異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
ARIAHALO様より評価6を頂きました。
評価していただきありがとうございます!
前回とある一文でパーパルディア皇国の性格的にあり得ないだろ的なコメントが多く寄せられたので、少しだけ変更しました。
中央歴1639年 6月19日 トラック諸島
「ロウリア王国との戦争は……まぁ予想通りの結果だったな」
「あぁ」
トラック諸島の春島にある建物の一室、『大和』の執務室で『紀伊』と『大和』の二人が話をしていた。
「だが、今回の戦闘は色々と判明した戦争になったな」
「あぁ。やはり兵器って言うのは使ってみないと分からない部分が多いからな」
「今回は特に今まで経験したことの無い市街地戦もあったからな。問題点が顕著に出てきた」
「……」
二人が話す問題点というのは、今回の戦闘で得られた運用データであった。
今回の戦闘で浮き彫りになった問題点は以下の通りである―――
・64式小銃の銃身の長さが市街地戦では長過ぎて、障害物に引っ掛かる場面が多く、その上銃自体の重さも相まって取り回しづらかった。
・7.62mm×51mm弾ではストッピングパワーが強く敵兵を一撃で倒せるが、反動が大き過ぎて撃った後即座に狙いを定められない。その為連射がしづらい。
・弾数が少なく、マガジンの交換回数が多かった。
・フロントサイトとリアサイトが見づらい
小銃についての問題点は多かったが、次に多かったのは戦車である。
・74式戦車は元々防衛を主眼に設計されているとあって、長距離を走るように出来ていない。その為足回りの消耗が激しいとのこと
・ジンハークまでの行軍中に、履帯が外れる事故が二件ほど発生している。
・車内が狭い
その他にも62式機関銃の更なる改良の要請や、自走砲や自走ロケット砲の性能面、その他に様々な問題点が指摘され、新型の小銃や戦車の開発に生かされることになる。
しかし今回の戦闘で彼らが大きく感じたこと。それは――――
「今回の戦争。何か俺達が主体になって戦っていたよな」
「まぁ、今回ばかりは仕方ないといえば、仕方ないだろう」
と、『紀伊』の指摘に『大和』は肩を竦める。
今回の戦争……実質的にトラック泊地のKAN-SENと陸戦隊が主体でロウリア王国と戦闘を行っていたのである。
この点については、クワ・トイネ公国とクイラ王国がまだ兵器の扱いに慣れていないので、本来の実力を発揮できないのは目に見えていた。下手に戦闘に参加させて、敗北でもすれば大量の武器兵器が鹵獲される恐れがあった。
その為トラック泊地が中心に戦闘を行わなければならないのも、仕方が無いことである。ましてもロデニウス沖海戦に関しては、軍艦の戦力不足が顕著に出ていたので、彼らが出る以外に方法は無かった。
「クワ・トイネにしろ、クイラにしろ、まだまだ発展途上だったからな。これからは更に訓練に本腰を入れないとな」
「あぁ。そうだな」
別の課題が出て、二人はため息を付く。
「で、ジェット機の完成はまだ先の話か」
「そうだな。性能は悪くないが、まだまだ解消するべき問題が山積みだ。本格的な実戦配備はまだ先になるな」
「そうか」と『紀伊』は呟く。
今回の戦闘で初めて実戦投入された『橘花改』と『景雲 二型改』だったが、全体的な結果としては物足りないものであった。性能自体は現時点で満足いくものであったが、理想とする形としては程遠い結果である。その上まだ不具合が多いので、本格的な実戦配備はまだ先である。なので、引き続き『大和』によるデータ収集を兼ねた試験稼動が続けられる事になる。
まぁある意味未完成な状態で投入しているので、物足りないのは当然と言える。
