異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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早く書き上がったので早めの投稿です


第五十話 住み着く者とかつて争った者

 

 

 

 

 中央歴1639年 8月15日 トラック諸島

 

 

 

 ムー使節団はトラック諸島の視察の為、マイハークにて二式飛行艇に乗り込み、数時間ほどの飛行を経て、トラック諸島上空を飛行していた。

 

 

『……』

 

 マイラスとラッサン、アイリスの三人は、二式飛行艇の眼下に広がる光景に釘付けであった。

 

 トラック諸島の湾内には、多くの軍艦が停泊しており、そのどれもが本土の港に停泊している軍艦とは異なるスタイルをして、尚且つ規模が大きい。

 それらの軍艦は、殆どがKAN-SENの軍艦形態の艤装である。

 

「凄いな。これほどの軍艦が停泊しているとは」

「それに、本国の軍艦よりもより発展しているようにも見えるな」

「その上、これらが殆どKAN-SENのものなのね」

 

 三人は停泊している戦艦や空母、巡洋艦、駆逐艦を見て、それらの殆どがKAN-SENのものであると聞かされているので、息を呑む。

 

「それに……あれは……」

 

 と、息を呑むマイラスの視線の先には、湾内にあるブイに繋がれた二隻の戦艦の姿であった。

 

 周囲に停泊している戦艦が巡洋艦にしか見えないぐらいに巨大な艦体を持ち、50.8cmという巨大な主砲を三基九門を搭載し、ハリネズミの如く対空火器を持つその姿は、絶対に航空機を撃ち落とすという強い意志が感じ取れる。

 

 50.8cmという世界最大の艦砲を持つ最大の戦艦……紀伊型戦艦である。

 

 その紀伊型戦艦が二隻……一番艦『紀伊』と二番艦『尾張』が湾内にあるブイに繋がれて停泊している。

 

「片方は『オワリ』で間違いないが……もう一隻が?」

「えぇ。紀伊型戦艦の一番艦『紀伊』といいます」

「『キイ』 あれが……」

 

 同乗している『大和』がそう言うと、マイラスは『紀伊』と『尾張』を見下ろす。

 

(あれほどの規模の戦艦が二隻も。本国の海軍の総戦力を以ってしても、あの二隻を沈めるのは実質的に不可能だな……)

 

 ラッサンは二隻の不沈戦艦を見て、改めて自国の戦力ではロデニウス連邦共和国には勝てないという現実を思い知る。

 

 ただでさえ『ティルピッツ』ですらラ・カサミでは勝てないのが分かっているのに、それ以上の規模の戦艦が二隻も居るのだ。空と海から総力を以ってして攻撃を仕掛けても、航空機はあの無数の対空火器によって撃ち落とされ、軍艦は主砲の射程に入る前にアウトレンジで砲撃され、一発で沈められるかもしれない。故に、紀伊型戦艦を沈めることはムーには不可能だ。

 

 まぁ、紀伊型戦艦の設計思想を考えれば、例えムーが他のKAN-SEN達ぐらいの技術力があったとしても、正攻法で紀伊型戦艦を沈めるのは実質的に不可能だが。

 

「……あれは、もしかして大和型?」

 

 と、アイリスはあることに気付いて声を漏らすと、マイラスとラッサンの二人も彼女と同じ視線の先を見る。

 

 軍港には『大和』と『武蔵』の艦体が停泊しているが、島にある超巨大ドックには大和型航空母艦と思われる巨大な空母が何と四隻も入渠している。

 

「ドックに入渠している空母は機密上答えられません。しかし一隻は大和型航空母艦の三番艦『蒼龍』です」

「さ、三番艦。あれだけの規模の空母が三隻どころか、まだあるなんて……」

 

 アイリスは驚愕の表情を浮かべて、『大和』を見る。

 

 

 転移前に艤装を失った『蒼龍』だったが、ようやく『大和』の改装後の艤装と同じ仕様の新しい艤装が完成し、近日中に試運転が行われる予定である。

 

 そして他の大和型航空母艦に匹敵する空母だが、こちらは原型どころかそもそも元の部分が残っているかどうかも怪しいレベルの改装が施された『赤城』と『加賀』、更に『飛龍』の艤装である。ほぼ大和型航空母艦と同規模の規模と構造になっているが、構造的には『武蔵』とほぼ同じものであり、『大和』のようにジェット機の運用は想定されていない。

