異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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レレレ様より評価6を頂きました。

評価していただきありがとうございます!


第四十九話 訓練と出会い

 

 

 中央歴1639年 8月13日 ロデニウス連邦共和国 マイハーク港

 

 

 

 日が昇り始めて辺りが明るくなり始めた頃。

 

 

 港では漁へと出ていた多くの漁船が港に戻ってきて、埠頭に着くと漁で獲って来た魚の水揚げ作業が行われている。

 

 水揚げされた魚は市場へと並べられ、朝早くから魚の仕入れにやってきた料理店の店主や主婦が市場にやって来て魚を購入している。

 

 

 

 その市場がある港の港外に、とある軍艦がブイに繋がれて停泊している。

 

 紀伊型戦艦を縮小してスリムにしたような形状をした戦艦であり、少し離れたところに同型艦が停泊している。

 

 その戦艦の名は『シキシマ級戦艦』。トラック泊地にて妖精達の暇潰しを兼ねてKAN-SENの支援目的で建造され、完成してからわざわざ作る必要が無いことに気づき、使用目的を失って半ば放置されていた戦艦である。トラック諸島が異世界に転移してからしばらくして、旧クワ・トイネ公国の海軍へ譲渡する為に整備されていたが、三ヶ国が統一した後、ロデニウス連邦共和国海軍へと譲渡され、戦力化に向けて日夜乗組員の訓練が行われている。

 現在一番艦の『シキシマ』と二番艦の『サガミ』が譲渡され、乗員の訓練が行われている。その上、現在三番艦と四番艦が追加で発注されており、現在トラック泊地の建造ドックにて建造が行われている。

 

 その二隻の戦艦の近くには、同じ目的で建造された空母の姿もあり、こちらも整備を終えてロデニウス連邦共和国海軍へ譲渡され、それぞれに『ヒョウリュウ』『エンリュウ』と名付けられて乗組員は訓練に励み、空母艦載機の搭乗員の訓練も進んでいる。

 そしてその空母もまた同型艦が追加で建造されているが、建造している場所はトラック泊地ではなく、クワ・トイネ州とクイラ州に作られた数箇所の造船所にて導入予定の新鋭駆逐艦と共に建造されている。

 

 

 ちなみにロデニウス連邦共和国海軍の軍艦の命名規則だが、現在採用されている軍艦には重桜風の名称が付けられているものも、将来的にはトラック泊地の妖精達の力を借りずに設計から建造を全て行う軍艦には、ロデニウス連邦共和国の地名が使われる予定だそうである。

 まぁ、設計に関しては全く独自というわけにはいかないだろうが。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 『シキシマ』の艦内では、まだ起床時間ではないとあって乗組員がそれぞれの部屋にてベッドやハンモックで深い眠りについており、起きる気配は無い。

 

 

 

 ―――ッ!!

 

 

 

『っ!?』

 

 すると突然警報が鳴り響き、寝ていた乗組員達はとっさに起き上がる。

 

『敵艦隊発見!! 敵艦隊発見!! 総員戦闘配置!! 総員戦闘配置!!』

 

 スピーカーから号令が流れ、乗組員達は寝間着のまま起きて靴やヘルメットと最低限の装備を整えて慌てて部屋を出る。

 

 彼らは寝起きにもかかわらず、乱れぬ動きでそれぞれの配属場所へ向かい、準備に取り掛かる。

 

 

 ある者は機関室へ向かい、エンジンの状態を確認し、すぐに出航できる様に出力を上げる。

 

 ある者はダメージコントロール班として初期配置場所へ向かい、それぞれの道具を手にする。

 

 ある者は主砲塔の弾薬庫へ向かい、主砲の装薬を運び出したり、砲塔内に着き、主砲の尾栓を開けて砲身内の異常が無いのを確認する。

 

 ある者は高角砲へ向かい、砲手席に座り、砲弾を弾薬庫から運び出して装填装置にセットする。

 

 ある者は機銃に着き、他の面々が弾薬箱を二人掛かりで持ってきて、蓋を開けてベルトリンクで繋がれた弾薬を機銃に装着し、初弾を装填する。

 

 ある者は弾薬箱を二人掛かりで持って機関砲に着き、蓋を開けてクリップで纏められた弾薬を機関砲に差し込み、初弾を装填する。

 

 ある者は艦橋へと向かい、所定の位置に着く。

 

 と、乗員達は自分の配属場所へと向かい、配置準備を整えていく。

 

 

