異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第八十五話 エストシラント空襲 壱

 

 

 

 場所は変わり、パーパルディア皇国 皇都エストシラント

 

 

 まだ陽が昇ってからすぐとあって、辺りはまだ薄暗い。それでも街では仕事をする為にか、ちらほらと人の姿が見え始めている。

 

 港では、皇国にある各港より集められた戦列艦と竜母、揚陸艦の姿が確認できる。前日に出港準備をしているので、艦隊はいつでも出航できる状態にある。

 その港にも、ちらほらと水兵の姿が見られる。

 

 

 上空には、哨戒に出ているワイバーンロードが三騎編隊を組んで飛行している。

 

 

「ふわぁぁぁ……」

「おい。ちゃんと周囲を見ていろ」

 

 暢気に欠伸をする部下に隊長が注意する。

 

「しかし、隊長。こんな朝早く、それも皇都の上空で哨戒する必要ってあるんですか?」

「そうですよ。相手は文明圏外の蛮族なんですよ。ロクな力も無い蛮族が、こんな所まで攻めて来れませんよ」

 

 部下二人は楽観的な様子でそう言う姿に、ため息を吐く。隊長は部下二人に呆れつつも説明する。

 

「確かに、この皇都が攻められることは無いだろうが、警戒に越すことはないからな」

「隊長は心配性ですね」

「そのくらいが丁度いい。それに上層部の決定だから、私がどうこう言えることは無い」

「そりゃそうですが……」

「それとも、もし何かが起きた時は、お前達が全ての責任を取るのか?」

「い、いえ」

「そういうわけでは……」

 

 隊長に睨まれて部下達は息を呑む。

 

「だったら、真面目に任務に取り組め。でなければ、昇進は無いぞ」

「はい……」

「分かりました……」

 

 彼らは落ち込んだ様子を見せるも、すぐに気持ちを切り替える。

 

「それにしても、馬鹿な奴らですよ、ロデニウスは。素直に皇国の属領になっていれば、痛い目に遭わずに済んだものを」

「全くだな。反抗したばかりに国が滅びるんだからな」

 

 と、二人の話題は、宣戦を布告され、殲滅戦を言い渡されたロデニウス連邦共和国のことに切り替わる。

 

「まぁそういうな。所詮教養の無い連中だ。自分達がしていることの事の大きさを理解できていないのだろう。まぁ、近い内に自分達の過ちに気付くだろう」

 

 隊長がそう言うと、魔導通信機が反応して彼は通信機を手にする。

 

『そろそろ交代の時間だ。先ほど次の哨戒班が基地を飛び立ったから、戻って来い』

「了解した。哨戒の交替の時間だ。基地に戻るぞ」

「了解!」

 

 部下二人の返事を聞き、三騎のワイバーンロードはいつもの哨戒ルートを通って基地への帰路に付く。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、エストシラントの港

 

 

「……」

 

 港の一角にある見張り台の上で、二人の兵士が周囲を見渡して警戒している。

 

「やれやれ。蛮族共のせいで必要無い警戒を強いられるようになってしまったな」

「全くだ。面倒臭いったらありゃしない」

 

 兵士二人は見張りをしつつ、今の状況に愚痴をこぼす。

 

「大体、こんなところまで蛮族が攻めて来れるわけないんだ。警戒なんてする必要ないだろ」

「そう言うな。言い渡された仕事だし、不真面目な所を見られただけで咎められるよりかは良いだろう」

「そりゃ、そうだが……」

「それに、悪い事ばかりじゃぁ無いしな。見ろよあれ」

 

 と、兵士の一人が見張り台から港の湾内を見る。

 

 港には多くの戦列艦と竜母、揚陸艦が停泊しており、特に戦列艦と竜母は配備が始まった最新鋭の代物である。

 

 加えて工業都市デュロにも、多くの戦力が集結しており、エストシラントに集結している艦隊は、デュロに集結している艦隊と合流し、ロデニウス大陸に向けて出発する予定となっている。

 

