夢幻の如く〜Memories of Nobody〜 作:あいりす@鯖や
ホプユウです。
人生初SSなので拙いところもあるかもしれませんがどうか宜しくお願いします。
ムゲン団系です。ユウリ闇堕ち
他作品の要素が微妙に混じっています。
目次
Episode1 Prologue
Episode2 特異点
Episode3 ただ流るる時のままに Da.Capo
Episode4 夢幻の如く
Episode5 HOPE
Episode6 Champion,Time is over
Episode7 Memories of nobody
EXTRA Episode 二人だけの階(きざはし)
Episode1 〜Prologue 〜
あの「運命の日」ーーー。ポケットモンスター、略してポケモン。それを扱う者達の頂点を決める戦いの日。少女が旅を志したきっかけであり、苦楽を共にしてきた旅の道連れである親友 ホップの首をセミファイナルトーナメント決勝戦で切った。そして、続いて頂への挑戦権を得た一人の少女は無敵、無敗を誇ったチャンピオンを倒したのである。この時、一人、いや二人の男が死んだ。そして一人の「少女」がこのガラルの地に産声を挙げたのである。否、少女と呼んでは失礼か。「王」という言葉がそれには相応しい。
目が焼けるほどちらちらと眩しいスポットライトという閃光が降り注ぐ中、ある者は歓声を挙げ、ある者は惜しむ無き祝福を、また、ある者は悲嘆の声や哀悼を天を割り、地に轟かんと如く万雷の喝采と色とりどりの紙吹雪と共に新たな王へと容赦なく浴びせた。旧き王は、敗北という名の屈辱に身を焦がし、のたうち回るほど悔恨の意を持ちながらも笑って死んだのである。
十年間という長い年月の中で誰一人とてその玉座に上り詰めることはできなかった。しかし、今宵、引きずり降ろされ、新たな王がそこに座す。齢にして14。その茶色の瞳は透き通るほど澄んでおり、まるで、この世の全てを見通してるかのよう。肩までざっくりと切られた重たくないショートボブの茶色の髪。トレードマークの緑のベレー帽(ボンネット)、濃い赤色のワンピース、暖かそうなウールーの毛からできたざっくりとしたカーディガンなどオシャレが好きだった、それまではごく普通の女の子だった。
その少女ーーーユウリ。ただ一つの敗北もなく、白銀の白星が爛々と降る積もるような様から白雪姫を彷彿とさせる才覚を持った少女。世の人はかのダンデの再来だと沸き立ったほどである。数年前に遥か遠くの地方からこのガラルに引っ越してきた異国の少女は、幼馴染のホップとともにガラルの英雄、「無敵のダンデ」から見いだされ、生まれて初めてポケモンに触れたのにも関わらず、忽ち、スポンジのようにあらゆることを吸収していった。水を得た魚、翼を持った鳥のように容易に水を泳ぎ回り、どこまでも飛んでいったのである。次々と頭角を現した彼女は、ジムチャレンジを破竹の勢いで突破していった。盾を手にして、伝説のポケモンであるザマゼンタを従え、この地をかつて襲った古の大厄災の魔の手から救ったのである。遥か遠い後の世まで語り継がれることになる「ガラルの英雄」の片割れ。「神話の再現」、「新たな伝説の始まり」である彼女は、ダンデ、いやそれ以上の注目を受けたのである。そして、その大厄災…ブラックナイトの元凶であるムゲンダイナまで従えた事から畏怖の念すら抱かれるほどとなった少女。
十年もの間頂点に君臨し続けた黄金の瞳をもつ若き獅子ーダンデー
