異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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更新が遅れて申し訳ありません。ここ最近スランプ気味で、執筆に手が付けられない日々が多かったです。モチベ維持は難しいですね……

そして今回猟奇的描写がありますので、ご注意を


第七十二話 流される血

 

 

 

 中央歴1640年 1月6日 パーパルディア皇国

 

 

 

 皇国の皇都エストシラント。その日の港では、一騒ぎが起きている。

 

 

 港の湾内には、皇国の戦列艦が停泊しており、その戦列艦の乗員は、緊張した面持ちで視線の先にある物を見つめている。

 

 

 

 湾内には、皇国の戦列艦よりも大きく、白く塗装された鋼鉄製の船舶が錨を下ろして停泊している。

 

 その船こそ、ロデニウス連邦共和国より派遣された海上警備隊の警備艦『第150号警備艦』である。

 

 明らかに文明圏外の船ではない、むしろ第二文明圏の列強国ムーのような船に、パーパルディア皇国の人間は警戒心を露にしている。

 

 その船のマストには、海上警備隊の旗と共に、ロデニウス連邦共和国の国旗が掲げられているので、その船がロデニウス連邦共和国の船であるのは間違いない。しかし以前は帆船であったこともあって、海軍司令部は混乱していた。

 

 だが、やはり『紀伊』の予想通り、海軍司令部の人間は誰もがそれほど危機感を抱いておらず、『蛮族が見栄を張る為に無理して文明国から一隻だけ購入している』と都合の良いように考えて楽観視している。

 

 

「やはり以前と比べて反応は違うが、効果はあまり無さそうだな」

「むしろおかしな方向に話を進めているような気がしないでもないな」

 

 『第150号警備艦』の甲板にて、内火艇の準備が行われているのを一瞥し、『大和』と『エンタープライズ』が埠頭を見て皇国の人間の反応を見てそれぞれ意見を口にする。

 今回『エンタープライズ』が同行したのは、護衛と共に『大和』のサポートを行う為である。それ故か、いつもは着崩しているコートをちゃんと着込んでいる。

 

「一層のこと、戦艦で来ればいくら皇国でも、救いようの無いバカで無い限り対応を改めると思うが?」

「それが一番楽なんだろうが……あまり相手を刺激するようなことは避けておきたい」

 

 『土佐』が呆れたように『大和』に言うものの、彼はため息を付きそう簡単に行かない現実を告げる。

 

「相手が相手だから、あまり期待はしないが……今回の会談でどれだけ話が進むか……」

「……」

「まぁ、兎にも角にも、行くしかないがな」

 

 『大和』は咳払いをして気持ちを切り替え、『土佐』と『出雲』『ローン』の三人を見る。

 

「この間も言ったが、万が一の時は頼むぞ。そして臨検には絶対に応じるな」

「……あぁ」

「分かった」

「分かりました」

 

 彼の言葉に、三人は頷く。

 

 

 

 その後『大和』と『エンタープライズ』の二人は内火艇に乗り込んで港の埠頭へと目指し、そこで待っていた馬車に乗り込んで会談の場へと向かう。

 

 

「それにしても、また出頭命令か」

 

 思いの外下からの振動がある馬車の車内で、呆れた様子で『大和』が呟く。彼の手元には、ロデニウスに対しての出頭命令書なる書類がある。

 

 内容は『貴国への以降の対応は、第1外務局が担当する。会談場所は皇宮にて行う為、すぐに来るように』とある。相変わらず上から見ているような内容の命令書である。

 

「その上、会談場所が変更となって、この皇都にある城とはな……」

「以前は第3外務局とやらで行ったんだったな」

「あぁ。しかし、城で会談を行うか……」

 

 彼は小さく呟くと、目を細める。

 

(わざわざ場所を変更する必要は無いはずだが……)

 

 内心呟く彼の胸中には、不安の渦が渦巻いている。

 

(第3外務局から第1外務局へと担当が変わったということは、こちらの国力を知っての変更……とは思えんよな)