 アルタラス王国とフェン王国への侵攻で多くの被害を被ったものの、それでも尚これだけの戦力を揃えられるのを見れば、伊達に列強国を名乗っているわけでは無い。

 

「これだけの戦列艦と竜母が揃うなんて、中々無いぞ。この景色が見られるだけでも、今の状況も悪くないな」

「確かに。どうせ今回の戦争も我が皇国が勝つんだしな」

 

 二人は気を良くしながら会話を交わし、空を見上げる。

 

 

「ん?」

 

 と、兵士の一人があることに気付き、声を漏らす。

 

「どうした?」

「いや、空に何か黒い点が」

「黒い点?」

「それに、さっきから何だこの音は?」

 

 兵士達は先ほどからしている異音を気にしながら、一人が単眼鏡を伸ばして覗き込んで空を見つめる。見張り台には遠くを見れる望遠鏡の類が無いので、目視か拡大距離が短い単眼鏡での監視となっている。

 

 兵士の視線の先には、薄暗い空にポツポツとある黒い点が見える。それと同時に小さく聞き慣れない異音がしている。

 

「海の方から来ているが……あの方向に味方は行ってないはずだよな」

「あぁ。そのはずだ。それに竜母だって港から一隻も出ていないんだ」

「じゃぁ、この方向から来ているのは……」

 

 徐々に大きくなる黒い点に、二人の兵士の顔は青く染まっていく。

 

 やがて、単眼鏡で見ていた兵士は、黒い点の正体を確認する。

 

「っ!? あれは……ムーの飛行機械じゃないか!?」

「何だと!?」

 

 相方の兵士は驚き、単眼鏡を借りて自身も覗き込み、黒い点の正体を確認する。

 

 

 見張りの兵士達は、接近している飛行機械をムーの飛行機械だと勘違いしているが、当然的外れな予想である。接近しているのは『大和』率いる第一艦隊から飛び立った第一次攻撃隊である。

 

 彼らは今回の攻撃を行うにあたり、『黒潮』率いる忍びのKAN-SEN達の諜報活動にて、ワイバーンロードによる哨戒ルートと時間、数、交代する時間等、様々な情報を集めていた。

 

 その情報から、朝は哨戒の数が少ない事が判明し、哨戒の交代する隙を狙って攻撃隊を発艦させた。

 

 

 そして、エストシラント上空に哨戒のワイバーンロードが居なくなったタイミングで、第一次攻撃隊が到着した。

 

「なんでムーの飛行機械が!? まさか、ロデニウスがムーの飛行機械を!」

「そんなこと言っている場合か! 早くサイレンを鳴らせ!」

 

 兵士は疑問を抱くが、相方に言われてすぐに見張り台に備え付けられているムー製のサイレンを鳴らす。相方の兵士は魔導通信機にて港にある海軍司令部に呼びかける。

 

 早朝のエストシラントで、これまで鳴る事が無かったサイレンが鳴り始め、市民たちは何事かと顔を上げる。

 

 

 その直後、港の方から轟音が鳴り響く。

 

 

 


 

 

 

 第一艦隊のKAN-SEN達より飛び立った第一次攻撃隊は編隊を組み、エストシラントへ向かって飛行している。

 

 その構成は、戦爆隊の烈風改を先頭に、艦爆隊、艦攻隊の流星改二が続いている。疾風(しっぷう)改は第一次攻撃隊よりも高度を取って先行している。

 

 第一次攻撃隊よりも先行して尚且つ高い上空にて、疾風(しっぷう)改の偵察型である三式艦上高速偵察機が飛行しており、偵察員がエストシラント上空を双眼鏡を覗き込んで見回している。

 

 エストシラント上空には、哨戒中のワイバーンロードの姿は無く、地上は慌てた様子は見られない。

 

「……予想通り、上空には敵騎の姿はありません!」

「よし! 旗艦に発信! 『我、奇襲ニ成功セリ!』」

「はっ!」

 

 偵察員はすぐに暗号電文にて奇襲成功の報を旗艦『大和』へ送る。

 

 

 その直後、攻撃隊の先頭を飛行している戦爆隊の烈風改が速度を上げ、エストシラントの港へ向かっていく。

 

