異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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あけましておめでとうございます。今年初の投稿になります。
今年も本作をよろしくお願いします。


第六十四話 大事な用事

 

 

 

 

「……もうこんな時間か。そろそろ休憩するか」

 

 作業をしていたマイラスは、パソコンの画面にある時刻を見て呟くと、両腕を上に伸ばして背伸びをする。

 

 右肩を回しながら立ち上がり、冷蔵庫に向かって扉を開け、中から緑茶が入ったペットボトル取り出し、蓋を開けて飲む。

 

「ロデニウスのお茶はうまいなぁ」と呟きながら、ペットボトルの蓋を閉めて持ったままベッドに腰かけて、ペットボトルを傍にある台に置いてベッドに横になる。

 

 

「……やっぱり凄いな」

 

 ペットボトルの代わりに手にしたスマホを手にとあるサイトを見ていると、彼はそのサイトに掲載されているものを見て、声を漏らす。

 

 そのサイトには、プラモデルを作るモデラーの作品が掲載されており、どれも実機と見間違えそうなぐらいクオリティーの高い作品ばかりだ。

 

 というのも、プラモデルを初めて見て以来、マイラスはプラモデルにドハマりして、今日までそこそこの数のプラモデルを素組みとはいえど作っている。

 

 彼はパーツのゲート処理をして綺麗に仕上げているが、最近では塗装に挑戦しているそうである。

 

(やっぱり俺の素組みとは比べ物にならないな)

 

 と、彼の視線の先には、これまで作った『零式艦上戦闘機』と『F6F ヘルキャット』『烈風』『F4U コルセア』、更に『紫電改』や『Fw 190』、『スピットファイア』等が棚に飾られている。

 どれも素組みであったが、キットの精巧な作りと細かく色分けされた色プラを採用しているとあってか、どれもクオリティーの高い精巧な作りをしている。

 

 だが、サイトに掲載されている作品はその遥か上をいく完成度だ。

 

(特に、この人の作品は凄いな)

 

 と、マイラスはある投稿者の作品を見て、声を漏らす。

 

 ネームには『モデラーM』と書かれた投稿者であり、どの作品も実機としか思えないぐらいに完成度の高い物だ。恐らく何も知らなければ、本物と言っても信じて疑わないだろう。

 ちなみに他にも『モデラーK』が軽巡『クリーブランド』を作ったり、『モデラーO』が戦艦『尾張』を作ったり、『モデラーS』が74式戦車を作ったり、様々なモデラーが作品を作っている。

 

「ん? これって……」

 

 と、彼はある作品を見て、声を漏らす。

 

 それは零戦改こと零式艦上戦闘機 三二型であり、これも実機のように見えるクオリティーだが、問題はそこではない。

 

 というのも、零戦改の両翼と胴に、ムーの国籍マークが描かれているのだ。

 

 この作品には、『もしもムーの軍に零式艦上戦闘機が採用されたら』という題名が書かれている。

 

「我が国で採用された零戦っていう、創作の類か。こういう発想の仕方が出来るのは羨ましいなぁ。というか、国籍マークは自作なのか」

 

 作品の紹介文を見ながら、マイラスはこの零戦改の発想に声を漏らす。

 

 こういった予想外な発想が、今後のムーの技術発展に必要なのかもしれない。

 

「ん? これって……」

 

 そんな中、とある作品が目に留まり、その作品を開いて見る。

 

 機首付近に小さな一対の翼に、機体の後方に主翼を持ち、特徴的なのが機体後部にエンジンとプロペラが付いた戦闘機だ。

 

(変わった形の戦闘機だな。まるで前のエンジンとプロペラのない疾風みたいだ)

 

 その作品を見ていると、ふと彼は思い出す。

 

「そういえば……確かこの間買ったプラモデルの中にあったよな」

 

 マイラスはスマホを置いて起き上がると、部屋の隅にいくつか積み上げているプラモデルの箱の中から、お目当てのキットを探す。

 

