異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
感想や評価、毎回誤字報告をしてくださる方々には、本当に感謝しています!
出来れば一周年記念同様、一週間連日投稿を行いたかったのですが、仕事が忙しく、モチベーション低下が重なって話のストックを溜めておくことが出来ませんでした。
申し訳ありませんが、今回は何もありません。
色々と大変でありますが、これからも本作をよろしくお願いします!
中央歴1640年 1月25日 ロデニウス連邦共和国。
「……」
「……」
大統領府の執務室にて、カナタは険しい表情を浮かべてタブレット端末の画面に表示されたデータを見つめている。その様子を秘書の男性が静かに立って彼の意見を待っている。
「……予想していたとはいえ、ここまで酷いとは」
カナタはタブレット端末を置き、身体を震わせながら、絞り出すように声を漏らす。その様子から彼が激怒しているのは容易に想像できた。
「救助された人質は32名。だが確認された人数は全員で61名。その内20名が処刑されているから、41名は残っているはず」
歯噛みする彼の目線の先には、タブレット端末の画面に表示されているデータを見て、疑問の声を漏らす。
今回皇軍シオス王国駐留艦隊に拿捕された帆船には、乗組員と観光客合わせて61名が調査で確認されている。その内20名は処刑されてしまっているので、生存者は41名残っているはず。しかし救助時に確認された人数は32名であった。
「そちらについては、捕らえた捕虜の尋問により、判明致しました」
秘書は険しい表情を浮かべつつ、手にしているタブレット端末を操作してそのデータを表示させ、説明に入る。
彼の口から聞かされた事実は、あまりにも常軌を逸していた。
捕らえられた人質は、毎日のように尋問という名の拷問を受けていたのだ。いや、もはや尋問など目的ではなく、私的な拷問がほとんどだったそうである。
その為、救助された人質全員が身体のどこかを負傷していた状態であり、中には骨が折れた状態で長い間放置されていた人もいた。その上抑留されていた場所の衛生環境が劣悪であって、それによる破傷風等の感染症に掛かっている可能性が高いという。
しかしその中で身体的に、精神的に最も被害が大きかったのは、女性であった。
人質の女性は毎日皇軍シオス王国駐留艦隊司令部の職員達の慰み者にされ、抵抗しようものなら暴力で無理やり従わされていた。しかも幼い女の子相手でも容赦しなかったそうな。
現時点では
そして心身に深い傷を負って、拷問で受けた傷が原因で死亡する者、慰み者にされたショックに耐え切れずショック死した者が出てしまったのだ。
捕虜曰く、遺体は全て海に捨てていた、と供述しているとのこと。
それ故に、当時人質救出にあたっていた地上警備隊の隊員達の中に、人質の状態を見て捕虜に対して怒りをぶつける者が多かった。どうやら人質の中に、彼らの家族や友人がいたのである。
「……狂ってる」
カナタは、両手を握り締め、ただその言葉しか口に出すことが出来なかった。それだけに、驚きと、怒りに満ちていた。
「捕虜は処刑の件を含め、上層部から命じられてやっていたと、供述していますが」
「あんな嬉々とした様子で処刑を行っていて、何が命令だ! 人質の様子と証言から自ら進んで行っていたのは明らかだろうが!」
「責任を命令した側に擦り付けようとしているのが明らかですな」
彼はいつもの優しい口調からは予想できないような怒号と共に机に拳を叩きつける。秘書もまた苛立ちを隠せない様子で語っている、
「……まぁ、捕虜については追々考えるとして、だ」
カナタは深く息を吸って、ゆっくりと吐き、それを何度も繰り返して気持ちを落ち着かせて、コップに注いだ水を飲んで、一間置く。
