異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第五十六話 フェン王国

 

 

 

 

 中央暦1639年9月2日 フェン王国

 

 

 フェン王国……第三文明圏の東の果てにある武士の国。

 

 

 この国には魔法が無く、国民全員が必修教育として剣を学ぶ。

 

 

 剣と共に生き、剣と共に死ぬ。どんなに見下されるような出自であっても、冴えない風貌であっても、強い武士は尊敬される。逆にどんなに出自が良くても、どんなに見た目が良くても、剣が使えない者、弱い者は馬鹿にされ、蔑まれる。

 

 

 そんな中、国に10人しかいない剣豪の称号を持つ王宮武士団十士長アインは、今日も剣を振って鍛錬を行っている。

 

 元々彼は、武士になるつもりはなかった。彼は剣は好きだったが、建物の設計の方が好きで、その道を進もうと思っていた。

 そんな彼の道を変えたのは、今は亡き母である。  

 

 

 

 アインがまだ学生の頃の、冬のある日。その日は凍てつくような空気の、寒い日だった。母が夕食の準備中、彼はたまたま馬で出かけていた。その時、家の近くである事件が起きる。

 

 0歳の子供を背負い、2歳の子供の手を引いていた女性が居た。彼女が目を離した隙に2歳の子供が足を滑らせて川に転落してしまったのだ。女性は子供を背負ったままでは、 川に飛び込めない。彼女は付近の家に助けを求める。その家には、アインの母だけが居た。

 

 助けを求められた彼の母は、迷いなく川に飛び込んだ。母は子供を助け、川から岸に上げた後、急激な温度差から心臓が止まり、その場に倒れこんでしまう。アインが戻った時、母は既に亡くなっていた。アインは泳ぐのが得意だった。自分がいれば母を死なせずに済んだのではないか。冷たい亡骸を抱き、夜通し後悔した。

 翌日も、幾日も、後悔して後悔して、何度も泣いた。  

 

 

 母親を失い、失意の中にあった彼はある日、学校の授業で習ったある一文を機に、王宮武士団に入ることを決意する。

 

 

 王宮武士法 第2条 第1項 王宮武士は、個人の生命、身体、財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧、犯罪者の逮捕、その他公共の安全と秩序の維持をもってその責務とする。王宮武士団は軍であると同時に、国の治安機能を担っている。

 

 

 この文を見た時、母が命を掛けて人を助けたことを思い出し、自分も人の役に立てればと、将来を決めた。

 

 

「アイン、ちょっと来てくれ」

 

 アインの上司、武将マグレブが、自己鍛錬中で汗だくのアインに話しかける。

 

「何ですか?」

「剣王シハンがお前をお呼びだ」

 

 剣王シハン―――フェン王国の国王ある。 その名を聞いたアインの表情が強張る。

 

「え? 私をですか?」

 

 十士長ごときが剣王に呼ばれるなんて、普通では考えられないことだった。

 

「いや、私もだ。『全武士団の十士長以上の者は全員集合せよ』と。どうやら国の一大事らしい」

 

 マグレブの言葉に、アインは息を呑む。

 

 国の一大事と聞かされれば、誰だって緊張する。

 

 一体何が起ころうとしているのか。彼の中で様々な憶測が飛び交い、浮かび上がっては消え、また浮かび上がる。しかし彼はすぐに頭を切り替える。

 

 二人はすぐに剣王シハンが居る天ノ樹城へ向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 フェン王国の首都アマノキ。

 

 そこには、『天ノ樹城』と呼ばれる重桜の和風な雰囲気を持つ城が聳え立っており、その広場で、フェン王国の剣王シハンが軍の中核幹部達を前に、真剣な面持ちで話し始めた。

 

「パーパルディア皇国と……紛争になるかもしれない」

 

 端的に発せられた剣王の言葉に、その場に居た全員に緊張が走る。

 

 パーパルディア皇国……言わずと知れた第三文明圏の列強国である。

 

 

 

 事の発端は、パーパルディア皇国からフェン王国南部の領土を献上するように要求されたのが始まりだ。

 

 フェン王国南部は森林地帯が広がっており、国はこの森林地帯に利用価値が無いとして開発が行われていない。まぁ木材を得る為に木を少し伐採して多少手を入れる程度は行われているが。

 

 パーパルディア皇国としては使っていない土地を差し出して忠誠を誓うことで、準文明圏国家として技術供与を行い、更に同盟国としての箔が付き、周囲からの侵略の可能性が激減するという、向こうの考えとしてはこれ以上に無い好条件だったのだろう。

 

 だが、フェン王国の剣王シハンはこの提案を断った。

 

 ならばパーパルディア皇国は期限付きで土地を租借する第二案を提案するも、これも剣王シハンは断った。

 

 確かにパッと聞いたぐらいでは好条件なのだろうが、言ってしまえばこれはパーパルディア皇国の属国という名の傘下に入ることを意味している。多少待遇が良い属国と言えば聞こえが良いが、それが続くのは果たしていつまでなのか?

