異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
トラック諸島
ロウリア王国との戦いが終わり、トラック泊地はこれまでの慌しい雰囲気は無くなって、いたって平穏な雰囲気が漂っている。
しかし戦争が終わったとは言えど、KAN-SENや妖精達は決して気を緩める事無く、各々がやるべき事をやっている。
これは彼らのモットーが『平和を望むのならば、戦いに備えよ』であるので、訓練に勤しむ者もいれば、武器兵器の手入れをする者、研究開発を行う者等、彼らは常に戦いに備えている。
とは言えど、戦時中と比べれば大分大人しくなった方であり、休む者もちらほらと居る。
そんな中、トラック諸島の一つである春島には、重桜のKAN-SENと妖精達によって建てられた神社がある。
特に何かの神が社に祀られているという訳ではないが、トラック泊地に暮らすKAN-SENと妖精達の安全を祈願する為に、この神社が建てられた。
実際この神社では巫女である重桜のKAN-SEN達が全員の安全を祈願しているのだ。
その神社の境内に、金槌で釘を打つ音が響いていた。
「……」
社の壁に『紀伊』が釘を二本咥えて、金槌を片手に尻尾で板の上端を押さえて左手で支えている釘を打っている。
釘を打ち終えると、彼は尻尾を別の箇所に押さえつけて、口に咥えている釘を一本手にして次に釘を打つ箇所に釘を突き立てて、金槌で打ち始める。
少しして全ての釘を打ち終え、『紀伊』は息を吐き出す。
「これでよし」
『紀伊』は肩に掛けているタオルを手にして額に浮き出ている汗を拭うと、手にしている金槌を道具箱に戻し、尻尾で蓋を閉める。
「お疲れ様です、旦那様」
と、後ろから声を掛けられて彼が振り向くと、緑茶が入った湯呑を載せたお盆を手に立っている『扶桑』が立っている。
「ありがとう、『扶桑』」
『紀伊』は彼女にお礼を言って湯呑を手にし、一口飲む。
「せっかくの休日ですのに、社の修復を手伝って頂いてありがとうございます」
「構わんよ。特にやる事が無かったしな」
頭を下げてお礼を言う『扶桑』に、『紀伊』はそう言うと、壁を修理した社を見る。
「何より大切な家族からのお願いだ。断るわけ無いだろ?」
「旦那様……」
と、『扶桑』は少し恥ずかしそうにお盆で顔半分を隠す。その際彼女の左手の薬指にはめられている指輪が太陽に反射して輝く。
『紀伊』が社の壁を修理していたのは、とある原因があって社の壁に穴が開いたからだそうである。
で、その原因と言うのが―――
「義兄様ー!」
と、別方向から声がして二人は声がした方を見ると、一人の少女が手を振って走って来ている。
黒い髪をショートヘアーにして髪飾りの上に狐の面を付けており、幼げな顔つきと雰囲気をしており、猫の耳に尻尾を持っている。綺麗な模様が描かれ、裾の短い黒い着物を身に纏っており、そのスタイルは姉に匹敵するほどの豊満なものである。それ故にはみ出しそう。
彼女の名前は『山城』 扶桑型戦艦の二番艦。そのKAN-SENであり、『扶桑』の妹である。
「よぉ、『山城』―――」
『紀伊』が彼女に声を掛けた瞬間―――
「ぐぇっ!?」
『山城』は何も無い地面で躓いて豪快に倒れ、変な声を漏らす。幸い彼女の豊満な胸部装甲がクッションになった……と思いきや額を地面に強打するのだった。
「あー、またか」
そんな彼女の様子に『紀伊』は苦笑いを浮かべる。彼女の姉である『扶桑』は「もう、『山城』ったら」と思わず声を漏らす。
「うぅ、お姉様、義兄様……」
額を赤くして涙目になった『山城』は『紀伊』と『扶桑』を見て、ゆっくりと立ち上がり、着物に付いた土を払う。
『山城』はどういうわけか不幸体質らしく、あのように何も地面で転ぶ事が多い。ちなみに彼女が通ると、突然物にヒビが入るといった現象が時々起こるそうな。
