異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第七十八話 第二次フェン沖海戦 肆

 

 

 

 パーパルディア皇国 揚陸船団

 

 

 

「……」

 

 上陸部隊の指揮官として任を担っているベルトランは、目の前に広がる光景に呆然と立ち尽くしていた。

 

 彼の視界いっぱいに、味方の揚陸艦が沈められて、あちこちから火の手と煙が上がっている。

 

(なぜ……なぜこうなったんだ……)

 

 ベルトランは眼前に広がる絶望的な光景を目の当たりにしながら、内心呟く。

 

 

 

 全ての始まりは後方に居る竜母艦隊が壊滅した報告からだった。

 

 前衛艦隊と揚陸船団に気付かれることなく、一番後ろに居た竜母艦隊が攻撃を受けた事実は、彼らに衝撃を与えた。

 

 そもそも魔導探知機に捉えられることなく艦隊に接近で来た事実が、彼らにとって不可解であった。ワイバーンが接近しているのなら、魔導探知機がワイバーンの魔力を捉えているのだから。

 だが、結果は竜母艦隊が攻撃を受け、壊滅している。

 

 信じたくなかったが、いくら通信を送っても竜母艦隊からの返事は無い。それは艦隊が壊滅したという事実に他ならない。

 

 更に前衛艦隊が攻撃を受けて、詳細を聞こうとしたものも、向こうは詳細を話せるような状況ではないようで、怒声が返って来るばかり。

 

 そして詳細を聞くことなく、前衛艦隊も通信が途絶え、いくら通信を送っても返事は返って来ない。

 

 誰もが信じられなかった、いや、信じたく無かったという方が正しいか。

 

 言ってしまえば、揚陸船団は最新鋭の竜母を伴う竜母艦隊と、最新鋭の戦列艦を伴う前衛艦隊のどちら共を壊滅させるような未知の敵がいる海域に孤立してしまったのだ。

 

 半ば現実逃避なものだが、そんな絶望的な状況に放り込まれたことを理解したくなかった。

 

 

 そんな中で、揚陸船団は『アーク・ロイヤル』『ヒョウリュウ』『エンリュウ』より飛び立った攻撃隊の攻撃を受ける。

 

 流星改二とA-1 スカイレイダーの急降下爆撃による先制攻撃。続いて戦爆の烈風改とF8F ベアキャットによるロケット弾の掃射。更に旋回してからの機銃掃射である。

 

 艦爆より放たれた爆弾は揚陸艦を兵士と地竜と呼ばれるリントヴルム諸共粉砕し、轟沈させる。直撃しなくても、至近弾で揚陸艦は側面を破壊され、破損個所から海水が流れ込んで沈んでいく。当然牽引式魔導砲や携帯式魔導砲、更にリントヴルムという重い物を運んでいるので、浸水速度は早く浸水被害に対処するまでも無く沈んでいった。

 

 戦爆より放たれたロケット弾は揚陸艦に着弾して炸裂し、船体を大きく抉る。船の上部に着弾すれば兵士やリントヴルムの被害はあれど、船は沈まないだろうが、オープントップな揚陸艦の上から内部に入り込み、床に着弾すれば、大きな穴が開くのは想像に難くない。ただでさえ重い地竜が重しになり、一気に海水が入り込んで揚陸艦は沈むことになる。

 

 そして機銃掃射となれば、彼らに防ぐ術は無い。ただでさえ烈風改は威力のあるHE(M)(薄殻榴弾)を使用している。ただの木製の揚陸艦となれば、HE(M)(薄殻榴弾)の着弾個所に大きな穴が開くので、そこから浸水する。一箇所なら兵士達が何とかすれば穴を塞げるかもしれないが、二列以上に複数の穴が開く以上、対処のしようがない。

 そうでなくたって、F8F ベアキャットは20mmの機関砲を有しており、弾薬がHE(M)(薄殻榴弾)でなくても威力自体はあるので、木造の揚陸艦に損害を与えることは出来る。

 

 更に爆弾の投下を終えた流星改二とA-1 スカイレイダーが翼内に搭載した20mm機関砲に加え、流星改二は後部機銃を用いて機銃掃射を行うのだ。

 