 だが、それを差し引いても、大和型航空母艦と同規模の空母が増えるのだ。それを考えればジェット機が使えないデメリットは些細なものである。それに改装を施せばジェット機が使えるようになる。だったら最初から使えるようにすれば良いのではと思うだろうが、そもそも『大和』の改装より『赤城』達の改装が早かったので、『武蔵』の構造がほぼそのまま使われたのだ。

 

 更に別の島にあるドックでは、『シャングリラ』と『バンカーヒル』の二隻にも他の三隻とは異なるが、似たような改装が施されている。更に二隻より遅れて『イントレピット』の改装も行われている。

 

 

 その他にも建造ドックではロデニウス連邦共和国海軍向けの駆逐艦や巡洋艦、空母、戦艦の建造が急ピッチで行われており、既に何隻かが竣工している。正に日刊駆逐艦や月刊空母とも言える建造スピードは、妖精達の技術力と物量があってこそである。

 更に潜水艦の建造も密かに行われているという。

 

 

 

「……?」

 

 すると二式飛行艇の上を何かが通り過ぎて一瞬影が機体を覆い、マイラスが気付いて窓から上を見上げる。ラッサンとアイリスも窓に顔を押し当てるようにして上を見る。

 

 二式飛行艇の上空に何かが飛行しており、一瞬見えたその影はすぐに二式飛行艇の右側へと降下して並行する。

 

「なっ!? あれは!」

 

 その影の正体を見たマイラスは驚きのあまり声を上げる。それと同時にラッサンとアイリスも驚愕の表情を浮かべている。

 

 三人の視線の先には、四枚の翼を持ち、ワイバーンと違って前足を持っており、二式飛行艇並みの大きさを持つ巨大な飛行生物の姿があった。そして三人はその正体を知っている。

 

「あれは、『風竜』じゃないか!?」

 

 マイラスは三人を代表して、その生物の名前を口にする。

 

 この世界における空の最強の生物といえば、ワイバーン種だと言える。実際その通りとも言えるが、実はそうとも言えない。

 

 そのワイバーン種よりも空の最強生物といわれるのが、『風竜』と呼ばれる生物だ。

 

 一見するとワイバーンと同じではないのかと思われるが、風竜はどちらかといえばドラゴンに近い種族であり、ワイバーンを上回る能力に加え、念波を介してコミュニケーションが取れるほどの知性を有する。更にレーダー波のような電波を発する器官を有しており、広範囲に渡って周囲の索敵を可能としている。

 

 しかし風竜は通常人が使役することは出来ないものも、『エモール王国』に住む竜人や、『ガハラ神国』の神通力と呼ばれる謎の力を有する人間のみ使役を可能としている。

 

 そんな風竜が、二式飛行艇と並行して飛んでいるのだ。

 

「『龍驤』達が出迎えに来てくれたか」

 

 『大和』が別の窓から外を見ながらそう呟くと、三人は彼が見ている方向の窓から外を見る。

 

 そこには、翼の根元と尻尾に赤いリングを着けた風竜の背中に仁王立ちしている少女こと、KAN-SEN『龍驤』の姿があり、二式飛行艇に向かって手を振っている。その隣には緑のリングを付けた風竜の姿もある。

 

 ピンク色の髪をツインテールにして、重桜特有の和服をアレンジしたような服装をしており、頭には『紀伊』や『尾張』とは異なる形状をして、幼さの残る龍の角が生えている。そしてミニスカートから白い鱗に覆われた短くも太い尻尾が出ており、喜んでいるのか尻尾が左右に揺れている。

 

「ろ、ロデニウスでは、風竜を使役しているのですか?」

「いえ、使役しているわけではないのですが……恩義に報いているというか、協力しているというか」

『……?』

 

 『大和』の歯切れの悪い言い方にマイラス達は首を傾げる。

 

 

 

 事の始まりは今から半年近く前の事である。

 

 トラック諸島が異世界に転移して半年近くが経過した時に、春島の浜辺に傷ついた風竜が流れ着いてきた。傷の様子から何者かに襲われたものだと思われた。

 

 突然の漂流者にトラック諸島は警戒態勢に入り、風竜の周囲を警戒した。すると気が付いた風竜は傷口から血を流しながらも、周囲を固める妖精達に翼を広げて威嚇し、誰も近付けようとしなかった。

 

 しかし、第一発見者の『龍驤』が風竜に語り掛けながら近づき、落ち着かせようとするも、風竜は近づこうとする彼女を翼で弾き飛ばそうとした。しかし『龍驤』はとっさに艤装を展開して、KAN-SENのパワーで風竜の翼を受け止めた。