「となると、しばらくは現用機の改修で繋げるしかないか」
「あぁ。案は既に出来上がっているから、俺のを含めて各空母の艦載機の改修が順次始まっている」
『大和』は執務机の上に置いているタブレット端末を手にして、データを開いて『紀伊』に見せる。
タブレット端末の画面には、烈風や流星改、疾風、更にはF8F ベアキャット、A1 スカイパイレーツなど艦載機に加え、陸上機の改修案が表示されている。
どれも全体的な性能向上を目的にした改修案であり、特にエンジン部分は大きく手が加えられる。
「こんな改修が出来るのも、妖精達の技術あってこそだな」
「そうだな。まぁ大本の案は敏郎さんが考えたんだがな」
「妖精もすごいが、あの人も大概だな」
『紀伊』は思わず苦笑いを浮かべる。
「……で、次に問題なのは―――」
「……パーパルディア皇国か」
と、『大和』と『紀伊』は気持ちを切り替えて、とある報告書の内容を思い出し、顔を顰める。
「しかしロウリア王国も、随分面倒な相手に軍事援助を求めたもんだ」
「まぁ、その国ぐらいでないと、軍事援助が出来ないともいえるがな」
「だからって、相手が悪過ぎだろ」
『紀伊』は呆れた様子でため息を付く。
「国の問題については、まぁ追々考えるとしても、一番の問題は、あの国に目を付けられたって事だ」
『大和』はタブレット端末の電源を切って充電器の台座に差し込んでから席から立ち上がると、コーヒー豆が入っている袋を棚から取り出し、コーヒーメーカーにコーヒー豆を入れて細かく砕かせる。
「クワ・トイネ公国に亡命を希望したヴァルハルからある程度皇国について聞き出せたが、これは非常に面倒な相手だぞ」
「あぁ。本当に面倒な事になった」
『紀伊』がソファーに座りながらそう言うと、『大和』は呆れた様子でため息を付く。
ロデニウス沖海戦にて、観戦武官としてロウリア王国海軍の艦隊に同行していたパーパルディア皇国のヴァルハルと言う男が救助された。
当初はある程度話を聞くだけに留まって、彼の身柄はクワ・トイネ公国が預かり時を見てパーパルディア皇国へ送還する予定だった。
しかしヴァルハルはロウリア王国が敗北したと聞かされた時、急にクワ・トイネ公国へ亡命を希望した。
亡命理由はこのまま国に帰っても、口封じに殺されるだけだと、恐怖の色に染まったヴァルハルは懇願した。
何でもヴァルハルという男はパーパルディア皇国の国家戦略局と呼ばれる部署に所属し、今回ロウリア王国へ軍事援助を行ったのはこの部署である。
しかし今回ロウリア王国が敗北したことで、国家戦略局が行ってきた事が全て水の泡と化した。しかもこの一件は国家戦略局の独断で行ったものらしく、その上パーパルディア皇国は面子を第一に考える国で、それはどこの部署でも同じことが言える。
恐らく今回の一件は自分達の保全の為に全ての情報を抹消して、関わった者達も密かに始末されると、彼は予想しているのだ。
その為、彼は自分は生き残ろうと、クワ・トイネ公国へ亡命を希望した。
その亡命の手土産に、彼は以前より調べていたパーパルディア皇国に関する情報を渡した。
「まぁ列強国と言われているだけはあるな。国力はそうだが、軍事力はロウリア王国を大きく上回っている」
「海軍の主戦力は多くの大砲を積んだ戦列艦に、ワイバーンを搭載できる空母……さしずめ竜母と呼ぶべきか。空はワイバーンの改良種を大量に配備、しかも新型のワイバーンの開発も進んでいると来たもんだ」
「地上には地竜と呼ばれる陸上戦力に加え、歩兵はマスケット銃と牽引式の大砲を配備しているか」
「確かに剣と弓しか無いような周辺国からすれば、技術力と軍事力は抜きん出ているな」
二人はヴァルハルから齎されたパーパルディア皇国の軍事力に関する情報を出し合う。
