主人公補正の裏側で   作:神技:エーテル・ストライク

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「ねぇ、聞いた?夜に現れる怪物の噂」

 

テーブルに置いたままの、客が飲んだコーヒーカップなどを片付け、消毒薬を付けた布巾で拭いていると、反対側のテーブルに座っている客の声が聞こえてきた。見れば、自分とは違う学校の制服を着た女子高生のグループだった。

 

「えぇーなにそれー気になるー」

 

グループ内の一人は切り出された話に興味津々のようで、身体をテーブルに乗り上げるように顔を近付けている。一方で他は興味がないようで、自分の携帯の画面を見ている。

 

「うちのクラスで流れてるんだけどさ、なんでも夜に怪物を見たんだって」

 

「マジで?」

 

「マジマジ、そいつ夜にコンビニに行った帰りの途中でさ、なんかでっかい生き物が空を飛んでたのを見たんだって」

 

「なにそれちょーやべーじゃん!で、写真は撮ったの?」

 

「それがさ、携帯のカメラで撮ったみたいなんだけど、朝起きたらデータが消えてたんだって」

 

「うわまじナイワー」

 

そんな会話を耳にしながら、私は入ってきた客を案内するために入口へと向かうのだった。

 

 

 

「おいっす」

 

私は前を歩く同級生に声をかける。いつも通りの通学路。先輩も後輩も同級生も、みんないつも通り学園へと向かう。ちりんちりん、と後ろから追い越していく自転車のベル音。

 

「あっぶないわねー。もうちょっと、歩く私たちに配慮しろってんだよー」

 

少し乱暴な運転に私は愚痴を漏らしてしまう。

 

「自転車通学ってことは、それほど遠いってことなんだと思うよ。だから…ね?」

 

「だからって、私たちが危ない目にあってもいいってことじゃないっしょ?」

 

少し言葉を荒げてしまい、しまったと後悔する。案の定、どう答えたらいいのか、同級生は困惑気味の顔をする。

 

また私の悪い癖が出た。

 

私は彼女に「ごめん」と謝る。いつものことながら、自分の言葉は人に対してキツイ。よく顔に気持ちが出る人がいる。私は場合は、顔ではなく声だ。両親や兄貴、友人からも、そのことを指摘される。

今の愚痴も、内心では少しイラついていた。だからキツイ言い方になってしまっていた。正直、自分の癖なのに自分が嫌になる。

 

話題を変えるために、市内に最近できたワッフルのお店について話してみる。彼女も空気を変えたかったのか、二人してスイーツの話で盛り上がりながら校門を通り過ぎる。

 

「てめぇ一誠!?この裏切り者がぁ!!」

 

後ろから男子の叫ぶ声が聞こえてくる。

 

()()()()()ならば、怒鳴り声を聞けば誰だって気になるだろう。だが、この学校はどういうわけか『普通』ではないのだ。

その叫び声が響いたところで、気になって見に来る奴は皆無。

ただちらりと振り向いて、「またか」「いい加減にしろよ」「迷惑」というくらいの言葉で終わる。それくらい日常的な出来事になっていた。

 

私たちが通っている駒王学園はかつては女子高として有名だった。だが、入学生の減少が原因なのか、ここ数年前に共学へと変わったのだ。トイレと言った設備の改築などは必要だと思うけど、別に女子高から共学になろうとそこまで問題になることはなかっただろう。

 

だが、駒王学園(ここ)は事情が違った。なにせ、共学になったことで、問題児が3人も入学することになったのだから。おそらくだろう、私の後ろにある校門ですったもんだを行っている3人。兵藤、松田、元浜、この3名の男子学生の入学によって、駒王学園は異常の学校へと変わった。

 

女子更衣室の覗き、盗撮、卑猥な本の持ち込みなど、いわゆる猥褻行動を彼らは今も続けている。

注意しようとも話を聞かず、謝るどころかむしろ開き直るのだから、もはや性欲の獣と言っても問題ないと思うほどだ。

 