「救助された方々には、細心の注意を払って接するように厳命します。特に、女性の方々は特段と注意を払ってください。最悪の事態だけは、何としても回避しなければなりません」
「分かりました。関わっている病院関係者には、必ず伝えておきます」
秘書は頷いて了承し、タブレット端末のメモ帳アプリを開いてメモする。
過酷な目に遭っている以上、被害者の心に受けた傷は、とても想像できるものではない。それこそありふれたような言葉を掛けようものなら余計に心の傷を深めてしまうような状態である。フラッシュバックによってトラウマを刺激され、突発的な行動を取りかねない。
「それで、『大和』殿はどうしていますか?」
「『大和』殿は作戦に参加するKAN-SEN達と共にアルタラス島へ移動しまして、準備に取り掛かっているとのことです。『紀伊』殿も北ロウリア州のロザリアへ『尾張』殿と共に向かったと。それと、トラック泊地も戦闘態勢へ移行。陸戦隊及び航空隊の出撃準備を終えつつあると」
「そうですか。軍の方は?」
「陸海空共に準備を終えつつあるとのこと」
「……」
秘書より報告を聞き、カナタは深くゆっくりと息を吐く。
「いよいよ、ですか?」
「あぁ。いよいよだ」
彼はそう言って立ち上がり、窓から外の景色を見つめる。
(ムーを通じてパーパルディア皇国への宣戦布告。建国から一年も経たずに、他国と本格的な戦争になる、か)
多くのビルが立ち並ぶ外の景色を見つめながら、彼は内心呟く。
パーパルディア皇国への宣戦布告は、皇国と一切の接触を行わないとしているというのもあるので、ムーを通して宣戦布告を行う事にした。
直接特使を送って皇国に宣戦布告を行うというのも考えられたが、これ以上皇国が何をしでかすか分からないとあって、このような形になった。
とは言っても、KAN-SENが特使なら問題ないのでは? と言ってはいけない。実際『大和』と『紀伊』は特使として赴こうという案を出していたのだが、結果的に却下となっている。
それに、これ以上皇国に対して下手に出れば、余計に向こうを調子付かせるだけだ。
(相手は第三文明圏の列強国。負けるつもりはないが、不安が無いと言えば嘘になる)
ロデニウスは以前とは比べ物にならない力を有しているが、相手は腐っても第三文明圏の列強国である。これまでの常識もあって、不安が無いとは言えなくなる。事に絶対は無いのだから、この不安はある意味正しい感情である。
(だが、必ず勝たなければならない。この国の未来を守るために、罪を償わせるためにも)
カナタは決意を胸に抱き、踵を返して秘書と共に執務室を出る。
時系列は遡り、第二次フェン沖海戦後のこと。
場所はパーパルディア皇国。
「それでは、御前会議を開始します」
パラディス城の大会議室にて、皇帝陛下の相談役のルパーサの号令と共に、御前会議が開始される。
「まずは、第1外務局局長、エルト殿」
「はい」
ルパーサに促され、エルトは頷いて書類を手にする。
「先日、ムーがロデニウスへ観戦武官を派遣したことを明らかにしました」
「ほう。あのムーが文明圏外国家へ観戦武官を送ったか。らしくないな」
エルトの報告を聞き、ルディアスが興味深そうに、それでいてどこか不満げな様子を見せる。ムーがこれまで観戦武官を送って来たのは、必ず勝てると判断した国であり、今回もパーパルディア皇国へ観戦武官を送ると思っていた。しかし実際にムーが観戦武官を送ったのは、なぜか皇国の格下にある文明圏外国家である。
まるで皇国が必ず勝つことは無い、と言い切られているようなものと感じて、彼は不満を感じていた。
「ムーの真意を確認する為、職員を大使館に送って確認を行わせ、調査させました」
