異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
『武蔵』が使節団を乗せてムー国を発った頃。
トラック諸島 春島
「……」
ベンチに座り、『ビスマルク』は静かに空を見つめていた。その表情はどことなく不安な色が見え隠れしている。
「妹の事が心配か?」
と、コーヒーが淹れられた紙コップを両手に一つずつ手にしている『紀伊』が彼女の元にやって来て、声を掛ける。
「『紀伊』……」
『ビスマルク』は『紀伊』からコーヒーが入った紙コップを一つ貰い、再度空を見上げる。
「未知の場所に家族が行ったんだ。心配しないはずがない」
「そうか」
『紀伊』は『ビスマルク』の隣に座ると、相槌を打ってからコーヒーを飲む。
「そういうお前は弟が心配じゃないのか?」
「『尾張』なら心配無い。あいつは強いからな」
『紀伊』は自信ありげに答えて、顔を上げる。
「さっき『武蔵』がムー側の使節団を乗せて出発したと連絡が入った。行く時と違って安定した航海が出来るだろうから、一週間ぐらいで帰ってくるだろう」
「そうか。無事に終えたのだな」
『ビスマルク』は安堵の息を吐き、一安心する。
「しかし、ムー側も大胆な事をするものだな」
「国交開設と共に使節団の派遣だからな。中々大胆だよ」
『紀伊』はため息のように深く息を吐き、空を見上げる。
「ムー側に何かしらの事情があって、使節団をこちらの使節団の帰りに同行させたのか。それともよほどの何かがあるのか」
「……」
真剣な表情を浮かべ、ムーが早期に使節団の派遣を決定した流れに疑問を抱く。普通なら国交を結んで即使節団を派遣するなんてことは余程のことが無い限りない。尤も、旧クワ・トイネ公国の時と似たようなものであるが。
「まぁ、その点については追々調べれば良いさ」
「そうだな」
「で、それはともかくとして」
と、『紀伊』はそう言うと、話題を戻す。
「『尾張』自身の強さもあるが、空の守りだって『大和』に『武蔵』、『エンタープライズ』、その上他にもKAN-SENが居るんだ。大抵の事であいつらの布陣を破れはしない」
「……改めて聞くと、過剰な戦力だな」
「足りないよりかは万倍マシだ」
『ビスマルク』は改めてムー国へ派遣したKAN-SENの構成を聞いて苦笑いを浮かべるも、『紀伊』はそう言ってコーヒーを飲む。
戦力が足りないでやられました……なんてことになったら泣くに泣けない。
「そういえば、この間リーンノウの森で発見した例の物だが、調査は進んでいるのか?」
「
「簡単に言っているが、よくコピーできたな」
「まぁ、エルフ達からすれば御神体だからな。それを貰い受けるわけには行かないんだろうが、確かにリバースエンジニアリングをして速やかにコピーを製造するのは、容易じゃないな」
二人は改めて妖精達の高い技術力に苦笑いを浮かべる。
リーンノウの森にて発見された代物は、当初発見場所で調査を行っていたが、やはり場所が場所とあって調査が思うように進まず、その現状に妖精達は不満を抱いていた。その後無理を承知でエルフ達との話し合いを行ったところ、何とかそれらをしばらくの間借り入れる事になり、リーンノウの森からトラック諸島の研究開発施設に運び込まれた。
妖精達は未知なる新鮮な獲物を前に、ハイになって不眠不休で解体して隅々まで調べ上げ、それらのリバースエンジニアリングを行い、寸分違わない完全なコピー品をいくつか製造したのだ。妖精さんの異常なまでの技術力である。
ちなみに調査を終えた後、何名かの妖精は「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」と言わんばかりに倒れて病院送りになったそうな。
そして調査を終えた代物らはちゃんとエルフ達に返却し、その後コピーした代物を基に更なる徹底した調査が行われている。コピーできるほど調査が終わっているのに更に徹底して調査するとはこれいかに……
ちなみにリーンノウの森で発見されたのは、航空機が二機、オートジャイロのような飛行機械が三種類四機、戦車、装甲車等の戦闘車両が一台ずつである。
