異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

55 / 132
第五十五話 列強国への疑惑

 

 

 

「いやぁ、これは凄まじいな」

「全くですね」

 

 その頃、護衛目標であるシオス王国の船団の内の一隻にて、ロデニウス連邦共和国の海上警備隊とKAN-SENの戦闘を双眼鏡を覗いて見ていた船長と副船長は、思わず声を漏らす。

 

「これほどの力を有しているとは、パーパルディア皇国とは比べ物にならんな」

「その上、彼らは皇国と違って無駄な金を要求してきませんからね。どっちが良いかなんて比べるまでもありませんね」

「全くだ。まぁ依頼料は決して安く無いが、皇国の金ゲバ連中と比べれば安いものだ」

 

 二人はそれぞれの事を口にしながら、既に横転して沈んでいる海賊船を見る。

 

 ちなみに金ゲバというのは、この世界でいう銭ゲバと同じ意味と思われる。

 

「それにしても、KAN-SENというのは凄いものだな」

「えぇ。見た目は様々な年齢で種族の見た目をした女性だというのに、海の上を走れたり、船を撃沈できる攻撃力を持ち、更にKAN-SEN本体の戦闘能力も人間とは比べ物になりません」

「その上、彼女達はあの帆船が小さく見えるほどの船に姿を変えられるようですね」

「実に不思議な存在だ」

 

 船長はロデニウス製の双眼鏡を下ろして後ろにあるマストを副船長共々見上げる。

 

 マストの一番上にある支柱に、一人の女性が立っている。

 

 薄い茶色が入った銀髪をポニーテールにして赤い瞳を持ち、容姿が整った美女だが、気の強そうな雰囲気がある。赤と黒の、金色の三色が施された服装をしており、胸元が開けた上着の上に黒いコートを纏い、長さの異なるブーツにホットパンツという構成だ。

 

 彼女の名前は『ジャン・バール』 リシュリュー級戦艦の二番艦である、KAN-SENである。

 

 『ジャン・バール』は海上警備隊の第一警備隊の隊長として活動しており、今回彼女が率いる第一警備隊がシオス王国の船団護衛を担ったのだ。 

 

「……」

 

 彼女は不安定な足場でありながら全く身体が揺れる事無く立ち続け、ポニーテールを風で靡かせながら、通信機よりKAN-SEN達の報告を聞いている。

 

「そうか。『高雄』達は船と船員を見張って現状を維持しろ。クライアントに指示を請う」

 

 彼女はそう伝えると、マストより垂れているロープを手にして支柱から飛び降り、ロープを伝って下へと降りると、船長と副船長の近くに降り立つ。

 

「いやぁ、さすが『ジャン・バール』殿ですなぁ。あの海賊がいとも容易く一方的にやられるとは」

「俺は何もしていないぞ」

「いえいえ。『ジャン・バール』殿の指揮があってこそですよ。お陰で我が船団は全く被害を受けずに済んだのですから」

「褒めたところで、何も出ないぞ」

「本心からですよ」

 

 彼女は素っ気無い様子で受け答えをして、船長に問い掛ける。

 

「ところで、海賊の船の船員はどうする?」

「残っているのなら船は持ち帰りたいですな。海賊の船とは言えど、まだ使えるでしょうからな。それに、連中が持っている武器も興味ありますしな」

「なら、船員の身柄はそちらに一任する。賞金首の賞金はそちらのものだ」

「それはありがたい。では、そのようにお願いします」

「分かった」

 

 『ジャン・バール』は踵を返して『高雄』達や仮装帆船の船長に指示を出しながら歩いていく。

 

「それにしても、KAN-SENはとても容姿が整った方々が多いですな。そんな方々に必要以上に接触できないのが惜しいですね」

「ロデニウス連邦共和国との護衛契約の規則だからな。仕方あるまい。規則違反をしたら手痛いのは我々だ」

 

 副船長は『ジャン・バール』を見ながらそう愚痴るも、船長が咎める。

 

 

 ロデニウス連邦共和国の海上警備隊への護衛を契約する際に、様々な規則が設けられる。その中には『KAN-SENに対して必要以上の接触は禁止する』というものがある。

 これはKAN-SENが船員達から声を掛けられ過ぎてストレスを感じ、戦闘に支障をきたす可能性があるからだ。最悪KAN-SENの心身に深刻なダメージを負いかねない。

 