 艦橋では艦長を含む艦橋要員が既に居り、副長がタブレット端末を持って配置完了の報告が入ると、その部署にチェックを入れる。その隣で航海長が二度目の確認をする。

 

 艦橋にはモニターが設置されており、画面には各部署の様子がカメラで撮影されている。これによってその部署が本当に配置が完了しているかを確認し、尚且つ動きを観察できる。

 

 

 それから少しして残り最後の部署から配置完了の報告が入り、副長が最後に配置が完了した部署をチェックすると、その上で時間を刻んでいたタイムが止まる。

 

「総員戦闘配置完了! ただいまの記録、14分17秒!」

 

 副長が記録したタイムを報告すると、『おぉ!』と周囲で声が漏れる。

 

「よしっ」

 

 記録を聞き、『シキシマ』の艦長に就任したミドリは頷く。

 

 この世界で初めてKAN-SEN達と接触を果たしたミドリは、当初重巡『ヤクモ』の艦長として就任していたが、その後紆余曲折を経て『シキシマ』の艦長に就任した。

 何気に旧クワ・トイネ公国から現在のロデニウス連邦共和国海軍までに国内初の肩書きを多く持つ人物である。

 

 

「遅いわね」

 

 

 と、周囲が喜んでいる中、水を差すかのように冷たい声がして、誰もがその声の主を見る。

 

 そこには艦橋の窓から外を見ている女性が居り、彼女は腕を組んだまま振り返り、彼らを見る。

 

 毛先が若干ロールして腰まで伸びた金髪をツインテールにした紅眼の女性で、丈が短く胸元が開けたワンピースの上に赤い軍服を纏い、赤いハイブーツを履いている。

 服装が服装とあって、彼女のスタイルの良さが大いに浮き出ている。

 

 彼女の名前は『ネルソン』。ネルソン級戦艦一番艦、そのKAN-SENである。現在彼女は他のKAN-SEN達と共に、海軍の軍艦の乗組員の教導を行っており、彼女は『シキシマ』の乗員の訓練を担当している。

 

「まだ一分……いや、二分は短縮できるわね」

「し、しかし『ネルソン』殿。前回よりも二分短縮しています。これ以上は……」

「確かに前回の抜き打ちの訓練よりも短縮されているわね。その点は確かに賞賛に値するわ。でも……」

 

 と、スゥと目を細める。僅かに怒りの含む視線にミドリを含む艦橋要員は息を呑む。

 

「今回は動きに無駄が多いわ。特にダメコン班は前回よりも大幅に遅れている。それがなければまだ短縮出来たわ」

「……」

「戦艦の乗組員である以上、あなた達には相応の練度を持ってもらわないと困るわ。海戦の主戦力は戦艦である以上、真っ先に狙われるのは戦艦よ」

 

 『ネルソン』はこの場に居る者達に説教を始める。

 

「敵航空機が来れば、空母を狙われるかもしれないけど、空母が居なければ戦艦が狙われるわ。敵はこちらの事情なんかお構いなし。戦う準備が出来ていないから攻撃を待って欲しい、なんて言って敵に言うつもりかしら?」

「……」

 

 その後『ネルソン』は各部署での悪い点を次々と挙げていき、ミドリ達に反論を許さなかった。その後どこが悪いのか、どこを改善すべきかを挙げていく。

 

 

「……でも、高角砲と機銃、機関砲郡の配置完了は前回より早かったわね。航空機の来襲は軍艦よりも早い以上、素早く動くのは賞賛するわ」

 

 先ほどの批判から一転して褒めの姿勢になった彼女に、誰もが顔を上げる。

 

「そして各砲塔の配置完了が早かったのも賞賛するわ。敵艦と戦うとなれば、真っ先に働いてもらわないといけない部署であるから」

「……」

 

「今後の訓練で改善点を直し、更に早く戦闘配置に着けるように努力しなさい」

 

 そして『ネルソン』は話を締め括り、解散となった。

 

 

 

 

「『ネルソン』のやつ。相変わらず張り切っているな」

「そうですね、指揮艦」

 

 『シキシマ』から離れたところで停泊している『サガミ』。その艦橋の露天指揮所で『紀伊』が備え付けられている望遠鏡にしがみ付く(・・・・・)ように覗き込み、ネルソンの様子を見ていると、隣に立つ女性が相槌を打つ。

 

 腰まで伸びた薄紫気味の銀髪を一部編み込んだ碧眼の女性で、胸元が開けた白いトップスに白いプリーツスカート、同色のロングブーツといった服装をしている。その上から白い改造軍服を羽織っている。

