異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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アズールレーン5周年にて大和型戦艦が遂に実装されましたね。
実装された二番艦『武蔵』ですが、いつか本作にも出したいですね(一番艦だったら出しやすかったんだけど)

では、本編をどうぞ


第七十九話 今後と懸念と疑念

 

 

 

 

 中央歴1640年 1月22日 ロデニウス連邦共和国 トラック泊地

 

 

 

「パーパルディア皇国の侵攻部隊の壊滅。フェン王国の防衛は成功。しかし被害皆無とまではいかなかったか」

「……」

「まさか降伏の意思を見せておいて騙し討ちをするとはな。列強国と言われながら、この程度のモラルしか持ち合わせていないか」

「そのようだな」

 

 執務室で『大和』が険しい表情を浮かべ、『紀伊』も呆れた様子で声を漏らす。

 

「……戦争に卑怯もラッキョウ、じゃなかった。綺麗も汚いもないってか」

「今まで自分達が頂点だと勘違いしてきたやつらだ。何したって許されると思っていたんだろう。というかそれ二代目の台詞か。懐かしいな」

 

 今回の皇国の行動はロデニウス側の頭を悩ます結果であり、どう対処するか悩んでいた。今後同じことをやられたら、どう判断するべきか困難だからだ。これでは対処のしようが無い。

 本当は皇軍側で無駄にプライドの高い人間の身勝手な行為だったのだが、今となってはロデニウス側にそれを知る術は無い。

 

 しかしこの二人。果たして人間だった頃はどんな人間だったのだろうか。

 

「……『ヤクモ』は機関砲三基を破損。現在本土のドックに入渠する為に『時雨』と同様に損傷した『フォックスハウンド』の護衛を伴い帰還中。現在までに戦死者7名。重軽傷者合わせて18名。戦死者は更に増える可能性あり。軽くは無いな」

「さて、どうしたものか」

 

 今回の戦闘で受けた被害報告を確認して、二人は悩むように静かに唸る。

 

「今後皇国が同じ手を使ってくる可能性が高い以上、対策を練らないと被害が続出するな」

「だが、この手の問題は対策のしようがない。相手の心を読めるなら話は別だがな」

「それが出来れば苦労はしない。それに、降伏したフリもそうだが、便衣兵みたいなことをやられたらもっと厄介だ。そうなったらもはや民間人諸共攻撃せざるをえなくなる」

「確かにな。まぁ、いくら皇国でもそこまではしないだろう。無駄にプライドが高い連中なのだから」

「だと良いんだがな」

 

 互いに苦虫を噛んだような表情になり、今後の戦闘で起こりうることに頭を悩ませる。

 

 今後皇国との戦いで脅威になるのはその無駄に多い戦力ではなく、降伏したフリをして不意打ちをする事と、何より民間人に扮して奇襲を仕掛ける便衣兵の存在である。

 

 便衣兵とは簡単に言えば民間人に扮した兵士の事である。兵士が民間人に偽装して、油断した所を敵兵に不意打ちをするのだ。

 

 これで便衣兵を殺害すれば、民間人も殺害した、と言われる始末。こんなことを言われればたまったものではない。

 

 事実、いくつもの戦争でこの便衣兵による問題は多いし、それによって余計な問題も起こしている。

 

 

 尤も、一度でも武器を持って攻撃している時点で本当の民間人であったとしても、ただの民間人なんて言い訳なんて出来るわけがないのだが。

 

 

「まぁ、その辺のことはその時次第で追々対応するしかない。今考えたって限りがある」

「そりゃそうか」

 

 『紀伊』は肩を竦めると、頭の後ろを尻尾の先で掻く。

 

「で、さっきのオンライン会議で、大統領は何て言っていたんだ?」

「『覚悟は決めました』だそうだ」

「そうか」

 

 『大和』の口から伝えられたカナタ大統領の言葉に、『紀伊』はその心中を察する。

 

 少し前に『大和』はオンラインにてカナタ大統領と閣僚達と今後について会議を行っていた。

 

 その時カナタ大統領は彼にそう伝えた。

 

「皇国がこのロデニウス大陸に目を付けていると知ってから、少しずつ気持ちを固め、第一次フェン沖海戦にて覚悟を決め、第二次フェン沖海戦で気持ちを表明したそうだ」

「……」

「こうなった以上、こちらから打って出るそうだ。どの道話し合いで解決できない相手に何もしなければ、解決の目途は立たないし、余計に状況を悪化させるだけだ」

「まぁ、そうなるか」

 

