異世界に召喚されしはイレギュラーが率いる異界の艦隊   作:日本武尊

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第九十八話 責任は誰にあるか

 

 

 中央歴1640年 2月24日 ロデニウス連邦共和国

 

 

「デュロの攻略は完了、エストシラント及びパールネウスへの攻撃も効果を発揮しましたか」

 

 大統領府の執務室にて、カナタが呟く。

 

『デュロへ上陸した部隊は多少の遅れがありましたが、予定通り連合軍と合流を目指して移動を開始しました。連合軍への補給物資輸送も先日完了し、後は上陸部隊と合流を待つだけです』

『エストシラントに点在する目標の破壊、パールネウスにあった研究施設及び防衛基地の破壊。作戦は最終段階に移行できます』

「そうですか」

 

 パソコンの画面にはオンラインにて繋がっている『大和』と『紀伊』より報告を聞き、カナタが頷く。

 

 パーパルディア皇国との戦いは、ロデニウス連邦共和国の圧倒的な強さにより、戦闘はほぼ一方的であり、もはや皇国にまともに抵抗するだけの戦力はパールネウスぐらいしか残っていない。

 

「ですが、デュロで我が国の兵士による皇国兵の処刑ですか……」

『予想はしていましたが、こうして実際にあったと報告を受けると複雑です』

「……そうならないように編成は慎重に行うように指示していたはずですが」

『はい。大統領の指示で部隊編成の際に、シオス王国の悲劇の被害者と関りがある者は部隊に入れないようにしていたはずです。このような結果になるのは目に見えていたので』

『その点についてですが、先日ある事が判明しました』

 

 と、画面の向こうで、『紀伊』が挙手してタブレット端末に視線を移す。

 

『上陸部隊の編成は今回のような事態が起こらないように、関係している者は除外して編成していました。しかし、今回の事態を受けて調査をしたところ、編成データに改竄された形跡が発見されました』

「っ! データの改竄!?」

 

 カナタは驚愕して声を上げる。

 

 デュロへの上陸作戦では、先のシオス王国の悲劇があった以上、上層部は憎しみによる復讐的な出来事が起こりえると考えていたので、上陸部隊の編成は慎重に行っていた。もちろん部隊の編成を担当していた者もシオス王国の悲劇に関りが無い人選をしていたはずだった。

 

 だが、まさかデータの改竄が行われていたとは、予想外だった。

 

『それにより、シオス王国の悲劇の関係者が集中して編成されるという事態になったようです』

「何という……」

 

 『紀伊』の報告を聞いて、カナタは片手を頭に当てる。

 

『だが、部隊編成の担当者もシオス王国の悲劇の関係者が行わないようにしていたはずだろ?』

『あぁ。部隊編成を担当した者はシオス王国の悲劇の関係者ではない。私情を挟まない真面目な人間だ』

「……」

 

 『大和』の質問に『紀伊』がそう答えると、カナタは腕を組む。

 

「ですが、データの改竄があったということは……その担当者が?」

『それについてですが、担当者はデータ改竄を否認しています。少なくとも部隊編成は問題無く終えて、何度も確認していたと供述しています』

『だが、現に事件は起きているんだ。担当者が嘘を言っている可能性もあるぞ』

『ですので、事情聴取はもちろん、彼のパソコンの調査を続行します。もしかしたら、改竄せざるを得ない何かしらの事情があるのか、可能性は低いですが、遠隔でパソコンを操作してデータが改竄された可能性もありますので』

「そうですか」

 

 『紀伊』の言葉を受けて、深刻な様子を見せるカナタは頷く。

 

 もしかしたら今回の一件は、予想以上に大きな何かが動いている可能性がある。

 

 

 もしくは、今回の一件を何者かが仕組んだか……

 

 

『デュロで処刑を扇動した者と関わった者全員は拘束し、本土へと移送されて留置所に入っています。今はまだ余裕がありませんので、処分に関しては戦後になるかと』

「そうですか。色々と思う所はありますが、仕方ありません」

 

 カナタは残念そうで、憤りを覚えているようで、しかしどこか悩んでいるような感情を抱きつつ、そう告げる。

 

 

「しかし、ここまでやられて尚、皇国は降伏しようとしないとは……」

『さすがここまで被害を被っているのに行動を起こさないのは、狂っているとしか思えないな』

『このままだと本当に国が亡びるまで戦争が続いてしまうかもしれないな』

『大統領。いかがしますか?』

 

 『大和』がカナタに問い掛ける。

 

「結果がどうなるかは分かりません。ですが、我々の行動はこれからも変わりません。パーパルディア皇国が降伏しない限り、戦闘を継続します」

 

 カナタの揺るぎない決意に、画面の向こうで二人は静かに頷く。

 