「……余はそんな事は知らぬぞ」
「陛下に黙って秘密裏に調査したことについては、申し訳ありません。ただ、不透明な案件であっただけに、確実な内容を知る為でしたので」
「そうか。事実と違う報告をされるよりかはマシ、か」
自分に黙って動いていたことに一瞬苛立ちを覚えるものも、自身に確実な報告をする為の行動であると説明を受けて、彼は納得する。
「して、結果は?」
「ハッ。ムーは……我が皇国とロデニウスが戦った場合、ロデニウスが勝つと分析結果を出したようです」
『っ!?』
「……」
彼女がそう告げると、大会議室にどよめきが走る。ただ、ある程度の実態を知っているカイオスは特に驚いた様子を見せずにいる。
「馬鹿な!? たかが蛮族の国に我が皇国が負けるだと!?」
「そんなこと、ありえるはずがない!」
「エルト殿! それは確かなのか!?」
エルトが告げた内容に怒号が上がる中、彼女は怒号に負けず答える。
「はい。ムー大使館職員から直接お聞きした事です」
彼女がそう告げると、怒号が収まる。
「アルデよ」
「は、ハッ!」
「ムーはロデニウスが勝つと分析しているが……もしや皇軍が負けることはあるまいな?」
ルディアスの眼光に睨まれ、アルデは息を呑むものも、気を引き締めて口を開く。
「御心配には及びません、陛下。ムーがこれほどの事を語るということは、ロデニウスには多くの戦力があるのか、もしくは我々が知らない何かがあると見れます」
「ふむ」
「ですが、所詮は文明圏外の蛮族です。例え多くの戦力を有していたとしても、それだけの戦力による電撃作戦を行うのは不可能です。初戦は恐らく皇軍であろうと苦戦を強いられ、多くの被害を被るかもしれません。しかし、仮に向こうの戦力が我が方より上だとしても、力の差はこちらの方が圧倒的に上ですので、時間が経てば経つほど有利になるのは我々の方です。そして最後に勝利を掴むのは、我が皇国であります」
「そうか。それを聞けて余も安心したぞ」
と、ルディアスの口からは安堵の言葉が出たものも、その眼光は鋭く、アルデは息を呑む。
未だにアルタラス王国へ向かった艦隊の消息が掴めておらず、その原因も分かっていないとあって、アルデはその眼光が恐ろしく映ったのだ。
(哀れだな)
と、カイオスはそんなアルデの姿を見て、内心呆れた様子で呟く。
(陛下の前だとそう言わざるを得ないとはいえ、あのムーがロデニウスが勝利する、と言い切ったのだ。アルタラス王国の一件もある以上、やつも内心気付いているだろうに)
周囲の反応を見つつ、エルトを一瞥する。
(ムーとロデニウスは密接的な関係にあるのは間違いない。ムーの港にロデニウスの輸送船が引っ切り無しに入港しているようだからな)
カイオスはルディアスに説明しているアルデの姿を横目で見つつ、密偵に調べさせて手に入れた情報を思い出す。
密偵曰く、ムーの港に多くの他国の輸送船が出たり入ったりしているそうで、その輸送船が掲げていた旗は、ロデニウス連邦共和国のもので間違いないそうである。
これが逆ならばまだ考える余地があったものも、明らかにムーがロデニウスから物資を輸入している。ムーがわざわざこれほど大規模な貿易を行っているということは、ロデニウスの技術力はムーを上回っていると推測できる。
(それに、ムーが我が国に滞在している自国民に帰国命令を出たそうだからな)
カイオスは、ここ最近のムー行きの船の多さと、帰国するムー人の多さを思い出す。
最近ムーより皇国内に居る自国民に帰国命令を出しており、わざわざ勝つのに自国より自国民に帰国命令を出したムーに、皇国の人間はその動きを不可思議に思っていた。
しかし事実を知る者からすれば、いよいよ以って事態が動き出したと思うしかない。
