異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
その頃、空の特等席でロデニウス連邦共和国の軍艦によってワイバーンロードが撃墜する瞬間を見ていたスサノオと風竜は、驚きに満ちた表情で見ていた。
『凄いものだな、あの船は……』
風竜はその光景を見て感嘆の声を漏らす。
「あぁ。ワイバーンロードがいとも容易くと。どうやってあんな正確に狙いをつけられるんだ?」
『恐らくあの船は人間には見えない光をトカゲ共に浴びせて、船の砲はトカゲから反射した光の方向を向き、飛行する未来位置に向かって撃っている。その上砲弾からも微弱だが光が出ていたから、恐らくその光の反射でトカゲの位置を探っているのだろう』
「そ、そうなのか? あの船は、そんなに凄いのか?」
スサノオは信じられない様子で相棒の風竜に問い掛ける。
『あぁ。恐らく古の魔法帝国の伝承にある、対空魔導船みたいなものだろう』
「げっ! そんなに凄いのか。こりゃ帰ったら報告書が大変だな……」
彼はロデニウス連邦共和国の軍艦の予想以上の凄さに、これをどう上に報告するかという苦労に悩まされるのだった。
その後『大和』と『天城』『土佐』は『長門』の艦体へと接近し、タラップを登って乗艦する。
「……」
『大和』は艦載機を収納して、艦載機をショットシェルに変化させて弾帯に戻しながら、周囲を警戒しつつ状況を考えていた。
(パーパルディア皇国がこの場に来たのは、単なる偶然じゃない。何かしらの理由があって、ここに来たはずだ)
彼は皇国が襲撃を掛けてきたのは、何かしらの理由があってのことだと予想する。明らかにワイバーンロード部隊の動きは計画性のあるものだった。
(だが、何の理由があって? わざわざこんな遠い所まで戦力を送り込む理由は……)
しかし皇国がなぜこんな所にまで戦力を送り込んだのか。余程のことが無ければ、こんな労力を駆使することはないはず。
『こちら『ヤクモ』! 『大和』殿、応答願います!』
と、『ヤクモ』の艦長ブルーアイから通信が入る。
「こちら『大和』 どうしましたか?」
『大和』は通信をオープンにして、各KAN—SENに通信内容が伝わるようにする。
『先ほど飛ばした索敵機より入電がありました。フェン王国の水軍が首都アマノキの反対側にある港より出港したとのことです』
「フェン王国の水軍が?」
ブルーアイからの報告に、『大和』は違和感を覚える。
(なんでフェン王国の水軍が出港したんだ? パーパルディア皇国が送り込んだ戦力はワイバーンだけなはず。なぜ水軍を、それも今更になって……)
襲撃してきたのはワイバーンだけなはずなのに、なぜ水軍が今になって出てきたのか。
「分かりました。『ヤクモ』と『ウネビ』『イズミ』の三隻は引き続き周囲の警戒を」
『了解したました』
『大和』はブルーアイに指示を出して通信を切る。
「……総旗艦様」
と、『天城』が『大和』に声を掛ける。
「どうした?」
「先ほどのパーパルディア皇国と思われる勢力による襲撃ですが……」
「……」
「今回の襲撃、ただの偶然とは思えません」
「お前もそう思うか」
『天城』がそう言うと、『大和』が頷く。
「恐らく各国の関係者が多く参加するこの軍祭に合わせて、皇国は襲撃を行ったものと思われます」
「見せしめの為にだな」
「はい」
「となると、フェン王国は何かしらの……」
すると、『大和』は急に黙り込む。
「総旗艦様?」
急に黙り込む『大和』に、『天城』は首を傾げる。
(そもそも、なぜフェン王国はこの日に合わせて我が国に軍艦の派遣を要請したんだ?)