 『紀伊』は呟くと、ため息を付く。

 

「と、なると、近い内にアルタラス島に?」

「あぁ。既に該当KAN-SEN達に召集を掛けている。近い内に俺を含めてアルタラス島に集合する予定だ」

「そうか。後は向こうの動き次第、ということか」

 

「そうだな」と『大和』は呟く。

 

「それで、例の作戦はどうなっている?」

「密かに必要な物資と人員を運び込んで、準備は整っている。後はタイミングを待つばかりで、予定では明日だって話だ」

「そうか」

 

 『紀伊』の返事に満足してか、『大和』は椅子の背もたれにもたれかかる。

 

「で、指揮は結局誰になったんだ? 『クリーブランド』か?」

「それなんだが……」

 

 と、歯切れの悪い『紀伊』に『大和』は眉を顰める。

 

「部隊の指揮は北連のあいつだ」

「……あいつで大丈夫なのか?」

「まぁ、指揮能力は大丈夫だし、何とかなるだろう。前線は『クリーブランド』が指揮するみたいだし」

「そうか」

 

 『大和』は不安な表情を浮かべつつ腕を組み、脳裏にそのKAN-SENを思い浮かべる。

 

 

 トラック泊地では、データ取得の為、妖精達によって量産した疑似メンタルキューブでKAN-SENの建造を行っており、その戦力は充実してきている。

 

 特に以前から悩まさせていた駆逐艦と巡洋艦の不足も今回の大量建造で解消の傾向になっている。しかし同時にまた戦艦と空母も増えているという。

 

 ちなみにそのKAN-SEN達はやはり疑似メンタルキューブによる建造が原因か、それとも他に要因があるのかは不明だが、『大和』や『紀伊』がいた世界線の『大戦』の『カンレキ』を有している個体が多かったという。

 

 で、その建造したKAN-SENの中の一人が今回とある作戦の指揮を行うことになったという。

 

 

「不安があるとすれば部隊が軍事作戦向けじゃないぐらいか。向こうの戦力は少ないと言っても、腐っても正規軍だからな」

「まぁ、KAN-SENの同行もあるから、戦力としては問題ないだろう。それに対策だって万全にしているからな」

「そりゃそうだが……」

「とりあえず、俺達に出来るのは、うまくいくのを祈るだけだ」

「……あぁ」

 

 『大和』はため息を付き、「じゃぁ、また後でな」と『紀伊』は一言声を掛けてから執務室を出る。

 

「……」

 

 『紀伊』が出て行った後、『大和』は椅子から立ち上がり、窓から外の景色を眺める。

 

(明日は必ず成功させないとな。連中に落とし前を付けて貰う為にも、ケジメをつける為にもな)

 

 彼は内心呟き、踵を返して執務室を後にする。

 

 

 


 

 

 

 所変わり、ロデニウス大陸。クワ・トイネ州の一角にある捕虜の収容所

 

 

 収容所のフェンスに囲まれた広場には、休憩時間を各々で過ごしている人達の姿がある。

 

「この暮らしも、悪くは無いな」

 

 そんな中で、パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊の提督、ポクトアールは椅子に座り、紙コップに淹れたお茶を一口飲んでから呟く。

 

 

 第一次フェン沖海戦にて一方的に攻撃され、壊滅した艦隊の中で、生存したポクトアールと乗員達は捕虜として捕らえられ、捕虜の収容所へと移送された。

 

 当初は捕虜になったことで劣悪な環境に放り込まれ、職員たちの捕虜に対して拷問や体罰など、捕虜に対する扱いが悪いのを知っていたので、彼らはこの先に起こることに不安を覚えていた。

 

 しかし彼らの予想は、良い意味で裏切られた。

 

 収容所は清潔に保たれて、空調が効いている快適な環境であり、職員たちは捕虜に対して優しく接しており、誰一人捕虜である自分達に対して暴力を振るうことは無い。まぁ激しく抵抗した者はさすがに力で押さえつけられていたが。

 

 

「そうですね、提督。ここは本当に快適ですね。労働環境だって、誰も無理強いしませんし」

 

 と、ポクトアールの呟きに彼が座乗していた戦列艦の艦長が答える。

 