「ガラルの太陽」のような存在であった。彼は、ガラルの全トレーナーの実力の向上という壮大な夢を持ち、しかし、彼は言葉尻に終わらせず、それを成就しようとしていた道の中途であった。齢十歳で師・そして前々チャンピオンであるマスタードからその才能を見いだされ、生まれ故郷であるハロンタウンを飛び出して以来、負けることがなかった。ガラルで産まれ、ガラルを愛し、ガラルに愛されたこの偉大なる男は、その圧倒的なカリスマ性も相まって老若男女問わず様々な人間に「夢」を魅せていたのである。中には、余命幾許かの少年達もいた。生きる希望、原動力を与えたのである。だが、しかし、哀しいかな。まことこそ夢で、夜の夢こそまことなどは叶わず、いつか夢は覚めなければならなかった。生けとし生ける者はいずれ死に、樹からリンゴが落ち、太陽が東から昇って西に沈むかのような絶対不変の基本原則。「無敵のダンデ」なる「幻想」は文字通り、殺されてしまったのである。
私は、ユウリ。14歳。オシャレが好きでごく普通の女の子「だった」。ここガラル地方の現チャンピオンだ。
スタジアムの外でもいつでもどこでも私は「チャンピオン」であり続けることを求められた。膨大な書類。マスコミへの対応、ファッションショーやモデルなどといった慣れないチャンピオンとしてのお仕事。勿論、大人であり、前チャンピオンのダンデさんがまだ子供である私の後見人としてその他諸々の仕事をこなしてくれてはいる。キバナさんやルリナさん、マリィといった他のジムリーダーの面々も私を気遣ってくれている。割れ物を扱うかのような慈しみだった。
シャンデレリアや窓ガラス、ソファー、机、その部屋の一つ一つが質の良い特上の高級品であることをうかがわせる豪華な調度品で満たされた高貴の雰囲気を持ち、そしてどこもなく窒息させるかのような息苦しさを感じるバトルタワーの執務室から今は抜け出し、シュートシティのメインストリートを闊歩していた。つい、先程受けたインタビューの内容を憂鬱に思い浮かべながら。私は、元々、こんなに目立つのが好きじゃなかった。マスコミへの対応はどれも面白みのないものばかり。バトルに強くなるための秘訣とか、普段どんな生活をしているのかとか、お気に入りのファッションは何かとか、恋人はいるのかとか、そんなこと。
チャンピオンになった頃は何を聞かれても慌てふためいていたのに、何度も同じことを聞かれれば本の朗読でもするようにすらすらと言葉が出てきた。同じことしか答えてないのに、世間はそれでも暴こうとしてくる。さながら甘い蜜につられる虫のように集るのだ。好きなブランドやカレーの味だって、もう自分のことで知られていないのは頭の中くらいだと思う。いつもいつもいつもいつも、その度に偽りの仮面を無理して貼り付けて応対した。
かつて、マクロコスモス社の敏腕社長にしてガラルリーグ委員長だったローズがダンデに求めた「チャンピオン」としての在り様は、まさしくガラルを照らす太陽そのものだった。強く強く、ただひたすらに強く、猛々しい獅子。その強さで、その正しさで、その信念でガラルの全てを照らし、より良い未来へと導き出すリーダーとしての姿。重い赤いマントを悠々と翻し、立ち向かうものすべて叩き潰す王。それを演じることはダンデにとって苦にはならなかったし、なによりダンデにはエンターテイナーの素質もあった。ローズの後押しもあり無敵のチャンピオンダンデの姿はすぐに世間に浸透し、求められるままダンデはチャンピオンであり続けた。
だがユウリは、ダンデのようにはなれなかった。世間の求めるチャンピオンの在り方と彼女の本質はあまりにもかけ離れていたからだ。ただのユウリと話したことがあるものなら誰だって知っている、彼女に「強い」や「猛々しい」という言葉は似合わないことを。
あることないことをインターネットに書き込まれたりもした。やれ、女の子だからダンデは手加減したのだとか。やれ、コネを使ってジムチャレンジに参加していたのだとか。やれ、ブラックナイトも見てただけなんだろとか。私に対してならまだ分かる。けど、他の人達にも迷惑がかかるのが嫌だった。こんな無力な子供がチャンピオンになったせいで。
