異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
所変わり、シオス王国より離れた海域。
そこにはパーパルディア皇国軍シオス王国駐留艦隊が、航海演習の為に海を突き進んでいる。
「艦長。司令部への定期連絡。完了しました」
「うむ」
艦隊旗艦の戦列艦にて、通信兵より報告を受けて艦長が頷く。
「しかし、最近は海賊の出没が無く、我々のやる事と言えば演習ぐらいになりましたな」
「あぁ。暇を持て余して仕方が無い」
艦長の言葉に、隣に立つ提督が肩を竦めて答える。
「まぁ、その暇も遠くない内に無くなるそうだがな」
「どういうことですか?」
「どうやら近い内に艦隊の招集が掛かって本国に帰還するそうだ」
「招集ですか。となると、もしや戦争が始まるのですか?」
「恐らくな」
艦長の質問に、提督が頷いて答える。
「しかし、我々が戦力として召集されるのは珍しいですね。大抵戦争に駆り出されるのは、シウス将軍とバルト将軍が率いる艦隊なのでは?」
「うむ。その両将軍だが、現在アルタラス王国とフェン王国の攻略に駆り出されているようだ。だから我々のような小規模の艦隊に召集が掛かったのだろう」
「なるほど」
「だが、逆に考えれば、我々のような目立つことが無かった艦隊が今回の戦争で手柄を立てられる。そうすれば我々は出世し、こんな辺境の地で蛮族の御守りをする必要も無くなる」
提督が語る持論を聞き、艦長は期待の眼差しを向ける。
「ところで、今回どこの国と戦争を行うのですか?」
「うむ。まだ確定しているわけではないが、ロデニウス連邦共和国という国だ」
「あぁ、ロデニウスですか。では、今回の戦争は我々だけでも十分そうですな。相手は文明圏外の蛮族。ロクな戦力も無いでしょうから、楽な戦いになります」
「……そうだな」
自信満々な艦長と異なり、提督の表情はどこか不安の色が浮かんでいる。
(本当に、ロデニウスは文明圏外の蛮族なのか?)
胸中に不安が渦巻いている彼の脳裏には、この間捕らえたロデニウス側の人間から没収した品々が思い浮かぶ。
何の用途で使うか分からない掌サイズの板状の
職人の技術で作られたと思われるほどに、芸術的な作りの綺麗な装飾品の数々。パーパルディア皇国でも中々お目に掛かれないレベルの出来であった。
ムーの時計のような、それでいて職人の手で作られた繊細な作りの腕時計。
その他に、皇国では見られないような品々の数々。
そして拿捕した帆船を調査した際に見られた、洗練された船体に、皇国の船に見られない技術の数々。
それらの没収品の数々から、提督はどこは言い知れない不安を覚えていた。明らかに文明圏外で作られたとは思えない精巧な作りをしていて、尚且つ皇国では見たことの無い物がほとんどだった。
彼は致命的な過ちを犯しているのではないか、と勘繰っていた。
(いや、気のせいだ。たまたまムーや他の文明圏で買った品々だろう。文明圏外であれほどの品々を作れるはずがない。あの帆船だって、技術提供の類で送られたものだ)
しかし彼は過ちに気付きかけたものも、自分に言い聞かせるようにして皇国至上主義の価値観によって阻害された。
だが、世の中「~だろう」というのは、一番当てにしてはいけない認識であるのだが。
「っ! 艦長!!」
と、見張り台に居る見張りが声を上げる。
「どうした!」
「12時の方向に6隻の艦影あり!」
「なに?」
報告を聞き、艦長は懐より単眼鏡を取り出し、報告にあった方向に向けて単眼鏡を覗き込む。
「あれは……」
目を細めて視界内に映る船影をじっくりと見つめる。
単眼鏡越しの視界には、6隻の船影が映っていたが、その船影に彼は違和感を覚える。
「帆が……無いだと?」
「何?」
艦長が違和感を覚えていると、同じく単眼鏡を覗き込んでいた提督が反応して、注意深く船影を観察する。
「確かに、帆が無いな」
「はい。しかし、帆が無いのにどうやって進んで―――」
と、艦長は最後まで言い終える前に、ハッと気づく。
「恐らく……あれはムーの機械動力船だと考えられるな」