 彼らからすれば悪夢でしかない。

 

 無論彼らもただやられてばかりでは無い。無事である兵士達はマスケット銃を手にして攻撃隊に向けて発砲するが、最低でも500km/hの速度で飛ぶ航空機に命中率が低いヘロヘロ弾道の弾が当たるはずも無いし、仮に当たったとしても防弾が施された機体にまずダメージを与えることは出来ない。奇跡的にエンジン部に当たっても、異常を発生させるようなダメージは与えられない。

 

 彼らが勇敢に立ち向かったとしても、その反撃は徒労に終わる結果でしかないのだ。

 

 

 

 そして攻撃隊は弾薬の補給の為後退し、揚陸部隊はようやく猛攻から解放された。

 

 だが、彼らの受けたダメージは甚大であった。

 

 揚陸艦の半数以上が沈められ、死傷者は多数出ており、虎の子のリントヴルムも機銃掃射によって揚陸艦の中で息絶えている。そして揚陸部隊が連れて来たリントヴルムは全滅してしまった。

 だが、そのリントヴルムのお陰で弾が船底に到達しなかったので、船底に孔を開けられずに済んで沈まずにいられている有様だ。

 

 しかし、もはや部隊として機能できるかどうかも怪しいレベルの損害であった。

 

(どうする……どうすればいい……)

 

 ベルトランは頭を抱えてこの状況をどうにか打開できないか思案する。

 

 だが、どう考えてもこんな絶望的な状況を打開できるような策なんて浮かび上がるはずもない。ましても竜母艦隊と前衛艦隊が壊滅したとなれば、考えるだけ無駄と言える。

 

 そんな中、彼の脳裏にとある選択肢が浮かび上がる。

 

 

『降伏』と言う選択肢が……

 

 

(いや、駄目だ。それだけは。それだけは……!)

 

 彼は思わず首を振るって、『降伏』の選択肢を振り払う。

 

 皇帝陛下の関心が高い今回の戦いで敗北、ましても戦う前に降伏でもしようものなら、一族がどんな目に遭うか分からない。

 

 彼らには戦う以外に、選択肢は無いのだ。

 

 

「べ、ベルトラン様!!」

 

 すると揚陸艦の高台に居る兵士が大きな声を上げる。

 

「前方に艦影! で、デカい!?」

「っ!」

 

 怯えた様子で報告する兵士にベルトランは単眼鏡を伸ばして兵士が指差す方向を見る。

 

「っ!? あれは……」

 

 単眼鏡が見せた遠い景色に、彼は目を見開いて驚愕する。

 

 そこには島を思わせるほどの巨大な船が二隻、こちらに向かっていた。

 

「何て大きさだ……」

 

 残存している揚陸部隊に近づいて来る二隻の戦艦に、彼は声を震わせる。

 

「まるでムーの『ラ・カサミ』じゃないか。まさか、前衛艦隊は、あの二隻に……」

 

 そしてその船がムーの戦艦みたいな構造をしているのに気付き、彼は全てを察した。

 

 前衛艦隊はあの戦艦に、そして後方の竜母艦隊は先ほどの飛行機械にやられたのだと。

 

「更に左右後方にも敵艦隊!!」

 

 兵士の更なる報告に彼はとっさに左右と後方を見渡す。

 

 前方に居る戦艦二隻と比べて小さいように見えるが、それでも皇軍の戦列艦よりも大きな船体を持っている。

 

 前衛艦隊を壊滅させた艦隊は揚陸艦隊を囲うように展開し、前方に『ネルソン』と『ロドニー』が陣取り、側面に『ヤクモ』率いる水雷戦隊。更に揚陸船団の後方に大きく迂回した『名月』率いる別動隊が展開し、揚陸船団を包囲している。

 

「ベルトラン様! 我が部隊は敵艦隊に包囲されています!」

「……」

 

 と、ベルトランの傍にいたヨウシが状況を彼に伝える。

 

 艦隊による包囲。それが何を意味しているかを彼は瞬時に理解する。

 

(このままでは……)

「ベルトラン様! 早急に降伏してください! 敵艦隊からの攻撃が来る前に!」

「何!?」

 

