異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第八十八話 研究の結果と忍耐

 

 

 

 所変わって、ロデニウス連邦共和国 トラック泊地

 

 

 

「……」

 

 『紀伊』の執務室にて、『ビスマルク』がデスクに着いて書類の整理作業をしている。『紀伊』は所用があって執務室を不在にしている。

 

(皇国の皇都エストシラントの港の破壊と共に集結していた艦隊の壊滅。デュロを合わせて皇国は海の戦力をほとんど失ったことになる。その上港にある造船所も破壊されている以上、新たな戦力の補充も不可能か)

 

 書類の整理作業と並行して、タブレット端末の画面に表示している先の戦闘の結果を見ている。

 

(皇都防衛基地の壊滅。置き土産は効果を発揮している、か)

 

 タブレット端末の画面を動かして、忍びのKAN-SENより送られてきた皇都防衛基地の被害と現在の状況を確認する。

 

(皇国も失った人員の補填に属領を支配する臣民統治機構の軍を撤収させているようね。この辺りは情報提供者の言った通りね)

 

 『ビスマルク』はタブレット端末の画面に表示されている報告内容を確認し、目を細める。

 

 以前から共和国は、皇国内部にいる情報提供者より内部情報を得ており、統治軍の撤収の件は本来機密情報なのだが、その情報提供者によってロデニウス連邦共和国に齎されている。

 

(作戦は第一段階終了。第二段階も各種準備を終えつつあり。作戦は近い内に実行可能、か)

 

 彼女は内心呟きつつタブレット端末の電源ボタンを押して画面を消すと、手にしている書類を机に置いて深く息を吐く。

 

「……」

 

 ふと、彼女の視線は下に向き、自身のお腹を見下ろす。

 

 以前より僅かに膨らみを増したそのお腹に、彼女は微笑みを浮かべて手を置き、優しく撫でる。

 

 『紀伊』との間に出来た新たな(メンタルキューブ)は、少しずつ形成しつつあり、彼女の外観に変化がみられるほどの大きさになりつつあった。

 

 

 コンコン

 

 

 と、扉がノックされ、『ビスマルク』は顔を上げる。

 

「敏郎だ。『紀伊』は居るか?」

「トチローか。『紀伊』は居ないが、話なら私が代わりに聞くぞ」

「それで構わない」

 

 と、扉が開いて敏郎が入って来る。

 

 ちなみにこのトラック泊地でごく少数しかいない人間の一人である大山敏郎であるが、どうも重桜以外のKAN-SEN達は彼の名前をうまく発音ができないのか、『敏郎(としろう)』ではなく『敏郎(トチロー)』となってしまうそうである。

 

「『紀伊』はどうした?」

「『紀伊』なら自分の艤装を見に行って技師から話を聞いている」

「そうか。そういや帰ってすぐにドック入りしてたな」

 

 敏郎は泊地にあるドックを思い出す。

 

 先のデュロに対する艦砲射撃を行っていた『紀伊』と『尾張』だが、本来帰還用の為に残す予備弾薬も使っての艦砲射撃を行ったことで砲身寿命が大きく削れたこともあって、大規模点検を兼ねて砲身交換を行う為、二隻共ドック入りしている。

 

「それで、トチローは何の用で来た?」

「あぁ。言われていた例の機体についてだ」

「例の? もしかして完成したばかりのあれか?」

 

「あぁ」と敏郎が答える。

 

 例の機体とは、以前から開発を進めていた機体で、ようやく試作機が完成して試験を重ね、量産機としての初号機が完成して乗員の訓練を終えたばかりであった。

 

「と言っても用意できたのは試作機と量産初号機だけだがな。弐号機は乗員の訓練が間に合わないそうだ」

「そうか。まぁ精々一機だけでも使えればいいと思っていたから、もう一機使えるのなら都合が良い」

 

 『ビスマルク』は棚から牡丹餅の結果に気を良くして頷く。

 