 

 まさか受け止められるとは思っていなかった風竜は驚愕して目を見開く。その間にも『龍驤』は風竜に語り掛け、落ち着かせようとした。

 

 やがて彼女の説得を受け入れたのか、それとも暴れたことで傷が身体に響いたのか、風竜は大人しくなって、浜辺にその巨体を横たえた。

 

 その後『龍驤』を筆頭に、風竜の手当てをして、一先ず騒動は治まった。

 

 

 それから『龍驤』は毎日風竜の元へと足を運んで、付きっきりで看病を行った。当初風竜は『龍驤』に警戒心を剥き出しにして、威嚇していた。まぁ当の本人は気にした様子は無かったが。

 

 そんな時間が毎日続いたことで、献身に看病をする『龍驤』の姿に、やがて風竜は彼女に心を開き、いつしか『龍驤』と風竜は会話する仲にまで発展した。

 

 しばらく経った頃だからこそ分かった事だが、どうやら風竜とのコミュニケーションは重桜系のKAN-SENであれば念波を用いて意思疎通が可能であると判明し、『龍驤』以外にも重桜系、『大和』や『紀伊』を含むKAN-SEN達とも会話を行うようになっていた。

 

 そして一ヶ月近くが過ぎて、風竜が受けていた傷は殆ど治り、飛行が可能となった。風竜は『龍驤』達に礼を言って飛び立ち、トラック諸島を後にした。

 

 もう会えないものだと、誰もが思っていた。

 

 

 しかし更に一ヵ月後、その風竜が仲間の風竜三体を連れてトラック諸島に戻って来たのである。さすがに予想外な事態に『大和』達は面食らった。

 

 風竜は傷が直るまでに面倒を見てもらった恩義に報いたいと、仲間達と共にトラック諸島に住んで外敵から『龍驤』達を守りたいと申し出た。もちろん有事の時には力を貸すとの事であった。

 

 予想外な展開に『大和』と『紀伊』は悩んだものも、『龍驤』が彼らの申し出を受け入れて欲しいと懇願してきたので、悩んだ末に『大和』と『紀伊』は風竜達にトラック諸島に住み着くのを許可した。

 

 その後トラック諸島では、風竜が住み着いたとあってか、野生のワイバーンや海魔などの魔物が近づかなくなったのであった。 

 

 

 ちなみに四頭の風竜には個体識別を兼ねて色付きリングと名前が付けられることになった。風竜達も名前を付けて貰う事に異論は無く、むしろ名前を付けられることに嬉しさを覚えていたという。

 

 赤いリングが付けられた風竜には『雷電』と名付けられた。この個体がトラック諸島に流れ着いた風竜である。

 

 青いリングの風竜は『紫電』、緑のリングの風竜は『閃電』、紫のリングの風竜は『震電』と名付けられた。

 

 

 

「―――とまぁ、こんな事がありましてね。現在トラック諸島には風竜が四頭住み着いているのですよ」

「そ、そうなのですか」

 

 『大和』より事情を聞き、マイラスは苦笑いを浮かべる。

 

(偶然とは言えど、最強の空の生物を味方に付けるとは。これじゃいよいよ我が国のマリンじゃ歯が立たないな)

 

 マイラスの隣でラッサンは落胆して肩を落とす。

 

 風竜の能力は非常に高く、ムーのマリンを以ってしても、風竜はその全てを上回っているのだ。ただでさえロデニウス連邦共和国に勝てる部分が無いのに、風竜が味方になっているという事実は、敗北感に拍車を掛ける事になった。

 

 

 

 その後一通りトラック諸島上空を飛行し、二式飛行艇は湾内に着水して埠頭に付けられ、ムー使節団はトラック諸島 春島へと上陸する。

 

 今日の予定としては、トラック泊地の施設や設備の見学を行い、午後からはKAN-SEN同士の演習の見学をする予定である。更にトラック泊地のみで試験運用されているジェット機の見学も行う予定である。

 

 

 迎えのトラックが来るまで、ムー使節団と案内役の『大和』と『天城』は世間話をして時間を過ごしている。

 

「……」

 

 ふと、『大和』は顔を上げて、とある島にある研究所で行われている実験を思い出す。

 

(さて、今回の実験……どうなることか)

 

 今回の実験の結果次第で、トラック泊地の戦力強化に繋がる。実験結果に期待しながら、迎えのトラックを待つ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 所変わり、秋島の隣にある冬島。

 