さて、ここまで来れば『紀伊』が神社の壁を修理していたのも察しが付くだろうが、その原因は『山城』にあった。
『山城』が社の中を清掃中、一体なぜそうなったのか理由は分からないが、彼女は思いっきり転んで社の壁を頭でぶち破ったのであった。
『山城』曰く『箒で社の中を掃除していたら躓いてしまった』とのこと。しかし社の床にはどう見ても躓くような段差は無かったそうな。
不可抗力とは言えど、さすがに巫女として社を破壊したことは赦し難い行為とあり、普段から温厚である『扶桑』は激怒し、『山城』は震え上がったそうな。
その後『紀伊』に修理を頼んだのである。
妖精に頼めば修理は簡単なのだが、彼女としては信頼ある者に神社の壁の修理を頼みたかったのだ。当然妖精達も信頼しているし、この神社の建築も妖精達が手伝ってくれたからこそ出来たものである。
しかしそれでも『扶桑』は一番信頼出来る『紀伊』に頼みたかったのだ。
まぁそれは建前であって、実際は家族水入らずで時間を過ごしたいと言う、『扶桑』の思いがあった。
「大丈夫か、『山城』?」
「は、はい。大丈夫です、義兄様」
『紀伊』が問い掛けると、『山城』は『扶桑』が持ってきたタオルで顔を拭きながら答える。
「あっ、壁が直ったんですね!」
と、『山城』は自身が破った社の壁が直っているのに気付いて『紀伊』を見る。
「あぁ。ついさっき終わったよ」
『紀伊』は修理が終わったのを『山城』に伝えながら飲み終えた湯呑を『扶桑』が持つお盆に置く。
「『山城』。ちゃんと旦那様にお礼を言うのですよ」
「はい。壁を直してくださって、ありがとうございます。そして手間を掛けさせてごめんなさい」
『山城』は壁を直してくれた御礼と、壁を直す手間を掛けた事を謝りながら頭を下げる。
「構わんさ。大事な家族からの頼みだからな」
『紀伊』は『山城』の頭に手を置いて優しく撫でると「はぅ」と彼女は思わず声を漏らし、尻尾が左右に揺れる。
「だが、次からは気をつけてくれよ」
「っ! はい!」
『山城』は笑みを浮かべて、元気いっぱいに頷く。
「あ、あの、旦那様」
「ん?」
と、恥ずかしそうに『扶桑』が『紀伊』に声を掛ける。
その姿に『紀伊』は彼女の気持ちを察して、『扶桑』の頭を優しく撫でる。
「ん……」
頭を撫でられた『扶桑』は身体を震わせ、色っぽい声を漏らす。
(うーん。昼間っから何してんだろうな、俺)
二人の頭を撫でながら、『紀伊』は後ろめたさを感じながら内心呟く。
「昼間から何をしているんですか、父さん、母さん……」
と、この場に居る者ではない呆れた声がして、『紀伊』達は声がした方を見る。
そこには鳥居をバックに呆れた様子で立つ一人の青年であった。
『紀伊』と同じぐらいに背の高い青年で、うなじより先まで伸びた黒い髪を一本結びにして、深い海の底を髣髴とさせる青い瞳をして、頭には龍の角が後ろに向かって生えており、尻付近に地面に付きそうなぐらいの長さがある鱗に覆われた龍の尻尾が生えている。服装は黒い第二種軍装を身に纏い、碇のマークが付いた同色の制帽を被っている。
顔つきはどことなく『紀伊』に似ているが、目つきは『扶桑』に似ている。
「まぁ、なんだ? 家族のスキンシップってところだ、『まほろば』」
「いや、ならなんで『山城』さんも一緒なんですか。理由は分からなくもないんですが」
社の壁が直っているのを見て、『まほろば』と呼ばれた青年は理解するものの、納得の行かないような表情を浮かべる。
『まほろば』と呼ばれた青年。彼もまた男性型KAN-SENであり、同時に『紀伊』と『扶桑』との間に生まれた第二世代型のKAN-SENである。
「で、何か用があるんだろ、『まほろば』?」