違うと言い返したくなった。そんなことないと。ダンデさんは私に正真正銘、持ちうる限りの全ての力、それまでの培ってきた経験、努力、技術、そして才能を以て全心全霊で私に向かってきたのだと。あの時のバトルの興奮はおそらく一生忘れることはないだろう。フィールド上に響き渡る轟音。地響き。ダイマックスしたお互いのエースであるリザードンとインテレオンが繰り出した正真正銘、最後の一撃同士のぶつかり合い。その余波の圧倒的なまでの衝撃波にたたらに力を込めて踏ん張った。風が、水の粒が、閃光が私の顔に打ち付ける。巨大な炎と水によって発生した辺り一面を覆い隠した水蒸気による霧が段々晴れていき、勝者の姿を私の瞳に映し出した。バクバクと鳴る心臓の音を耳にしながら。瞳に映ったのは私の愛する最高の相棒がその全ての力を出し尽くしたからかいつの間にかダイマックス状態が解除され、疲労困憊でありながらも仁王立ちしている立派な後ろ姿の雄姿であった。そして、彼の奥では、「ガラルの太陽」、その無敗伝説、最強の象徴が地に臥せっていたのである。
ーーーChampion time is over.ーーー
ダンデが帽子を目深に被った後にキッパリとしたその口調は、悔しさも混ざりつつもどこか解放されたかのような永らく会うことのできなかった恋人に漸く会うことができたかのような待ち望んでいたものであった。
肉が、血が、細胞が、行く場所をなくした興奮の渦が体中を駆け巡っていた。火の花が夜空に咲いた。手を取られ、高く持ち上げられる。何も聞こえなかった。自分の心臓の音しか聞こえなかった。だからこそ、私はそんな風に言われることが耐えられなかった。
大人達の視線はいつでもまだ幼く、子供である私に容赦なく突き刺さったのである。会食の時もそう。プライベートのオフの時もそう。そうだ。こんないたいたけでか弱い少女が我らの「ダンデ」になり得るはずがないのだと。実感が湧かないのだと。俺達のチャンピオンはダンデだったのだと暗に言っているかのよう。
誰もわたしを…「ユウリ」を見てくれない。
いつの日にか、私を褒めてくれる称賛の言葉ですら心を抉る鋭い刃となっていた…。
私は、元々チャンピオンになんかなりたくなかった。もっと言えば、ポケモンにそこまで興味がなかったのだ。家のゴンベやスボミー、牧場のウールーを可愛いなぁって思うくらいで。
私は、喘息の持病を持っていた。激しい運動ができなくていつもスクール(幼等部)の体育の時間では隅っこで体育座りをしていた。そんなお荷物だった私は当然、両親の離婚に伴い、母側に引き取られた。家族が離ればなれになること、特に双子の兄、マサルとの別れは私の心に大きなダメージを与えた。泣き喚き、塞ぎ込んでいた。でも、家族がそうなってしまったことも全ては私の喘息が原因だった。だから、余計に苦しんだ。ママは優しかった。こんな私のことを尊重してくれたし、手厚い介抱をしてくれた。医者の綺麗な空気があるのどかな片田舎での療養を勧められた時に即決で慣れ親しんだジョウトからの引っ越しを決めてくれた。包容感があり、いつも笑顔で苦を顔に出さない。そんなママのことが私は好きだった。大好きだった。けど、だからこそ、その笑顔の裏が怖かった。また、私がママの人生を縛り付けてしまっているんじゃないかって。
こんなこと思うのは悪い子だからなのかもしれない。
ここガラル地方のハロンタウンに引っ越して
夢を見てしまった。
そして、親友の「夢」を奪ってしまったのだ。
〜Prologue2〜
ただ、初めはホップに追いつきたかったのだと。ハロンタウンという見知らぬ遠い土地、誰一人知り合いはいなくて心細くて、それまでずっと家か病院にいたから外の世界を何も知らなくて。怖くて、先刻の家庭事情も相まって塞ぎ込んでいた私を連れ出し、色んなものを見せてくれた私の、私だけの太陽。ーー
おお!新しく引っ越してきたお隣さんだな!俺の名前はホップ!これからよろしくなんだぞ!ユウリ!。
ユウリ!こっちにはウールーがたくさんいるぞ!暖かくて触ると気持ちいいぞ!
ユウリ!バーベキュー一緒にしようぜ!〜って肉がとても重厚で美味しいぞ!
ユウリ!こっちは〜〜
ユウリ!………
ユウリ!…
ユウリ!
