層部は多少警戒を強めてはいたが、殆ど信じていなかった。全く危機感を抱いていなかったのだ。

 

 このまま戦争が続けば、ロウリア王国は滅びを迎えるかもしれない。

 

 

 そう思った瞬間だった。

 

 

「ん?」

 

 ホイエルが外の景色を眺めていると、暗闇の中で一瞬光が三つ瞬く。

 

「今の光は―――」

 

 その瞬間、轟音が彼の耳に届き、建物が揺れる。

 

「っ!?」

 

 ホイエルは思わず後ずさるが、すぐに窓から頭を出して周囲を見回すと、港の一角から三つの土煙が上がり、別の場所では火事が起きている。

 

「こ、これは、まさか……」

 

 その光景を目にしたホイエルの脳裏に過ぎるのは、先の海戦での光景である。

 

「まさか、もう敵が!」

 

 と、再び暗闇の中から三つの光が瞬く。

 

「っ! 敵だ! 敵が攻めてきた―――」

 

 彼はとっさに踵を返して叫びながら部屋を出ようとした。

 

 しかしその直後、彼の意識は永遠に失われる。

 

 

 

 それは突然であった。

 

 遠くから雷が鳴った様な音がして、それから数秒後に港の施設が大爆発を起こした。

 

 それと同時に上空で炎の花が開き、火の雨が港の施設に降り注ぐ。

 

 突然の爆発と火の雨によって港は混乱に陥り、その上司令部が爆発して破壊され、ホイエルは爆発に巻き込まれて死亡した。これによって指揮系統が崩壊した。

 

 ロウリア王国側には最悪の展開だ。

 

 そんな事は知った事ではないと言わんばかりに、港の沖合いから一瞬光が瞬いて直後に雷鳴のような音が響き、少しして再び港に大爆発と火の花が上空で咲き、炎の雨を港に降り注がせる。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 港からそれほど離れていない目と鼻の先で、それは居た。

 

 雷鳴の様な轟音と共に眩い光が放たれ、一瞬昼間になったかのように闇夜を照らす。

 

 そしてその眩い光によって、その姿を照らす。

 

 

 まるで島を思わせる巨大な船体に城郭を思わせる高く聳え立つ艦橋。そして巨大な砲塔から伸びる三本の砲身。船体中央には高角砲や機関砲が所狭く並べられ、副砲の両側に噴進砲が設置されていると、絶対に航空機を撃ち落すという絶対的な意思がひしひしと伝わる。

 

 紀伊型戦艦一番艦 『紀伊』は各砲塔をロウリア王国の港へ向けて艦砲射撃を行い、零式弾と三式弾を織り交ぜて港の施設を徹底的に破壊していた。

 

 

 闇夜に紛れて『紀伊』は先に飛ばした瑞雲によって港の位置を特定し、人型形態で港までギリギリまで接近した『紀伊』は暗闇の中で軍艦形態へと移行し、港に向けて艦砲射撃を開始した。

 

 

「自分で言うのもなんだが、凄まじいな」

 

 露天防空指揮所より港の様子を眺めながら『紀伊』は呟くと、直後に一番砲塔の砲身砲口から轟音と共に眩い光を放つ。少しして港の一角で大爆発が起きる。

 

 51cm砲の破壊力は凄まじく、砲撃を始めてから一時間も満たないが、港の大半が零式弾による爆発と、三式弾による広範囲攻撃によって破壊され尽くされている。

 

 その上彼は港から僅か8kmしか離れていない至近距離から砲撃を行っている為、いつもに増して破壊力が増している。

 

 しかし港を破壊するだけならこんな至近距離まで接近する必要はない。なんなら彼の持つ主砲の最大射程距離で砲撃しても構わない。常識的に考えて有効射程外の距離は当たるはずもないが、彼の場合その常識(・・・・)が通じないどころか、この世界では彼みたいな戦艦からすれば都合が良い環境なのだ。

 

 というのも、この世界がある惑星は旧世界と比べると巨大であり、地平線が見える距離が伸びているのである。これにより測距儀で見れる距離も伸びている。

 

 まぁ最大射程で攻撃せずに至近距離まで接近したのは、この後行う攻撃の為である。

 

 

 二番砲塔が咆え、放たれた三式弾は港の上空で信管が作動して炸裂し、上空に炎の花を散らせて港へと降り注ぎ、破壊を撒き散らせた。

 

 少しして三番砲塔が咆え、放たれた零式弾は三式弾からばら撒かれた焼夷弾によって火事を起こしている兵舎に着弾し、その周りで消火作業を行っている者や火傷を負った者を巻き込んで爆発する。

 

「……港の施設は概ね破壊したか」

 

 少し前に飛ばした二機目の瑞雲からの観測で港の設備の多くは破壊されたが、まだ完全とは言えない。

 