 ベルトランが息を呑むと、ヨウシが降伏を進言し、彼は驚いて思わず声を上げる。

 

「貴様! 皇国軍人であろう者が降伏だと!? 自分が何を言っているのか分かっているのか! 腰抜けが!」

 

 と、ヨウシの進言に怒りを露にした参謀が声を荒げると、彼はキッ! と睨みつける。

 

「腰抜けで十分だ! こんな状況でどうしろっていうんだ! どうにか出来る策があるっていうなら言ってみろ! 無能が!」

「何だと!?」

「よさぬか!」

 

 参謀がヨウシの胸ぐらを掴むが、ベルトランが二人を離す。

 

「この状況で言い争っている場合か! 貴様もそのくらい分かるはずだ!」

「……」

 

 ベルトランに一喝され、参謀は黙り込む。

 

「話を続けろ」

「ハッ! 既に我が隊は上空支援の竜母艦隊とワイバーンロードと護衛及び支援砲撃の砲艦を失いました。陸上ならともかく、海上では我々に成す術はありません!」

「……」

 

 ヨウシの言葉に、ベルトランは何も言わず、辺りを見渡す。

 

 半分以上の揚陸艦を沈められ、部隊は半数以上を失った。その上海上となれば、上陸部隊に出来ることは無いに等しい。一応牽引式魔導砲や携帯式魔導砲による砲撃が揚陸艦でも出来ることは出来るが、戦列艦に搭載されている魔導砲と比べて射程は短いし、数だって少ない。

 

 それに比べて、敵艦隊は損失した戦力は無いように見えるし、その上飛行機械だってあるのだ。

 

 どう考えても彼らに勝ち目は無い。普通ならば降伏するべきなのだが、やはり皇国軍人としてのプライドがあってか、中々決心に至らない。

 

「だが、降伏したところで、敵が受け入れるかどうか」

「このままでは、いずれにせよ全員死にます! 諦めて死を待つより、僅かでも生き残る道を探るべきです!」

「……」

 

 ヨウシの言葉に、ベルトランは改めて周囲を見渡して、自分の答えを待っている将兵達を見る。

 

「……分かった。降伏しよう。降伏の合図を送れ! それと同時に武器を全て投棄しろ!」

 

 ベルトランは決心して周囲に向けて指示を出すと、兵士の一人が隊旗を逆さまに付け替えて左旋回に振り始める。

 

 これは第三文明圏における降伏の合図である。

 

 それと同時に兵士達は自分達が持っているマスケット銃や銃剣を海に捨て始め、他に魔導砲も次々に投棄する。

 

 指示は他の揚陸艦にも伝えられ、各艦でも武器の投棄が始まる。

 

 

 


 

 

 

 所変わり、戦艦『ネルソン』

 

 前衛艦隊を全滅させた二隻の戦艦は生き残った揚陸船団に止めを刺すべく、前進していた。

 

『間もなく、有効射程圏内です』

 

 レーダー室よりスピーカー越しに報告が入り、ネルソンは頷く。

 

「取り舵10。砲撃用意」

 

 彼女の指示で艦体はゆっくりと左へ浅く針路を変え、艦前部に集中している主砲三基が揚陸船団へと向く。

 

 同時に『ネルソン』の後ろに居る『ロドニー』も彼女に続き、主砲を揚陸船団へと向ける。

 

『照準良し! 主砲発射準備良し!』

 

 そして砲術長より発射準備完了の報告が入り、『ネルソン』は息を吸う。

 

「撃―――」

『敵船団に動きあり! 旗を振っています!』

 

 彼女が砲撃の号令を掛けようとした瞬間、監視員からの報告が入って号令を中断する。

 

「旗?」 

 

 怪訝な表情を浮かべつつ、彼女は目を細めて船団を見る。

 

 望遠鏡を覗いたように彼女の視界は拡大されていき、敵揚陸船団を捉える。

 

 半ば壊滅状態の揚陸船団の中の一隻の揚陸艦より、旗が振られている。

 

「何をやっているの……」

『降伏の合図、でしょうか?』

「降伏ね……」

 

 『ロドニー』の言葉に、『ネルソン』は声を漏らす。

 

