「いいじゃないか、少年少女! カッコイイぜ!」
その声と共に入ってくるのは20人の有卵生たち。
皆が皆望んだ、あるいは理想や憧れの姿をコスチュームを纏い体現し、その顔には自らがコスチュームを着ていることに対する喜びに満ちていた。
意外なことに終も喜びの雰囲気に充てられたのか、その表情には少しばかりの微笑みがあった。実に人間らしい。
「先生! ここは入試の試験場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
「いいや、もう2歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!真の賢しい敵は闇に潜む。これから君たちには"ヒーロー組"と"ヴィラン組"に分かれての、2対2の屋内戦闘訓練を行ってもらう!」
「基礎訓練も無しに?」
「その基礎を知るための実践さ! だが、今回は一般入試のようなブッ壊せばオーケーなロボとは違うのがミソだ!」
その後、オールマイトから語られる設定は「ヴィランが核持ってるから、それに対処しよう。なお時間が経過しきり、ヒーローチームが勝利条件を満たしていない場合は核が爆破されヒーローチームは問答無用で負け」というどこかアメリカンなものであった。
またチーム戦でありヒーローチームとヴィランチームに2人ずつ、計4人で行い、ヒーローチームの勝利条件は時間内に核の奪取か両ヴィランの確保、ヴィランチームの勝利は時間内に両ヒーローの捕縛かヒーローチームの勝利条件を満たさせないことである。
ついでに言えば核はハリボテであるが、それは『核である』という認識を持って行動するものである。
「ではどうやってチームは決められるのですか!」
「チーム相手および対戦相手を決めるのは……くじだ!
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることもあるし、そういうことじゃないかな……」
「なるほど! 先を見据えた計らい……! 失礼致しました!」
「いいよ! 早くやろ!」
公平かつ厳正なくじの結果結果は以下のようになった。
『
Aチーム:麗日・緑谷
Bチーム:障子・轟
Cチーム:峰田・八百万
Dチーム:飯田・爆豪
Eチーム:芦戸・黒性
Fチーム:口田・砂藤
Gチーム:上鳴・耳郎
Hチーム:蛙吹・常闇
Iチーム:尾白・葉隠
Jチーム:切島・瀬呂
』
「おっ私のパートナーは終ちゃんか……私芦戸三奈!よろしくね!」
「ああ、さっきの方ですか。どうも私は黒性終と言います」
終とペアになったのは女子更衣室で話しかけてきたピンクガールこと芦戸だった。
他にも面白い組み合わせややっちゃダメだろみたいな組み合わせがあるが、皆それぞれの個性について聞き合っている。
「えっとそれで終ちゃんの個性ってどんなのなの?」
それはこの2人も例外ではなく、芦戸は終の個性について聞いてくる。
「…………………」
「えっ?なんか気に障っちゃった?……そっかまずこういう時は自分の言わないとダメだよね!私の個性は酸!こう手のひらから酸性の液体をビュって出すことができるの!」
「…………………」
「……流石に無反応は辛いよ」
「……周りの方の個性を聞くのに集中してたので少し無視してました」
「無視ってはっきり言わないで欲しかった!……それで、個性を聞くってのは?」
「個性というのはヒーローにとってもヴィランにとっても武器であり大切な情報です。それはわかりますね」
「?うん」
「個性が分かればそこから対策が出来ます。例えばあそこのブドウ頭の人の個性は『頭のブドウをもぎ取った物に吸着力があり、自分以外にならくっ付く』というものです。なら彼に対する対策はもぎ取ったブドウに触れないことです。そして個性であり、無個性を基準に考えた人間で言うところの髪に位置する部位に既存する個性ということはおそらく燃やすなどの不定形なものでの対応が可能です。ーーどうですか?ちょっとした情報でここまでの対処が可能です」
もしこの話をオールマイトが聞いていたなら「初回の授業なのに考えすぎ!」とでも言うだろう。
実際そうだ。個性の不明なヴィランに対してヒーローはあの手この手で相手の個性を知るような行動が取ることが多い。もし相手の個性が『受けたダメージを他のところに押し付ける』ような個性だった場合は拘束するという対処法があるし、『手に触れたものを腐食させる』個性なら手に注意して行動する。
情報というのは重要なのである。
「流石にそれは考えすぎなんじゃ……」
「ではあなたは
(確かにそうだ!訓練だからって油断しちゃダメなんだ!)