「それに食事だってとても美味しく、種類が豊富ですからね。労働だって農業が中心ですが、休憩時間はあるし、働いた分だけちゃんと報酬もありますし、至れり尽くせりですね」

「あぁ。これが我が国なら劣悪な環境で強制労働させられているからな。その上捕虜に対する体罰に拷問、ロクに食事も無い」

「これでは、どちらが蛮族か分からなくなりますね」

 

 艦長の言葉に、ポクトアールは頷く。

 

 ロデニウス連邦共和国では、捕虜はただ時間を過ごしているわけでは無く、日中は労働に勤しんでいる。労働は合間に休憩を挟み、決まった時間内で行われ、残業は無い。かなりホワイトな労働環境である。

 

 労働は主に農業であり、彼らが育てた野菜や食用の動物は収容所の料理に用いられている。大地の神の祝福によって野菜や穀物が勝手に良質に育ち、その野菜や穀物を食べて育つ食用の動物たちと、クワ・トイネ州では基本的に食糧が不足することは無いのだが、それでも捕虜たちの食糧確保に加え、労働をさせる為に農業に勤しませている。

 

 そして捕虜たちは労働によって給料を貰っており、電子マネーなポイントで収容所にあるお店で物の購入が可能になっている。そしてこのポイントはもしこの国に住むというのなら、釈放後電子マネーとして提供される。

 

「どうも」

 

 と、彼らの元に車椅子に座った男性が近づいて挨拶をする。

 

「これはレクマイア殿ではありませんか」

 

 ポクトアールは車椅子に座った男性ことレクマイアに挨拶を返す。

 

 

 フェン王国への懲罰攻撃に参加したワイバーンロード部隊の中で、唯一の生存者であるレクマイアもまた捕虜としてロデニウスに身柄を確保されていた。

 

 しかし相棒のワイバーンロードが撃ち落とされて墜落した際に、身体を強く海面に打ち付けてしまうものの、相棒のワイバーンロードの亡骸がクッション代わりになって衝突時の衝撃を和らげられて、彼の命は助かった。

 だが、亡骸からはみ出ていた両脚はその衝撃によって骨が数箇所折れる重傷を負ってしまい、彼は車椅子生活を余儀なくされてしまった。

 

 なので、彼は他の捕虜たちと違い、車椅子に座ったままでも出来る仕事をしている。

 

 

「しかし車椅子で生活は不便そうですな」

「えぇ。最初は不便と感じていましたが、寝たきりよりかはマシですね」

「確かに、自らの意思で動けるだけでもマシですな」

 

 ポクトアールにそう言われて、レクマイアは石膏で固定された両脚を見る。

 

「ですが、来月にはリハビリが開始されるので、いずれ自分の脚で歩けるようになるそうです」

「おぉ、そうですか。それは吉報ですな」

 

 彼の言葉に、ポクトアールは微笑みを浮かべる。レクマイアもそれにつられて口角を上げる。

 

「……ポクトアール殿。今朝の新聞は見ましたか?」

 

 レクマイアは真剣な表情を浮かべて問い掛けると、ポクトアールも微笑みを消して真剣な表情を浮かべる。

 

「えぇ。見ました。フェン王国へ侵攻しようとした皇軍の艦隊をロデニウスの艦隊が迎え撃ち、壊滅した報ですな」

「はい。此度の件で、皇国はどうするのでしょうか?」

「……」

 

 ポクトアールは一考し、口を開く。

 

「恐らくは……いや、必ず我が皇国はロデニウスに対して戦争を仕掛けるだろうな」

「やはり、提督もそう考えますか」

「上層部の連中は自分達に泥を塗られた、としか考えないだろう。それでいつものように泥を塗った国に宣戦布告をする。いや、それで済めば良い方だろうな」

「やはり……殲滅戦を宣言すると?」

「ありうる話だ」

 

 ポクトアールの言葉に、二人は息を呑む。

 

「もしそうなれば……皇国は滅びの運命を迎えることになるかもしれない」

「それは……」

 

 レクマイアが何か言おうとした瞬間、遠くから少し甲高い警笛が聞こえてくる。

 

 彼らが音がした方を見ると、収容所より離れた線路に『DF51形ディーゼル機関車』が二輌重連で牽引する貨物列車が走って来た。

 