「……だが、なんだこのジャイアニズムを具現化したような国は」
「しかもこの国、資源や人材が足りなくなれば、他国に何かしらの理由を付けて戦争を仕掛けては国を占領して属領にし、資源と人材を得る。そして足りなくなればまた他国へ戦争を仕掛けて占領する。典型的な領土拡張主義だな」
『大和』は呆れた様子で語りながら、コーヒーメーカーにコーヒーカップをセットして、コーヒーを淹れる。
「力と権力にものを言わせて属領から様々なものを搾取して成り立つ国家か。絵に描いたような恐怖政治だな」
「全くだ」
「そんな国に、このロデニウス大陸が目を付けられてしまった、か」
「まぁ、地下資源や人的資源はもちろん、放っておいても短期間でちゃんと立派に作物が育つ土地。そりゃ領土拡張で忙しい国からすれば、食糧問題が一気に解決しそうだからな。逆に注目しない方がおかしい」
『大和』は二つのコーヒーカップにコーヒーを淹れて、二つ持って片方を『紀伊』に渡し、もう一つを持ったまま椅子に座る。
今回『ベルファスト』や『ニューカッスル』、他のメイド達がいないので、『大和』が自分で淹れている。
「だから国家戦略局とやらは、ロデニウス大陸に目を付けたんだろう。その一環として、ロウリア王国に軍事援助を行って、大陸を統一してもらう、と」
「だが、解せんな」
と、『紀伊』はコーヒーカップに口を付けて、一口飲む。
「何でわざわざ将来敵になるかもしれない国に対して、塩を送るような事をしたんだか」
「……」
『大和』はコーヒーカップに口を付けて一口飲むと、一考する。
「……面倒ごとが無いから、かもしれんな」
「面倒ごと?」
「紀伊』は怪訝な表情を浮かべる。
「ロデニウス大陸で複数の国がいがみ合っていたとしても、共通の敵が現れれば、おのずと共闘体制を取るようになる。そうやって同族同士で争っていた時に、共通の敵が現れて一応共闘体制を取った所もあったからな」
「……そうだな」
二人はそう呟き、脳裏に過ぎるのはとあるアジアの大国の内戦と、戦争だ。
「でも、共通の敵が居なければ、ただ争うだけだ。力があるロウリア王国に軍事援助を行ったのも、ロウリア王国側から要請されて行ったからじゃなく、都合が良かったからだと思う」
「……」
「そしてロウリア王国がクワ・トイネ公国とクイラ王国を、一緒に害獣としていた亜人を滅ぼして、ロデニウス大陸を統一すれば、国は一つだけだ」
「ふーむ。だが、それでも敵対国になるような国に塩を送ったことに変わりは無いが」
「向こうからすれば、ロウリア王国の戦力を強化したところで、大した事無いんだろう。実際ロウリア王国の技術力に合わせた援助しか行っていないようだし」
「まぁ、それは確かに言えているが」
パーパルディア皇国の国力と軍事力を思い出して、『紀伊』は納得する。
「むしろ向こうからすれば、従順より反発してもらう方が都合が良いのかもしれないな」
「と、いうと?」
『大和』がコーヒーを飲んでそう言うと、『紀伊』は怪訝な表情を浮かべる。
「さっき皇国は資源が足りなくなれば、他所の国に何かしらの理由を付けて戦争を仕掛けるって言っただろ」
「あぁ」
「そういう事さ。戦争をする為の大義名分を向こうから出してくれるんだ。パ皇からすれば世間体を気にした宣戦布告の理由を考えずに済むからな」
「そういうもんか?」
「まぁ、それはあくまでも建前。恐らく戦中戦後に好き勝手出来るからだろうな」
「……」
と、『紀伊』の視線が鋭くなる。
「戦争と言う大義名分で戦うんだ。戦争中に人を大量に殺しても、それは敵を倒しただけだと片付けられる。むしろ国に帰れば英雄扱いさ」
『大和』はコーヒーカップを右手に持ったまま、左手を握り締めて人差し指を立てて、一つ目の理由を挙げる。