 現時点では護衛契約を交わしている国はそう多くないとは言えど、やはりKAN-SENへ必要以上に接近する者達が後を絶えないとのこと。まぁKAN-SENは容姿が整い、スタイルが良い者ばかりだ。そんな彼女達と話したり、あわよくば友人関係を築きたいという者達が居てもおかしくない。

 中には邪な欲望を抱く者も居たが、これに関してはある一件で無くなる事になった。

 

 その一件もあって、規則をより厳しくしており、船団に関わる船長は副船長には徹底して規則を守るように要請し、規則違反者には厳しい罰則が設けられている。

 

 

「そういえば、私の友人も船団を率いる船の船長をしていてね、彼らの護衛にもロデニウスの海上警備隊が護衛に就いていたんだ」

「はい?」

 

 すると船長が話し始めて、突然の事に副船長は思わず声を漏らす。

 

「その護衛に就いていた部隊にもKAN-SENが居てね、襲撃してきた海賊を鎮圧して連行したそうだ」

「そうですか」

「で、友人は結構な女好きでね。色々と話があるやつだったよ」

「……」

 

 何だか不穏な空気になり始めて、副船長は息を呑む。

 

「そんな友人だ。美人揃いのKAN-SENを見逃すはずが無い。彼は規則なんて知ったことではないと言わんばかりに部隊を率いているKAN-SENに声を掛け続けたそうだ」

「そんな事をすれば、罰則があるのにですか?」

「まだ当時はそこまで厳しくなかったんだよ。やつはそれを良い事に、よくKAN-SENと必要以上の接触をしていたそうだ」

「はぁ」

「まぁ、今回ばかりは、やつの行動が裏目に出たようだがな」

 

 と、船長は鼻を鳴らして何とも言えない表情を浮かべる。

 

「やつは強引な男でもあってね、それでよく女を落としていたそうだ。そういう強引な手で落とされた女は数知れずだ」

「……」

「そしてやつはそのKAN-SENにも強引な手を使ったんだ」

「……それで、どうなったんですか?」

 

 殆ど結末が分かっているようなものだが、敢えて副船長は問い掛ける、

 

「もげたよ」

「は?」

「もげた上に、彼は第二の人生を始める事になってしまったんだ」

「……何がもげたんですか?」

「あぁ、もげたと言っても、腕を折られたんだよ」

「あっ、そういう意味で」

 

 副船長は理解して安堵するも、すぐに疑問を抱く。

 

「でも、第二の人生って、どういう意味で?」

「詳しいことは知らないが、どうやら友人の強引な手がKAN-SENの怒りを買ってね、全力の蹴りを友人の股間に見舞ったそうだ」

「……」

 

 船長の口から出た状況に、その意味を理解して副船長はブルッと身体を震わせる。

 

 

 

 この一件時の部隊となった別の船団の護衛任務を担ったのは、『ドレイク』が率いる海上警備隊の第二警備隊である。

 

 彼女は航海や戦闘時の打ち合わせの都合上どうしても船団の旗艦に乗艦していなければならなかった。その為、その旗艦の船長にしつこく声を掛けられていた。 

 

 内心不愉快に思いながらも、愛想笑いでのらりくらりと船長をかわして過ごすことになった。

 

 事件が起こったのは海賊を鎮圧し、航海も最終日を迎えていた。

 

 その日『ドレイク』は船長に呼ばれて、安全な航海を保ってくれた彼女にお礼を兼ねて食事を振舞われた。

 

 出来れば船長に関わりたくなかったが、せっかく用意してくれたとあって、彼女は食事を取るようにした。酒は勤務中とあって控えた。

 

 食事を終えた後、船長は『ドレイク』に話をしようとしつこく声を掛けてくるが、彼女は規則の事を持ち出して船長に一言謝って部屋を出ようとした。

 

 だが、そこで船長は『ドレイク』を後ろから抱きつくと、彼女の立派な双丘の片方を鷲づかみにして、顔を首元に近づけたのだ。

 

 彼の経験的には最初は嫌がっても、この後色々として女を堕としてきたのだ。故に、今回もそれで『ドレイク』を堕とそうとしたのだろう。

 

 

 しかし、それが火に油どころか、火にニトロぐらいの行為であったとは、彼は知る由も無かった。

 