「それで、『大和』殿。例の件については、どうなりましたか?」

『はい。こちらの方は準備は整いつつあります。しかしこの手の作戦はタイミングが重要ですので、今はまだ待つべきかと』

「そうですか。では予定通りに作戦を行いましょう」

『了解しました』

 

 カナタの言葉に、『大和』達は頷く。

 

 ロデニウス連邦共和国はある作戦を行うにあたり、パールネウス及びエストシラントへの攻撃を計画している。

 

 その作戦こそが、この戦争における最も重要な作戦であり、根も葉もない事を言うとその作戦を成功させれば、ロデニウス連邦共和国としては他はどうでもいい。

 

 ともあれ、その後もテレビ会議は続き、今後の事について話し合いが行われた。

 

 

 


 

 

 

 所変わり、パーパルディア皇国

 

 

「軍は一体何をしているんだ!! 73の属領の反乱を許すどころか、アルーニまで落ちるとは!!」

「それどころか蛮族相手に好き勝手にさせて!! 満足にも行動できないのか!!」

 

 大会議室にて、各行政担当大臣が集まり、国政に対する実質的な対策が会議されている行政大会議は、皇国の歴史が始まって以来未曽有の危機を前に、紛糾していた。

 

 

 第一次フェン沖海戦から始まったロデニウス連邦共和国の攻撃により、皇国軍にまともな戦力は殆ど残されていない。海軍はすでに無く、残っているのはロデニウスに対抗するにはあまりにも貧弱な船だけ。

 陸軍は防衛に担う基地がすでに二つ落とされ、それに伴いワイバーンロードとワイバーンオーバーロードもその多くが失われた。そして武器、兵器の製造を担っていたデュロが完全に落とされた。

 

 もはやパーパルディア皇国に戦うだけのまともな戦力はパールネウスぐらいで、各地にある小規模の基地に人手があるぐらいだ。まぁそのパールネウスも先の空襲で手痛い被害を受けたのだが。

 

 更に属領の大反乱だ。これによりパーパルディア皇国の国土は大幅な縮小を余儀なくされ、殻倉地帯までもが国の支配権から離れてしまった。

 殻倉地帯を失ったことにより、食糧自給率の大幅な低下が予想され、最悪の場合飢饉になる可能性がでてきた。実際エストシラントでは、海からの輸入が途絶えたことで、食料を含めた多くの品が不足していて、多くの店が閉まっている状態になっている。

 

(外野が言いたい放題言いやがって……!)

 

 アルデは相次ぐ罵倒を受け止め、内心愚痴って胃の痛みを我慢して説明を続ける。

 

「……ですので、パールネウスを含めた各基地から戦力を集め、退役軍人を招集し、市民を徴兵しています。訓練を施して練度の向上と兵装の更新が整い次第、再建する予定で―――」

「いつだ!! それはいつになるんだ!!」

 

 アルデの説明に被せるように、農務局長が怒声を上げた。

 

「殻倉地帯だけでもすぐに取り戻していただきたい!! このままではもって……六ヶ月、たったの六ヶ月で食糧備蓄が底を突いてしまう!! 流通制限すればもう少しもつが、どれだけ引き延ばしても八ヶ月程度しかない!!」

 

 農務局長より告げられた内容に、アルデを含め周囲が苦虫を噛んだように顔を顰める。

 

 第一次、第二次産業の大半を属領に任せていた皇国は、本来の領土に戻ると、増えた皇国民を維持することはほとんど不可能だった。

 

 そもそも皇国が領土拡張主義に走ったその根本の原因は、資源および食糧の確保を主目的にした侵略戦争にあった。最初は北からの脅威に対抗する自衛戦争だったのだが、軍備の増強に伴い資源が必要になった。

 自衛のために必要な物を手に入れる為に、かつてのパールネウス共和国は戦争を起こしたのだったが、それがいつの間にか自らの欲望を満たすための戦争へと変化して、領土拡張主義へと走らせた。

 

 食糧自体はかつて旧クワ・トイネ公国を含めた文明圏外国から食糧を輸入していたことはあるが、現在は統一国家の一部となって、皇国の敵対国家になっている。その上裏で経済制裁が発動していて、周辺国から輸入を頼んでも断られ続けている。尤も、仮に輸入が認められていても、海を越えて本土へ輸送する手段が無いのだが。

 

「そんなに時間が掛かるのなら、せめてロデニウスと一時的に休戦し、殻倉地帯の反乱を抑えるような手続きは出来ないのか」

 

 と、あまりにも状況を理解していない、自分に都合の良いような、身勝手な提案にアルデは苛立ちを募らせる。

 

 ロデニウスは反乱を国内の問題として見ないだろう。そもそも敵国が弱っている時に、わざわざ手を抜く馬鹿が居るかという話である。農務局長の提案を向こうが受け入れるはずがない。