 

 一瞬パーパルディア皇国がロデニウス連邦共和国を国力ある国と認めて担当を変えたのか、と一瞬期待するも、そもそもそういう期待が持てるような国じゃないというのを思い出す。

 

「万が一の場合を考えて持って来てはいるが……使わない事を祈るばかりだ」

「そうだな」

 

 と、『大和』は制服の上から脇辺りを押さえ、『エンタープライズ』もコートの上から脇下辺りを押さえる。

 

 

 

 しばらく石畳の凸凹に揺られて移動し、馬車は皇帝が住まう皇宮パラディス城の門を通過する。

 

 門を通過すると、中世の欧州にありがちな建築様式の宮殿と、丁寧に手入れがされた庭園が二人の視界に入る。

 

「あからさまな権力と国力誇示だな」

「あぁ」

 

 宮殿は白く、職人の手によって施された芸術的な作りに、庭園は測量も行って配置や作り等を完璧なまでに仕上げている。

 

 こうした光景の数々を見るだけで、この国の格式とプライドの高さ、絶大な国力を感じ取れる。それ故の二人はこのような反応なのだろう。

 

 やがて馬車は敷地の一角にある建物の前に到着する。皇宮の使用人に出迎えられて、二人は馬車を降車し、そのまま使用人に案内されて建物に入っていく。

 

 優雅な庭が見渡せる廊下を通過し、一行は黒く重厚な扉の前まで案内される。一旦待つように指示され、使用人がドアノッカーを叩いて中に入った後、しばらくしてから入るように促される。

 

 中は非常に広く、赤と金のきらびやかな装飾に彩られていた。その奥中央に設置された豪華な机を前に、レミールが座っている。

 

 彼女は鋭い眼光で二人を睨みつけるように見ているが、二人して涼しい顔をしている。まぁ二人の経験上これ以上の迫力で睨まれた経験があるので、何とも思っていない。

 

(今までの皇国の人間と雰囲気が違うな。見てくれからして、位の高い人間か)

 

 レミールの様相と雰囲気から、『大和』は彼女が位の高い人間であるのを察する。

 

 二人は使用人に促され、部屋中央のソファに着席して、制帽を脱ぐ。

 

「パーパルディア皇国、外務局監査室のレミールだ。今は第1外務局に出向という形をとっている。カイオスに変わって、お前達ロデニウスとの外交を担当する」

 

 初対面の相手にも関わらず、高圧的なレミールの態度は、外交と呼ぶには不遜で失礼なものであったが、皇国の性格を知っていた『大和』と『エンタープライズ』は特に戸惑うことは無かった。むしろ納得しているような様子だ。

 

(やはり、カイオス殿が例外なだけで、これが皇国の人間の性格か。それも位の高い人間のな)

 

 『大和』は内心呟きつつ、口を開く。

 

「ロデニウス連邦共和国の軍人兼外交官を務めています『大和』と申します。こちらは助手の『エンタープライズ』です。前回の会談の続きとして赴きましたが……カイオス殿はどうされたのですか?」

「やつは皇帝陛下より与えられた使命も満足に出来やしなかった無能者だ。だから奴に変わって私が担当することになったのだ」

「そうですか」

 

 『大和』の質問に、レミールは変わらず高圧的な態度でそう告げる。

 

 思う所はあるものも、彼は気持ちを切り替える。

 

「では、早速会談の方に移りたいのですが……」

「その前に……お前達に面白いものを見せようと思ってな……皇帝の御意思でもある」

「面白いもの?」

 

 不敵に笑うレミールに、『大和』は表情に見せなかったが、警戒心を抱く。

 

 するとレミールは使用人に目で合図すると、使用人が合図に応じて手にしている鈴を鳴らすと、外から扉が開き、そこから縦20cm、幅30cmくらいの水晶の板が取り付けられた、オルガンのような装置がレミールの前に運び込まれた。

 

 『大和』と『エンタープライズ』は使用人にレミールの前に行くように促され、二人は制帽を右脇に抱えて立ち上がり、彼女の前へと移動する。

 