「確かにそうだね。私が迂闊だったよ。けどそれが私に反応しなかった理由だとしても、私は終ちゃんの個性知りたいよ?」
「……私は今回個性を使う気は有りません」
「なんで!?戦闘訓練なんだよ!どっちになるかはわかんないけど闘わないと!」
「いいですか芦戸さん。『人』という生き物は個性なんていうものに頼らず、闘わずに勝つことくらいできるんですよ」
*
「続いてはー? ヒーロー側Bチーム! ヴィラン側Eチーム!」
緑谷と麗日、爆豪と飯田の訓練において一悶着あり、その後のいくつかのチームが訓練を行ったあとに終たちの番はきた。
ヴィラン側となった終と芦戸はすでに移動し核の前で作戦について話していた。
「まず腕がいっぱいある人は『複数ある腕に口や耳を複製する』個性でおそらくは探索役として今回は行動すると思います。そうでなくてもフィジカルパワーが高そうですし、何より腕が複数あるので真正面からの戦闘は避けた方が良さそうですね」
「うん」
「次にもう片方の紅白頭の人は『右から氷を放出する』個性です。拘束に優れている上、範囲が未知数なため仮定にしか過ぎませんが、おそらくは建物全体を凍らせたり、包んで酸欠にさせるなどの行動を取ってくるはずです」
「うん」
「そしておそらく彼は轟焦凍である可能性が高いです。であれば彼はエンデヴァーの息子であるため残った『左から炎を放出する』個性だと推測します。今は隠しているので見えませんが、教室で見た際には火傷跡があったり、個性の半分しか語らなかったりした事から此方の方はあまり好んで使わないと思います。せいぜい衝動的に使ったり氷を溶かす際くらいだと思いますが、戦闘訓練中は視れないでしょうね」
「うん」
「ここまでの情報から考えて、多腕の人単体であればあなたの個性とは相性が良いですが体格差を加味した上で考えると、奇襲で大きなダメージを与えて後は避けに専念しながらチマチマと酸をかけていくことが最適行動だと思います。しかし相手には轟焦凍らしき人物がいます。彼ならば初めにこちらを凍らせくらいのことはするでしょうね」
「うん」
「故に総評としましてはあなたとは相性が悪い相手ということですね」
「うん………って違うよ!なんでそんなに対策とか出てくるわけ!?個性聞いてただけだよね!」
「聞いた上でちょっと考えれば出来ます」
「出来ないよ!」
確かに出来ない。
A組においてここまでの判断が出来るのは、爆豪、轟、終の3人くらいで、あとは緑谷が辛うじて当てはまる。
芦戸の反応は極めて正常なものだ。
「というかおそらく轟くんって何!?まさかクラスメイトの名前覚えてなかったの?」
「失敬ですねちゃんと覚えてますよ。……顔と名前が一致しないだけで」
「そういうのは覚えてないっていうんだけど」
「けど飯田さんに、常闇さん、緑谷さんに爆豪さん。あとは八百万さんに芦戸さんに梅雨ちゃんですね。ちゃんと顔と名前は一致してますよ?」
「……うん今度クラスメイトの名前と顔教えてあげるから」
ちなみに終は顔と名前は一致しないが、名前と個性は一致する。
「……そういえばさっき言ってた個性を使わず闘わずに勝つ方法って言うのは?」
「それはですねーー」
*
「ところでみんなは終少女の個性を知っているのかい?」
「いえ実はみんな知らないんっすよ。なんかすごいってだけで」
「そうそうなんて言うか万能?」
「こうなんだろう、個性の範疇を超えていたようにも感じます」
終は自身の個性についての詳しいことは雄英関係者には一切語っていない。
これは彼女自身が徹底していることだ。
これにより彼女の個性を知るのは、父と知識の先生と立場的には一応兄に当たる人物の3人、と彼らから情報が与えられているものが居ればその者も当てはまる。
しかし父の性格上そんなことはしないと終は考えている。
彼の計画において終の存在はさして重要ではなく、せいぜいゲームで言うところの道中のとても取りづらいところに隠された最強装備に近い。
取れるなら取っとく。そんな立場に今はいるであろうと終は推測している。
故にその3人以外終の個性の詳細を知る者は居ないと断言できる。
何せ自分しか知らない隠し武器は、いざって時のために隠しておきたい者だからだ。
「そうなんだ。私は相澤くんから個性をコピーするタイプ、それもかなり上位のものと聞いているよ」
「個性をコピーってすげーな!!」
「確かに珍しいタイプの個性だね。……っと話はここまでにして芦戸少女に黒性少女、準備は大丈夫か?」
『ちょっ!終ちゃん本当にやるの!?』
『私はあなたにも意見を聞きましたが無かったじゃないですか。それは今の私たちはヴィランです。ヒーローに容赦する必要は有りません。存分に動揺させて、心を破壊して再起不能にさせるつもりでやりましょう』
『あれ?気のせいかな?終ちゃん結構楽しんでーー』
『オールマイトこちらの準備は出来てます』
『ちょっーー』
「あーうん。話は聞こえてから何するのかは分かってるけどやり過ぎないようにね」
『もちろんです。せいぜい出来て今日をトラウマにする程度ですから安心してください』
「あっうん分かったよ。…… それでは、Bチーム対Eチーム! レディ……ゴー!!」
*
「轟、あいつら2人は建物の中にいる。それも2人とも同じ部屋だ」
「分かった。あとは任せろ」
轟は障耳に返答したと同時に個性を使い終たちのヴィランチームの潜んでいる建物を氷漬けにした。
その速度は障耳からすれば早いものであり、10秒も経たずにビルを丸々一つ凍らせた技量に本心から驚愕していた。
「障耳、念のためもう一度確認してから中に入る。頼めるか?」
「分かった。任せーー」
『個性を発動してから今私たちがいる最上階の最悪の部屋まで凍りつくのが約10秒。……遅すぎはしないか?ヒーロー諸君』
「この声ッ!黒性か!!」
『一つ言っておきますが、あなた達が今聞いている声は個性によるものではなく、私が事前に
『伝えておきまーす』
「今度は芦戸か」
凍らせた、と思ったらビルから聞こえてきたのは機械から発せられる終と芦戸の声。
ここで何故話しかけてくるのか、轟たちには理解できていない。
「何が目的だ」
『目的?簡単なことですよ。あなたが個性でビルを凍らせたせいで
『つ、伝えたのですよー』
(……人質だと?)