「二機は整備点検を行って準備を終え次第、アルタラス島へ向かう予定になっているそうだ」

「『ヤマト』と『紀伊』には私から言っておく」

「そうか。済まないな」

 

 敏郎は『ビスマルク』を見て、申し訳なく頭の後ろを掻く。

 

「? それは?」

 

 と、『ビスマルク』は敏郎が脇に抱えているファイルに気付いて声を掛ける。

 

「あぁ、これか? 『リュウコツ』と艤装に関する研究資料だ」

「以前からトチローが妖精達と共に研究を行っている、あれか?」

「そうだ。KAN-SENの性能向上を目的にしたものだ」

 

 敏郎は机に近づくと、脇に抱えているファイルを机に置いて『ビスマルク』に見せる。

 

「以前から行っているKAN-SENの強化は、妖精達の力を借りて既存の艤装に改造を施して、性能を向上させているものだ」

「……」

「だが、これではすぐに限界が来るのは目に見えている。だから性能が良い別の艤装を用意すればいい、というわけでは無い」

「艤装の適合か」

「あぁ。KAN-SENにはそれぞれ艤装の適合がある。それ故に艤装の交換は上手くいかないんだ。いやまぁ、ここで行っている改造自体も普通なら憚れる行動なんだがな。KAN-SENに異常を起こさないとも言えないからな」

「……」

 

 『ビスマルク』はファイルを手にして表紙を開く。

 

「だが、トチローはKAN-SENの大規模な改造に成功しているじゃないか。『ヤマト』もそうだが、『赤城』『加賀』『飛龍』という結果を残している。まぁあれは改造と言うより新造していると言えなくも無いが……」

「それは妖精達の高い技術力の賜物だ。俺だけじゃ成しえなかったんだ。それに技術的にはまだ完全じゃない。『榛名』と『摩耶』はそれが顕著に出ている」

「それでも、基礎構想はお前が生み出したんだ。妖精達の技術力が高いのは確かだが、同じ考えが出るとは限らん。胸を張って誇れることだわ」

「……そうか。まぁそう言ってもらえれば、気は楽だな」

 

 敏郎は深めに息を吐く。

 

「まぁ、さすがに妖精達でも独力でここまでたどり着くのは難しかったさ。少なくとも、『奴ら』が来るまではな」

「……奴らか」

「そして、今回もそうだ」

「……」

 

 『ビスマルク』は目を細めて、ページを捲って『リュウコツ』に関する研究資料を確認する。そこには事細かく『リュウコツ』の研究に関する記述が書かれている。

 

「奴らの考えは分からんが、奴らが渡してきたデータのお陰で研究は飛躍的に進んでいる。第二世代のKAN-SENから得られたデータも相まって『リュウコツ』に関するデータの解明に繋がった」

「その結果、KAN-SENの艤装交換が可能となった、か」

「あぁ。今は更に研究を進めて、第二世代のKAN-SENから得られたデータを基に、新鋭の艤装の開発を行っている。将来的には艦種の変更も可能になる」

「そうか……」

 

 彼女は研究資料を細かく確認していると、敏郎が声を掛ける。

 

「無理はするなよ。今が大事な時期なんだろ?」

「分かっている。今日はこのくらいで切り上げるつもりだ」

「ならいいんだが。『紀伊』によろしく伝えておいてくれ」

 

 敏郎はそう言うと、執務室を出る。

 

「……」

 

 敏郎が出たのを確認し、『ビスマルク』はファイルを片手に持ったまま、自身のお腹を見て手を置く。

 

(そうだな。無理は出来ないか)

 

 彼女は内心呟くと、ファイルを閉じて書類を纏めて片付け、『紀伊』へ宛てた置きメモを机に残して立ち上がり、執務室を出る。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、パーパルディア皇国が多く抱える属領の一つ、クーズ

 

 

 

