異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊 作:日本武尊
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中央歴1640年 2月15日 パーパルディア皇国
「くそっ! くそっ! くそぉっ!! なぜ、なぜこうなったんだ!!」
自分の執務室でアルデは頭を抱えて恨めしそうに悪態をつく。
ただでさえ皇都エストシラントが空襲され、皇都防衛を担う基地が壊滅したことで、軍の被害は深刻なものとなった。
その上、デュロも壊滅的打撃を受けたことで武器・兵器の供給が滞ってしまい、そもそも皇国の防衛自体に暗雲が立ち込めている。
更に止めを刺さんばかりに属領全てが解放され、その属領全てが連合を組んで皇国に対して一斉に宣戦布告を行い、皇国本土へ進撃を開始した。
多くの食糧を属領で賄っていたので、皇国は食糧の供給もままならなくなってしまっていた。
(くそぉっ!! パーラスめ!! 何てものを遺しやがったんだ、あの野郎!!)
アルデは憎たらしくパーラスの顔を思い出す。
しかし当の本人はもうこの世のはおらず、あの世に旅立ったパーラスに憎しみの言葉を送るしかなかった。
ルミエスの演説の最中にパーラスは突然ふらふらと立ち上がって、周囲の職員達が戸惑った様子で見ている中、彼は突然走り出して窓に突っ込んで突き破り、そのまま外へ身体を投げ出して地面に叩き付けられた。頭から叩きつけられて首の骨が折れたので、即死であった。
彼自身の罪が確定的になって、パーラスは罪逃れをしようと衝動的に身投げしたのだ。
その為、臣民統治機構の局長の席は空席となり、組織として機能していない状態だった。まぁ仮に後継者が決まっても、その組織がする仕事はもはやないのだが。
尤も、誰もその席に座りたがらないだろう。誰が前任者の責任を背負いたがるものか。
(どうする……この状況でどうやってロデニウスの攻撃を防げばいいんだ……)
アルデはこの状況に嘆くしかなかった。
先の空襲で多くの兵や軍関係者が死亡し、その上皇都防衛基地の不発弾が爆発して、撤去作業に携わっていた兵士達が全員死亡してしまい、軍は防衛基地と港の復旧作業がままならなくなっていた。もはや防衛も出来るような状況ではない。
アルデ自身は意外にも罰せられることなく未だに最高司令官の座にいる。というのも、後任がまだ見つかっていない状況で処分すれば軍の運営に支障をきたすとして、ルディアスのお情けで残されているようなものだった。
尤も、アルデとしてはさっさと処分して欲しいと思っている。
「あ、アルデ様!!」
と、執務室の扉をノックしないで職員が慌てて入って来た。
「今度はなんだ!!」
アルデは入って来た職員に怒号を上げる。さっきから様々な報告が入って来て、その度に彼の胃を締め付け、精神を削っていたので、かなり苛ついている。
「地方都市アルーニに、反乱軍が攻めて来たと報告が入りました!」
「っ! もうアルーニに来たのか!」
職員の報告を聞き、アルデは驚愕しつつ、歯噛みする。
アルーニはかつてのパールネウス共和国の国境線の位置にある地方都市である。地方都市とあるが、発展具合は地方都市としては大きい方である。そのわけはアルーニが万が一属領で反乱が起きてもすぐに対処できるようにと、アルーニの近くには大きな規模の陸軍基地があり、多くの戦力がこの基地に駐留しているからである。
しかし反乱は起きたばかりで、その上蛮族では足並みが揃えられないからすぐに攻めてこないと思っていたのだが、彼の予想以上の早さで攻めて来たのだ。
(だが、アルーニは多くの魔導砲に加え、ワイバーンロード、その上数は少ないがワイバーンオーバーロードも配備してある。反乱軍の蛮族など、恐れることはない)
だがアルデはあまり慌てる様子を見せず、顔に自信ありげな色を見せる。
皇都の空襲は許してしまったが、あくまでも身構えていない状態で奇襲を受けたという認識でしかなく、今では他の基地は警戒態勢を取っている。少なくとも事前に準備してあるとあって、反乱軍程度は防衛できる自信があったので、アルデは口角を上げる。
