異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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グルッペン閣下様より評価9を頂きました

評価していただきありがとうございます


第九十三話 次なる一手

 

 

 

 中央歴1640年 2月17日 ロデニウス連邦共和国 トラック泊地

 

 

「連合軍はアルーニを陥落させたようだな」

「えぇ。現在は休息を兼ねて、戦力の立て直しの為に陥落させたアルーニに留まっているようです」

 

 『大和』がタブレット端末に表示されている報告書を見て呟くと、『天城』が現在の73ヵ国連合軍の状況を告げる。

 

 アルーニにて皇軍との戦闘を終えた73ヵ国連合軍は占領したアルーニに留まり、負傷者の治療と共に戦力の立て直しを行っている。

 他に占領した皇軍基地の滑走路の復旧をしつつ拡張を同時に行っている。

 

「支援物資は?」

「爆撃機を用いた空中投下にて行う予定です。間もなくアルーニ周辺にて物資が届くかと」

「そうか。彼らには十分な支援を行え。大統領からの内諾は得ている」

「はい」

 

 『天城』は頷き、手にしているタブレット端末を操作して『大和』の指示を関係各所に送る。

 

「連合軍の予想進路は……やはりパールネウスか」

「恐らく。パールネウスは皇国にとって重要な都市です。連合軍にとっては必ず落としにかかる場所かと」

「だよな……」

 

 『大和』はそう言うと、ため息を付く。

 

 パーパルディア皇国にとって、パールネウスは前身に当たるパールネウス共和国時代の首都であり、そして現在の皇国の基礎を築き上げたとあって、パールネウスは聖都として定められている。

 

 その聖都を攻め落とすことは、皇国の士気を落とすのに最も適した場所とも言え、そして皇国に終わりを齎す為には必ず落とさなければならない場所とも言える。

 

「『天城』。連合軍が動き出すのは、いつ頃になると思う?」

「そうですね……二週間後……いえ、一ヶ月後といったところでしょうか」

「根拠は?」

「先の戦闘では連合軍が優勢にありましたが、決して犠牲なく勝利を収めたわけではありません。多くの戦死者と負傷者が発生していますので、現在その対処に追われているかと。それに物資不足が出ていますので、動きが取れないのもそれが原因です。もちろん滑走路の件もありますが」

「だろうな。特戦隊によって訓練を施されているといっても、言い方は悪いが所詮寄せ集めだ。練度が低いのもあるし、属領を解放した直後にアルーニに攻め入ったんだ。物資不足になるのは当然か」

 

 彼はそう言うと、腕を組む。

 

 先のアルーニの戦闘は終始連合軍側が優勢であったが、やはり練度不足による粗が目立っており、多くの戦死者を出している。その上物資の消耗も予想以上に多く、属領解放からすぐにアルーニに攻め入ったのも物資不足に拍車を掛けているだろう。

 だからこその支援物資の空中投下である。

 

「特戦隊からの報告では、属領にまだ残っている人員がいるとのことですので、それである程度戦力の補填が可能だそうで、既に移動が始まっています。それとリーム王国からも増援が来ているとのことです」

 

「そうか」と『大和』は頷く。

 

(リーム王国か。人手が増えるのはこちらとしては困ることは無いが……)

 

 戦いにおいて数が重要なのはわかっているが、しかし相手が相手とあって、素直に喜べない。

 

「それに、リーム王国の動きも懸念があります。戦地では夜中に密かにリーム王国の兵士が皇国のマスケット銃や魔導砲、連合軍に提供した銃を回収している姿が見受けられていると報告が入っています」

「やはり、目的は火事場泥棒か」

 

 『大和』は呆れた様子で舌打ちをする。

 

 アルーニでの戦いの後、戦地では疫病防止の為、戦死者の遺体を集めて焼却する作業が行われていた。その際リーム王国の兵士は皇国兵の遺体を集めつつ懐などを漁って金品や金になりそうな品を奪っていて、中には金歯をしてる皇国兵の遺体から金歯をナイフで抉り取る輩が居たという。

 武器兵器の回収も行われていたが、遺体の片付けが優先されたので、ほぼ手付かずとなっていた。その日の夜にリーム王国は回収できなかった武器兵器を回収していた。当然中には連合軍に提供した九九式短小銃も含まれている。

 

「リーム王国には釘を刺しておきますか?」

「必要無い。弾除けの存在は必要だから、勝手に泳がせておけ」

「分かりました」

 

 何やら物騒な事を口にしてる『大和』だったが、リーム王国の評判を耳にしていたので、彼の国がさりげなく参戦していても驚きはしなかった。

 むしろ逆に利用してやろうとと考えるまでだ。

 