 最初の内は待遇を良くして、次第に皇国の都合の良いように作り変え、最終的には支配する。そんな流れも予想できる。

 

 だが、剣王シハンがパーパルディア皇国の要求を断ったのは、皇国の真意を察したというのもあるが、それ以上に国としてのプライドがあったからだ。

 

 どうすることも出来ない、止む得ない事情が絡む事を除いて、他国に土地を献上するのは、国としてはプライドに傷を付けられるようなものだ。ましてもフェン王国は武士の国。自分達の国に誇りを持っているからこそ、パーパルディア皇国の要求を断ったのだ。

 

 だが、プライドが高く面子を大事にする皇国が、自信を持って提案したのに断られたのだ。彼らの怒りを買うのは必須。故にパーパルディア皇国が何かしらの報復を行うのは容易に想像できる。

 

 

 フェン王国には魔法が無い。これで一番問題なのは、魔導師の放つ高火力な攻撃魔法に期待出来ないこと……ではなく、魔力通信が使えないことである。情報伝達速度の差は、例え兵力が同等であったとしても、実質的な戦力に雲泥の差が生じることになる。

 

 列強パーパルディア皇国との国力差は言わずもがな。フェン王国と比較すると、人口では70万人に対して7千万人。戦船は未だバリスタが配備してあるフェン王国の手漕ぎ船21隻に対して、パーパルディア皇国は最新鋭の魔導戦列艦を422隻も保有している。

 航空戦力に関しては、フェン王国にはワイバーンを一切配備しておらず、対してパーパルディア皇国はワイバーンの改良種であるワイバーンロードを700騎以上も保有している。その上噂ではこのワイバーンロードを超える種を開発しているとか。

 

 戦力差は絶望的である上に、例え本土決戦になったとしても兵士の装備の質が全く違うので、実際の頭数以上の戦力差がある。

 

 敵が文明圏の国と言うだけでも戦争を避けるべき案件なのだが、よりにもよってその相手が列強国。

 

 場が静まりかえり、無音の時間が過ぎていく。

 

 航空戦力があれば多少なりとも違う結果になるのかもしれない。だがそれでもフェン王国がワイバーンを配備できないのは、隣国のガハラ神国に風竜が住み着いているからである。

 

 風竜は知能が高く、ワイバーンよりも遥かに上位種である為に、ワイバーンが島に寄り付きたがらないのだ。仮に無理矢理連れて来ても、ワイバーンは風竜に怯えて役に立たないだろうが。

 

 風竜は知能が高いが故に、人間では使役することが出来ないのだが、ガハラ神国では神通力と呼ばれる特殊な術で、風竜12騎を味方につけている。

 

 数は決して多くないが、ワイバーンロードを遥かに超える空戦能力を誇り、一騎当千と言っても差し支えなく、パーパルディア皇国を含む列強国もこれには一目を置いていた。

 

「現在、ガハラ神国に援軍を頼めないか、要請をしている。各方面でも対策を実施中だ」

 

 剣王は、ガハラ神国の首都タカマガハラの神宮に住まう、神王ミナカヌシに親書を送っていた。

 

「とにかく各人、戦の準備をしておいてくれ」

 

 集まった武官、文官たちが一斉に拝礼する。シハンは彼らの視線を伏せた頭を見下ろし、一瞬だけ申し訳無さそうな表情を作った。

 

 

 相手がパーパルディア皇国である以上、他国からの援軍の望みは薄いというのを、理解しているからだ。勝てない戦に援軍を送る意味など無いからだ。

 

 

 その後各々が自身のなすべき事をするべく、行動を起こす。シハンは自信の執務室へと戻り、執務に取り掛かる。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「剣王。ロデニウスという国が、国交を開く為に交渉したいと来訪されております件、いかがいたしましょうか?」

 

 王宮中奥の座敷の執務中のシハンに、側近である剣豪モトムが話しかけた。

 

「ロデニウス? あぁ、確かガハラ神国の大使から情報のあった、南方にある国家か。確かそこに同じ名前の大陸があったはずだな」

「はい。ロデニウス大陸と呼ばれる大陸が我が国から南方に存在します。そのロデニウス大陸にて新たに『ロデニウス連邦共和国』が建国されたようで、なんでもそこにあったクワ・トイネ公国、クイラ王国、ロウリア王国の三ヶ国が統一して出来たそうです」

「ふむ。統一国家か。情報によるとかなり技術が進んだ文明国であるというが……俄かには信じ難いな」

 

 シハンはそう言うと、腕を組む。

 

 ロデニウス連邦共和国があるのは文明圏外だ。そんな文明が未発達な所に文明国があるというのは、あまりにも矛盾している。

 

「文明圏外にある国に、それほどの文明国があるとは思えんな」

「同感です。しかしあのガハラ神国が認めているとなると、嘘であるとも言い切れません。そもそもそんな嘘を付く理由がガハラ神国にはありません」

「確かにな。となると、ロデニウスはそれなりの国であるということか」

 

 シハンは顎に手を当てて摩りながら、一考する。しかしその内心には、黒い考えが渦巻いていた。

 

「……国交を開く為に遠路遥々やって来たのだ。追い返すわけにも行くまい。とりあえずそのロデニウスの外交官と会ってみるか」

「分かりました。すぐにロデニウスの外交官一行をお連れいたします」

 

 モトムはすぐに部屋を出て、衛兵にロデニウス連邦共和国の外交官一行を連れてくるようにと伝える。

 

「……」

 

 シハンは息を吐きながら目を瞑る。

 

 しかしその口角が僅かに釣り上がる。それが何を意味するかは、本人のみぞ知る……

 

 

 




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