「それともう一つ」
「なんだ?」
「反乱軍に混じって……リーム王国の旗が確認されたとの報告が」
「リーム? リーム王国だと!?」
アルデは驚いて思わず立ち上がる。
「馬鹿な!? リーム王国から宣戦布告された報告は聞いていないぞ!」
「ですが、現にリーム王国は反乱軍に混じって進軍しています」
「間違いじゃないのか!?」
「特徴的な模様ですので、見間違えるはずがありません」
「くそっ! リームのハイエナ共めが!!」
何度も確認するが間違いないとして、アルデは拳を机に叩きつける。
リーム王国とは、フィルアデス大陸に存在する一国家である。文明国ほどの技術力は無いが、他の国と比べると一段上の技術力を有しているので、準文明国として扱われている。
パーパルディア皇国は準文明国としてリーム王国を見ているが、あまり快く見ていなかった。というのも、リーム王国は常に強い国に付いておこぼれをもらう蝙蝠外交をすることで有名だった。だからこそ皇国はリーム王国に警戒していた。
そして、皇国がいざ負けそうになると、彼らはロデニウス側に付いたのだ。
その上、リーム王国は宣戦布告もしないで、しれっと連合軍に混じっているのも問題だった。73ヵ国連合軍を形成する各国は、律儀に第三国経由で皇国に宣戦布告を行っているのにだ。
皇国は、更なる苦難に見舞われることになった。
時系列は少しだけ遡る。
所変わり、皇国の属領に近い位置にある地方都市アルーニ。
アルーニにはエストシラント、デュロにある基地と同等の規模を持つ陸軍基地があり、万が一属領で反乱があっても、ここから軍を送り出して反乱を鎮圧していた。
それが今では、最前線となっている。
アルーニ北側の名も無い平野部に展開したパーパルディア皇国兵。その数約三千。
先頭には地竜リントヴルムを置き、その後方に銃兵が整列、更に魔導砲兵が支援として展開している。
後方にある基地ではワイバーンロード、配備されたばかりのワイバーンオーバーロードがいつでも飛び立てるように準備している。
「ぬぅ、数だけは多いな」
単眼鏡を覗き込む部隊長リスカは、視線の先に広がる光景に言葉を漏らす。
視線の先には、平原を覆い尽くさんばかりの多くの反乱軍の兵士達の姿がある。その数約五千。人数だけならばパーパルディア皇国よりも多い。
「しかし、数だけです。蛮族がいくら集まった所で、所詮は蛮族。烏合の衆に皇国が敗れるはずがありません。奴らはなぜこのような単純な事が理解出来ないのでしょうか」
「ロデニウスが局地戦で皇国に勝利したからな。その内の一つが皇都だから、蛮族共は我々に簡単に勝てると思っているのだろう」
「勘違いも甚だしいですな」
副隊長は展開する反乱軍を見て鼻を鳴らす。
しかし皇都エストシラントと皇都防衛基地、デュロが攻撃されて大きな損害を受けたというのは、軍全体に動揺を走らせたのは間違いなく、アルーニの防衛基地でも戸惑いを隠せなかった。
だが、その動揺は当初のみで、今では立ち直っている。
ドンッ!! ドンッ!! ドンドンドンッ!!!
すると太鼓の音がし始め、反乱軍が動き出す。
騎馬隊を先頭に、槍兵、歩兵の順で皇国の布陣へ走って来る。
「そろそろ魔導砲の射程距離ですが、撃たなくてよろしいのですか?」
「まだ引き付けろ。無駄なく蛮族を仕留める為に、良く狙え。こちらが有利に変わりないが、補給がままならないそうだからな」
「はっ!」
リスカの指示を受け、副隊長は魔導砲兵に指示を伝える。リスカは再度単眼鏡を覗き込んで、騎馬隊を見る。
馬に騎乗する騎兵は手に棒状の物体を手にして走らせている姿が見える。
「剣や槍もなく棒切れしかないとは、つくづくそんな状態で―――」
と、リスカはある違和感を覚える。
騎兵が持つ棒切れだったが、よく見ると何やら金属部品らしい物がついているのに気付く。他の騎兵も同じ物を持っている。
(なんだ? 妙に複雑な構造をして……)
と、違和感を覚えた直後に、騎兵はその棒切れを構える。その構えはまるで銃を構えるかのようなものである。
「やつら、一体何を……」
副隊長も気づき、声を上げた瞬間―――
ッ!! ッ!! ッ!! ッ!! ッ!! ッ!!