 しかし戦艦である『紀伊』は自身の主砲の破壊力を考慮して、これ以上の砲撃は不要と考える。

 

(さすがにこれ以上やると民間人が住む住宅街に被害が及ぶな。航空機なら話は別だったんだろうが)

 

 『紀伊」は二機目の瑞雲からの報告を聞きながら状況を整理していると、最初に飛ばした瑞雲から報告が入る。

 

「……見つけた」

 

 彼は一機目の瑞雲から、目標を見つける。

 

 それはロウリア王国の王都 ジンハークである。

 

(山を削ったような地形だな)

 

 脳裏に瑞雲から見た光景が映り、ジンハークの地形に苦虫を噛んだような表情を浮かべる。

 

 ロウリア王国に潜入中の『黒潮』達によってある程度ジンハークの地形は知っていたが、それでも現物を見るととでは捉え方が違ってくる。

 

(当初の予定通り周りに打ち込んだ後に最後に一発で、帰るとするか)

 

 作戦内容を思い出しつつ、瑞雲との距離を確認する。

 

「距離は大体4万7千ってところか……」

 

 観測機からの観測結果を聞き、『紀伊』はおおまかな距離を推測すると、右手の人差し指を舐めて湿らせ、上に上げる。

 

「風は……無いか」

 

 と、彼はニヤリと口角を上げる。

 

「最初は手前から砲撃。それから周囲へ砲撃。それで大体の距離と感覚を掴むか」

 

 そう呟くと、『紀伊』は各砲塔に居る妖精達へ命令を伝えようと艦内電話に手を伸ばす。

 

 

「……港から出てきたか」

 

 と、『紀伊』は顔を上げて港を見る。

 

 彼の電探が湾内から出てくる複数の物体を捉える。

 

 『紀伊』は港の施設を集中的に攻撃していたので、湾内に停泊している軍船の被害は軽微だったのだろう。恐らく出せるやつから出して反撃を行おうとしているのだ。

 

(大きさ的にオールで漕いで進むガレー船だな。帆船は風が無いから動かせないのか)

 

 接近中の船影を確認しながら状況を確認し、すぐに行動に移す。

 

「副砲及び高角砲は接近中の敵艦へ砲撃。万が一に備えて機銃群も準備。一隻も近づけるな」

 

 『紀伊』は艦内電話の受話器を手にして各所へ指示を出すと、二基の副砲が港の方へと旋回し、左舷側の高角砲及び機銃群が港の方へと向けられる。

 

「主砲一番から三番に零式弾装填。信管は着発に設定」

 

 各砲塔へ指示を出していると、彼の後ろにある測距儀が目標がある方向へと向き、砲塔が僅かに動く。

 

 

 直後第一、第二副砲が咆え、接近中の船団の中へと着弾し、六つの水柱が上がる。爆発に巻き込まれてガレー船諸共粉々にされる者が居れば、水柱によってガレー船が持ち上げられてその衝撃で海へと叩き落される者が出てくる。

 

 水夫達は爆音と水柱に驚きふためくが、それでも水夫達は一矢報いる為に『紀伊』へと向かってオールを漕ぎ続ける。

 

 しかし近付く度に『紀伊』の副砲より火が吹き、海面が爆ぜて水柱が上がると共に多くのガレー船が沈んでいく。

 

 だが、彼らにとって希望が持てたのは、敵の攻撃が連発出来ないということだろう。

 

 故に彼らは散開して『紀伊』への接近を試みた。そうすれば敵の攻撃を散発的に出来て、接近できると考えてであった。

 

 

 無論それは敵の攻撃が一つだけ(・・・・・・・・・)であるという前提での策なのだが。

 

 

 その直後、『紀伊』の中央部から無数の光が放たれ、その巨体が闇夜に照らされる。そして彼らに無数の砲弾の雨が降り注ぐ。

 

 片舷だけでも12基24門の長10センチ連装高角砲があり、その高角砲は現代の速射砲並とは行かないが、それに匹敵するような連射速度で榴弾を放つ。

 

 雨の如く榴弾が降り注いでガレー船が次々と沈められて行き、彼らは後悔した。

 

 自分達が相手にしているのが、どれだけの強大な存在であるかを……

 

 

「……」

 

 その間に『紀伊』は主砲の照準を済ませて、目を細める。

 

「交互射撃で行くぞ。主砲、撃ち方、始めっ!!」

 

 紀伊の号令と共に、一番から三番砲塔の二番砲の砲口から眩い光と共に轟音が放たれ、装填されていた零式弾が放たれる。

 

「……」

 

 彼は手にしている懐中時計を目にして時間を確認しながら、ジンハーク上空を飛行する瑞雲からの視点を見る。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ロウリア王国 王都ジンハーク

 

 