すると、大会議室の扉より強めのノックの音が響く。
「緊急の要件につき、失礼します!!」
と、勢いよく扉が開けられて、汗にまみれた第1外務局の若手幹部が入室する。
「何事か!! 今は御前会議の最中なのだぞ!!」
乱入した若手幹部にルパーサが怒鳴るも、ルディアスが手で制する。
「構わぬ。報告せよ」
「は、ハッ!」
ルディアスに促され、若手幹部が手にしている紙を見ながら報告する。
「フェン王国に派遣したバルト将軍及びベルトラン将軍率いる皇軍は、戦列艦隊、竜母艦隊……全て全滅! 残った陸戦部隊と揚陸艦隊は、ロデニウス連邦共和国とフェン王国の連合軍に降伏しました!!」
「なっ!?」
「何だとぉぉぉぉ!?」
「っ!」
「……」
若手幹部の報告に、一部を除いて多くの者が驚きの声を上げて驚愕する。
結果的に全滅してしまったが、ベルトランは降伏した後、魔信にてロデニウス連邦共和国とフェン王国の連合軍に降伏する、という旨の通信をある報告と供に送っていた。
それが今届いたのである。
「そ、そんな馬鹿な!? 何かの間違いでは無いのか!?」
「何度も確認しましたが、間違いありません!」
「……」
アルデは見るからに焦った様子で確認するも、若手幹部の言葉は変わらない。
(アルタラス王国の一件もそうだったが、まぁ当然の結果だな)
カイオスは特に驚く様子を見せず、若手幹部の報告に納得する。
ッ!!
すると、食器が割れる音がして、ルディアスを除く全員が音がした方向を見る。
音の主は、鬼のような形相を浮かべ、見た者を恐怖に陥らせるほどの威圧感を放つレミールであり、ギロリとアルデを睨む。
「蛮族如きに……局地戦とは言え、この皇国が敗れただとぉっ!? アルデェッ!! 蛮族相手に驕ったなぁ!!」
「も、申し訳ありません!!」
アルデは顔中に冷や汗を掻きながら、レミールに深々と頭を下げて謝罪する。だがこの女、その程度で怒りが収まるはずも無く、怒号は続く。
「戦で相手の分析し損ねるとは!! 何たる失態か!! 貴様、それでも軍の指揮官か!!」
「そ、それは……」
彼は弁明しようにも、レミールの迫力に圧されて言葉が詰まり、その上報告にあった理解しがたい内容に言い訳も思いつかなかった。
パーパルディア皇国軍は、フェン王国を落とす為に十二分以上の戦力を整えて送り出した。
誰が見ても確実に勝てる戦力であった。負ける要素など無いはずだった。
だが、その皇国の自信を、ロデニウスが打ち砕き、全てを覆してしまった。
皇国、それも皇軍が敗北した事実は、すぐに各国に広まるだろう。当然その中には、パーパルディア皇国の73の属国も含まれる。
多くの属国を抱えるパーパルディア皇国が、文明圏外国家に敗れることの意味、そして危険性を、レミールは十分理解していた。
宗主国が弱く見えると、恐怖感が薄れて力関係が崩れてしまう。恐怖支配の脆弱性である。
「アルデよ」
と、大きくないが、それでも大会議室全体に伝わる威圧感のある声がして、アルデはぎこちない動きで声を主を見る。
彼の視線の先には、玉座の肘掛けに肘を置き、頬杖を着いて無表情でアルデを見るルディアスの姿があった。
「余の耳が可笑しくなったのだろうな、アルデよ」
「へ、陛下」
「先ほど、貴様はなんと言ったかな」
「それは……」
「確か『勝利を掴むのは、我が皇国であります』と、申していたな」
「……は、はい」
アルデは身体を震わせて、震える声で答える。
「して、先の報告はなんだ? 余の耳には、ロデニウスとフェンに我が皇軍が降伏した、と聞こえたぞ」
「……」
「レミールの言う通り、驕ったか」
「っ!」
表情を変えることなく、淡々と喋っているものも、ルディアスの言葉一つ一つが重く、その重さがアルデの精神を削っていく。