 その頃には港にてサイレンが鳴らされ出したが、それと同時に戦爆隊の烈風改は、両翼に提げている八発の一〇〇式ロケット弾改二を順に発射する。

 

 放たれたロケット弾は停泊している戦列艦へと飛翔し、着弾したロケット弾は船体を貫き、船内で炸裂する。

 

 出航前とあって、戦列艦には魔導砲で使う魔石が満載されていた。正に火薬庫同然の状態だ。そんな状態で船内で爆発が起きればどうなるか……

 

 直後に戦列艦が轟音と共に、船体を木っ端微塵にして大爆発を起こす。同時に停泊中の戦列艦でも次々と大爆発が連鎖的に起きる。

 

 中には、大爆発によってすぐ傍に停泊している戦列艦も船内の魔石が誘爆して大爆発を起こす。それが港の湾内のあちこちで連鎖的に発生し、港は一瞬にして大混乱に陥った。 

 

 遅れて艦爆隊の流星改二が停泊中の竜母や揚陸艦に目掛けて急降下を行い、爆弾倉を開いて抱えている50番陸用爆弾と両翼に提げている25番陸用爆弾を投下する。投下された爆弾は狂うことなく一直線に竜母や揚陸艦へ落下し、船内で爆発を起こして粉々に粉砕する。

 

 一部の戦爆隊の烈風改は、港にある建造物に向けて一〇〇式ロケット弾改二を放ち、建造物に着弾して爆発し、建造物を破壊する。 

 

 建造物は皇軍の海軍司令部であり、今回の第一攻撃目標に指定されている。理由は皇軍の指揮系統破壊であり、現に先ほどの攻撃で海軍司令部の主要メンバーの多くが命を落とした。

 

 そして止めと言わんばかりに、艦爆隊の流星改二が半壊した海軍司令部に向かって急降下を行い、爆弾倉にある50番陸用爆弾二発と両翼の25番陸用爆弾二発を投下する。三機から計十二発の爆弾が投下され、爆弾は軌道が逸れることなく海軍司令部へと着弾し、爆発を起こす。

 ただでさえ半壊していた海軍司令部は、計十二発の爆弾の威力によって、完全に破壊されてしまう。当然奇跡的に生き残っていた職員達は、その止めによって命を絶たれるのだった。

 

 海軍司令部が完全に破壊されたことで、当然指揮系統は崩壊し、港では大混乱が発生し、水兵や作業員たちは右往左往することになった。

 

 

 

「隊長! 港の方で火の手が!」

「っ!」

 

 その頃、先の哨戒班と交代した哨戒班のワイバーンロードがエストシラントへ向かっていると、突然の轟音と共に、港の方で火の手が上がっているのを目撃する。

 

「一体何が!?」

「事故でも起きたのか!?」

「とにかく、状況を確認する! 行くぞ!」

 

 突然の出来事に部下二人は戸惑いを隠せなかったが、隊長は状況を確認する為に冷静に判断し、部下二人を連れて急いで港へ向かう。

 

 彼らが街の上空付近に到着すると、状況を把握する。

 

「っ! あれは!」

 

 隊長は港の上空で飛び交う飛行機械を目撃して、目を見開く。

 

「なぜ、ムーの飛行機械が!?」

「まさか、ムーが我が国に攻めて来たのか!?」

 

 部下達は飛び交う飛行機械を見て驚きを隠せないでいた。先頭の風車の羽みたいなプロペラを持つ飛行機械はムーでしか作られていないので、そういう結論に彼らは至った。

 

 実際は見当違いもいいところだが、彼らの常識ではその飛行機械が文明圏外に位置しているロデニウス連邦共和国のものであると考えるには至らないのだろう。

 

「例えムーが相手でも、我が皇国に攻めて来た以上、立ち向かうだけだ!」

『了解!』

 

 隊長の言葉に部下たちが答え、相棒のワイバーンロードの飛ぶスピードを上げて飛行機械に向かう。

 