「あからさまに私的な理由のある拷問をしても、敵から情報を得る為に必要な行為であると、正当な理由さえ言えば周囲を納得させられる」
次に中指を立てて、二つ目の理由を挙げる。
「戦争の最中で敵国内にて金品財宝類の略奪を行っても、奴隷として人間や亜人を捕まえても、戦利品として片付けられ、何の問題もなく手に入れられる」
次に薬指を立てて、三つ目の理由を挙げる。
「民間人や貴族、王族の女を犯そうとも、兵士達の士気を保つ為だという理由があれば、周囲を納得させられる」
次に小指を立てて、四つ目の理由を挙げる。
「そして国を占領して属領にすれば、あとは国の名前と権力に物を言わせて、好き放題さ」
そして最後に親指を立てて、五つ目の理由を挙げる。
「だから、戦争を仕掛けるのか」
『紀伊』は怒りの孕んだ声を漏らす。
彼の脳裏には『カンレキ』にある『大戦』中に起きたある戦いで、敵国の軍によって民間人が蹂躙されたと言う報告が過ぎる。
「さすがに列強国と呼ばれているんだ。そこまで野蛮な考えを持っていない、と思いたいな」
「だと良いんだがな」
『紀伊』は気に入らない様子でコーヒーを飲む。
「まぁ、ヴァルハルという男がいうには、属領では名前と権力で職員が好き放題している節が見えるがな」
「好き放題か。占領地ではよくありそうなことだな。だが国としてはどこまでも好き放題ってわけにもいかないだろう」
「普通ならな。だが、ヴァルハルがいうには、不正で職員が捕まった話は聞かないそうだ」
「……組織の腐敗か」
と、『紀伊』は全てを悟る。
「領土を拡張して、組織が大きくなればなるほど、国は隅々まで把握しきれなくなる。そうなれば、国という権力を振りかざし、我が物顔で闊歩する連中が現れる。そういう連中は悪事がバレないように賄賂で上を欺き、自分達は自由気ままに過ごす」
「領土拡張の弊害だな」
『紀伊』がそう言うと、「あぁ」と『大和』が答える。
「そういや、お前がコーヒーを飲むのも珍しいな」
「まぁ、普段は『ベルファスト』や『エディンバラ』、『ニューカッスル』が紅茶を淹れるからな。あまり飲む機会がないんだ」
「そりゃそうだな」
と、『紀伊』は自分も同じ感じなのか、『大和』に同意する。ちなみに『大和』の淹れるコーヒーは普通なんだとか。
「それに、『ベルファスト』のやつ、やけにコーヒーを敵視している節があるからな」
「ほぅ?」
「この間なんか『そのような泥水より、紅茶を飲まれる方が身体に良いので』と言ってたからな」
「おぉ……」
思ったよりも辛辣な台詞に、『紀伊』は思わず声を漏らす。
「それに、俺どちらかと言うとコーヒー派なんだよな。別に紅茶が嫌いというわけじゃないんだが……」
視線を逸らして『大和』は呟く。
「『マインツ』のやつが聞いたら喜びそうだな。好みの同志が増えて」
「だろうな」
お互い苦笑いを浮かべる。
「まぁともかく、ロウリア王国との戦争が終わっても、パーパルディア皇国の脅威が残っている以上、安心は出来んな」
「まだまだ俺達の望む平穏には遠い、か」
「あぁ」
二人はため息を付き、『紀伊』は腕を組み、『大和』は頬杖を着く。
「件の国。来ると思うか?」
「絶対は無いが、話を聞いた限りの連中の性格を考えれば、そう遠くない内にロデニウス大陸に目を付けるだろうな」
「別に今回の一件が無くても、いずれは矛先を向けてくるか」
げんなりとした様子で、二人は再度ため息を付く。
「……だが、やるしかないよな」
「あぁ。俺達に出来ることは、ただ戦う。それだけだからな」
「……」
『大和』は目を細め、ある考えが過ぎる。
その後二人は世間話をした後に、それぞれ仕事へ戻るのだった。
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