「アルデよ」
「は、ハッ……」
「貴様は死刑だ」
「っ!?」
ルディアスの宣告に、アルデは目を見開いて、身体が大きく揺れて倒れそうになる。
「後一回だ」
「っ?」
「三度目は無い。分かったな?」
「っ! は、ハッ!!」
皇帝の意図を汲み取り、アルデは倒れそうになるも踏ん張り、すぐさま姿勢を正して返事をする。
ルディアスからすれば、二度も失態を犯したアルデを更迭して処刑を命じたい所だったが、状況が状況とあって、後任が決まっていない中で更迭するのは混乱を招くと考えてか、かなり譲歩してアルデに最後のチャンスを与えたのである。
「それと……」
「今度はなんだ!?」
若手幹部が報告を続けようとすると、レミールが怒号を上げて若手幹部は身体を震わせるが、気持ちを奮い立たせて報告を続ける。
「陸戦隊が降伏の旨の通信を行った際、敵に関する報告があり、ロデニウス側にムーの飛行機械、及び軍艦が確認されたと」
「な、何だと!?」
報告を聞き、アルデが再び驚きの声を上げる。
「ムーの飛行機械に軍艦だと!? 間違いないのか!?」
「つ、通信では、そのような報告がありましたが、それ以上の事は……」
「っ! なぜ蛮族共がムーの兵器を持っているのだ!」
「恐らく、何かしらの方法でムーより手に入れたとしか。飛行機械に軍艦を作れるのは列強のムーぐらいなものですので」
「ですが、ムーはこれまで飛行機械を重要兵器として自国以外に輸出しなかったではないですか。軍艦ならば尚更……」
「えぇ。ですが、現に飛行機械と軍艦が目撃されてロデニウスの戦力として投入された以上、認める他ありません」
アルデの言葉に、参加者の間に動揺の空気が流れる。他の列強国と比べ、日和見主義で積極的に他国の戦争に介入することが無かったムーが、輸出を行わなかった兵器を、よりにもよって文明圏外国家に輸出した。
事実は違うのだが、それを確かめる術を彼らには無いので、このような考えに至ってしまうのも仕方が無い。
約一名を除いて……
「もしかすれば、ロデニウスの背後にはムーがいるのかもしれません」
「ということは、代理戦争か。小癪なっ!! 道理で蛮族共の態度がデカかったわけだ!」
レミールは歯が砕けそうななぐらいに強く歯噛みし、エルトを見る。
「エルト! すぐにムー大使を召喚しろ!! 真偽を確かめる為に、私が直接審問する!!」
「承知しました」
エルトは若手幹部に目配せして、彼はここから逃げるようにそそくさと大会議室を退室する。
(やはりこうなるか)
カイオスは、半ば呆れた様子で内心呟き、周囲を見渡す。
(もう、止められんな)
レミールがルディアスに近づくのを見て、カイオスは苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
ここまで皇国が泥を塗られたのだ。となれば、レミールがルディアスに何を進言するかは容易に想像できる。そしてルディアスがそれを認めて宣言するのも。
もう皇国が止まる事は無い、という事実を受け入れるしかない。
そして皇国を変える為に、皇国を救う為に、これからが重要だというのを、カイオスは改めて認識し、気を引き締める。
そして時系列は再び現代へ戻る。
中央歴1640年 1月28日 アルタラス島。
アルタラス王国が厳戒態勢の中、港の沖合では多くの軍艦が停泊している。ロデニウス連邦共和国より移動して展開したKAN-SENの艦体である。
その全てが空母と考えれば、異常な光景とも言える。
「来たか」
その中で存在感を放つ三隻の大和型航空母艦。その一番艦『大和』の艦体の艦上にて、『大和』が顔を上げる。
上空には、オートジャイロのカ号観測機が飛行しており、戦闘情報管制室にて行われている航空管制に従い、一機一機順番に着艦していく。