 本来なら分かりやすく白旗を振ってくれればすぐに判別が付くのだが、軍旗のような旗を振っているだけでは、それが降伏の合図とは考えづらい。そもそも彼女達は第三文明圏の降伏の合図を知らないのだ。

 

(旗が逆さまのようにも見えるけど……降伏かどうかは……)

 

 『ネルソン』は内心呟き、本当に降伏をする為の合図なのか決めかねていた。

 

(こういう時……あいつ(紀伊)はどうするつもりなのかしら)

 

 ふと『紀伊』のことが思い浮かんでパッと考えてしまい、彼女はハッとして首を振るう。

 

(い、今はあいつのことは関係無いじゃない! 居ないやつのことなんて考えたってどうしようも無いわよ!)

 

 何やら慌てた様子で内心言葉を並べていくが、その顔は彼女が着ている赤いコートのよう赤くなっている。

 

 尚その様子を『ロドニー』にばっちりと見られてしまい、その表情はニヤニヤとしていた。

 

 思考が乱れているのもあって、中々敵の行動に判別が付かない中、『ネルソン』が見ている中で更に船団に動きがあった。

 

『敵が武器を海に投棄しています! 銃と剣を含め、大砲も投棄しているようです!』

 

 監視員もまたその動きを捉えて『ネルソン』に報告し、彼女もそれを見て確認している。

 

『どうやら、あの逆さまの旗を振るう行為は降伏の意思がある、ということみたいですね』

「そのようね」

 

 さっきまでの慌てようはどこへやら。『ネルソン』は一考してすぐに指示を出す。

 

「各艦は周囲を警戒。『ヤクモ』と『フォックスハウンド』は船団に接触して話を聞いてきて頂戴。本当に降伏するのなら、彼らを誘導する必要があるわ」

『了解!』

 

 彼女の指示に、各々が行動を起こし、『ヤクモ』と『フォックスハウンド』が隊列を離れて揚陸船団へ向かう。

 

「……」

 

 その様子を眺めながら、『ネルソン』は腕を組んで状況の推移を見守る。

 

 


 

 

「……」

 

 ベルトランは冷や汗を掻き、息を呑んで向こうの出方を見守る。周囲でも参謀や兵士達も黙ってただその時を待っている。

 

 自分達が包囲されているという絶望的な状況に変わりはない。ここから攻撃されれば、一瞬で船団は全滅するだろう。

 

 降伏の意思は見せた。後は向こう次第である。

 

「ロデニウスは……果たして受け入れてくれるのでしょうか?」

「分からん。武器の投棄までして降伏の意思を見せたのだ。後は向こう次第だ」

「……」

 

 不安な表情を浮かべる部下にそう言って、彼はロデニウスの軍艦を見つめる。

 

 

「……攻撃は、無いですね」

「……」

 

 しばらく待っていても、ロデニウス側からの攻撃は無い。

 

「っ! 6時の方向の敵艦隊から船が二隻離れてこちらに向かってきます!」

 

 監視員の報告で誰もが報告にあった方向を見ると、艦隊から二隻の軍艦が離れてこちらに向かって接近している。

 

「……どうやら、降伏を受け入れてくれるそうだな」

「えぇ。ですが―――」

「あぁ。まだ安心はできない」

 

 ベルトランは安堵の息を吐くが、ヨウシの言葉に気を引き締める。

 

 降伏した後、捕虜として身柄を拘束された後に何も無いとは言い切れない。捕虜に対して暴行なんて皇軍ではよく聞く話だから。

 

「皆の者。武器は全て捨てているな? 例え家宝ともいえる短剣であっても捨てるのだぞ。武器を持っていれば反抗の意思があるとみなされかねない」

 

 彼が辺りを見回して確認すると、一部の兵士が戸惑った様子を見せる。

 

「気持ちは分かるが、ここでロデニウスの機嫌を損ねるわけにはいかない。わざわざ助かる命を捨てるような真似をするな」

 

 と、彼は腰から家宝の豪華な意匠が施された短剣を鞘ごと抜き、海に放り投げた。

 