力を見たいだけなら、わざわざ軍祭に合わせなくても、明日明後日は無理でも一週間後でも良かったはず。この日じゃダメだという理由はない。
(まるでフェン王国は、パーパルディア皇国から攻撃を受けることが分かっていたから、この日を指定した―――)
そして『大和』は、一つ一つピースを嵌めていくように憶測を立てていき、やがて一つの憶測が立つ。
「……」
「総旗艦様?」
すると彼の様子が一変したのを感じ取ってか、『天城』は不安の声を漏らす。
それは噴火寸前の火山のような、静けさと共に、膨大な怒りが滲み出ているような、そんな雰囲気である。
「『土佐』 『天城』を頼む」
「総旗艦?」
「『長門』達は引き続き周囲を警戒。すぐに出られるようにしろ」
『大和』はそれぞれ指示を出すと、歩き出して彼女たちの元を離れようとする。
「総旗艦様。どちらへ?」
「剣王シハンの元にだ。色々と聞きたいことがある」
「……」
「それと 『春月』『宵月』『冬月』『北風』は上空のみならず、海の中も警戒しろ。もし不審な影が見られたら、躊躇わず対処しろ」
『天城』に今から向かう場所の説明をして、駆逐艦にそう指示を出すと、彼は『長門』を降りて海を走り、シハンの元へ向かう。
―――――――――――――――――――――――――――――
『……』
剣王シハンと側近達、軍祭に参加していた各国の参加者達、他の全ての目撃者達は、信じられない光景を前にして、開いた口が塞がらないとは、このことだろう。
1騎を墜とすだけでも、大変な戦闘を繰り広げる必要があるワイバーンロードが、自分達の目の前で20騎以上も、ほぼ一瞬でバラバラに消し飛んだ。
ワイバーンロードは間違いなくパーパルディア皇国のものだろう。
文明圏外の国で、1騎でもワイバーンロードを墜とすことが出来れば、国として世界に誇れる。『我が国は、ワイバーンロードを叩き落すことが出来るほど精強である』と。
それをロデニウス連邦共和国の軍は、いとも容易くハエを叩き潰すように、それも自軍に殆ど被害を出さずに、列強の精鋭であるワイバーンロード部隊を20騎も叩き落してしまった。
歴史が動く、世界が変わる予感がする。剣王シハンはそう感じた。
ワイバーンロードは、恐らくフェン王国への懲罰的攻撃に来ていたのだろう。
(ロデニウスをこの紛争に巻き込めたのは、天運ではなかろうか……)
剣王シハンは予想外に良い方向へ事が進んでいると思い、ほくそ笑む。
「剣王様。ロデニウスの使者が会談を申し出てきました」
「そうか。すぐに準備して参れ」
「ハッ」
剣王は報告を聞き側近に指示を出し、会談の場を準備させた。
王城がワイバーンロードによって破壊されたので、会談の場所は城の敷地内にある応接室にされた。
『大和』はフェン王国の者よりお茶を出されて、湯呑を手にしてお茶を飲む。他の外交官は万が一に備えて、一足先に駆逐艦に戻らせている。
彼の様子は冷静を装っているようにみえるが、内心怒りに満ちている。それゆえに無表情であった。
しばらくして、フェン王国の剣王シハンと武将マグレブが現れた。
「ロデニウスの使者殿。今回はフェン王国に不意打ちをしてきた不届き者共を、真に見事な武技で退治していただいたことに、まずは謝意を申し上げます」
マグレブは深々と頭を下げる。
「別に我々は貴国を守ったわけではありません。あくまでも我々に降り掛かった火の粉を払っただけに過ぎません。その辺は誤解無きよう」
『大和』はフェン王国に勝手な捉え方をされないように、きっぱりと牽制する。
「ですが、あなた方のおかげで、我が国の民は救われました。決して少なくない犠牲者は出ましたが、それでもあなた方がいなければ、何の罪の無い多くの民が犠牲になっていたかもしれませぬ」
シハンはどこか演技掛かった言い回しをして、ロデニウスの行いを褒める。
(大根役者が……)
しかしその下手な言い回しは、既にフェン王国の目的にほぼ確信を抱く『大和』からすれば、苛立ちを募らせるだけだった。
「それでは、早速国交開設の事前協議を行いたいのですが……」