 何より、属領の反乱にはロデニウスが関わっている以上、そもそも前提条件すら瓦解している。

 

 アルデは農務局長のあまりの間抜けっぷりに怒りを覚えながら、返答する。

 

「……エルト殿とも話し合いましたが、無理です。そもそも我々は殲滅戦を宣言している以上、向こうもこちらを滅ぼしに来ているのです。その相手が弱っている状態で手を抜く馬鹿は居ないでしょう!」

 

 アルデは半ば八つ当たりな様子で農務局長に説明しつつ、その無知っぷりを周囲に知らしめる。自身の間抜けっぷりを指摘されて農務局長は羞恥と怒りに顔を真っ赤にして身体を震わせる。

 

「では貴殿は殻倉地帯を取り戻せるというのか!! 蛮族の戦力など、たかが知れているだろう!!」

 

 と、多方面からまるで現実が見えていないような、無知な野次が飛ぶ。

 

 

(ここまで酷いとはな)

 

 その会議に参加しているカイオスは、周囲の醜さに呆れ返っていた。

 

 よもやここまで平和ボケした者共が多数、皇国の内部で禄を盗んでいるとは思わなかった。その上二度にわたる空襲を受けてなお現実が見えていないとなると、かえってその図太さに感心するほどだ。

 

 アルデが苛立ちを募らせている雰囲気を出しながらもその感情を押し殺し、各局長に説明を入れている。

 

 エルトは終始沈黙を保っているが、顔色は悪く、額には汗が浮かんでいる。

 

(やはり、決行するほかないか)

 

 周囲の様子を窺いながら、カイオスは内心で決意を抱く。

 

 このままでは軍は市民を兵士として動員して戦力に仕立てるつもりだ。事実退役軍人を含め、成人男性を中心に徴兵されているが、下手すれば老人や女子供も徴兵しかねない。

 

 そうなれば、皇国は文字通り破滅することになる。

 

 

 あぁ言えばこう言い、こう言えばあぁ言う、と会議は紛糾して醜い争いが続いていたが、ある程度熱が冷めて来た時に、会議は思わぬ方向へ舵を切り始める。

 

 

「そもそも今回の戦争の原因は、外務局の対応にあるのではありませんかな」

 

 と、コップに入った水を飲んで、各行政の局長の一人がそう口にする。すると多くの者が注目する。

 

「話によれば第一外務局とレミール様がロデニウスへ対応していて、問題を起こしたとか」

「聞けば当初対応に当たっていた第三外務局は穏便に済ませようとしていたらしいですね、カイオス殿」

「…‥えぇ。私には考えがありましたので、皇帝陛下の意思に背く形になっても、確かめたい事がありました」

 

 質問が来たので、カイオスは返答する。

 

「それを第一外務局が余計な首を突っ込んでこのような事態になってしまいましたが、それについてはどう説明しますかな、エルト第一外務局長殿」

「くっ……」

 

 別の局長が強調した言い方で質問し、エルトは顔を顰める。

 

 どうやら会議の方向は軍への非難から、戦争の発端の責任問題へと変わったようである。

 

「……確かにこの戦争の発端の原因は我々にあるかもしれません。しかし、それは蛮族相手にこれまで通りのことをしていただけで!」

「それでこの有様ですよ」

「余計な首を突っ込まなければこうはならなかったのではありませんかな」

「そもそもちゃんと調べていれば分かっただろうに」

「っ……!」

 

 好き放題に言う各局長にエルトは歯噛みする。

 

 ロデニウスの力を知っている今だからそう言えるが、戦争前なら一部を除いて誰だってエルトと同じ事をしていただろうに。

 

「特にレミール様の責任は大いにありますな」

「大いにではない! 全てと言ってもいい!!」

「いくら皇族と言えど、国がここまで滅茶苦茶になったのだ。レミール様の責任は免れないでしょうな」

「次の御前会議で陛下に此度の件を問おうじゃないか!」

 

 熱が冷め始めていた各局長達だったが、次第に再び熱を帯び始めて紛糾し出す。

 

 以前なら皇族に対する敬意や畏怖で過激な発言など出来なかったが、精神的に追い詰められ、皇族への不満が溜まりに溜まったが故に、皇族に対する敬意も畏怖も薄れてしまった。

 

 予想外の事態に発展したことで、会議が続けられる状態じゃないと判断され、この日の会議は中断することになった。

 

 

 


 

 

 

 そして時間は過ぎ、その日の夜のパラディス城

 

 

 

「……そうか」

 

 パラディス城の寝室にて、相談役のルパーサより今日の会議での出来事を聞き、ベッドに腰かけているルディアスは深く息を吐く。

 

