主人公補正の裏側で 作:神技:エーテル・ストライク
「もう、君のことは好きじゃないみたい」
今まで付き合っていた彼女の言葉に、僕は、頭を何かで殴られたような衝撃を受けた。さっきまで色々と考えていて、何か言おうとしていたのに、頭が真っ白になってしまった。
「きゅ、急にどうしてなの?」
昨日は久々に映画を見に行ったり、遠くのショッピングモールで買い物をしてたのに。プレゼントとして買った星形のキーホルダーを、君は笑顔で、自分のカバンにつけてたのに。
「ありがとう!」
そう言って笑ってくれた君の笑顔。それが昨日のことだったのに、なんで今日、僕を見る君の顔は、つまらなそうなんだ?
「私、好きな人ができたみたい」
「は?」
意味が分からなかった。なんで?どうして?とめどなく湧き上がってくる疑問。でも一方で僕は解っている。彼女は僕よりも素敵な人を見つけたんだって。
ああくそ!
彼女が惚れたであろう男に、僕は怒りと嫉妬で罵倒した。
どうして!今になって現れたんだよ!有頂天になって僕をそんなに絶望に落としたいのかよ!
でも、僕は耐えるしかなかった。今の今までが夢のひと時だったんだ。そう考えなければ、僕は怒りと憎しみで抑えられなかった。それに、僕が好きな人が幸せになるんだったら…、そういう言い訳を積み重ねて、僕は彼女に振られるしかなかった。
「ちなみに好きな人って誰なの?」
彼女をあきらめるための最後の一押しとして、僕は彼女の惚れた相手の名前を聞いてみた。仮に僕の知ってる奴で、僕よりも凄い奴だったなら、きっちりと諦められると思ったからだ。
「うーんとね…」
口をもごもごとさせて戸惑う彼女の様子に、僕は少しいら立ちを感じた。そしてその名前を聞いた瞬間、僕の頭は理解を拒んだ。
「兵藤一誠君」
「ふざけるなよ!」
あの後のことは、何も覚えていなかった。気付けば自分の部屋に帰っていた。その間の授業の内容や友達との会話など、一切記憶に残っていなかった。僕は叫びながら、肩に下げていた学校鞄をベッドに投げつけた。
「なんで、なんで!よりにもよって兵藤一誠なんだ!?あの覗きの糞野郎が僕よりも素敵だって!?」
僕は叫んだ叫ばずにはいられなかった。
「覗かれて困ってたって言ってたのに!あいつなんて大嫌いだって言ってたのに!なんで、なんでだよ!ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなよ馬鹿野郎!」
何度も何度もベッドに拳を叩きつける。ボスボスと布団の中に拳がめり込むが、僕の心はズタズタだ。
兵藤一誠。この駒王学園における最悪の問題児の一人。入学当初から女子更衣室の覗きをするなど、性犯罪じみた行為をし続けていた。本人曰く『俺は見たいだけなんだ!』と、言い訳にもならない言葉を並べ立てていた。そもそも、そんなことをしておいて、どうして退学されないのかが不思議だし、よくもまぁしれっとした顔で登校してくるもんだ、あんなことをしつ女にもてたいとか…だのと、色々と陰口は叩かれていた。それに対しては、噛みつくような言動で返すなど素行もよろしくはなかった。
結果、僕を含めた男子生徒からは、男だからってあいつらと一緒にしないでほしいと煙たがられ、女子からは蛇蝎の如く嫌われていた……はずだった。
ふと最近になって、兵藤に対してはぽつぽつと見直すようなことを言い出す生徒がいることを思い出した。
「少し逞しくなったきがする」
「アーシアちゃんを気にかけてるし、実はやさしいんじゃないの?」
「やっぱ『兵×木』よ。けだもののような男の子に、気高い王子様が……!あぁ!ごはん3杯行けるわ!」
「これだから野蛮思考どもが…!獣だったのが気高い王子様に調教される『木×兵』が王道なのよ!」
などなど、一誠らに散々被害を受けているはずの女子たちが言い出しているのだ。元女子高ゆえに、女子使徒からの憧れの視線を受けていた駒王学園のお姉さま方、『リアス・グレモリー』先輩、『姫島朱乃』先輩らがいるのだが、なぜかその二人からも熱い視線を受けているのだからおかしな話なのだ。それこそ姫島先輩は、男嫌いで有名だったはずなのに……。
まあでも、そんな奴に僕は負けたことに変わりはない。元彼女も、そんな兵藤一誠に惚れてしまったのだから。
「なんでお前は…!」
兵藤一誠に対して僕は、八つ当たり気味な嫉妬と怒りを抱かずにはいられなかった。
▶
「ういっす。少しは元気出たか?」
登校中、後ろから友人が挨拶をしてきた。小学校からの付き合いで半ば腐れ縁。僕が彼女に振られたことを知っている数少ない仲間。振られた後の僕の状態にいち早く気付き、振られたことに対して僕よりも怒り、僕の気を紛らせようとして遠出まで誘ってくれた親友だ。