「これは魔導通信を進化させ、音声だけでなく映像まで見えるようにした、先進魔導技術の結晶だ。この映像付き魔導通信機を実用化しているのは、神聖ミリシアル帝国と我が国くらいなものだ」

「はぁ……」

「こんな物が、か」

 

 レミールの説明に、『大和』は間の抜けた声を漏らし、『エンタープライズ』は小さく呟く。

 

 要はテレビ電話のようなものだろうが、筐体が大き過ぎるので、古臭さが否めない。魔導技術で、という点なら興味はあるが、それ以外では何の凄さも無い。

 

「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう」

 

 レミールはそう言うと、使用人に質の悪い紙を二人に渡す。

 

 その紙には、フィルアデス大陸共通言語で下記の内容が記載されていた。

 

 

・ロデニウスの王には皇国から派遣された皇国人を置くこと。

・ロデニウスの法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする。

・ロデニウス軍は皇国の求めに応じ、軍事力の必要数を指定個所に投入しなければならない。

・ロデニウスは皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。

・ロデニウスは今後外交において、皇国の許可なくして、新たな国と国交を結ぶことを禁ず。

・ロデニウスは現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じて差し出すこと。

・ロデニウスは現在知りえている魔法技術を全て皇国に開示すること。

・ロデニウスはロウリア王国が抱えた借金を全額返済すること。

・パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、ロデニウス国民の生殺与奪の権利を有することとする。

・ロデニウス国民は……

 

 

「……正気か?」

 

 紙に書かれている内容を見て、『大和』はレミールにある種同情めいた視線を向けながら声を掛ける。『エンタープライズ』に至っては表情こそ変えていないが、内心憤っていた。

 

 つまるところ、この要求は、ロデニウス連邦共和国を属国以下の扱い、植民地状態にしてやるということだ。

 

「正気だと? 身を弁えない蛮族が。どういう意味でそう口にしたのだ?」

「こんな植民地になり果てろと言っているような要求を二つ返事で了承するとでも思ったか。皇国の人間は随分学が無いのだな」

「学が無いのはお前達の方だ。皇国の力を知らぬ、愚か者が」

「その台詞、そっくりそのままそちらに返す」

 

 互いに棘のある言い方で牽制し、次に『大和』が口を開く。

 

「それに、ロウリア王国という国は存在しない。借金を返済しろと言われても存在しない国の借金など知ったことか」

「ほう。皇国に対してシラを切るか。お前達の国が統一された新興国家で、その内に一か国がロウリア王国なのは調べが付いているのだぞ。皇国の国家戦略局が独断でロウリア王国に支援していたという事実も残っている」

「そちらはそう認識しているのでしょうが、こちらでは確認されていない事実です。そもそも我が国には関係のない話だ。貴国でロウリア王国という国に借金の返済を伝えてください」

「あくまでもシラを切るつもりか」

「こちらはありのままの事実を答えているだけです」

 

 レミールの追及に『大和』は毅然とした姿勢で答えていく。

 

 以前より旧ロウリア王国がパーパルディア皇国の国家戦略局より支援を受けて、その際に生じた借金についてどうするか、旧クワ・トイネ公国の政府は悩んでいた。十中八九皇国は借金返済を旧ロウリア王国に迫るのは確実だし、他二ヵ国に飛び火する可能性は高かった。

 

 んで、悩んだ末に出した結論は……借金を踏み倒すという、まぁあんまり良くない方法だった。ロデニウス大陸の三ヵ国を統一したのには、こういった要因も含まれている。

 

 まぁどちらにしても、パーパルディア皇国とは避けて通れない状況なのに、変わりはなかった。

 

「ふん。まぁ今はその事はおいておく。そういえばロデニウスはフェン王国へ送り込んだ監査軍を壊滅させたそうだな。正規軍より大きく劣っているとは言えど、文明圏外の蛮族にしては、大したものだな」