直後に破裂音が戦場に鳴り響く。
「っ!? まさか……!?」
リスカがその正体に気付いた瞬間、騎兵隊に近づいていたリントヴルムが断末魔を上げながら次々と倒れる。
「まさか、銃か!?」
「そんな馬鹿な!? なぜ蛮族が銃を持って!?」
ありえない事実を目の当たりにして二人は驚愕する。もちろんそれは他の皇国兵達も同じであり、動揺の空気が走っている。
「それに、馬に騎乗しながら銃を撃って命中させただと!? 何という実力だ!?」
「しかし、騎乗したままではロクに装填は出来ません!」
見下している蛮族が銃を持っているというのも驚きだが、何より馬に騎乗して走っている最中に銃を構えて発砲し、弾を命中させている。皇国でもこんな曲芸染みたことが出来る兵士は居ない。リスカは思わず称賛の声を上げるほどに驚いていた。
とは言えど、一発撃った以上装填しなければならないといけない。しかも馬の上では装填なんて不可能に等しい。
だからこそ、二人は一度きりの強襲攻撃だと、楽観視していた。
|皇国のマスケット銃基準なら、恐らくそうだっただろう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
「?」
と、何かに気付いたリスカはすぐに単眼鏡を覗き込んで騎兵を見る。
よく見ると騎兵は何かをしていて、すぐに銃を構える。
「奴は何を―――」
リスカが口を開いた直後、騎兵の持つ銃から銃声が放たれ、直後にリントヴルムが倒れ込んで動かなくなる。
「なっ!?」
「馬鹿な!? 装填もしていないのになぜ撃てるんだ!?」
明らかに装填作業を行っていないはずなのに、なぜか銃を撃てる騎兵に混乱していた。
それもそのはず。その銃はパーパルディア皇国のマスケット銃を上回る性能をしているし、構造だって違うのだ。
反乱軍が使用しているのは『九九式短小銃』と呼ばれるボルトアクションライフルである。
この九九式短小銃はロデニウス連邦共和国が属領の地下組織に供与するために一部設計を変更し、製造されたライフルである。
その性能は射程、精度、連射、威力、全てにおいてパーパルディア皇国のマスケット銃とは比べ物にならない。
しかもこの銃、数が必要だったので一部省略し、質が少し落とされて量産性を上げている。つまり見た目は九九式短小銃の中期型なのだが、品質は末期型という銃なのだ。
まぁわざわざ末期型の品質にしてあるのには、もう一つ理由があるのだが、それは後々語られるだろう。
もちろん実戦ではちゃんと使えるし、定期的で適切なメンテナンスを行えば長持ちする銃である。まぁそれでも質の関係で寿命が短い銃であるが。
それでもベアハンターと呼ばれた九九式短小銃はその威力を発揮し、リントヴルムの硬い外皮を貫いて仕留めている。
ちなみに、騎馬隊が所属している国では、かつて他国にその強さを示していた騎馬隊を有していた過去があり、属領時代でも馬の扱いに長けた者が多かった。そこでこの騎乗スキルを活かして馬に乗りながら銃を撃てる訓練を行った。
しかしさすがに秘密裏に銃の射撃訓練を行える場所があっても、馬に乗って銃を撃つ訓練をするわけにもいかない。馬なら銃声に慣らす訓練は別の場所で行えるが、現地の人間を別の場所に連れて行くわけにはいかない。こればかりは現地でなければ出来ない訓練だ。
馬に乗りながら銃を撃って、それで命中させられるには当然実際にやって練習するしかない。
そこで特戦隊は本土で急遽乗馬マシーンからヒントを得た馬に騎乗した状態をリアルに再現した乗馬訓練マシーンを作らせて練習に使わせた。ちなみにそのマシーンを作らせるのに妖精達にかなり無理をさせていたとかなんとか。