 

 直後に彼は激痛に襲われて悲鳴を上げる。

 

 涙目になりながらも怒りに染まった『ドレイク』は胸を鷲掴んでいる腕を掴むと、力の限りを駆使して腕を握り潰した。

 

 船長の拘束が解けたと同時に彼女は振り返りながら男を突き飛ばし、手加減無しの全力で彼の股間を蹴り上げた。

 

 急所を手加減無しの蹴りを食らい、船長は白目を剥いて後ろに倒れる。床に倒れた船長は激痛のあまり、痙攣しながら泡を吹き出していた。

 

 艤装を纏っていないとは言えど、人間よりも身体能力が高いKAN-SENが本気で攻撃したのだ。そのダメージは計り知れないだろう。特に急所なら尚更だ。

 

 まぁ、第二の人生を始める事になったというのは、男のナニを潰されたからだと思われる。つまりそう言うことなのだろう。

 

 で、この一件もあり、男は船長の役職を解任され、地上勤務に回され、護衛契約時の規則も厳しくなったという。

 

 

 ちなみに『ドレイク』は「まだ『鞍馬』にも触らせたこと無いのに!!」と涙目になって叫んだとか何とか。

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

「まぁ、これはあれだ。『触らぬ神に祟り無し』だな」

「なんですか、それ?」

「フェン王国に伝わる言葉だ。要は余計な事をしなければ何も起こらないということだ」

「な、なるほど」

 

 副船長は納得して、息を呑む。

 

「まぁ、友人もこの機会に色々と見直すのも悪くなかろう。生きているだけ、マシってものだ」

「その代わり、色々と大事なものを失っている気がするんですが」

 

 船長の言葉に副船長は苦笑いを浮かべつつ、二人は船上の見回りを行うことにした。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 その頃、自身の寝る場所として宛がわれた部屋にて、『ジャン・バール』は椅子に座って背もたれにもたれかかり、顎に手を当てて考えていた。

 

(やはり、海賊の装備が良過ぎるな)

 

 彼女は手にしているタブレット端末の画面に表示されている報告書と写真を見つめながら、内心呟く。

 

 写真は臨検した海賊船の内部を撮影したもので、大量に蓄えられている魔石や、魔導砲、更にマスケット銃のようなものまで写っている。

 

 どう見ても、海賊が持つには装備が強力で、充実している。

 

(報告によれば、これらの装備は横流しされた物を海賊が大金を積んで買ったようだが、そもそもどこから流れてきたのかも知らないとはな)

 

 報告書には、海賊船の船長や船員から事情聴取をして聞き出した情報があり、何でも第三文明圏の文明国から横流しされた武器兵器を大金を積んで購入し、何隻も組んで船団を襲撃する計画だったそうだ。

 まぁ、この計画の発案者は木っ端微塵に吹き飛んだ海賊船と運命を共にしたのだが。 

 

 だが、海賊船の船長はそもそも武器兵器がどこから流されてきた物かすらを聞かされていなかったそうだ。ただ強力な武器だったからと、気にしていなかった。

 

(そもそも、第三文明圏で大砲や銃を使っている国といえば……)

 

 『ジャン・バール』は色々と考えた末に、ある推測を立てる。

 

(だとすると、この一連の海賊による被害は……)

 

 あくまでも推測に過ぎないが、しかし納得のいく部分もある。

 

「……」

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって、ロデニウス連邦共和国 港町マイハーク 海軍司令部

 

 

 

「つまり、海賊に武器兵器を横流ししているのは、パーパルディア皇国の可能性がある。そういうことか、『ジャン・バール』?」

『あぁ、そうだ』

 

 自身の執務室にて、『紀伊』がパソコンのテレビ電話機能を用いて『ジャン・バール』と通信を行っている。

 

「そう言える根拠は?」

『第三文明圏で大々的に銃や大砲を持っているのは、皇国ぐらいだからな』

「根拠が薄いな。そもそも、皇国が武器兵器を横流しする理由が無い。むしろ面倒ごとが増えるだけだと思うが?」

『むしろ面倒ごとが増えるのが、向こうにとって好都合なのだろうな』

「と、いうと?」

 

 『紀伊』は両肘を机に付けて両手を組み、その上に顎を乗せる。

 