 

 彼女の名前は『ロドニー』。ネルソン級戦艦の二番艦、そのKAN-SENであり、『ネルソン』の妹である。

 

 『ロドニー』は『サガミ』の訓練を任されており、『紀伊』は二人の様子を見に来たのだ。

 

「この様子なら戦力化も遠くないな」

「えぇ。『サガミ』の乗員も練度が上がっていますので、このまま訓練が進めば実戦に入っても問題無いかと。それに『ヒョウリュウ』と『エンリュウ』の乗員の練度も上がっているようですし、航空隊も近い内に各空母に配属になるようです」

「そうか」

 

 『紀伊』は満足げに頷くと、しがみ付いていた望遠鏡から離れて床に下りる。

 

 

 

「ところで、指揮艦。一つ良いでしょうか?」

「何だ?」

身体が小さくなった(・・・・・・・・・)感想はいかがでしょうか?」

「……不便だよ。全く。それとわざとらしくしゃがむな!」

 

 と、『ロドニー』はまるで背の低い子供に合わせるようにその場でしゃがみ込み、『紀伊』と視線を合わせる。当の本人はわざとらしくしゃがみ込む彼女に声を上げる。

 

 しかし『紀伊』の身長は『ロドニー』よりも高いはずなのに、なぜ彼女がしゃがむ必要があるのか?

 

 というのも、現在の『紀伊』の姿だが……どういうわけか背が縮んで幼くなっており、小さな子供の姿になっているのだ。

 それ故か、彼の頭に生えている角は刺々しい見た目から丸みを帯びた幼さになっており、尻尾もゴツゴツした見た目からツルんとした平らな見た目になっている。

 

 KAN-SENには同名であり、幼い見た目のKAN-SENが存在している。例えば『赤城』や『ベルファスト』、『クリーブランド』、『グラーフ・ツェッペリン』には幼い見た目の個体が存在している。しかしこれらはあくまでも別個体であり、そのKAN-SEN自身が幼い姿に変化しているわけではない。

 しかし『紀伊』の場合、別個体ではなく、彼自身が幼い姿に変貌してしまっている。

 

 なぜにこんな摩訶不思議なことになっているのか。それは二日前に遡る。

 

 

 二日前に妖精達はある実験を行い、『紀伊』はその実験に立ち会い、実験が開始された。

 

 しかしその実験の最中に突然爆発し、『紀伊』はその爆発に巻き込まれてしまった。

 

 そこまで大きな爆発では無かったものも、爆音は響いたので多くのKAN-SENが耳にして、実験が行われていた建物に向かった。

 

 KAN-SEN達が駆けつけると、煙が室内に充満していて、窓を開けて換気をすると、そこに居たのは――――

 

 

 

 ――――身体が小さくなった『紀伊』と、呆然と立ち尽くす『明石』と妖精達であった。

 

 とんでもない光景にこの場に駆けつけたKAN-SEN達は驚愕した。そりゃ自分達の指揮艦が小さくなっていたら驚くのは当然だ。

 

 で、『明石』を筆頭に妖精達が行っていた実験はKAN-SEN絡みのものであったが、なぜこうなったかは彼女達にも良く分かっていない。

 

 その後『紀伊』は検査を受けて、今はすぐに戻せないが、一応二、三日で戻るとのことで、彼は嫌々この姿で過ごしているという。

 

 ちなみにこの幼児化した『紀伊』の姿は後に大統領府に赴いていた『大和』にも伝わり、タブレット端末に転送された彼の姿を見て飲んでいたコーヒーを壮大に吹き出したとか何とか。

 

 

 この幼児化の技術は一応研究成果として残されており、やろうと思えば出来るようである。そして後に研究は再開されて進められることになる。その為か、後にこの幼児化技術が別の形で使われることになろうとは、この時誰も知らなかった。

 

 

 だが、この姿になって不便に感じていることが多い。一番はやはり身体が小さくなったことで、今まで出来ていたことが出来なくなってしまっているのが大きく、誰かに手伝ってもらわないと生活しづらいという、当の本人からすれば歯痒い状態になっている。

 そのせいで、場合によっては誰かに抱っこしてもらわないといけないという、恥ずかしいことになることも多いとかなんとか。

 

 なんでかって? スタイルのイイKAN-SENに抱きかかえられるわけであって、彼の背中に彼女達のやわらかーいモノが必然的に押し付けられるわけなのであって……

 つまりは、そう言うことである。

 