「えぇ。宣戦布告も無しに攻撃してくれたお陰で、我が国の軍艦に被害が出ましたよ」

「だから何だ? そもそもお前達は何か勘違いをしているようだが、お前達が壊滅させたのは装備は古く、練度は低い監査軍だ。正規軍はその比ではない」

 

 まるで監査軍など倒されて当然、と言わんばかりに告げると、正規軍は監査軍よりも練度も装備に優れているのを彼らに伝える。

 

(まるで始球式で下手糞な素人の相手を任されたキャッチャーみたいな気分だ)

 

 『大和』はレミールの話を苛立ちを抑えつつ内心呟く。正論説いても理解しないで持論を叩き付けるような連中に、言葉のキャッチボールを期待するだけそもそも無駄なのだが。

 

(これじゃ、先住民族に平和の尊さを教えて理解させる方が楽かもな)

 

 そうこうしている内に、相手も話したい事を話し終えてか、話す姿勢を変える。

 

「では、問おう、ロデニウスよ。その命令書に従い、我らに下るか。それとも拒否して国ごと滅びるか」

「……」

 

 レミールの質問に、『大和』としては速攻で拒否したいところだが、あくまでも表向き(・・・)は特使として赴いているので、今は穏便に済ませようと考慮する。

 

「……我々はあくまでも特使として派遣された者です。我々に全権はありませんので、まずは命令書を持ち帰り、大統領に判断を仰ぎます」

 

 当たり障りが無いように答えると、レミールはどこか優越そうな笑みを浮かべる。

 

「ほっほっほっ。そういうと思っていたぞ。やはり蛮族には教育が必要なようだな。皇帝陛下の仰る通り、哀れな蛮族だ、ロデニウスよ」

(どっちが哀れなんだか)

「……」

 

 レミールは得意げに話を進めるが、『大和』と『エンタープライズ』は「何言ってんだこいつ」と言いたそうな表情を浮かべて内心呆れる。

 

「お前達は皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前達に更生の余地があると、再考の機会を与えてくださっている」

「どういうことだ?」

「これを見るがいい」

 

 『大和』が怪我んな表情を浮かべると、レミールは指を鳴らし、二人の眼前にある水晶の板に、質の悪い映像が流れ出された。

 

「っ! これは……」

「……」

 

 流し出された映像には、海が広がる崖の淵に膝を着かせて頭を前に出して拘束されている約20名の男女の姿が映し出されている。

 

「この者達はシオス王国で捕らえたロデニウスの者達だ」

「なっ!?」

「ロデニウスの!?」

 

 レミールの口から告げられた拘束された人達の正体に、二人は驚きを隠せなかった。

 

「どういうことだ! 何の権限があって彼らを捕らえた!!」

「こやつらは我が皇軍が駐屯している港の周囲をうろついて戦力を探ろうとしていた。だから船を拿捕し、乗船していた者達をスパイ容疑で捕らえさせてもらった」

「馬鹿な! 彼らは民間人だ! どこにそんな証拠がある!」

「皇軍の艦隊が駐留している港の周囲を船で航行していたと報告を受けている。これだけでも捕らえる理由になる」

「たったそれだけの理由で……!」 

 

 あまりにもしょうもない理由に、『大和』は歯ぎしりを立てる。これが指定された海域に船舶が侵入してしまったのならまだ捕らえられる理由に納得出来る所はある。だが、明らかに侵入しているわけでもないのに、ただ周辺を通っていただけで捕らえているのなら理不尽にもほどがある。

 そして何より、自分の国の領土内でなければ、植民地でも無い国で第三国の人間を捕らえるなど、非常識極まりないことだ。

 

 そもそもこの映像に映し出されている者達が本当にロデニウスの国民なのか? という疑問は浮かぶが……残念だがその身なりはロデニウス連邦共和国に見られる現代的な服装であり、乗組員と思われる人達が纏っている制服も民間の船舶会社で見られる制服そのものだ。

 恐らく観光目的でシオス王国に来ていた観光客と、観光客を乗せていた船の乗組員だろう。

 