「まさか。この文明圏外に列強のムー機械動力船があるはずが」
「私も信じられないが、現に我々の前にそれが現れている。それは受け入れなければならない」
「……」
提督の言葉に、艦長は納得し難い様子を見せるも、自身の目に映る物は幻でもない現実である。現実を受け入れてか、彼はゆっくりと頷く。
「艦長。戦闘配置だ。他艦にも伝え」
「はっ! 全艦戦闘配置!! 他艦にも伝え!」
頭を切り替えた提督は艦長に指示を伝え、艦長は復唱して乗組員達に指示を伝え、通信兵は他の戦列艦に指示を魔信にて伝える。
「竜母にワイバーンロードをいつでも飛ばせるように準備させろ」
「はっ!」
提督は次に竜母二隻にワイバーンロードを飛ばせるように指示を出し、通信兵によって竜母二隻に指示が伝えられ、すぐにワイバーンロードの発艦準備に掛かる。
その後艦隊は風神の涙にて風を発生させ、速力を増して不明艦が居る方向へと向かう。
やがて艦隊は、船影を単眼鏡越しで鮮明にその姿を捉えられるぐらいに接近する。
「っ! 不明艦の旗を確認! ロデニウス連邦共和国の旗です!!」
見張り員の報告を聞き、提督と艦長は単眼鏡を覗き込んで、不明艦を見る。
不明艦のマストに、別の旗の他に、ロデニウス連邦共和国の国旗が風に靡いているのを確認する。
「ロデニウスだと」
「馬鹿な。なぜ蛮族共がムーの機械動力船を」
「疑問はあるが、今は目の前の事に集中しろ」
信じ難い様子を見せる艦長に、提督は喝を入れて指示を出す。
「砲撃用意! 有効射程に入り次第砲撃せよ!」
「はっ!」
「竜母にワイバーンロード発艦を伝え!」
提督の指示を艦長が乗組員へ伝達し、通信兵が他艦へと伝えると、旗艦を先頭に僚艦が一列に並び直して隊列を組む。同時に左舷側にある魔導砲がいつでも撃てるように備える。
同時に竜母二隻も飛行甲板にワイバーンロードが並べられ、先頭が飛び立とうと翼を広げる。
「ん?」
と、六隻の船影を単眼鏡越しに拡大して見ていた提督は、思わず声を漏らす。
六隻の船影は、なぜか三隻ずつに分かれて隊列の中央を空ける。
「なんだ? あの動きは……」
「さぁ。蛮族の考えていることは分かりませんな」
不可解な動きをする艦隊に、二人は怪訝な表情を浮かべて声を漏らす。
「まぁいい。何にせよ、機械動力船と言えど、たった六隻だ。大したことは無い」
「それに加え、ワイバーンロードによる上空支援があります。多少手間取るでしょうが、我々の勝利に揺るぎはありません」
「そうだな」
艦隊の動きに怪訝な表情を浮かべこそ、彼らの自信は揺らがず、単眼鏡を下ろす。
機械動力の船とは言えど、その数は六隻。駐屯艦隊は戦列艦が倍の十二隻。それに加えて竜母が二隻である。数だけで言えば皇軍側に分があるのは確かである。
そう、
「ん?」
ふと、提督は何かに気付き、思わず声を漏らす。
ちょうど三隻ずつ分かれたその間で、何か小さな物が動いていた。
「どうしました?」
「今、海の上で何か動いたような―――」
艦長が問い掛けて提督がその正体を確認しようと、単眼鏡を覗き込もうとした瞬間、艦隊の間から眩い光が放たれる。
「な、なんだ!?」
強い光によって誰もが顔を背けて目を腕で覆う。
その眩い光によって、誰もが足を止め、行動が遅れることになる。
やがて眩い光は消え去り、誰もが目を覆う腕を退かす。
「一体、何が……」
提督も腕を退かし、若干チカチカする中で前方を見る。
「っ!?」
するとその視界に映った光景に、誰もが驚き、提督もまた目を見開いて驚愕する。
彼らの視界の先には、三隻ずつで前後に分かれた艦隊の間に、巨大な軍艦が現われていた。その上二隻も。
先ほどまで影も形も無かったはずの巨大な軍艦が二隻も現れた事で、誰もが驚愕して立ち尽くしている。
「馬鹿な!? 一体どこからあんな船が!?」
艦長は驚愕して声を上げ、提督は陸に上げられた魚の様に、口を何度も開閉させ立ち尽くしている。
彼らが驚くのも無理はない。
そのロデニウスの艦隊こと、ロデニウス連邦共和国、海上警備隊の艦隊の間に現れたのは、軍艦形態のKAN-SENである。