 

 と、まぁ、『紀伊』の幼児化以外は、特に変わったこともなく、訓練は続く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって首都クワ・トイネ

 

 

 ロデニウス連邦共和国の首都とあって、発展具合は他の地域とは比べ物にならない首都クワ・トイネ。

 

 

「こ、これは……!」

 

 そんな首都クワ・トイネの一角にある店の前で、マイラスは驚愕の表情を浮かべて視線の先の窓の向こうにある物を見ている。

 

 それは精巧に作られた戦闘機のプラモデルの完成見本である。

 

(こんなに精巧な作りをしているのに、この価格だと!? 本国でこれだけのクオリティーの模型を作るとなると何十倍の値段になるぞ!?)

 

 マイラスは戦闘機のプラモデルの価格を見て、驚愕している。プラモデルは重桜の『零式艦上戦闘機』であり、とても造形が凝っている上に、パーツごとに色分けされている。にも関わらず、子供のお小遣いでも買える値段である。実機を見ている彼からすればその再現度に驚愕している。

 その上、このプラモデルは組み立てに接着剤が可能な限り不要であり、繋ぎ目もなるべく目立たないように工夫されて設計されている。

 

(その上初心者でも簡単に作れるのか。細かい分野でもロデニウスは進んでいるな)

 

 彼は改めてロデニウス連邦共和国の技術力を目の当たりにし、若干気を落とす。

 

 

 ちなみにムー使節団だが、今日は実質的に休日と言えるような予定であり、使節団の面々はそれぞれ行きたい場所に赴いている。当然使節団としての仕事もこなしながらであるが。

 

 アイリスは家電量販店にて家電製品の視察を行っており、家庭で用いられる技術の調査を行っている。その後鉄道関係の見学を行う予定である。

 ちなみに彼女は割りと鉄道関係が好きな様であり、政府よりわざわざカメラを借りて撮影に赴くほどであった。

 

 ラッサンは昨日に味わったロデニウス産のコーヒー豆を更に調べようと街に赴き、その道中偶々会った『マインツ』と共に、彼女の行きつけのコーヒー豆の店へと向かったそうである。

 見た目はデートしているような様子だが、二人はあくまでも趣味が合う者同士なので、そこに男女の感情は無い。

 

 そしてマイラスは街を歩いていると、偶々目にしたのが、プラモデルであった。

 

 

(こんな模型があったら、大人から子供まで楽しめるだろうな。子供は工作意欲の向上、大人は趣味として楽しめるな)

 

 彼はムーでプラモデルが流行る光景を想像する。それにただでさえムー国内では軍に関心を抱く者が少なく、新たに入る軍人の数が少ないのが軍の悩みだった。そこへ兵器のプラモデルで関心を抱き、あわよくばその兵器に関わりたいという気持ちを抱いてもらえれば、軍に入ってくれるかもしれない。

 という、希望的観測をマイラスは抱く。

 

(それに、模型からでも分かる部分もあるしな)

 

 マイラスは零式艦上戦闘機や、F6F ヘルキャット、Bf 109といったプラモデルを見ながら、戦闘機の形状を観察する。

 

 プラモデルは寸分狂いなく再現されているとあって、技術者からすれば形状からでも得られる構想はある。まぁ実物や設計図と比べて得られる物は多くないだろうが。

 

(軍艦や戦車もあるが、スケール的に戦闘機の方が細部が分かりやすいな)

 

 戦闘機の横には、軍艦と戦車のプラモデルも展示されていた。戦闘機のプラモデルと同じ大きさであったが、さすがにスケール的に詳細な部分が省略されている部分が多いが、それでも寸分狂いなく再現されているのはさすがであろう。

 なので、戦闘機のプラモデルと違い、軍艦や戦車のプラモデルでは得られる部分はあまり無いだろうが、作り甲斐はありそうだ。

 

 

 ちなみに、この軍艦のプラモデルの販売に際して、KAN-SEN達の写真集や、フィギュアの販売を行おうと画策した妖精達が居た。しかしKAN-SEN達は自身の写真集やフィギュアの販売に反対であり、協力に否定的だった。

 とは言えど、国内でのKAN-SENの人気は非常に高く、写真集やフィギュアの販売を行えばかなりの儲け出るのは明白であった。まぁその人気具合の方向は色々とあるのだが……

 そこで一部の妖精達が密かに小遣い稼ぎとして盗撮や無許可で高クオリティーのフィギュアの密造を行って、密売を行おうとした。しかもその中には、大人向けの臼井=翻も混じっていたとか何とか。