 貨車には戦車や装甲車、自走砲、その他色々な兵器や弾薬が積み込まれており、港に向かっている。

 

「ここ最近軍事物資と思われる物を運んでいる長い貨物列車が行き来していますね」

「恐らくロデニウスも戦争の準備をしているのだろうな。皇国が講和に応じるわけが無い」

「……」

「もしも、皇国が殲滅戦を宣言すれば、逆に滅ぼされることになる」

 

 ポクトアールの言葉に、誰もが意気消沈する。あれだけの戦力を目の当たりにすると、どう考えても祖国が勝てるとは思えない。

 

「皇国は、どうなるのでしょうか?」

「分からん。ただ言えることは、我々が出来ることは祖国が滅びの道に歩まない事を祈っているだけだ」

「……」

 

 彼は空を見上げながらそう告げると、艦長とレクマイアも空を見上げて目を細める。

 

 

 果たして彼らの祈りは通じるのか。

 

 

 それとも……

 

 

 


 

 

 

 時系列は少し遡り、場所はパーパルディア皇国。

 

 

 第1外務局の局長の執務室では、今後のロデニウスに対する措置について、局長のエルトに、皇族のレミール、皇軍最高司令官のアルデを加えて話し合いが行われていた。

 

 通常であれば、文明圏外の一国家程度に軍の最高指揮官や皇族が介入するはずないのだが、本件は皇帝陛下の関心も高く、失敗は許されない為、皇国幹部も慎重を期していた。

 

 エルトが皇軍の定時連絡の報告書を読みながら発言する。

 

「まもなくフェン王国へ向かった派遣軍が王国へ上陸し、作戦を展開する頃ですね」

「そうか。アルデよ。此度の戦、まさか皇軍が敗北するようなことはあるまいな?」

「ご心配ありません、レミール様。以前の監察軍とは比べ物にならない戦力を送り込んでおります。その上艦隊には最新鋭の戦列艦と竜母も投入しております。例えフェン王国がロデニウスと手を組んでいようと、負けるようなことなど万に一つもございません」

「そうか。フェン王国を落としたらしばらく休ませてやれ。次にはロデニウスを落とすのだからな」

「ありがとうございます」

 

 アルデがレミールに頭を下げる。

 

 エルトはふと思い出したように報告書を置いて、レミールに尋ねる。

 

「しかし、レミール様。本当にシオス王国に居たロデニウスの民を処刑してもよろしかったのですか?」

「よい。蛮族はしっかりと教育しなければ分からんようだからな。シオス王国で捕らえたロデニウスの民はまだ残っているな?」

「えぇ。まだまだ残っております」

「そうか。この間は楽に殺し過ぎた。アルデよ、今度はもう少し苦しむように工夫しろ。殺さぬ程度で、好きに扱え」

「承知しました」

「で、その後は―――」

 

 コンコン

 

 扉がノックされ、エルトが入室は促す。

 

「どうぞ」

「し、失礼します!」

 

 扉が開かれると、彼女の部下のハンスが汗まみれで入室してきた。

 

 顔色の悪い彼を見て、三人は顔をしかめる。

 

「どうしましたか?」

「本会合に関係ある内容でしたので、会議中失礼とは思いましたが、文書をお持ちしました」

 

 ハンスはエルトに文書を差し出し、一歩下がる。

 

『緊急調査報告書』と題された、5枚程度の簡単な報告書。エルトはレミールとの間にある机の上に、彼女に見やすいように広げた。

 

「ムーがフェン王国の戦いに関し、ロデニウス側に観戦武官を派遣した件について、ムー大使に事実確認と意図を調査した結果の報告書になります」

 

 事前に知っていたエルトとレミールは「来たか」と反応し、アルデは怪訝な表情を浮かべる。

 

 これはエルト、レミール、ハンスだけが知る、最高機密の懸案事項である。アルデもこの会議に先立って聞かされた程度で、ルディアスさえもこの事実を知らない。

 

 エルトとレミールは、もしかすると、ロデニウスはムーでさえ注目するほどの新魔法を持っているのではないか、といった説も考えていた。だからこそ、観戦武官の戦死を覚悟してでもロデニウスに派遣したと。

 

 しかしそうだとすれば、生存率が高いはずの皇国側に誰一人派遣して来ないのは奇妙なので、皇帝には極秘でハンスに確認に行かせたのだ。

 