現地の元騎兵曰く『かなりリアルだった』と好評であった。このマシーンを使って騎乗時で銃を撃つ訓練を施した。その結果が今回の戦闘で発揮されたというわけだ。
まぁ実際の馬に乗っての射撃はぶっつけ本番だったが、結果は上々である。
ちなみにその乗馬訓練マシーンだが、訓練を受けた者達からかなり好評だったのか、後に大量発注が行われることになるのだが、それは後々の話である。
騎馬隊は騎乗したまま銃を構えて射撃を行い、リントヴルムを次々と仕留めていく。魔導砲兵はあまりの衝撃で棒立ち状態だった。
「っ! 何をしている! 魔導砲を撃て!!」
リスカはハッとしてすぐに指示を出し、副隊長が復唱して伝えると、魔導砲が次々と白煙を上げて砲丸を放つ。
放たれた砲丸は向かってくる反乱軍に降り注ぎ、着弾地点近くにいた反乱軍の兵士が吹き飛ぶ。しかしそれでも反乱軍は突き進む。騎兵隊は一部が砲撃に巻き込まれながらも、リントヴルムの導力火炎放射の射程外から銃撃を行ってリントヴルム仕留めていく。
「銃兵隊! 構えぇっ!!」
続けて銃兵隊に指示を出し、皇国兵達はマスケット銃を構える。
「まだだ、まだだぞ……」
マスケット銃の有効射程まで敵を引き付けようと、リスカは皇国兵に指示を出し続ける。
すると反乱軍の兵士はマスケット銃の有効射程に入るだいぶ前で立ち止まり、整列し始めて地面に腹ばいになる。
「っ! 蛮族共が急に……!」
「やつら、一体何……っ!?」
突然の反乱軍の行動に二人は戸惑いを見せるが、リスカは目を見開く。
「まさか……やつらが持っている武器は!?」
リスカが驚いていると、反乱軍の兵士達が手にしている武器を構えると、銃声が一斉に放たれる。その直後に皇国兵が次々と倒れていく。
「なっ!?」
副隊長は多くの皇国兵が倒れる光景を目の当たりにして、驚きを隠せなかった。
「やはり銃か!」
「馬鹿な!? 奴らの銃は我々の銃よりも射程が長い上に! 正確に狙えるのか!?」
リスカは歯噛みし、副隊長は信じたくない光景に、声を上げる。
明らかにマスケット銃の有効射程外で、その上正確に狙える銃を相手が持っている。その事実は彼らに動揺を与えるのに十分だった。
「だ、だが、やつらは既に撃った。すぐには―――」
と、副隊長が言い終える前に、反乱軍から銃声がして更に皇国兵が倒れる。
「う、撃って来た!?」
「馬鹿な!? 騎兵隊といい、なぜこんなに早く撃てるんだ!? いや、それ以前にどうやって装填しているんだ!?」
さっきから驚いてばかりだが、彼らが驚くのには理由がある。
マスケット銃は銃口から粉末魔石と弾丸を入れて、ラムロッドを銃口から差し込んで押し固める必要があるので、立ったままでしか装填できない。なので、伏せたままで装填は出来ない(器用にやればできなくも無いが、まずやらないし、ちゃんと出来るとも限らない)
「っ!」
と、リスカはあることに気付く。
反乱軍の兵士は銃を撃った後、銃の部品を起こして後ろに引っ張り、すぐに先ほど引っ張った部品を押し込んで横に倒し、銃を構える。直後に銃口が一瞬煌めき、皇国兵の一人が倒れる。
「まさか、我々の銃とは構造自体が違うのか!?」
「っ!」
ここに来てようやく反乱軍の銃がこちらの銃と大きく違うことに気付くが、その間に皇国兵は倒れていく。中には命令を待たずに射撃を開始する皇国兵が居るが、距離が開き過ぎているので、弾は明後日の方向に飛んでいる。
(何が、何がどうなっているんだ!?)
リスカはこの状況に頭を抱えたくなって、身体を震わせる。
しかし気が動転しているといっても、彼はすぐさま上空支援を基地に要請させるように指示を出した。
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