異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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ルイボスティーポッツ様より評価8
キサラギ職員様より評価9を頂きました。

評価していただきありがとうございます!


第二十九話 新たなる力

 

 

 

 中央歴1639年 6月09日 ロウリア王国

 

 

 

 ロウリア王国の北側の海岸へ防衛を行う為に、2万もの兵が向かっていた。

 

 兵士達の一団の後ろには馬に牽かれて投石器やバリスタ、それらに用いられる岩と槍が積まれた馬車が運ばれている。

 

 しかし兵士達の表情は誰しもが悪い。

 

 まぁ、敵が北から攻めてくると聞かされたのはまだいい。敵を迎撃すれば良いだけの話だから。

 

 しかし彼らの士気を落としているのは、未知なる敵に立ち向かわなければならないと言う恐怖だ。

 

 先日戦艦『紀伊』による艦砲射撃で、ジンハーク周辺にいくつも巨大なクレーターが出来、北側の城壁と城門が破壊し尽くされたのは、市民や軍に大きな衝撃を与えた。

 

 これにより、自分たちは一体どれほどの敵を相手にしているのか、と言う恐怖が軍内部で漂い、兵士達の士気を下げている。

 

 しかしそれでも、国を守る為に戦わなければならない。守らなければ国民が敵によって蹂躙されてしまう。当然その中には彼らの家族や恋人など、大切な人が含まれている。その思いがあって、彼らは何とか士気を保っているのだろう。

 

 

 

「……」

 

 行軍している2万の兵の中の一人はため息を付き、空を見ていた。

 

(俺達、一体何を相手にしているんだろうな)

 

 言い知れない恐怖に、彼は内心呟きつつ、顔を下ろして身体を震わせる。

 

(俺達は人間より劣っている亜人を相手にしていたんじゃなかったのか?)

 

 彼は内心呟き、王都ジンハークの周りに出来た巨大なクレーターを思い出す。彼自身もその時クレーターが出来た時の轟音で起きて、巨大な火柱が上がったのを目撃している。

 

(あんなの、亜人が出来るわけがない……)

 

 ふと、彼の脳裏にある話が過ぎる。

 

(……まさか、『古の魔法帝国』が復活したのか?)

 

 自分達が相手にしているのは、古の魔法帝国ではないかと思うと、彼はゾッとした。

 

 

 

 かつてこの世界を統べた古の魔法帝国が存在した。

 

 

 その国の名は『ラヴァーナル帝国』絶大なる力をもって、全ての種を統べる者達。

 

 一人一人が人間より遥かに高い魔力を持ち、高度な知識を有し、超高度文明によって他の種から恐れられた人間の上位種。

 

 人間、亜人、エルフ族はもちろんのこと、竜人族でさえも敵わぬほどの力の差があった。

 

 彼らの統治は過酷で、自分達以外の種は家畜として取り扱った。

 

 そんな彼らの統治に不満と怒りを抱き、幾多の反乱が起き、国の命運を賭けた戦が何度も勃発したが、全てが圧倒的な力の前に屈した。

 

 彼らはその発達し過ぎた文明ゆえに、傲慢にも神に弓を引いたのだ。

 

 神々の怒りは星の落下という形で、魔法帝国の存在したラティストア大陸に降りかかる。

 

 星の落下を防げないと判断した帝国は、ラティストア大陸全域に結界を張り、大陸ごと時を超越する魔法を発動させ、未来に転移した。

 

 

 『世界に我ら復活せし刻、世界は再び我らにひれ伏す』と記載された不壊の石版だけを残して……

 

 

 その為、いつかの時代で、彼らが再びこの世界に復活すると言われている。

 

 その古の魔法帝国が復活したのではないかと、彼は思い始めていた。

 

 まぁ、そうとしか考えられないような事が起きているので、そう思っても仕方ないかもしれない。

 

 

 

「……?」

 

 ふと、彼は何かに気づいて顔を上げる。

 

(何の音だ?)

 

 何やら遠くから聞いた事の無い音がしてきて、周りに居る兵士達も何事か顔を上げて辺りを見渡す。

 

 次第にその音は大きくなってきて、兵士達は不安になっていて辺りを見渡す。

 

「……」

 

 そして彼は空にある物を見つける。

 

(なんだ、あれ?)