「その前に、少しよろしいでしょうか」
マグレブが何の躊躇いもなく協議を切り出そうとする姿勢に更に苛立ちを募らせるが、『大和』は冷静を保ちつつ質問をする。
「なんでありましょうか?」
「あなた方は……既にパーパルディア皇国と戦争状態にあるのではないですか? そしてそれを分かっていながら、この日に合わせて我が国の軍艦の派遣を要請したのではないですか」
「なっ! 何を根拠にそんな戯言を!!」
『大和』の言葉にマグレブは怒りを露にする。
「その通りでございます、使者殿」
「け、剣王様!?」
しかしシハンは白を切るどころか、正直に『大和』の言葉を肯定し、あまりにも正直に話したことにマグレブは驚く。『大和』もあっさり認めたシハンに少し驚きを見せる。
「なぜそのような事を。ハッキリ言ってこれは国際問題どころの問題ではありません。他国を戦争に巻き込むなど」
「もちろん、そのようなことになると考えておりましたが、我が国の存亡に関わることゆえに、やむを得ずこの判断を下しました」
「……」
悪びれる様子のないシハンの態度に、『大和』は堪忍袋の緒が切れそうになるも、何とか耐えている。
まぁ自分達の都合で他国を戦争に巻き込んでいる事実もそうだが、彼からすれば、仲間を危険晒された上に傷つけられ、その上愛する女性が命の危険に晒されたのだ。ぶっちゃけ今の立場が無ければ、彼はシハンを殺すのも躊躇わないだろう。
「ですが、これだけは言っておきます。恐らく襲ってきたのはパーパルディア皇国のワイバーンロードと思われます」
「そうですか(知ってるよ)……」
『大和』は内心呟きつつ、入ってきた通信を聞きながらシハンの言葉に耳を傾ける。
「我が国はこのパーパルディア皇国から土地を献上せよと一方的に要求され、それを拒否しました。たったそれだけで襲ってくるような連中です」
「……」
だから? と言わんばかりな表情を浮かべる『大和』だったが、シハンは気にすることなく続ける。
「過去に、我々のようにパーパルディア皇国に懲罰的攻撃を加えられた国がありました。その国は皇国の竜騎士を狙い、不意打ちで殺しました。かの国は報復としてパーパルディア皇国に攻め滅ぼされ、反抗した者は全て処刑され、服従した民衆は奴隷として、各国に売られていきました。そして王族は皆殺しにされ、その後串刺しにされて晒されました。特に女は徹底的に陵辱されたのちに、同じ末路を辿りました」
「……」
「パーパルディア皇国……いえ、列強国というのは強いプライドを持った国というのを、お気に留めておかれますように」
シハンの言葉を終始黙って聞いていた『大和』は静かに息を吐き、彼を見る。
「パーパルディア皇国がどれだけ野蛮な国であるというのはよく分かりました。ですがあなた方の行いは、決して許されるものではありません」
『大和』は脱いでいた制帽を被って立ち上がる。
「国交開設の話し合いについては、騒動が収まってから再開することにします。その際にあなた方の誠意ある謝罪があるのを期待しています」
「えぇ。貴国に多大な迷惑を掛けた事に変わりはありません。その償いは、必ずしましょう」
彼の言葉にシハンは態度を変えなかった。恐らく既に目的を達しているので、その後のことはどうにでもなると考えているのだろう。
「あぁ、そういえば」
と、応接室を出る前に、『大和』は立ち止まってシハンとマグレブを見る。
「先ほど報告がありましたが、我が国の軍艦が海中に艦へ接近する不審な影があって、それに対処したと」
『大和』の言葉に、シハンとマグレブの表情が揺らぐ。
シハンはロデニウス連邦共和国の軍艦を逃さまいと、軍艦のスクリューに網を絡ませて行動不能にさせようと画策し、海中に忍びを忍ばせていた。しかし忍びの接近を音探と目視で駆逐艦が発見し、機銃と機関砲を放って対処した。
幸い残骸が浮かび上がって来なかったが、不審な影が遠ざかったのを確認した。
「あまり斯様な手を使うのは、よろしくないかと思います」
「では、これで」と、『大和』は応接室を出る。
―――――――――――――――――――――――――――――