「い、いや、特に用があるってわけじゃないけど、神社の修理がどのくらい終わったか見に来ただけだよ」
「そうか。まぁ見ての通りだ」
「みたいだね」
『紀伊』がサムズアップのように親指の先を神社に向けて、『まほろば』は苦笑いを浮かべる。
「そうだ。作業も終わってちょうど昼飯を食いに行こうと思って所だ。みんなで一緒に行くか?」
「えっ? 確かに時間はそうだけど」
『まほろば』は左手首にしている腕時計を見て時間を確認し、声を漏らす。
「それなら、一緒に行こうよ、『まほろば』君!」
と、『山城』が『まほろば』の手を持ちながら声を掛ける。
『まほろば』は近付いた『山城』に手を持たれて、頬を赤く染める。
「折角の休日だ。家族水入らずで過ごそうじゃないか」
「それは……」
「えっ? 行かないの?」
と、『まほろば』が断りそうな雰囲気を出したことで、『山城』は悲しそうな雰囲気を出す。
「……いや、行きます」
『山城』の悲しそうな姿に罪悪感からか、『まほろば』が行くのを決めると、『山城』の表情がパッと明るくなる。
そんな雰囲気の二人を『紀伊』と『扶桑』は温かく見守る。
―――――――――――――――――――――――――――――
所変わり、トラック諸島の一つである月曜島。
トラック諸島のいくつかの島には、船舶が入渠したり、建造を行う為のドックが建設されており、現在その殆どをクワ・トイネ公国とクイラ王国向けに軍艦の建造が行われ、一部では戦闘を終えたKAN-SENの艦体の整備が行われている。
その中でも春島や月曜島等のトラック諸島の中では比較的大きな島には、10万tクラスの船舶が入渠可能なドックが建設されており、その月曜島にあるドックでは、とある軍艦が整備の為に入渠している。
「この戦艦も、クワ・トイネ公国に引き渡すんだ」
ドックに入渠している軍艦を見ながら、『冬月』が呟く。
彼の視線の先に居る戦艦は、クワ・トイネ公国海軍へ譲渡する予定の戦艦であり、ドックへ入渠しているのは、引き渡すための準備としてである。隣にあるドックにも、同型艦一隻が入渠して同じく妖精達によって整備を受けている。
しかし、その戦艦はKAN-SENの持つ艦体ではなく、妖精達が建造した代物である。かといって、元々クワ・トイネ公国向けに建造したものではなく、転移前からある戦艦なのだ。
そして何よりその戦艦の姿形だが、軍事形に詳しい者ならこう例えるだろう。
『少しスリムになった大和型戦艦』と……
そもそもKAN-SENが居るのに、なぜわざわざ戦艦単艦を建造したのか。
事の始まりはこの世界へ転移する二年ほど前まで遡る。
当時妖精達は暇を持て余していた。当時はトラック諸島の島の拡張工事をしたばかりで、それ以上の島の拡張は必要なかった。KAN-SENの改造も当時は停滞気味で、研究が進まなかった。
なので、妖精達にやる事が無かった。しかし何かやらないと落ち着かない性分の彼女達は暇をどうにか解消しようと考えた。
その時、妖精の一人がピンと思いついた。『KAN-SENの支援や島の防衛に使える軍艦を建造しよう』と。
他の妖精達はナイスアイディアと言わんばかりに笑みを浮かべ、早速彼女達は『大和』に軍艦建造の許可を得る為に押しかけた。
『大和』は妖精達の唐突な考えに終始押され気味だったが、彼女達の物作りの熱意に応えて、軍艦の建造許可を下した。まぁこれには資材が大量に余っていたというもの許可を下した要因の一つであったが、何より妖精達の技術力でどんな軍艦が建造されるのかという期待感があった。
『大和』から許可を得た妖精達は早速ドックにて軍艦の建造に取り掛かった。設計図自体は前々からKAN-SENの艦体の物を基に独自の設計を盛り込んで製図しており、その設計図を基に建造を行った。
その時妖精達が建造したのが、戦艦と空母であったのだ。