「あっ、これか」

 

 そしてお目当てのキットが見つかり、彼は丁寧にその箱を取り出して、表紙を見る。

 

 箱の表紙には、サイトに載っていたあの戦闘機が飛行している様子のイラストが描かれ、その下に重桜の文字と、大陸共通語で商品名が掛かれている。

 

 その名を『震電』という。

 

 彼はこの変わった形をしている震電が気になって、購入していた。

 

 マイラスはテーブルに箱を置き、再びベッドに横になってスマホを手にし、ネットにある百科事典で調べる。

 

「これか……」

 

 彼はそのページを見つけて、概要を見ていく。

 

(エンテ型っていう構造をした航空機か。こういう形の航空機もあるんだな)

 

 震電の構造がエンテ型と呼ばれる特殊な構造をしているのに、彼は内心呟く。

 

(高高度を飛行する爆撃機を迎撃する目的で開発された局地戦闘機で、その性能は高度1万メートルを30分足らずで到達……って、高度1万メートル!? しかもその高さをたった30分で!)

 

 彼は震電の性能に驚き、目を見開く。

 

 とてもムーのマリンでは到底出来ない性能だからだ。

 

 高度1万メートルなんて、マリンでは何時間と掛かって、やっと到達するレベルだ。しかも到達しても空気が薄いところでは、マリンのエンジンは酸素不足となって満足に動かすことが出来ず、飛ぶのがやっとだ。

 

 それなのに、この震電という機体は、高高度で戦闘を行うことを前提にした設計だという。

 

 

(主武装は30mm機関砲を四門。火力も桁違いだ。こんな機体に攻撃されれば、大抵の航空機は一瞬で粉々になるな)

 

 震電の武装を見て、その高火力に彼はただただ内心呟くしかできなかった。下手すると大砲クラスだからだ。

 

(だが、こんな機体が必要になるって、一体どんな化け物な爆撃機なんだ)

 

 マイラスはこんな戦闘機が必要になるような爆撃機に、恐怖を覚える。

 

(……待てよ。もしグラ・バルカス帝国にもこれほどの爆撃機があったとしたら……)

 

 ふと、彼はそんな推測が脳裏を過り、やがて予想図が浮かび上がる。

 

 

 マリンでは到達出来ない高高度を飛行する巨大な爆撃機が、ムーの首都に爆弾を落としていく光景が……

 

 

(もしもそうなったら、我が国は手も足も出せないじゃないか!?)

 

 彼は内心驚き、冷や汗を掻く。

 

 グラ・バルカス帝国がどの程度の爆撃機を持っているかは分からないが、少なくともムーの爆撃機よりも巨大かつ、性能が高い物なのは間違いない。

 

(そうなると、我が国が今必要なのは、高高度まで短時間で到達出来て、戦闘可能な迎撃機になるな。いや、通常の戦闘機も必要だが、それでも高高度迎撃機が我が国には必要だ)

 

 マイラスは将来的に戦うことになるであろうグラ・バルカス帝国との闘いには、他の武器兵器もそうだが、その中で重要なのがこの高高度迎撃機ではないかと考える。

 

(……もし、もしも、この震電を作ることが出来れば)

 

 彼はこの震電に、一つの可能性を見出していた。

 

 

 当然今からそんな機体を設計しようにも、ノウハウが無い中で設計なんて到底できない。ならば既存の兵器から使うしかない。

 

 マイラスは最初こそジェット機が最適だと考えたが、運用にしろ、整備にしろ、戦術にしろ、兎に角ありとあらゆるものが不足している。仮にジェット機を輸入できても、持て余すのが関の山だ。

 まぁどっちにしても、ロデニウスで開発途中のジェット機を輸出させてもらえるはずもないが。

 

 だが、この震電という機体であれば、何とか出来るんじゃないか。もちろん今までにない構造の機体である以上苦労は絶えないだろうが、それでも既存の技術を使っている震電であれば、時間は多少かかるが、ムーでも運用が可能だろう。