 その行為に戸惑っていた者達は驚くが、自分達もまたベルトラン同様に捨てるのに躊躇っていた家宝の短剣を手にして、海に捨てる。

 

 

 やがて船団に接近していた軍艦の姿を、ベルトラン達は捉える。

 

「大きいな」

 

 単眼鏡を覗き込むベルトランは、拡大された視界に映る軍艦こと『ヤクモ』と『フォックスハウンド』を見て声を漏らす。

 

 前に居る『ヤクモ』もそうだが、後ろに居る『フォックスハウンド』ですら皇軍の戦列艦や竜母よりも大きいのだから。そうなれば前方に居る『ネルソン』と『ロドニー』は更に大きいのは言うまでもない。

 

「これほどの船を……蛮族……いや、ロデニウスはどうやってムーより軍艦を手に入れたのでしょうか?」

「いや、ムーでもこれほどの軍艦は無いだろう。前に居る軍艦はムーの『ラ・カサミ』よりも大きいし、作りが違う」

「まさか。文明圏外の国でこれほどの物を作れるはずが」

「私も信じ難いが、目の前に現物がある以上信じるしかあるまい。そして前衛艦隊と竜母艦隊が壊滅した現実も含めればな」

「……」

 

 ベルトランは『ヤクモ』を見てロデニウスの軍艦がムーの物ではないと察する。部下の何人かは信じられないと驚いていたものも、『ヤクモ』や他の軍艦、そして前衛艦隊と竜母艦隊の壊滅という現実に認めざるを得ない。

 

「そしてさっきの飛行機械もロデニウスの物だろう。ロデニウスは、ムーに匹敵、いや、それ以上の国であるのは、間違いない」

『……』

 

 彼の言葉に全員が暗い表情を浮かべる。

 

 そうこう話している内に、軍艦二隻はその姿をある程度確認出来るまで船団の近くに近づいている。

 

「さぁ、行くとするか。最後まで皇国軍人らしく、胸を張って行こうじゃないか」

『ハッ!』

 

 ベルトランは帽子を被り直し、周りにそう言うと部下達は姿勢を正して一斉に返事をする。

 

(あとはちゃんと私が説明して部下達の安全を確保しなければ)

 

 彼は深呼吸をして目を瞑り、気持ちを落ち着かせる。

 

 交渉次第では、自分達の扱いが変わって来るはずである。ならば慎重に事を運ばなければ、どうなるかは目に見えている。

 

 

 

 ―ッ!!

 

 

 

 すると突然炸裂音が響き渡る。

 

「っ!?」

 

 その聞き慣れている炸裂音に、彼は顔面蒼白になって目を見開く。

 

 すると『ヤクモ』の近くで水柱が上がる。

 

「今のは……」

 

 あってはならないことが起きて彼は声を震わせると、更に炸裂音が起こる。

 

 音がした方を見ると、他の揚陸艦から魔導砲による発砲煙が出ていた。そして更に『ヤクモ』の周囲にいくつもの水柱が上がる。

 

「っ! 馬鹿者!! 何をやっている!? やめろぉっ!! やめろと言っている!!」

 

 ベルトランはあらん限りに大声を上げて砲撃を止めさせようとするが、砲撃は止むどころかどんどんその数を増やしている。

 

「すぐに魔導通信でやめさせろ!!」

 

 彼はすぐに指示を出し、砲撃を止めさせようとする。

 

 

 ベルトランは降伏の決意を固めて、覚悟を決めていたが、当然部隊の中には降伏の判断に不服な者も居た。蛮族に降伏したくないという皇国至高主義者特有のプライドの高さもあるが、それはプライドの高さから降伏する判断が不服というわけではなく、捕虜になった後の恐れがあったからだ。

 

 これまで自分達がやって来た事の自覚があるからこそ、降伏した後捕虜になっても、拷問の毎日があり、どの道殺されるだけだと、そう考えているのだ。実際自分達も同じことをして来たのだから。

 

 ならばどうせ殺されるくらいなら、敵に一矢報いて死んだ方がマシだと、そう考えてベルトランの指示を無視して牽引式魔導砲を投棄せずに砲撃出来るように、密かに準備をしていた。

 