戦艦のコンセプトは『機動部隊に随伴できる機動力と高火力を有する高速戦艦』というもので、見た目は大和型戦艦に酷似しているが、コンセプト自体は『アイオワ級戦艦』に近いものがある。
兵装は50口径41cm三連装砲を3基9門を搭載し、長10センチ連装高角砲を10基20門、その他に零式機銃、九九式40ミリ四連装機関砲を数十機以上を搭載している。
速力は高速戦艦として設計されているので、31ノット前後は出るようになっている。
妖精達はその物量と技術力を生かし、戦艦をたった一年で完成させ、その上二隻目を翌年に完成させたのだ。いくらブロック工法や電気溶接を多用としているは言えど、この短期間で完成させられるのは、妖精の技術力と物量があってこそである。
しかも戦艦建造中に、片手間で『雲龍型航空母艦』を基にした中型空母を二隻完成させているので、なお妖精達の技術力の高さが伺える。
しかし、二隻の戦艦と二隻の空母を完成させた後で、妖精達はあることに気づく。
『KAN-SENの支援を行うなら、別に戦艦じゃなくてもよくね?』と。いや、作る前に気付けよとツッこみたい。
そもそも、身も蓋も無い事なのだが、KAN-SENの支援なら同じKAN-SENでも事足りるという、本末転倒な事実があったが為に、この四隻は存在理由すら失ってしまった。空母ならまだ使い道があるものの、これが中型の空母とあって、微妙に使いづらいと来たものである。
かといって、完成したばかりの軍艦を解体するなんて持っての外。しかし使い道が限られているので、建造後四隻は港の一角で係留されて半ば放置されていたのだ。
だが、この軍艦建造の経験は無駄に終わらず、妖精達は自分達が資材の輸送に使う輸送船や船団護衛を行う為に巡洋艦や駆逐艦の建造を行おうとした。
しかしその前に、トラック諸島は異世界へ転移してしまい、軍艦建造は取りやめになっていた。
その後、クワ・トイネ公国向けに軍艦の建造が行われる事になり、その軍艦こそが、その時に建造予定だった巡洋艦と駆逐艦なのである。
そして半ば放置されていた戦艦と空母も、クワ・トイネ公国へ譲渡を行う事にしたのだ。今になって譲渡するのは、それまで整備を行っていたからだ。
「お主も来ていたのか、『冬月』」
と、声を掛けられて『冬月』は声がした方を向くと、そこには『長門』と彼女の傍に控える『江風』の姿があった。
「『長門』様」
『冬月』はとっさに身体の正面を『長門』に向けて姿勢を正し、頭を下げる。その様子に『長門』は少しムッとする。
「そんなに畏まらなくて良いと、余は前から言っているではないか」
不満ですと言わんばかりな様子で『長門』は腕を組む。
「そうは言いましても、体裁というか、何て言うか。そういう性分でして」
『冬月』は苦笑いを浮かべて頭の後ろを掻く。というもの、『長門』の後ろでは『江風』がジトーと睨んでいるからだ。
「……生真面目だな。少しは『紀伊』を見習ってもいいのだぞ」
(それはそれでどうなんだ?)
『冬月』が内心呟き、『長門』はため息を付いて、入渠している戦艦を見る。
「しかし、この戦艦もクワ・トイネへ譲渡するのか」
「まぁ、いつまでも港に係留されたまま朽ちるよりも、誰かに使ってもらう方がいいですよ」
「……確かに、そうだな」
『長門』はそう言うと、目を細める。
「そういえば、どうして『長門』様はここに?」
「なんだ? 余がここに来てはいけないのか?」
『長門』は再びムッとした様子で『冬月』に声を掛ける。
「そういうわけじゃありませんが、ただ珍しいなぁって」
「珍しいか。ふん」
と、『長門』はそっぽを向く。
「……余がどこに居ても、お主の傍に居ても、余の勝手だ」
彼女は小さくそう言うも、どことなく顔が赤い気がする。
「……?」
そんな様子の『長門』に『冬月』は首を傾げる。