 魔石が取れなくなって放棄された廃坑。臣民統治機構の職員も近づかないような場所であるが、そこは密かな決意を胸に抱いた同志たちの秘密の集まりの場となっている。

 

 

「なぁ、ハキ! もういい頃合いだろ!」

 

 廃坑の中で一番広い区画に、男たちが集まっており、一人がハキに訴えかけている。

 

「俺達全員この銃の扱いに慣れた! 身体だって食事を摂って鍛え直した! もう皇国のクソ野郎共に負けやしない!」

「そうだ! もうこれ以上は我慢の限界だ!」

「やつらの暴力と搾取は日に日に酷くなる一方だ!!」

「密かに行われた食料支援で国民の飢えは多少良くなったが、それでも完全じゃない!」

「街のどこかで飢え死にしている者だっているんだ! これ以上犠牲者を増やしても良いのかよ!!」

 

 男たちは訴えを起こしているが、代表格のイキアとハキは腕を組んで静かに唸るだけだった。

 

 ここに集まっているのは、来るべき時に祖国解放の為に集まった同志たちである。以前から徐々に集めていたが、今では廃坑の一番広い空間を埋め尽くす程に増えている。

 

 何処から密かに支援を受けている彼らは武器の提供に加え、食料の提供が行われており、前まで疲弊していたり、痩せていた男たちはすっかりガッチリした体格になっている。

 もちろん市民達に配る食料もあって、密かに配られている。これで奪い合いや横取りが無い所を見ると、お互い助け合っているというのが分かる。

 

「お前達の気持ちは痛いほど分かる。だが、まだ早いんだ」

「仕掛けるタイミングを見誤れば、これまでの努力が水の泡になる」

「だからって!」

「今この瞬間にも民は苦しんでいるんだぞ!」

「お前はこのままで良いのか!」

 

 

「仮にここで勝てたとしても、その後はどうする」

 

 と、イキアが興奮する男たちを宥めようとすると、第三者の声がして静かになる。

 

「ここを牛耳っている連中は、所詮格下の属領を支配する程度の練度と装備しかない」

 

 全員が声がする方向を見ると、そこにはボロ布を纏う男性の姿がある。

 

「d.s殿」

「ここに居る連中位ならこの戦力でも勝てるだろう。辛勝ではあるが」

「でも、その後に来るのは、ここの連中よりも練度も装備も良い正規軍よ」

 

 と、d.sと呼ばれた男性こと『U-666』の陰から同じくボロ布を纏う少女二人が出てきて、黒髪に白いメッシュを入れた少女がそう告げる。

 

「s.d殿。v.s殿……」

「装備と練度が良い上に、空からの攻撃がある正規軍が相手じゃ、あなた達は手も足も出せない。その上でこの国は滅ぼされるだけだよ」

「それは、あなた達が望むことでは無いはず」

『……』

 

 s.dと呼ばれている少女こと『U-73』とv.sと呼ばれている少女こと『U-47』がそう言うと、男たちは黙り込む。

 

 地下組織に流している銃は、少なくとも皇国が装備しているマスケット銃よりも性能は良いものだ。その性能差を生かせば臣民統治機構軍相手に勝つ事は出来る。

 

 しかし統治軍は、所詮格下の国を支配する組織の軍とあって、装備の質は型落ちばかり、兵士の練度も最低限なレベル。その上ワイバーンロードもいない。それに比べ、正規軍は最新鋭の装備に、どの兵士も練度は高い。その上ワイバーンロードなどの空の攻撃もある。どう考えても性能が良い銃を装備した程度でどうにかなる戦力と力量の差ではない。

 

 当然属領で反乱が起きれば、反乱分子は全員殺され、そのまま国そのものが滅ぼされるだろう。

 

「まぁ、そう遠くない内に時が来る。それまで待っていて欲しい。必ず祖国を解放出来る」

『……』

「それに、少しずつ変化は起きているよ」

「それは、どういうことですか?」

 