度々彼らの両親が呼ばれているのだが、これといった改善もないのだから、もはや学校も彼らの両親も半ば諦め状態というのが現状だろう。私からすれば、さっさと警察に突き出すべきだと思うものの、学校の体面か、それとも子供だからというのか、反省文や指導で終わっている。

 

ぶちゃけ、学校も周りも含めてなあなあにしてる時点でいろんな意味で狂っている(終わっている)、って感じ。

 

「あいつらまじでなんなのよ」

 

なまじっか中途半端に扱われているせいで、あいつらは何も変わらない。それこそ「それがどうした」というように余計に反発するように好き勝手をしている。それで被害を受けているのはこちらなのだ。何度も体育が終わった後に覗き見されたこともあるし、盗撮まがいなこともされた。

 

何度も徒党を組んで学校に訴えたものの、結局は軽い処罰だけで終わっている。

入学した当初、こんなことになるなんて想像も出来なかった。もし分かっていたなら、十中八九こんな学校なんて選ばなかっただろうに。あと2年もあいつらと過ごすのか、そんなことを思うと、憂鬱でならなかった。

 

 

 

 

「あんたらさぁ、マジいい加減にしてくんない?」

 

トイレから教室に戻ると、いつもの変態3人組が自分らの机の上で本を広げていた。カバーなどで隠そうともしないが、当然猥褻系(エロ)の雑誌だった。私の机は変態の一人の真後ろだ。つまり、私が席に戻ると嫌でも変態の会話を聞かざるを得ないのだ。今日は特に苛立っていたせいか、普段なら黙って無視をするのに、三人に対して噛みつくような態度になる。

 

「別にいいだろう」

 

「そうだそうだー」

 

「俺たちの至福の時間を妨害するなー」

 

そんな彼らの態度が、私の苛立ちを刺激した。私は彼らの持っている雑誌を取り上げる。

 

「なにすんだよ!」

 

兵藤が絡んでくるが、知ったことじゃない。

 

「あんたらさぁ、いい加減に学習しないの?散々怒られてんのにまだわからないわけ?」

 

「なんだよ、なにが言いたいんだよ」

 

「迷惑してるって言ってんだよ!毎回毎回こんなもん持ってきてさ。あんたらは何?猿?頭がエロいことしかないエロ猿なの?」

 

「うるせぇ!俺たちのエロの探求は、憧れは止められないだよ!」

 

「なんだったら、妄想の中でお前の胸揉んでやるぞ!」

 

「あぁ!?やれるもんならやってみろよ。そん時は妄想内だろうとてめぇを絞めてやるよ!」

 

どんどんといら立ちが募るも、私と三人の様子をみた他のクラスメイトが止めに入ったことで、それでお終いになった。もっとも、燻ぶった感情は簡単に収まるわけもなく、ずっと目の前に座っている松田の背中を睨みつけた。

 

 

 

 

「あーもうまじでなんなのよ!」

 

「おいおいどうした?」

 

家に帰り、リビングにあるソファにどかりと腰を下ろした。それを見た兄貴が、あきれたような顔で私にコップを差し出す。

 

「ありがと」

 

湯気が立つ温かいコーヒーを一口飲み、ため息をつく。砂糖入りのインスタントなので甘いが、今はその甘さが嬉しい。

私は今日あったことを兄貴に語った。私から見てなんだか頼りがいの無い兄貴だが、こういった私の愚痴をずっと聞いてくれる。時に相槌をうちながらも、ただ静かに聞いてくれるから、私はずっとしゃべり続ける。気付けば、胸のもやもやがなくなり、すっきりとした気分だ。

 

「いつもありがとう兄貴」

 

「なぁに、かわいい妹のためならお兄ちゃんはいくらでも愚痴ぐらい聞いてやるさ」

 

「そのにやけ顔はきもいから止めて」

 

床にうなだれる兄貴を放置したまま、私は二階にある自分の部屋へと階段を上る。部屋の机に鞄を置き、ベッドの上に寝転がった。どれくらいたったのだろうか、ご飯が出来たと兄貴に言われ、私はパパとママ、兄貴と一緒に夕飯を食べる。