 ここにはKAN-SEN関連の研究が行われている施設があり、地上の建物以外にも地下施設が広がっている。

 

 その地下にて、とある実験が行われている。

 

 

「用意は出来ているな?」

「もちろんだにゃ」

 

 地下施設の実験場にて、『紀伊』が『明石』に問い掛けると、彼女は透明のケースに入れられている物を見せる。ちなみに『紀伊』の姿は幼児化した姿ではなく、元通りの姿に戻っている。

 

 『明石』が手にしてるケースの中には、四方形をして金色に輝く物体。それは妖精達が解析し、完全とは言えないが、オリジナルの殆どを再現したメンタルキューブ。仮称『擬似メンタルキューブ』である。

 

 二人の前にはKAN-SENの建造を行うための機械があり、今から行うのは、この擬似メンタルキューブを用いてKAN-SENの建造を行う実験である。

 

 周りで機材の準備を妖精達や『ヴェスタル』が行っている中、『明石』が装置にケースから取り出した擬似メンタルキューブを一つ置くと、妖精達がKAN-SENの建造に必要な材料を置く。

 

(さて、結果はどうなるか)

 

 建造準備をしているのを見ながら、『紀伊』は内心呟く。

 

 妖精達曰く『理論的には問題無い』とのことだが、擬似的な代物であるので、どんな結果になるか予想がつかない。

 

 KAN-SENではなく、ただの兵器が建造される可能性があるが、下手するとKAN-SENではない化け物が建造される可能性もある。

 前者の場合は物によってはありがたいが、後者の場合面倒なことになるのは明白だ。モンスターパニックの映画みたいな展開は願い下げである。

 

「準備完了だにゃ、指揮艦」

「ん……」

 

 『明石』の報告を聞き、『紀伊』と彼女は装置から離れる。

 

「成功を祈る。始めてくれ」

 

 『紀伊』の合図の後に、妖精が壁にあるレバーを上へと上げる。

 

 

 すると装置が稼動し、材料と擬似メンタルキューブに電流が流れる。

 

「……」

『……』

 

 皆が見守る中、擬似メンタルキューブが輝き出し、材料を光で覆っていき、少しずつ形を変えていく。『紀伊』は不測の事態に備えていつでも艤装を展開出来るように身構える。

 

 

 しばらくして光が収まり、建造装置に一人の少女が立っていた。

 

 灰色の髪の色をして、頭から犬系の耳が生えており、先が黒く白い模様がある特徴的な見た目の振袖を持つ和服を身に纏っている。

 背中に艤装を背負っているのを見れば、KAN-SENであるのは確認できる。

 

「建造は……成功のようだな」

「そのようだにゃ」

 

 ひとまずKAN-SENではない化け物が建造されなかったことに安堵し、二人は短く言葉を交わしながら少女に近づく。

 

 しかしあくまでも見た目は成功しているが、もしかすると見た目だけでそもそもKAN-SENでは無い可能性もあるので、完全に成功しているかどうかは調べないと分からない。

 

「……」

 

 すると少女は閉じていた目を開き、『紀伊』を見る。

 

「秋月型三番艦の涼月、いざ参上! 仲間達も指揮官も、この私がお守りいたす!」

 

 と、少女こと『涼月』は元気よく自己紹介して、頭を下げる。

 

「お久しぶりです、『紀伊』!」

「ひ、久しぶりって……?」

 

 すると突然『涼月』からまさかの発言を受けて、『紀伊』は戸惑う。当然彼女とはこれが初対面であり、これまでに会ったことはない。

 

 だが、『紀伊』には彼女の様子に思い当たる節があった。

 

「俺の事を知っているのか?」

「もちろん! むしろ知らない方がおかしいからね! あの絶望的な状況を『紀伊』一隻でひっくり返した、あの海戦の事を!」

「あの時の……」

 

 彼女の言葉で、『紀伊』は確信を得る。

 

 恐らく彼女は……『紀伊』が居た世界線の『大戦』の『カンレキ』を有しているのだろう。でなければ本来存在しない『紀伊』の事を普通のKAN-SENが知っているはずが無いのだから。

 

「再び『紀伊』と共に戦えることを、誇りに思うよ! 改めまして、秋月型の三番艦『涼月』! よろしくお願いします!」

 

 彼女は改めて深々と頭を下げる。

 

「ところで、『紀伊』。指揮官はどこに居るの?」

 

 と、『涼月』は辺りを見回して本来居るであろう指揮官を探す。

 