「お前達の返答次第で、こやつらを見逃してやっても良いぞ?」

「っ! 彼らはただ観光に来た民間人だ! スパイという証拠は無い!! 貴様らの被害妄想に過ぎん! 即刻解放を要求する!」

 

 我慢の限界を超えて激高する『大和』に、レミールは一瞬沈黙した後、目を見開いて逆上する。

 

「要求する? 蛮族風情が皇国に要求するだと!? 立場を弁えぬ愚か者めが!!」

 

 怒りに満ちたレミールは通信用魔法具を取り出し、冷徹な一言を告げた。

 

 

「処刑しろ!!」

「なっ!?」

 

 彼女が告げた瞬間、一番左に居た男性に皇軍の兵士が手にしている剣を首に目掛けて振り下ろし、その首を切り落とした。

 

『い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 切り落とされた男性の頭が地面に転がり、絶望の染まった表情のまま、僅かに動いている頭を見て隣に居た女性が思わず声を上げるが、直後に皇軍の兵士が女性を後ろから背中を踏みつけて無理やり頭を低くさせると、更に別の兵士が頭を踏みつけ、男性の首を切り落とした兵士が件を振り下ろし、女性の首を切り落とした。

 

『や、やめろ、やめてくれ―――』

『おかあさあぁぁぁん!! 嫌だ、いやだよぉぉぉ!!』

『やめて! その子だけは! その子だけは!!』

 

 そして次々と、兵士達はさも当たり前かの様に剣を振り下ろし、ロデニウスの人たちの首を切り落としていく。

 

 それが幼い子供だろうが、老人だろうが関係無い。命乞いをしようとも、自分の娘を殺さないでくれで懇願しても、望まぬ死を皇軍の兵士達は与えていく。

 

 悲鳴に絶叫、肉を断つ音。転がる遺体は増え続けていく。

 

「やめろ……やめさせろ!!」

「……酷過ぎる!」

 

 『大和』は絶叫し、『エンタープライズ』は歯ぎしりを立てて両手を血が滲み出るほどに握り締める。

 

「貴様たちは……お前達は自分が何をしているのか、分かっているのか!!」

「『お前達』……? 蛮族風情が皇国に向かって『お前達』だと!?」

「お前達で十分だ、クソ野郎!!」

 

 彼は逆上するレミールに罵声を浴びせ、更に畳み掛ける。

 

「『蛮族』『蛮族』と見下しているが、お前達の方が我が国の国力を見抜けない……いや、現実を見ようとしない愚か者だ!」

「……皇帝陛下は何故、このような愚か者達に御慈悲を与えるのか。まぁいい」

 

 呆れた様子でレミールは額に手を当てて左右に軽く振るうと、やがて映像に映っていたロデニウスの人達全員の首が切り落とされ、動いているのはパーパルディア皇国の皇軍兵士達だけになった。

 

「止めることが出来ない自分達の、国力の無さを痛感するがいい。そして本国が消滅の危機にさらされているというのを、よく理解するのだな」

「言うに事欠いて、よくもそんな―――」

 

 『大和』は全く反省のそぶりも見せないレミールに罵声を上げようとしたが……未だに中継が続いている魔導通信機の画面を見た瞬間……彼らは絶句する。

 

 

 そこには、何が可笑しいのか、面白可笑しい様子で皇軍の兵士達が崖に向けて首を切り落とした遺体を蹴り、崖下の海へと突き落としていた。

 

 それも一人や二人だけじゃない。その場に居た皇軍兵士全員が遺体を海へと蹴り落としていく。それも嗤いながら……

 

 やがて皇軍兵士達は遺体を全て海へと蹴り落とし、今度は切り落とした頭をサッカーボールのように海へと蹴り飛ばし始めた。中には小さい子供の頭を何度も兵士間で蹴り渡してから、海へ向かって容赦なく蹴り飛ばす輩もいた。

 