 そしてこういうことも想定して、連合軍に提供した九九式短小銃は敢えて品質を下げて作ってあるのだから。

 

 

「では、私はこれで失礼します」

「あぁ。気をつけてな」

「ご心配なく」

 

 『大和』が心配そうに声を掛けると、『天城』は微笑みを浮かべて頷き、執務室を出る。

 

「……」

 

 『天城』を見送ってから、『大和』はタブレット端末を手にして椅子の背もたれにもたれかかり、タブレット端末の画面を開いて報告書のデータを開く。

 

(『摩耶』と『伊吹』二人の艤装の改装が終わったか。まぁ今回の戦争では二人の出番は無いだろうが……)

 

 数ある報告書のデータの中に、以前より艤装の改装が進められていた『摩耶』と『伊吹』であったが、ようやくその改装が終わったという妖精達からの報告があった。

 

 二人に施した改装は次世代の装備を施すもので、主に対空迎撃性能が大きく向上している。両者ともに主砲は全て撤去され、砲の大きさが異なる新型の速射砲を二基ずつ搭載している。『摩耶』が60口径203mm単装速射砲で、『伊吹』が55口径155mm単装速射砲と、大きさが異なる速射砲を搭載している。なぜ異なる口径の速射砲を搭載しているのかというと、どちらの速射砲が巡洋艦の砲として使い勝手が良いかの試験を兼ねている。ちなみにこの他に55口径100mm単装速射砲が開発され、こちらは駆逐艦のKAN-SENで運用される予定となっている。

 

 他には新型の機関砲を搭載し、新兵器を運用する為のプラットホームを新たに搭載している。そしてそれらの新装備を運用する為に、電子機器を一新している。

 

 改装が終わった二人なのだが、パーパルディア皇国の海上戦力が壊滅した以上、海上での航空戦力の脅威がなくなったので、恐らく今回の戦争では彼女達に出番は無いだろう。

 なので、二人にはトラック諸島周辺で実戦さながらの演習試験が行われるだろう。

 

(他の試作兵器も完成して、近い内に実戦にて試験運用を行うか。まぁ満足いく結果は期待できないな)

 

 他にいくつかの試作兵器に関する報告もあり、これらの一部は前線に持っていって試験を行う予定となっている。しかし相手の戦力を考えると、満足いく結果は望めないだろう。

 

 いくつもの報告を見てから、作戦概要のファイルデータを開く。

 

(陸戦隊と共和国陸軍は出撃した。あとは結果を待つだけか)

 

 この戦争を終わらせるための次の一手が発動しているのを確認すると、ふと気配を感じて顔を上げる。 

 

「やぁ」

 

 と、扉の前で小さく手を挙げている少女の姿がそこにあった。

 

「何の用だ『ゲイザー』」

「つれないねぇ」

 

 素っ気ない態度の『大和』に少女ことゲイザーは手を上げながらも、彼の元に向かう。

 

「ようやく面白くなってきたんだ。少しぐらい浮いてても良いんじゃないかい?」

「生憎戦争を楽しむ性分じゃないんでね」

「よく言うよ。いざとなれば容赦ない癖に」

 

 ゲイザーは肩を竦めながらそう言うと、『大和』を見る。

 

「しかし……君の存在自体がイレギュラーであるといっても、KAN-SENだからそれなりに闘争心はあるもんだと思うんだけどねぇ」

「……」

「それとも、その性分は人間だった(・・・・・)頃の名残なのかな?」

「……」

 

 意味深な質問するゲイザーに、『大和』は何も答えない。

 

「まぁいいさ。私は君たちがどうするか、どう動くのか、どう進化するのか、それを見続けるだけだよ」

「……」

 

 『大和』はため息を付くと、ゲイザーを見る。

 

「お前は―――」

「ん?」

「お前達は、何をするつもりだ。お前達『セイレーン』は……俺達に何を望むんだ」

「何を、か」

 

 飄々としていたゲイザーだったが、『大和』の質問に少しだけ真剣な表情を浮かべる。

 

「そうだねぇ。君達に期待している、じゃ不足しているかな?」

「……」

「強いて言うなら……そうだね。事情が変わったから、今は君たちに期待している。それじゃダメかい?」

「事情、ね」

 

 『大和』は答えを得られると期待していなかったのか、気を落とす様子を見せなかった。

 

「だからこそ、『オブザーバー』は君たちにプレゼントを渡したんじゃないか。有意義になるプレゼントをね」

「……」

 

 ゲイザーがそう言うと、『大和』は目を細める。

 