 彼らは自分達ではムーの飛行機械に立ち向かうのは力不足であるのは分かっている。しかし国を守る軍人である以上、何もしないでいるわけにはいかない。それに時間が経てば皇都陸軍基地に配備されたばかりのムーの飛行機械に対抗できる新鋭のワイバーンオーバーロードがやってくる。

 増援が来るまで、自分達が飛行機械相手に時間を稼げばいい。

 

 

 だが、現実は彼らの思い通りにはならなかった。

 

 

「ガッ―――」

 

 直後、彼らは衝撃を感じた瞬間、永遠にその意識を閉ざすことになった。

 

 

 

 その瞬間を地上の市民たちは目の当たりにして、呆然と立ち尽くした。

 

 街の上空で自国のワイバーンロードが港の上空を飛んでいる飛行機械へ向かっていたが、そのワイバーンロードより更に上から飛行機械が急降下してきた。

 

 竜騎士は前方ばかりを見て上方の確認を怠っていた。というのも、高度を取っている自分達よりも高い空に敵はいないという慢心があったがゆえに、上を警戒していなかった。

 

 ワイバーンロードよりも高度を取って飛行していた疾風(しっぷう)改が港に向かうワイバーンロード三騎を発見し、三機がワイバーンロードに向かって急降下し、機首と両翼に二門ずつ計四門の20mmの零式機銃を放つ。

 放たれたHE(M)(薄殻榴弾)は竜騎士諸共ワイバーンロードを粉砕し、一瞬にして三騎を撃ち落とした。

 

 粉砕されて物言わぬ肉塊となった竜騎士とワイバーンロードは街中へと墜落し、生々しい音と共に地面に叩きつけられる。

 

「ひっ……」

 

 運良く墜落に巻き込まれなかった市民の女性は、その光景に思わず尻餅を着き、地面に叩きつけられて余計に原型を失った竜騎士とワイバーンロードを目の当たりにする。

 

 物言わぬ肉塊となり、偶然にも首がもげた竜騎士の頭が市民を見る形になる。その表情は何が起きたのか理解出来ないまま、戸惑ったような表情で固まっていた。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 肉塊と化した竜騎士とワイバーンロードを目の当たりにして、血の臭いが鼻腔を刺激した事で、ようやく状況を呑み込み、女性は悲鳴を上げる。

 

 その悲鳴を皮切りに、市民たちに恐怖が伝染して我先に一斉にその場から逃げ出し、その恐怖の波は街全体に伝わる。

 

 

 艦爆隊に遅れて到着した艦攻隊は、水平爆撃隊と雷撃隊がそれぞれ分かれて攻撃を開始した。

 

 魚雷二本を抱えた雷撃隊の流星改二は低空で湾内に侵入し、無事な戦列艦や竜母に機首を向けて魚雷を投下する。

 

 今回の作戦に合わせて魚雷には投下後海中に沈降する深度を浅くする改良が加えられており、浅い湾内でも魚雷を使えるようになっている。

 

 投下された魚雷は深く沈降することなく浮かび上がり、エストシラント港の浅い湾内を航走し、戦列艦と竜母に命中する。

 

 轟音と共に水柱が上がり、魔石が満載されている戦列艦は大爆発を起こして粉々に吹き飛び、竜母は大きく船体を抉られるか真っ二つになるかで、一瞬の内に船体を沈めていく。

 

 水平爆撃隊の流星改二は、港の港湾設備に対して爆弾倉と両翼にある6番陸用爆弾を投下し、倉庫や桟橋、クレーン等の設備を破壊していく。

 

 爆撃された倉庫の中には魔石を蓄える倉庫があったのか、一際目立つ爆発が港のあちこちで発生する。

 

 

「急げ! 早く火を消すんだ!!」

 

 港では兵士達が右往左往しつつ、火災が発生した設備の消火作業を行っている。しかし消火する為の設備が爆撃で破壊されてしまっているので、バケツで海水を汲み上げて消火作業をしている。

 

 海軍司令部が真っ先に破壊されてしまったことで指揮系統が崩壊しており、現在は階級の高い人間が臨時に現場指揮を執っている。

 