応接室を後にした『大和』は『長門』に戻る。
「総旗艦」
艦上に出ると、『天城』と『土佐』、更に『長門』の姿があった。
「どうでしたか?」
「思いっきりクロだったよ。あの狸親父め」
『天城』の問いかけに、『大和』は忌々しそうに吐き捨てる。
「やはり、最初から我々を巻き込むためにわざわざ日時と場所を選んだのか」
『土佐』は明らかに不機嫌な様子で破壊された王城を睨む。
「それで、『冬月』はどうなった?」
「『冬月』さん自身や艦橋要員妖精が窓の破片や炎で負傷しましたが、命に別状はないとのことです。『冬月』さんの艤装も艦橋の窓ガラスが割れて電探に異常が発生していましたが、後者は応急修理を終えています」
「そうか。それなら良かった」
『冬月』が無事であるのを知って、『大和』は安堵の息を吐く。
「総旗艦。先ほどブルーアイ殿より報告が入った。どうやらフェン王国の水軍がパーパルディア皇国と思われる艦隊と接敵。戦闘を開始するも、一方的にやられて撃破されたそうだ」
「やはり皇国が送り込んだ戦力は、ワイバーンロードだけじゃ無かったか」
『長門』より報告を聞き、『大和』は舌打ちをする。
「いかがしますか?」
「……」
『天城』に問われて『大和』は一考する。
恐らくこのまま離れようとしても、パーパルディア皇国の艦隊と接触するのは避けられない。
「……このままだとパーパルディア皇国の艦隊がここに来て、民間人への無差別攻撃を行うだろうな」
『……』
「あの狸親父の思惑通りに動くのは癪だが、民間人に罪はない」
『大和』はそう言うと、背中に艤装のアームに接続されている水平連装式散弾銃型の艤装を手にして中折れにして、艦載機を変化させたショットシェルを二発装填して銃身を戻す。
「各KAN-SENはいつでも戦闘を行えるように備えろ。接近している艦隊は俺が対処する」
彼はそう指示を出し、水平連装式散弾銃型の艤装を空に向ける。
「待ってくれ」
と、艦載機を飛ばそうとしている『大和』に『長門』が声をかけて彼を止める。
「敵艦隊への攻撃だが、余に任せてもらえないだろうか?」
「『長門』?」
『大和』は彼女から予想外の申し出に少し驚く。普段からあまり争いごとを好まない彼女が、自ら戦闘を行いたいと申し出たのだ。
「お前が自ら戦闘を買って出るとは。何か理由があるのか?」
「……」
『長門』は顔を伏せると、両手を握り締めて口を開く。
「余は……憤っているのだ」
「……」
「不意打ちを行った上に、何の罪のない民を一方的に殺戮を行うパーパルディア皇国の行いに、余は憤っているのだ」
彼女はあちこちで火事が起きている街並みと、黒く焦げた港の埠頭を見渡す。そこにはワイバーンロードの放った炎で焼き尽くされた多くの骸が転がっている。
「このまま、やつらの行いを見過ごすことは、出来ぬ!」
「『長門』……」
普段の彼女からは想像できない様子に、『大和』や『天城』達は驚きを隠せなかった。
「それに……」
怒りの籠った声を漏らす彼女は、顔を上げる。
「大切な仲間を傷つけられているのだ。このままでは、怒りが収まらんのだ!」
「……」
少しばかり私情のある理由に、『大和』達はどことなく安心感が込み上げて来る。
『「長門」姉! 私もやる!!』
と、『長門』の後方に居る『陸奥』が声を上げる。
『私も、「冬月」を傷つけられて許せない! 攻撃してきたやつらをとっちめてやるんだから!』
「『陸奥』 お主……」
「……」
『長門』と『陸奥』の二人を見て、『大和』は息を吐く。
「……お前の気持ちはよく理解したよ」
『大和』は気持ちを切り替えて、笑みを浮かべる。
「分かった。敵艦隊の迎撃は、お前達に任せる」
「総旗艦」
「但し……」
と、彼は左手の人差し指を立てる。
「お膳立てぐらいはさせてくれ。正直な所、このままジッとしていられないからな」
彼はそう言うと、それはそれは……とってもイイ笑顔を浮かべる。
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