 あまりにも……あまりにも狂気に満ちた、冒涜的な光景が映像に映し出されていた。

 

 

「――――」

 

 『大和』と『エンタープライズ』は目を見開き、言葉を失っていた。

 

 レミールは何かを喋っている様子だが、二人の耳には届いていない。

 

「これはあくまでも見せしめだが、いつかはお前達の国の人間がこの様になる警告でもある。その事をよく考えた上で―――」

「黙れ」

 

 と、レミールが話している途中で、『大和』は彼女の言葉を遮る。

 

「何だと?」

「黙れと言ったんだ、f〇c〇ing 〇it〇h」

 

 限界を超えた彼の怒りは、一周回って冷静なものになっている。しかし冷静と言っても、怒りが無くなったわけでは無い。むしろ噴火寸前の火山のような状態とも言え、言葉遣いが悪くなっている。

 現に彼の目のハイライトが消えて、無表情になっているのが、それを表している。そして彼の隣に立つ『エンタープライズ』もまた、無表情でレミールを睨んでいる。

 

「先ほどの特使云々の発言だが、訂正する。俺は大統領より全権を受けてこの場に立っている。よって、俺の言葉で国の今後の方針が決まる」

「ほう。だからなん「だから、ここでハッキリと言ってやる」」

 

 有無を言わさない、と言わんばかりに『大和』はレミールの言葉を遮る。

 

「今後ロデニウスはパーパルディア皇国との交渉を一切行わないとする。これからの我々の答えは行動で示していく」

「……」

「そして今回の一件については、当事者達には必ず罪を償わせる。例えお前達が地の果てまで逃げようとも、我が国は総力を挙げて、必ず捕らえる。一人たりとも逃がしはしない」

 

 『大和』はそう言うと、『エンタープライズ』と共に制帽を被り、踵を返して部屋を出ていこうとする。

 

「あぁ、そうだ。一つだけ言っておく」

 

 部屋を出る直前、『大和』は振り返って無表情のレミールを見る。

 

「我が国はフェン王国と安全保障条約を結んでいる。お前達の皇軍が攻めてくるのなら、我々は友好国を助ける為に軍を派遣する用意がある」

「蛮族共が徒党を組んだ所で、無駄な事だ」

「無駄な事かどうかは、いずれ分かる。そして現実を見て学ぶ事だな」

 

 『大和』はそう言うと、『エンタープライズ』を連れて部屋を出る。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 『大和』と『エンタープライズ』を乗せた馬車はパラディス城を後にして、港に向かっていた。

 

「……」

「……」

 

 そして馬車の車内では殺気に満ちた重々しい空気が漂っており、馬車を牽いている馬の御者はその空気を感じ取って顔を青くし、なるべく後ろを振り向かないようにしている。、

 

「少しは落ち着いたらどうだ『ヤマト』」

「落ち着く? 俺は落ち着いているぞ?」

「そんな目でよく言えたものだな。それに、自分で落ち着いていると言っているやつの落ち着いているは信用出来ないな」

「……」

 

 彼女の指摘に、『大和』は顔を馬車の窓に向ける。

 

「……」

「『ヤマト』……」

「……時間の無駄だったな」

 

 しばらく沈黙した後、外を眺めながら『大和』が口を開く。

 

「あんな連中に少しでも期待した俺が馬鹿だった。そもそも猿と話し合いで解決できるわけが無かったんだ」

「……」

 

 余程頭に来ているのか、未だに口の悪さが残っている。

 

「最初から戦艦を5隻を含む大規模の艦隊を連れて来れば、いくらどうしようもない馬鹿でも理解できたはずだ。それをしなかったせいで……」

「いや、恐らくそれでも、あいつらが現実を直視するとは思えんな。どの道結果は変わらなかったはず」

「……」

「……」

 

 二人は再び沈黙するも、『大和』は『エンタープライズ』を見る。

 

「でだ、ちゃんと記録(・・)は出来ているな?」

「もちろん。解析は必要だが、少なくとも顔の割り出しは出来るはずだ」

「そうか。それを聞けて少なくとも安心だ」

 