 

 マイラスはこの震電に一筋の希望を見出すが、問題がある。

 

「でも、この震電の設計図……どうしよう」

 

 いくら模型や概要が書かれた百科事典があったとしても、構造については設計図にしか詳細が描かれていない。設計図無しでは、とてもじゃないが、作る事は出来ない。

 

「『大和』殿に頼めば……いや、そもそもここまで来ると個人でやっていい範疇を超えているよな」

 

 マイラスは乱暴に髪を掻き上げる。

 

 軍事機密級の代物を扱う以上、個人でどうこう出来る範囲を超えており、ここまで来ると彼の上司や上層部と相談しなければならない。

 

 仮に上司も上層部がOKを出したとしても、そもそも震電の設計図を手に入れられなければ、どうしようもないが。

 

 欲を掻けば、実機自体を輸入出来れば部隊への配備が早期に可能となる。だが、マイラス的には技術の発展を考え、自国内で作りたい思惑がある。

 

(どうにか上司と上層部を説得できれば、後はどうにかするしかないか)

 

 しかしマイラスは上司と上層部に許可を得ること自体苦労ではないと思っており、どちらかといえば設計図を手に入れるのが難しいと感じている。

 

「ん? これって……」

 

 ふと、百科事典の震電のページを見ていると、気になる項目が目に入る。

 

「この震電って機体は……ジェット機として改装する構想もあったのか」

 

 それは震電をジェット化した所謂『震電改』と呼ばれる構想だ。

 

「ジェット機か……」

 

 ふと、マイラスはトラック泊地でのことを思い出す。

 

 

 トラック泊地で見たジェット機は、彼の心を大きく揺さぶり、夢を抱かせた。そして人生を賭けてでも、絶対に祖国の空に自分が設計した国産ジェット機を飛ばすと、心に決めた。

 

 しかし当然ながらジェット機は未知の領域であって、設計自体が夢のまた夢の話だ。彼はジェットエンジンの構造や、ジェットエンジンを搭載する航空機の構造を理解しようと勉強に励んでいるが、一朝一夕で技術が手に入れられるわけもなく、かなり苦戦している。

 

 彼は頭の中で軽くジェット機の構想を立てているものも、やはりというか、当たり前というか、どう考えても実現なんて夢のまた夢な話だ。

 

 しかし、この震電をジェット化する構想は、彼の国産ジェット機という夢への一歩になるかもしれない。

 

 

「やはり、この震電は我が国に必要になる。我が国の空を守るのはもちろんだが、航空技術発展の礎としても、必要だ」

 

 そしてマイラスは改めてこの震電が祖国の空を守り、自分の夢を叶えるその礎になると考え、必ずこの機体を作ろうと決心する。

 

 

 もちろん、震電以外に、国産戦闘機の開発も将来的に行うつもりでいる。

 

 

 ―――♪

 

 

「っ?」

 

 するとスマホから鈴の音のようなメッセージの着信音が鳴り、彼はスマホの画面を切り替えてメッセージを開く。

 

「あっ、『筑後』さんからだ」

 

 メッセージの送り主は『筑後』であり、マイラスは内容を確認する。

 

 あの出会った日以来、二人は休日に会っては、よく話をする仲になっている。

 

「『今夜の予定についての確認ですが、今夜マイラスさんは特に何も無いですよね?』か。『今夜何も予定は無いから、予定通り「筑後」さんと約束した店で会いましょう』と」

 

 メッセージを確認して、今夜予定は無いので、問題無い事を書いてメッセージを送信する。

 

 するとすぐにメッセージが届き、『それでは、今夜約束のお店でお会いしましょう』とメッセージが帰って来る。

 

「……」

 

 スマホを手にしたまま、マイラスはベッドに腰かける。

 

(それにしても、一体なんだろう……)

 

 彼は腕を組んで内心呟くと、静かに唸る。

 