「君たちの所の妖精達なら、あれに保存しているデータを解析できるし、なんだったらリーン・ノウの森で見つけた代物から得たデータを合わせれば、技術は更なる飛躍を見せるんじゃないかい?」

「……」

「見たいんだよ。君達がどこまで高みに進められるか。どれだけの力を得られるかをね」

「……」

 

 『大和』は何も言わず、ただ静かにゲイザーの言葉を聞く。

 

「他のセイレーンが来たのも、オブザーバーからのプレゼントか?」

「さぁ。でも人手があるのは君達にとって助かるんじゃない?」

「……」

「まぁ、私達はただ見るだけ。今は、ね」

 

 ゲイザーはそう言うと、扉を開けて執務室を出る。

 

「あっ、そうだ。一つ聞きたい事があるんだ」

 

 と、ゲイザーは部屋を出る前に振り返る。

 

「君は……人間を信じているかい?」

「……」

 

 彼女の意味深な質問に、『大和』は何も答えない。

 

「……そうか。答えは……――――」

 

 彼は何も答えなかったが、ゲイザーは何か確信を得て小さな声で呟いて、部屋を出る。

 

「……」

 

 『大和』は椅子の背もたれにもたれかかり、深くゆっくりと息を吐く。

 

「……」

 

 彼はそのまましばらく身動きせずジッとしていると、ゆっくりと身体を起こして机の引き出しを引いて、中に入っている物を見る。

 

 そこには一枚の写真と、桜を模した髪飾りが一緒に入っている。

 

 その写真には、『大和』と『紀伊』、『天城』と『ビスマルク』の四人の他に……その中心に車椅子に座っている片脚が無い軍服を身に纏う少女の姿がある。

 

「……」

 

 『大和』はその写真を見つめた後、引き出しを戻してタブレット端末を手にして、報告書を見つめ直す。

 

 

 


 

 

 

 所変わって、パーパルディア皇国

 

 

 辺りはすっかり暗くなったものの、エストシラントの港と基地では一刻も早く復旧させる為に、昼夜問わず作業が行われている。

 

 しかし復旧に携わっている兵士以外の職員はさすがに余裕が生まれたのか、自宅に帰宅出来ている。尤も、帰宅出来ているのは上司ぐらいで、下っ端は未だに働き詰めなのだが。

 

 

「……」

「その辺にしておけ。飲み過ぎだ」

「うるさい……そんな事、お前が決めることじゃない」

 

 酒に浸るエルトにカイオスが注意するが、彼女は無視してワインを注いだグラスを傾ける。彼女の周りに転がっているワインの瓶の数がどれだけ飲んだかを物語っている。

 

「全く。今は食料だって入手が困難な時なんだぞ。酒なんか余計に入手できないっていうのに」

「どうせ地下に備蓄してあるのだろう。一本や二本程度大したこと無いだろう」

「もう五本以上空けておいてよく言う」

 

 普段の彼女からは想像つかない醜態にカイオスはため息を付く。 

 

 久しぶりに帰宅出来たとあって、カイオスはワインを飲もうと思っていたところ、一時間ほど前に来客が来た。それが意外にもエルトであったのだ。

 

 彼女は来て早々、カイオスが呆れるほど飲んでいる。

 

「全く。らしくないじゃないか。なんでそこまで荒れているんだ」

「あんなに過酷な状況になれば、こうもなるだろう」

「……だろうな」

 

 エルトがカイオスを睨みつけながらぼやくと、彼は苦笑いを浮かべつつ肯定する。どうやらエルトがいる第1外務局は荒れているようだ。その上レミールが居るのが余計に荒れている原因なのだろう。

 

「……カイオス」

「なんだ」

「お前は……知っていたのだろう」

「何のことだ」

「とぼけるな」

 

 と、エルトはカイオスに問い掛けるが、彼はその内容を察してか分からないフリをする。その態度が気に入らなかったのか、エルトは目を細めて不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。

 

「ロデニウスがあれだけの力を持っていたのを、お前は知っていたのだろう。お前は密偵を持っていて商人の出だから顔が広い。情報は集めやすかっただろう」

「……」

「それに、この間の御前会議はお前だけ妙に落ち着いて他と反応が違っていた。普通はあり得ないぞ」

「……」

「沈黙は肯定と捉えるぞ」

 

 カイオスは深くため息を付くと、ワイングラスを傾けてワインを飲む。

 

「だったら、どうする?」

「っ! どうするだと!」

 

 エルトはテーブルを叩いてふらつきながらも立ち上がる。

 

