異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
今年も本作をよろしくお願いします!
中央歴1640年 2月1日 パーパルディア皇国
先の空襲の混乱は長引いたものの、今はようやく街は落ち着きを取り戻している。
見ただけで卒倒しそうなレベルの被害を受けた港であったが、街への被害は比較的少ない方で、大きい被害でも広場にある皇帝ルディアスの石像が破壊されているか、一部の道に爆弾が落ちて地面を抉られたぐらいで、他は爆弾が爆発時に生じた衝撃波で建物の外壁とガラスに被害が出ているぐらい。
人的被害は軍の方は数を把握することが不可能なレベルの数が犠牲になっているが、市民の方は意外にも重傷・軽傷問わず負傷者はいれど、死者は出ていないという。市民たちはすぐに屋内に避難していたとあって、直接的な爆風被害に遭うことは無かった。負傷者は避難時にこけたか人同士の衝突によるものや、屋内で物がぶつかって出来たものである。
しかし、空襲による市民へ与えた衝撃は大きく、瓦礫の撤去作業に駆り出されている市民の顔色は悪く、誰もが目が死んでいた。それは生き残っている軍人たちも同じである。
もちろん、上の人間も同じである。
場所は代わって、皇帝が住まうパラディス城。
こちらは市街地よりも酷い有様で、庭師によって剪定されて綺麗に整えられた庭は、爆弾の着弾によって荒れに荒れてしまって、見る影もない。
敷地内にある建物も被害を受けており、ガラスは割れて、装飾が施された建物の外壁は一部が崩れてしまっている。中には建物の一部が崩壊しているものもある。
権力と国力を示していた城の姿は、今となっては見る影もない。
「そ、それでは……緊急事態により……ご、御前会議を開始します」
パラディス城の会議室にて、ルパーサが震えた声にて会議開始を宣言する。
会議のメンバーは皇帝ルディアスを筆頭に、
皇軍の最高司令官 アルデ
第一外務局長 エルト
第二外務局長 リウス
第三外務局長 カイオス
臣民統治機構長 パーラス
経済担当局長 ムーリ
といった政治関係の面々である。
空襲直後は混乱によって会議が出来る状況では無かったが、ようやく状況が落ち着いたことで、今後を左右するであろう会議を行う事にした。
ちなみにこの場に参加しているはずのレミールの姿が無いが、彼女はとても人前に出られる状態ではないとのこと。
当然全員の顔色は悪く、エルトは頭痛がするのか頭に手を当てて、リウスは目が虚ろであり、パーラスは冷や汗が止まらず、ムーリは頭を抱えている。軍の司令官であるアルデに至っては、顔が真っ青で顔中に冷や汗を掻き、小刻みに震えている。
カイオスでさえも、疲弊した様子を見せている。
御前会議は本来であれば大会議室で行う予定だったのだが、大会議室は空襲時に破壊されてしまって、代わりにこのルディアスが座る玉座が無い普通の会議室で行うことになった。
ちなみに大会議室だが、先の空襲で落とされた模擬爆弾で破壊されたのだが、その際模擬爆弾の落下地点に丁度玉座があって、模擬爆弾が玉座を押し潰しているという。
自身の為にある玉座に座れず、その玉座を破壊されたという事実がルディアスのプライドにダメージを与えているという。
「ま、まずは……被害状況の確認を。アルデ殿」
「は、はい……」
ルパーサに促されて、アルデはふらつきながら立ち上がる。
「ま、まず、被害状況ですが……」
アルデは深呼吸を数回挟んで、報告を続ける。
「軍の被害は……港に集まっていた戦列艦、竜母、揚陸艦は……全て破壊され、無事な船は一隻もありません」
彼がそう告げると、会議室の空気は一段と重くなる。
「更に、昨夜に攻撃を受けたデュロでも、同様に集まっていた船は全て破壊されました……」
「……」
「そ、その為……事実上海軍の戦力は……壊滅しました」
アルデは絞り出すようにそう告げると、震える手でコップを持って水を零しながら飲む。
何もしないまま、皇国の海の守りが壊滅した。あまりにも信じられない……いや、信じたくない現実に誰もが俯く。
「港の被害は……魔石や砲弾を貯蔵する倉庫や司令部、造船所は全て破壊され、その上港の地形すらも変えられています。デュロでは……港と工業地帯が壊滅しているとのこと」
「……」
「人員の被害に関しては……死傷者があまりにも多すぎて、その上原形を保っていない死体が多く……未だに正確な数判明していません」