 

「そういえば」

 

ふとママが私を見て何かを思い出したようだ。どうやら今日学校での出来事について、連絡があったようだ。

 

「いくら許せないからって、危ない真似はやめなさい。その男の子たちって、例の子供たちでしょ?」

 

「だからって、見過ごせるわけないでしょ。なにより、私の前の席なんだよ?」

 

「でもだからと言って…」

 

「まぁまぁ、母さんだって心配なだけなんだ。もちろん、僕だって心配だよ。だからさ、もう少し気を付けて行動しなさい」

 

「はぁい」

 

パパとママのお小言に顔をしかめると、兄貴が私に1000円札を一枚渡す。

 

「少しは頭を冷やすためにも、コンビニでアイスを買ってこい。ちなみに、おつりはくれてやるから」

 

兄貴からの不器用な心遣いに私は少し笑顔になった。

 

 

 

 

「って、コンビニは家から遠いんだよ!」

 

私は長ズボンに長袖のシャツ、上着にジャケットをはおり、アイスの入ったビニール袋を右手に持ちながら家へと向かう。自転車では5分だが歩くと10分くらい離れているコンビニ。少し頭を冷やすためにも、私は徒歩でコンビニに向かった。

時間は7時を過ぎてすでに暗く、空に浮かぶ月の光と道に置かれている電灯の灯りだけが唯一の光だった。

 

 

「そういえば…」

 

私はふと、バイトで聞いた噂話を思い出す。空に浮かぶ大きな怪物。まったくもって馬鹿げてる話。今時お化けならともかく怪物ってなんなのよ。

そもそもそんな怪物がいるなら、一体どこに潜んでいるんだろうか。それこそ駒王町は、田舎でもなければ都会でもないが、それなりに発展をしている。近くに廃倉庫や廃教会はあれど、話に出てきたような大きな巨体が隠れるほどではない。それに朝になれば人通りだってある。それこそ誰かが気付きそうなものだ。

 

「まったく、今日は早く帰って寝よっと」

 

ガサガサとビニール袋の中のアイスを見ながら、私はどれを食べようかなぁ…と考える。

 

ホームランバー、パピコ、最中アイスなどなど、いくつか買った。ふと、悪魔の囁きが聞こえた。

 

「今食べてもばれないよね…」

 

今のうちに一個食べて、家に帰ってもう一個食べる。何とも言えない背徳感。体重が気になるが、やはりアイスを二個食べる誘惑には逆らえない。

 

ガサゴソと最中アイスを袋から取り出し、包装を破る。不思議と口がにんまりと歪む。では、

 

「『いただきまぁす』」

 

「え?」

 

自分とは似ても似つかない声を聞いた後、何かが砕ける音がした。

 

 

 

「よっしゃぁ!はぐれ悪魔討伐完了!」

 

真っ暗な倉庫の中で、誰かが声をあげた。時刻は十時を過ぎ、月には雲がかかり、真っ暗な夜だった。

 

「お疲れ様です、一誠さん。怪我とかはないですか?」

 

「ありがとうアーシア。ちょっと手こずったけど、怪我とかはしてないよ」

 

「お疲れ様、一誠。これで依頼は完了ね。まったく、私の領地で悪さをしようだなんて許せないわ。問題が起きる前に対処できて良かった」

 

「大丈夫ですよ部長。俺がみんなを、この町を守ってみせますから!」

 

「あら、嬉しいことを聞いたわ。なら次も頑張りなさい」

 

「わ、私も一誠さんのお手伝いを頑張ります!」

 

そんな声が響いた後、怪しげな光と共に、倉庫に静寂が訪れた。

 

誰も気付かなかったことだが、倉庫の隅には、溶けきったアイスが入ったビニール袋と、真っ赤な小銭が散らばっていた。

 

 

後日、尋ね人のポスターが駒王町で見るようになった。

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