異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第四十五話 ムー視察団の出発

 

 

 

 中央歴1639年 8月3日 ムー国

 

 

 遂にロデニウス連邦共和国へムーの視察団が出発する日が来た。

 

 

 

「いよいよロデニウスへ向かうんだな! いやぁ楽しみだ!」

 

 意気揚々と言った様子で、大きな肩掛け鞄を肩に掛けて大きなトランクを手にしているマイラスは宿舎内の廊下を歩いていた。肩掛けの鞄の中には上層部に許可を取って持ち出した技術関連の資料であり、ロデニウス側に見せる為である。

 手にしているトランクには着替え等が入っている。

 

「そこまで興奮するようなことか? 技術力はあるようだが、文明圏外にある国に行くんだぞ?」

 

 と、マイラスの隣で一人の男性が興奮する彼に呆れた様子で見ていた。

 

 彼の名前は『ラッサン・デヴリン』。マイラスとは幼い頃からの友人であり、士官学校でも同期である戦術士官である。今回彼もロデニウス連邦共和国の兵器戦略の分析の為、視察団のメンバーの一人に選ばれたのだ。

 

「何言っているんだ、ラッサン! 確かにロデニウスは文明圏外にあるが、我が国よりも上を行く科学文明の国だぞ! お前だって例の写真は見ただろ!」

「そりゃ見たけどなぁ……」

 

 マイラスの迫力に押されながら、ラッサンはこの前上層部より見せられた『大和』達の写真を思い出す。

 

「だが、本当に信じられないな、KAN-SENっていうのは。本当に人から軍艦に変わったのか?」

「あぁ。俺はこの目でハッキリと見たからな。それに、俺と同じで他にも見た奴は居るからな」

「だと言ってもなぁ」

 

 マイラスが熱弁するも、ラッサンはどこか信じていない様子である。まぁ写真や証言があると言っても、この目で見ていない彼からすればKAN-SENが人の姿をした軍艦などと、荒唐無稽な内容を信じろと言うのは無理な話である。

 

「にしても、国交を結んでたった二日で視察団の派遣とはな。しかも相手国の外交官の帰りに同行してとか。今まで無かっただろうに」

「それだけ政府は本気なんだろうな。グラ・バルカス帝国の脅威があるんだから、味方は多い方が良いって判断だろう」

「それにしたって、東の果てにあるような国を、そのグラ・バルカス帝国と関わりがあるような国を味方にしようとするか?」

 

 ラッサンは東の果てにある国を味方にして役に立つのかどうかの疑問もそうだが、何よりグラ・バルカス帝国に関わっているような国を味方にして良いのかどうかという疑問である。

 もしかしたらどこかで本性を表すのではないかと思っているのだ。

 

「俺個人的には、ロデニウスはグラ・バルカス帝国と関係は無いと思う」

「なんでそう言い切れるんだ?」

 

 ラッサンは怪訝な表情を浮かべてマイラスに尋ねる。

 

「グラ・バルカス帝国は少なくとも西にあると諜報部は見ている。だがロデニウスは東にあるんだ。正反対にある国が深く関わりを持っていると思うか?」

「そりゃ、そうかもしれないが……安心した所を背後からって可能性だってあるだろう?」

「だったら自国の最新鋭の技術を他国に渡すとは考えられないだろ?」

「……」

「まぁ、この辺りは向こうに行ってみないと分からない。それにロデニウスより技術供与を受けることが出来れば、力を付けてグラ・バルカス帝国の脅威から我が国を守れるかもしれない」

「……まぁ、そうなればいいんだがな」

 

 マイラスの言葉に、ラッサンは同意する。

 

 国を守りたいと言う気持ちは彼も同じだ。そうなる事への期待感はある。それと同時に本当に技術力が高いのかという懐疑的な部分がある。

 

 

「それにしても……」

 

 と、二人は次の角を曲がり、そこから三つ先の部屋の前に来ると、ラッサンは呆れた様子で声を漏らす。

 

「出発の日だって言うのに、相変わらずあいつは時間通りに来ないんだな」

「あいつの遅刻癖はいつものことだろ」

「やれやれ。これでよくトップクラスの技術士官だと持て囃されたもんだな」

「頭が良いのは確かだしな、あいつは……」

 