「何とか…ね」
「そっか、なら今度は釣り行こうぜ釣り。魚が来るまでぼーっと何も考えない釣りも、少しは気を紛らせるだろうさ」
「ありがとう」
そんなことを話していると、校門の前で大きな声がする。なんだと思いながら行けば。校門の前で抜き打ちの荷物検査が行われていた。ほとんどの生徒は何もなく学園に入っていくのだが、とある人物が先生に噛みついている。
「いい加減にしろ兵藤!学園にそんな本を持ってくるなと何度言えば分かるんだ!没収だ!」
「ま、待ってください先生!これは、これには深ーい訳があって!」
「ほう、なんだそれは」
「松田と元浜とで、お宝本交換をしようと約束して…」
「おまっ一誠!?なに俺らを巻き込もうとしてるんだよ!?」
「お前を囮にしようとしてたのに、おまえって奴はー!」
「うるせー!しれっと俺を見捨てようとした奴を友人とは思わねー!こうなったらお前らも道連れだ!」
「そうかそうか、松田と元浜も持って来ているわけなんだな?全員没収だー!」
「「一誠おまえー!!」」
先生の足元に縋りついている兵藤一誠や、ばらされた腹いせに一誠に殴りかかろうとしている松田、元浜という一誠とご同類との取っ組み合いを横目に、僕たちは学園に入っていく。校門に入ってすぐにの校庭では、一誠と先生らのやり取りにあきれ顔の美少女たちがいた。
『リアス・グレモリー』先輩、『姫島朱乃』先輩、留学生『アーシア・アルジェント』さんと転入生『ゼノヴィア・クァルタ』さん、一年生『塔城小猫』さん、学園の貴公子こと『木場裕斗』くんなどなど。彼らは『オカルト研究部』なる部活のメンバーで、兵藤一誠もその一員という。
「まったく、一誠も相変わらずね」
「そうですね。でもそこが一誠君らしいと言えばそうじゃないですか?」
そんな会話が聞こえてくる。
もはや誰も言わなくなったが、彼女たちが一誠と一緒に登校した際には、まるで衝撃映像を見てしまったからのように、学園内で悲鳴が上がり、生徒はショックで気を失う、泡を吹くなどで阿鼻叫喚になったのは、一種の伝説だ。その時は、僕も彼女もびっくりしたのを覚えている。
そんなことを思い出し、僕は自分の中に燻ぶった思いが漏れた。
「なんであんな奴が…」
「どうしたよ?」
「あ、いや何でもないよ…あはは」
首をかしげる親友に苦笑いをする僕の中では、確かに黒いものが宿っているのを感じた気がした。
▶
「はぁ…」
もう何度目のため息だろうか。ため息をつくと幸せが逃げるときくけど、仮に今の僕にあてはめたら一生分の幸せがなくなってそうで心配になる。
「お、待ってたな?帰ろうぜ」
待ち人が教室に来るまでため息を吐いていると、教室の扉の前でにこやかに笑う親友が来た。
「やっぱりそう簡単には忘れられないか」
「……うん」
僕の呟きに頭を掻きながらため息を吐く親友。
「俺としちゃぁ、あいつとお前はうまくいくと思ってたのにな。それによ、あの日はデート楽しんだってLINEだって送ってきたのにさ。なんで兵藤なんて奴に…」
半ば知り合いだからこそ、親友は今回のことに怒りと疑心を抱いてた。
「もうどうでもいいよ。そんな奴に僕は負けたんだからさ」
「っわりぃ」
気まずくなった雰囲気を引きずりなが、僕たちは廊下へと出る。すると、目の前から走ってくる人影が見えた。兵藤一誠とそのお仲間、そしてその後ろには大勢の女子生徒たちだ。女子たちの顔は、まるで般若のごとく恐ろしい形相だ。どうせ前の三人が酷い事をしたんだろう。
「どいてくれー!」
僕たちに気づき、避けるようにいう3人。でもイライラしていた僕はわざと邪魔するように彼らの前に立った。案の定、彼らは僕をよけようとして無理がたたり、床に盛大にこける。
「ざまぁみろ」
気付けば口から出た言葉。そしてハッとして気まずくなってしまう。
そんな僕を他所に、こけた三人らは女子に取り押さえられるが、ワーワーと叫んでいる。
「行こう」
「無茶するなぁ」
僕たちはその横を通り過ぎようとして声をかけられた。
「危なかっただろ!どうして避けなかったんだよ!」
「知らないよ。そもそも追いかけられることをした君たちが悪いだろ」
「仕方ないだろう!見たい気持ちを抑えられないのは男のさがだ!お前だって、口ではどうこう言ったって!」
「僕を君たちと一緒にしないでくれよ…!」
無意識に握った拳が固くなる。目の前のこいつを殴りたくてたまらない、そんな気持ちにさせられる。
こんな奴のせいで……僕は恋人に振られて!