 今夜マイラスは『筑後』と会う約束をしているのだが、その理由は『大事なお話があります』とのこと。

 

(大事な話……一体どんな話を『筑後』さんはするんだろうか)

 

 相手が相手とあって、マイラスは落ち着けなかった。

 

 腐れ縁のアイリスを除けば、異性と接点が少ない彼は、この申し出に色んな展開があるんじゃないかと考えてしまうのだ。それも美少女となれば、妄想が膨らんでしまう。

 

(ひょっとして、正式にお付き合いしようって話だったり……いや、何考えているんだ俺は。そんな都合の良い話なわけがないだろ)

 

 彼は『筑後』が自分と正式に付き合って欲しいという話では無いかと考えるが、すぐに頭を振るって考え直す。 

 

 そう単純にいく話ではないのは彼自身分かっている。何せ『筑後』はKAN-SENである以上、単純な話で済むとは思えない。

 

(もしかして、この間のフェン王国の一件が絡んでいたりするのか?)

 

 マイラスはこの間のニュースにて流れたフェン王国の軍祭での一件を思い出す。

 

 パーパルディア皇国による軍祭の襲撃。それによりフェン王国にかなりの被害が出て、ロデニウス側も駆逐艦一隻が損傷を受ける被害を被った。襲撃したワイバーンロードと艦隊はその後KAN-SENによって殲滅されたという。

 

 このニュースを見てマイラスはラッサンとアイリスの二人と話し、どちらが勝つかというのを話したが、結果は満場一致でロデニウスが勝つと断定した。

 

 まぁ明らかに技術レベルが違う以上、パーパルディア皇国に勝ち目など無いのだ。だが、皇国の性格を考えれば、これで終わりなわけがない。

 

 高い確率で、ロデニウス連邦共和国はパーパルディア皇国と戦争になるかもしれないと、ラッサンは予想した。恐らく本国でも同じ考えを持って、そう遠くない内にロデニウスに留学しているマイラス達に声が掛かるかもしれない。

 

 その一件で、もしかしたら『筑後』が関係しているのかもしれない。話とは、そのことじゃないか……

 

(あぁ、もう! 考えたってしょうがない。どの道今夜分かるんだ。覚悟を決めろ!)

 

 色々と考えが頭の中を回るが、今考えたってしょうがないと、マイラスは気を引き締める。

 

 その後、彼は休憩を終えて作業を再開し、その合間に震電についての情報をネットで集めるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって、トラック諸島……

 

 

 

「はぁ……」

 

 春島にある建物の中、執務室にてソファーに座る『大和』は背もたれにもたれかかり、ため息をつく。

 

「お疲れ様ですわ、総旗艦様」

 

 と、『赤城』が緑茶を淹れた湯呑を彼の前にあるテーブルに置く。

 

「ありがとう」と『大和』はお礼を言って湯呑を手にして、緑茶を飲む。

 

 先ほどまで彼は書類整理の作業を行っており、『赤城』はその作業の補佐をしていた。その作業が終わって今は休憩中である。

 

「総旗艦様」

「何だ?」

 

 と、『赤城』が声を掛けて、『大和』は湯呑から口を放して顔を見る。

 

「いつ頃になれば、『赤城』は牙を向けてもよろしいでしょうか」

 

 彼女は冷静な口調で過激な事を口にするが、明らかに雰囲気は怒りが立ち上っており、それを表すかのように彼女の九本ある尻尾が揺らめいている。

 

 というのも、彼女がここまで怒りを露にしているのは、当然ながらフェン王国の軍祭での一件が原因である。

 

 『赤城』からすれば愛する者(大和)が傷つけられたというのもあるが、それと同時に敬愛する(天城)も命の危険に晒されたとあって、彼女の怒りは噴火寸前の火山の如く……いや、正確には再噴火しそうな火山の如くであろう。

 