 どこか諦めた様子のある二人はそう短く会話を交わし、マイラスが扉をノックする。

 

「『アイリス』! もう出発の時間だぞ!!」

 

 彼はノックしながら大きな声を上げるが、返事は無い。

 

「やれやれ」と言いながらラッサンはドアノブを回して扉を開け、二人は部屋の中に入る。

 

 

「うわぁ……」

「相変わらずの散らかりようだな」

「というか、扉の鍵を開けっ放しって、無用心過ぎるだろう。何か遭ったらどうする気だよ」

「この惨状を見たら誰でもその気を失せるだろうな」

 

 部屋の中に入り、二人は中の惨状を目の当たりにしてドン引きであった。

 

 

 部屋の中は散らかっていた。とにかく散らかっていた。足の踏み場が無いぐらいに散らかっている。

 

 書類だったり、筆記用具だったり、ごみだったり、脱ぎ捨てた服等が床を覆い尽くしてもう目も当てられないぐらいに散らかっている。

 

 

「おーい! アイリス! 聞こえないのか!」

 

 ラッサンはもう一度大きな声を上げる。

 

 

「そんな大きな声を出さなくたって、聞こえているわよ」

 

 と、部屋の奥から声がすると、部屋の角から一人の女性が出てくる。

 

 背中まで伸ばした金髪に、整った顔つきに碧眼の女性であり、出ている所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいると、女性としては理想的なスタイルの持ち主である。その上彼女は下着を穿き、シャツだけを羽織っているだけという中々にセクシーな格好をしている。

 

 彼女の名前は『アイリス・グラード』。こんな身なりだが、ムーでもトップクラスの技術士官であり、様々な兵器開発に携わっている秀才である。マイラスとラッサンとは幼馴染であり、士官学校も同じであった腐れ縁である。それ故に遠慮が無いとあって二人が女性の部屋に遠慮なく入るわけも無い。

 今回の視察団に彼女も技術評価の為に含まれている。

 

 しかしそんなセクシーな格好をしたスタイルのいい女性が出てきたにもかかわらず、二人の反応は薄い。

 

 

 一応二人の名誉の為に言っておくが、別にアッチの趣向を持っているわけではなく、ストレートな趣向の持ち主である。反応が薄いのは、幼馴染ゆえか。もしくはこの惨状ゆえか。まぁ後者の場合が圧倒的に強いだろう。

 

 まぁ、何となく察しは付くだろうが、彼女は恐ろしく片付けられないズボラな性格であるのだ。

 

 

 二人は呆れたような様子でため息を付き、アイリスを見る。

 

「アイリス。お前まだ準備していなかったのか? もう出発の時間だぞ。ロデニウスの外交官達を待たせるわけにはいかないんだ」

 

 ラッサンはポケットから懐中時計を出して蓋を開け、アイリスと呼んだ女性に見せる。

 

「あぁ、もうそんな時間だったのね。すぐに用意するわ」

 

 アイリスは寝ぼけた様子であったが、時間を見てゆっくりと部屋の奥へと向かう。

 

「全く。よくあれで士官になれたのか、不思議でならねぇよ」

「まぁそう言うなって」

 

 呆れた様子で声を漏らすラッサンに、マイラスは苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、アイナンク空港

 

 

 いつでも出発できるようにエンジンの暖機運転を行っているPBJ-1Hの傍に、『大和』達がマイラス達の到着を待っていた。

 

「しかし、まさかムーが視察団の派遣をこんな超短期間で行うなんて」

「それも、我々の帰還に便乗する形で派遣するとはな」

「それだけロデニウスに対して何かが気になっているのだろうな」

 

 『ティルピッツ』と『エンタープライズ』が呟くと、『大和』が答える。

 

(ここまで早期に視察団の派遣。やはり『尾張』を見せたのは不味かったか?)