親友に肩を叩かれて、我に返った。
「行こうぜ」
「…うん」
そして僕らは帰ろうとして
「けっ、モテる男は違うってか」
気付けば一誠を殴っていた。
▶
一時の自宅謹慎
それが僕に言われた処罰だった。理由に関しては、相手が兵藤一誠とはいえ殴ったことは悪いこと。それ故に、頭を冷やすためなども含めての処罰だった。
「どうしちゃったんだろ…」
あの時の言葉で、僕の頭は真っ白になり、兵藤を殴り飛ばしていた。親友に羽交い絞めにされて、ようやく自分のしでかしたことに気づいた時にはもう遅く、騒ぎで出てきた教師たちに取り囲まれた時は、もう絶望しかなかった。救いだったのが、周りも僕の気持ちを察してくれたこと、普段から普通の学生であったことも含めて、大きなことにはしないという話だった。
「よっ」
そして謹慎とはいえ、親友が毎日きてくれたから、そこまで苦でもなかったことだろうか。プリントを持ってきてくれて、学校のことを色々と教えてくれた。まぁ……僕が謹慎することになったことが話題になっていたのは、仕方がないと飽きらめていたけどね。
気を取り直し、僕は遅れるだろう授業内容を勉強するために自室に戻るのだった。
バチンッ
左頬の痛み。目の前には、僕は振った元カノの怒った顔。
なんで?どうして?
僕はあまりの出来事に頭が回らなかった。謹慎が解けて、親友と登校し、教室に入ってみたらこれだ。僕を振った元彼女が僕を叩いたのだ。
混乱する中で彼女は叫ぶ。
やれ、「振られたからって八つ当たりするなんて屑」「最低」「そんなんだから一誠君に劣るのよ」などなど、教室の中で叫ぶものだから、みんなが集まってくる。そしてなぜか泣き出して膝から崩れる元彼女。見れば、周りからの視線が変わっていた。ひそひそと声が聞こえる。
「まじで?」「最っ低…」「うわぁ」
そんな声が耳に入る。親友が「止めろ、こいつは悪くない!」と叫ぶが、それで止まるわけもなく、更に言葉が酷くなっていく。
なんで?
久々に登校して、ようやく前向きに行こうとしていたのに、どうしてこうなるの?
「うわぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
親友の言葉を無視して、僕は叫びながら教室を飛び出すしかなかった。
それから僕は不登校になった。この時の光景が頭から離れず、ずっと心がすくんでいる。
どうして僕がこんな目に合わなくちゃいけないの?そんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡る。両親への申し訳なさも相まって、酷く自分が惨めに思えた。実際、惨めなんだろうけどね。
学校が始まっている時、僕はふらふらと外へ出る。学校の生徒とは会うことはないから、逆にいつも通りの気持ちだった。家に帰れば普通に勉強するが、半ば独学なので、わからないところがある。そんな生活を送っていた。
そんなある日、街中で変な紙を拾った。
「あなたの願いを叶えます?」
紙には変な魔法陣があり、僕が口に出した言葉が書かれていた。
「ふーん」
どっかの怪しい宗教勧誘みたいで気持ち悪く、僕は紙をズボンのポケットに突っ込んだ。
そろそろ学校が終わる時間だから家に帰ろう。
いつもの時間割を思い出し、家へと帰ろうとした。でも僕は忘れていた。今の時期は、テスト週間だってことを。
「え………?」
僕は、美少女を連れて歩く兵藤を見てしまった。
その顔はあの時のことなんて忘れたかのよう、周りの女の子に囲まれてにやけていた。まるで幸せそうな兵藤一誠を見てしまったのだ。
「うぷっ……」
吐き気。胃からせりあがってくる不快感。僕は口元を抑えて何とか堪える。だがそんな怪しい行動をした結果、彼らの視線が僕に向くのは当たり前で。
「あ、おまえは!?」
兵藤の言葉。あいつと視線があい、指を指された。
気付かれた!?
そして、僕を見据えるリアス・グレモリー先輩を含めた駒王学園の生徒たち。
「ひっ…」
僕は恐怖に駆られ、口元を抑えながらも走り出した。彼女たちの視線が、元彼女の姿と重なって見えた。
怖い怖い怖い怖い…!!
あの時の周りの視線。僕を責めるような声。それが耳元で鳴り響く。僕の周りは何もかも壊れてしまった。
兵藤一誠
アイツが!あいつが!その原因を巡らせれば、たどり着くのは兵藤一誠という存在。
アイツがいるから僕は彼女に振られて、あいつのせいで僕は謹慎させられて、あいつのせいで僕は不登校になった!それなのに、なんであいつはあんな幸せなんだよ!いつも悪いことをしているアイツは許されて、一度悪いことをしてしまった僕がどうして苦しまなきゃいけないんだよ!
ボロボロと涙がこぼれるのにも気付かず、僕は自室へと駆け込み扉を閉めた。ふとズボンのポケットに違和感を感じ、取り出すと一枚の紙きれ。
『あなたの願いを叶えます』
あれほど胡散臭いと思っていたのに、その文字が僕の心を慰める魔法の言葉に思えた。
「お願いです」
僕はなりふり構わず呟いた。