「お待たせしましたわ、総旗艦様」
「あぁ」
カ号観測機より降りて来た『赤城』が『大和』に近づき、彼に一礼する。
「全員揃ったようだな」
『大和』は頷き、周りを見て確認する。
彼の艦体に集まったのは、今回の作戦に参加するKAN-SEN達であり、作戦確認を行う為、カ号観測機を使って自身の艦体から『大和』の艦体へ移って来た。
今回の作戦に参加するKAN-SENは、以下の通りである。
第一艦隊:『大和』(旗艦)
『赤城』
『加賀』
『蒼龍』
『飛龍』
『武蔵』
『翔鶴』
『瑞鶴』
第二艦隊:『エンタープライズ』(旗艦)
『ヨークタウン』
『ホーネット』
『エセックス』
『イントレピッド』
『シャングリラ』
『バンカーヒル』
『タイコンデロガ』
空母のKAN-SENの中でも、錚々たる面々が集まっているのを見れば、本気も本気であるのが見て取れる。
「兄上」
と、『蒼龍』が『大和』に近づいて声を掛ける。
「『蒼龍』。新しい艤装はどうだ?」
「問題ありません。最初は違う感覚に慣れませんでしたが、兄上で運用したデータがあったおかげで、もう大丈夫です」
「そうか。『飛龍』の方はどうだ?」
「彼女も問題ありません」
と、二人は『武蔵』『翔鶴』『瑞鶴』の三人から質問を受けている『飛龍』を見る。
艤装の改装を受けていた彼女は、新しくなった艤装を受け取っており、その際に衣装も以前と比べて変化している。
とは言っても、服のデザイン自体は『飛龍改』と呼ばれる改造を受けた彼女が身に纏っている服装と同じものなのだが、色が紺色から軍艦色に変化しており、大きな変化は色だけである。
今は軍艦形態になっているが、艤装も以前と比べてかなり機械的な外見になっているという。
「総旗艦様」
「総旗艦」
と、二人の元に『赤城』と『加賀』がやってくる。
「『赤城』さん、『加賀』さん」
『蒼龍』は二人を見て、頭を下げて一礼する。
「『蒼龍』。新しい艤装に久々の戦闘だ。大丈夫だな?」
「もちろんです。兄上はもちろん、皆さまの迷惑を掛けないよう、万全を期しています」
「そうか」
「それは何よりですわね」
『蒼龍』の気合を確認して、二人は微笑みを浮かべている。
「そういう二人も、改装を終えた艤装の扱いは万全だな?」
「もちろんですわ、総旗艦様。この一航戦、常に最高の状態を保っていますわ」
「総旗艦。大きな戦果を期待してくれ」
「そうか。それを聞けて安心したよ。そして期待しているよ、栄えある一航戦」
不敵に笑みを浮かべる『赤城』と『加賀』に、『大和』は笑みを浮かべる。
『赤城』同様艤装の改装を受けた『加賀』も、衣装が若干違ったり、九本ある尻尾のフサフサ感が増していたりと、若干変化が見て取れる。
「『ヤマト』」
「総旗艦」
と、『エンタープライズ』と『エセックス』の二人が彼らの下にやってくる。すると、さっきまで上機嫌だった『赤城』の表情が険しくなる。
「あら、何の用ですか、グレイゴースト」
「お前に用は無い。『ヤマト』に話がある」
スゥ、と目を細める『赤城』に彼女は鼻を鳴らし、『大和』を見る。
「今は『赤城』が総旗艦様と話をしていますわ。後でもよろしくては?」
「今でなければならない話だ。作戦の事についてのな」
「今でなくても、この後作戦会議で確認することですわ」
互いにバチバチと火花を散らす二人に、「やれやれ」と声を漏らす『加賀』に、その迫力に息を呑む『蒼龍』と『エセックス』。
『カンレキ』故か、『赤城』はユニオン系のKAN-SENと馬が合わない。特に『エンタープライズ』とは、それが顕著に出ている。
まぁ、『カンレキ』とは関係無い所で、二人は馬が合わないというのもあるが。