「次の御前会議では、レミール様の責任についての発言があると思われますので……」

「……」

 

 ルディアスは顔に手を当てて静かに唸ると、顔から手を退ける。二度にわたる空襲と連日にわたる被害報告を受けてか、その顔は疲弊している。

 

「……よもや、ここまでやられるとはな」

「……」

「ルパーサよ。お前の考えを聞かせろ。お前から見て……レミールの責任についてだ」

「……」

 

 ルディアスに問われ、ルパーサは戸惑いを見せるも、彼の問いに答える。

 

「……此度の戦争の根本の原因は別にあるとしても、戦争へ発展したその最もの要因は、レミール様にあります」

「……」

「それと、ロデニウスの使者とレミール様との会談で、ロデニウスの使者はこう仰っていたそうです『当事者には必ず罪を償わせる。例えお前達が地の果てまで逃げようとも、我が国は総力を挙げて、必ず捕らえる。一人も逃がしはしない』と」

「……」

「少なくとも、レミール様の責任は免れないかと。もし陛下がレミール様を庇おうものなら、陛下自身の立場が危うくなる可能性もあります」

「そうか」

 

 ルパーサの意見を聞き、ルディアスは再度ため息を付く。

 

「レミールは……切り捨てなければならないか」

「もしも、その時が来たら……ですが」

「……分かった。もう良いぞ」

 

 ルディアスにそう言われて、ルパーサは一礼して彼の元を離れて寝室を出ようとする。

 

 

「……ルパーサよ」

 

 と、扉のノブに手を掛けようとする直前で、ルディアスが声を掛けてルパーサは止まる。

 

「最後に一つ……お前の率直な意見を聞かせてくれ」

「……」

 

 ルディアスは呼吸を整えて気持ちを落ち着け、間を空けて口を開く。

 

「……余は、間違っていたのか?」

「……」

 

 ルパーサは一考してから、ゆっくりと振り返る。

 

「……私は常に陛下の判断が正しいと思っております。今日この日に至るまで、そしてこれからも」

「……」

「ですが、現実が答えを示していると思います」

 

 彼はそう言うと、一礼して扉を開け、寝室を出る。

 

「……」

 

 ルディアスは何も言わず、ただただ項垂れるしかなかった。

 

 

 

 

 所変わり、場所はカイオスの屋敷

 

 

 

『そうですか。では、計画通りにクーデターを行うということでよろしいですね?』

「えぇ。必要な人員は揃っています。後はタイミング次第です」

 

 屋敷の私室にて、通信機の前でカイオスが通信相手にそう告げる。通信相手はロデニウス連邦共和国の『大和』である。

 

 トラック泊地所属の忍びのKAN-SEN達より受け取った通信機で、カイオスはこうして秘密裏にロデニウス連邦共和国と会談を重ねていた。

 

 今回はカイオスが企てているクーデター計画について話をした。既に皇国内でクーデターを行うのに必要な人員を集めており、その多くが近衛兵を占めている。先の空襲で近衛兵の多くが戦死しているが、幸いクーデターに賛同している近衛兵の被害は少ない。

 

 クーデターを成功させるために、カイオスはロデニウス側の攻撃計画を知る必要があり、今回の会談はそれが目的である。

 

「それで、そちらの攻撃計画については?」

『一ヶ月以内には、パールネウスへ攻撃を行います。その後エストシラントへ上陸作戦を行います』

「そうですか……」

 

 カイオスは息を呑む。遂に始まる、という実感があったからだ。

 

『ですが、エストシラントへの上陸はある作戦を行ってからになります』

「ある作戦?」

『極秘につき話すことは出来ませんが、作戦を終えれば変化は現れます。その変化がエストシラントへ我が軍が上陸するのが近い合図です』

「そうですか」

 

 『大和』の言う極秘作戦にカイオスはすぐには分からなかったが、直後に察した。

 

(やはり、ロデニウスの目的は最初からそれか)

 

 カイオスは納得すると同時に、それしか見ていないという事実に小さく恐怖を覚える。目的だけを見て、目的の為に行動している。パーパルディア皇国と戦うのは、片手間程度に行っているというのを分かってしまったからだ。

 

「では、互いに作戦の成功を祈っています」

『えぇ。クーデターが成功するのを、期待しています』

 

 そして互いに通信を終え、カイオスはマイクを通信機に置き、電源を切って執務机の引き出しを引き抜いてその奥に入れて隠す。

 

「……」

 

 カイオスは椅子に座ると、深く息を吐く。

 

「あと少し。あと少しだ……」

 

 彼は小さくそう呟くと、執務机に置いているワインを手にしてワイングラスに注ぎ、窓から覗く夜の景色を眺めながらワインを飲む。

 

 

 




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