こんな異世界でなぜ旧世界にあった兵器群があったのか。これらだけでも相当驚きの代物なのだが、問題なのはそれらである。
航空機は明らかにジェット機であり、それも性質は異なれど艦載機型であって、妖精達が開発した物よりも更に発展したものだ。しかし妖精達は技術の会得を目指して、コピーして生産するのではなく、あくまでもそのジェット機を解析して技術を吸収し、自分達でジェット機を作るようである。現に三機種のジェット機の構想が練られ、研究開発が行われている。
しかしジェット機二機にも彼女達は大いに興味を持ち、徹底した調査と共に改良点を探して開発を行うそうである。
オートジャイロのようなものは輸送を目的にした物が二種類あり、それが一機ずつ計二機。もう一種は攻撃を目的にしたもので、若干異なる部分はあるが、元は同じであろう機体が二機である。
これらは妖精達がとても有用性があると考えて、調査を終えた後早期の戦力化を目指して量産体制を整える予定である。
戦車は現在開発中の新型戦車の開発に役立てられそうと、徹底的に調査が行われている。装甲車に関しては構造上特に目新しいものはなかったが、有用性が認められたので、生産ラインを構築して量産する予定である。
とまぁ、リーンノウの森で発見された代物らは、彼らの技術力を大きく飛躍させることになったのだ。
「しかし、なぜわざわざ妖精達は自分達で作ろうとするのだ? 物自体はあって、製造できるノウハウだってあるのに」
『ビスマルク』は格納庫に保管されているジェット機を思い出す。
今日までに開発してきたジェット機と比べて、そのジェット機はそれぞれ性質こそ違えど、見るからに性能は高いものだ。ならばそれを量産すればわざわざ遠回りな事をする必要は無い。
「妖精達はちゃんと技術を自分達の物にして、それを実践して現物を作る心構えだ。ただ真似するだけなら誰にだって出来る。だが、技術の根本を理解せずに真似するだけではそれ以上は無い。自分で考えようとする頭が出来ないからな」
「……」
「まぁ、言ってしまえば職人気質ってやつだな。ただ妖精達が作りたいだけって可能性も否めないが」
「職人か。なるほど」
『ビスマルク』は納得して、コーヒーを飲む。
「……」
ただ、『紀伊』は気がかりな事があった。
(やっぱり、何かおかしいよな)
彼はその代物らが保管されていた時の様子を思い出しながら、コーヒーを飲む。
そのどれもが数百年以上保管されていたとは思えないぐらい綺麗な状態であり、その上どれもが新品同様だったのだ。
しかし、『紀伊』はその代物らに違和感を覚えたのだ。
いくら失われた時間遅延魔法が施されているとは言えど、あまりにも綺麗過ぎるのだ。その上伝承じゃエルフが神の船と呼ぶジェット機は戦いの末に地面に墜ちたと言われている。その落ちた残骸を回収して祀っていたそうである。
にもかかわらず、そのジェット機はボロボロどころか新品同然な状態だったのだ。
その上、ジェット機の車輪の部分を良く見ると、埃が被っている所と被っていない部分があった。それは明らかにジェット機を動かしたという証拠に他ならない。
エルフ達は数年に一回様子を見る為にあの場所に向かうそうだが、御神体に触れる事はまず無いとのこと。
(何かがあそこに来ていた?)
となると、あそこに保管されていた代物らに、何者かが手を加えた可能性がある。
しかし、エルフでなければたどり着けないような場所に、誰がどうやって来たのか。ましても、どうやって新品同様な状態にしたのか?
(……まさかな)
ふと、『紀伊』にはそんな不可能な事を可能にしそうな連中のことが脳裏に浮かぶも、すぐに振り払う。
こんな所にまで、
(それに、あのマークに文字は……)
そして『紀伊』は一つだけ気になるものがあった。
それは飛行機械に描かれていたマークと文字であり、マークは赤い円に白い縁が描かれたものであり、『大和』や『紀伊』達トラック泊地所属を表す黒い円に白い縁のマークに良く似ている。
そしてマークは、『紀伊』の人間だった頃の記憶に、よく知るものがある。
文字はオートジャイロ似の飛行機械に書かれており、それぞれ『陸上自衛隊』と、『日本国防海軍』と書かれていた。
(陸上自衛隊は分かるが……日本国防海軍? 一体何のことだ?)