さすがにこれではキリが無いと判断し、『大和』が割り込む。
「その辺にしろ。彼女が俺に話があるというのなら、聞くだけだ」
「……」
不満そうな様子を見せる『赤城』に、『大和』はため息を付いて肩に手を置くと、人差し指で肩を違う感覚で軽く叩く。
「……手短にしなさい」
と、『赤城』は渋々と納得した様子だが、それでも彼女としては潔く退くという、彼女らしからぬ行動を取る。その行動に『蒼龍』は怪訝な表情を浮かべる。
が、『加賀』は『大和』が『赤城』に何をしたかを見ていて、その意味を知っていたからか、どこか気まずそうな様子を見せる。
どうやら彼女の機嫌を取ると共に引き下がらせる為、何かを伝えたようである。
「でだ、『エンタープライズ』『エセックス』。話っていうのは?」
「あぁ。作戦についてだ」
「そうか。なら、
「あぁ。『ヤマト』に言われた通り、アレを全員に持ってきたが……」
「総旗艦。アレを何に使うの?」
『エセックス』は怪訝な表情を浮かべて『大和』に質問する。
『大和』は今回の作戦で、ある物を使う為に『エンタープライズ』達にそれを持って来させた。
今回の作戦では、『大和』と『エンタープライズ』は、それぞれ艦隊を率いて別行動を取り、異なる目標に対して攻撃を行うことになっている。
その中で、『エンタープライズ』達は、ある場所の攻撃を行うので、その場所に対して彼らの言う例のアレなる物を使うので持って来させたのだ。
「今回の攻撃目標に、アレを使うようなものは無いぞ」
「まぁ、本来の用途とは違う使い方だが、使い方次第で、戦略に大きく影響する」
「それだったら普通の爆弾でも良いんじゃないの?」
「なるべく頑丈な奴が欲しいんだ。万が一の事があって台無しになったら元子も無い」
「威力を考えれば構わない気がするが……まぁ、お前がそう言うのなら別に良いんだが」
疑問はまだあるものも、『エンタープライズ』はそれ以上言及せず、『エセックス』も彼女に従って言及しなかった。
「艦長!!」
と、艦橋の扉が開かれて、中から通信士の妖精が慌てた様子で出て来て『大和』の元へ走る。
「どうした?」
「司令部より緊急電であります!」
「司令部から?」
「はい! 電文です!」
通信士の妖精は手にしている電文を『大和』に渡し、彼はその内容に目を通す。周りに居たKAN-SEN達も何事かと彼の元に集まる。
「……」
電文の内容に目を通していくと、彼の表情が険しくなっていく。
「し、司令部はなんと?」
『大和』の雰囲気に恐る恐る『飛龍』が問い掛ける。
「先ほど、神聖ミリシアル帝国の世界通信を通して、パーパルディア皇国が声明を発表した」
彼の言葉に、一同の間に緊張が走る。遂に来たか、という感情がほとんどだろう。
「皇国は、何と?」
聞かずとも凡そその内容は予想できるものも、『赤城』が代表して『大和』に問い掛ける。
「パーパルディア皇国は、我がロデニウス連邦共和国に対して、宣戦を布告した」
『っ!』
そして彼の口から告げられた内容に、半分近くのKAN-SEN達が息を呑む。
「ついにここまで来たのね」
「結局最後まで、我々の力を見抜けなかったのか。愚かな」
『瑞鶴』は表情を引き締め、『加賀』は呆れた様子でため息を付く。
パーパルディア皇国はロデニウス連邦共和国に対して宣戦布告を行おうとしていたが、両国は既に交渉の席を捨てているとあって、宣戦布告を行おうにも伝える術が無かった。
第三国経由で出頭命令を出しても出頭に応じるわけも無いし、かといってこちらから行くのは論外。だからといって宣戦布告無しに攻めるのは皇国として、面子の問題があるという。
フェン王国に対して宣戦布告無しに攻撃しておいて、何を今更な話なのだが。