 そして『ヤクモ』と『フォックスハウンド』が射程に入った瞬間、砲撃を開始したのだ。魔導通信機よりベルトランから砲撃中止の指示が来ても、彼らは無視して砲撃を続けた。

 

 

 

 そして砲撃を受けている『ヤクモ』では混乱が広がっていた。

 

「て、敵船団が砲撃を!?」

「っ!?」

 

 艦橋では轟音が響き、窓に舞い上げられた水柱より海水が被る中、ブルーアイが驚愕の表情を浮かべる。

 

「馬鹿な!? 降伏の意思を見せておきながら、攻撃して来たのか!?」

「奴ら、最初から騙し討ちをする為に降伏するふりをしていたんだ!」

「なんて卑怯な!!」

 

 艦橋要員達が騙し討ちをしてきた皇軍に怒りを露にして各々声を上げる。

 

「艦長!」

「分かっている! 右回頭120度! 左舷k―――」

 

 ブルーアイはすぐに反撃を命令するが、直後に『ヤクモ』全体が衝撃で揺れる。

 

「っ!? 今のは!?」

『右舷機関砲群に直撃弾! 負傷者多数!!』

「なっ!?」

 

 すぐさま衝撃の原因が報告され、ブルーアイが艦橋の窓に駈け寄ると、右舷の機関砲群から黒煙が上がっている。

 

 

『「名月」君! 「ヤクモ」が!』

「っ!」

 

 『春月』の言葉に『名月』は『ヤクモ』を見ると、黒煙を上げている『ヤクモ』を見つける。更に『フォックスハウンド』の周囲に水柱が上がる。

 

『敵は降伏したんじゃないの!?』

『最初から騙し討ちをする為に……』

 

 『涼月』と『宵月』が戸惑う中、『名月』は歯軋りを立てて犬歯を抜き出しにする。

 

「すぐに『ヤクモ』と『フォックスハウンド』の離脱の援護だ! 行くぞ!」

『了解!』

 

 『名月』達はすぐに『ヤクモ』と『フォックスハウンド』の離脱を掩護する為に揚陸船団へ向かう。

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!!」

「いでぇ、いでぇよぉぉ……」

「ゴフッ」

「うぁ……」

 

 砲弾が直撃した場所は血の海と化して負傷者が呻き声を上げており、地獄絵図の阿鼻叫喚となっていた。

 

「くそっ! 衛生兵!! 衛生兵!!」

「おい! しっかりしろ!!」

「大丈夫だ! 傷は浅いぞ!」

 

 無事な機関砲要員達が負傷者達を移動させてたり、衛生兵達が来るまで応急処置をしたり、死なないように負傷者の気を持たせたりしている。

 

「班長……死にたく、死にたくないよぉ」

「大丈夫だ。すぐに良くなる! しっかり気を保て!」

 

 手足が千切れ飛んで腹が抉れている機関砲要員に、班長が声を掛けて気を保たせている。

 

「畜生!! あのクソ野郎共がぁ!!」

 

 負傷者を運んだ機関砲要員が憎しみが籠った眼で皇軍の揚陸船団を睨みつける。

 

 

『右舷二番、四番機関砲損傷! 死傷者多数!』

 

 艦橋に報告が入り、ブルーアイはギリッと歯軋りを立てる。

 

「右回頭120度! 最大船速で離脱! 左舷機銃、機関砲、高角砲は応戦せよ!!」

 

 彼はすぐに指示を出し、左舷にある零式機銃、九四式四〇ミリ機関砲、長10cm連装高角砲が皇軍の揚陸船団に向けられ、一斉に火を噴く。

 

 遅れて『フォックスハウンド』も主砲と機銃、機関砲を揚陸船団に向けて発砲を開始する。

 

 砲弾と銃弾の雨が揚陸船団に襲い掛かり、装甲なんて無いに等しい揚陸艦は銃弾が貫通して兵士たちを粉砕し、砲弾は直撃して炸裂し、船を粉砕する。

 残った揚陸艦は負けじと牽引式魔導砲を放って反撃する。

 

 

 

『敵揚陸船団が攻撃を開始! 「ヤクモ」に直撃し、死傷者多数!』

 