前者なら人間だった頃の記憶に同じ名前があるが、後者に関しては全く心当たりが無い。
「……」
「そういえば」
「ん?」
と、『ビスマルク』が何かを思い出したように声を漏らす。
「技術班の妖精から報告があったが、どうやらメンタルキューブの解析が終わって、試作品を三つ製造に成功したそうだ」
「っ! 解析が進んでいるというのは報告で聞いていたが、現物を作ることが出来たのか」
『紀伊』は彼女の言葉を聴き、驚いたように声を漏らす。
「まだ完全な物ではない、いわば擬似メンタルキューブなる物らしい。何が出来るかわからない、ましてもKAN-SENが出来るのか分からない」
「それでも、作れるようになったのは大きな一歩だ。ここまでくれば完全な物が作れるのも時間の問題だろうな」
彼はそう言うと、目を細める。
妖精達はKAN-SENを生み出す謎の物質こと『メンタルキューブ』の解析を進めていた。しかし妖精達の技術力を以ってしても、さすがにメンタルキューブの解析は中々進まなかった。
しかし、転移前にレッドアクシズ陣営の重桜や鉄血との間で交わした密約によって、妖精達独自の技術と引き換えに『架空存在』と呼ばれる特殊なKAN-SENの開発技術と特殊なメンタルキューブの技術を手に入れてからは、メンタルキューブの解析が飛躍的に進み、遂に妖精達はメンタルキューブの製造に成功した。
とはいえど、メンタルキューブの解析はまだ完全とは言えず、擬似的なメンタルキューブみたいな代物として出来上がったが、理論的にはメンタルキューブと大差は無いらしい。その見た目もメンタルキューブが青白い見た目をしているのに対して、擬似メンタルキューブは金色をしている。
(となると、近い内にテストする必要があるな。三つあるのなら、一個と二個を使った二パターンの建造か……しかし一体どんなのが出来上がるのやら)
『紀伊』は近い内に擬似メンタルキューブを使った建造を行おうと考える。
しかし不確定要素が多い擬似メンタルキューブで建造を行うとなると、一体どんなものが出来るか。KAN-SENだとしてもただのKAN-SENでは無い可能性が高いし、そもそもKAN-SENが出来るとは限らない。
下手すると得体の知れない何かが生まれそうだ。
「ところで、『紀伊』」
「ん?」
ふと彼女から呼ばれて『紀伊』はコーヒーを飲みながら返事をする。
しかし彼女の視線は、どことなく冷たい気がせんでもない、ジトーとしたものだ。
「昨晩は『榛名』と楽しんだようだな」
「ブフゥッ!?」
と、『ビスマルク』の突然の爆弾発言に『紀伊』は盛大に口に含んでいたコーヒーを吹き出す。
「ちょっ、おま!?」
咽ながら『紀伊』は『ビスマルク』を見る。彼女はジトーと目を細めて彼を見ている。
「……なんで知っているんだ」
「今朝腰を押さえながら妖精達に運ばれていく『榛名』を見れば、察しが付く。それがお前の部屋がある方向からなら尚更だ」
「ぐっ……」
ジト目で見ながら彼女がそう言うと、『紀伊』はぐぅの音も出ずに黙り込む。
まぁつまりは、そういうことなのだろう。
「全く。我々に余裕が生まれたからといって、こうも続けるとはな」
「い、いや、まぁ……何て言うか、その」
「その上『榛名』が立ち上がれないぐらいにするとは。獣ね」
「ぐぉ……」
『ビスマルク』の言葉がグサりと突き刺さり、『紀伊』は声を漏らす。
「……ま、まぁ、『榛名』が運ばれた理由は、分からんでもないが」
と、『ビスマルク』は顔を赤くして、歯切れが悪くそう言う。
どうやらナニカを思い出したようである。
「……まぁ、その事に今更どうこう言うつもりは無いわ。むしろ家族が増えるんだ。嬉しくないはずが無い」
「『ビスマルク』……」
彼女はため息こそつくも、その表情はとても穏やかで、微笑みを浮かべて自身のお腹に手を触れる。
「……」
『紀伊』は何も言わず、尻尾を『ビスマルク』に絡めて彼女を抱き寄せる。
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所変わり、ここはロデニウス大陸から西側。フィルアデス大陸のほぼ目と鼻の先にある『アルタラス島』
ここには島と同じ名前の国名を持つ『アルタラス王国』があり、高純度の魔石が取れる世界有数の魔石鉱山を持ち、世界各国に顧客がある。当然中にはあのパーパルディア皇国も居る。
文明圏外国に分類されているが、高純度の魔石による貿易のお陰で国はとても豊かであり、文明国並の国力と文明水準を持つ国である。
アルタラス王国にある王都『ル・ブリアス』。王都にて一際目立つ王城『アテノール城』
「……」
アルタラス王国の国王『ターラ14世』は椅子に座り、窓から外の景色を眺めている。
(人生とは、何が起こるものか分からないものだな)
窓から外を見ながら彼は内心呟き、空を眺めながら今日まで起きたことを思い出す。
一ヶ月ほど前、アルタラス島に一隻の軍艦が現れた。自国はもちろんのこと、第三文明圏の列強国であるパーパルディア皇国とも違う船の存在に、王国は一騒ぎになった。