 

 しかし販売直前でKAN-SEN達にばれ、彼らは徹底的にシバかれ、その翌日には密売計画に関わった妖精達が吊るし上げられていたとか何とか。もちろん密売予定だった盗撮写真の写真集やフィギュア、臼井=翻は処分された。

 

 だが、KAN-SEN達は一応妥協案として軍艦形態の艤装なら写真集にしたり、模型にしたりするのを許可して、現在の軍艦のプラモデルの発売に繋がったのである。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

(サンプルとして、いくつか買ってみるか)

 

 マイラスはプラモデルの購入を決意する。まぁ彼自身も興味を抱いており、半分は自分が作りつつ、完成品と出荷時の物を政府にサンプルとして提出しようと考える。

 国内で一般向けに販売するのはもちろん、プラモデルの技術を研究開発に応用できると考えてである。無論、ロデニウス連邦共和国の技術力を探る意図があってである。

 

 彼はすぐに店に入り、プラモデルを購入するのだった。

 

 

 

「す、少し、買い過ぎたか」

 

 店から出てきたマイラスは声を漏らしながら、両手で持っている荷物を見る。

 

 彼が購入したプラモデルは全て戦闘機であるが、それなりに大きなモデルであり、尚且つプラモデルを作る際に必要な道具も一緒に購入したので、結構な大荷物になってしまった。

 

 一応軍人である彼とてこの程度で根を上げることは無いが、それでも片手で持つには少しつらい程度の重さと大きさはある。

 

「さてと、購入したはいいが、この後はどうするか」

 

 彼は店を後にして、これからどうするか考える。

 

(家電品はアイリスが見ているし、わざわざ二人で調べる必要は無いしな。車関連は後日見学する予定だし……)

 

 「うーん」と静かに唸りながら街道を歩く。

 

 休日のように自由行動が出来るとはいえど、いざ自由行動が許可されたとしても、何をするかどうかはすぐに思いつかない。一応使節団としての仕事はこなしながらであるが、それでもすぐには思いつかない。

 マイラスも実際そんな感じで街を歩き、先ほどの店を見つけたわけだ。

 

(……そういや、そろそろ昼か)

 

 マイラスは荷物を持ったままポケットから政府より貸し出されているスマートフォンを取り出し、時間を確認する。

 

 時間はちょうど12時を表示しており、昼食時である。

 

(そうなれば、このスマホで近くの料理店を検索すれば見つけられるな)

 

 彼はそのままスマホで近くにある料理店を検索し始める。

 

 

 しかし彼は一つだけ過ちを犯してしまう。

 

 というもの、スマホを見ながら彼は歩いているのだ。当然スマホに集中しているので、前は殆ど見えていない。この状態では誰かにぶつかってしまう。実際ロデニウス連邦共和国では、スマホの普及に伴い、通行人同士がぶつかって倒れ、怪我をするケースが増えている。

 

 

 

歩きスマホはダメ、絶対

 

 

 

「きゃっ!」

「うわっ!」

 

 そして案の定彼は建物の角の陰から出てきた人とぶつかってしまい、お互い倒れてしまう。

 

「も、申し訳ございません! 大丈夫ですか!?」

 

 マイラスは荷物をその場に置いてすぐさま立ち上がり、ぶつかってしまった人に寄る。

 

「は、はい。私は大丈夫です」

 

 その人物は尻餅を付きながらも、マイラスに無事であることを伝える。

 

「すみません。よそ見していたばかりに」

「いえ。私も少しよそ見していたので」

 

 マイラスは頭を深々と下げて謝罪をすると、その人物も立ち上がりながら自身にも非があると言って頭を下げる。

 

 そして彼はその人物を見て、息を呑む。

 

 まだ幼さを残しながら大人になりかけといった容姿の少女であるが、出ている所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいるという理想的なスタイルをして、頭には狐の耳が生えて、尻付近に九本の尻尾が生えており、髪と尻尾の毛の色は黒く、瞳の色は赤い。

 格好は着物の様な上着にプリーツミニスカートを身に纏い、菊花紋章を持つ艦首を模したようなコルセットを身に付けて、黒いニーソックスに茶色のブーツを履いている。

 

 九本の尻尾もそうだが、非常に整った容姿のケモノ耳美少女に、マイラスは目を奪われていた。

 

「……? どうしましたか?」

「あっ、いえ。何でもありません」

 