「あー、それについてなんだが、ここはちょっと特殊な事情があってな」

「えっ? そうなの?」

 

 『紀伊』より思わぬことを聞いて彼女はキョトンと瞬きをする。

 

「あぁ。まぁその点については後で話すから、とりあえず彼女に付いて行ってくれ」

「うん、分かった!」

 

 『涼月』は頷くと、手招きする『ヴェスタル』の後に付いて行く。

 

「とりあえず、実験は成功、で良いのかにゃ、これ?」

「まだ油断できないが、建造自体は成功と言っても良いだろう」

 

 彼女の後ろ姿を見ながら、『紀伊』と『明石』は言葉を交わす。

 

「それにしても、指揮艦の事を最初から知っているにゃんて、やっぱりこれ普通じゃないにゃ」

「その普通じゃない物を使っているんだから、イレギュラーが起こるのは分かっていたことだろ」

 

 金色に輝く擬似メンタルキューブを見ながら『明石』がそう口にすると、『紀伊』はため息を付く。

 

(もしかしたら、この擬似メンタルキューブは普通と異なるKAN-SENを生み出すのか? それともこの場に俺や『大和』が居る場合に変化があるのか?)

 

 彼は内心呟きながら、首を傾げる。

 

 もし彼の仮説通りなら、この擬似メンタルキューブで生み出されたKAN-SENは、どこか通常の個体と異なる可能性がある。もしくは『紀伊』や『大和』ば建造に居合わせた場合、二人がそれぞれ存在した『大戦』での『カンレキ』を有するKAN-SENが生み出される可能性もある。

 

 まぁ、今後純粋なメンタルキューブの生成を行うのに必要なデータ収集の為に、擬似メンタルキューブによる建造は続けられるだろう。その時に様々な条件下で建造を行えば色々と分かるだろう。

 もしかしたら、新たな男性型KAN-SENが誕生する可能性もあるが……

 

「まぁ、一回しただけじゃ何とも言えんな」

 

 彼はそう言うと、妖精に建造を行う準備を指示する。

 

「なんだか、二個でやる建造が不安になるにゃ」

「俺だって同じだよ。だが、二個でやる建造もやっておかないと、分からない部分もあるからな」

 

 二人は会話を交わしながら、妖精達が残りの擬似メンタルキューブ二個を機械にセットし、材料を置くのを見守る。

 

「二個のキューブを使った建造。果たして鬼が出るか、蛇が出るか」

 

 『紀伊』はそう言うと、『明石』と共に先ほどのように後ろに下がり、距離を取る。

 

 そして妖精が装置を起動させると、擬似メンタルキューブと材料に電流が走る。

 

 二個も擬似メンタルキューブを使っているせいか、先ほどより強いエネルギーを発している。

 

『……』

 

 各々が息を呑んで見守る中、擬似メンタルキューブと材料が混ざり合い、形作っていく。

 

 

 そして光が晴れると、そこには一人の女性が立っている。

 

 腰より先まで伸びた長い青い髪をした女性で、頭にはメカメカしいヘッドギアを装着しており、腕以外の全身を黒いタイツで覆っており、その為彼女のスタイルの良さを際立たせている。その上に丈の短いスーツを纏い、二の腕まである白い手袋を着けている。そして肩には改造した丈の長い軍服を羽織っている。

 背中には三連装の砲塔を三基持つ巨大な艤装を背負っており、鋭い形状をしたウイング状のパーツが特徴的だ。

 

 妙に未来感のある様相を持つKAN-SENが誕生した。

 

「成功……だな?」

 

 『紀伊』はKAN-SENの建造に成功しているのを確認するが、同時に彼は首を傾げる。

 

(何だろう。このKAN-SENから妙な既視感を感じるな)

 

 彼は建造されたKAN-SENからどことなく見覚えがあるような、無いような、何とも言えない感覚がこみ上げている。

 

「見た感じ、戦艦のようだにゃ。それも、ユニオンのKAN-SENかにゃ?」

 

 『明石』は建造されたKAN-SENから戦艦であり、ユニオン系のKAN-SENじゃないか推測する。背中の艤装にユニオン流の技術が見受けられたからだ。

 まぁそれでも未来感のある見た目だが。

 

 

 すると背中の艤装より電子音が発せられると、艤装の各所に光が灯り、ウイング状のパーツが展開してエネルギー状のリングやウイングが現れる。

 そしてゆっくりと女性は目を開ける。

 

「……アイオワ級戦艦の二番艦『ニュージャージー』よ! よろしくね!」

 