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所変わり、ここはクワ・トイネ公国の港町、マイハーク
ロウリア王国との戦争が終わり、マイハークは以前の活気を取り戻していた。
漁港では漁師達が獲って来た魚を水揚げし、それぞれの種類に分けられた後魚は市場へと並べられている。
町は活気に満ちており、誰もが笑顔を浮かべている。
「マイハークも以前のような活気が戻ったね」
「そうね」
町の中にある海辺を見渡せる喫茶店で、『尾張』が市民達を見ながらそう言うと、向かい側の席に座る銀髪のショートヘアーに白い軍服を身に纏う『ティルピッツ』が相槌を打つ。
二人は休暇としてマイハークを訪れ、喫茶店でコーヒーを飲んでいる。
「やっぱり、戦うよりも、平和が一番だよ」
「平和……。果たして私達兵器が口にしていい事なのかしら」
『尾張』がカップを持ってコーヒーを飲んで呟き、『ティルピッツ』は港を見つめながら声を漏らす。
港では漁船の他に、周辺海域の哨戒から帰ってきた乙型哨戒艇が燃料補給の為に埠頭へやって来て、交代で別の乙型哨戒艇が港を出る。
他にも輸送船からトラック泊地で製造された武器兵器が、港に設置されたクレーンで吊り上げられて、陸揚げされている。
「兵器らしからぬ言葉なのは理解しているよ。むしろ俺達兵器にとって平和なのは、やる事を失う事でもあるしね」
「……」
「でも―――」
と、『尾張』は往来する人々を見る。
マイハークの住人達は、誰もが笑顔を浮かべて、活気に満ちている。
「この笑顔を守れたと思うと、平和になるのも悪くないと思うんだ」
「……」
「それに、こうやって心安らかに出来るのも、平和だからこそだよ」
「心安らかに、ね」
彼女はそう呟くと、微笑みを浮かべる。
「あっ、『尾張』さん!」
と、『尾張』を呼ぶ声がして二人は声がした方を見ると、『翔鶴』と『瑞鶴』の二人を連れた『武蔵』の姿があった。
「やぁ、『武蔵』」
『尾張』は『武蔵』に声を掛けて笑みを浮かべる。
「今日は家族水入らずって感じだな」
「はい。みんなと出かけるって約束していましたので」
と、『武蔵』は後ろを振り向き、『翔鶴』と『瑞鶴』の後ろで見え隠れしている子供を見る。
「『蒼鶴』。隠れていないでちゃんと挨拶をしなさい」
「『飛鶴』も。出てきてちゃんと挨拶して」
『翔鶴』と『瑞鶴』は後ろに隠れている子供を前に出す。
『蒼鶴』と呼ばれた少女は、『翔鶴』同様腰まで伸びた白い髪を一本結びにして、頭には赤いカチューシャを着けている。瞳は『武蔵』のような赤い瞳を持つ。格好は巫女装束風の色合いの弓道着風な服装をしている。
その顔つきは『翔鶴』に似ているが、目元や輪郭は『武蔵』に似ている。
『飛鶴』と呼ばれた少女は、黒い髪をポニーテールにしており、その根元には白いリボンをしている。瞳は『瑞鶴』みたいな灰色をしている。格好は『蒼鶴』とほぼ同じ巫女装束風の色合いの弓道着風な服装をしている。
その顔つきは『瑞鶴』に似ているが、髪の色や輪郭は『武蔵』に似ている。
『蒼鶴』と『飛鶴』と呼ばれた少女達。彼女達もまた『武蔵』と『翔鶴』、『武蔵』と『瑞鶴』と、それぞれの間に生まれた第二世代のKAN-SENである。
二人して見た目が幼い姿なのは、艤装を含めてまだ完全な状態ではなく、これが完全な状態になれば今の姿より成長した姿になる予定である。
「こ、こんにちわ……」
「こんにちわ」
『蒼鶴』はオドオドとした様子で挨拶をして、『尾張』は笑みを浮かべて挨拶を返す。
「こんにちわ、『尾張』おじさん!」
「おじ……」
『飛鶴』は元気よく挨拶をするも、おじさん呼ばわりをして『尾張』はショックを受ける。
まだ若いのにおじさんと呼ばれるのは、中々つらいものがある。