「怪我人を運べ! ここに寝かせては傷に響くぞ!!」

「邪魔だ! そこの怪我人を退かせ!」

 

 消火作業の傍ら、負傷した兵士や職員が安全な場所へ運ばれており、それによる怒号があちこちで響いている。

 

「くそっ! どうなってんだよ! 何で蛮族を相手にしているのにムーの飛行機械が襲ってくるんだよ!!」

「陸軍の竜騎士隊は何やってんだよ!! 何でさっさと来ないんだ!!」

「俺が知るかよ!!」

「愚痴っている暇があったら手を動かせ!!」

 

 中には飛行機械が襲来してきた現状に不満を覚え、訳も分からず文句を叫ぶ者や、苛立って怒号を上げる者も現れ始める。

 

 しかし彼らが期待している竜騎士隊であるが、いくら待っても彼らがエストシラント上空にやって来ることは無い。

 

 

 というのも、第一艦隊から飛び立った第一次攻撃隊がエストシラント沿岸に到着する前に、『エンタープライズ』率いる第二艦隊より飛び立った第一次攻撃隊がエストシラントの防衛を担っている皇都陸軍基地に奇襲を仕掛け、その基地機能を損失させていた。

 

 第一艦隊の第一次攻撃隊より先立って第二艦隊より飛び立った第一次攻撃隊は、発見されないように大きく迂回して皇都陸軍基地へ接近し、ちょうど哨戒を交代した竜騎士隊が滑走路へ着陸し、ワイバーンロードの収容作業に取り掛かろうとしたタイミングで、攻撃隊が基地に対して攻撃を仕掛けた。

 

 陸軍基地側は攻撃隊の接近に気付き、すぐにワイバーンロードと配備されたばかりの新鋭のワイバーンオーバーロードを上げようとするが、ここで問題が発生した。

 

 ワイバーンは生き物である以上、自我と言うものが存在する。ぐっすり寝ていたところを叩き起こされれば、誰だって不機嫌になるものである。そのせいでワイバーンロードも、ワイバーンオーバーロードも愚図ってしまい、竜騎士や世話係の人の言うことを聞かず動こうとしなかったので、出撃が遅れてしまった。

 この辺りは生物故の不便さが表れている。

 

 その間にも攻撃隊が接近し、まずはF8F ベアキャット数機が両翼に提げているロケット弾を滑走路に向けて放ち、滑走路に着弾したロケット弾は炸裂し、滑走路を埋め込まれた魔石ごと破壊した。ワイバーンロードとワイバーンオーバーロードは、飛び立つのにある程度整地されて長い距離がある滑走路が必要であり、その上飛び立つのに多くの魔素が必要になるが、基地があるのはその魔素が少ない地域であった。その魔素の不足分を補う為に、滑走路には魔石が埋め込まれている。

 その両者が破壊されてしまったことで、ワイバーンロードとワイバーンオーバーロードは飛び立つことが出来なくなってしまった。

 

 つまりそれは、パーパルディア皇国の制空権喪失を意味している。皇国が聖都と定めているパールネウスの基地から救援を要請しても、どれだけ急いでもワイバーンロードの到着には二時間は掛かる。

 

 その後A1 スカイレイダーによる急降下爆撃で、ワイバーンロードとワイバーンオーバーロードが格納されている竜舎と竜騎士が寝泊まりしている宿舎を攻撃し、両者諸共粉砕する。何とか竜舎と宿舎から出て無事だった外に出ていた者が居れば、F8F ベアキャットによる機銃掃射が襲い掛かって命を刈り取った。

 

 更にA1 スカイパイレーツによる水平爆撃が行われ、基地の設備を徹底して破壊し、基地機能を奪ったのだ。

 

 

「くっ! 無事な船はあるか!?」

「駄目です! 戦列艦が次々と破壊されて、中には爆発に巻き込まれて次々と誘爆を起こしています! こうなったら、手の打ちようがありません!」

「それに、破壊された船の残骸で湾内は滅茶苦茶です! これでは、船を動かすこともままなりません!」

「っ!」

 

 上官と思われる兵士が無事な船を確認するものも、帰ってきた答えはもはや絶望しかなかった。 

 

 湾内に停泊していた戦列艦は、攻撃隊の猛攻によってその多くが轟沈しており、半分以上は大爆発に巻き込まれて誘爆を起こしていた。その為、湾内に停泊してあった戦列艦で無事な船は残っていなかった。

 

 当然竜母や揚陸艦も破壊対象になっており、無事な船は残っていない。

 

 仮に無事な船が残っていたとしても、湾内は破壊された船の残骸で埋め尽くされており、船を動かすことは出来なかっただろうが。

 

 

 ッ!!