 

 『尾張』を見せた時からムーの反応が変わったのを思い出し、「うーん……」と静かに唸る。

 

 彼というより、ロデニウス連邦共和国の政府首脳的には、KAN-SENや『尾張』の存在が抑止力になればと考えて両者の存在をムーに見せ付けた。

 しかしムー側の見せた反応は彼らの予想外なものであった。

 

 そうこうしている内に、ムーからの視察団がやって来る。

 

(まぁ、今は目の前のことに集中しよう)

 

 疑問はいくつも浮かび上がるも、『大和』は頭を切り替えてマイラスを見る。

 

「お待たせしました、ヤマト殿。遅くなりましたか?」

「いいえ。ちょうどいい時間です」

 

 マイラスは申し訳なくそう言うも、『大和』は腕時計を見て時刻を確認し、そう告げる。

 

 するとマイラスとその後ろに居る男性ことラッサンは安堵した表情を浮かべて息を吐く。

 

「それで、そこのお二人も?」

「はい。ムーより視察団の一人として派遣された戦術士官のラッサン・デヴリンと申します」

「同じく視察団の一人として派遣された技術士官のアイリス・グラードと申します」

 

 『大和』がマイラスの後ろに居る二人を見ると、ラッサンとアイリスの二人が自己紹介をする。

 

 

 ちなみにアイリスはさっきまでのだらしのない姿が嘘のように、軍服をしっかりと着込み凛とした雰囲気に髪をポニーテールにして右目を覆うモノクルを着けている。

 これだけ見れば彼女を知らない者からすれば、ズボラな人間だとは思わないだろう。

 

 

「ムーからの視察団三名、この度は外交官の帰還に同行させていただいます。到着までの間、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 マイラスは気持ちを切り替えて『大和』にそう告げて三人が敬礼をし、『大和』も敬礼を返す。

 

 

 その後『大和』他の面々も自己紹介して、全員PBJ-1Hに乗り込んで機体は管制塔の指示に従って、アイナンク空港を飛び立った。

 

 

 

 空港から飛び立ったPBJ-1H。その機内は窮屈であった。

 

「申し訳ございません。なにぶんこの機体は本来大人数で乗るような機体ではないので」

「いえ、お構いなく。無理矢理同行してるようなものなので、贅沢は言えません」

 

 狭い機内の都合上『エンタープライズ』と密着してしまっている『大和』が申し訳なく言うも、ラッサンとアイリスとギュウギュウ詰めになっているマイラスは苦笑いを浮かべつつ、機内を観察する。

 ちなみに『尾張』と『ティルピッツ』も狭い機内とあって密着しているが、二人揃って満更でもない様子。

 

 機内には見たことの無い機械があちこちに設置されており、その機械を二頭身の生き物と巨大なヒヨコが操作しており、マイラスはもちろんのこと、ラッサンとアイリスは信じられない物を見て目を見開いて呆然としている。

 

(見た事の無い物ばかりだ。一体何に使うものなんだ?)

 

 見た事の無い機械が何に使うものなのか、予想が付かずマイラスは静かに唸る。

 

(気にはなるけど、仕事中だから声を掛けられないな)

 

 マイラスはとても気になるものも、巨大なヒヨコや二頭身の生物は仕事をしている最中とあって、声を掛けられなかった。

 

 

 

 それからして、PBJ-1Hがアイナンク空港から飛び立って数十分後……

 

 

「見えてきましたよ」

 

 と、『大和』が窓の外を見ながらそう伝えると、マイラス達も窓の外を見る。

 

「あ、あれは……」

「……写真で確認していたけど、こんなに大きいの?」

 

 ラッサンはそれを見て声を漏らし、アイリスは食い入るように見つめている。

 

(やはりそうか。これだけの航空機が空母から飛び立ったのなら、空母もまた大きいんだな)

 

 そしてマイラスは確信を得て、それを見つめている。

 

 彼らの視線の先には、海に浮かぶ島のような、巨大な空母が停泊している。

 

 大和型航空母艦二番艦『武蔵』である。

 

「あれはロデニウス連邦共和国で最大級を誇る航空母艦……大和型航空母艦の二番艦『武蔵』です」

「『ムサシ』? それに大和型の二番艦ということは」

 

 と、マイラスは『大和』の説明を聞き、ある事に気づく。

 

「えぇ。あれもKAN-SENです。そして、自分の弟ですね」

「やはりそうですか」

 

 マイラスは『大和』を見て、『武蔵』を見る。

 

(あれだけ大きければ、確かに『オワリ』殿と同時に湾内で軍艦に変化出来ないな)

 

 彼は納得して、『武蔵』を見る。

 

(それにしても、あの横に出っ張った飛行甲板。どんな理由があるんだろうか?)