おじさん呼ばわりされた『尾張』に、『ティルピッツ』は少し笑いそうになるも、他の誰にも気づかれないぐらいに漏らす。
「こら、『飛鶴』。おじさんじゃなくて、お兄さんでしょ」
「ご、ごめんなさい」
母親である『瑞鶴』より叱られて、『飛鶴』はシュンと気を落とし、
「すみません、『尾張』さん」
「いや、別に気にしてはいないよ」
謝罪する『武蔵』に、『尾張』は苦笑いを浮かべる。
「まぁ、何だ。元気そうで何よりだね」
「えぇ。そうですね」
『尾張』と『武蔵』はそう言うと、『蒼鶴』と『飛鶴』を見る。
「……この光景が見られるのも、今だけなんだな」
「えぇ。もう少ししたら、あの子達はKAN-SENとして完成します」
「複雑だな」
「そうですね。だからこそ、悔いが無いように、思い出は多く作っておきたいんです」
「そうか」
短い会話を交わすと、『飛鶴』が『武蔵』の元へとやってくる。
「ねぇ、お父さん! 早く次の所に行こうよ!」
「はいはい。今行くよ」
手を引っ張る『飛鶴』に『武蔵』は笑みを浮かべながら答え、『尾張』を見る。
「では、自分達はこれで失礼します」
「あぁ」
『武蔵』は頭を下げてから『飛鶴』と一緒に『翔鶴』、『瑞鶴』、『蒼鶴』の元へと向かい、一緒に街の中へと歩いていく。
「……行ったわね」
「あぁ」
街の方へ歩いていく四人を見ながら、二人は短く会話を交わす。
「……」
ふと、『ティルピッツ』が『尾張』の手の上に自身の手を置く。
「『ティルピッツ』……」
「……」
彼女は何も言わず、ただ自身の手を『尾張』の手の上に置き続ける。
『尾張』は何も言わず、彼女の手と自身の手を繋いで、笑みを浮かべる。
『ティルピッツ』は頬を赤く染めて、前を見つめる、
―――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜。
『大和』は自室にて窓の傍に置いた椅子に座り、外の景色を見つめていた。
「……」
転移後も変わらない気候とあって、この時期は蒸し暑く、夜も涼しい風こそ吹くが、それでも少し暑い。
一応空調があるので涼しい環境にできるが、彼は空調自体あまり好きではないので、余程熱い時以外はつけないそうな。
それゆえに、『大和』は制服の上を脱いでタンクトップ姿になっている。
こうして見ると華奢な身体つきであるのが分かる。
(このままロデニウス大陸の情勢を考えるなら……分かれたままは都合が悪いよな)
夜空を見つめながら、内心呟く。
このロデニウス大陸の情勢は、これから大きく変わるだろう。
クワ・トイネ公国とクイラ王国は元から友好国とあって、仲は良好。
ロウリア王国に関しては、まだ分からない。そもそも亜人迫害主義を掲げていたのは王族と軍上層部ぐらいで、国民自体は亜人に対する差別意識はそんなになかったようで、今回の戦争も自分達の暮らしが良くなるのなら、という程度でしか思っていなかったそうだ。まぁそれでも多くの税の徴収で国に対して快く思って居ない者が多かったそうだが。
少なくとも亜人迫害主義の人間が今回の戦争でその多くが亡くなったので、国内での亜人差別思考は減少していくと思われる。
(パーパルディア皇国の脅威がある以上……やはりやるしかないよな)
彼はあることを考え、明日にもカナタ首相に提言しようかと考える。
コンコン
すると扉からノックがする。
「誰だ?」
『「赤城」ですわぁ、総旗艦様』
「『赤城』か。いいぞ入っても」
ノックの主は『赤城』であり、彼は入室を許可すると扉が開かれ、『赤城』が姿を見せる。
「どうした? こんな夜に?」
「はい。総旗艦様と、お酌を少し」
と、『赤城』は両手を後ろに回して九本ある尻尾に突っ込むと、彼女の両手には中くらいのサイズのビンと御猪口が握られていた。
(その尻尾は四次元ポケットか何かなのか?)