 厳重な警戒態勢が敷かれ、敵の襲撃に備えているジンハークは物々しい雰囲気が漂っている。

 

 

「……」

 

 緊張した空気が流れるハーク城。その主であるロウリア34世は自室のベッドで上半身を起こし、右手で顔を覆ってうな垂れている。

 

(こうも眠れんとは……)

 

 眠りたいのに眠気がさっぱり無いというキツイ状態の彼は、ゆっくりと息を吐いて右手を顔から離して下ろす。

 

 ロデニウス沖での敗北の報を受けて以来、彼は眠れない日々が続き、彼は不眠症を患っていた。

 

「……」 

 

 ロウリア34世はベッドから立ち上がり、若干ふら付く足取りで自室の窓へと近付き、外の景色を眺める。

 

(勝てるはずだった戦に敗北し、多くの兵力を失った。一体何が起きているのだ……)

 

 街並みを眺めながら内心呟き、不可解な現状を理解できないで居た。

 

 

 パーパルディア皇国から屈辱的な要求を呑み、どれほどの屈辱を受けても耐え忍び、軍事支援を受けて6年の歳月が経ち、今まで以上の戦力を得た。

 

 勝つ為の戦力はあったはずだ……

 二ヶ国を相手にしても、亜人共を蹂躙できる戦力があったはずだ……

 このロデニウス大陸を統一できる力があったはずだ……

 

 なのに、なぜ負けた? 負ける要素など無かったはずだ。

 

 そんな言い知れない恐怖が、彼を蝕んでいく。

 

 

「……」

 

 ロウリア34世は深くため息を付き、ベッドへ戻ろうと踵を返す。

 

 

 ッ!!

 

 

「っ!?」

 

 すると突然城が小さく揺れ、同時に轟音が鳴り響く。

 

「な、なんだ!?」

 

 思わず尻餅を付くロウリア34世はすぐさま立ち上がり、先ほどとは反対側の窓へと駆け寄る。

 

「っ!?」

 

 そしてそこから目にした光景に、絶句する。

 

 

 王都ジンハークの目と鼻の先の荒野の三箇所で、薄暗い中で薄っすらと巨大な土煙が上がっている。

 

「な、なんだ……あれは」

 

 その光景に彼は思わず後ずさりする。

 

 あまりにも現実離れた光景だったが、それは間違いなく敵の攻撃だと、彼は本能で悟った。

 

 その直後、先ほどよりジンハークに近い場所で倍の六ヶ所で巨大な土煙が上がり、轟音と共にジンハークを揺らす。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「狙いは悪くない、か」

 

 脳裏に瑞雲からの視点が見えている『紀伊』は着弾地点を確認して声を漏らす。

 

「各砲塔は上に四度。一番は右に五度、二番そのまま、三番は左に五度修正」

 

 各砲塔へ修正値を伝えると、砲身仰角が四度上がり、一番砲塔と三番砲塔はゆっくりとそれぞれ左右に旋回する。

 

「第三射、()ぇっ!!」

 

 『紀伊』の号令と共に、装填を終えて照準の修正を行った二番砲から轟音と共に眩い光を放つ。

 

 『紀伊』は再び手にしている懐中時計に視点を移し、時間を確認しつつ脳裏に映る瑞雲からの視点を眺める。

 

 

「5、4,3、2……弾着、今っ!」

 

 そして数十秒が経ち彼が口にした瞬間、瑞雲からの視点にジンハーク周辺で三つの爆発が起きる景色が映る。

 

「狙いは良し。このまま効力射!」

 

 『紀伊』が指示を出すと、装填を終えて砲身を上げた一番砲、三番砲が轟音と共に榴弾を放つ。

 

 

 それから一時間の間、『紀伊』はジンハーク周辺へ艦砲射撃を行う。何十発の榴弾がジンハーク周辺に着弾し、巨大な爆発が起きる。

 

 その度にジンハークに住まう人々はその轟音に戸惑い、城壁の上からその光景を目の当たりにした兵士達は驚愕の表情を浮かべ、身体を震わせる。

 

 何十発も放っているにも関わらず、砲弾は一発もジンハークに直撃していない。それだけでも『紀伊』の実力の高さが伺える。しかし着弾地点は確実にジンハークへ接近していた。

 

 

「な、何なのだ、これは……」

 

 就寝中に突然の轟音で叩き起こされたパタジンは、轟音と共に巨大な爆発がジンハーク周辺の荒野で起き、その度に衝撃波がジンハークへと届く。

 

「これは、まさか敵の攻撃だとでも言うのか……」

 

 この世のものとは思えない光景を目の当たりにして、身体を震わせ、搾り出すように声を出す。

 

「敵は……神龍を……いや、それ以上の怪物(モンスター)が居るとのいうのか……」

 

 彼は両膝を床につけて崩れ込む。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「まぁ、とりあえずこんなもんか」

 