 『エンタープライズ』よりそう聞き、『大和』の表情が少なからず和らぐ。何やらあの場で何かを同時に行っていたようだ。

 

 

「っ?」

 

 すると突然馬車が停車して、その勢いで二人は少し前のめりになる。

 

「何だ?」

「港に着くには早過ぎる……」

 

 突然のことに窓から外を見て一瞬疑問が浮かぶが、すぐに二人は警戒心を露にする。

 

「『エンタープライズ』」

「あぁ」

 

 二人は頷き合うと、『エンタープライズ』はコートの内側に手を入れて左脇にあるホルスターより傑作拳銃M1911を取り出し、マガジンを抜いて弾が入っているのを確認してマガジンを差し込み、スライドを引く。

 

 すると馬車の扉が外よりノックがされ、『大和』は『エンタープライズ』に目配りをして、扉を開ける。

 

「いやぁ、申し訳ないですな」

「どうしましたか?」

「それが、あんた達に話があるお方が居ましてね」

「話?」

 

 申し訳なさそうにしている男性より理由を聞き、『大和』は首を傾げて前を見る。

 

「お久しぶりですな、『大和』殿」

 

 そこには黒いローブに身を包み、フードを取っているカイオスの姿があった。

 

「……カイオス殿」

「その様子では、向こうで随分な目に遭ったようですな」

「……」

 

 カイオスの言葉に『大和』の表情が怒りに満ちていく。

 

「私が言っても薄っぺらいと思われるでしょうが、本当に申し訳無い」

「……」

「だが、勘違いしないで欲しい。誰もが争いを求めているわけじゃ無い。こうなってしまったのは、私としても後悔している。これは紛れも無い本心だ」

 

 後悔している、といったような雰囲気でカイオスはそう言うと、頭を下げる。しかし下に向けた表情は、計画通りに進んでいる現状にほくそ笑んでいる。

 

「……それで、一体何の用ですか」

 

 『大和』は警戒したまま、カイオスに問い掛ける。

 

「このままでは、我が皇国は滅びへの道に向かうだろう。だが、皇帝陛下とその配下たちはそれに気づくことなく突き進む」

「だろうな」

 

 カイオスの言葉に、『大和』は鼻を鳴らしつつ同意する。こうやって理解している輩が居ても、上が馬鹿であると下が常に苦労するのはどこの世界でも同じようだ。

 

「私は、そんな未来を避けたい。その為にも、あなた方と秘密裏に力を合わせたい」

「……一体何が目的だ?」

「それについてですが……もう時間がありません」

 

 カイオスは周囲を見渡し、そう告げる。いくら城と城下町の間の平原とは言えど、いつまでも馬車が止まっていては不自然極まりない。この場を誰かに見られれば、カイオス自身に疑いが掛けられる。そうなれば彼の計画に支障をきたしかねない。

 

「後ほど密かに連絡を取り合える算段を立てたいと思っているのですが……」

「……」

 

 『大和』はカイオスを見つつ一考し、しばらくして口を開く。

 

「……二日後辺りで自分の使いを夜中にそちらの屋敷に送ります。その時に通信手段を確立させます」

「分かりました。では、待っています」

 

 カイオスは安堵した様子で頭を下げると、男性に謝罪しつつ口止め料として金貨を13枚入れた袋を渡して足早に立ち去る。

 

「……信用できるのか『ヤマト』?」

「少なくともこの国の人間の中では、一応信用できる輩だ。奴の目的はどうあれ」

「……」

「兎に角……これから忙しくなるな」

 

 

 その後二人を乗せた馬車は港に着き、『第150号警備艦』に乗り込んでロデニウス連邦共和国への帰路に着く。

 

 

 そして『大和』は道中連絡を本国に入れ、民間人虐殺が行われたのが政府に伝えられる。

 

 

 

 




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竜の伝説編はやっておくべき?

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  • 別にやらなくても良いんじゃね?
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