「結論から申し上げると、ムーはフェン王国での戦いはロデニウスが勝つと判断しています」

「なっ―――」

「何ぃっ!?」

 

 声を上げようとしたエルトの声を遮り、レミールが声を上げる。

 

 重苦しい沈黙が、執務室を支配する。

 

「まさか……」

 

 その沈黙を破ったのは、アルデだった。その声にエルトとレミールが顔を向ける。

 

「もしかすると―――これは仮説ですが、ロデニウスは元々皇国と全面戦争をするつもりだったのでは?」

「最初から……軍祭以前からか?」

 

 レミールの問いに、アルデが頷く。

 

「艦船数千隻、そして10万を超える陸戦力が既に準備済みだったのでは。フェン王国の軍祭の日に、監察軍が来ることも想定済みだったのでしょう。軍では、ロデニウスには砲艦があると分析しています。つまり技術水準は文明圏国家並みで、圏外国家としては突出して高いと思われます」

「なるほど、監察軍が敗れたのも当然という事か。戦略予想能力が極めて高いというのであれば、ムーが注目するのは納得出来る」

 

 アルデでの述べた仮説に、レミールは納得した様子で頷く。

 

「我が国に劣るとは言え、数千隻の砲艦が相手では、今回の派遣軍だけでは少々荷が重いかもしれません。何より砲弾が不足してしまう。いくらリントヴルムがいるとはいえ、陸戦隊も三千のみですし、敵の陸軍が五万を超えれば押し切られてしまう」

「だとすると、皇軍は敗れるのですか?」

 

 いつも毅然としているエルトが、珍しく不安そうな表情を浮かべる。

 

 しかしアルデは不敵に笑い、椅子の背もたれに背を預けて悠々と答える。

 

「エルト様、ご安心ください。あくまでも『このまま継続して戦うと、砲弾が不足するかもしれない』というだけの話です。数千隻の船が電撃作戦を行うのは不可能ですし、快速の『風神の涙』があれば被害を受けることはございません。仮説が正しかったとしても、多少時間を要するだけであり、あのシウス将軍と同格のバルト将軍を派遣しています。援軍が必要であれば要請してくるでしょう」

 

 彼は一旦咳払いして喉の調子を整え、持論を再開する。

 

「皇国とフェン王国は近いですから、敵が一気に攻めて来たとしても、砲弾が尽きる前に援軍と補給を到着させられます。そして先ほども申し上げましたが、最新鋭の戦列艦と竜母を投入していますので、戦力はロデニウスの戦力を上回っています」

 

 これを聞いたエルトとレミールは安堵するが、一抹の不安は残る。

 

「しかし、ムーは何か情報を掴んでいたのか……」

 

 アルデは顎に手を当てて、ボソッと呟く。しかしその瞳の奥には不安の色が揺らいでいる。

 

 というのも、以前アルタラス王国へ向かった派遣軍が連絡を絶ち、帰って来なかった一件もあるのだ。そのため、彼の中にも一抹の不安が残っている。

 

(それにロデニウスが機械動力船を有していたのも気になる。ムーから輸入した物だろうが……もしそれを投入されれば、派遣軍には厄介な存在になる)

 

 そして以前ロデニウスが会談の際に使者を乗せて来た船が、ムーで見られる機械動力船でやって来たのも彼に不安材料を与えている。彼の中ではムーから金を積んで輸入した代物だという認識だが、それでも自分達よりも技術力が高い物を持っている事実は不安を煽る要因になる。

 

 尤も、それがロデニウス側が自前で用意したものだとは彼らの常識では考え付くことは出来ないが。

 

「兎に角、皇軍が負けることは無いということだな?」

「もちろんです。恐らく多くの被害は被るでしょうが、皇軍の勝利が揺らぐことはありません」

「そうか。それを聞けて安心した」

 

 満足した様子でレミールはゆっくりと息を吐きながら椅子の背もたれにもたれかかる。

 

 

(だが、本当にそれだけなのか?)

 

 しかしエルトだけは、その不安が膨らむばかりであった。 

 

(カイオス。お前は何かを知っていたのか……)

 

 そして彼女は以前からロデニウスに対して対応が異なっていたカイオスを思い出し、彼に対して疑惑が浮かぶのだった。

 

 エルトは胸中の不安が消えることなく、その日は不安を抱いたまま過ごすことになる。

 

 

 

 

 




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