第150号警備艦六隻の艦隊に同行したKAN-SEN『ジャン・バール』と『アルハンゲリスク』が艤装を展開して海上に下り、そこから空けた艦隊の間にて軍艦形態へと移行したのだ。
KAN-SENを知らない皇軍側からすれば、突如戦艦が二隻も現れたように見えたのだ。驚くなというのが無理な話である。
「まさか、あれはムーの戦艦という軍艦か!?」
やがて落ち着いた提督は、単眼鏡で突然現れた『ジャン・バール』と『アルハンゲリスク』を見て、その外観からムーの軍艦では無いかと予想し、声を上げる。
「馬鹿な!? なぜこんな文明圏外にそんなものが!?」
艦長が信じられないと言わんばかりの表情を浮かべて驚いていると、二隻の戦艦の砲塔が旋回し始めて、砲口を皇軍の艦隊へと向け出す。
「っ! まさか……!」
提督がその動きに気付くと、その直後二隻の戦艦の主砲が火を噴く。
「敵艦発砲!」
「う、撃って来たか!」
「し、心配ありません、提督。いくらムーの軍艦が優秀だろうと、蛮族風情に扱えるはずが―――」
多少戸惑いはあるものも、艦長は自信を持って口にする。皇国の人間にありがちな偏った認識であるが、メタい話、ここまでくるとフラグ発言でしかない。
艦長が言い終える前に、艦隊の傍で大きな水柱が上がる。
「ぐっ!?」
衝撃と発生した波によって戦列艦は揺らされ、提督はたたらを踏みながらも倒れずに堪える。
艦長と他の乗員達は船が揺らされてバランスを崩して尻餅を着くか、何とか耐える者に分かれて、誰もが呆然と水柱を見つめる。
「初弾でこんな近くに!?」
提督は攻撃が届いたのもそうだが、何より初弾でこんなに近くに着弾した事実に驚いていた。それは敵が軍艦を使いこなしている何よりの証拠であるのは明確だ。
誰もが驚いている間にも、戦艦は残った砲で砲撃を行う。
「い、いかん! 回避だ! 回避しろ!!」
提督はすぐさま指示を出し、呆然としていた艦長はハッとして命令を復唱して船を回避させる。回避命令は他艦へと伝えられ、回避行動を取る。
直後に艦隊の至近にて大きな水柱が上がり、発生した波によって艦隊全体が揺らされる。
「第二射も近い。偶然ではないという事か」
着弾距離がさっきとほぼ同じ近さとあって、提督は息を呑み、水柱によって舞い上げられた水しぶきを被りながら、海水に混じって額に冷や汗を滲ませる。
(ワイバーンロードは……この状況では飛ばせないか)
竜母が居る方向を見て、提督は歯噛みする。至近弾によって発生した波で竜母が大きく揺らされている所に、回避運動を取っているのだ。この状況ではワイバーンロードを飛ばすのは不可能だ。
それに、この艦隊に所属する竜母は最新鋭の竜母と違い旧式であり、片舷に設けられた飛行甲板とバランスを取る為に、反対側にカウンターウェイトのコンテナを設けた構造になっている。
普通に航行する分には問題無いが、こんなに波に呷られると船は大きく揺らされるし、そもそもこんな激しい回避行動は想定されていない。この辺り皇国の慢心さが出ていると言える。
その為、飛行甲板は激しく揺られて、乗組員と竜騎士、ワイバーンロードはその揺れに耐えるので精いっぱいであった。もしこのまま発艦を強行すれば、発艦中にワイバーンロードがバランスを崩し、海に墜ちかねない。
直後に再び艦隊に至近弾が出て水柱が上がり、艦隊は波に呷られる。
しかし先ほどから至近弾しか出ていない状況もそうだが、水柱の上がり方に知る人が見れば違和感を覚えるだろう。
砲弾が着弾しても、水柱が上がっているだけで、
しかし攻撃を受けている皇軍側は、命中弾が出ていないでいて、尚且つ至近を保った着弾ばかりで、爆発しない砲弾に違和感を覚えるほど、余裕のある者はいなかった。
それ故に、全員の視線は『ジャン・バール』と『アルハンゲリスク』に注がれることとなった。
『ジャン・バール』の艦前部にある四連装砲二基の左半分の二門が衝撃波と共に火を噴き、砲口より圧縮空気によって硝煙と共にガスが排出され、次弾装填を行う為に砲身が水平に戻される。その直後に次弾装填を終えた右側の二門の砲が上げられる。
「……」