 当時その事を知った『赤城』は般若の如くの形相を浮かべてパーパルディア皇国を滅ぼそうと出撃しようとしたので、KAN-SEN総出で彼女を止めていた。その後戻ってきた『大和』と『天城』が『赤城』を宥めた事で、何とか収まってくれた。

 その代わり『大和』は彼女から夜中に激しく求められたそうな……何を求められたかって? 察しろ

 

 一度は収まったとは言えど、やはりそう簡単に怒りが収まるはずもなく、このように『赤城』は『大和』に問い掛けることが多くなった。

 

「まぁ待て、『赤城』。お前の気持ちはとてもよく分かる。だが、物事には順序があるんだ。少なくとも、今はその時じゃない」

 

 そして『大和』は彼女にそう説明する。

 

「それでは、その時になれば、容赦する必要も無い、と?」

「そうだな。容赦する必要は無い。だが、畜生になるな。これだけは厳守だ」

「……」

「俺だって、連中に怒りを抱かないのかと言われれば、それは無い。仲間を傷つけられ、その上『天城』にも牙を向けたんだからな」

 

 『赤城』もそうだが、やはり一番怒りを抱いているのは、『大和』なのだろう。

 

 フェン王国の剣王シハンの策略に、違和感を覚えながら見過ごしてしまい、その結果他国の戦争に巻き込まれてしまい、更に仲間を傷つけられ、愛する者を危険に晒してしまったのだから。

 

「尤も、『天城』を危険な場所に連れて行ってしまった、自分にも怒ってもいるんだがな」

「……総旗艦様」

 

 『大和』の言葉に、『赤城』はさっきまでの雰囲気が散って、複雑な表情を浮かべる。

 

 

 確かに『天城』を連れていくのは、今思えば良くなかったのかもしれない。ただでさえ病弱な身体な上に、彼女はKAN-SENとしての力を失っているのだ。何かがあったら、対処することが出来ない。

 実際下手をすれば、『天城』は取り返しのつかないことになっていたかもしれないのだ。

 

 だが、それでも彼女自身が望んだとあっては、それを無碍には出来ない。

 

 だからといって、気にするなと言われても、無理な話なのだが。

 

 

「まぁ、どっちにしても、もう過ぎたことだ。現に『天城』が無事であるんだから、それでいい」

 

 別に全体的に言えば良くは無いが、一番大切な存在が守れたのだから、一応はそれで自己解決している。

 

「しかし、フェン王国については、どうしますの? 総旗艦様を嵌めたあの者達をこのままにしておくのも……」

「……このままパーパルディア皇国の思い通りにさせるわけにはいかない。あの狸親父の思惑通りに進まされるのは癪だが、フェン王国を助ける形で、安全保障条約を結んだんだ」

 

 露骨に忌々しそうな表情を浮かべる『大和』はそう言うと、湯呑のお茶を飲み干す。

 

 完全に向こうの掌の上で踊らされているようで気に入らないものも、放っておけば今度はパーパルディア皇国がロデニウス連邦共和国に牙を向けてくる。

 フェン王国の政府は別にどうでもいいが、国民に罪は無い。受け入れ難いものの、ロデニウス側は向こうの思惑に敢えて乗ることにしたのだ。

 

「兎に角、俺たちに出来るのは、戦って、国を守る事だけだ」

「えぇ。全ては総旗艦様の為にですわ」

 

 と、どこかずれた『赤城』の発言に、『大和』は苦笑いを浮かべつつ、どこか安心する。

 

 

「んでだ、『赤城』」

「はい、なんでしょうか」

「お前は一体何をしている?」

 

 と、『大和』はジト―と『赤城』を睨みつける。

 

「何って、こういうことですわぁ♪」

 

 彼女はそう言うと、今の状況を見せびらかすように、身体をクネクネと動かす。

 

 『赤城』は『大和』の膝の上に向かい合うように跨っており、彼の両肩に手を乗せて態勢を整えている。『赤城』が身体を揺らす度に、彼女のご立派な胸部装甲が静かに揺れて、ちょうど『大和』の視線の先に開けた胸元から覗く谷間があるという、健全な男性からすれば目に毒かつ眼福な光景が広がっている。