 

 

 すると流星改二より投下された魚雷二本が停泊している竜母に命中し、轟音と共に二本の水柱が上がり、竜母は三つに分断されて轟沈する。

 

「ヴェ、『ヴェロニア』が……」

 

 兵士は黒煙を上げて湾内に沈んでいく竜母を呆然とした様子で見つめる。上官と他の兵士達も、目を見開いて呆然と立ち尽くす。

 

 先ほど沈んだ竜母は『ヴェロニア』と呼ばれる、パーパルディア皇国で建造された新たな竜母である。『ヴェロニア』は新型のワイバーンオーバーロードを運用する為に先の第二次フェン沖海戦に投入された竜母『ミール』よりも更に大きく、最新の技術が惜しみなく投入されて建造された竜母だ。

 風神の涙を従来の船よりも多く搭載しており、一部はワイバーンオーバーロードの離陸支援として使われるので、長大な滑走距離が必要なワイバーンオーバーロードを限られた空間しかない竜母で発着艦させることを可能にしたのだ。

 

 当然これほどの船となれば、その巨体に加え、複雑な構造も相まって、建造コストは従来の竜母よりも三倍以上掛かる代物となっている。しかし、コスト相応の性能は確かにあり、近々試験航行を控えていて軍から期待が寄せられていた。

 

 そんな多くの期待が寄せられていた『ヴェロニア』は、兵士たちが見ている中、本来の役目を果たすことなく海中に没した。

 

「……」

 

 『ヴェロニア』が黒煙を上げて破壊された姿を目の当たりにして、上官は息を呑み、飛行機機械が飛び交う上空を見上げる。

 

「ロデニウス……お前達は……一体何者なんだ」

 

 彼は誰かに向けたわけでもなく、その言葉を口から漏らした。

 

 その言葉に答えられる者は、この場にはいない。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、エストシラントから数十km離れた海域。

 

 

 攻撃隊を発艦させた第一艦隊は、低速にてその海域を徘徊しており、偵察機が艦隊周囲の上空を飛行して、常に警戒を行っている。

 

 

「……」

 

 『大和』の艦体の装甲艦橋直下にある戦闘情報管制室では、『大和』が腕を組んで戦況の推移をオペレーターの妖精より聞いて確認している。

 

 戦況は戦場の上空を飛行している三式艦上高速偵察機と、高高度を飛行している電子管制機によって把握され、『大和』に情報が送られている。

 

「これは……凄まじいな」

「あぁ」

「そうね……」

 

 その近くでは、ラッサンにマイラス、アイリスがモニターを見ながら息を呑む。

 

 モニターには、三式艦上高速偵察機に搭載されたガンカメラで撮影された映像がリアルタイムで送られており、モニターには皇国のエストシラントの港が航空機による攻撃で破壊されていくのが映し出されている。

 

「皇国は初手に攻撃されるなんて微塵に思っていなかっただろうから、反撃もままならないだろうな」

「だろうな。その上指揮系統も破壊されているから、組織的な行動も取れなくなっている。こうなったら皇国はされるがままだ」

「それに、ここまでやられたら、精神的なショックでまともに行動が取れないでしょうね」

「本当に、ロデニウスが敵にならなくて良かった」

「全くだな」

 

 徹底的に破壊されるエストシラントの港と船がモニターに映し出され、三人はそれぞれの意見を口にする。

 

 