彼が見せてくれたありとあらゆるモノは陰鬱な何もない虚無という名の真っ白な空間に支配された病室と心優しいがどことなく居心地が悪い家しか知らなかった私にとって、とても新鮮で、輝かしいものだった。俯きがちだった私が前を向いて歩き出すきっかけを作った人。世界はこんなにも広いのだと教えてくれた人。ホップが新たに教えてくれることを何かといつもいつもこれでもかと喉から手が伸びてくるかのように待ち望んでいた。
そんな、楽しい日常を送っていたある日、初めて「ダンデ」について知った。ホップには兄がいるのだそうだ。利発で明るくて元気が良くて騒がしいようで実は気立ても良くて、一方的に話しかけているようでいてしっかりと受け手のことを考えているとても優しい少年が、兄のこととなるとまるでジュカインのタネマシンガンの如く怒涛の舌鋒、言葉の奔流で私を呑み込んだ。
これ!これがオレのアニキなんだぞ!かっこいいだろ?あっ!…今のところの判断はな....
ホップの繰り出す言は、止まらない暴走機関車のよう。そもそも、彼がこんなことになってしまったのは、スクールで散々、これでもかとなるほどの兄への称賛と自慢を繰り返し、繰り返し、同じ事を浴びせてきた為、親愛なる学友諸君は、聞き飽きてしまったのである。(彼らスクール生の大半がポケモンバトルに興味が無かったこともある)その為、聞かせる相手がおらず欲求不満に陥っていた。よって、引っ越してきたこの私が格好のターゲットとなったのである。
事の発端は、私のある呟きにあった。
曰く、「ヒトカゲが進化するとどんな感じになるのかな?」
私としては、「ダンデ」はおろかガラルリーグやポケモンバトルそのものにあまり興味はなくて、なんてことはない昼下りのコーヒーブレイクのような、近所のおばさん達の井戸端会議のようなそんな他愛もない言葉のつもりのはずだった。だって、ホップの家にいたヒトカゲ(ダンデさんのポケモン。後になって、私の手持ちに入ることになるあのヒトカゲ。)がとても可愛くて。当時の私は、進化含めてポケモン関連の知識にとても疎くて。あの可愛いヒトカゲが「進化」とやらをするとどんな姿になるんだろうって気になったんだ。ホップの脳内では、ヒトカゲに興味ある→ヒトカゲの進化系(ポケモン)に興味ある→リザードン!(かっこいい)→バトル!→リザードンと言えばアニキ!バトルと言えばアニキ!→リザードン=アニキ=かっこいい!になってたんだろう。
画面に映っていた男の第一印象は、「怖い」であった。ホップと同じまるで、全てを照らすかのような暖かみのある太陽のような黄金の瞳。誰にも負けることのない何か、折れることのない意志の強さを表しているかのような。だが、しかし、ホップのそれとは印象が異なった。弟のものが優しい光だとするなら、彼のそれは、激しく猛り爆ぜる光であった。まるで、獲物を狩り、仕留める時の猛禽類かのよう。絶対的捕食者、獰猛な肉食獣の眼の色だった。
でも、今なら身をもって分かる。あの凶悪とも思えるこちらを射抜き殺さんとするような眼つきは紛れも無き「勝負師」としての眼だったのだと。どこまでも勝利に貪欲で何がなんでももぎ取らんがする強い意志の表れ。ポケモンバトルにおいて、時には相手にとって非情な判断を下すこともある。勝負に勝つとは相手の人生や夢を奪うということなのだと。その首を切り落とすかのように。相手の人間性を否定することは獣のそれだが、才能を無情にもつきつけることに他ならない。無論、一番「熱い」と言えるのはお互いの全力と全力がぶつかりあってどっちが勝つか負けるか分からないギリギリのクロスゲームではあるが。
私自身、二面性があるのかもしれない。そういう、私もすっかりバトルジャンキーとして染まってしまったようだ。
しかし、現実のダンデさんに会うことはついぞ無かった。ダンデさんの日頃の忙しさもあり、スケジュールがことごとく噛み合わなかったからである。実際に会うことになるのはそれから幾ばしかの時が必要だった。