 しかし、彼からすればすっかり見慣れてしまった光景とあって、反応が淡泊だ。何とも贅沢な慣れである。

 

 だが、それ故に『大和』にそんじょそこらの美女のハニートラップは一切通じないものである。

 

「……」

 

 ふと、『大和』の視線が左を向くが、『赤城』は気にした様子を見せず話を続ける。

 

「総旗艦様。お仕事も終わりましたので、このまま床へ参りましょう」

「何をどうすりゃそうなるんだ。真昼間からやる気は無いぞ」

「では、夜ならお相手していただけるのですね?」

「悪いが今夜は予定が入っているから無理だ」

「予定、ですか……」 

 

 スゥ、と彼女は目を細め、さっきまでの雰囲気を豹変させる。

 

「この『赤城』よりも大事な予定ですか。一体どこの誰との予定なんですか。『赤城』から総旗艦様との時間を奪う輩は一体誰ですの」

 

 目のハイライトが消え、両肩を掴む手に力が入り、明らかに強めの口調になりつつある『赤城』に、『大和』はため息をつく。こうなると『赤城』は中々止まらなくなる。

 

 さてどうやって『赤城』を説得するか、と悩んでいると……

 

 

「私とのご予定ですわ、『赤城』」

 

 と、背後から声を掛けられて彼女はびくっと身体を震わせる。

 

 さっきまでの雰囲気はどこへやら。『赤城』は戸惑った雰囲気でゆっくりと後ろを振り向くと、『天城』が静かに佇んでいる。

 

「あ、『天城』姉様」

「私と総旗艦様は今夜本土の方へ向かわなければならないのですわ。とても大切なお約束がありますので」

「大切な、約束ですか……」

「ですので、今日は我慢するのよ、『赤城』」

「……はい」

 

 さすがに姉が相手では反論できず、『赤城』はガッカリした様子で答える。

 

(別にダメとは言わないんだな)

 

 その傍ら、『大和』は『天城』の物言いに内心呟く。別の日であれば好きにして良いという意味だからだ。

 

「それと……」

「えっ?」

 

げ  ん

 

こ  つ

 

「駄目ですわよ、『赤城』 総旗艦様を困らせては」

 

 と、右手をグーにしたまま『天城』はそう言うも、当の本人は頭にでかいタンコブを作ってうつ伏せに倒れている。正確に言えば両腕と両脚を曲げている、既視感のある(ヤムチャシヤガッテ)倒れ方である。

 

「総旗艦様も、お気づきでありましたらお声を掛けても良かったのでは?」

「『赤城』がどんな反応を見せるのか気になったから、敢えて黙っていた」

「趣味が悪いですわ、総旗艦様」

 

 『天城』はそう言うものも、別に嫌悪感は一切なく、どこか呆れた様子であった。

 

「それで、何か用があるのか『天城』? と言っても、さっき言っていたやつなんだろ?」

「そうですわ。出発前に改めて確認したくて」

「そうか。仕事は終わったからすぐに出られるぞ」

「分かりました。では、私は『赤城』を部屋に連れて行ってから向かいます」

 

 彼女はそう言うと、気を失っている『赤城』の首根っこを掴んで、そのまま引き摺って執務室を後にする。 

 

(『天城』のやつ、本当は元気なんじゃないか?)

 

 意外とパワフルな彼女の姿に、『大和』は内心呟く。まぁ元気なら元気で別に良いのだが。

 

「……大切な用、か」

 

 彼はふと、今夜の予定の事を呟く。

 

 大切な家族からの用事とあって、色んな考えが過る。

 

(まぁ、会ってみれば分かるか)

 

 色々と考えが浮かぶも、『大和』は頭を切り替えて執務机の上を片付けた後、身支度を整えて部屋を後にし、飛行場へと向かう。 

 

 

 

 




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