 急に黙り込んだマイラスに少女は首を傾げながら声を掛けると、ハッとしたマイラスは慌てた様子で何も無いのを伝える。

 

「あ、あの、お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。尻尾がクッションになったので」

 

 と、少女は九本ある尻尾を見て揺らして見せる。よほどモフモフとしているのだろうな。

 

「あぁ、荷物が散らかって……」

 

 マイラスは彼女の傍に落ちている鞄から散らばった荷物を見て、すぐに拾い始める。

 

 鞄から散らばっているのは、どうやら絵の具や筆といった、絵描きに使う道具や、スケッチブック等であった。

 

「? これは……」

 

 ふと彼の視界に入ったのは、落下時に開けたスケッチブックであり、開けたページには港周辺を描いた絵が描かれている。

 

「あら? もしかして、絵にご興味がありますか?」

 

 と、少女は絵に興味を示したマイラスに声を掛ける。

 

「えっ? そ、そうですね。学生時代によく絵を描いていたもので」

「そうですか」

 

 少女はどことなく嬉しそうな様子で、九本ある尻尾を僅かに揺らす。

 

「? もしかして、ムーの使節団の方ですか?」

「えっ? そうですが、なぜそれを?」

 

 マイラスは戸惑いながら少女に問い掛ける。

 

「ムー使節団の事はお聞きしています。本来なら私は関わることは無かったのですが」

「そうですか。となると、あなたは軍の……もしかしてKAN-SENですか?」

「……はい。私はKAN-SENです」

 

 と、少女はなぜか一間置いてから、自身がKAN-SENであると明かす。

 

「しかし、なぜ私がKAN-SENであると?」

「一昨日空軍基地での視察の際に、『加賀』というKAN-SENを見かけましたので。あの方もあなたのような尻尾を持っていましたので」

「『加賀』さんにお会いしたのですか? 『加賀』さんはお元気でしたか?」

「えぇ。パイロットの訓練生の教官として指導を行っていました」

「そうですか。しばらくお会いしていなかったので、元気そうで良かったです」

 

 少女はマイラスから『加賀』が元気であるのを聞き、安堵した様子を見せる。

 

「……」

 

 すると、マイラスは少女を見ると、小さく首を傾げる。

 

(そういえば、この人……誰かに似ているような)

 

 彼は少女の容姿に、妙に誰かに似ているような、見覚えがある感覚があった。しかし当然彼女とは今日初めて会っているので、面識は無いはず。

 

「あっ、自己紹介がまだでしたね。私、『筑後』と申します」

 

 少女こと『筑後』は姿勢を正し、頭を下げる。

 

「『筑後』さんですか。改めまして、ムーより派遣された使節団の一員のマイラス・ルクレールといいます」

 

 マイラスは疑問を押し殺し、自身も自己紹介をする。

 

「ところで、マイラスさんは絵にご興味があるんですか?」

「そうですね。先ほども言いましたが、学生時代によく描いていました」

「最近は描いていないのですか?」

「えぇ。士官学校に入ってからは絵を描く時間が殆ど取れず、軍に入ればもう描く暇もないので、最近は全く」

「そうですか」

 

 『筑後』はそう言うと、マイラスと共に素早く散らばった絵の具や道具を拾い、鞄に仕舞う。

 

「あの、よろしければ、この後一緒に昼食をどうですか?」

「えっ?」

 

 と、片づけが終わったタイミングで、『筑後』がマイラスにそう提案する。

 

「先ほどぶつかったお詫びにと思って」

「そんな。悪いのは自分なのに! お詫びなら自分が!」

 

 マイラスは戸惑いながら、彼女にそう言う。

 

「私にもよそ見をしていた非があります。それにマイラスさんは大切なお客様ですので、そのお客様にご迷惑をお掛けした以上、お詫びをするのは当然です」

「ですが……」

 

 『筑後』はそう言うものも、マイラスは渋る様子を見せる。一番迷惑を掛けたのは自分であるというのはどうしても曲げられないようである。

 

「でしたら、昼食がてら、私のお話の相手をしてもらってよろしいでしょうか?」

「話し相手、ですか?」

「はい。もちろん、お詫びの気持ちではなくですよ」

「……」

「よろしいでしょうか?」

 

 彼女はそう言うと、首を小さく傾げる。

 

「分かりました。ぜひ、ご一緒させてください」

「はい!」

 

 マイラスは悩んだ末に、『筑後』の提案を受け入れて、荷物を持った後二人は近くの喫茶店へ向かう。

 

 




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竜の伝説編はやっておくべき?

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