いつの間にか、人見知りだった私もホップ「くん」呼びから呼び捨てに変わり、ホップの母が営んでいる牧場の数多溢れるウールー達を一頭一頭、見分けることができるようになるまでのそんな時間が過ぎた。
そう、実際に会ったのはホップと共に冒険へと繰り出す前日だったのである。
ダンデさんを駅で迎えに行く道すがら、心中、穏やかではなかった。波は哀れな子羊を喰らい尽くさんとする龍の如く高く、荒れ狂い、雷雨は吹き荒れ、無情にもその頬っつらを強く叩きつけてくるような立つことすら赦さない嵐の中でこれから操船しなければならない遠洋漁業の漁師のようなそんな感情。
つまり、正直なところ、会いたくなかったのである。
しかし、実際に会ってみると恐れていたあの恐い眼はなく、ホップの兄として然るべき穏やかな、凪のような黄金の瞳だった。少々(いやいや、産まれ故郷で馴染み深い街で迷う人間がどこにいるのだろうか?)おっちょこちょいでどこか抜けていて、そして、ホップに似た優しさのある立派な大人のお兄さん。それが日常の中のダンデの等身大の姿だった。そして、弟想いだってこと。ホップの旅立ちの道連れとして私にも推薦状を渡したのは、ホップと私が幼馴染であり、ホップが常日頃から私のことを話していたからだけではなく、ホップと切磋琢磨し、共に良く影響しあいながら強くさせる為だろう。単なる当て馬、ただのホップの養分としてじゃないかって思うかもしれないけど私はむしろ、第一印象とは打って変わった兄弟愛溢れるところに敬意を持っていたし、それで構わなかった。一緒にただいられればよかったから。
TVに出てる時の「チャンピオン」としてでも無敵の「ヒーロー」ではなく、たった一人のただの「人間」なのだと分かったから。
ダンデさんが用意してくれたメッソン、サルノリ、ヒバニーという3匹の中から私はメッソンを選んだ。覗き込んだ時に映った瞳の色が好きだったから。そして、メッソンの反応が気になったから。私が話しかけるとビクッって震えて。そんな人見知りで…泣き虫なところに惹かれたんだと思う。自分自身の弱さが重なって見えたから。もう一人の私。一生の半身。この子と旅をすれば、何か見つけられる、得られるかもしれないって。そう思ったんだ。
ダンデさんっていうレジェンドレベルの現役チャンピオンの目の前でやったホップとの最初のバトル(私個人としても産まれて初めてのポケモンバトル)は、とても楽しくて無限に続いて欲しいと思った。ポケモンバトルとは、トレーナーとポケモン同士、ポケモン同士、そして、トレーナー同士の「対話」なのだと。ここでなら、この場でなら、こんな私でも自分のあるがままを見せることができるし、自由に「話す」ことだってできるのだと。バトル場は輝いて見えた。
俺のライバルだって。二人で鍛えてチャンピオンを目指すぞ!ってホップが目をキラキラさせて言ってくれた時はとても嬉しかった。そして、夢を目指す為に一生懸命な姿が好きだった。その後に降り注いできた願い星は最早、運命なんだなって。だって、凄くロマンチックだもの。まるで、よく幼い頃に読んだ絵本のよう。
でも、だからこそホップに失望されたくなかった。捨てられたくなかった。ずっと…私の側にいて欲しいと…。ホップは優しい。こんな人見知りで貧弱で厄介な壊れかけのブリキ人形のような身体を持ってる私を守ってくれたし、ずっと側にいてくれた。最初のポケモンバトルの時だってそうだ。彼は、
「さすがだぞ!タイプの相性をバッチリ理解してるんだな!」
とタイプ相性について褒めてくれた。彼は、目につくことを「さすがだぞ!」と褒めてくれる。旅に行っても多分、彼は、私を立ち止まって待ってくれるだろう。(現に、旅の時だって、せっかちな性格だからこそ彼は先にドンドン進んでいってしまうけれども最後は、必ず私を待っていてくれた。)ホップは優しいから。私はそう信じていた。けど、なんでだろう?ホップはそんなことしないと分かっているのに不安な考えが止まらない。優しさにつけ込んでいるから?
表には出てこないけど、心の中ではどう思っているか分からないから?決定的な何かを与えてしまうかもしれないから?