目の前の光景に『大和』は内心でつっこみつつ、『赤城』をジト目で見る。
「あのな、『赤城』。時間は経っているが、まだアルコール類は……」
「ご心配なく。『ヴェスタル』さんから太鼓判を押してもらいましたので」
「……」
工作艦からの太鼓判押しと言われて、『大和』はそれ以上言えなかった。
「やれやれ」とため息を付き、『大和』は自室にある重桜風なスペースにて靴を脱ぎ、ちゃぶ台がある畳に座ると、『赤城』も靴を脱いで畳に座る。
「どうぞ♪」と『赤城』は御猪口を『大和』に差し出して彼が受け取ると、彼女はお猪口に重桜産の酒を注ぐ。
その後に『赤城』も自分のお猪口に酒を注ぎ、それを手にする。
二人はお猪口を軽く当てて、酒を飲む。
「こうやって『赤城』と飲むのは久しいな」
「そうですわね。件のメンタルキューブを宿している間、禁酒がヴェスタルさんに言い渡されていましたし」
「そりゃそうだ」
『大和』はそう言うと、酒を飲む。
「まだ何が起こるか分からないんだ。これでもまだ足りないぐらいだよ」
「さすがに、それは警戒し過ぎなのでは?」
「……『天城』の身にあんなことがあったら、誰だって警戒するだろ」
「……」
彼の言葉に、『赤城』は何も言えなかった。
二人の脳裏に過ぎるのは、夥しい量の吐血をして倒れた『天城』の姿であった。
「……」
「総旗艦様……」
「確かに、あの時は何も分からない状態だった。情報を得る為には、誰かがやらないといけなかった。だからあいつは自らが立候補した」
「……」
「代償は大きかったが、その代償によって得られた物もまた大きかった」
「……総旗艦様と、『赤城』の為でしたわね」
「そうだな。俺達の為に、あいつは身体を張ったんだからな」
その代わりKAN-SENとして色々と犠牲にしている気がしないでもないが……
「複雑な思いですわ。『天城』姉様の御身体が心配ですのに、そのお陰で『赤城』は安心して総旗艦様と子を作ることが出来ましたし」
赤城は腹部に手を当てる。
「……」
「本当に、複雑ですわ……」
(『赤城』……)
『大和』は彼女の気持ちは理解できた。
『天城』はKAN-SENの中でも、身体が弱い。それは彼女の『カンレキ』もそうだが何より『リュウコツ』に異常があるのだ。身体が弱いのもそれが原因である。
そんな彼女がリスクを承知の上で立候補して、『大和』との間に子供という名のメンタルキューブを作った。もちろんそれは義務的な理由ではなく、愛があっての子作りであった。でなければ件の白いメンタルキューブは作れないのだが。
『天城』が身体を張って、情報と技術を見出してくれたからこそ、『大和』と『赤城』は安心することが出来て、その後の第二世代の誕生に安全性を見出した。
それに関して、『赤城』は感謝し切れない思いがあると同時に、姉に重い負担を掛けてしまった罪悪感があるのだ。
「……でも」
「でも?」
と、何やら『赤城』の様子が一変する。そしてその様子を『大和』は察した。
「……総旗艦様の第一子を逃してしまったのは、悔やまれますわ」
よっぽど悔しかったのか、ギリッと彼女は歯噛みして、気のせいか口端から血を流しているように見える。
「ホントそこはブレないな」
相変わらずな様子の『赤城』に、『大和』は苦笑いを浮かべて呆れと同時に妙な安心感を覚えるのだった。
それから少しして……
「……で、これが本当の目的か、エロ狐め」
ベッドに押し倒された『大和』は、覆い被さる様にしている『赤城』に対して、ジト目で見ながら問い掛ける。
酒瓶を二本空けた所で酔いが回り、『大和』は一旦横になろうとベッドに向かったが、その直後『赤城』に仰向けになるように身体の向きを変えられて押し倒され、今に至る。
「フフフ。そういう総旗艦様も、期待されていたのでは?」
酔いが回り、妖艶な笑みを浮かべている『赤城』は、ゆっくりと顔を『大和』と目の鼻の先まで近づける。当然ながら『赤城』の身体は『大和』の身体と密着している。
「……まぁ違うと言えば、嘘になるな」
『大和』は顔を近づけて『赤城』の額に自身の額をくっ付ける。
「良いだろう。お前の気が済むまで、相手をしてやる」
「総旗艦様♪」
その後にあった事は、当の本人達の知る所である……
感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。
竜の伝説編はやっておくべき?
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やっておいた方が良い
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別にやらなくても良いんじゃね?
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オリジナル要素を加えてやるべき