最終的に考えられたのが、神聖ミリシアル帝国が世界に発信している世界通信を通じて、世界にロデニウス連邦共和国へ宣戦布告を行った、という事実を立てることであった。
これならばロデニウス連邦共和国が宣戦布告を受けていないとしても、宣戦布告を行ったという事実を世界に示しているので、彼らとしては面子が保てるという。
まぁ、これに関してはちゃんとロデニウス連邦共和国にも伝わっているので、一応体裁は整っていることになっているが。
「まぁ、宣戦布告だけなら、まだ良かったがな」
「? どういうこと、兄様?」
と、意味深な事を口にした『大和』に、『武蔵』が問い掛ける。
「パーパルディア皇国はこう言ったそうだ。『ロデニウス連邦共和国はこの世界の秩序を乱す害悪である。よって第三文明圏の秩序を守る為、ロデニウス連邦共和国に宣戦布告と共に、殲滅戦を言い渡す』だそうだ」
「っ!?」
「何だと!?」
告げられた内容に、『武蔵』は目を見開き、『エンタープライズ』が声を上げる。
「宣戦布告のみならず、殲滅戦まで」
「何て愚かな」
『エセックス』は信じられないというような表情を浮かべ、『シャングリラ』が苛立ちを隠せない様子で、下がった眼鏡の位置を整える。
「プライドが高い人間って、なんで子供でも分かるようなことが、分からなくなるまで頭が退化しちゃうんでしょうね。まだお猿さんの方が頭が良さそうですね」
「なんでも度が過ぎれば、他のことが分からなくなるものだよ」
「というより、秩序を乱すって言っているけど、自分達の事を棚上げにしているよね」
『翔鶴』が隠しもせずに毒舌を口にし、『武蔵』と『瑞鶴』も呆れた様子で語る。
「連中が普通じゃないのは今に始まったことじゃない。考えた所で無駄だ」
『大和』がそう言うと、周囲のKAN-SEN達は口を閉ざす。
「連中は俺達を滅ぼしに来るんだ。ならば、逆に滅ぼされる覚悟があっての宣言だ。俺達はそれに全力で応えてやるだけだ」
「兄様」
「だが、やられたからと言って、やり返して良いという理由にはならない。それでは、奴らと同じになる」
『……』
「だからこそ、俺達は、俺達のやり方で戦う。パーパルディア皇国とは違うというのを、世界に見せつける」
『……』
『大和』の言葉を、誰もが静かに聞く。
「それで、司令部は何て言っているの?」
少しして、『イントレピッド』が『大和』に問い掛ける。
「司令部は作戦に変更は無い。但し作戦開始を繰り上げるそうだ」
「ということは……」
「今日の夜……は、さすがに無いが、一週間以内に縮められた」
「一週間以内……」
「……」
『ヨークタウン』と『ホーネット』は急に縮まった予定に、息を呑む。彼女達からすれば、今回が初めての実戦になるのだ。KAN-SENであるのである程度の戦闘能力はあるが、やはり練度関係は回数を重ねなければ解決できるものではない。
二人が不安を抱くのも、無理はない。
「特戦隊と『黒潮』達によれば、敵艦隊の動きは数日前からエストシラントとデュロに集中している。予定では、まだ船を集結させるそうだ」
「あぁ、ですから一週間以内なのですね」
『赤城』は納得した様子で頷く。
「それと、ムーより大使館職員の退避まで攻撃を待って欲しいという要請も関わっている。既にムー国民の帰国は完了し、残るは大使館職員だけだそうだ」
「ムーは万が一を考えて、皇国との信用を失ってでも国民の安全を優先しているというのに」
「……」
「まぁ、そういうことだ。状況を見て一週間以内に、我々は出撃する。改めて、作戦の確認を行うぞ」
『大和』がそう言って踵を返し、艦橋へ向かう。その後をKAN-SEN達が続く。
歴史が、動き出そうとしている……
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