パパみたいに。私のことを嫌いになってしまうかもしれないって恐かったんだ。
だから、いつまでも一緒にいて欲しいと私はねがいぼしに願掛けした。
一種の不安を抱えたまま私は、家路についた。
それと、もう1つ問題があった。そう、私の持病のことである。その頃には、大分治まってきたとはいえ、何しろ子供2人+α(ポケモン)だけの旅。道中、何があるか分からないし、途中にはワイルドエリアだってある。例えば、野生ポケモンとのバトル中に喘息の発作が起こったらたまったもんじゃない。命の危機に関わる。だからこそ、ダンデさんは招待状はくれども無理強いはしなかった。最終的な判断は私とその母親が取るのだと。
反対されるかと思ったけどママは、笑顔で賛成してくれた。ホップの期待にも応えられるし嬉しかったけれどもやっぱり厄介払いなのかなって思っちゃった。明日が旅立ちっていうのに、色んな不安や緊張がいっぱいで堪らなかった。
丁度、そんな時だった。ホップから電話がかかってきたのは。
「ユウリ。今どうしてる?やっぱり緊張してるか?オレはもうドキドキで胸が張り裂けそうだぞ!けど、ユウリと一緒だからオレは頑張れる!オレは信じてるぞ!ユウリのことを!」
彼は信じてくれている。この私のことを。
いつの間にか緊張は治まり、不安も幾分か和らいだ。あのせっかちでダンデさんのようになりたいという夢に向かって一直線のホップでさえ緊張するんだって。応えなきゃならないと思った。これは、約束ーーーー。
だから、強くなろうと。
そう決めたんだ。
メッソンやまだ見ぬ仲間達と一緒に。やがて、ホップに置いていかれたくないという思いがどこまでも飛んでいきたいし高く高く、昇っていきたいという気持ちに昇華するのはもう少し先のお話。
〜Prologue3〜
ここガラルが近代化を遂げ、急速に発展したのは歴史的にみればつい最近のことである。元々は、太古の昔、海であったワイルドエリアが中央に座していたこともあってか土地は非常に貧しかった。無論、交通手段が乏しく、人の往来や物資等の流通が滞っていたのである。また、急病人の搬送、災害時での援助活動も遅れてしまっていた。ワイルドエリアにおいては、バンギラスやキテルグマ、オノノクスといった超危険ポケモンがそこら中を闊歩しているだけではない。吹雪、日照り、砂嵐、雷雨、霧といった激しい天候とめぐましい気象変化といった自然の猛威にも対処しなければならないのである。特に危険なのはキテルグマである。アローラ地方に生息していることで有名なこのポケモンの見た目に反したその本質は、非常に危険であった。キテルグマ、ヌイコグマ共に子供人気が高いポケモンである。理由は、お人形、ぬいぐるみらしさのある容姿をした可愛らしい姿をしているからに他ならない。さらに、ヌイコグマ自体にはそれほど逼迫した危険性がないこともあって「ヌイコグマの進化系だ!」と不用意に近づく子供が頻出し、死亡事故まで起きたほどである。他にも不用意にワイルドエリアに入り、夜に適当な場所で、テントの張り方が悪かったことによって命を落としたケースもあった。ポケモンとの生活をこの世界で完全に絶つことは不可能に近い。ポケモンとは、時には共に戦い、冒険し、話し相手になったり、仕事をしたり、寝食をし、交通の手段であったり、遊んだりなどなくてはならない人間のパートナーであるからだ。また、ワイルドエリアは、ガラル地方のど真ん中にあることからどこかへ行く為には必ずそこを通らなければならなかった。マクロコスモス社による劇的な社会発展が成される前は、電車も通っておらず、被害は多かった。ガラル特有の空のタクシーが発達した理由でもあった。
このようにジムチャレンジ黎明期やそれ以前において、命を落とす者達はとても多く、旅から帰ってこない子供達も大勢いた。そのような亡くなった者達の落とし物を今でも多く拾うことができるのは爪痕として、そして、忘れてはならない教訓であった。つまり、ここガラルにおいて動けない、戦えないとは死に直結していたのである。
