「俺、渚さんの事が好きなんです!」
「ご、ごめんなさいっ!」
告白されるのはボクにとってよくある事で、これが人生で何度目の告白かなんてのはもう覚えていない。
確かにボクが可愛いのは分かる。
告白してもおかしくは無いのは分かる。
だが待って欲しい。
ボクは正真正銘の男である。
ここまでくるともう他者の認識をすげ替える異能でも持っているんじゃないかって疑ってもいいレベルの頻度でボクは告白されている。
始まりはボクの通っていた中学校の制服が性別に関係なく誰でも自由に着ていいという事を知ったあの日から始まった。
ネタでセーラー服を着ていった瞬間からボクの周りの全てが変わったのだ。
『え、お前っ、女だったのか?』
当時唯一の友達が発したその言葉が噂に噂を呼び、ボクが女だと言う誤った情報が虚飾されまくってこの町全体に広まった。
その噂が西中学校には春町渚という物凄い美少女がいるというものに変わるまでは本当に一瞬で、身分証を見せて男だと証明しようとした時に戸籍が間違って登録されているという事になり、いつの間にかボクの戸籍の性別は書き換えられた。
それからと言うもの、ボクが男子トイレに入ろうものなら即刻叩き出されるし、それからは水泳や体育の授業も女子と一緒に受けることになった。
元々、小学生の頃から水泳の授業を見学していたこともあってボクの性別は完全に勘違いされる事になった。
小学校の頃は臨海学校も修学旅行もたまたま風邪をひいて休んでいたのだけど、それも性別を間違われていたせいという事になった。
中学校の修学旅行では女子と相部屋で、いつ本当の性別がバレるかとヒヤヒヤしながら過ごす羽目になったし、そのせいでボクが本来の性別を伝える事はもはや完全な自爆だ。
というかもう女子更衣室に堂々と立ち入っている時点で自分の性別を明かす事は即ち社会的に死ぬ事に等しい。
……泣きたい。
正直に言って詰んでるというか、ここまでくると何がなんだかよく分からない。
これはもう朝起きたら性転換しているとかそういう事がない限りはどうしようもないと言っていい。
ここからボクが無傷で挽回するなんて事は奇跡でも起きない限り、不可能に近い。
最近鏡に映った自分で抜けるようになるくらいボクは可愛い。
もう女装には抵抗感の一つも無くなったし、最近は割と本気で生まれる性別を間違えて来たんじゃないかとも思っている。
でもやっぱり男は無理だ。
ボクは根っからの異性愛者で、男なら女と女ならば男と恋愛するべきだと思っている。
ボクが女ならば男と恋愛するのもありだとは思うが、今は無理だ。
「その、えっと……、ボクは君の事もよく知らないし、それに誰とも付き合う気は無くて」
「じゃ、じゃあ友達、そう、友達から初めませんか?
ほんの試し、ちょっとだけでいいので」
「え、えと……その」
「おー、いたいた!
ほら、早く帰るぞ渚」
迫られて困っていると、影からこっそりとこちらを見ていた遥が助けに来てくれた。
高校になってからやっとできたまともな同性の友達で、なんというかかなり頼りがいのある男だ。
こういう時には毎回毎回助けてくれるし、ボクに色目を使って来ないので一緒にいて気が楽になる唯一の相手だと言っていい。
「と、というわけなので本当にごめんなさい」
ボクは最後に一言告げると、逃げるようにその場から逃げ出した。
■
「ヨウ、さっきはありがと」
「ああ、というか渚は本当毎日のように告白されてるよな」
この目の前にいる美少女は春町渚。
非常に可愛いし、もし男ならこんな少女が身近にいれば確実に惚れている事だろう。
町を歩けば100人中101人(1人多いのは幽霊か何か)が振り返るような絶世の美少女という言葉が似合う外見をしている。
もう人形かアニメに出てくるキャラクターがそのまま出てきたかのようなレベルで、この少女には傾国の美女という言葉が本当に良く似合う。
そんな美少女、渚は勘違いをしている。
確かに僕の外見は一見すると女には見えないような外見で、声も低く男だと勘違いされる事が多い。
だが、僕は女だ。
昔はこの容姿がコンプレックスだったのだが、今となっては完全に吹っ切れ、自分からよく男装をしているので勘違いされる事もかなりよくある話。
だけど、この勘違いだけはいずれ解消しておいた方がいいだろう。
ある日、男子生徒から言い寄られていた渚を助けてからと言うものの、渚は僕を男だと勘違いしているようなのだ。
「ヨウは好きな女子とか彼女とかいた事ないの?」
「前も言ったけど僕にそういう人はいないよ」
「え〜、ヨウかっこいいから普通にモテそうなのに」
名前も
実際渚には男友達は一人も居ないようだし、むしろ避けている傾向がある。
それなのに男だと勘違いしている僕には何かと寄ってくるし、助けてくれたお礼とか言ってお弁当を作って来てくれたり、何かと遊びに誘おうとしてくる。
こんなの誰だってすぐに分かる。
渚は間違いなく僕の事が好きなのだろう。
だけど僕は正真正銘の女性だし、何処かでこの勘違いを解消しなければならない。
これ以上放っておいても、彼女に黒歴史を積み上げてしまうだけだ。
「あのな、渚」
「ヨウ、どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
僕は彼女に、渚に重大な勘違いをされている。
でも、それを伝えるのは別に今じゃなくてもいいか。
可愛らしく首を傾げる彼女にこんな事を伝えればショックを受けるのは当たり前だろうし、もっとシリアスな場面で伝えるべきだろう。
そんな事を考えながら渚と一緒に帰るいつもの帰り道が、やっぱり僕にとって大切な宝物だ。