 

 彼の視線の先には、空にぽつんと浮かぶ黒い点。

 

 黒い点を見つめていると、点はどんどん大きくなってきて、次第にその形が浮き彫りになる。

 

「お、おい、なんだあれ!?」

 

 彼は指を指しながら思わず声を上げると、他の兵士達が空を見上げ、それを見つけて慌てふためく。

 

 

 そしてそれが目にも留まらぬ速さで上空を通り過ぎた瞬間、彼らの耳に轟音が届くと同時に、彼らの意識は永遠に閉ざされた。

 

 

 

 それは正に突然であった。

 

 

 上空を異常に速い何かが通り過ぎ、その直前か直後に行軍している2万の兵士達の中で爆発が起き、多くの兵士が一瞬にして命を奪われる。

 

 更に高速で何かが上空を過ぎると、何かが地面を抉ると同時に兵士達が粉々に粉砕され、地面が赤く染まる。

 

 その上空には、様々な青系で構成された迷彩が施された航空機が飛行していた。

 

 それに続き「ブーン」という音と共に多くの航空機が飛来し、ロウリア王国軍へ襲い掛かった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ロウリア王国の北側の港から離れた海域。

 

 

 そこにはトラック泊地からマイハークを経由してやってきた多くの艦船が停泊しており、『大和』『エンタープライズ』『エセックス』の三隻の空母からは艦載機が次々とカタパルトを用いて発艦する。

 その周囲を『ノースカロライナ』と『ワシントン』、『榛名』、『伊吹』、『鞍馬』、『冬月』、『名月』が固めて、上空を警戒している。

 

 『エンタープライズ』と『エセックス』からは『F8F ベアキャット』『A-1 スカイパイレーツ』がカタパルトを用いて飛び立つ。

 

 A-1 スカイパイレーツとは急降下爆撃も行えるマルチロール機の艦上攻撃機であり、コンセプトは重桜の流星改によく似ているが、兵装の搭載量はこちらの方が多い。

 

 F8F ベアキャットは両翼にロケット弾を提げて、A-1 スカイパイレーツは機体中央に907kg爆弾を抱え、両翼の大爆弾架にも一発ずつ計二発の907kg爆弾、その横にある小爆弾架にはロケット弾か小型爆弾を12発搭載している。

 

 そして『大和』からも疾風と流星改等の艦載機が発艦しているが、その中には従来のものと比べると、異質な物が混じっている。

 

 

 一つは細長いボディーに後ろ向きに生えた翼を持ち、その翼の下に円筒の物体を二つ提げた機体と、前者の機体と比べると一回りほど大きく、翼の付け根にそれぞれ穴を持ち、機体後部に二つの穴を持つ機体である。

 

 そう、これらの機体は機体前部にエンジンとプロペラがあるレシプロ機ではなく、空気を取り込んで熱した空気を噴射して推進力を得る『ジェットエンジン』を搭載した航空機である。

 

 そのジェットエンジンを搭載した航空機のそれぞれの名前は『橘花改』、『景雲 二型改』と呼ぶ。

 

 

 妖精達が前の世界にてセイレーンとの戦争で失われ、各地に眠る『過去の遺物』をいくつも回収し、そこから得た技術を基に研究を進め、その『過去の遺物』の中にあった鉄屑と化したジェットエンジンも分解解析を行い、研究開発を進めた。

 

 長い期間を経て、妖精達はジェットエンジンの開発に成功し、その後試作品を作っては改良を重ね、更に試作品を作っては改良点を見つけると、何度も試験と改良を重ねたことで、何とか戦闘に耐えうるジェットエンジンを完成させた。

 そしてジェットエンジンを搭載する試作機は過去に作られた機体の設計を基に作られた。

 

 橘花改はジェットエンジンを搭載した戦闘機であり、オリジナルと違いテーパー翼ではなく、後退翼を採用しており、機体サイズ諸々を含めれば、どちらかといえばオリジナルの更にオリジナルの『Me262』に酷似しているが、全体的な性能と耐久性はこちらの方が高い。武装は本来なら30ミリ機関砲二門を搭載予定だったが、継戦能力に加え性能的にこちらでも問題無いと、機首に20ミリの零式機銃を四門搭載している。

 

 景雲 二型改はジェットエンジンを搭載した攻撃機であり、橘花改と違いエンジンを機体に内臓した構造をしており、吸気口を後退翼の付け根に持っている構造をしている。武装は橘花改同様機首に零式機銃を四門、機体下部に各種爆弾や両翼下に一〇〇式ロケット弾改を五発ずつの計十発を提げられる。