子供を冒険に出かけさせるのは例え、リーグ関係者などに認められた才覚ある者達とはいえ、大変な危険を伴うものであった。それ故に、同じ年頃の子供達、二人一組で冒険に行かせるシステムが出来上がったのである。どちらか片方に何か大事が起きた場合、もう片方が家やリーグ本部に連絡を入れる相互連絡システム。「ライバル」という名の安全装置であった。勿論、必然ではあるがワイルドエリアだけでなくジムチャレンジの道中にはジムトレーナー、ジムリーダーの巡回や「やまおとこ」といったリーグ関係者が至るところに配置され、子供達を見守っている。また、ジムチャレンジャーらが用いるテントには、野生ポケモンを寄せ付けない香りが自動的に噴出する機能がついている。ガラル地方では、特別な免許がなければ自由に空を飛ぶこともできなければ海を渡ることもできない。そんな徹底的な管理体制を張っていることもそれが理由であった。大人が子供を庇護し、大人の問題に巻き込まないようにしてるのもそのせいである。また、トレーナーや街の住民が生暖かい目で見守り、物をよく与えるのもガラルの風土が関係していたと言えよう。
しかし、それにも限界があった。大人が完全に見守ることも重要ではあるが、いざ、大事が起きたときに誠の意味で生存確率を上げることができるのは自分自身の力である。そんな、自衛能力の向上という意味でもガラル中の全トレーナーが強くなってもらいたいというダンデの考えは実に、理に適っていたと言える。あえて目立つ象徴を作り、大人達の想定通りのルートを辿って行けば、順当に強くなれる。ジムチャレンジにはそういう意図があった。象徴は、より美しく、気高く、かっこよく、華々しく輝きを増せば増すほどその真価を発揮するのだ。それは、強さでも、美しさでも、善性でもカリスマ性でもあった。このような象徴でいることはジムリーダーやチャンピオンに求められた大切な素質であった。例えば、ダンデ。例えば、キバナ。前者は言わずもがなだが、特にキバナは、その野獣的容姿と普段のオレサマ言動もあり、よくその手の性格であると捉えられがちである。確かにそのような性格を一面として持っていることは否めない。が、実際には、その大半はパフォーマンスによるところが大きかった。平時の彼は、本業のプロトレーナーとしてのガラルプレミアリーグに出場するだけでなく、後進のジムトレーナーやアカデミー生の育成、コーチとのミーティング、広報、営業、経理を担当するゼネラルマネージャーとの共同経営、現在の戦力バランスを考慮しつつ短期的、長期的にも勝てる戦術の立案や監督指導、ハーフタイムでの適切な指示、目星のトレーナーのスカウト、対戦相手の分析や研究、効果的なトレーニングメニューの決定、スポンサーとの交渉など枚挙に暇がないほど膨大で、コミュニケーション力など様々なスキルを必要とされるジムリーダーとしての通常業務だけでなく、ガラルの「宝物庫の番人」としての職務を全うする知性的側面も併せ持っている。
それ故に、「ダンデ」とローズの残した功績は大きいのである。だからこそ、その時代を知っている者達からは発展を喜び、発展の立役者に敬意を抱いている背景があった。
〜LASTPrologue〜
日が昇り始め、新たな一日が始まり、無限の可能性が産声を挙げようとしている早朝。
旅立ちの日、前日の夜に感じていた緊張と高揚感、不安と期待もホップから受けた電話によってたちどころに消え去ったのか絶妙にブレンドされた目覚めの感触はとても心地よいものだった。
夢幻のまどろみの中で、ただ独り、誰に邪魔をされることもなく、たっぷりと休息を貪っていた精神は、際限のない安らぎを提供してくれるその世界にしがみつこうとあがくこともなく、すんなりと夢の世界から現実の世界へと帰還した。爽やかでかつ涼やかに澄んだ目覚めの感覚。
それらを胸に仕舞いつつもゆっくりとまぶたを開けば、見慣れた天井が目の前に広がっていた。
「ふああ……朝かぁ。」
私は、軽いあくびをもらしながら可愛いイラストがプリントされている布団とぬいぐるみ達をはね除け、仰向けに寝ていた体をゆっくりと起き上がらせると、窓を覆っていたカーテンに手をかけ、一気に開いた。
シャッと小気味の良い音と共にカーテンは開かれ、その布地に遮られていた朝の陽光が一気に部屋の中に差し込み、部屋中を明々と照らす。