 

 マイラスは大和型航空母艦の横に出っ張った特徴的なアングルドデッキの飛行甲板に疑問を抱き、首を傾げる。

 

 

 PBJ-1Hは『武蔵』の上空を旋回し、後ろから接近するように針路を整え、着艦体勢に入る。

 

「あ、あの、『ヤマト』殿?」

「何でしょうか?」

 

 すると徐々に『武蔵』に近づくのを窓から見ていたラッサンが、顔を青ざめて『大和』に問い掛ける。

 

「もしかして、このまま空母に着艦するのですか?」

「えぇ。大きく揺れますから、しっかり掴まって下さい」

 

 『大和』がそう伝えると、ラッサンとアイリスは椅子の背もたれをしっかり掴み、マイラスは窓枠を掴む。そして『大和』達も椅子を掴んでしっかり踏ん張る。

 

 まぁ彼らからすれば、乗っているPBJ-1Hが空母に着艦出来るのかと言う不安があるだろう。

 

 PBJ-1Hは速度を落とさずに勢いよく『武蔵』のアングルドデッキ側の飛行甲板へ向かって降下していく。

 

 空母への着艦する航空機に当然乗った事が無いムーの使節団の三人は、身体を強張らせ、顔を青ざめていた。

 

 そしてPBJ-1Hは『武蔵』のアングルドデッキ側の飛行甲板に勢いよく着艦し、着艦フックが飛行甲板に張られたアレスティングワイヤーを引っ掛けて機体は急停止する。

 

「っ!」

 

 着艦と共に急制動を掛けた事で機内は前へとGが掛かるが、誰もがどこかを掴んでいたので、何とか耐えた。

 

「大丈夫ですか?」

「は、ハハハ……な、なんとか」

 

 マイラスは冷や汗を掻きながら苦笑いを浮かべる。ラッサンとアイリスも無言で頷く。

 

 まぁ航空機に乗って空母へ着艦する経験なんて、三人の立場上まず無いだろうし、三人とも冷や汗を掻いている。

 

 

 PBJ-1Hの昇降口から『大和』達とマイラス達が降りる。

 

「おぉ……!」

 

 『武蔵』の飛行甲板に下り立ったマイラスは、思わず声を漏らす。

 

 彼の視界いっぱいに、見た事の無い物が広がっているのだ。

 

 飛行甲板の端には艦載機の『烈風改』や『疾風改』、『流星改二』が並べられ、中央の左側には出っ張り、コンクリートが張られた飛行甲板。艦橋には一定の速度で回っている機械。

 

「なんて広さだ。これが船の上なのか?」

「大きさから予想していたけど、殆ど揺れていないわね。なんて安定性なの」

 

 ラッサンとアイリスは甲板の広さと殆ど揺れを感じないのにそれぞれ驚く。

 

「お帰りなさい、兄様」

 

 と、彼らの元に『武蔵』がやって来る。

 

「ただいま、『武蔵』。出航できるか?」

「はい。いつでも出られます」

 

 『大和』の質問に頷いて答え、『武蔵』はマイラス達を見る。

 

「兄様。そちらの方々が?」

「あぁ。俺たちの帰りに同行する形でムー国より派遣された使節団だ」

「そうでしたか。自分はこの大和型航空母艦二番艦『武蔵』の艦長を勤めています『武蔵』と申します」

 

 事情を聞き、『武蔵』は自己紹介をしつつ、敬礼をする。

 

 マイラス達も挨拶を返しつつ、自己紹介する。

 

(なるほど。KAN-SENは軍艦形態では艦長になるのか。それにしても『ヤマト』殿といい、『ムサシ』殿も美形なんだな。『ヤマト』殿より青年さはあるけど)

 

 マイラスは内心でKAN-SENの形態を予想しながら、『大和』と『武蔵』の容姿について呟く。

 

 『大和』は見ようによっては女性に見える容姿をしているが、『武蔵』は兄によく似ているものも、まだこちらの方が青年感があるのだ。

 

 

 その後マイラス達は艦橋へと移動し、『武蔵』は煙突より黒煙を吐き出して、ゆっくりと動き出してロデニウス大陸を目指して出発した。

 

 

 




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竜の伝説編はやっておくべき?

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