 女性こと『ニュージャージー』は明るい声を発して、自己紹介をする。

 

「『ニュージャージー』……だと?」

 

 『紀伊』は彼女の前を口にすると、脳裏には彼の『カンレキ』にある光景が過ぎる。

 

 

 艦船時代に、何度も『紀伊』と『尾張』と死闘を繰り広げた連合軍側の戦艦……『アイオワ級戦艦』……

 その二番艦こそが、『ニュージャージー』である。

 

 

(まさか、アイオワ級戦艦が来るとはな……)

 

 何度も彼の前に立ちはだかり、死闘を繰り広げた戦艦の一隻が、KAN-SENとして現れた。その事実は『紀伊』に複雑な思いを抱かせる。

 

「あぁ、こちらこそ、よろしくな」

 

 『紀伊』は色々と思うところはあるものも、頭を切り替えて彼は笑みを浮かべつつ右手を差し出す。

 

「えぇ。よろしくね……『モンスター』?」

 

 『ニュージャージー』は笑みを浮かべつつ、『紀伊』をそう呼びながら彼の右手を握り返して握手を交わす。

 

「っ!?」

 

 そして彼は目を見開き、驚愕する。

 

 艦船時代に連合軍側から『紀伊』や『尾張』は、その規格外の大きさと火力、防御力から『モンスター』と呼ばれていた。

 

 だが、当然その名は『紀伊』が居た世界線の『大戦』での話であり、普通ならばその名前を知る由も無いはず。しかし彼女は確かに『紀伊』をモンスターと呼んだのだ。

 

「……なぜ、その名を知っている?」

 

 ここまで来れば、もはや答えは出たも同然だが、『紀伊』は確信を得る為に『ニュージャージー』に問い掛ける。

 

「なぜって? そりゃ何度もあなたと戦ったんだから、忘れろって言うのが無理な話よ。まぁ毎回私はモンスターや他の戦艦からの攻撃に被弾していたけど」

「……そうか」

 

 彼女はそう答え、その返答に『紀伊』は確信を得た。

 

 

 『涼月』のように、『ニュージャージー』もまた、『紀伊』が居た世界線の『大戦』の『カンレキ』を有するKAN-SENであったのだ。

 

 

「まさか、あのアイオワ級戦艦とこうして握手を交わすとは思わなかったな」

「それはこっちの台詞よ。私だってモンスターとこんな形で握手を交わすなんて思わなかったわ」

 

 二人は会話を交わすと、握り締めていた右手を離す。

 

「憎んでいるとは、思わないのか?」

「……?」

 

 と、『紀伊』の問い掛けに『ニュージャージー』は一瞬理解出来ず首を傾げるも、直後に彼の質問の意図を理解して「あぁ……」と声を漏らす。

 

「そりゃ、色々と思うところはあるわね。あなたや弟に多くの仲間が沈められた訳だし」

「……」

「でも、もう過ぎたことよ。沈んだ仲間達の事を忘れるわけじゃないけど、いつまでも過去を引きずたって、何かが変わるわけじゃないから」

「それは―――」

「それに……」

 

 と、『紀伊』の言葉を遮るように彼女は口を開く。

 

「私達は、最後までにあなたに勝てなかったわ」

「だが、結局俺達は試合(・・)に負けたんだ」

「でも、勝負(・・)には勝ち続けた。奇策であなた達兄弟を沈め掛けたけど、正々堂々では、一度も勝てなかった」

 

 と、『ニュージャージー』は一間置いて、再度口を開く。

 

「あなたがチャンピオンに、変わりは無いわ」

「……」

 

 すると、彼女の言葉が『紀伊』の脳裏に響く。

 

 

『お前こそ、チャンピオンだった』

 

 

 初期の頃から『紀伊』に何度も攻撃を行いながらも、最後まで生き残った連合軍のパイロットの言葉が、彼の脳裏に過ぎる。

 

 

「……まぁ、当時の事は色々とあったけど、これからは味方として、よろしくね、『モンスター』……いや、『紀伊』」

 

 と、『ニュージャージー』は複雑な思いを抱きつつも、好意的な様子で『紀伊』に笑みを浮かべる。

 

「……そうだな。これから味方としてよろしくな」

 

 『紀伊』もまた、複雑な思いを抱きつつも、かつての敵であった『ニュージャージー』を受け入れ、笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「……一体何がどうなっているんだにゃ?」

 

 一方、完全に蚊帳の外になっている『明石』は首を傾げながら、そう呟くのだった。

 

 

 




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