『俺達が護衛として契約をするまで、シオス王国はパーパルディア皇国に護衛を頼んでいたようだ』

「……」

『皇国は護衛依頼を受ける際に、かなり法外な額を要求していたそうだ。それも無駄とも取れるぐらいにな。しかもそれがあくまでも前金なのだからな。護衛を終えれば更に多額の報酬を支払わなければならない』

「……」

『だが、魔導砲を装備した海賊が居る以上、彼らはパーパルディア皇国に頼らざるを得ない。そこ以外に海賊に対抗できる国が居ないからだ。他にあるとすれば第一、第二文明圏ぐらいだ。そんな遠い所まで行って護衛を頼む意味も無いからな』

 

 『ジャン・バール』は自身の憶測を述べていき、『紀伊』は何も言わず彼女の言葉に耳を傾ける。

 

『だからこそ、多くの国は泣く泣くパーパルディア皇国に海賊討伐や護衛を依頼するしかない。となれば、得をするのは皇国ぐらいだ』

「……海賊へ武器兵器の横流しをしたのは、他国が自国へ討伐、護衛依頼を行わせる為でもあり、倉庫で埃を被っている中古品を処分できる。正に一石二鳥だな。つまりそう言いたいのか?」

『あぁ。もちろん俺の推測に過ぎないがな』

「あくまでもな。だが、分からんでもないな」

 

 彼はそう言うと、椅子の背もたれにもたれかかる。

 

「一応頭には入れておく。引き続き護衛を頼むぞ」

『分かった』

 

 『ジャン・バール』は頷くと、テレビ電話を切る。

 

「……」

 

 『紀伊』は深く息を吐き、後ろを向く。彼の視線の先には、マイハークの港が広がっており、色んな船が行き来している。

 

「『ジャン・バール』達はうまくやっているようだな」

 

 と、執務室の壁にある本棚で資料の整理をしている『ビスマルク』が『紀伊』に声を掛ける。

 

「そうだな。これで海の治安も多少マシになるといいんだが」

 

 『紀伊』はそう言うと、港から出る貨物船を見つめる。

 

 文明圏外の海での海賊被害は拡大していったとあったが、それはロデニウス連邦共和国にも言えたことだ。

 

 主に漁船や貨物船が被害に遭っており、中には死傷者を出す被害もあったぐらいだ。これ以降護衛の哨戒艇や駆逐艦が就く事になった。

 

「『ビスマルク』。あまり無理をするな。作業は俺がやっとくから」

「心配無い。まだ初期の状態だし、何より柔な鍛え方はしていない」

 

 彼は働く『ビスマルク』を心配するも、彼女はそう言って、微笑む。

 

 まぁまだ彼女の状態は初期の段階とあって、そこまで身体に影響は無いし、人間のようにお腹に赤ん坊を抱えるわけではなく、小さな白いメンタルキューブが生成されるので、見た目に大きな変化は見られないし、身重になることはない。

 とはいえど、多少体調面に影響はあるようである。

 

「そうか。だが、少しでも体調に違和感があれば、隠さずに言うんだぞ」

「分かっている。その時になれば、ちゃんと伝える」

 

 彼女は頷くと、資料が纏められたファイルを棚に戻す。

 

「そういえば、もうそろそろだったわね」

「ん? あぁそうだな」

 

 と、『ビスマルク』の言葉に『紀伊』は思い出して声を漏らす。

 

 ロデニウス連邦共和国は周辺国との国交の開設に奔走しており、近い内に『フェン王国』と呼ばれる国と国交を結ぶ為に外交団を派遣する予定だ。

 

「フェン王国への国交開設。何事もなければ良いんだがな」

「それ、何かが起こるって言っているようなものよ」

「そう言うなよ。自覚はあるんだから」

 

 ジトーと彼女は『紀伊』を見ながらそう言うと、彼は苦笑いを浮かべて視線を逸らす。

 

(だが、本当に何も無ければいいんだが……)

 

 『紀伊』は何も起こらないことを祈りつつ、席を立って『ビスマルク』の元へ行き、資料整理を手伝う。

 

 

 




感想、質問、評価、要望等をお待ちしています。

竜の伝説編はやっておくべき?

  • やっておいた方が良い
  • 別にやらなくても良いんじゃね?
  • オリジナル要素を加えてやるべき
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。