 『U-73』の言葉に、ハキが怪訝な表情を浮かべて問い掛ける。

 

「皇国の皇都、エストシラントがロデニウス連邦共和国の攻撃で、壊滅的な打撃を受けたのよ」

『っ!?』

 

 『U-47』が答えたその内容に、誰もが驚愕の表情を浮かべる。

 

「そ、それは、本当ですか!?」

「あぁ。皇軍はその損害の穴埋めとして、各属領から統治軍を引き上げさせている。現にクーズの統治軍も慌ただしく動いているだろう」

「そういえば、ここ最近のあいつらはどこか落ち着きが無かったような」

「それに加えて、いつもよりも暴力や搾取が強かったがな」

 

 『U-666』がそう言うと、ハキは心当たりがあったのか呟き、イキアは恨めしそうに呟く。

 

「だから、待っていて欲しいのよ。待っていれば、属領に残っているのは管理職の職員と、警備に必要な人員ぐらいよ」

「なるほど」

「そういうことだ。いずれその時は来る。それまでひたすら牙を研いでおけ」

 

 彼がそう言うと踵を返してその場を後にして、二人の少女も彼の後に付いて行く。

 

「……」

「ハキ」

「分かっている。彼らのお陰で俺達はこうして皇国に対抗できる力を手に出来たんだ」

 

 ハキは頷くと、後ろに振り向いて男たちを見る。

 

「分かっているな。今は、兎に角待つんだ。祖国解放は、必ず成し遂げられる」

『……』

 

 彼の言葉を聞き、男たちは一同頷いて了承の意を示す。

 

 

 

 ちなみにこれまで出て来ているコードネームの男女であるが……その正体はロデニウス連邦共和国の関係者。

 

 それもKAN-SENで構成された特殊部隊―――特戦隊のUボートのKAN-SEN達である。

 

 ロデニウスは、接触前からパーパルディア皇国との戦争は避けて通れないと考え、皇国と戦う為の伏線を敷いて来た。

 

 その一つが、皇国が抱える属領である。属領は皇国の食糧事情に深く関わっているライフラインであるのが調査で判明している。その上、各属領では臣民統治機構の腐敗による暴走によって、属領に住む民の不満は日に日に高まっているのも判明している。

 

 『大和』と『天城』、『紀伊』と『ビスマルク』の四人は、その皇国のライフラインと属領の住人の不満に目を付けた。 

 

 エストシラントへの攻撃は、戦略的面もあるが、統治軍が失った戦力や人員の穴埋めに引き抜かれると予想しての面もある。もちろん、成功しなかった場合のBプランもあったのだが、行う必要は無くなった。

 

 次に裏で各属領の地下に潜む反乱分子に武器を提供し、教練を施すことである。怒りが溜まっている中で恐怖の対象になっている臣民統治機構軍が居なくなれば、どうなるかは日の目を見るより明らかな事。そこへ皇国よりも優れた武器を手に入れて教練が施されれば、簡単に皇国の支配から属領を解放できる。

 ライフラインである属領を失えば、皇国は兵站を失うことになるどころか、様々な面で国として立ち行かなくなる。

 

 ロデニウスは秘密裏に各属領へ特戦隊によって武器兵器の提供を行い、扱う為の教練を施している。

 

 これまで皇国にバレることなく事が進んでいるのを見ると、特戦隊の隠密性の高さが伺える。もしくは臣民統治機構が慢心してあまりにもバカ揃いなのか。

 

 前者もあるが、圧倒的に後者の可能性が強いのだろう。

 

 しかし武器を提供して後々問題にならないのか? と思われるかもしれないが、その辺は抜かり無し。その辺の対策は武器自体に施してあるという。

 

 

 ともあれ、ロデニウスの目論見は着々と進んでおり、それが明るみに出た時、この戦争は大きな転換点を迎えることになる。

 

 

 

 




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