 『ヤクモ』から報告が入り、『ネルソン』の艦橋で動揺が走る。 

 

『そんな!? 降伏の意思を見せたのに!?』

 

 『ロドニー』も驚きを隠せず、声を上げる。

 

「……」

 

 『ネルソン』は身体を震わせ、左手を握り締める。

 

「クソッタレッ!!!」

 

 そして彼女は悪態をつきながら握り締めた左手を鉄製のテーブルに叩き付ける。大きな音と共に、鉄製のテーブルの表面が彼女の拳の型に凹む。

 

 その様子に周りに居る妖精達が青褪めながら震え上がる。

 

「……降伏の意思を見せながら、騙し討ちなんてね。随分と舐めた真似をしてくれるわね」

 

 歯が砕けんばかりに歯噛みする彼女は、憤怒の色に染まった瞳を皇軍の揚陸船団に向ける。

 

「野蛮人め」

『……』

 

 憎しみの籠った声を漏らす自身の姉に『ロドニー』は何も言えなかった。

 

 

『「ヤクモ」「フォックスハウンド」、「名月」「涼月」「宵月」「春月」の援護を受けて離脱を確認。「フォックスハウンド」至近弾を受けるも被害微小。「ヤクモ」機関砲の一部を損傷。死傷者多数。更に人数は増える恐れあり』

「……」

 

 やがて報告が入り、無表情の『ネルソン』は頷くことも無く黙って報告を聞く。

 

「『ロドニー』」

『……はい』

「砲撃を再開。各艦にも伝達」

『姉さん』

「尚、敵が降伏行動を起こしても、全て(・・)無視しなさい」

『それは!』

「これ以上、敵の騙し討ちで被害は出せないわ」

『……』

「それに、降伏を偽るような卑怯者に情けを掛ける理由は無いわ」

 

 あまりにも無慈悲な姉の命令に『ロドニー』は異を唱えようとするも、『ネルソン』の言葉に何も言えなかった。

 

 本当なら敵側の一部の暴走によるものだが、彼女達にそれを知る術は無い。

 

『……分かりました』

 

 『ロドニー』は間を置いてから了承し、主砲の砲身の仰角が上げられる。

 

 『ネルソン』もまた各主砲の砲身の角度を調整し、いつでも撃てるようにする。

 

「素直に降伏していれば、助かった命なのに。愚かなことを」

 

 冷え切って目で揚陸船団を見つめなら呟くと、『ネルソン』は間を置いて口を開く。

 

「全門斉射!!」

 

 そして彼女の号令と共に、ネルソン級戦艦では控えるべき全門斉射が行われ、『ネルソン』の三基九門の16インチ砲が一斉に轟音と共に業火を放つ。

 同時に『ロドニー』も同じく全門斉射が行われた。

 

 

 放たれた計18発の16インチ砲弾が飛翔し、揚陸船団へと殺到して巨大な水柱をいくつも上げる。

 

 巻き込まれた揚陸艦は兵士諸共粉々に粉砕されて海の藻屑と化す。

 

「っ! ベルトラン様! 再度降伏の合図を!」

 

 轟音と巨大な水柱にヨウシはよろけながらもベルトランに意見具申するも、彼は諦めた様子でヨウシを見る。

 

「何を言っている? 我々は降伏の意思を見せておきながら、騙し討ちをしたではないか。受け入れられるわけがないだろう」

「それは……一部の者達の勝手な行いで―――」

「それをロデニウスが聞き入れてくれるとでも言うのか?」

「……」

「もう遅い。何もかも……遅かったんだ」

 

 ベルトランは顔を上げると、彼の目に一瞬こちらに向かって落下してくる砲弾が見えて、その直後彼が乗っている揚陸艦に砲弾が着弾し、炸裂して彼らは塵も残らずに粉々になってこの世から消滅した。

 

 

 そして他の軍艦、KAN-SEN達の砲撃も加わり、皇軍の揚陸船団は誰一人生存者を残すことなく全滅した。

 

 

 だが、この戦いによってパーパルディア皇国への憎しみが深まってしまい、後々この憎しみによって多くの問題が起きることになってしまうのだが、それは後に語られるだろう。

 

 




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