 上空を飛行する瑞雲を通して、ジンハーク周辺状況を確認している『紀伊』は頷く。

 

 ジンハーク周辺は砲撃によって穴だらけになっており、その穴はどれも巨大なものだ。

 

「それじゃ、最後に派手なのをやるか」

 

 『紀伊』は各砲塔へ次弾装填を急がせるように催促すると同時に、各主砲のそれぞれの砲の仰角と俯角の調整を指示する。

 

 

 しばらくして次弾装填の為に、砲身を下ろしていた各砲塔の砲身が『紀伊』の指示通りそれぞれの角度へ持ち上がる。

 

「全門斉射で行く。甲板要員は退避せよ!」

 

 主砲発射を告げる警報が鳴る中、『紀伊』は再度甲板要員の妖精達に退避命令を出す。

 

「……」

 

 そして『紀伊』は一回息を吸い、ゆっくりと吐き出すと、口を開く。

 

「主砲、全門斉射ぁっ!! 」

 

 大声で号令を放つと共に、主砲全門から闇夜が一瞬昼間になったかのような眩い光と共に、空気を切り裂かんばかりの轟音が放たれる。

 

 51cm砲から放たれた衝撃波は海面を白く濁らせながら大きく凹ませ、九つの零式弾が目標に向かって飛翔する。

 

 

 そして勢いよく放たれた九つの零式弾は、ジンハークの周囲に沿うように北側と東側、西側の城壁間近の場所に着弾して爆発した。その爆発により、東側と西側の城壁の一部が破壊される。

 

 しかし砲弾は一発も王都ジンハークに着弾させていない。正に神業な砲撃を行って見せた。

 

「……」

 

 狙ったとおりに着弾して、『紀伊』は一息吐き、ニヤリと口角を上げる。

 

「よし、仕上げだ。一番から三番砲塔に一式徹甲弾装填!」

 

 艦内電話の受話器を手にして各砲塔に次弾装填を指示して、一番から三番砲塔の砲身が水平に戻されて一式徹甲弾が装填される。

 

 その後一式徹甲弾の装填を終えた各砲塔は『紀伊』の指示した諸元に従い、砲塔の向きと砲身の仰角を調整する。

 

 

 そして照準を終え、『紀伊』の号令と共に、51cm砲九門が一斉に轟音と共に火を吹く。

 

 放たれた九発の一式徹甲弾は狂い無く『紀伊』の狙い通りに、王都ジンハークの北側の城門と城壁に着弾して貫徹し、内部で炸薬が爆発して城壁を大きく抉り、城門を吹き飛ばす。

 

 着弾を確認した『紀伊』は次に零式弾の装填を命じて、各砲塔に零式弾が装填されると、さっきと同じ諸元のままで砲身が上げられると、直後に51cm砲九門が一斉に轟音と共に火を吹く。

 

 放たれた零式弾は大きく逸れる事無く、一式徹甲弾が着弾した王都ジンハークの北側城門と城壁に着弾すると同時に爆発し、脆くなった城壁が粉々に吹き飛ばされる。

 

「……」

 

 瑞雲を通して『紀伊』はジンハークの北側の城壁が粉々になっているのを確認して、静かに頷く。

 

 直後に九門の51cm砲の砲口から空気によって押し出された硝煙が吐き出される。

 

「目標は果たした。戦闘用具収納。これよりマイハークへ向かう」

 

 『紀伊』は指示を出すと、各砲塔が最初の向きへと戻される中、制帽を被り直して港を見る。

 

 港の施設は艦砲射撃によって完全に破壊しつくされ、湾内に残っていた帆船は副砲による砲撃で殆どが沈められている。

 

 『紀伊』に向かって来ていたガレー船も長10センチ連装高角砲と零式機銃、九九式40ミリ四連装機関砲によって全て沈められており、生き残った水夫達が木片にしがみ付いて海面に漂っている。

 

 そしてその誰もが『紀伊』を恐怖に満ちた目で見ている。

 

「……」

 

 その光景を見て、彼の脳裏に『カンレキ』の中にある、彼の初陣の時の光景が過ぎる。

 

 彼は何も言わず露天防空指揮所を後にして艦内に戻る。

 

 『紀伊』の艦体はゆっくりと進みつつ右へと舵を切り、大きく迂回しながらマイハーク方面へと艦首を向ける。

 

 

 

「モンスターが、去っていく」

 

「あぁ、神よ。感謝します……」

 

 木材にしがみ付いて海面を漂う水夫達はゆっくりとこの海域から離れる『紀伊』の姿を見て、安堵の声を漏らし、中には両手を組んで神に感謝する者も居た。

 

 彼らは一生忘れる事は無いだろう。

 

 圧倒的な破壊を振り撒いた、その姿を……

 

 

 




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竜の伝説編はやっておくべき?

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