寝ぼけ眼を刺す朝日の眩しさはむしろ心地よく、窓の外から聞こえてくるとりポケモンたちのさえずりもまた耳を和ませてくれた。むしポケモン達もまた、その翅で、その腹部で、その腿節を以てして大合唱を響き渡らせた。
彼らの、窓と壁越しではあるものの遠く離れた部屋の中にまで十二分に響き渡らせる喧噪みもある鳴き声に、我等の聴衆たれという厚かましく、押し付けがましさに煩わしいと思いつつもこれが、この季節の風物詩であると考えると忽ち、それらは霧散していった。勿論、寝覚めがとても良く気持ちがよい朝だったこともそれを手助けした一因でもあった。そう、彼等の大合唱もまた、私とホップが繰り広げんとする「物語」の最初の観客であり、奏者達であった。
そんな、新たな旅立ち、道を切り拓く者を応援、祝福するが如くの鳴き声をバックコーラスにしながら、ふわふわなベッドから降りた私は、心持ち強く感じる太陽の光を全身にあびつつ、身体を弓なりに反らせて思いっきり窓の外へ広がっているまるで悩みや不安などが洗い流されるかのようなどこまでも青い、青い空へ向かって大きく伸びをした。このまま大空へ羽ばたかんとするような開放感、軽量感を感じながら。
両の掌を絡め組みつつ両腕を天井の先に広がるであろう青空へ向けて大きく突き出した。全身の筋肉が引っ張られ解きほぐされていく感触が体の中に微かに残る眠気も払う。 目覚めた直後ながら頭の中は比較的冴えていて、体の方にもだるさはない。心身共に充足感にあふれている。たっぷりと睡眠がとれた証拠だ。
これから始まるであろう山あり、谷ありの大冒険を想像すると胸が躍った。大好きなホップと二人旅だからってのが大きいんだろうけど。
一人なら寂しさや不安で押し潰されてしまっていたかもしれない。ホップといると不思議と不安が和らいだ。思わず、笑顔になる。
ふと壁にかけられたカレンダーに目をやった。季節は9月の中旬。世の子供達がバラ色の夏休みを絶賛、謳歌している時期である。春、まるで人々の想いをのせ、深々と、驚くほどゆったりと、一面を彩るかのように舞い散る桜の花びらが溢れる季節に代わって、瑞々しい生命力を感じさせる緑が天蓋を覆い尽くすそんな季節。夏の烈しい日の下、まだまだ残暑がその勢いを止めることはなく、まさに夏らしい汗と草切れの匂いが染み込んだかのような風の匂いとお友達になれそうな暑い日々は続く。しかし、それでも、着実に刻は進み、秋の到来を予感させる朝と夜の肌寒さがそこにはあった。暑すぎず、寒すぎない丁度よい塩梅のこの季節を私は好きだった。私自身の身体の都合もあるが、まるで理想の私そのものかのようだったから。できる事なら、昼間もまた、強い陽射しが重みをもってるかのように肩にのしかかってこないことを願った。
冬の最中に春の訪れを待つかのような、ひだまりのなかでふと涙を流すような 新たな予感に胸を弾ませる。ホップとの未来を夢想しながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
服を着替え、お気に入りのいつもの服に身を包む。ボサボサの髪の毛を直し、顔を洗う。昨晩、準備した荷物をもう一度検め、朝食を慌てながらも急いでかきこみ、
産まれた時から一緒だったゴンベとスボミーに別れを告げて、ママがその昔、愛用していたというリュックを背負い、玄関のドアに手をかけつつ、チラッと振り返り、ママに、ゴンベとスボミーに、そして長らく育ててきてくれたこの家に向かって、私は元気よくその言葉をいう。
「いってきます。!!!」
そして、外の世界へと駆け込んだ。何歩かした後、再び振り返る。
私の家。
苔と蔦で覆われた石造りの家。
植物で囲まれる綺麗な玄関。
ママが長年、手入れしてきた庭。
ママのご飯はいつも美味しかった食卓。
そして、思い出が沢山の私の部屋。
ジムチャレンジは長い。その期間は、半年。
おそらく、永らくは家に帰れないだろう。やっぱり淋しいな。僅か数刻でもうホームシック?我ながら苦笑しつつ、これが、見納めというような気分で暫くの間、眺めていた。次、あの玄関のドアに手をかける時、私はどんな風になっているのかな。
ホップからかかってきた電話を思い出す。
思わず、クスっと笑う。踵を返して、
もう振り返りはしなかった。
ホップとの明日をめざして、前へとその一歩を踏み出した。