 

 

 今回『大和』には試験目的として橘花改と景雲 二型改が二十機ずつの計四十機が搭載されており、その他は疾風に流星改、更にもう一機とある機体を載せている。

 

 橘花改と景雲 二型改は青系で構成された洋上迷彩が施されており、両機種はジェットエンジンの轟音を響かせて、飛行甲板に埋め込まれた蒸気式カタパルトによって勢いよく飛び出す。

 

 行軍中のロウリア王国軍へ攻撃を仕掛けたのは、『大和』所属の景雲 二型改であり、従来のレシプロ機を超えた速度からのロケット弾や爆弾による爆撃であった。

 

 

 

「……」

 

 『大和』は防空指揮所から飛行甲板を眺めており、ジェットエンジンの轟音と共に蒸気式カタパルトで飛び立つ橘花改を見つめる。

 

(こうしてこの機体が発艦する光景を再び見ることになるとはな)

 

 景雲 二型改がカタパルトにセットされ、その後ろで飛行甲板の一部が斜めに上げられてジェットエンジンが噴射する熱い空気を上へと逃がしている光景を見ながら、彼は内心呟き、『カンレキ』にある光景が脳裏に過ぎる。

 

 

 多大な犠牲を払いながらも『大戦』を生き延び、その後改装を受けてジェットエンジンを搭載した艦載機を飛ばしていた光景が思い出される。

 

 

(本当に、分からないものだな)

 

 内心呟きつつ、艦載機が蒸気式カタパルトで加速し、飛び立つ光景を眺める。

 

 

「それにしても、相変わらず凄い音ですわ」

 

 と、『大和』の隣に立つ『赤城』が耳を倒した状態で、ジェットエンジンの轟音に思わず声を漏らす。

 

「音はレシプロ機より凄いが、その分性能はこちらが上だ。お前の新しい艤装の建造が終われば、このジェット機を扱えるようになる」

 

「えぇ、そうですわね。本当に、楽しみですわぁ」

 

 『赤城』は薄ら笑みを浮かべる。

 

 『赤城』と『加賀』が新たに得ようとしている艤装は、このジェット機を運用するのに必要な設備と規模を得る為である。そして『シャングリラ』と『バンカーヒル』『イントレピッド』も同じというわけではないが、ジェット機を運用する為の改装が施されている。

 

「それで、状況はどうだ?」

 

「総旗艦様の先制攻撃が相当効いていらっしゃるようですね。敵はバラバラに逃げていますわ」

 

 『大和』は『赤城』に問い掛けると、彼女は通信員の妖精より聞いた報告内容を彼に伝える。

 

「これで向こうの目をこちらに向けることは出来た、か」

 

「そうですわね」

 

 『大和』は声を漏らすと、『赤城』はその小さな声を聞き取って相槌を打つ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって王都ジンハーク ハーク城にある作戦室。

 

 

 襲撃を受けた北部防衛部隊はすぐに魔信で現状を作戦室へと伝えていた。

 

 

「パタジン様!! 北部へ防衛に向かっている部隊から敵騎の襲撃を受けているとの報告が入りました!!」

 

「っ! 来たか!」

 

 パタジンは通信員より報告を聞き、頷く。

 

「竜騎士を彼らの上空援護として20騎を送り込め! 王都防衛の兵は北側の門の防衛へと回し、防備を固めさせろ!」

 

「はっ!」

 

 通信兵はすぐさまパタジンの指示を魔信を使って各所へと伝える。

 

(やはり敵は北から攻めてきたか。いや、まだ分からんか)

 

 パタジンはテーブルに広げた地図を睨み、被害を受けたビーズルを見る。

 

 彼が心配しているのは、西から敵が攻めてくる可能性であった。

 

(多くの被害を受けたビーズルの攻略は容易いだろう。そこを攻略した後、すぐにでもこの王都へと向かってくるはずだ)

 

 彼は今後の予想を立てて、腕を組む。

 

 しかし彼には少しだけ希望を見出していた。

 

 ビーズルが襲撃を受ければ、自ずと報告が入る。つまり彼はビーズルを鳴子代わりにして、敵の奇襲に備えるのである。

 

 そしてビーズルからジンハークまで距離があるので、防衛部隊を西側の城門へ配置して、西の迎撃を万全なものにする。

 

(亜人共。今まではこちらがやられてばかりだったが、ここでは我らに地の利がある。ここで貴様らの戦意を壊してくれる)