「そうか。第一次攻撃隊の戦果は上々か」

『あぁ。今は例のあれで仕上げを行う第二次攻撃隊の発艦準備を行っている』

「分かった。作戦に変更は無い。このまま予定通り仕上げに入れ。こちらもそろそろだからな」

『了解』

 

 『エンタープライズ』より第一次攻撃隊の戦果報告を聞き、『大和』は頷きつつ予定変更は無いのを伝え、モニターに表示されている時刻を確認する。

 

「艦長! 時間です!」

「よし。第二次攻撃隊、発艦始め! 各艦にも伝えろ!」

 

 オペレーターがそう伝えると、『大和』は頷いて命令を各KAN-SENに伝える。

 

 

 各空母の飛行甲板では、格納庫より舷側にあるエレベーターで艦載機が飛行甲板に上げられて第二次攻撃隊の発艦準備が行われている。

 

 その中で『大和』と『蒼龍』は他のKAN-SENとは違う様相を見せている。

 

 二隻の飛行甲板には、これまでのレシプロ機とは異なり、最新鋭のジェット機が並べられ、ジェットエンジンの暖機運転を行っている。『大和』は艤装の改良でジェット機の運用を可能としており、『蒼龍』はその『大和』の改良された艤装の構造を基にした新造艤装を手にしているので、ジェット機の運用が可能となっている。

 

 ジェット機は更なる改良が加えられ、もはや元の設計の面影が無くなりつつある『景雲四型改』である。ジェットエンジンに空気を送り込む吸気口の改良が行われ、機首にあった吸気口は胴体に左右に分かれて移され、更なる改良でジェットエンジンの性能を向上させた機体である。武装は三型から変わらず、両翼に零式機銃を二門ずつ計四門を搭載している。

 その見た目はどことなく史実における『F-11』を少しだけ太くしたような感じに見える。相違点はジェットエンジンが双発で、武装が異なる点ぐらい。

 

 エンジンの暖機運転を終えた景雲四型改は艦首側とアングルドデッキ側の蒸気式カタパルトへ移動し、機体をカタパルトに固定させる。

 

 ジェットエンジンが唸りを上げて出力を上げ、ノズルから熱せられた空気が吐き出されるが、飛行甲板の一部が斜めに上がられていて、熱せられた空気を上へと逃がしている。

 

 景雲四型改のパイロットの妖精はジェットエンジンの出力を上げて発艦準備を終え、カタパルトを操作する甲板要員に合図を送る。甲板要員は操作盤をスイッチを押し、景雲四型改はカタパルトで勢いよく飛び出す。続けて隣のカタパルトからも機体が飛び出す。

 アングルドデッキ側でも景雲四型改がカタパルトから飛び出す。

 

 『大和』と『蒼龍』がジェット機を発艦させている間にも、他のKAN-SEN達も第二次攻撃隊を発艦させる。

 

 

 


 

 

 

 時系列は遡る事、夜明け前。

 

 

 場所はパーパルディア皇国で随一と言ってもいい、工業で栄えた都市『デュロ』

 

 皇国の工業製品の多くは、このデュロで生み出されており、皇軍の船の多くは、デュロにある造船所で作られている。デュロは正に皇国にとって産業の中核を担っていると言っても過言ではない。

 

 

 デュロでは、ロデニウス連邦共和国へ侵攻を行う為、港には多くの戦列艦と砲艦、竜母が集まっている。さすがにエストシラントよりもその数は少ないが、工業都市とあってか、全体的に兵器の質は新しい。

 

 デュロに集まった艦隊は、後々エストシラントよりやって来る艦隊と合流し、ロデニウス大陸に向かう予定となっていた。  

 

 

 

 まだ夜明け前で暗いデュロであったが、今は昼間の様に明るく、騒然としていた。

 

 

 

()ぇっ!!」

 

 『紀伊』の号令の直後、暗闇が一瞬明るくなるようなぐらいに、50.8cmの主砲の砲口から轟音と共に爆炎が噴き出す。続けて『紀伊』の後ろにいる『尾張』も一番砲塔から三番砲塔の二番砲が砲撃を行う。

 