「……」
するとルディアスは顔に手を当てて、深々とゆっくり息を吐く。
「アルデよ」
「は、はい……!」
「正直に答えろ。専門的な意見を、率直にな」
「……」
ルディアスの鋭い眼光に睨まれてアルデは息を呑む。
「海軍の再建と港の復旧に、どのくらい掛かる」
「……」
アルデは蛇に睨まれた蛙のように固まるも、意を決して口を開く。
「エストシラントとデュロの造船所が全て破壊された以上……新たな主力艦の建造は不可能です。海軍の再建は……不可能です」
「……」
「港の復興も、設備に建造物、更に地形すらも徹底的に破壊され、港に続く道も大きく破壊されています。湾内には破壊された船の残骸もありますので……復旧の目途は……立っていません」
「……そうか」
ルディアスはそう呟くと、アルデを責めることなく浅く息を吐く。報告を終えたアルデは大きくふらつく。
「他の報告は……余が自分で見る」
あまりにも追い詰められた状態のアルデを見かねてか、ルディアスはルパーサに目配せをして、彼にアルデより報告書を受け取らせて自分の元に運ばせる。
「……」
ルディアスは報告書に目を通していくと……その表情はどんどん険しくなっていく。
「皇都防衛基地は壊滅。配備してあったワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードは竜騎士諸共全滅。生存者は一人だけか」
皇都の一大防衛拠点が壊滅した事実に、彼の顔に怒りと共に疲れの色が浮かんでくる。
報告書に目を通すと、ある一行で彼の目が留まる。
「アルデよ。この報告書にある円柱状の物体というのはなんだ?」
「ハ、ハッ! 破壊された防衛基地に、地面に突き刺さって残されていたものでして……」
「……」
アルデよりそう聞き、ルディアスは報告書を見る。
航空機による波状攻撃によって破壊し尽くされた皇都防衛基地であったが、その基地に奇妙な物が残されていた。
それは大きな円柱状の物体であり、滑走路を中心に、基地中にその円柱状の物体が突き刺さっているという。
一見すれば異様な光景だが、これこそがロデニウス側の秘策である。
突き刺さっている円柱状の物体の正体は、ノースカロライナ級戦艦が使う徹甲弾を改造した1トンクラスの徹甲爆弾である。『大和』達が例のアレと呼んでいた物である。
滑走路を破壊する時、地面に大きな穴を作ることで滑走路を使用不能に出来る。しかし空いた穴は塞いで地面を固めることですぐに再び使用可能となる。規模によっては修復できるまでの時間の差はあるが、それでも比較的短く修復できる。
制空権の重要さを知っている『大和』は、飛行場をどうやって破壊して、どうやって使えるまでの時間を稼ぐか、深く考えている。
そこで『大和』達は考えた。修復したくても修復出来ない状況を作り出せばいいと。
彼は『エンタープライズ』達に頼んで、徹甲爆弾を持って来させた。
今回使用した徹甲爆弾には細工が施されており、信管を調整してわざと不発弾になるようにしてある。
その結果、100発以上の1トンクラスの徹甲爆弾の不発弾が滑走路を中心に基地中に突き刺さっているのだ。関係者が見れば頭を抱えたくなる状態だ。
少なくとも滑走路の修復を行うには、突き刺さった不発弾の処理を行わなければならない。その上不発弾の処理を行えば、場合によっては不発弾が爆発して滑走路はもちろん、基地中に大きな穴を開けることになる。
これによって、滑走路の修復にワンテンポの遅れを生じさせる事が出来る。稼げる時間は少ないが、それでも滑走路を使えなくする時間を延ばせられる。
ちなみになぜわざわざ徹甲爆弾でこの作戦を行ったかと言うと、万が一を考えて頑丈な作りをして、尚且つ大きい爆弾が最適であるからだ。通常の爆弾では落下時に調整した信管が誤作動を起こして爆発し、連鎖的に他の爆弾も爆発して作戦が台無しになりかねない。
何より、残しておく不発弾が小さかったら、その上から土を被せて無理やり修復する可能性もあるので、突き出た状態にしてどうしても除去せざるを得ない状況にするのには徹甲爆弾が最適だった。
そして戦後時に、不発弾処理に爆弾が目立っていれば、探す手間が省けるからだ。
「この円柱状の物体があるせいで、滑走路の修復が行えず、現在対処に追われています」
「他の場所に滑走路を臨時的に作れんのか?」