 

 パタジンは内心呟き、僅かに口角を上げるのだった。

 

 

 

 しかし彼は大きな間違いを犯していることを、気づけないで居た。

 

 

 まぁこの点に関しては仕方が無いと言えば、仕方が無いだろう。

 

 

 自分達の常識で考えてしまうのは……

 

 

 そもそも常識外のことで考えろと言うのが、無理な話なのだが。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所戻って王都ジンハーク。その北部の中間辺り。

 

 

 航空機による攻撃を受けて、2万居た兵はもう半分近く減っていた。

 

「また来たぞ!!」

 

 兵士達が慌てふためく中、上空からA-1 スカイパイレーツが急降下しつつ、搭載した爆弾とロケット弾を放ち、兵士達着弾した爆弾とロケット弾が爆発して、爆風と破片が多くの兵士達を死傷させる。

 続けてロケットを撃ち終えたF8F ベアキャットが20mm機関砲を放ち、射線上に居た兵士達の命を刈り取る。

 

 逃げ戸惑う兵士達に対して疾風と流星改が機銃掃射を行い、射線上に居た兵士達は血飛沫になって地面の肥やしと化した。

 

「くそっ! ワイバーンはまだかよ!」

 

 兵士の一人が悪態を付きながら逃げるも、直後にF8F ベアキャットの機銃掃射を受けて、身体の大半が粉砕されて命を落とす。

 

 その中で、防衛の為に運ばれていた投石器とバリスタはA-1 スカイパイレーツの急降下爆撃により、全てが破壊されており、兵士達はその残骸に隠れて敵騎の攻撃を凌ごうとする。

 

 しかしその残骸に対してまだロケット弾を発射していないF8F ベアキャットが、ロケット弾を残骸に向けて放ち、周囲に数発着弾して一、二発が直撃し、投石器の残骸を破壊して陰に隠れていた兵士の身体を引き裂く。

 

 

 ――――ッ!!

 

 

 すると上空から咆哮が響き、兵士達が顔を上げる。

 

 彼らの視線の先には、ジンハーク方面から味方の竜騎士隊が向かってきていた。

 

「味方のワイバーンだ!」

 

 兵士の人が声を上げると、周りに居た兵士達が声を上げて喜ぶ。

 

 空の守りが来たのだ。彼らにとっては、希望そのものである。

 

 後は自分達が逃げ延びればいい、誰もがそう思っていた。

 

 

 直後自分達を守りに来たワイバーンが突然多くが墜落した。

 

 

「……はぁ?」

 

 突然の光景に兵士の一人が思わず声を漏らす。

 

 それを皮切りにワイバーン達が次々と落とされていく。

 

 その傍を橘花改や爆弾やロケット弾を出し終えた景雲 二型改が一瞬にして通り過ぎる。

 

 竜騎士達は見たこと無い敵に混乱して慌てふためいているが、その隙にエンタープライズ所属のF8F ベアキャットが横から20mm機関砲を放ち、一瞬の内に5騎が撃ち落された。

 

 更にエセックス所属のF8F ベアキャットが加わり、20mm機関砲が火を噴き、ワイバーン3騎を撃ち落す。

 

 竜騎士隊は完全に混乱状態へと陥り、散り散りに逃げようと散開する。

 

 しかしそれを逃さまいと、橘花改が最大速度を発揮してワイバーンを一瞬の内に追い越し、発生した衝撃波がワイバーンを吹き飛ばし、それによってワイバーンに跨っていた竜騎士が吹き飛ばされ、そのまま地面へと落ちていく。

 

 操者を失ったワイバーンはバランスを崩したまま、主人と共に地面に叩きつけられた。かろうじてバランスを取り戻しても、その隙をF8F ベアキャットが20mm機関砲を放ち、ワイバーンを粉砕する。

 

 援護に来た空の王者と謳われるワイバーンが、赤子の手を捻るかのごとく、次々と撃ち落されている。

 

 その絶望的で信じられない光景は、ロウリア王国軍の兵士達を恐慌状態に陥らせるのに、十分であった。

 

 ロウリア王国軍の兵士達は我先にと散り散りになって逃げようとするが、指揮官が剣を抜いて兵士達に向けて声を上げる。が直後に彼はF8F ベアキャットの機銃掃射を受けて、身体が粉々になってこの世を去った。

 

 それが決定打となり、ロウリア王国軍の兵士達は各々の方向へと逃げていく。

 

 

 




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