艦橋にて皇軍の艦隊の動きを鋭い目つきで見ている『ジャン・バール』。
(『アルハンゲリスク』は……ちゃんと当たらないように、それでおいて外さない位置に落としているな)
彼女は自身の艦体の後方にて、砲撃を行っている『アルハンゲリスク』を見て、彼女の砲撃が皇軍艦隊に当たらず、それでいて大きく外れない距離に砲弾を落としているのに口角を上げる。
(そろそろだな)
彼女は懐中時計を手にして時間を確認すると、妖精に頼んで通信機を持って来させてマイクを手にする。
「『ジャン・バール』からオトシゴへ。目標に到着したか? 送れ」
『こちらオトシゴ。目標の近くに到着したよ、送れ』
マイクのプレスボタンを押しながら語り掛けてボタンから指を離すと、向こうより返信が返って来る。
「よし。この後もう一撃を見舞う。それで俺達は砲撃を中止する。その後で作戦開始だ。送れ」
『了解。それにしても、心臓に悪い事してくれるね、送れ』
「今回の作戦の目的上、仕方ねぇよ。文句なら指揮艦に言え、送れ」
『……別にいいけど、当てないでよ、送れ』
「砲弾は模擬弾で、海面に着弾すると同時に砕けるようになっている。重桜の砲弾みたいな水中弾効果はねぇから安心しろ、送れ」
『それでも着弾時の衝撃と轟音は伝わるんだから、心臓に悪いことに変わりは無いのよ、送れ』
「我慢しろ。すぐに終わらせる、終わり」
『ジャン・バール』はマイクのプレスボタンから指を離し、通信機本体に戻す。
「『アルハンゲリスク』。作戦を第二段階に移行する。次の砲撃で一旦中止しろ」
『了解』
彼女は『アルハンゲリスク』に指示を伝え、次の砲撃を行うべく主砲の照準を定める。
「くっ!」
何度目か分からない砲撃が艦隊を襲い、艦隊は大きく揺らされる。
「くそっ! くそっ! 何なんだよ! 何で蛮族があんなものを持ってんだよ!」
「俺が知るか!!」
「こんなところで死にたくねぇよ……こんな辺境の地でなんかで……」
揺らされる船の上では、乗組員達が各々反応を見せている。
そんな中で、提督は歯噛みして戦艦二隻を睨みつける。
(どうする? このままでは一方的にやられるだけだ。何とかワイバーンロードを飛ばせれば戦局を変えられるはず)
提督は戦局をどうにか打開するべく考えを巡らせるが、一方的に攻撃を受けている状況を見ると、とても戦局を覆せるとは思えなかった。
「畜生!! 殺すならさっさと殺せよ!!」
乗組員の一人が大きな声を上げると、直後に船の近くに砲弾が着弾して水柱が上がり、発生した波に呷られて船が大きく揺らされる。
「っ?」
頭から海水を被り、ふと提督はあることに気付く。
(そういえば、さっきからなぜ攻撃がギリギリ当たってないんだ?)
提督はこれまでの攻撃を思い出し、違和感に気付く。
これまで艦隊に向けられていた攻撃は、どれも直撃しない距離で、尚且つ至近以上の距離にならない近さでしか着弾していない。
(攻撃が届いていないわけが無い。わざと攻撃を当てていないのか? だとすれば、一体何の目的があって―――)
そんな時、砲弾が着弾したと共にその反対側の海面が盛り上がり、水飛沫と共に出てくる。しかし目の前の光景と轟音によって海中から現れた物体に気付いた者はいない。
浮上した物体こと潜水空母『伊13』は、浮上直後に格納庫の扉を開ける。
そこには『晴嵐』と呼ばれる専用の艦載機が搭載されているのだが、今回格納庫にはその晴嵐は収まっていない。その代わり、この作戦における主戦力が収められている。
「っ! 左舷に敵艦!?」
ふと後ろを向いた見張り員が目を見開いて驚愕しながら、大きな声を上げて報告し、その声に反応した乗組員達は後ろを見て誰もが驚く。
「馬鹿な!? いつの間に!?」
「さっきから、一体どうなっているんだ!?」
前方の戦艦二隻と後方に現れた敵艦と、突然現れるような状況に誰もが頭を抱えて狂ったように声を荒げる。
「っ! 右舷! 砲撃用意!! 急げ!」
「し、しかし! それではムーの軍艦への攻撃が!」
「どの道ここからでは届かん! なら、手に届く敵を優先すべきだ! 準備を終えた魔導砲から順次砲撃せよ!」