「基地があった周辺は魔素が少なく、その上地形が平らではないので、臨時の滑走路を作れません。新しく作るとなると、地形を平らにする大規模な工事が必要になりますが、今は各所の対応に追われていますので、人手が圧倒的に足りず、とても新しく滑走路を作ることは出来ません」
「……」
「その上、深刻な人手不足に加え、皇都の防衛に大きな穴が開いてしまっています」
「むぅ……」
アルデの説明に、ルディアスは顔を顰める。
ワイバーンロードは飛び立つために、どうしても長い滑走距離が必要である。その上魔素の量によって飛び立つ距離が変わってくる。皇都防衛基地周辺はその魔素が少なく、基地があった場所は比較的魔素の量が多く、尚且つ地形が平坦であるという好条件があった。
しかしそこは破壊された上に、円柱状の物体が突き刺さった状態になっているので、滑走路の修復が行えない。臨時的に新しく滑走路を作るにしても、平らにするために地形を切り開かないといけないのだが、人手が不足しているので、作業を行うこと自体不可能なのだ。
なので、軍としてはどうにかしてでも基地周辺の復旧を行いたいのだ。
「で、ですが、人員不足については解決の目途は立っています」
「ほぅ?」
慌てている様子ながら興味深い事を言うアルデに、ルディアスは声を漏らす。
「パールネウスより人員を割いてもらう必要がありますが、大半は各属領の統治軍を撤収させ、皇都防衛の任と復旧要員に当たらせます。緊急を要する案件ですので、軍最高司令の権限に基づき、既に撤収指示は出しております。
ですが、属領統治軍を全て撤収させても攻撃を受ける前の皇都防衛隊の戦力までの回復は不可能です。その上復旧要員に充てているので――――」
「ちょ、ちょっと待ってください、アルデ殿!」
と、臣民統治機構のパーラスが慌ててアルデの話に割って入る。
「統治軍を全て撤収させる!? そんな事をすれば属領で反乱が起こりかねません! 他の陸軍基地からでは無理なのですか!?」
「無理だ。他の基地の防衛の重要度もある。そこから引き抜くことは出来ん」
「だからと言って、何の相談も無く―――」
「パーラス殿」
と、ずっと黙っていたカイオスが口を開く。
「臣民統治機構は属領で反乱が起きないようするのが役目のはず。それに属領の民は牙を抜かれているでしょうから、反乱の可能性は無いのではありませんかな」
「そ、それは……」
カイオスの指摘に、パーラスは言葉を詰まらせて、すぐに答えられなかった。
というのも、各属領での臣民統治機構の腐敗による暴走は彼も知っていた。本来であれば暴走に関わった職員達を全員処罰し、職員を一新して新たな職員を配備しなければならない。
だが、パーラスはそれが出来なかった。いや、正確にはしなかった、という方が正しい。
理由は簡単な話である。自身もその腐敗に関わっているからだ。
年に四回各属領の臣民統治機構への査察が入るのだが、臣民統治機構の職員達は自分達の罪をもみ消す為に、多額の賄賂を査察官とパーラスに渡していて、パーラスはその賄賂を受け取る事で毎回査察は問題無しとしていた。
自身の年収の三分の一ぐらいの額であったが、それでも73もの属領からその額の賄賂が送られてくるのだ。一度の査察だけで相当な額の金が彼の懐に入ったのだ。その上査察は年に四回あるので、その額は凄まじかっただろう。
そんな甘い蜜を吸い続けていては、今更やめる気は無かった。もちろんパーラス自身それがダメだというのは心の隅で思っていたのだが、ここで臣民統治機構の職員を摘発すれば、道連れと言わんばかりに自分の罪も発覚する。そうなれば自分のキャリアを失うどころか、命を失うことになる。
結局恐れと欲に負けてここまで引きずっていた。
まぁ、その甘さも今の地位が変わることは無い、皇国は常に頂点にあると、そんな甘い考えがあったからだろう。
だが、それが今回打ち砕かれてしまった。
ただでさえ各属領の臣民統治機構の腐敗による暴走で、属領の民達の不満は溜まる一方。牙を抜くどころか牙を研いでいる状況だ。そんな状況で属領にとって恐怖の象徴である統治軍が撤収すれば、どんなことになるか、いくら俗物のパーラスであっても日の目を見るより明らかな事だというのは理解出来た。
しかしそんな事を馬鹿正直に伝えれば、自分の首が物理的に飛ぶことになる。
故に―――
「そ、その通りです、カイオス殿。少々心配し過ぎでした」