しかし軍艦には白旗が揚げられており、戦闘の意思は無く、軍艦には『ロデニウス連邦共和国』と名乗る国の大使が乗っていた。
大使によれば、アルタラス王国との国交開設が目的で、その後紆余曲折を経てロデニウス連邦共和国との国交を開設した。
(そして、かの国と安全保障条約を結ぶことが出来た。これならば、パーパルディア皇国と戦えるかもしれない)
ターラ14世は条約を結んだ時の事を思い出し、安堵の息を吐く。
国交開設時に、ロデニウス連邦共和国はアルタラス王国と安全保障条約を結ぶことを提案した。この安全保障条約は、言うなればどちらかの国が他国と戦争が避けられなくなった場合、条約を結んだ国から多くの援軍を要請できるものである。
その見返りにロデニウス連邦共和国はアルタラス王国の一部の土地を防衛目的で租借する。
しかし当時のアルタラス王国の一部の大臣や貴族は、建国から一年にも満たない国との安全保障条約を結んだところでその戦力など当てにならないと、条約を結ぶことに反対していた。まぁ当然といえば当然な判断である。
とは言えど、ロデニウス連邦共和国の大使が王国へとやってきた際に乗ってきた軍艦が明らかに国の技術力を現しているので、ターラ14世はロデニウス連邦共和国へ使節団を送ってその力を見極めることにした。
その後アルタラス王国より使節団がロデニウス連邦共和国へ派遣された。
そこでアルタラス王国の使節団はロデニウス連邦共和国の国力と、技術力を目の当たりにして大いに驚愕した。自国はもちろんのこと、列強国のパーパルディア皇国をも上回っていた。
そして視察を終えた使節団は王国へ帰国し、ターラ14世や大臣、貴族らにロデニウス連邦共和国の全てを口頭と共にロデニウス連邦共和国より貸し出されたカメラで撮影した写真を見せて伝えた。
それが決め手となり、アルタラス王国はロデニウス連邦共和国と安全保障条約を結ぶと共に、軍事同盟を結んだ。この軍事同盟は技術提供に加え、武器兵器の輸入と共に指導を行う教官の派遣を行うものである。
その為、アルタラス王国軍は急速な軍拡と発展を遂げつつあり、それは同時に国そのものも大きく発展を遂げつつあった。
その他に、アルタラス王国はロデニウス連邦共和国よりムーとの話し合いの為の仲介を要請された。
アルタラス島にはムー国の空港がある。その空港の使用許可と共に空港の拡張工事の申し出をアルタラス王国の仲介にて行った。
当初ムーはロデニウス連邦共和国の提案に懐疑的だったが、本国にてロデニウス連邦共和国の技術力を目の当たりにしていたので、空港の拡張工事を許可した。
ムー側もアルタラス島にある空港の拡張工事は計画自体はあった。しかし本国からアルタラス島への距離がある上に、その空港自体それほど運用しているわけでもなかったので、拡張工事するほどの必要性があるのかと、中々計画を実行に移せなかった。
そこへロデニウス連邦共和国が空港の使用許可と共に拡張工事を行いたいという申し出である。ムーからすれば正に渡りに舟であった。
ムーより拡張工事の許可が下りて、ロデニウス連邦共和国は既に待機していた工兵隊や作業員が早速空港の拡張工事を開始した。
空港の拡張工事はロデニウス連邦共和国の妖精達の物量に物を言わせた人海戦術にて工事を行い、滑走路の拡張を半日足らずで終了させて、その後空港設備の工事へと移った。
現在でも工事は続いており、時折ロデニウス連邦共和国より資材を積んだ輸送機が空港へやって来ている。
「……」
ターラ14世は外の景色を眺めつつ、後ろに控える部下に声を掛ける。
「そういえば、ルミエスはどうしている?」
「ルミエス様でしたら、空港の工事現場に向かわれて見学しています」
「またあそこか。安全に考慮されているとは言えど、ロデニウス側に負担が掛かるというのに」
ターラ14世は悩ましいように顔に手を当てて息を吐く。安全に配慮されているとは言えど、工事現場では何が起こるか分からない以上不安が多い。
しかしそれでも一人娘はよく空港の工事現場の見学に行っている。親の心子知らずとはこのことだろう。
「全く。あの好奇心、一体誰に似たのやら」
彼は小さく呟き、ため息をつく。しかしその表情はどことなく嬉しそうだ。
「……」
ふと、彼は左胸に手を当てて、痛みを和らげるように優しく撫でながら、窓から空を見上げる。
(守らねばな。この国を……)
彼は内心呟き、改めて決意を胸に秘める。
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竜の伝説編はやっておくべき?
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やっておいた方が良い
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別にやらなくても良いんじゃね?
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オリジナル要素を加えてやるべき