 世界最大級の艦載砲より放たれた三式弾が目標の上空で炸裂し、内臓されている焼夷弾子がばら撒かれて、目標に降り注いで破壊する。

 

 深夜にロデニウス連邦共和国北ロウリア州の港を出航した『紀伊』と『尾張』は、暗闇に紛れて皇国の工業都市デュロを目指した。

 

 デュロの近海へと入り、二隻は暗闇に紛れて密かに近づき、主砲の有効射程距離まで接近した所で、『紀伊』と『尾張』は主砲をデュロに向け、艦砲射撃を開始した。

 

 二隻の戦艦から放たれた三式弾は、港に停泊している戦列艦や砲艦、竜母に焼夷弾子をばら撒き、出航前とあって魔導砲に使う魔石を満載していたので、貫通した焼夷弾子が船内で炸裂して魔石に引火し、一斉に大爆発を起こした。他に工業地帯にも三式弾の焼夷弾子が降り注ぎ、工場のあちこちで火の手が上がった。

 

 この時デュロでは、戦う前から勝利を確信して宴が行われており、多くの兵士が酒に溺れていた。その上見張りの兵士も宴に参加していたとあって、完全に無警戒状態だった。

 

 そんな時に、上空で三式弾が炸裂し、焼夷弾子がばら撒かれた時、彼らからすれば闇夜に開いた光の花に見えただろう。それが自分達に災いを齎す厄災の花であると知らずに。

 

 降り注いだ焼夷弾子によって、港の倉庫や湾内に停泊している戦列艦や砲艦が大爆発を起こした事で、彼らはようやく攻撃を受けていることを理解し、慌てふためいた。

 

 しかし大半が酔っ払っていたせいで、すぐに動けない者が多かった。そのせいで初動が大幅に遅れてしまった。

 

 その間にも『紀伊』と『尾張』の第二射が放たれ、港と工業地帯に焼夷弾子が降り注ぐ。この時港に降り注いだ焼夷弾子が彼らの元に落ちて来て、炎と破片がまき散らされて多くの兵士を殺傷し、燃やし尽くす。

 一瞬で多くの兵士が命を落とした事で、効率的に消火作業が行えなくなり、消火作業が散発的になって火災を抑えることが出来なくなってしまった。

 

 『紀伊』と『尾張』は狙いを定めて効力射へと移行し、次々と三式弾と時々零式弾をデュロへと放った。

 

 この時、工業地帯に落とした三式弾の焼夷弾子によって、燃えやすい素材や油を多く取り扱っていた工業地帯は一瞬にして火の海と化した。

 

 火の海と化した工業地帯のあちこちで爆発が起きて、『紀伊』より放たれた零式弾が着弾し、爆発時の爆風によって炎を纏った破片が周囲へ飛び散って工場勤務の人が住む住宅街に落下する。

 

 住宅街でも宴が行われていたとあって、多くの者が工業地帯で火災が発生して爆発したのを目撃し、一目散に逃げ出した。炎を纏った破片が住宅街に落下し、木造の住宅が多い住宅街は瞬く間に火の手が広がる。

 

 住人達は住宅街に広がる火災の消火を試みようとしたが、その規模は大きく尚且つ勢いよく広がっているので、徒労と化していた。そのせいで、無駄に犠牲者が増えるばかりだった。

 

 皇軍側も何もしなかったわけでは無かったが、敵があまりにも遠い所から攻撃しているとあって、魔導砲は届かず、反撃のしようがない。

 基地では未だに攻撃が及んでいないのでワイバーンロードは無事であるが、夜中とあって鳥目なワイバーンロードを飛ばすことが出来なかった。仮に飛び立たせても、暗闇に紛れている敵の位置が不明瞭であるので、見つけるのが困難である。時折暗闇に光が瞬いているが、そこに敵が居るとは限らないのだ。

 

 むしろ次々に発生する街や港の被害に対処する為に人手を回さないといけなかったので、基地司令はワイバーンロードを飛ばさない判断を下し、攻撃を耐え凌ぐしかなかった。

 

 

 『紀伊』と『尾張』の砲撃は、未だ終わりを見せない。 

 

 

 

 




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