本来、この戦闘訓練に出てくる設定のワードは、ヒーロー、ヴィラン、そしてヴィランが所持する核の三つである。
そこに予告のない
轟たちが動揺するのは当然の結果である。
「轟!今回の設定に人質なんてない。黒性の言っていることはデタラメだ!」
「あ、ああ。そうだな」
『……設定?何を言っているんですか?人質はちゃんといますよ。ほら僕、ヒーローたちに挨拶してあげて』
『ヒ、ヒーロー?ヒーローがいるの?』
『ええ、建物のすぐ前に居ますよ』
『……助けて!助けてよ!ヒーロー!!』
終の後に聞こえてきた声は声真似や裏声といったレベルのものではなく、まさしく第三者が発している声だった。
『ねえ!なんで!なんでヒーロー来ないの!!なんでオールマイト来ないの!!』
『それはですね、今君は寒い思いしてるでしょ。この状況を作り出したのはヒーローなんですよ。そしてそのヒーローたちは罪悪感に駆られています。ーーちなみにオールマイトは今諸事情でアメリカの方にいるのでワープ系の個性でもない限り来ません。残念でしたね』
『ざ、残念でしたね……』
『嘘だ!ヒーローがそんなことするはずがないもん!!それにオールマイトならすぐ駆けつけてくれるもん!!』
『それが両方事実なんですよね。あとちょっとコレを見てください』
『何これ?』
『オールマイトの公式SNSです。ほら見えるでしょう。あの男が幸せそうに友達と写っている写真が。それにほら、文も「久しぶりのアメリカに私が来た!(写真に写ってるのは友人。使用許可済み)」って書いてありますよね』
『うわーーん!!』
『と、言うことなので人質はいます。確認は今のでいいですね』
『ですねー』
『さて、私たちはあなたたちに要求があります』
『ありまーす!』
「……要求だと?」
この時点でいるかどうかも分からない人質に轟たちはいるものと信じて始めていた。
『そう、要求です』
『要求でーす!』
『長ったらしい話はしません。付近のヒーローも含めて、額を地につけその身を低くし私たちが外に出て行く道を作りなさい。そうすれば人質の子は解放しますよ』
「誰がヴィランの要求なんてーー」
『あなた方、今の立場理解してますか?』
ゾワッとする闇の風のようなものに当てられ、轟たちの鳥肌が立つ。
『……所詮はヒーローでしかないということですね。仕方がありません。私としてはほんとーに心苦しいのですが、あなた方の準備が整うまでこの子の骨を一つ一つ丁寧に砕いていくことにしましょう』
「………は?」
『お、お姉ちゃん……何するの……?』
『何ってあなたの骨を丁寧にゆっくりと砕いていくんですよ。これで。……恨むなら早く行動に移さなかったヒーローたちにお願いしますね。ということでMs.ピンクモンスター、抑えてもらえますか?』
『抑えまーす』
『……とりあえず手の指からいきますか。えいっ』
『えっ?……あ” あ” あ” あ”ぁ"あ” あ” あ” あ” あ” あ” あ” あ”!!痛い!痛いよォ!!』
『ーーとまぁこんな感じに砕いていくので、彼の骨を一つでも多く残しておきたいなら早めに行動した方がいいですよ。それでは終わったら呼んでください』
『呼んでくださーい………』
「……ヴィランチーム、ウィーーーーン! 」
結局、轟と障耳はそれから動けなかった。
書き終わって作者は思いました。どうしてこうなった、と。
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
あと息抜きで『賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる英雄学園世界〜実は中身は転生者〜』というヒロアカ世界にシコっちが好きで、その姿で転生したオリ主が色々やるという内容の作品を投稿させていただきました。こちらも見切り発車ですが、内容はまぁ、お察しください。……深夜テンションやったんや。