「りょ、了解!」
提督の指示に艦長が戸惑うが、その指示した理由を聞き、すぐさま命令を復唱して指示を伝える。
しかし戦列艦は両舷に大砲を持つ以上、大砲を扱う人間の数だって限りがあるので、全ての大砲を使う事は出来ない。最大の火力を発揮する場合どうしても片舷に集中せざるを得ない為、反対側の大砲を使う場合どうしても準備に時間が掛かる。
「……何をするつもりだ」
『伊13』がハッチを開けている様子を、提督は息を呑む。
と、扉が開かれた格納庫より、次々と人影が出てくる。
「なん、だと!?」
『伊13』の格納庫より出て来た存在に、提督と乗組員全員が戸惑いと驚きに満ちた表情を浮かべて動きを止める。
なぜなら、『伊13』から出て来たのが、種族、年齢が様々な女性だからだ。それだけなら彼らがここまで驚きはしないだろう。
その女性たちが背中に鉄製の何かを背負い、その上で海の上を浮いて走っている姿を見せられては、彼らのような反応を見せるのも仕方が無い。
その女性たちことKAN-SEN達は、『伊13』の格納庫に収まり、『伊13』が浮上して格納庫の扉が開かれると、艤装を展開して跳び出したのだ。
海上警備隊と『ジャン・バール』『アルハンゲリスク』は駐留艦隊の視線を釘付けにする為の囮。本命はこのKAN-SEN達である。
彼女たちの目的は、駐留艦隊の船に直接乗り込み、乗組員を無力化することである。駐留艦隊の乗組員の中に、虐殺に関わった者が居る可能性があるので、乗組員の捕縛の為、このような作戦に出たのだ。
「な、なんだ、なんだあれは!?」
「お、女が海の上を走って!?」
「そんな馬鹿な!? どんな魔法を使っているんだ!?」
あまりにも非現実的な光景に、誰もが驚きの声を上げている。それ故に、甲板上に居る乗組員達は全員動きを止めてしまっていた。
「先に竜母を叩く! 砲撃用意!」
『伊13』の格納庫より出撃し、海上を走って駐留艦隊に接近するKAN-SEN達は、それぞれ担当する船へと分かれて行動し、竜母に向かう『土佐』が大きな声を上げ、艤装にある主砲を竜母に向ける。
『土佐』と行動を共にし、その後方に居る『出雲』と『デューク・オブ・ヨーク』も、艤装にある主砲を竜母に向ける。
「撃ち方、始めっ!!」
彼女の号令と共に、三隻の戦艦のKAN-SENの艤装の主砲が轟音と共に火を噴き、竜母のカウンターウェイトのコンテナに命中して破壊する。
ただでさえ片舷にある飛行甲板とバランスを取る為に、カウンターウェイトのコンテナで無理やりバランスを取っている以上、安定性はお世辞にも高いとは言えない。そんな重りを破壊されたらどうなるかは、明らかだ。
カウンターウェイトのコンテナを破壊され、片舷にバランスが偏った竜母は一瞬で横転してしまい、飛行甲板の上に居た乗組員と竜騎士、ワイバーンロードは海へと投げ出されてしまう。
「竜母を無力化した。残るは戦列艦だけだ」
『土佐』は後ろを向き、『出雲』と『デューク・オブ・ヨーク』を見ると、左手を耳に当てる。
「改めて言うが、今回の目的は武装勢力の戦列艦の乗組員を無力化し、捕縛することにある。可能な限り乗組員は生かして捕らえろ。止む得ない場合は任せる」
彼女はKAN-SEN達に今回の目的を改めて伝え、一間置いて口を開く。
「特に『ローン』。お前はやり過ぎるなよ」
『大丈夫ですよ、「土佐」さん。可能な限り死なない程度には行いますよ』
「……そうか」
何やら悩みの種があるようで、『ローン』に対して念を押したようだが、結局諦めたようにため息を付く。
「兎に角、各員無理はするな。もしもの時は必ず救援を呼べ。海警隊の警備艦も『ジャン・バール』達と向かっている。いざという時は支援要請を行え」
「以上だ」と、『土佐』はそう締めて、通信を切る。
「血塗られた惨劇が起こりそうだな」
「かもしれんな」
『デューク・オブ・ヨーク』の言葉に、『土佐』はため息を付き、腰に佩いている刀の柄に手を置き、自分達も戦列艦へと向かう。
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