死を恐れてパーラスは俯いて、問題無いというのを伝えるしかなかった。
(無様だな)
そんな様子のパーラスを、カイオスは冷たい視線を向ける。彼は密偵を使って調べていて、臣民統治機構の腐敗を知っていた。だからこそのこの質問であったのだ。
「パーラス殿。どの道既に撤収命令は伝えてある。今頃撤収準備を行っている頃だろうから、今更止められんよ」
と、アルデはそう伝えると、パーラスは項垂れ、アルデはルディアスを見る。
「撤収した統治軍は復旧を兼ねて皇都防衛の任に当たらせます。時間は掛かるでしょうが、リントヴルムを使いますので、何とか早期に滑走路を復旧させます。その為にも、パールネウスより増員を行う人員移動の要請が必要になります」
「そうか。分かった。余から言づけておこう」
ルディアスは頷き、他のメンバーにそれぞれの報告をさせる。
しかし忘れてはいけないが、皇都防衛基地だった場所には、無数の不発弾が突き刺さっている状態だ。不発弾は信管異常で爆発していないだけで、いつ爆発するか分からない危険な状態なのだ。
何だったら現在進行形で信管が時限式みたく着々と動いているかもしれない。
本来ならば安全に然るべき手順で不発弾の処理を行わなければならないのだが、パーパルディア皇国では不発弾というものを知らない。なので、彼らは普通に障害物を撤去させる要領で作業を行うつもりである。
ちょっとした衝撃で信管が作動する状態で、雑な撤去作業なんて行えばどうなるか。
それを皇国は身を以って思い知ることになる。
(どうして、こうなったんだ……)
会議が進む中、エルトは顔を真っ青にして、報告書を読むフリをして内心呟いていた。
この間まで皇国の力に絶対的な自信があったエルトであったが、今となってはその自信は崩れ去っている。
第一外務局に居た彼女は難を逃れていたが、その分エストシラントが攻撃を受けている光景を目の当たりにしていたので、彼女のプライドはズタズタにされた。
(ムーの……いや、ロデニウスの言葉は全て真実だった)
彼女は深く後悔している。もしも、ロデニウス連邦共和国について詳しく調べていれば。もしも、ロデニウス連邦共和国を警戒していれば。
しかしいくら後悔しても、後の祭りである。もはやどうしようもないのだ。
「……」
ふと、エルトはカイオスを見る。
周りは絶望した雰囲気を醸し出しているのに比べ、カイオスは疲弊こそしているが、それでも周りと比べてまだ余裕がありそうな雰囲気がある。
周囲は自分の事やこれからのことで頭がいっぱいで、カイオスの違和感に気付いていない。
「……」
そんなカイオスの違和感に、エルトは怪しむのだった。
所変わって、ロデニウス連邦共和国。
「――――以上で、終わります」
クワ・トイネ州にあるスタジオの一室にて、アルタラス王国の王女ルミエスが、深くゆっくりと息を吐く。
「立派なスピーチでした、殿下」
と、ルミエスの護衛の騎士であるリルセイドが、自身の主に拍手を送る。
彼女の周りには、様々な音響機材が置かれており、それぞれの機材にスタッフ達がついて操作を行っており、先ほどの確認を行っている。
「リルセイド。今のでうまくいったでしょうか……」
「もちろんです。スピーチ中に噛むことは無く、静かで、力強く出来ていました。必ず殿下の声は彼らの心に届きます」
「そう、でしょうか?」
「はい。自信を持ってください」
不安な様子を見せるルミエスに、リルセイドは励ます。
「でも、なんだかまだ足りないような気がします……うまく言葉に言い表せないんですが、今のままでは、まだ駄目なんです」
「殿下……」
心配そうな視線を向けるリルセイドをよそに、ルミエスは壁際に顔を向ける。
「大丈夫です、ルミエス様。納得がいくまで、我々は最後まで付き合いますよ」
「申し訳ありません、『蒼龍』様」
壁際に居た『蒼龍』が彼女の元に近寄り、申し訳ない様子のルミエスに優しく告げる。
ルミエスはある事を行う為、現在ロデニウス連邦共和国のスタジオの一つを借りて練習を行っている。その様子をエストシラント空襲を終えて帰還した『蒼龍』が見守っている。
それは戦局に大きな変化を与え、皇国の足元を崩す最強の一手である。
『蒼龍』はルミエスが納得できるまで、長い予行練習に付き合うのだった。
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