「知っていたのなら、なんで教えなかったんだ!? ロデニウスの情報をより詳しく知っていたら――――」

「知っていたら、何だ?」

「っ……」

 

 カイオスは殺気めいた視線を向け、エルトは怯む。

 

「どうせ荒唐無稽な話として、お前達は受け入れなかったろう」

「それは……」

「だから言わなかった。無駄になるのは分かっていたし、自分の立場を自ら危うくする必要は無かったからな」

「……」

 

 エルトはカイオスの言葉に怒りを覚えるが、かといって言い返すことは出来なかった。これまでの自分だったら、ロデニウスの情報を得ても信じることは無かったろう。

 

「いつからだ。いつから、知っていた?」

「フェン王国に懲罰攻撃を行う前には、既に知っていた」

「……そんな前から既に知っていたのか」

「逆に、攻撃されるまで知らなかったお前達に驚いたよ。てっきりアルタラス王国への攻撃が失敗した時点で違和感を覚えたと思っていたが」

「……知らなかったのだ。アルデが情報を秘匿していたのだから」

「言い訳だな。艦隊が丸々戻って来なかったら違和感ぐらいあっただろうに」

「……」

 

 カイオスは呆れて鼻を鳴らす。エルトは何も言い返せなかった。

 

「どちらにしても、もう過ぎてしまったことだ。今はこの戦争をどう終わらせるかを考えなければならない」

「……」

「まぁ、今のままでは終わろうにも、終わらんだろうがな」

 

 カイオスが失望したような声で呟くと、エルトを見る。

 

「今日はもう帰れ。明日だって忙しいんだろ」

「……あぁ」

 

 彼はエルトに肩を貸しながらそういうと、彼女は短く返事をして、彼に連れられて屋敷の外に向かう。

 

 

 


 

 

 

 中央歴1640年 2月19日 デュロ

 

 

 朝早く、霧で辺りが白く染まっているデュロ。

 

 

「……はぁ」

 

 港の一角で兵士がため息を付く。

 

 彼の視線の先には、工業都市として発展したデュロの自慢の港があったが、今となってはその面影は無く破壊の限りが尽くされた港があり、湾内には破壊された船舶の残骸が沈んでおり、海底に沈んだワイバーンロードや人間の死体から発生しているのか、焦げ臭いにおいに混じって生臭いにおいが混じっている。

 

 夜中に攻撃を受けたデュロは予想以上の被害を受けており、港はもちろん、工業地帯は火災によって全滅し、その火災の余波で住宅街にも広がって、大規模な火災となった。今はようやく火災は鎮火したものの、建造物と人員の被害は目を覆いたくなるようなレベルだという。

 

 しかし不幸中の幸いというか、港と工業地帯のみ攻撃したお陰かどうかは定かではないが、陸軍基地は手付かずで、一部の陸上戦力とワイバーンロード、ワイバーンオーバーロードと言った航空戦力はほぼ無傷で残っている。

 

 そして海岸線に設置したムーのトーチカを模倣したトーチカも無傷で残っているので、防衛戦力は残っている。

 

 しかし兵の士気は低下している上に、その戦力は半分以下となっているので、正直戦えるかどうかは何とも言えない。

 

(皇国は……俺達の国はどんな敵を敵に回したんだよ)

 

 兵士は内心呟いて再度深くため息を付き、「くそっ」と悪態をつく。

 

 彼は陸軍基地所属であったので被害に遭わずに済んだが、朝になって港を見て、凄惨な光景に彼は思わず吐いてしまうほどだった。

 

「一体皇国はどうなるんだ……」

 

 皇国がロデニウス連邦共和国に宣戦布告をして殲滅戦を宣言したのは彼も聞いているので、彼の中には絶望しかなかった。

 

 

「ん?」

 

 ふと、兵士は顔を上げる。

 

「何の音だ?」

 

 霧の奥から何やら聞き覚えの無い音がして、彼は耳を澄ませる。

 

 彼は上官より渡された単眼鏡を手にして、霧の中を覗き込む。

 

「……」

 

 兵士は目を凝らして霧の中を見つめる。

 

「っ!?」

 

 そして霧の中に潜む物を見つけ、彼の目が見開く。

 

「ま、まさか……!?」

 

 身体を震わせる彼はハッとして、踵を返して走り出す。

 

「て、敵だ!! 敵艦隊だぁ!!」

 

 彼は出せる限りの大声を出して、敵発見の報を知らせた。

 

 

 霧の中では、その霧に紛れてロデニウス連邦共和国海軍の艦隊が密かに接近し、随伴している上陸船団が上陸準備を行うべく、既に展開し始めていた。

 

 

 

 




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